―――翌日。  
今日は休日。  
朝から晴れやかな気分…にはなれない。  
「ふわーあ」  
天使が背伸びしながらようやく目覚めた。  
ほんのちょっぴり成長中の胸が強調されている。  
まぁ、どうでもいい。  
「ん?シグレのやつはどこにいった?」  
キョロキョロといぶかしげな目だ。  
「おいメロン」  
「ん?」  
ようやく壁に埋もれたままの俺の姿に気づいた。  
「立ったまま寝ていたのか?なかなか器用なやつだな」  
ひょっとしてそれはギャグで言っているのか?  
完全に壁にうめられた俺は身動き一つ取れずにいた。  
この上なく腹立たしいがこの場は天使に助けを求める他、方法はなさそうだ。  
「すまないが助けてくれ…。  
 マヌケな話だが自力では出れそうにない」  
「やれやれ」  
天使は首をかしげると、面倒くさそうにやってきた。  
 
「まったく、朝から世話のかかる輩だな。よっと」  
天使にひっぱられて、ようやく俺の体は壁という名の棺桶から解放された。  
「ありがとう。助かったよメロン」  
ドゴッ…と  
俺が抜け出した後、  
壁はあまりよろしくない音を立てて跡形もなく崩れさった。  
きっと微妙なバランスで成り立っていたのだろう…。  
崩れた壁から刺しこんで来るお日様の光が妙にまぶしいぜ。  
………まぁ…隣の部屋との壁でないのが不幸中の幸いだ。  
「目覚めたなら早く朝飯を作れよ。我は腹がすいたぞ」  
天使に対して殺意がつのる。  
我慢。我慢…。  
 
うちの朝は、ごはんと味噌汁。  
これ以上ないってぐらい和風だ。  
しかし今日は思い切って献立をパンとコーヒーに変えてみた。  
天使は確か西洋神話に出てくる生き物だから  
西洋風にしてみたつもりだ。  
 
しかし、朝食の間、天使の毒舌がやむことはなかった…。  
パンの焼き方が甘い!だとか  
コーヒーなど飲んだら背が伸びなくなるわ、たわけ!だとか  
挙句の果てには  
貴様の乱れきった私生活を性根からたたきなおしてやる!  
とまで言う始末。  
なんかヘンな使命に目覚めてしまったらしい…。  
 
結局なんにでもケチをつけてくるヤツだということが、そろそろわかってきた朝食後。  
 
時刻は午前10時。  
顔を洗う。  
歯を磨く。  
髪をとく。  
私服に着替える。  
これで…よしと。  
靴を履く。  
「お、おいっ!どこに行くつもりだ!!!」  
天使があわてて呼び止めてきた。  
何で、慌ててるんだこいつ?  
「近くのスーパーまで買い物だよ。  
 いつも土曜日に食料を買いだめしてるんだ」  
「…そ…そうか…」  
「ちゃんと家で留守番しててくれよ」  
「う…うむ………ま、まかせろ!!  
 アリ一匹とて通さぬ!」  
胸をドンと叩く天使。  
強く叩きすぎたのか、何気にむせかえってる。  
いくらなんでも張り切りすぎだ。  
まぁいい…。  
俺は不安を感じながらも後にした。  
 
………一緒に連れて行ってやってもよかったが  
四六時中あいつと一緒にいるのは、正直、俺の精神がもたない。  
気分転換の意味を含めここは一人でいくことにした…。  
 
 
さて…  
街を歩きながら考える。  
(何を買うかな。  
 せっかくだからあいつが気に入るものつくらなくちゃな…  
 でも、天使の好物って何なんだろう…?  
 そうだな…こうゆうときは得意料理から勝負。  
 カレーでも作ってみるか…)  
気合を入れる俺。  
「ん?」  
バッっと振り向いてみた。  
後ろから不穏な気配を感じたからだ。  
しかし、どうやら俺の気のせいだったらしい。  
振り向いた先には誰もいなかった。  
「はは………疲れてるのかな…俺…」  
再び振り返るとスーパーを目指す。  
 
背後。  
その上空に天使がパタパタ飛んでいることなど  
俺は知る由もなかった。  
 
スーパーについた。  
買い物籠を持ちながらブラブラと徘徊する。  
周りはみんなオバさんばかりで  
俺ぐらいの年齢の男が歩いている姿はそうそう見かけない。  
プリンを買い物カゴにいれる。  
「どうせ。甘いものとかが好きなんだろうナ…」  
「うむ。もちろんだ」  
聴こえてはいけない声がした…。  
人参を買い物カゴに入れる。  
「………野菜とかはキライなんだろうな…」  
「うむ。我は野菜など大嫌いだ。  
 このような汚わらしいもの見たくもないわ」  
買い物カゴの中身がちょっぴり軽くなった。  
「………」  
「どうしたのだシグレ?」  
聞き覚えのある声がついたり消えたりしている…  
これは幻聴かな…  
いや幻聴はもっとぶわーっと聞こえるもんなぁ…  
 
勇気を出して振り返ってみるとヤツがいた。  
 
「おい……」  
「ん?」  
怒りを抑えて穏便に。  
「ここでなにしてる?」  
「なにがだ?」  
「なにがだ…じゃねーーーっ!  
 オマエ!留守番してたんじゃなかったのかっ!」  
「フッ!笑止な!  
 あのような小さな世界で満足するような我ではないわっ!」  
訳のわからんことを…。  
「か…鍵はちゃんとかけてきたんだろうな…」  
聞くまでのない質問だった……。  
「フッ…知らんな!そんなものは」  
………。  
あ………暑苦しいなあ、ここ。  
出られないのかな。おーい出してくださいよ、ねえ。  
「なにをブツブツいっておる?」  
あやうく精神崩壊しかけた。  
 
なんとか、つらい現実と向き直る。  
 
「ドロボウが入ったらどうするんだっ!」  
「なーに。その時は我が地獄の果てまでおいつめてやるから安心しろ」  
何をどう安心すればいいのかさっぱりわからん。  
ここでこいつと口論しててもしかたがない。  
こうなってしまった以上はしかたがない…  
追い詰められたときこそ、より冷静に…  
とにかく最善の行動を心がけねば…。  
冷静に…冷静に…  
よしっ!  
急いで買い物を終わらせて家に帰ろう。  
「ん?」  
気がつけば天使が両手いっぱいにメロンを抱きしめて立っている。  
「おい…なんだそれ…」  
「我はメロンが大好物なのだ?」  
これはまた…幸せそうな表情だ…。  
「………」  
値段表を見る。  
最高級のクラウンメロン。  
値段、一玉10000円。  
「あははははは」  
笑うしかなかった。  
 
バンッ!  
「ふざけろっ!そんな高いもの買えるとおもってんのかっっ!!」  
「な…なんだとっ!」  
「いいかーっ!よく聞けっ!  
 うちの食費は一月2万円が限界なのだっ!  
 それを一玉1万円のメロンを5つだとっ!!!  
 冗談も休み休みいえいっ!」  
「うるさぁいっ!我が買えといったら買えっ!命令だっ!!」  
「断るっ!!」  
その言葉を最後にそっぽむく俺。  
鋼の背中が、これ以上の口論は一切無駄だと語っていた。  
 
レジへと向かう俺の足。  
その歩みを止められるものは誰もいない…。  
その背後。  
追い詰められた天使は、ついに恐るべし最終計画を発動させようとしていた。  
「ぐぬぬぬぬっ…我の言うことに逆らうというのかっ…!  
 人間のものは我のもの!我のものは我のものだっ!!  
 こうなったらこうしてくれるわっ!!!」  
グチャ!バリーーーン!  
「!?」  
俺の顔がメロンのように青ざめる。  
恐る恐る振り返る…。  
こ……こいつ…信じられないことをしやがった。  
なんと天使はクラウンメロンを床に叩きつけたのだ!!!  
 
無残に砕け散ったクラウンメロン。  
床に散乱された残骸から、  
極上の甘いであろう果汁が広がっていく………。  
それを踏みつけながら高笑いする天使。  
「アーーハッハッハッハッ!!ざまあみろっ!  
 我の口に入らぬならば仕方が無いっ!  
 醜悪な人間共の餌食にされるぐらいならこうしてくれたわっ!」  
「あ…あ………」  
遠のいていく。  
今度こそ意識が遠のいていく。  
もう口から魂がでそうだ…。  
俺の気もしらず、天使は高笑いを続ける。  
それは俺の神経を逆撫でするようで  
………とうとう俺の怒りも限界突破。  
「メロン………」  
「ん?」  
バチンっ!!  
「えっ…」  
俺は生まれて初めて女の子に対して手をあげた。  
 
「きゃん!」  
無抵抗に床に倒れるメロン。  
「はぁはぁ…」  
激しく息を荒ぶらせる俺。  
メロンは赤く腫れた頬をさすりながら、  
ゆっくりと立ち上がる、  
「き…貴様っ!!  
 わ、我に対してこのようなことをしてただで済むとでも思って………」  
「………」  
「うっ…」  
俺の迫力におされ、天使はそれ以上の言葉を発することができなかった。  
「このバカっ!!!  
 何考えてんだ!!!  
 あれは農家のおじさんが毎日毎日一生懸命働いて  
 長い時間かけて作ったメロンなんだぞ!  
 それを割るなんて、いくらなんでもやって良いことと悪いことがあるぞ」  
「で………でもっ………」  
「でもじゃないっ!!」  
「うっ………」  
俺が本気で怒っているのがわかると  
初めて天使は後悔の顔色を見せた。  
そしてすぐに目を潤ませると、弱弱しい声でつぶやいた。  
「な…なんだよっ……。  
 …うっ……えぐっ………。  
 そうか……そうやって…シグレも…我のことを裏切るんだな……ぐっ…うっ…」  
「えっ…?」  
俺はこの時初めて天使の心の一端に触れた気がした。  
 
「うっ……ぐっ…ううう」  
溢れる涙を腕でぬぐう。  
ぬぐってもぬぐっても涙は一向に止まらないようだ。  
「メ…メロン…?」  
「うっ……ぐっ……びぇええええええん」  
なおも号泣を続ける。  
もう顔は涙でくしゃくしゃだった。  
「お…おいっ……メロン…」  
周りのオバさんたちがひそひそ話している。  
「カワイそうに。あんなかわいい子いじめちゃって」  
なんだかものすごく気まずくなってきてオロオロする俺…。  
「す………すまん…メロン…そんなつもりじゃ…」  
顔を他の人間に見られないように胸で隠してやる。  
抱きしめた天使の体は小柄で柔らかかった。  
こうしていると、本当に華奢な女の子だと思う。  
「うっ……うぇえええん…びぇええええん」  
「メロン…なくなよ…俺が悪かった…」  
「…シグレェ…………」  
「ん?」  
「シグレの……」  
「ん?」  
ドゴッ!!!!  
「!!!!!」  
瞬間…俺の周りの世界が急激に歪んだ。  
天使の……天使の膝蹴りが…俺の股間にクリティカルヒットしたのだ。  
 
急所を蹴られ、  
強烈すぎる痛みに声すらだせず、  
体を動かすこともできないまま、  
天使の情け容赦ない第二激が放たれる!!  
「シグレのバカーーーーーっ!!!!」  
メキャア!  
さっきまでの萎らしい姿はなんのその。  
再び俺の股間に豪快な前蹴りが炸裂だ。  
「がっ……あがっ……」  
…玉が…玉が内臓にまでめりこんだ。  
股間を押さえるという情けない姿でその場にひれ伏す俺。  
内臓に玉がうまった違和感…不快感で…吐きそうだ…。  
「メ……メ……メロンっ!」  
足腰が完全にゆうことを聞かない。  
「フンッ!我に逆らうからこうなるのだっ!  
 一緒に棲んでるからって保護者面するなバーロー!  
 アーーーハッハッハッ!」  
高笑いしながら優雅に去っていく天使。  
俺は股間を押さえながら痙攣を続けるこの無様な姿を  
オバさんや店員に鑑賞され続けていた………。  
 
お…おのれ……あの極悪天使めっ…もう許さんっ!!!!  
 
 
「フンッ」  
道の真ん中を天使がズカズカと歩いている。  
その顔は不機嫌そのものだった。  
ガンッ  
通りすがりと肩がぶつかる。  
「あっ…ごめ」  
「キーサーマー!!いったいどこに目つけてんだっ!気をつけろ!バーローっ!」  
いきなり活火山が大爆発。  
「な、なんだこのガキッ!いきなり」  
「フーーフーーー」  
「うっ…」  
この時、通りすがりは生まれて初めて命の危険を感じ取ったという。  
「ちっ……覚えてやがれっ……」  
強がりながら道を空ける。  
 
「な…なんなんだ……あの犯罪者のように危険な目つきは…」  
 
「くそっ…シグレのやつめっ!。  
 たかだがメロン一つで怒るなど、まったく心の狭いヤツよ……。  
 ………うっ…くっ……。  
 シグレのバカーっ!アホッー!くされチンポーーー!!!」  
ストレス発散に叫ぶ。  
そんな言葉を突然叫ぶから周りがビクッっと驚いていた。  
一応外見は美少女なので、そのギャップにハァハァしてるモノもいた。  
そんなことなど、まるで気に止めずに叫び続ける天使だった。  
「ハァハァ…」  
思いっきり叫んでみたが  
それでもイライラは収まらない。  
「あーーーっ。もーーーっ!  
 イライラするなぁっ……  
 いったいなんなのだ。この不快感は」  
ふと、天使の頭に本気で怒った俺の顔が浮かぶ。  
だが、そんなものはすぐにブンブンと振り払ってしまうのだった。  
「あーーーくそーーーっ  
 ……なんで我があやつのことなどでイライラせねばならんのだっ!  
 ああーーーっ!  
 まったく腹だたしいっ!  
 むしゃくしゃするーーーっ!  
 よしっ。こんな時は憂さ晴らしだっ!!!」  
 
「天使センサー!!」  
言葉を発すると同時に天使のアホ毛が天を指す。  
 
―――説明。  
 
『天使センサー』とは天使のもつ超能力の一つで  
可能性事象を計算することで、  
これから起こるべきの悪を  
事前に察知することができるという  
大変すばらしい予知能力なのだ。  
ちなみに、その的中率は79.2%という  
恐るべし数値を誇るのである。  
 
ピッキューン!  
 
計算完了。  
天使の脳裏に一つの映像が浮かんだ。  
 
(ギュムギュム)  
(ああーーーやめてぇ…あっ…あっ…あっ……ああああああ)  
(あはは。こいつ中出しでイってやがるぜ)  
(それじゃあ僕達の子がたくさんできるように頑張らなきゃなぁ)  
(い…いやぁ…やめてぇ…)  
 
それは、男三人が小さな女の子を倉庫につれて行う行為、  
「レイプだとぉ!!!!」  
天使の突然の叫びに周りの人がビクッとした。  
 
「れ…レイプ…レイプ…レイプ…」  
呆然自失とし、  
うわ言のように口ずさむ。  
どうやら精神的にまだまだ幼い天使にとって  
脳裏に浮かんだ映像は  
余りにも刺激が強すぎる行為だったらしい。  
まったく…周りの視線が注目しているというのに…。  
「ねぇ…あの子大丈夫かしら」  
「きっとヘンタイよ。ヘンタイ」  
「…レイプ…レイプ…レイプ…」  
 
ハッ…と突然正気に戻る。  
顔を赤く染めながらワナワナと震える天使。  
「ク………ククク…。  
 わ…我にこのような不埒なものを見せつけるとはいい度胸だ…  
 ブッ殺してやるっーーー!!!」  
竜巻のように突風を巻き上げながら走り出した。  
 
―――数分後。  
 
「…ったくっ…メロンのやつ…どこいきやがった」  
ようやく歩けるようになった俺は  
股間の痛みに耐えながら、天使のヤツを探していた。  
「一人で帰ったのか…?迷子になってないかな?」  
まぁ、あいつのことだ。  
どうせ歩いているだけでも騒ぎを起こさずにはいられないことだろう。  
…ってダメじゃん!!  
大きな騒ぎになる前に回収しなければ…。  
「ざわ ざわ」  
ん?  
なんだか、向こうが騒がしいな。  
とりあえず行ってみることにした。  
 
そこは人通りの多い中央通り。  
ものすごい人だかりができている。  
「ん?」  
「うわっ…マジかよ」  
「人間ああなったら終わりだな」  
すれ違う男達は悲観的な声で嘆いていた。  
対して女の子達はキャーキャーと黄色い声をあげていた。  
…一体何が……。  
「んんんん?ちょっと通りますよ」  
女子高生の波を押しのけながら  
騒ぎの元に向かってみる。  
本当になんなのだろ、この人だかりは  
たとえ芸能人が通ったとしても、  
ここまでの騒ぎにはならないだろう。  
「うわああ。見ないでくれぇ………止めてくれぇ」  
中心に近づくにつれ、何かの男の悲鳴のようなのが聞こえてきた。  
嫌な予感がする。  
嫌な予感がする。  
嫌な予感がする。  
俺の中の何かがこれ以上すすんではいけないと警告している。  
否。ここまできて引き下がれるものか。  
俺は意を決して飛び込んだ。  
「!!!」  
そこにあったものは……………裸で踊る男の姿だった。  
 
「キャーーー!キャーーー!」  
全裸の男は大衆達に向かって、これでもかというぐらい勃起した下半身を振っている。  
「あ、あれは!  
 我が街、始まって以来の超天才。  
 頭脳明晰、成績優秀、容姿端麗共にバツグンで、女子からの人気も高く、  
 三年の夏までバスケ部のエースとしてチームを何度も全国大会まで導き、  
 東大合格も最早間違いなしと噂されている  
 武山コウジ君じゃないかっっ!!」  
(父親は某大作業の社長、母親は芸能界一の超売れっ子タレント!  
 彼自身も東大卒業後には政界進出を有望視されており  
 近い将来日本を背負って立つといわれている………)  
「キャーー!キャーーー!」  
なるほど………  
女子共が悲鳴をあげるわけだ。  
「………」  
それにしても…何故あの武山コウジがあのような暴挙にでているのか…。  
俺はこの事件の裏に、ただならぬ悪意のようなものを感じていた。  
何か裏から操っている邪悪な気配を感じずにはいられない。  
「アーーハッハッハッ」  
「………」  
俺の目の前に腹をかかえて笑っているヤツがいる。  
天使だった。  
一瞬嫌な考えがよぎる…。  
 
まさかこいつが…………。  
 
「キャーー!キャーー!」  
「いやーーっ!やめて武山様っ!」  
「お姉ちゃん。ヘンな人がいるよ」  
「ゆ、指をさすんじゃないのマヤっ!」  
騒ぎの中、俺はゆっくりと天使に近づいていく。  
向こうもこっちに気づいたようだ。  
「アハハハハ。  
 いいところにきたなシグレっ!  
 見ろっ!愉快だぞっ!は、は…腹がよじれるっ!」  
「………」  
こいつの、この喜びよう……  
確証はないが……試してみる価値はありそうだ。  
俺は天使からバトンを取り上げ  
 
ゴチンッ!  
 
「ーーー!!!」  
と頭をおもいっきり殴りつけた。  
まるで操られていた糸が切れたように、武山コウジの動きが止まった。  
どうやら予想的中だったようだ。  
「ひっ…ひぃ………………」  
見えない何かから解放された彼は、情けない声を上げながら逃げていった。  
………………可愛そうに。  
あんなたくさんの女の子にみられたら…俺なら死ぬな…たぶん………。  
 
「キーサーマー!」  
タンコブをぷっくりとふくらませた天使が、血まなこの表情で俺を見上げている。  
俺も同じぐらい気を強く持って睨みつけた。  
「キサマじゃねーーーっ!!  
 あれほど他人に迷惑をかけるなといっておいたのに  
 善良な市民を裸踊りで晒し者にさせるとはどうゆうことだっ!」  
「フンッ!何をいう!  
 ヤツこそ悪の権化だぞ!  
 ヤツは可弱い女子をとっ捕まえてレイプしようとしていたのだ。  
 レイプといえば女の子のオマンコに無理矢理チンポをいれてズッコンバッコンなのだぞ!」  
また、こいつは人前でそういうことを平気で口にする………しかも大声で…。  
その辺の常識もそろそろ教えてやりたいところだが、  
今は、こっちの問題の方が先決だ。  
「はっ!何いってるんだ?  
 他のヤツならいざしらず  
 あの超優等生の武山コウジ君がそんなことするはずないじゃないか」  
天使の眉間にシワがよる。  
「な…何っ!キサマっ!わ、我の言うことが信じられんのかっ!」  
血管が千切れそうなぐらい天使は興奮している。  
どうやら俺の言動は、おもいっきり天使のカンにさわってしまったらしい。  
「それじゃあなんだ?  
 実際に倉庫に連れ込むところでも見たってのか?」  
「そんなものは見ておらんっ!!  
 これからするといっておろうっ!!!  
 だから我が先に制裁しておいてやったのだ!!!!!」  
「お…おいっ……順番がデタラメだぞ…」  
「うるさぁい!  
 とにかく我がするといったら絶対なのだっっ!!」  
「なんだその理屈」  
「うっ……ぐすっ…なんだよっ…」  
………泣きはじめた。  
 
「ううっ…ぐすんっ…うわぁああん!」  
天使の鳴き声に周りの女子高生達がひそひそ話をしはじめた。  
「うわっ…あんな小さい子をなかせて」  
「あの子かわいそう…」  
なんだか、どこかで会った展開だ。  
「うわああああん!うわあああああん!」  
「お…おいっ…な…なくなよメロン…」  
「うっ…ぐすっ…ひぐっ…シグレは我なんかも、ぐすっ…うっ…  
 あっ…あんなヘンタイレイプ魔のことを信じるというのかっ!  
 ひどいっ……ひどいよっ………うわああああん」  
涙ながらに訴えてくる天使。  
それは俺にすがってくるようだった。  
だが、  
しかし、  
二度もひっかかるような俺ではないっ!  
笑いながら返答する。  
「あはははーー。  
 何いってるんだメロン?  
 オマエみたいな生意気な跳ねっかえりよりも  
 彼のほうがよっぽど信じるに値する人物に決まってるじゃねーか。  
 ははははは!」  
「!!!!!」  
 
ここで一気に少々物腰をきつくして畳み掛ける。  
形相を鬼にする。  
「いいかーーっ!  
 これから彼の家にいってちゃんと謝ってもらうからなっ!  
 泣き落としなんて許さないぞっ!  
 おいっ!聞いてんのかメロンっ!!」  
ドグッ(金蹴り)  
あ…………あれ?  
再び地面に膝をつく俺。  
ち…力が…力が入らない…。  
コトンっと地面に落ちたバトンを天使が拾う。  
「て………て……てんめぇ…」  
俺を見下してくる天使。  
先ほどまでの泣き顔はなんのその。  
その顔は余りにも晴れやかだった。  
「フンッ!  
 悪の味方をするというなら貴様も悪だ!  
 悪には制裁が下るのが世の常。  
 これも当然の報いよっ!!  
 アーハッハッハッハッ!!」  
や、野郎!なんの悪びれもねぇっ!  
そして天使は勝利の余韻にひたりながら  
再び人ごみの中に消えていくのだった。  
後に残されたのは  
女子高生達の前で股間を押さえつけたまま動けないという  
恥ずかしい姿を鑑賞され続ける俺だけだった。  
 
くそーーーっ!またしても天使のやつめっ!!も、もう絶対許せんっっ!!!  
 

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