バキッ!  
 ドカッ!  
 
―――裏路地。  
それは人が消して踏み越えてはいけない一線。  
 
一件、煌びやかに見える都会であっても  
その裏には未だオドロオドロしい暗黒街が広がっている。  
そこには法や秩序というものは一切存在せず、  
力ある者だけが生き残ることができる無常な世界だ。  
 
無論、俺のような一般人が立ち入りするような場所ではないし、  
行けといわれても全力で断りたい。  
行けば命の保障などない。  
 
だが、暗黒に長けた者だけは話は別だ。  
 
ドカッ!ドゴッ!  
メキィ!グシャア!  
 
暗黒外の一角。  
古ぼけた廃屋から  
生々しい音が響き渡る。  
 
「げほっ…げほげほっ!」  
 
そこでは  
見るも凄惨な俺のリンチが続けられていた。  
 
バキッ!  
「がっ!」  
座らされた姿勢のまま  
両手両足を椅子にくくりつけられたこの体制で  
いったい何ができるというのか………。  
「うっ………」  
がっくりと、うなだれる俺。  
俺を囲んでいる黒服の男達。  
その一人が実につまらなさそうに言い捨てる。  
「おいおい?なに、参ってるんだ?」  
まだまだ、これからじゃないかと言わんばかりに…。  
髪をつかまれ、  
強制的に顔を持ち上げられると、  
無防備な顔面に肘打ちが加えられた。  
「ごばっっ!」  
鼻血が止まらない。  
口の中も、もう血の味しかしない。  
「ずいぶんと、くるしそうだなっ」  
ドボッ!  
黒服のボディーブローが的確に俺の胃を圧迫した。  
「うぐっ………がはあっ!」  
堪えきれずに大量の血と胃液が混じったものを吐き出した。  
 
「げはっ…がはっ……ごふっ」  
「おいおい。何吐いてんだ?汚いヤツだな?」  
ベキッ  
今度は回し蹴り。  
冷静な言葉使いからは、およそ考えられないほどに豪快な一撃。  
俺の体は2〜3メートルは吹っ飛んだ。  
「…………あっ…」  
そこで意識は完全に飛んだ。  
よかった………これで…ようやくこの地獄からようやく解放される………。  
 
しかし、その考えは甘かったようだ。  
 
男達は、水の入ったバケツを取り出し、俺の顔を底に沈める。  
しばらく死人のように微動だにしない俺だったが  
次第に呼吸ができないという苦しさに耐えかね、  
「うっ………がっ……がはっ!!ハァハァ…ハァハァ!!!!」  
頭をあげて激しくむせくりかえる俺。  
どうやら俺は、意識が落ちることすら許されないようだ。  
 
なおも、俺への暴行は続いた。  
 
ドガンッ!ガシャン!  
バキッ!ドゴッ!ベキッ!メキャ!!  
 
身に覚えも無い不当な暴力。  
この責め苦が始まってからどれだけの時間がたっただろうか。  
何故?  
どうして?  
俺がこんな目にあわなくてはならないのだろうか………?  
俺はただ………天使のやつを探していただけなのに………。  
 
ドカッ!  
 ドゴッ!  
  ベキッ!  
 
殴られ続け………。  
ぐうの音もでないほどに痛めつけられた。  
血だるまとなった体が床に沈む。  
もう本当に動けない。  
全身に何の感覚もない。  
「動かなくなったか」  
「ククク。これ以上やれば本当に死んでしまいそうだな」  
 
ガチャ!  
 
その時、  
この廃屋の唯一のドアが開いた。  
 
即座に扉方向に身構える男達。  
カッ!カッ!  
誰かが向かってくる足音が聞こえる。  
「………」  
顔は横のまま視線だけを向ける。  
瀕死の俺には、まだぼやけて見えない。  
カッ!カッ!  
この状況に入ってくる者など、いったい何者なのだろうか…。  
謎の人物が近づいてくるにつれ  
全貌が少しずつ明らかになっていく。  
そして、その姿が完全に明かされた時、  
俺は驚愕の色を隠せなかった。  
 
―――何故…彼がこんなところに?  
 
それは俺が知っている人物…、  
いや、この街に住んでいるものなら  
誰もが一度はその名前を聞いたことがあるであろう人物。  
そう…成績優秀、頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗ともにバツグンの  
武山コウジ君だった。  
 
何故、彼がここに?  
しかし、その疑問は極々単純な答えに行き当たった。  
 
(そうか…………きっと俺の叫び声を聞いて助けにきてくれたんだっ!!!!)  
 
ようやく現れた救い主。  
だが、その喜び以上に、後悔の方が強かった。  
 
助けにきてくれたのは素直に嬉しい。  
だが………おそらく、この黒服達はこの暗黒街で育った屈強の戦士達だ。  
いかに武山コウジ君であろうとも  
こいつら相手に3対1では厳しいだろう。  
俺は血を吐きながら全力で張り叫んだ。  
「い、いけないっ!こいつらは異常なんだっ!  
 俺のことはいいから早く逃げてくれっ!!!」  
ここで彼まで巻き込んでしまってはいけない!  
そう思ったのだ。  
 
しかし…  
コウジ君は俺の叫びを聞くや否や  
………豪快に笑い始めるのだった………。  
「あっ………あははははははは!  
 あーーーーーははははははは!!!  
 ふっ…ふっ……ふ……ははははははは!」  
腹を抱え、気が狂ったかのように  
ひたすら笑いながら身をよじらせるコウジ君。  
俺にはもう何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。  
 
ピタリ笑い声が止まる。  
「笑わせてくれるぜ。オマエ馬鹿かっ!」  
「え…………???」  
家畜を見下すように冷徹な瞳………。  
気がつけば俺を殴り続けた黒服達がコウジ君に向かって膝をついている。  
「坊ちゃま。  
 坊ちゃまの言いつけどおり、痛めつけておきました」  
「うむっ。ごくろう」  
「えっ………えっ…………?」  
俺の中に恐怖が生まれる。  
それは今まで味わったことがないタイプの恐怖で…。  
鈍い俺でも、今の彼らの言動が何を意味しているかを理解できたのだ。  
なぜ…どうして…まさか…あのコウジ君が…こんなことを…?  
俺をリンチにあわせた黒幕が…武山コウジ………?  
これは夢なのか…。  
夢でなければ何かの間違いだ。  
「間違いなんかじゃないぜ」  
コウジはまるで俺の心を読んだように口を歪ませると、  
グリッ!  
「ぐっ……あっ!!!」  
俺の頭を、何の戸惑いも無く踏みつけた。  
「あっ……!がっ……………!!」  
脳が圧迫されていく………。  
頭が激痛で割れそうなのに、体を動かす体力は残っていない。  
俺が何の反応を示さないと  
コウジはつまらなさそうに、俺の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばした。  
「がふっ!」  
血の海が広がった。  
 
わからない…  
なんで……?どうしてなんだっ…?  
女子からの人気も高く、大人からの信頼も厚い彼が…  
なんでこんなことを…………。  
何もわからない………。  
わかるのは、この悪魔達に対して  
俺の力は余りにも無力ということだけだった。  
 
黒服達がコウジにあるものを手渡す。  
それは先が燃え滾った鉄の棒。  
ジュウウと、鉄の燃える音、臭いまでがこっちまで伝わっている。  
その凶器を、こちらへ向けられたとき、  
「………!」  
俺の顔は一気に青ざめた。  
「や、やめろっ!やめてくれェ!」  
恐怖の叫び声を上げる。  
しかし、体を黒服達に抑えられ抗うことはできない。  
熱く煮えたぎった鉄の棒が俺の顔へと近づいてくる。  
「あっ…やめろっ!やめろぉぉぉ!」  
「フワハハハハ。いいぞー。いいぞー!その恐怖に怯えた表情はっ!」  
まだ、触れたわけでもないのに、  
その温度だけでも皮膚が焼け落ちてしまいそうだった。  
こんなものを押し付けられれば…俺の顔は、  
焦げるか…溶けるか…それとも発火か………。  
考えられる結果は、どれも壮絶なものばかりだった。  
「うわあああああああああああ」  
最早、絶体絶命だった。  
 
「やめてくれぇ!  
 な…なぜなんだっ!  
 天才で完璧超人で、世間からの信頼も厚いキミが、  
 なんで、俺みたいなどうでもいい小市民にこんなことをっ!  
 キミなら、今自分がやってることがどれだけ馬鹿げたことかわかるはずだっ!!」  
俺できる唯一の抵抗。全力の説得  
しかし。  
「おいおい。僕がそんな善人に見えるのか?」  
それは…吐き気がするほどに楽しそうな笑顔だった。  
この笑顔を見た瞬間…  
もうだめだ、と  
…心底思った。  
 
炎は目の前にまで迫っている。  
無情にも、残酷にも、  
炎の剣が俺の顔にあてがわれる………その瞬間。  
「待ていっ!」  
何処からともなく、ハスキーな声が響き渡った。  
 
「な…なにっ!?」  
「ど…どこだっ!?」  
この場にいる全員が、その声にうろたえ、困惑し、  
驚いたように立ち止まってきょろきょろと周りを見回す。  
そのうち黒服の一人が気づく。  
「あ、あそこだっ!!」  
黒服の指は、はるか上の階に向けられていた。  
 
そこには逆光を纏いながら、  
俺達を見下ろす者の姿があった。  
(…………………あ、あいつはっ、まさかっ!!)  
 
「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ。  
 悪を倒せと我を呼ぶ。  
 この世に悪が満つる時、正義もまた現れる」  
「な、なんだとっ!?」  
「とーーっ!」  
そいつは翼をはばたかせ、一気に舞い降りてきた。  
着地。  
舞い落ちる白い羽根に囲まれながら、  
ビシッっと俺達に指を向ける。  
「愛と平和と正義の死者!マジカルメロンちゃんっ参上っ!」  
「メ…メロンッ!」  
は…初めてこいつが神々しく見えた…。  
 
窮地に立たされた俺の前に、舞い降りてきた白い天使。  
果たして彼女は俺の救世主なのか……それとも…。  
「フンッシグレっ!  
 このような雑魚相手に捕らえられるとは情けないヤツよっ!  
 しかーーーしっ、  
 我が来たからにはもう安心っ!  
 キサマはそこでゆっくりと昼寝でもしておれいっ!」  
やけに軽快な口調でノリノリのご様子…。  
こっちはもう痛みで死にそうだというのに………。  
ザッ  
メロンの言葉に気を悪くした黒服達が前に出る。  
「おいおい。お嬢ちゃん。  
 雑魚とはひょっとして我々のことかね?」  
「フンッ。他に誰がおるというのだ?  
 雑魚は雑魚らしく、痛い目にあわぬうちに  
 とっとと尻尾をまいて逃げるのだな」  
メロンの大言に、逆に失笑したのは黒服達。  
外見で判断すると、それも仕方のないことなのかもしれない。  
「ななななな、何がおかしいっっっ!!!」  
…メロンが切れた。  
「ハハハ…いやいや。これは、まいったね」  
「泣く子も黙る、我々黒服三人衆に向かって雑魚だなんて」  
「これはちょっぴり思い知らさねばならないね」  
ガーーーーーッっと  
天使に向かって突進する黒服達。  
戦いの火蓋が切って落とされた。  
 
「フンッ!雑魚の分際でっ!  
 ならば、我がじきじきに冥府へ送ってくれるわっ」  
颯爽と天使が武器を取り出す。  
「超天使ヨーヨー!!」  
超天使ヨーヨーとはメロンの必殺武器の一つである。  
普段は超次元空間に隠している白い円盤をとりだし二つくっつけて使う。  
(ヨーヨーなので円盤が二つ必要なのだ)  
それを天使の持つ魔力によって極限まで強化。  
硬質化したその一撃は  
あのマウンテンマンモスをも一撃で倒すほどの威力を秘めている。  
当然紐も魔力で縫われた物であり、  
メロンの意思である程度自由に操作することが可能。  
 
ドゴーーーン!  
 
目にも止まらぬ速さで、超天使ヨーヨーの直撃を受けた黒服の一人は  
廃屋の壁に豪快な穴を空け、  
なおも百メートルは吹き飛ばされた後、  
倉庫にぶちあたって、ようやく体を止めることができた………。  
「………」  
「………」  
残された黒服が青ざめている。  
そのあまりに現実離れした威力に唖然としている…。  
どうやら彼らはようやく相手にしているのが、  
猫などではなく人外の化物だと理解できたようだ。  
 
「ひっ…ひぃぃ!」  
「ばけものっ!!」  
まるでクモの子を散らすように逃げていく黒服。  
しかし、それを許すほどメロンの心は寛大ではなかった。  
「フハハハハハ!そうやすやすと我が逃がすとでも思っておるのかっ!!」  
ブツブツとよくわからない言語で詠唱を開始。  
ポウッっと天使の周りが淡い緑の光に包まれている。  
詠唱が終わると、  
まるで台風のような激しい嵐が巻き起こる。  
天使が作り出したのは二つの巨大竜巻だった。  
巨大竜巻が黒服達を飲み込む。  
「うわああああ」  
「ひひゃああああ」  
螺旋を描きながら空中に巻き上げ、  
強烈な風圧が、彼らの体をまるで雑巾でも絞るかのように捻っていく。  
「ぎゃあああ!か、体がバラバラになりそうだぁぁぁぁああ!」  
しかし、これはあくまで攻撃ではなく、  
次に放たれる必殺の一撃の為に動きを封じるためのものである。  
 
天使は両腕を頭上で併せると、  
ダイヤモンドを凌ぐ硬度を誇るほどに魔力で全身を強化して  
蓄えられたエネルギーを纏いながら、高速回転しつつ黒服達に体当たり。  
 
ドカーーーーーン。  
 
激しい…。  
いや、激しすぎる。  
天使と黒服達が接触した瞬間、  
空中で激しすぎる大爆発が巻き起こった。  
 
耳を貫く衝撃音。  
もくもく黒い煙を巻き上げて、  
まるで爆雷でも投下されたかのようだ。  
………。  
………メロンのやつ大丈夫なのか…。  
 
無言のまま炎を見つめる俺。  
炎の中から足跡が聞こえてくる。  
煙にあぶられながら天使がその姿を現した。  
しかし………  
あれほどの爆発…やっぱり、予想通りというか…なんというか。  
現れた天使はすっかりボロボロの姿だった。  
 
白かった服はあちこち焼け焦げ…  
焼け落ちた部分から、パンチラ、ブラチラ、ヘソチラ…。  
体のあちこちも相当傷ついているようで  
頭部から血がドクドクと激しく垂れ流れており、  
他にも、ところどころ出血が激しい…。  
特に肩の負傷は見るからにひどく、どうやら左腕は動かないようだ。  
 
……。  
…………。  
……………………自爆かよっ!!  
 
メロンの無謀ともいえる戦いぶり。  
それを、拍手で賞賛している男は武山コウジだ。  
「フッ…見事な戦いぶり。  
 さすが僕が見込んだ天使。エンジェルである」  
(…み…見事…なのか…?)  
口を歪ませる、武山コウジ。  
「…だが、いいのかい?  
 黒服達を倒すだけでそんなに消耗しきって  
 そんな状態でこの僕に適うのかい?」  
た…たしかに。  
いくらメロンが人智を超えた化物であっても  
あの状態で戦えるとは正直思えない………。  
「フンッ!見くびるな。  
 キサマごとき片腕だけで十分だっ!」  
だが、満身創痍な体ながらも、メロンもまた一歩も引かなかった。  
瞳もまだ死んではいない。  
「フフフッ…以前の僕とは思わないことだ」  
何か因縁めいたものを感じる。  
この二人の間に、いったい何が………!?  
「フフフ。聞きたいのかねシグレ君」  
また、こいつは人の心を呼んだかのように………。  
「フッ。IQ400の僕には  
 キミの低知能なお猿さんな頭脳の考えることなど  
 全てお見通しなのだよ」  
 
コウジがゆっくりとその胸の内を語っていく。  
 
 
衝撃の告白。  
武山コウジより語られる衝撃の真実とは………?  
「天才……。  
 僕は天才だ。  
 周りからそう言われるし、僕自身だってそう思う。  
 その証拠に、  
 今まで欲しいもので手に入れられなかった物なんて一つとしてなかったし  
 何をしても僕の右にでるものはいなかった」  
「な…なんだ……突然、何を言い出すんだ………こいつは…」  
「静かにせんかっ!  
 追い詰められた悪が野望を暴露するのはお約束なのだ!」  
「………」  
天使に論され、武山コウジの声に耳を傾ける。  
「逆らうものは誰であろうと叩きのめしてきた。  
 唯の一度の敗北もなく、わが道を突き進むこと18年。  
 その長き時間こそが、  
 この世に僕以上の人間なんて存在しないという唯一無二の証明となっていた。  
 そう、僕こそがこの世界の頂点の立つべき人物なんだとね。  
 ………。  
 そんな僕を唯一地に這わせたのがキサマだーーー!メロンッ!!!!」  
今まで常に冷静さを装っていた武山コウジの形相が変わる。  
それは誇りを汚された戦士のように圧倒的な激昂の表情だった。  
「あれほどの屈辱を味わったのは生まれて初めてだよ。  
 まさか無敵だと思っていた僕があれほどコケにされるとわね。  
 してやられたという気分だよ」  
「………」  
ヤツの心の重圧が、こっちにまで伝わってくる。  
ヤツにしてみれば、あんな敗北の仕方はありえないことだったのだろう。  
 
「世界の頂点に立つ者に敗北など許されないッ!  
 僕は僕以上の存在など決して認めんっ!!  
 こいっ!メロンッ!!  
 どちらの存在がより上か、この拳をもって証明してくれるわっっ!」  
や…やばい。  
気を抜けば遥か彼方にまで吹き飛ばされそうな圧倒的な気迫。  
こうして床にしがみついているだけでもやっとだ。  
自らの存在をかけて戦おうとする武山コウジ。  
こ…こんなヤツ相手に、勝てるのかメロンっ!?  
「フンッ!愚かなヤツよ!!  
 まぁよいっ!  
 キサマに敗北というものを骨の髄までしみこませてくれるわっ!!!」  
 
ゴゴゴゴゴゴ  
 
地鳴り…。  
大地が震えている。  
向かい合う両者に、これ以上の言葉はいらないようだ。  
これから、いったいどれほどの戦いが繰り広げられるのか…。  
天使と人間。  
俺の想像の絶する戦いが今、始まろうとしていた。  
 
「メロォォォーーーン!」  
先に仕掛けたのは武山コウジ。  
その繰り出される突風のような一撃を紙一重で宙へ躱す天使。  
そうだ!天使には翼があるっ!  
いいぞっ!メロンっそのまま空中にいれば攻撃をうける心配はないっ!  
「フッ、それで逃れたつもりか」  
「な、何っ!」  
ブワッ!っと飛び上がって追撃をかける武山コウジ。  
「と…!飛んだっ!!!?」  
床を蹴って飛んだわけではない。  
コウジの滑空はあきらかに常識を逸していた軌道だった。  
「ワハハハハハ!  
 IQ400の僕にとって空を飛ぶことなどたやすいことなのだよっ!」  
「な…なんだってーっ!」  
「ぬぅ!こ、こやつめっ!」  
「ハハハ!捕らえたぞメロンっ!」  
繰り出される刃物のような手刀による一撃は  
メロンの脇下の服をかすめ取った。  
「ぬぅっ!」  
即座の天使の反撃を受け止める武山コウジ。  
「ぬおおおおおお!」  
天使と武山コウジの攻撃が順番に繰りだされていく。  
まさに一進一退の攻防だ。  
ガツンッ!ガッ!  
 バチンッ!ドスッ!  
俺の頭上で激しい空中戦が展開されていた。  
 
両者の激突を続いてく。  
激突しては離れ、再び速度をつけて激突する。  
地上から見上げる俺にとって、それはまるでピンボールを連想させる。  
本来ならとても俺の目で捉えきれるものではないのだが、  
激突の度に火花を散らせ、それを頼りに、  
かろうじて両者の位置だけはわかることができた。  
空中を飛びあう白と黒。  
一瞬の瞬きも許されない鬩ぎあい。  
 
武山コウジの怒涛の連続攻撃の前に押されているのは天使だった。  
バキッ!  
「ぐっ!」  
ついに天使の顔に武山コウジの一撃がクリーンヒット。  
きりもみ状で吹き飛び、廃屋の外枠へと衝突する。  
天使の表情が苦しげに歪む。  
決着をつけんとばかりに、武山コウジの追撃が襲い掛かった。  
「うぬぅ!」  
壁に埋もれた姿勢のままメロンの体が発光している。  
高速の魔法詠唱。  
ガキーーーーン!  
「むっ!?」  
天使が手をかざすと、何か目に見えないバリアのようなものが生まれ、  
武山コウジの攻撃は防がれた。  
天使は再び翼をはばたかせた。  
だが、その翼に依然ほどのスピードは残されていない。  
無理も無い。  
黒服相手に消耗しきった上、あの出血量では…。  
こうして飛んでいるだけでも相当につらいはずだ…。  
それでも天使は目前の敵を見据える。  
「ワハハハハ!どうしたメロンっ!その程度では面白くないぞ」  
満身創痍のメロンに比べ、武山コウジは万全だ。  
…まずい…このままだとメロンは負けるんじゃないか?  
 
再び空中でぶつかりあっていく両者。  
今度散らされるのは火花だけではない、  
激突による衝撃は今の天使の体には耐えきれるものではなく、  
出血をよりひどくものへとさせていた。  
激突の度ごとに、頭上から天使の血の雨が降り注いでくる。  
「ハァハァ………」  
天使の荒々しい息使いが聞こえてくる。  
それでも武山コウジは攻撃の手を休めることはない。  
接近しての格闘戦は明らかに武山コウジに分があるのは明白だ。  
このままぶつかりあっているだけでも彼の勝利は確実なのだ。  
そうしているうちに、天使の動きがついに空中で静止した。  
最早、飛び回る力すらも残されていないのか。  
勝機とばかりに襲い掛かる武山コウジ。  
い、いや…まて、あの構えはっ!!  
「超天使ヨーヨー!!!」  
カウンター気味に放たれた天使の必殺の一撃。  
速度をつけた武山コウジに躱せる術はない。  
あれを喰らえばいくら武山コウジとて無事ではすまない。  
だが、その時、武山コウジの体が発光する。  
高級な天使言語による、高速の魔法詠唱。  
ガキーーーン!バチ!バチ!バチィ!  
大の大人を100メートルはすっとばす、超天使ヨーヨーが完全に防御されている。  
超天使ヨーヨーを防いだのは武山コウジに現れた巨大な壁。  
それは先ほどメロンが見せたバリアの魔法だった。  
「なっ!!!」  
俺以上に驚いているのは天使のほうだった。  
 
「フワハハハハハハ!  
 IQ400の僕ぐらいになると  
 一度見たり聞いたりしたものは  
 あっという間に覚えてしまうのだよっ!!  
 それのあの硬度!あのスケールからすると、  
 どうやら僕のバリアはキミの3倍の威力があると見たぞっ!」  
やばいっ…天使は完全に武山コウジの手足の射程内だ。  
しかも超天使ヨーヨーに魔力を回していた天使は今、防御に関しては完全に無防備だっ!!  
ドゴゥ!!!  
「がふっ!」  
腹部に強烈なボディー。  
悶絶する天使の表情。  
体がくの字に曲がったところに  
バゴーン。  
武山コウジ必殺の蹴りが、天使の側頭部を完全に捕らえるのだった。  
バキッ  
 メシャア!  
  ベキィイイイ!  
吹き飛ばされた天使の体は、まず豪快に床へと激突。  
体を回転させながら、床にある機材、木材を次々と巻き込みながら地面を転がっていき、  
最終的に壁にぶちあたった。  
壁にヒビが入るとすぐに崩れ、天使の体は完全に瓦礫で埋もれてしまった。  
天使の通り道には、見るも無残な血の道が出来上がっていた。  
だ…だめだ…天使。あれじゃあもう助からねぇ……。  
 
ゆっくりと舞い降りてくる武山コウジ。  
天使を惨殺せし者…。  
「フワハハハハ。  
 やはり俺を倒せるものなどこの世にはいなかったようだな。  
 所詮IQ400の僕に戦いを挑んだこと事態が間違いだったのだよっ!」  
絶望する俺の脳に、  
癪に触る笑い声が響き渡る。  
だがその笑いを止める術はない。  
俺には何もできない。  
ちくしょう…余りにも次元が違いすぎる…。  
武山コウジが悔しがっている俺の方に気をむけた。  
ブチッっと俺の体を縛っていたロープが切れる。  
「もうキサマごときに興味はないわ。失せるがよいっ!」  
「ぐっ…」  
言葉を飲み込む。  
このまま背を向けて逃げだすしかなのだろうか?  
イヤだ…。  
かなわないまでにもせめて一糸報いねば…天使のやつに申し訳が立たない。  
「フッ。ならば天使の後でも追うかね?」  
息を呑む…。  
俺の単純な思考などIQ400の天才には読まれているだろう。  
覚悟を決めて飛び掛ろうとしたその時。  
「何をするっ。そいつを倒すのは我の役目だ!」  
ガラッ!ガラッ  
「はっ!!」  
瓦礫の中から、天使が起き上がってきた。  
 
天使の体はすでに全身血まみれ。  
白い翼までもが、真っ赤に染まっていた。  
服もズタボロで限りなく全裸に近い。  
「ほぅ…なかなかしぶといな」  
「ーーーーーー!!!」  
人間相手にこうまで一方的にやられたのが相当に屈辱なのか  
頭の血管がちぎれて血がピューと噴出している。  
「う、うるさぁあああい!!!  
 勘違いするなぁああああ!!!  
 わ、我があんまり強くて可愛すぎるから  
 キサマにもせめて勝ち目があるように  
 ハンデをくれてやっただけにすぎんのだーーーっっ!」  
まだ虚勢を張っているようだが、  
天使の劣勢は誰の目から見てもあきらかだった。  
足はガクガクと奮え、俺が軽くコツいただけでも倒れそうだ…。  
「いくぞっ!ここからが真の戦いだっ!!!」  
身構える天使。  
「………」  
武山コウジは目を細くすると  
じろじろと天使の体を下から嘗め回すように見つめている。  
 
「ふむっ…僕はおもしろいことを考えたよ」  
 
IQ400の頭脳で考えた面白いこととはいったいっ!?  
果たして天使の運命は、いかに!?  
 
 
 
 一定の間合いを保ったまま睨みあいを続ける両者…。  
愛と(略)メロンちゃんと武山コウジ。  
長かった戦いもついにその終止符が打たれようとしている…。  
だが、その勝利の行方はだれが見ても明らかだ。  
「………ハァ…ハァ………」  
天使の汗と血が混じってたものが床へと落ちる。  
普通の人間ならば間違いなく出血死するほどの血が流されている。  
いくら天使とて無事いられるはず無い。  
打撲。  
切り傷。  
地面との摩擦で受けた火傷。  
今にも崩れ落ちそうな体。  
天使はそんな体を膝に手をやってようやく支えていた。  
対して武山コウジにダメージと呼べるものはなにもない。  
 
あんなボロボロな体では、  
圧倒的な力を持つ武山コウジを相手に  
勝ち目など微塵もあるはずがないのだ。  
なのに………。  
それなのに…………。  
何故天使のヤツはあそこまでして戦うとするのだろう。  
俺にはわからない。  
だが、それでも最後まで戦おうとする天使の姿に、  
俺は胸が締め付けられるような思いを感じていた。  
 
戦いとは互角のものが戦ってこそ、初めて戦いと呼べる。  
だからこんなものは、すでに戦いではない。  
彼…武山コウジにとってはメロンを倒すことなど、  
もはや余興でしかなくなっていた。  
だからこそ、メロンの必死な姿を前にしても  
このような発言ができたのだろう。  
「キミ。処女だろ?」  
「………!」  
武山コウジの無礼な質問に  
天使の顔色はすぐ様赤く染まっていく。  
言うまでもないことだが  
ウブな天使にとってこの手の言葉は最大の侮辱だ。  
それに加えて武山コウジはこれ以上ないというほどに癪に障る笑顔まで見せ付ける。  
それは疲労しきった今の天使など、最早自分の相手ではないという  
圧倒的な余裕から来る笑顔だった。  
天使にとってこれ以上の屈辱はない。  
顔にはさしかかった影のせいで、天使の表情は計り知れないが  
武山コウジは気にせず続けていく。  
「あはははは。やっぱりか。  
 まぁ、IQ400の僕にしてみれば  
 相手が処女かどうかを見分けることなんて至極たやすいことなんだけどね。  
 それにしても天使のくせに処女なんてね。  
 もう、あそこが腐ってんじゃないのか?あーははははは」  
嘲笑する武山コウジ。  
みえみえの挑発とはいえ  
それに耐えられるほど天使のヤツは寛容な心は持ち合わせていない。  
予想通り、ボカンと天使の頭が蒸気を上げて爆発した。  
「キーーーーーキサマーーーーーっ!!!!!!」  
 
ワナワナと肩を震わせる天使。  
頭からは血が噴水のように飛び出している。  
よほど武山コウジの態度と言動が気に障ったのだろう。  
「た………たかが人間ごときが手加減していれば調子にのりおってっ!!  
 …許さんぞ!もう許さんぞ!!絶対に許さんぞーーーー!!!  
 我に対してそのような口を聞いたことを地獄の底で後悔するがよいわっ!!!!」  
ドンッ!  
風切る音。  
それよりも天使の速度は速く。  
ものすごい気迫を持ってして天使は床を蹴って飛び出した。  
「ぬおおおおおおおおっ!」  
圧倒的なスピードの手数で武山コウジが襲いかかる。  
しかし武山コウジは子憎たらしげに、にやりと口を歪ませると  
「ほわたたたたたたたたたたた」  
その手数はおよそ天使の倍。  
バキバキッ!ドカッ!ドゴッ!  
「げほっ!げふぉつ!!ぐはっ!!!」  
あっという間に天使は返り討ちにされるのだった。  
 
疲労困憊した天使と武山コウジとでは  
やはりこれが現実的な力の差だったのだ。  
…残酷だが。  
 
「あははははははは」  
高笑いする武山コウジ。  
「いやああ、いやああーーー!」  
胸と股間を押さえながら天使はその場に泣き崩れていた。  
今の攻撃でメロンに残されていた服も全部やぶかれてしまったのだ。  
もちろん武山コウジにしてみればシナリオ通りだった。  
「い、いやあ!やだああ!見るなあああーっ!うわああああん」  
なんだかいつもの声とトーンが違う…。  
小ぶりな胸。  
ツルツルのあそこを隠しながら、あんあんと泣きじゃくる天使。  
ま…まさか、あの生意気なメロンのこんな姿が拝めるなんて…。  
なるほど…あいつにも羞恥という言葉があったんだな…。  
そんな泣きじゃくる天使に対して、武山コウジが前に立つ。  
「何をしているのだ?はやく立って戦いたまえ。  
 わざわざ手加減してやったんだよっ?」  
「やだぁああ!そんなのやだよぉおお。こんな格好じゃ立てないよぉーっ!」  
「ほぅ…それじゃあ、僕の勝ちってことでいいのかね?」  
「うっ……………うん」  
………あっさり認めやがった。  
「だから、もう許してよぉ!ぐすっ…ひぐっ……」  
いつもの嘘泣きではない…。  
あのプライドの高いメロンが本気で許しをこっている………。  
「いいよ」  
武山コウジの言葉に、喜びの表情を見せる天使。  
しかし、このまま許すような武山コウジではなかった。  
「でも、その前にキミには僕と同じ屈辱を味わってもらうよ」  
 
武山コウジから発せられたたった一言だけで  
ビクゥッっと天使は体を奮えあがらせた。  
言葉の意味を一瞬で理解したようだが  
俺にはまだ何を意味しているのかわからなかった。  
『僕と同じ屈辱?』……どうゆうことだ?  
………。  
………………。  
そっ、そうか、この戦い…、  
元はと言えばメロンのヤツが武山コウジにちょっかいをだしたところから始まったんだ。  
そしてヤツの言う屈辱とは、やはり『アレ』のことだろう………。  
 
―――全裸で勃起したまま路上で裸踊り。  
 
………  
………………あれは確かに屈辱だ。  
普通の精神を持つものならば恥ずかしくて二度と街を歩けまい………。  
はっ、まてよ…同じ屈辱ということは…ま………まさか……こいつ……。  
しかしIQ400の頭脳はさらに恐ろしい考えにいたっていた…。  
「いや…それだけじゃあ面白くないな…。  
 キミには僕以上の屈辱を味わってもらわなくては……。  
 よしっ、そうだ。キミを公開レイプしよう!  
 後ろから中出しされてよがり狂う姿を大衆たちに見られるんだ。  
「いやああ!そんなのいやあああ!」  
天使の絶叫が響き渡っている。  
や…やろう…なんてことを思いつくんだ。  
やばい…こいつはやばいぜっ………。  
「よしっ。それがいい。決めた!!」  
「いやああ!いやあああ!いやああーーーー!!」  
聞き分けのない子供のように否定を続ける天使。  
だが、この場において天使の意思など関係ない…、  
「あははは。泣いたって許してやらないよ。もう決めたんだからね」  
こいつ………真の邪悪だ…。  
 
IQ400の頭脳は止まることをしらない…。  
「もっとも。キミを犯すのに  
 僕の偉大なるIQ400のペニスを使うつもりはないよ」  
こんなこともあろうかと武山コウジが用意していた悪魔辞典だった。  
それを見た瞬間、天使の血の気が引いていく。  
「あーーーーははははは。  
 IQ400の僕にとっては悪魔を召喚するなんて  
 赤子の手をひねるよりもたやすいことなのさ」  
「………あっ…あっ……あああ」  
絶望の十色。  
天使の予感は的中だった。  
「キミはもっと、けがらわしく汚れたものに犯されるべきだ」  
「いやああ!いやっいやっ!それだけはいやああーーーーーーー!!!」  
天使の拒絶は並大抵のものではなかった。  
これから出てくるであろうものが、  
どれだけ恐ろしいものかを知っているのだ。  
「フフフ………」  
ポゥっと武山コウジの体が光っていく。  
床一面に魔術文字で形成された魔方陣が浮かび上がっていく。  
「…い……いやっ…や…めて………」  
放心気味に、感情の無い言葉を続ける天使。  
しかし、無情にも悪魔召喚の儀式は続いていく。  
 
魔術とか、そういったものにまるで面識のない俺ですらも、  
これからでてくるものがいかに恐ろしいものなのか直感で理解できていた…。  
 
いいしれぬ重圧感、不安感。  
張り詰めていく空気。  
立ち込めていく紫色の霧。  
突然暗くなる空。  
辺りに漂っていく亡霊らしきもの達…。  
「エロイムエッサイム…エロシムエッサイム」  
武山コウジの詠唱は続いていく。  
「ひっ……ひっ……………」  
ガクガクと、頭を抱えながら奮えを隠せない天使。  
尋常でない震え方だった。  
俺もまた、頭では一刻も早くこの場を去らなければならないとわかっているのに  
金縛りにあったように動けなかった。  
 
―――恐ろしい想像をせずにはいられなかった…。  
 
これから現れるものは体中触手だらけの淫獣だろうか…  
そのぶっとい男のペニスをかたどったような触手に犯されるのだろうか…。  
 
それとも全身棘だらけの恐竜みたいな化物か…。  
そのぶっとい牙をペニスがわりに挿入されて  
秘所を裂けられるという激痛を味わいつつ犯されるのだろか…  
 
それとも醜悪な豚とも鬼ともわからぬ者達に  
次から次へ休む暇もなく犯され続けるのだろうか…。  
 
いや…それでも人間ならマシだろうか…  
ならば地獄の番犬に犯されて…最後は食われたり…………。  
 
黒い光が広がっていく。どうやら儀式も終わりが近い。  
いよいよ悪魔とご対面らしい。  
心を決める。  
今の天使には、何の力も残されていない…。  
もしもの時は俺が守らないと…。  
これからどんな事態になろうとも、俺がメロンを守らなくては………!!  
 
ドオーーーーン!  
 
圧倒的なスケールで、  
光は黒い柱となって、屋根をブチ壊して一気に天に昇っていった。  
そして…魔方陣のあった場所には、悪魔が立っていた。  
煙が立ち込め、未だその姿は見えないままだが、間違いなくそれは存在している…。  
その存在感だけでも、身が砕けてしまいそうだった…。  
くっ…くそっ…こうなったら、どんな悪魔でもきやがれってんだっ。  
シュウーーーー。  
煙が引いていく。  
ついに悪魔がその全貌を現したっ!!  
 
「地獄の底からこんにちわ!  
 憎悪と悪と破壊の死者!マジカル・エリンちゃん参上でーすっ!」  
「………」  
「………」  
「………」  
丁寧な口調で、ペコリとおじぎする悪魔。  
三人そろって口を閉ざす。  
やけに可愛いのが現れてしまった…。  
 
魔法陣より召喚されし悪魔。  
どんな恐ろしい魔物かと思えば  
現れたのは人間のような外見をした女の子だった。  
顔は人間世界の基準からすると間違いなく美少女の部類に入るのだろう。  
年齢や体型はメロンのヤツとそう大差ないように見える。  
体にぴったりとフィットした黒い服。  
短いスカートからスラリと伸びた足。  
黒いオーバーニーソックス。  
死神を象徴するような処刑鎌。  
そして、背中からはコウモリのような羽根がパタパタと動いていた。  
メロンが白を象徴するのなら、  
こいつを象徴する色は間違いなく黒だろう。  
憎悪と悪と破壊の使者、マジカル・エリンちゃん。  
はたして、その実力とは………。  
 
ここにいる誰もが悪魔の行動を一つとして見逃さずに注目していた。  
バタンッ!  
「………」  
「………」  
「………」  
床の瓦礫に躓いたのだろうか…?  
豪快にこけた。  
思いっきり顔面から激突したように見えたが、大丈夫だろうか。  
………。  
………起き上がらない…。  
…転んだ拍子にパンツ見えてる…。  
おっ、起き上がった。  
………涙目だ…。  
必死にこらえてる。  
パンパンと手で服の埃を払う。  
「あーーー!もう…だから  
 だからこんな短いスカートはイヤだっていったのに…」  
頬を赤くして愚痴ってる…。  
パンパンと頬を叩いて気を取り直すと、こちらに向かってきた。  
「はじめまして。  
 憎悪と悪と破壊の使者!マジカル・エリンちゃんです。  
 憎悪と悪と破壊の使者!マジカル・エリンちゃんと呼んでください。  
 この度は数ある悪魔の中から  
 私目をお選びになり、ありがとうございます」  
ペコリとお辞儀する悪魔。  
丁寧な言葉の使い方といい  
相手を敬う態度といい  
なかなか好感のもてるいいヤツだ。  
天使のヤツとはまったく雲低の差  
………んっ?後ろから冷たい殺気を感じるのは気のせいか?  
 
「ご主人様と呼ばせてもらいますね?」  
顔をかたむけて微笑む。  
八重歯がやけに可愛い見える。  
嘘偽りの無い無邪気なそれは、  
まるで小悪魔のように可愛い笑顔だった。(悪魔だけど…)  
むぅ…できることならこのままギュッっと抱きしめてやりたい。  
あの日舞い降りてきたのが天使でなくこいつなら  
俺は人生最大の幸福を手にできたかもしれない………。  
………。  
…………って……ちょっとまて。  
こいつ…ひょっとして、俺が召喚したとおもっているのだろうか………?  
悪魔は元気一杯に言葉を続けていく。  
「で、何をすればよいのでしょうか?  
 キライなあの子に不幸の手紙を100通ほど書きましょうか?  
 それとも、靴に画鋲でも仕込んでやりましょうかっ!!!」  
「お、おいっ。違う。召喚したのはあっち、あっち」  
ちょっとした老婆心だろうか、  
俺は親切にも教えてやった。  
「えっ!!」  
驚きの声を上げる悪魔。  
恐る恐る汗を後ろめたい目で振り返ると…  
あっちでは武山コウジが不機嫌そうに眉をゆがめながら待っていた。  
おおあわてで駆けつける悪魔。  
「おいおい。頼むぜ……。  
 IQ400の僕と、そんなボンクラを間違えるなんて  
 しっかりしてくれよ…」  
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」  
謝ってる…。  
 
「あーーー。他の悪魔に変えようかなぁ………」  
「そ…そんなぁ…しっかり働きますからぁ…。  
 こ…こう見えても私…いやがらせ検定2級の達人なんですよ…」  
「はぁ?二級?  
 僕はあんなの二歳の時に1級をとったんだけどぉ…」  
一度ヘソを曲げた天才の機嫌を直すのは難しいだろうなぁ…。  
…ん?先ほど後ろから感じた冷たい殺気が近づいてくる。  
ギュッ!  
「いてっ…いてててて!」  
何者かに耳をつねられた。  
「なにをデレデレとしているのだ…キサマ」  
「げっ…メ、メロン………」  
後ろには天使が殺気のある笑顔で立っていた。  
なんだか奥さんに不倫をバレた夫のような心境……。  
「べっ………べつに俺はデレデレなんて」  
不信な目でじっと俺の目を見つめる天使。  
「………。  
 よもや…悪魔に心を奪われたなど言うまいな」  
うん、といえば殺す。  
天使の目がそう俺に脅迫していた。  
「…な…なにをいうんだ…別にそんなこと…」  
「ほぉぉぉぉ」  
まるで信じてない視線だ。  
一度ヘソを曲げた天使の機嫌を直すのは難しいだろうなぁ…。  
………ってこんなことしてる間に逃げろよ俺達。  
 
向こうは向こうで、悪魔がとり繋ごうとするのに大変だった。  
「お願いです。私、何でもしますから。  
 召喚されていきなり返されるなんてカッコ悪すぎます」  
「ふーーーん。  
 それじゃあ、あそこにいる天使を性欲の奴隷に変えてみろよ。  
 そうしたら考えてやる」  
「えっ!天使っ!?  
 ここに天使さんがいるんですかっ!!!  
 ホント!どこっどこっ!」  
喜びの色を隠せない悪魔。  
「…………」  
武山コウジの無言の圧力がのしかかる。  
「う…っ…ご、ごめんなさいっ。  
 そ…その、とにかくその天使さんを性欲の奴隷にすればいいんですね…。  
 ま、まかせて下さいっ!  
 私の力にかかれば天使さんなんてあっという間に性欲の奴隷に  
 ……性欲の奴隷に…………  
 …………。  
 …………。  
 …………。  
 ………………………えっ…。  
 ええーーーーーーーーーーーーーっ!!!」  
………何でもする。  
そう決意した悪魔ですらも、その命令は戸惑うものだった。  
しかし、武山コウジはさらにおいつめる。  
「僕は実力主義なんだ。できなければ帰ってもらう」  
「うっ……うううう」  
顔をうつむけ、しばらく黙ったままの悪魔だったが。  
「わ、わかりました…やります………」  
「言ったな?  
 ちなみに僕は手をかさないからな」  
「……はいっ!」  
 
突然天使が笑い出す。  
武山コウジと悪魔の会話が聞こえていたのだ、この地獄耳め……、  
「ハーーーーハッハハハハハ!  
 我を性欲の奴隷にかえるだとっ!  
 醜悪な悪魔ごときが笑わせてくれるわっ!!!  
 面白い!  
 我が直々に魔界に送り返してくれるわっ!」  
颯爽と俺の前にでる天使。  
さっきまではガクガクブルブルと震えていたくせに  
弱そうな悪魔だと判った途端、いきなり強気だ…。  
戦意高揚といった感じだが………こいつは一つ大事なことを忘れている。  
「キャ…きゃああーーーーー!!」  
悪魔のが顔を隠して恥ずかしがっている…。  
天使の体を見ないようにしている…。  
「おいっ…メロン…オマエ裸ってこと忘れてるだろ」  
「えっ…………?」  
凍りつく空気。  
そう…あっちからだと丸見えだというのに…こいつは何やってんだ………。  
すぐに胸と股間を隠しながら床に泣き崩れる天使。  
「いやああーーー!ばかぁーーーっ!見るなぁーーーーー!!!」  
「………」  
なんなんだ、こいつは………。  
 
「はぁ…いきなりヘンなもの見せつけられるから驚きましたっ!」  
気をとりなおして近づいてくる悪魔。  
体を隠すため身動きできない天使に悪魔の手が伸びていく。  
「わぁ…本当に天使だぁ…かわいーーー!」  
ペタペタと天使の体をもの珍しげに天使に触れていく悪魔。  
やはり悪魔にとっても天使とは珍しい生き物なのだろうか?  
特に羽根に興味があるようだった。  
「いいなぁ…私もこんなキレイな羽が欲しいですぅ。すりすり」  
悪魔の行動に怒り狂う天使。  
「こ、このおおおお!  
 悪魔の分際でっ!!  
 わ、私の羽に、汚い手でさわるなゴルァ!!」  
「きゃあ!いたい!いたいですっ!」  
天使の羽根が悪魔を100叩きにしている………。  
 
煮え切らない悪魔の行動に武山コウジが喝をいれた。  
「何をしている!!  
 オマエいつまで遊んでいるつもりだっ!!」  
「は…はいっ」  
悪魔の表情が変わる。  
天使もギリリっっと歯をかみ合わせた。  
「…わ、我はどのような辱めにも屈せぬぞっ!」  
「………」  
悪魔は少し顔を赤らめると、天使を顔を両手で支えた。  
「お…おいっ…なにをっ!!!」  
「そ…それでは…失礼して………どきどき」  
ぷちゅ。  
「………!」  
「………!」  
なんと、天使と悪魔の口ずけがかわされた。  
 
突然の悪魔の唇の感触に驚く天使。  
あわてふためき、泣きながら悪魔の体をひっぺがそうとしたのだが、  
引き剥がそうとする力はすぐに弱まった。  
天使の顔が恍惚としたものに変わり、  
瞳は潤み、体はダラダラなものへとなっていく。  
目を瞑ると、暴れるのをやめる。  
だらんと下に下げられた両手。  
全身を悪魔にまかせた体制で、  
あとはひたすら舌をからませるのに夢中になっていた。  
 
な…なんてことだ…。  
天使と悪魔。  
それも生物学的には雌同士。  
俺の目の前で…美少女二人が唾液を熱烈に交換している。  
まさか、このようなものを見せ付けられるとは思ってもみなかった………。  
二人とも…気持ちよそうな表情のまま、  
共に頬を桃色に染めながら  
無我夢中で舌をからませあっている。  
………。  
彼女いない暦=年齢の俺にとっては余りにも厳しい光景だった…。  
 
そんな俺に対する気遣いなどは微塵もなく無く、  
二人は気にせずお楽しみを続けていった。  
 
―――。  
 
「ぷはぁ…」  
「はふぅ…」  
長い長い口ずけがようやく終わったようだ。  
二人の口はねっとりとした糸で繋がっている。  
だが…  
「んっ…んふぅ…」  
だが…  
「あっ…んっ……んあっ!あっ…!」  
天使の様子がおかしい。  
パタンと床に倒れると、  
「ダメッ!!もうダメッ……おまんこ…おまんこあついよぉ………」  
「………!?」  
ただキスで火照っただけではなぃ、  
天使の体にあきらかな変化が起こっていた。  
「んぁつ!あああっ!!ーーーーーんっ!!!」  
体をよじらせる天使。  
苦しそうに…何かを求めているように。  
乳首は勃起している。  
矯声を上げる。  
「ーーーあっ!んんっ!あふっ!!!あっ…………あぅっ……。  
 ぁつ…あっ…あっ、あっ…あっ」  
呼吸の激しさが増していく。  
ぴちゃり、ぴちゃり…。  
水滴の音は、天使の股間辺りからだった。  
「や………やめてお兄ちゃんっ!!!  
 こ…こんなのいやぁ…」  
なんか突然叫びだした。  
 
目を見開いて涎をたらして  
普段の天使には絶対に見られない酷い顔だ…。  
「ひ…ひぎいっ!」  
ガクガクと腰を奮わせる天使。  
あきらかに正気とは思えなかった。  
「あーーっ!!あがっ!お兄ちゃん!はやく抜いてぇぇぇぇぇ!  
 いやっ、こんなのいやあああああ!!!」  
さ、さっきから一体何をいってるんだ天使のヤツは。  
まるで股間が挿入されたかのように激しくもだえ苦しんで…。  
秘所から流れ落ちる水の量がさらに増していく。  
「お…おい」  
武山コウジが悪魔に問いかける。  
それは俺の疑問と同様のものだった…。  
「はい?」  
「いったい何が起きてるんだ」  
「夢をみてるんです」  
「夢?」  
「はいっ!  
 私は口づけした相手に  
 とびっきりの悪夢を見せることができるんです。  
 抵抗力を持つ天使に効くかどうかは疑問でしたけど  
 どうやら試してみて成功だったようです」  
天使の叫びが建物内に響き渡る。  
「だめぇえ!お兄ちゃん、中はだめええええ!!  
 あっ!!んっ!!!いやああああああああああああああああ」  
可愛そうに…どうやら肉親に犯られてる夢を見ているようだ。  
 
天使の秘所からは、ぐちゅりぐちゅりと女性器のこすれあうような音が鳴り、  
体がビクンビクンと跳ね上がっている。  
「……は………いっ……わかりました…」  
今度は天使はよつんばになって、お尻をつきだす。  
ガクガクと腰を振って…  
ひょっとして、これは後ろから犯されているのだろうか?  
それにしてもあまりにもリアル…。  
本当に透明人間にでも犯されているようだ。  
ドクドクドクッ  
「………あうううぅ…………」  
たっぷりと精子を注ぎ込まれてしまったらしい。  
「はふっ…あっ……はふぅぅぅ。ひっ…はっ…ふぅ…ふぅ…」  
やりおわって、完全に果ててしまったようだ。  
後は股間に残された性感をめくるめく楽しんでいる…。  
 
天使の様子に武山コウジも絶賛していた。  
「あははははは。  
 すごいぞ!  
 さすが僕が呼んだ悪魔だ」  
「お褒めにあずかり光栄です」  
こ…これが悪魔の真の力………。  
 
「よしっ!遊びはここまでだっ!!!街にでるぞ!」  
「よくわかりませんけど、はいっ!ご主人様っ!!」  
くっ!まずいぞ…このまま天使を街につれだして  
公開レイプを開始するつもりだ。  
今のやつは悪魔を味方につけて完全に有頂天。  
やると言えば必ずやる。  
そんな馬鹿げたことは止めなくては…………。  
「くっ!くそっ!!!やめろーーーーーっ!」  
「ん?」  
俺は何の考えも無く飛び出していた。  
例えかなわないと判っていても………。  
しかし力の差は歴然。  
お…俺は武山コウジの小指一本にすらかなわないのか…。  
「ごふっ……」  
情けなく地面に倒れされる俺。  
今の一撃は相当に効いた。  
体はピクリとも動かない。  
なのに意識だけは余りにもしっかりとしている………。  
武山コウジが倒れた俺を持ち上げる。  
「ぐっ…………なにを…」  
「ククク。キミには特等席を用意してやる  
 キミの天使がゆっくりと汚されていく様を指をくわえて眺めるがよいわっ!  
 あーーーーーはっははははははははは!!!!」  
俺はこの時ほど自分の無力を嘆いたことはなかった  
「あっ…あふっ…はふぅ…  
 …お…おにいちゃぁん……も…もっとぉ………  
 おまんこ……お腹ペコペコで……もう、待ちきれないヨぉ………」  
あいからわず焦点の合わない目でブツブツとつぶやいたままの天使。  
 
果たして天使の運命はいかにっっ!!  
 

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