愛と正義と平和の使者マジカル・メロンちゃんが  
坂ノ上アヤの家を襲撃………!!  
アヤの家は廃墟と化した。  
 
襲い掛かる様々な不幸を前に、  
アヤは無事に平穏な一日を過ごせるのか!?  
 
そして何故、メロンはアヤのことを下僕と呼ぶのか!!?  
メロンとアヤとの関係はっ!!?  
 
坂ノ上アヤ。半場強制的に………登校。  
 
 
学校の正門を超えたすぐの所、  
人々は密かに一人の少女の噂をしていた。  
「おいっ。今、通り過ぎた子。見た?」  
「見たっ。か…かわいい」  
「た…タイプだ…」  
「あんな子、うちの学校にいたっけ」  
「転校生かな…」  
 
その噂は加速度的に広がっていった。  
 
「おい。聞いたか」  
「今日来る転校生。スッゲー。かわいいらしいぜ」  
「カワイイってどんぐらい」  
「知らないが、とにかくカワイイらしいぜ」  
「あれじゃないか」  
「うひょ」  
「か…かわいい」  
「む…胸もある…」  
 
事実。その噂は正しく、  
少女の可憐さはその学校の水準地を大きく上回っていた。  
だが、当の本人はまだそれを知らない。  
と言うよりは、人々の噂に耳を傾けているような  
余裕なんてないのだった。  
 
(なんで私が今更学校なんて…ぶつぶつ)  
 
噂の転校生とは、坂之上アヤのことだった。  
そして、その身は天使が用意した制服に包まれていた。  
 
(あー。もー。  
 今日は朝からバイトだったのにぃ…。  
 店長怒ってるだろうなぁ…  
 無断欠勤なんてクビになっちゃうよぉ…)  
廃墟と化した家。  
突然目の前に現れた天使。  
そして学校へ強制的に登校させられ、  
(もう、勉強なんてこりごりだよぉ…  
 今はこんなことやってる時じゃないのに…)  
難しい顔で歩きながら、  
どうにもならない現状にため息をこぼす。  
(けど…この空気……なんだか久しぶりだな…)  
確かに強制的だったとはいえ  
その渦中は学校という空間に対して  
懐かしさのようなものも感じとっていた。  
(ママと大喧嘩しなければ  
 私、今頃まだ田舎で学校行ってたんだよね…  
 みんな元気かなぁ…)  
大切な友人達に対して別れの挨拶もしないまま上京してしまったこと。  
それは思い出すのもつらいことだった。  
(ん?)  
「うひょー。こっち向いた」  
「あれ。俺を見てるよな」  
(………)  
と、ここでようやく自分が置かれている状況に気がつく。  
(周りの人………ひょっとして私のこと見てるの?)  
首はそのまま視線だけで辺りを探ると、  
みな一様にアヤのほうに注目していた。  
(………きっと、私がカワイイからね?)  
アヤはなんの謙虚もない素直な結論に達した。  
 
それはアヤの気持ちを切り替えるきっかけとなった。  
(よし。そうだっ!  
 せっかく学校に来たんだもん!  
 こうなったらここで私のファンクラブでも作ろうっ!  
 きたるべきアイドル時代に向けて今から強力な後ろ盾を作っておくのよっ!)  
どんな逆境にも負けない、くじけない心。  
単純といえばそれまでだが、  
アヤ本来の持ち前の明るさから行き着いた結論だった。  
(そうよっ!こうなったからには是非とも前向きに行かなくっちゃ)  
兎も角、迷いを振り切ったアヤ。  
大衆に微笑むと、静かに首を傾ける  
「い…今…。  
 て…手…振ってくれた」  
「お、おいっ!見たカッ!今、俺に向かっておじぎをぉっ!」  
「何言うこのデブっ!お、俺に決まってるだろ!」  
大衆達の反応にアヤが得意になりかけたその時  
 
ヴィ〜〜ン。ヴィ〜〜〜ン  
 
アヤに埋め込まれたバイプが突然の振動を開始した。  
 
ヴィ〜〜ン。ヴィ〜〜〜ン  
 
(んーーーっ!)  
人前。  
それも大勢の学生が見ている中だ。  
ここで声でも上げようものならヘンタイだ。  
アヤは自分が置かれている状況がいかに危険なのかを再確認した。  
(て…天使ぃッ)  
心の中で天使を呪う。  
だが、今の振動は初めて受けた時ほどの衝撃ではなかった。  
あれがレベル2ならば、これはまだレベル1程度なのだろう。  
それでも長時間この振動を受け続ければ、  
耐えられるという保障は全く無い。  
アヤは決して苦しみ(快楽?)を顔にださず  
何事もなく、ただ静かに、不自然の無い動きで、  
校舎裏、人気のないところに移動した。  
もちろんその間には数え切れない困難があったのは言うまでもない。  
 
「ーーーんっ。あっ…んんっ。  
 あっ…んっ…はぁはぁ……  
 て…天使ーーー。出てきなさーーーいっっ!」  
どこなりに向かって叫ぶアヤ。  
すぐに天使が壁の向こう側からよじ登って現れる。  
「愛と正義と平和の使者。マジカルメロンちゃん参上っ!」  
天使はいつものポーズを決めた。  
しかし、それに感想を抱いている余裕など既にアヤには残されていない。  
アヤはすぐにバイプ機能を止めさせるのだった。  
「あんなところでいきなり何するのよっ!」  
「レベル1は警告だと思え」  
「はっ?」  
「警告が聞けんようならレベル2、レベル3と上げていくからナ!」  
「な、なによそれっ!!?」  
アヤの怒りなど天使にとっては涼風だ。  
天使はアヤの問いには一切応えず、いつもの調子で話していた。  
天使が理由を言わないのはいつものことだが、  
これから先も訳もわからない理由でバイププレイなんて受けたくも無い。  
アヤはここはきっちり問いただすことにした。  
「何よっ!警告って!  
 今私何か悪いことしたっ!!?」  
「………」  
天使はグッっと言葉を押し殺す。  
その瞳には、悲しみの混ざった複雑な色をしている。  
「キサマ。学校というものを何か勘違いしているのではあるまいな?」  
天使がアヤの面を向かって問いただす。  
「えっ…?」  
アヤはとりあえず天使の言い分を全部聞いてみようかと思った。  
天使が始めてまともなことを言いそうだからだ。  
 
「学校とは『学』を学ぶための聖なる講堂であって  
 けしてキサマの遊び場所ではないのだぞ」  
「わ、わかってるわよ。そんなこと」  
「だったらヘラヘラと大衆に媚びるような真似はやめい」  
「はっ…?」  
「我は犬が大嫌いなのだ。  
 怖いからじゃない。あの人間に媚びるヘーコラした態度が気に入らんのだっ!」  
「………」  
アヤはなんとなく理解した。  
天使がいったい何故、あの時バイプを発動させたのか?  
―――大衆に微笑むと、静かに首を傾ける。  
その行為が天使のカンに触ったので『警告』を送ったのだ、と。  
もちろんアヤが納得いく理由ではなかった。  
理解と同時にこみ上げてきたこの怒り。  
「そんなの私の勝手でしょ!このバカ天使!!」  
「ム、ムカっ!」  
 
ヴィ〜〜ン。ヴィ〜〜〜ン  
 
「ひっ!…ふっ…あっ…んっ!いやぁ。いやあ、あんっ」  
今度はいきなりレベル2だった。  
レベル1はまだ耐えられるが。  
レベル2になるとまともに立つことも難しく、  
淫声まで上げてしまうのだ。  
「今…なんと………言った?」  
「ひっ……ふっ……あっ…ご…ごめんなさーーーい。  
 メロン様っ!ひぃっ。ひっ!いやっ…だめぇ…あっ…んふっ…くっ…  
 ゆ…許してぇぇ…ああんっ…あっ…あっ…」  
「我に対しての暴言は今後一切許さんよ」  
アヤに釘をさしながら、冷たい視線を送る天使だった。  
 
「はぁ………はぁ…ふぅ………ふぅ…」  
涙でうるんだ瞳。  
呼吸をととのえのに必死なアヤ。  
天使がゆっくりと語りだす。  
「健全な精神は健全な肉体に宿る」  
「?」  
「いいか。  
 学校とは基本的な勉強。  
 そして集団生活によって健全な精神を養うところと言われている」  
(またいつもの説教か…)  
アヤは親や教師に言われ続けてきたことを  
またここでも聞かされることになるのかとおもった。  
アヤ自身は成績は悪いが、別に不良というわけでもないので  
いちおう納得だけはしていた。  
しかし天使は、  
「しかし、そんなものはPTAの戯言に過ぎん」  
「は……はぁ」  
天使の言葉に、アヤは破顔した。  
「いいか。学校とは  
 勝 つ た め の 場 所 だ 」  
「は…はい?」  
「勝て!」  
「…はぁ…」  
「人は生まれて死ぬのが当たり前で…  
 それと同じように、勝たなければその生きている間が悲惨なのも  
 …また当たり前」  
「…はぁ…」  
 
天使の熱演は続いていく。  
「今の人間共は…誤解している。  
 そこのところ。  
 仲間とか友情だとか、  
 そんな便所のネズミのクソにも劣る下らんものにウツツを抜かし  
 いつの間にか他人の踏み台にされる体たらく。  
 まこと救い難い」  
「…はぁ…」  
「だが違う。  
 勝たなければ誰かの養分。  
 人生悲惨なのは当たり前!」  
「…はぁ…」  
「いいかっ!  
 周り全てが敵だと思え。  
 何者にも心を許すな。  
 他者を陥れてでも勝て!  
 友情はトーレナ岩よりも  
 崩れやすくコボルトよりも弱いっ!」  
「…はぁ…」  
「真の勝利とはその向こう側でまっているのだ!」  
「…はぁ…」  
にっこりと微笑む天使。  
「それじゃ、我はいつもオマエの側で見守っているからナ♪」  
天使は翼を広げると鼻歌を歌いながら満足気に天に帰っていた。  
あっけにとられたままのアヤだったが。  
 
キーンコーンカーンコーン  
 
チャイムの音に気づいた時、アヤは悲鳴を上げた。  
「しょ…初日から遅刻っ!!」  
 
 

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