【××12年5月5日 2歳の誕生日 手作りの不恰好なぬいぐるみに添えられた手紙より】
しんちゃんへ
二さいのおたんじょうびおめでとう!! はやく小学生になっていっしょに
小学校にいこうね。
【××16年4月8日 ■■小学校××16年度入学式開式2時間前 通学路途中の公園にて】
うん、似合う似合う! え、ちょっと大きい? だいじょうぶよ、しんくちゃんは男の
子なんだから、これからどんどん大きくなるってば。もう、もっとシャキッとしなよ、
背の大きさで全てが決まるわけじゃないでしょ? だいじょうぶよ、いざって時には私
が守ってあげるから。何よ、かっこ悪いって? よわっちいくせになまいき言ってんじゃ
ないの! そういうセリフは一人でトイレに行けるようになってから言いなさいよね。
でも早いね、こないだあたしが入学したと思ったのにもうしんちゃんの番なんだ……。
本当に早いねー。私ももう5年生だから2年しかいっしょに学校行けないけどさ、よろ
しくね? ……ほら、おばさんも呼んでるよ、行こう?
【××20年6月12日 中学総合体育大会陸上地区大会決勝終了後 競技場裏にて】
あ、慎! なんだ来てたの、さては小学校サボりだなコイツめ。この麗しい私の走り
を見に来たの? うりうり素直に白状しなさい。……違うの? ちぇ、素直じゃない
なあ。それよりどうよ、自己ベスト8秒も縮めたのよ! 凄いでしょ。まあ負けちゃった
けど……、今の私で勝てないなんてそれは陸上のルールがおかしいのよ、きっと!
だから悲しくなんてないわよ、だから慎もそんな顔しないの。ほら、泣かない泣かない。
もう、あなたももう中学年でしょう? 1年生に笑われちゃうわよ……。……え、違う
わよ……泣いてなんか、私のはね……。これはちがうの……。
【××21年3月18日 □□高校合格発表直後 自宅に掛かってきた電話より】
キャ―――――!! 慎! やったわよ、見なさい、あそこに燦然と輝く113の
文字を! 電話じゃ見えない? もう、そんなの気合とか根性とか宇宙からの毒電波
とかで見なさい! 見ろ! でもまあ当然て感じ? 私ほどこの瞬間のためにがんば
ってきた中学生がいようか! いや、いまい! もうそりゃあ、あの6月12日以来
私は――
(以後15分ほど完膚なきまでの自画自賛)
……と、まあそんなところね。慎も見習わなきゃ駄目よ? ……なによ、随分げん
なりしてるけど。長い? そんなの私の9ヶ月に比べたらねえ……、ん? 何?
……あ、うん、ありがとう。そうだね、慎も応援してくれたモンね。
じゃあお母さんにも連絡しなくちゃ。じゃ、切るね、バイバイ!
【××23年10月19日 □□高校文化祭 昇降口前にて】
おーきたきた、って随分大所帯ねえ……。皆、陸上部の友達? 上手くやってるみたい
じゃない。いやー、皆さん愚弟がお世話になってます。え? いやいや別に本当の姉弟
じゃないわ。……にしても、慎も陸上やるなんてねえ。小学校のひょろひょろの頃から
考えると嘘みたいね。……うん、本当に嘘みたい。凄いね、慎。私に引っ付いて泣いてた
子はもう居ないのかあ。ふふっ、そんなむくれないの。そういうところは変わってない
のよね。
……にしても何で陸上なの? サッカーとかの方が人気あるのに。やっぱり憧れの
麗しーい美人のお姉様の影響かなー……ってコラ、呆れた様なため息を残して何処へ
行くか慎っ! 待てっ!
【××25年1月1日 電話で叩き起こされた元旦午前0時7分 日付が変わると同時に放り込まれたらしい年賀状より】
あけましておめでとう!
ついに今年は慎も地獄の受験シーズンを迎えるかと思うと、嬉しくてならない私です。
やーいざまあ見ろ! まあどうしてもって言うなら勉強も見てあげなくもないわよ?
ところで慎の事だから寝正月を決め込もうとしているんでしょう? ほら、図星だ。
そんな弟分をほうって置けない優しくて麗しいお姉様は、大学も推薦が決まった事だし、
君の健全な正月ライフをサポートしてあげる事にしました。という訳で5分で支度
しなさい、初詣行くわよ。君の家の前で待ってるから、美人を待たせるんじゃないわよ?
じゃあ5分後に!
【××25年6月12日 中学総合体育大会陸上地区大会決勝終了後 控え室にて】
慎ーーーーーっっ!
凄い凄い、早い早い、県よ県よ! 我が中学校……えっと、夏崎先生何年振りでしたっけ?
そう15年ぶり! 15年ぶりの快挙よ! もう慎エライッ! 流石ウチの子!
この私ですら成し遂げられなかった偉業を……、もう私は姉冥利に尽きるわ。な
んかとうとう追い抜かれちゃったって感じよねえ……。
……え、控え室は関係者以外立ち入り禁止? 五月蝿いわね、大学休んでまで
やってきた私の何処が慎の関係者じゃないってのよ! ねえ先生!? ……ほら先
生もこういってるじゃない、慎のくせに生意気な、黙って褒められてなさい!
【××26年9月11日 なんでもない晩秋の日の夕暮れ 最寄駅のホームにて】
えー、この子この子!? この一番右に写ってる子が千里ちゃん!? 嘘、可愛いじゃない!
どうやってたらし込んだのよコノコノコノコノ! 憎いね! ふーん、でもさあ
趣味は人それぞれって言ってもまさか慎になびく子がいるなんてね、なーんて……。
ホーント、こんな男になびくなんて変わってるわ。……あ、おこった? ははっ、
冗談よ大丈夫、まあ保護者の贔屓目で甘めの採点だけど慎になら中の上はあげられるわよ。
この子のためにも自信持ちなさい!
【××29年3月18日 大学卒業式前日 着物屋にて】
ねえねえ慎、これどう……ってちゃんと見てなさいよ。こんな美人の晴れ着姿なんて
見たくたって見られるモンじゃないわよ! どうせ千里ちゃんと別れてから女の子とも
ご無沙汰なんでしょ? あ、むつけた。図星ね? わかりやすいなあ、相変わらず。
……え、何、アイツ? 五月蝿い、所詮は私とつりあう器じゃなかったって事よ。まっ
たくデリカシーのない奴ね、誰に似たのやら? ……。ふふっ、そうね似てるかもね。
え、それ? ……ふうん、慎はそういうのが好みなんだ。しょうがない、可愛い弟の
頼みだ! 親切なお姉さんに感謝しなさいよ? すいませーん。あの、コレと同じ奴
着付けしてもらえますー?
【××33年2月9日 27の誕生日の一ヶ月前 帰路にて】
お見合いしたの。
何そんな呆けてるのよ……? 私もう26、もうすぐ27よ? お見合いの一つや二つ、
舞い込んでくるもの。今回は結構格好良いし、年収も900万ですって! 900よ900!
凄いわよねー、普段何に使ってるのかしらね? 私の2倍以上よ。折角だから玉の輿狙っちゃおうと
思ってるのよねー。向こうも気に入ってくれてるみたいだし。とはいえどこんな美人ほっとく
男もいないでしょうけど! うふふ、私もコレで安泰ねえ!
……なによ、リアクションが薄いわね。……ピンとこない? まあ私は君みたいに若くないから。
いつまでも愛だの恋だのも言ってられないしね。……そろそろ身を固める時期って奴なのよ。
【××33年2月14日 バレンタインデー 郵便受けに放り込まれたチョコレートに添えられた手紙より】
義理
【××33年2月17日 27の誕生日の20日前 メールより】
title:プロポーズされちゃった
先月話してた人に3日前に、ね。いざとなると、なんだか妙な気持ちです。私もまだまだ若い
ってことなのかしらね? そう考えると何となく嬉しいです。返事は思わず保留しちゃったけど
恐らく受けると思います。ご祝儀今から用意しときなさいよ?
【××33年3月2日 27の誕生日の7日前 メールより】
title:入籍
彼が忙しくて式は暫く挙げられそうにないのだそうです。それまでギッチリご祝儀貯めとき
なさい。良いわね? 来週の今日入籍します。
【××33年3月4日 27の誕生日の5日前 メールより】
title:チョコ
どうだった? 結構自信作なんだけど? まああなたはご祝儀と3倍返しの用意がいるって
事よね。大変ねえ? 精々私の気が変わる事を祈っているのね。
【××33年3月6日 27の誕生日の3日前 メールより】
title:(no title)
【××33年3月6日 27の誕生日の1日前午後11時50分 メールより】
title:(no title)
ねえ。
まだ?
【××33年3月6日 27の誕生日午前0時 生まれて始めてこちらからかけた電話より】
馬鹿慎。遅いわよ、本当に。……うん、でもまあ間に合ったから許してあげる。特別だよ?
……うん。じゃあ言う事があるでしょ。
ほら早く……。
……ほらあ、電話切っちゃうよ?
……。うん、よく出来ました。もう、本当に何年待ったと思ってるの? ……うん、……そうだね。
じゃあさ、切るね。だって色々、向こうとも話しつけなくちゃなんないし、今日は忙しくなると
思うから私はもう寝なくちゃ。……ふふっ、いいじゃない別に。
これからも一緒なんだし、……ね?