▽△▽  
 
「あぁぁ……イかせて……イかせて……くれ……」  
 
 どれだけの時間が経っただろうか、譲はもうイく事しか考えていないが、  
その懇願も、最早誰にも届いていないように感じられた。  
尻尾の繭に包まれ、犯され、真っ暗な闇の中で、イくことを懇願しつづける。  
理性を失い、光の欠けたその瞳は、陽炎に弄ばれた男達に共通する姿でもある。  
 
 しばらくすると、譲の体を這い回り続けていた尻尾の動きがピタリと止まり、  
視界に陽炎の姿が現れた。  
譲は宙吊りの状態からゆっくり地面に下ろされると、陽炎が譲の体に跨るような形で  
立ち上がり、自分の女陰に指をかけると、その中を譲に見せ付けた。  
 
「さて、どうする? 女陰を前にしてまだ強気に拒むか、それとも欲望に従うか?」  
 
 譲を尻尾の繭に包んでいる間、ずっと自慰に耽っていたのか、  
彼女の股の間からはドロッとした愛液が滴り落ち、準備万端といった状況だ。  
 
「ほれ、ほれ、どうするのじゃ?」  
 
 自分の女陰を譲のペニスに擦り付けながら尋ね、腰をグリグリと動かすたびに、  
亀頭に陽炎の愛液がぬりたくられる。  
譲は、腰を浮かせて彼女の胎に挿入しようと試みるが、尻尾に固定されてそれは出来ない。  
悶える譲を見下す瞳は、譲の言葉を待ち受けているようであった。  
 
 求めていた物がすぐそばにある。譲は、自分の理性も、プライドも、どうでも良かった。  
ただ、いきり立つ自分のモノを彼女の中に打ち込みたい、彼女に自分の精を捧げたい。  
それしか考えることのできない彼には、他に選択肢が無かった。  
 
「入れ、させて……」  
「なんじゃ、聞こえんぞ?」  
 
度重なる攻めによって、譲はほとんど声を発する事ができない。  
 
「入れさせて……くれ……」  
「ほぉ、それが人に物を頼むときの態度かえ?」  
 
 ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる陽炎は、譲のモノに自分の秘所を擦りつけ、  
一人でスマタを楽しんでいる。  
譲は、わずかに残っていた理性を完全に吹き飛ばし、発せるだけの大きな声で叫んだ。  
 
「お願いです! 入れさせて下さい!」  
「よう言えたわ! ほれ、褒美じゃ!」  
 
 その言葉と同時に陽炎は譲を自分の中に導き、挿入した瞬間、  
譲は溜まりに溜まった自分の欲の塊を、彼女の中に放出した。  
 
「ああぁ、良い、良いぞぉ、堕ちた人間の精、これほど美味いものはない」  
 
 陽炎も譲も一切体を動かしてはいない。挿入による快感だけで射精したのである。  
その射精量は異常で、今まで出せなかった分を一度に出しつくそうとしているようであり、  
長い長い絶頂による快感が、譲の頭を焼いていった。  
 
「はぁ……はぁ……」  
 
 待ちに待った絶頂、何度も何度もお預けを食らったためか、その快感も格別だった。  
陽炎は射精の後も、譲のペニスを強く締め付け、精液を一滴も逃さぬように蠢く。  
体はフルフルと震え、目を閉じて自分の中に染み込む力を感じ取っているようだが、  
彼女は素早く次の行動に移る。  
4本の尻尾が再び四肢を拘束し、残りが体を這い回りはじめた。  
 
「まさか、一度で終いということはなかろう? もっと、もっと出すのじゃ!」  
 
 失せかけていた尻尾による快感が戻り、射精の余韻から戻る前に、2度目の射精を行った。  
今度は、納まり切らなかった精子が、結合部から漏れ出しているのが見える。  
陽炎もそれに気が付き、ペニスをつたう精液を指ですくい取ると、  
その指を自分の口の中に運ぶ。  
 
「んちゅっ、ふぅ、実に美味じゃ、まさかこれほどとは……」  
 
譲の精液を口に含み、その味を確かめると、驚きとも喜びとれる声を漏らす。  
 
「あっ、あぁぁ、出てるっ、でてるよぉぉ」  
「貴様の愛らしい耳と尻尾が空いておるな、ほれっ」  
「もっとぉっ、尻尾も、耳も、ひあぁぁぁっ」  
「ふふふっ、貴様の身も、そして心も、欲しくなってしもうたぞ」  
 
 怪しい目つきで譲を睨むと、尻尾の動きが激しさを増した。  
胸を、腕を、足を、耳を、尻尾を、そしてペニスを、体の各所を尻尾のやわらかな感触が  
滑るたびに、堰を空けたような勢いで精を放出し続ける。  
もう何度目か覚えていない。  
焼け付くような快感と共に陽炎の言葉が頭に届く。  
 
(我に、我が一族にその身を捧げよ、従属を誓えばさらなる悦びを貴様にくれてやろう)  
 
妖艶な声が、薄れゆく意識の中に溶け込んでくる  
 
(誓え)  
 
その言葉を拒む理由は何も無い  
 
(さぁ、誓え)  
 
なぜなら、すでに身も心も彼女に捧げてしまったのだから。  
 
「誓い……ます……だから……もっとおぉ……」  
 
 無数の尻尾が譲の体を包むのを最後に、視界は真っ暗になる。  
譲は、頭の中が完全に真っ白になる感覚を覚えながら、自分の意識を手放した。  
 
 意識を失った譲の体を、陽炎の尻尾が包んでゆく。  
9本の尻尾がどんどん巨大化すると、譲の体に巻きつきながらその姿を覆い隠す。  
譲の体は尻尾の繭に包まれ、外界との接触を遮断された。  
怪しく蠢く尻尾の繭で、譲の心と身体は犯され、穢され、壊されているのだろう。  
ブツブツと何かを呟く譲の声など、誰の耳のも届いてはいなかった。  
 
「イかせて……もっと……もっと……」  
 
 壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す人間。  
その瞳に光は無く、口をパクパクとあけて涎をたらし、心が完全に壊れている。  
その人間を尻尾の繭に納め、大量の精液で膨れた腹を撫でながらご満悦な陽炎。  
 
「人の心とは儚きもの、どんなに強がっても所詮はこの程度……だがそれが良い」  
 
 自分の長い生涯を恨み、人の生涯のはかなさを羨む。  
その想いは誰にも理解される事無く、時々こうして人を壊して気持ちを紛らわす。  
悲しげな表情を見せる陽炎だが、その顔が困惑気味な表情を見せた。  
 
「しかし、我が子らのお気に入りを壊したのはまずかったかの」  
 
 尻尾の繭を開き、その中の人間の様子を見る。  
蠢く尻尾の与える快感に合わせて体をび反応させるだけの哀れな肉塊。  
 
「人間にしては良くもった、子らが気に入るのも無理は無い」  
 
 初めて陽炎と交わったにしては、長持ちしたようだ。  
おそらく、雪風達と交わって妖孤の力に耐性がついていたのだろうが、  
陽炎も、不思議なほど激しく攻め立ててしまった。  
従属まで誓わせる予定は無かったのだが、すでに心までも犯し尽くてしまっている。  
眼前にいる、壊れた人間の中にある何かが、自分を激しく興奮させていたのだろうか。  
 
「まさか、まさかな……」  
 
“愛しい”という久しく感じたことの無い感情を思い浮かべたが、すぐに自分で否定する。  
魂の抜けたその体を見ながらため息をつき、  
このような形でしか自分の気持ちを表せない自分を嘆く。  
 
「ふぅ、親というものは、子に嫌われるのは嫌なものじゃ」  
 
 ポツリ呟き、壊れた人の体を抱き寄せ、その口に自分の口を合わせると、  
口移しで自分の妖力を注入してゆく。  
その力は人間の喉を通って体全体に広がり、ジワリジワリと染み込んで心と体の傷を癒す。  
やがて、人間の瞳には光が戻り、ゆっくり目を閉じると同時に、安らかな寝顔を見せた。  
 
「ふぅ、これで、少し休めば回復するじゃろう」  
 
 自分の尻尾を大きく広げると、譲をそこに寝かせ、自分もその横に添い寝した。  
この人間を回復させるのはあくまでも子供たちのためと、そう自分に言い聞かせるが、  
 
「儂も、この人間を好いてしまったようじゃ……」  
 
優しげな顔を見せると、横で眠る人間の寝顔を見てポツリと呟いた。  
そして、もう一言、  
 
「ふぅ、今宵も儂はイけなんだ、欲求不満は募るばかりかの」  
 
不満そうな独白を、傍らで眠る譲に投げかけていた。  
 
△▽△  
 
 悪夢だった。  
怪しい男達に怪しい屋敷に連れ込まれ、怪しい女狐に心も体も無茶苦茶にされてしまう。  
さらに従属を誓わされ、自分自身が崩れていく所で終わる。  
悪夢以外になんでもない。  
 そして、目が覚めてもそれが現実であるという悪夢が続く。  
気が付けば陽炎の姿は見えないが、行為の余韻は未だに体を支配していた。  
頭のどこかに残る言葉の欠片が未だに譲を苦しめるのだ。  
今は布団の上に寝かされ、体を起こして周りを見回しても誰もいない。  
途中で意識を失ったために最後はどうなったのか覚えていないが、  
命があるということは、許されたと言うことなのだろうと判断した。  
 
「おはようございます」  
 
 突然の声に横を向くと、今まで誰もいなかったはずの場所に女性の姿があった。  
見覚えがある顔、屋敷に連行されたとき、譲を部屋まで案内した女性。  
その女性は、枕元に着替えと食事を置くと、  
 
「おやかた様がお待ちでございます、食事と着替えを終えましたら声をおかけ下さい」  
 
 言い残して部屋を出て行った。  
いや、出て行ったというか、瞬間移動したように見えたのだが、気のせいではないだろう。  
盆の上に載せられた白粥に手を付けるが、蓮華を持ち上げるだけで譲の身体が悲鳴を上げ、  
喉の奥になんとか流し込むものの、味など分かりようも無い。  
 とりあえず、言われた通りに食事と着替えを済ませて部屋を出ると、  
先ほどの女性が目の前に立っており、最初に案内された部屋へ再び連れてこられた。  
 さっき見た悪夢が再び頭をよぎり、眼前の襖戸を開けることが出来ずに立ち尽くしたが、  
譲が手を出す前に襖が勝手に開き、譲を中へ導いた。  
 
「おぉ、待っておったぞ、このネボスケめ」  
 
 部屋に入り、声のする方を見ると、奥では陽炎が譲を待っていたが、  
揺らめく尻尾を見るだけで、なぜか譲の体全体が異様な興奮に襲われ、  
陽炎はその姿を見て怪しげな笑みを浮かべた。  
 
「早速で悪いが、貴様のこれからの処遇について話がある」  
 
 その場に出されていた座布団の上に座ると、陽炎が口を開く。  
細く鋭い瞳に睨まれ、譲は蛇に睨まれた蛙の如く動く事が出来なかったが、  
陽炎の提案は、驚くべきものであった。  
 
「ここに残って、我に、いや、我が一族に尽くす気はないかえ?」  
 
 突然の提案に譲は驚きを隠せない。  
彼らのような一族は、人との接触を極力持たないようにするのが普通であろう。  
そのための掟もあるようだし、提案の意図が理解できないでいたが、  
そんな譲の気持ちを悟ってか、陽炎は話を続ける。  
 
「我らのような一族がこの浮世で過ごすのは何かと大変でな、  
ここ200年ほどは、退魔師の真似事もしており、その恨みもかっておる。  
無論、しっかりと修行を積んでもらわねばいかんが……」  
 
 譲はしばらく考え込んだ  
サラリーマンとしての日常を捨て、  
非日常的な世界で生きていけるだろうかという疑問、そして、陽炎との行為。  
陽炎から受けた数々の責めを思い出すたびに恐怖が譲を支配する。  
 
「あなたの僕として誓いを立ててしまった記憶があります。それでも選択肢はあると?」  
 
顔を伏せると、再び考えを見透かされたようで、  
 
「あの行為のことで儂を恨んでいるなら詫びよう、あれはやりすぎじゃった」  
 
まさか向こうから謝るとは思っておらず、その驚きもあるが、  
陽炎が艶かしい視線でこちらを見るのはもっと気になる。  
 
「しかし……ふふっ、再びアレをして欲しいというのなら、その望み叶えてやるぞ?」  
 
 背筋がゾクリと反応する、まさか、自分は再びアレを欲しているのだろうかと、  
頭がそれを否定しようとしても、意識に組み込まれた何かがそれを阻害する。  
 
「すぐに答えを出せとは言わん、ひとまず、別の部屋で考えるが良い」  
 
 こうして譲は、人生で最大の選択を迫られたのだった。  
部屋を出ると、先ほどの女性に別の部屋へと案内される。  
 
「どうぞ、こちらでおくつろぎ下さい」  
 
そして、案内された部屋の中を見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。  
 
「……これ、俺の部屋じゃん」  
 
 そう、そこには、まさに譲の住んでいた部屋があったのだ。  
家具の並びから散らかった洗濯物までそのままの状態、  
左右を見渡すと、日本的な家屋の長い廊下、眼前に出現した光景に驚きを隠せない。  
 
「あの、この部屋は?」  
「あなたのお住まいを解約して全て運び出しました。何かお忘れ物でも?」  
 
(なにぃぃぃぃ!てことは俺には帰る所が無いわけかよ!)  
 
「周辺へのご挨拶は済ませておきましたのでご安心を」  
 
(それはどうもありがとう……いやまて、俺が気になるのはそこじゃない。  
あれは、会社から借りている寮だし、どんな手続きをしたんだ?)  
 
「あの、会社には?」  
「会社には退職願をお渡しして、退職したことになっております」  
 
(なにぃぃぃぃ!ってことは俺、無職のフリーターかよ!)  
 
「お気づきで無いと思いますが、あなたがこの屋敷に来てから本日で7日目になります」  
 
(ぬぅあにぃぃ!ってことは退職願出さなくても無断欠勤で会社クビってわけかよ!)  
 
 つまりあれだ、譲は陽炎の条件を呑まざるを得ない状況になっているわけだが、  
まさか、自分が7日間も眠り続けていたとは思ってもいなかった。  
 
「おや?決心は付いたかえ?」  
 
 そして、タイミングを見計らったようにやってくる陽炎。ため息をつく譲。  
譲は、あまりの手回しの良さに、もう反対意見をいう気もおきませんでした。  
 
「わかったよ、もう後には引けないわけだな、君たち一族の力になるよ」  
「ほほう、良い心がけじゃ、さぁ、今宵は子らも呼んで歓迎の宴を開こうぞ」  
 
実際の所、譲は今も、陽炎の尻尾に捉えられたままなのかもしれない。  
 
(だが……それもいいかな?)  
 
 そう考える時点で、今でも陽炎の支配下にあるのだろうが、  
それを喜びと感じている時点でどうでもいいことだ。  
さて、これから譲にはどのような人生が待っているのだろうか。  
希望か絶望か、とりあえず前に進めばいいと考えるのが、この男の良さだろう。  
こうして、ここから譲の新たな生活……いや、新たな人生がスタートするのだった。  
 
 
―終―  
 
 
 
 
 
 
 
 
「うわっ、朝からナニやってるんですか」  
 
突然、服の間に陽炎の尻尾が入り込んでくる。  
 
「だから、ナニじゃ」  
 
あたかもそれが普通であるかのように、しれっとした顔で言う陽炎。  
 
「あの、まだ疲れが取れていないんですが?」  
「儂はお前が寝ている間、もう一週間もシておらんおじゃ、コレも修行と思え。  
それにあの時も、私は結局イケず終いだったのじゃぞ?」  
 
こうして、譲は尻尾に巻きつかれながら眼前の部屋に引きずり込まれる。  
 
「貴様も溜まっているであろう? たっぷりと体を煽ってやろうぞ。  
今宵も、明日も、そして明後日もな、ふふふ……」  
「いやぁぁぁ!」  
 
譲の人生……これでいいのか?  
 
 
 
―続?―  
 
 

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