山の中腹に古めかしい屋敷がある。  
森の中に忽然と現れる屋敷、普段は人気も無く静まり返っているが、今日は違う。  
珍しく二人、いや、二匹の客があった。  
二匹とも、黄金色の立派な尻尾が天を仰いでおり、自らが妖狐であることを誇る。  
珍しくも母である陽炎から昼餉を呼ばれ、雪風と時雨が屋敷に顔を出していたのであるが、  
 
「……で、なんで譲がここにいるのかしら」  
「いや、これには深い事情が、ふあっ、陽炎様、こんな所で」  
「ふふっ、そちは余の色子、所有物なのじゃ、いつ、何をしようが、余の自由であろう」  
 
 その場に譲がいることに驚き、あっけに取られる雪風と時雨。  
当の譲は、陽炎の隣に鎮座し、その尻尾に優しく包まれながら、愛撫を受けていた。  
雪風たちの顔を見て懐かしくもあったが、陽炎の尻尾に包まれては、それどころではない。  
 
「お母様、譲は私が最初に手を付けた人です、初めての人です、それなのに酷いですっ」  
「もう別れたのだろう? ならば、わしの色子にしようと、文句は無いはずじゃ」  
「そっ、それは私が一人前になるまでの話であって……」  
「一人前? 尻尾二本のお前が一人前の九尾になるまでに、譲は年老いて死んでおるわい」  
「うっ、むぅぅー」  
 
 頬を膨らませて不満を露にする雪風だが、母である陽炎を目の前にしては、  
それ以上の反論もできない。  
 
「と、見せかけて、隙ありっ」  
「甘いわ」  
 
 譲を母の魔手から奪還すべく、奇襲を敢行した雪風であったが、無論のこと敵わない。  
待ち構えていた陽炎の尻尾に行く手を阻まれると、そのまま尻尾の繭に包まれ、消える。  
譲を巻き絞めている以外の尻尾に全身を絡み取られ、雪風の小さな尻尾が二本、  
僅かに顔を覗かせている。  
 
 雪風も必死に抵抗をしているらしく、尻尾の繭が内側から突き上げられているが、  
しばらくすると、繭から何かが吐き出された。  
雪風が着ていたはずの巫女服。それが宙を舞い、譲の前に落ちた。  
続けて、小さく可愛らしいパンツが吐き出され、これも譲の前に舞い落ちる。  
これで、雪風は全裸になっていることがわかる。  
 
 陽炎が何をしているのか、雪風が何をされているのか、外野にも簡単に理解できる。  
普段、譲がされている事を、そのまま雪風に対して行っているのだろう。  
譲にとって、尻尾の繭に包まれる愛撫を外から見るのは初めて。  
繭の中では、雪風が快楽の坩堝に嵌まり込んでいるだろうか。  
 外目には尻尾に大きな動きは無く、雪風の喘ぎも聞こえない。  
時折、僅かに脈動を見せるだけ。  
 
 視線を時雨に向けると、「またか」とばかりに溜息を付きつつ、油揚げを口に運んでいる。  
陽炎も同様、眉の一つを動かす事も無く、茶を啜る。  
実に静かな昼食の光景が流れていた。  
 
「ふむ、そろそろ良かろう」  
 
 ゆっくりと茶を飲み終えた陽炎が湯飲みを置くと、尻尾の繭が解かれた。  
蕾が花開くように尻尾の先端が四方に開くと、裸体の雪風が姿を現す。  
 着衣のように乱暴な吐き出し方ではなく、尻尾で支えながらゆっくりと。  
畳の上に寝かされた雪風、その目は開いているが瞳に色は無く、空を見つめている。  
 
「母様、いたずらにも、限度というものがあるでしょう」  
「ふふっ、そうかえ、これでも加減をしたのだがのう、お主はかかってこぬのかえ?」  
 
 相変らずの呆れ顔を見せる時雨に、目を細めてこたえる陽炎。  
これが本当に親子なんだろうかと、譲の頭に疑問が浮かぶ。  
妖狐一族の独特なスキンシップを見せられ、驚きを隠せない譲であったが、  
この後、更なる驚きを覚えることになる。  
 
 畳の上に寝かされていた雪風を介抱すべく、見慣れたお手伝いの女性が  
姿を見せたとき、  
 
「まったく、お姉さまも、この淫乱な母上に何か言ってやったらどうなの?」  
「時雨、言葉を慎みなさい、おやかた様に対して失礼ではありませんか」  
 
 陽炎の尾に包まれながら、恍惚とした無意識下で黙っていた譲であったが、  
この短い会話の中、一つの疑問を得た。  
 
「待てよ、お姉さまって、時雨が長女じゃないのか、お前にも姉がいたのか?」  
「今更何を、目の前にいるでしょうが、毎日顔を合わせているはずよ」  
 
 時雨が目顔で示す先には、雪風を介抱する女性の姿が。  
そう、譲は知らなかった。  
屋敷に招かれた(連行された)際、最初に出迎えたあの女性。  
屋敷の中で何時も忙しそうに立ち働いていたあの女性である。  
 
「そういえば、お前に紹介していなかったのう、秋月、近う寄れ」  
「はい、おやかた様」  
 
 目の前の女性がその手を休め、譲の前で指をつき、頭を下げた。  
普通の人間でないとは思っていたが、雪風や時雨の姉とは考えてもいなかった。  
何故かといえば、彼女の立ち振る舞いを見れば分かる。  
雪風、時雨、陽炎との出会いの際は、出会いの直後に性交が待っていたが、  
彼女の場合は違い、一定の距離を保ちながらも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。  
何より、礼儀正しい。  
 
「これが余の一番の娘、“秋月”じゃ、覚えておけよ」  
「譲さま、秋月でございます、以後も、お見知りおきを」  
「ふふっ、不出来な他の娘達と違って実に優秀、既に7尾になっておるわい」  
 
 すると、秋月の背後から、陽炎達と同じ黄金色の尻尾が姿を見せる。  
三女の雪風が二本、次女の時雨でも4本であった尻尾。  
妖狐の力の象徴である尻尾が7本とは、相当な実力の持ち主と言える。  
 
「こやつは、気を隠すのが得意でな、お前が気付かなかったのも頷ける事よ」  
「はぁ、秋月さん、ですか」  
 
一族の長である陽炎の尻尾も見抜くことが出来た譲も、秋月のそれを  
見抜くことは出来ていなかった。つまり、それ程の力を持っているということだ。  
 
 それから数日、秋月との関係に変化があったかといえば、何も無かった。  
食事の世話から屋敷内の掃除も一手に引き受け、陽炎との夜伽に疲れ果てたと時などは、  
風呂場で身体を拭き清めた後、自室まで運んでくれる。  
 意識が混沌とする中、虚ろな瞳で顔を上げると、秋月は優しく微笑み返してくれる。  
その笑顔を見ただけでも、譲は体中の疲れが抜け、癒されるように感じていた。  
ただ、自分の正体が知れたためか、金色の尻尾を隠す事がなくなったのが、  
唯一の変化だろう。  
 
「まさか、あの人も陽炎の血筋だとはなぁ」  
 
 秋月には、陽炎が見せるような、身体に絡みつくような視線も無ければ、  
圧倒させるような妖気も無く、彼女の持つ清楚さが好ましかった。  
 
そんなある日の事。  
 
「あっ」  
 
 いつものように夕餉の膳を運んでいた秋月が、胸を押さえると、その場で蹲った。  
体を丸め、胸に手のひらを当てながら、苦しみに耐える。  
咄嗟に駆け寄り、痛みを和らげるために背中を摩ろうと手を近づけた譲であったが、  
 
「触れるなっ」  
 
 背後から響く陽炎の声に、譲は岩の様に動けなくなってしまう。  
 
「譲、お前が近寄っては逆効果じゃ、離れよ」  
 
 命ぜられるままにその場から退く譲。しばらく見ていると、秋月の呼吸も収まりを見せ、  
安堵の表情を見せる譲に対し、秋月を見守る陽炎も溜息を漏らした。  
 
「禁断症状が出たようじゃな、精気溢れる男が傍におっては、しかたもないか。  
秋月、今宵はお勤めの用意をせよ、」  
「いっ、いえ、おやかた様、この程度のこと、なんでもありません」  
「嘘を申せ、これは余の命令じゃ、相手は、ふむ、譲でよかろう」  
「へ?」  
 
 わけも分からぬままに己の名を出され、あっけに取られる譲を横目に、  
秋月は一礼を残すと、その場から姿を消した。  
視線を転じて陽炎を見つめる譲に、陽炎も目顔でその場に座るよう命じた。  
 
「アイツはな、私のせいで少々奥手になってしまったのよ」  
 
再び大きなため息を一つ吐いた陽炎は、ゆっくりと話を始めた。  
 
「私の調教が災いしてな、連れ込んだ男の責めは激しいものばかり。  
性交のおり、私がみっちり仕込んだ男をあてがったのだが、それがいかなんだ」  
 
 陽炎によって数々の性技を叩き込まれ、鍛えこまれた男の肉体は、  
経験の無い秋月の体を激しく、猛烈に蹂躙してしまう。  
激しい責めにあった秋月が感じ取ったのは快感ではなく、痛み、苦痛、そして恐怖。  
それ以来、彼女たち一族が最も淫乱となる時期、  
満月の光が差し込む発情期となっても、男を求めることが無くなってしまったのだ。  
 
「じゃがな、お前も知っての通り、我等は男無くては欲求不満となり、心を病んでしまう。  
あいつにも無理やり男をあてがって、交わらせては見たのだが、回復の兆しが見えん。  
私が目をつけ、鍛えこんだどのような男であっても、アイツの心を開かせた者は無い。  
お前なら何とかしてくれるような気がする。わしの頼みじゃ、頼む。なぁ、譲よ」  
 
 常に強く、激しく、冷徹な感情を露にし続けている陽炎の口から発せられた、  
‘頼む’という思いの込もった言葉。  
雪風や時雨の時の様に交わればよいだけと考えていたのが、非常に難しい事態へと急転し、  
困惑を隠しきれない。  
 譲は真剣な眼差しで見つめる陽炎に対して深く頭を下げると、部屋を後にすべく  
陽炎に背後を向けたが、  
 
「なぁ譲、今まで秋月を泣かした男共を、如何にして処分したか、聞きたくは無いかえ」  
 
 強烈なプレッシャーと共に、殺気を含んだ言葉が背中に突き刺さり、  
譲は振り返ることはおろか、言葉を発することもできない。  
 
「その答えはのぅ、ふふっ、気が向いたら、裏山の古井戸を覗いてみるとよいぞ」  
「……」  
 
 男共をどう処分してきたのか、陽炎の言葉から手段を知る事はできなかったが、  
その結果は容易に想像する事ができた。  
 強烈な殺気に譲は足元をふらつかせながら部屋を後にし、陽炎の顔を見ることも無く  
一礼すると、襖をゆっくりとしめた。  
 
「ふふふっ、ちぃと、脅しが効きすぎたかのぅ」  
 
 譲が去った部屋の中では、一人残った陽炎が、  
悪戯を終えた少女のように満足そうな笑みをたたえていた。  
 
 
▽△▽  
 
 
「秋月さん、入りますよ」  
 
秋月の自室の前へ赴き、襖越しに尋ねるが、返答が無い。  
不安を抱きつつも襖を開くと、秋月の姿が目に留まる。  
床に敷き述べられた大き目の布団と、二つの枕。  
秋月はその横に正座し、両手を付けて譲を迎えていた。  
 
「譲様、お待ちしておりました、今宵のお勤め、どうかお願いします」  
 
 秋月が立ち上がると同時に、身に着けていた衣服が舞い落ち、  
純白の素肌が露になった。  
 その姿を見た瞬間に、秋月と交わった他の男たちの心境を知った。  
男の身体を知らない生娘のように真っ白な肌、何かを諦めたかのように落ち込んだ瞳。  
少し小さめだが引き締まった胸と、天を仰ぎ硬くなった乳首。  
一切の無駄を排除したたかのような体のライン。  
男の性を吸い取る魔性の穴も、縦筋がわずかに覗く無毛の丘。  
背後では、妖狐ならではの尻尾が揺らめく。  
どんな男でも、一目見た瞬間に飛び掛り、陵辱の限りを尽くしたくなるような体が、  
目の前に晒されていた。  
 
「そんなにジロジロ見ないでください。恥ずかしいです。」  
 
 顔を赤らめながら俯くと、頭の頂点に生えた三角の耳も、同調するように前へ倒れこむ。  
実にかわいらしい。  
 
「譲さん、早くしてくださいませ、覚悟はできております」  
 
 秋月は、敷き述べられた布団に寝転がると、股を開いて譲を受け入れる体勢を整える。  
今までに遭遇した事の無いシチュエーションに、譲の股間は張り裂けんばかりの興奮を  
呈しており、服の上からでもその興奮が見て取れるほど。  
 譲も促されるように服を脱ぐと、堅く膨張した一物が露になった。  
秋月の柔肌を眼前にして、譲の呼吸は次第に荒くなり、興奮の色は濃くなるばかり。  
それを目にした秋月は、過去の凄惨な行為が頭に浮かび、脅える事しかできなかった。  
 
「いくよ、秋月さん」  
「んっ、クゥゥンッ」  
 
 裸体を露に、男を迎える体勢を取りながらも、脅えた子狐のような鳴き声をもらす秋月。  
己の性欲を持て余す譲は、秋月の身体にゆっくり覆いかぶさると、  
僅かに除く白い筋に一物をあてがい、そのまま挿入するかに見えた。  
今まで秋月を弄んだ男達の如く……だが、  
 
「んっ、んんっ!?」  
 
 口を真一文字に結び、必死に瞳を閉じて、己の性器に押し寄せるだろう痛みに  
備えていた秋月の口を柔らかな感触が包み込み、驚きに思わず瞼を開く。  
譲は、秋月の身体に覆いかぶさると、その唇を優しく吸いはじめたのだ。  
 
「恐れる事は無いよ、力を抜いて、僕を受け入れて」  
 
 堅く引き結んでいた秋月の口も次第に綻び、譲の口付けを受け入れるようになると、  
譲の舌が口内へ侵入し、やんわりと舐る。  
 男からの優しい口付けという初めての感触を受け、驚きで何も出来なかった秋月も、  
譲の舌に自らの舌を重ね合わせ、熱い唾液の交換に興奮を高めていく。  
 
「はふっ、ふぅぅんっ、ひゅずる、ひゃまっ」  
「んぷっ、秋月さん、口付けは気持ちよかったかい?」  
 
 譲が尋ねても、秋月は答える気配は無い、いや、余裕が無いという方が正しいだろう。  
さっきまで緊張で引き締まっていた顔は、譲の口付け一つで綻び、瞳は潤みを増した。  
それを見やった譲が、秋月が言葉を発する前に、再びその口を塞ぐと、  
譲の下にある秋月の身体も、表情と同じように柔らかく変化するのを感じ取った。  
 
「やめて欲しかったら、そう言って、君が嫌がることは、しないから」  
「はいっ、譲さまにお任せします」  
「秋月さん、様付けはよめてよ、さん付けで呼んで欲しいな」  
「譲……さんっ、ふぅんっ」  
 
 譲は、秋月の口を塞ぐよう唇を重ね、舌の交わりが再開される。  
決して無理に責める事は無く、口付けを執拗に繰り返す。  
譲が口を離すと、秋月の舌が譲の口を求めて空を泳ぎ、冷やりとした空気を浴びる。  
寂しそうに喉を鳴らす秋月の瞳は、快感をねだるかのように潤む。  
 
 譲の手が、秋月の胸に触れた。  
手の平で優しく包み込むと、ぴったり収まる程度の大きさであるが、  
それでいて女性としての誇りは失わず、たっぷりとした質感と弾力を湛えている。  
 
「これは、時雨と雪風の間くらいの大きさかな、でも、この揉み応えは二人以上だ」  
「うっ、嘘を言わないでください、私の胸なんて、たいした事無いんですから」  
「そんな事無い、自信を持って良いよ、ほら、その証拠に」  
「ふあっ」  
 
 譲の指が乳首を摘むと、秋月の身体が大きく跳ねた。  
身体を仰け反らせようとするが、上に乗った譲の身体に抑え付けられてしまう。  
 
「はんっ、乳首なんて、責めないで下さいっ」  
「わかった、でも、胸はいいんだよね」  
「ちがっ、はうぅうぅっ」  
 
 胸の谷間に顔を埋めつつ、両の手で秋月の可愛らしい胸を愛撫する譲。  
身体に吹き付けられる譲の熱い鼻息、谷間に沿わせて動かす舌の感触、  
今まで秋月が感じたことの無い、微妙な感触の数々は、秋月の隠れた性欲を暴き出す。  
 
「んんっ、くぅんっ、くぅぅんっ」  
 
 譲の下で時折跳ねる事しか反応を示さなかった秋月の身体。  
その身体が左右にゆっくりと揺れ、両の足を擦るような動きを見せる。  
呼吸の荒さも、口付けを終えて以来変わらずに、荒く細い息を続けていた。  
 
「はうっ、はううっ、ふぅぅっ」  
「どうしたの、両足を擦り付けて、なにか欲しいのかな?」  
「へっ、ちがっ、わたしはっ、ふあああっ」  
 
 秋月のしなやかな脚の間に己の脚を滑り込ませる。  
その意図を察した秋月が妨げようと股に力を込めたが、時既に遅し。  
譲の両脚が秋月の股を裂くように拡げ、つややかな秘所が露となった。  
濡れてこそいないが、しっとりと柔らかな秘所が、期待に胸を膨らませている。  
 
「あっ、譲さんっ、そこはダメッ」  
 
 秋月の視界に飛び込んできたのは、己の胸から離れる譲の片腕。  
それが、己の胸の股に迫る様であった。  
秋月のヘソに着地した腕が周囲を撫でるように一回りすると、さらに下半身へと進む。  
脳裏に浮かぶのは、過去の恐怖と、快感への淡い期待。  
だが、譲の腕が股の間に消えた直後に訪れた感覚は、秋月の想像以上であった。  
 
「ひっ、ヒィィィィッ」  
 
 叫び声と共に、秋月の身体が一段と大きく飛び跳ねる。  
少し触れただけというのに、この反応。触った方の譲も驚き、動きを硬直させる。  
片胸だけで秋月の身体を押さえつけているという事もあったが、  
尻に敷かれた尻尾たちが硬直で大きく伸びたのが、体の跳ねた理由だったようである。  
恐る恐る、再び秋月の秘所に指を添えるが、今度は僅かに跳ねるだけ。  
尻尾のひとつが譲の行為を妨害しようと腕に絡まってくるが、その力も弱弱しい。  
 
 秋月の様子を見つつ、己の指を穴の奥へと導いていく譲であったが、  
指先に異様な感覚を感じ、思わず問いかけた。  
 
「あの、秋月さん」  
「はいっ、ゆずるさんっ、ふぅんっ」  
「その、言いにくいんだけど、入り口近くにある処女膜みたいなものはナニかな?」  
「それはっ、おっしゃるとおりの、処女膜ですっ」  
 
 譲も後に知る事となるのだが、秋月の如く力の強い妖狐は身体の再生能力も高く、  
長期に渡り挿入を避け続けていると、処女膜すら再生してしまうのである。  
今まで調子に乗って攻め立てていた譲も、思わず手を止めて考え込むが、  
先に行動を起こしたのは、秋月であった。  
 
「譲さん、欲しい、ですっ」  
 
か細い声が譲の耳に止まるが、考え込んでいた譲は聞き逃す。  
 
「秋月さん、今、何て?」  
「欲しい、ですぅ」  
 
 今度は聞き逃さない。  
譲は止めていた指の動きを再開し、わずかに愛液の染み出す入り口をゆっくりと弄る。  
 
「欲しいって、何が欲しいの」  
「譲さん、イジワルですうっ」  
 
 秋月は、既に涙目。  
自ら快感を願う己への哀れみか、新たな境地を迎える期待か、  
潤んだ瞳が見つめる先には、自らを弄ぶ譲の顔が、なぜか優しげに写っていた。  
 
「ほら、何がどこに欲しいのか、はっきり言ってごらん」  
「譲さんのっ、譲さんのモノをっ、私の、中にっ……ヒィィィィンッ」  
 
 譲のモノが秋月を貫く。  
薄い膜を突き破り、膣の奥深くまで一気に挿入され、そこで止まる。  
 
「かっ、はっ、ううぅぅ」  
 
 処女膜を貫いた先にあったのは、男を何度も咥えこんだ肉壺と、絡みつく幾多の肉襞。  
奥手で経験が浅いとは思えない、陽炎一族の血を引いた、粘液のからみつく肉壺。  
 
「駄目ですっ、譲さんっ、私の中で、これ以上大きくしないでくださいっ」  
「ゴメン、でも、君が膣をヒクヒク動かすから、萎えようがないんだ」  
「それは、譲さんが気持ちよくするから……んあっ」  
 
 やわやわと適度に竿を締め付ける膣圧は、萎えさせる事を許さず微妙な刺激を続ける。  
苦痛と快感が入り混じった表情を見せる秋月を気遣い、腰を引いて抜こうとする譲だが、  
 
「いっ、痛いっ」  
 
 譲をきっちりと咥えこんだ秋月の口は、それすら許さなかった。  
膣の刺激だけでは射精に至れず、抜こうと腰を引けば秋月が苦しむ。  
進む事も引く事もできず、そのまま考え込む譲であったが、  
 
(もっと気持ちよくさせて、絶頂してくれれば抜けるかも)  
 
 秋月をイかせて脱力させるしかないと判断した譲は、ゆっくりと手を伸ばす。  
最初から触りたかったが、触ったらいけないと必死に我慢していた妖狐の象徴。  
かすかに揺れる黄金の固まり。快感を生み出す最高の性感帯。ふさふさの尻尾である。  
 
「ふっ、ふっぅぅぅぅぅっ」  
「どう、尻尾に触られる感触は、胸なんかと比べ物にならないだろう」  
「は、ふっ、しっぽぉ、すごいぃぃ」  
 
 普段は滅多に見せる事の無い秋月の尻尾。  
どんな動物の毛皮でも出す事のできない最高の肌触りは、譲のお気に入り。  
陽炎の尻尾に幾度と無く包み込まれている譲であったが、この質感だけは飽きが来ない。  
 
「ほら、気持ちいいだろ、イっていいよ、我慢する必要はないんだからね」  
 
 呟きつつ、譲は手指を巧みに動かし、尻尾を責め立てる。  
責めるたびに秋月の身体が跳ね上がり、膣の締め付けが僅かに強くなる。  
 
「はぅ、譲さん、尻尾をイジルのがお上手なんですね」  
「愛撫の仕方は君のお母さんにたっぷり仕込まれたし、それに……」  
「それに?」  
「僕は、尻尾が大好きなのさ」  
 
 譲は、自分の手を櫛のようにして、尻尾を優しく撫で上げる。  
尾の根元から先端に向け、髪を梳かすように触れてゆく、優しい愛撫。  
 秋月の身体は、譲の奏でるやさしいテンポに慣らされ、  
荒げていた息も次第に落ち着きを見せていたのだが、それはあっけなく壊された。  
 
「ヒィィィィィッ」  
   
 尻尾の根元を鷲掴みされ、絶頂の雄叫びを上げる秋月。  
柔らかな心地よい感覚から、脳天へ突き抜ける激しい電流へと変化した快感の波、  
衝撃に秋月の身体は対応し切れず、絶頂を迎えた。  
 譲を咥え込んでいた膣も激しく脈動し、竿を絞る激しい動きに耐えられなかった譲も  
同時に達し、焦らされた仕返しとばかりに、秋月の膣を白濁で汚してゆく。  
 
「あっ、うぅぅ」  
 
 絶頂の衝撃で腰を浮かしていた秋月が、脱力して腰を落とすと、膣も同時に緩んだのか、  
譲のモノが膣から抜け落ちた。  
 譲を咥え込んでいた穴は、そのままの形でぽっかりと穴を空け、奥に噴出された精液が  
漏れ出し、尻尾を白く汚していた。  
 
「秋月さん、大丈夫ですか?」  
「はう、ふぅぅぅ」  
 
 まだまだ、といった感じの譲に対し、秋月は息を荒げ、未だに余韻から帰ってこない。  
譲の作戦通りに結合を解くことができたのはいいが、秋月の身体はこれ以上の行為に  
耐え切れそうも無いように見える。  
 
「これだけイけば、お勤めには十分だよな、この程度なら陽炎様も許してくれるだろう」  
 
 己の下で仰向けに動かない秋月。  
余韻に浸りながら目を瞑っていると、荒い息も静かになり、静かな吐息が聞こえきた。  
優しげな瞳で見守っていた譲は、その額に優しい口付けを残すと、  
眠りを妨げぬようにゆっくり立ち上がる。  
そのまま背を向け、部屋の端に放ってあった着物を拾い上げた譲であったが、  
 
「譲さん、お勤めはまだ、終わっていませんよ」  
 
 振り替えると、四つん這いになった秋月が、尻をこちらに向けている。  
巨大な複数の尻尾は先端を天に向け、扇型に広がっていた。  
尻尾の付け根のさらに下では、さっきまで譲を咥え込んでいた穴が、  
そのままの大きさで穴を開け、譲を待ちわびる。  
 
「私のココ、譲さんの大きさに広がっちゃいました、セキニン、とってくれますよね」  
 
 ふと、天を向いていた尻尾の先端が、譲に矛先を向ける。  
獲物を眼前にした蛇の頭の如く、譲を見据え、狙い定める7本の尻尾。  
さっきの仕返しに譲を弄ぼうと、狙いを定める尻尾。  
 譲はそれすら意に介さず、四つん這いに尻を突き出す秋月の尻に手を添えると、  
一気に挿入した。  
 
「きゃうんっ」  
「くあっ」  
 
 挿入するや、秋月の尻尾が譲の身体を抱え込んだ。  
獲物を捉えるハエトリ草のように俊敏な動きで、7本の尾が譲の身体に絡みつき、  
ざわめく。  
 尾が譲の体面を撫でるたびに、譲と同様、秋月も激しい快感を受け、  
膣を貫く肉棒の感覚と相まって、今まで以上の高みへと昇っていく。  
 
「はうぅ、尻尾同士が擦れて、いいぃ」  
「秋月さん、一人で楽しむなんて酷いな、これはどう?」  
「ふあぁ、もっといいですぅ」  
 
 秋月の尾に身体を拘束されながらも、譲が腰を僅かにスライドさせると、  
歓喜の声が漏れる。  
譲の大きさに開いた穴は窮屈であったが、溢れる愛液が潤滑剤となり、  
腰を動かす余裕を辛うじて残していた。  
 
「譲さんっ、もっともっと、動いて下さい」  
「痛くは、ないかい?」  
「いいえ、今は、気持ちいいだけです」  
 
 腰を僅かに引き、一気に突き上げる。  
同時に秋月の身体が震え、尻尾は更に強く譲を巻き絞めた。  
相手が陽炎であったらば、尻尾は譲の性感帯を犯し尽し、陵辱の限りを尽くすだろうが、  
対人経験の浅い秋月の純情ともいえる尻尾の抱擁に、譲は心を落ち着かせた。  
 
 秋月の尻に手を載せていた譲は、その手を腰へ、肩へとスライドさせ、  
肉棒を更に奥へ突き込もうと力を込めるが、秋月はそれ以上の快感を求めているように思えた。  
 
「秋月さん、ちょっと激しい事をするけど、我慢してね」  
「え……ふはぁ」  
 
 耳の先端を摘み上げられ、秋月の膣が僅かに収縮する。軽くイッたようだ。  
譲は手を休めず、秋月の耳を優しく擦りあげていく。  
 
「はううっ、みみぃ、しっぽぉ、アソコもぉ……」  
 
 敏感な所を同時に責め上げられ、喘ぎながらも更なる快感を求める。  
そんな自分に気が付き、今まで苦痛としか感じていなかった行為で、  
凄まじい快感を貪っていることに驚く。  
 途端に、それを教えてくれた者が愛おしく、愛らしく、  
お返しに、さらなる快感を与えてあげたくなった。  
 
「ふああっ」  
 
 次に喘ぎを漏らしたのは、譲であった。  
身体を巻き絞めていた尻尾の力が緩んだかと思うと、先端が譲の背筋を摩ったのである。  
今は4本の尻尾が譲の首、腰、両足を固定し、残る3本が譲の身体を撫で回した。  
 
「ちょっと、秋月さん、ソコは駄目っ」  
「ふふふ、気持ちいでしょう、知ってるんですよ、譲さんの性感帯」  
 
 陽炎によって開発され尽くした譲の身体は、まさに全身性感帯。  
普段の生活で表に出てくることは無いが、尻尾の先端が性感帯に触れるとスイッチが入り、  
触れるたびに感度が上昇する。  
 
「秋月さん、背中ばっかりそんなにっ、何度もっ」  
「ふふっ、やめてあげませんよ、今までの分、たっぷりお返ししてあげちゃいます」  
 
 尻尾の反撃に譲はなすすべも無く、両手は空を泳ぎ、逃げようにも尻尾に巻きつかれ  
動きようが無い。  
 
「譲さん、腰が止まっていますよ、私の耳も、もっと弄って下さいませ」  
 
 首を巻き絞める尻尾の先端が、譲の頬を優しく撫でる。  
背中の尻尾も先端で背中を掃くような動きを見せ、敏感な神経を容赦なく攻め立てた。  
 
「譲さんが気持ちよくなると、私も嬉しい、二人でもっと、気持ちよくなりましょう」  
 
 二本の尻尾が、空を泳いでいた譲の両手に巻きつき、秋月の頭上へと導く。  
耳を弄れと催促しているのだ。  
今は秋月が自分で腰を振り、尻尾が譲の身体を揺すり、ピストンを繰り返す。  
いつの間にか立場が逆転している事に呆然としながらも、譲は秋月の耳をつかんだ。  
 
「あうっ、みみぃ、お耳ぃぃ、こんなの初めてですぅ」  
 
 舌を出し、涎を垂らしながら快感を貪る秋月。  
まるで、耳を擦るたびに淫乱になっていくようだが、  
譲は己の身体に注がれる快感に手一杯となり、それに気付く余裕は無い。  
 
 尻尾の責め苦に身体を捩らせ、快感で頭が壊されそうになる譲であったが、  
経験の浅い秋月の方が、既に根を上げていた。  
 
「譲さんっ、もうらめぇ、イクっ、また、イッちゃいますうぅ」  
「いいよ、僕も我慢できない、今度は一緒にっ」  
 
 秋月が身体を捻り、体勢を変え、再び二人が向き合う。  
最初は弄ばれるだけだった尻尾も、今では立派に働き、二人の身体を巻き絞めて離さない。  
秋月自身も自らの腕で譲の身体を抱きしめ、必死の思いでしがみ付く。  
身体を密着させ、共に高め合い、互いに堰が切れる瞬間を探りあう。  
そして、二人の視線が交差した瞬間、  
 
『はぁぁぁぁぁんっ』  
 
 激しい痙攣と共に、二人は今宵最後の、最高の絶交を迎えた。  
膣に締め付けられる温もり、放出された精の熱さ、二人が絡み合い、蕩け合う。  
脱力した二人は尻尾の布団に包まれたまま倒れこみ、必死に息を落ち着かせる。  
再び見つめ合った時には、清清しさだけが残り、秋月の身体と心に刻まれていた古傷は、  
欠片も残らずに消え去っていた。  
 
「今まで男たちから受けた数々の苦しみも、今日、あなたの愛を知るためにあったのなら、  
決して無駄では無かったのですねっ」  
「秋月さん」  
「譲さぁん」  
 
 激しい交わりに疲労を覚えたのか、秋月はそのまま深い眠りに落ちたが、  
尻尾だけは、譲を放すまいと身体を包み込み、優しく脈動を繰り返す。  
秋月の寝顔を覗きながら、頭を優しく撫でていた譲も、その心地よさに、  
いつの間にか眠りに付いていた。  
 
▽△▽  
 
「譲や、ようやってくれた、ワシが見込んだだけはある」  
「自分もこんな事になるとは予想外で、しかし、あれから離れてくれないんですが」  
 
 明くる日、陽炎へと報告いで向いた譲であったが、その隣には秋月が寄り添っている。  
秋月は、譲の身体を自らの尻尾で優しく包み込みながら、顔を身体に擦り付け、  
満足そうな笑みを浮かべていた。  
 
「譲さんっ、譲さーんっ」  
「秋月、惚気るのは構わんが、朝食の用意はできているのだろうな?」  
「おやかた様っ、申し訳ありません、今すぐに支度を……待っててくださいね、譲さんっ」  
 
 言うや、秋月は一瞬で姿を消した。例の瞬間移動だろう。  
色気に迷っても、母であり、主人でもある陽炎の言葉が絶対であるのは、変わらぬらしい。  
一方の譲といえば、度重なる陽炎との交合で慣れているせいか、疲労の色は濃くない。  
 
(ふふっ、譲め、満足そうな顔をしおって)  
 
 得意の透視で一晩中覗いていた陽炎は、昨夜の行為を思い出しながら、笑いをかみ殺す。  
当の譲も、一方的に責める陽炎の時とは違う、満ち足りた余韻に顔を綻ばせていたが、  
陽炎の刺す様な視線に気が付き、背を丸めて顔を俯かせた。  
 
「譲や、そんなに脅えることは無い、ワシは、お主に感謝しておるのだ」  
「感謝……ですか?」  
「うむっ、あの男嫌いな秋月をあそこまで手懐けるお主の技、ワシが見込んだだけはある」  
 
 そう言うと、陽炎の背後に鎮座していた尻尾が怪しく蠢いた。  
譲の視界には、自分の身体を犯そうと、先端を向ける9本の尻尾だけが写り、  
これから自分の身に降りかかる事態に覚悟を決めたのだが、  
 
「おやかた様、朝食をお持ちしました」  
「むっ、そうか、いいところだったのに、残念であったな」  
「譲様のお食事は、お部屋のほうへお持ちしますので、そちらでお持ちくださいませ」  
 
そう言って頭を下げつつ、  
 
(譲さまっ、あとで直接食べさせて差し上げますから、お部屋で待っていてくださいね)  
「へっ?」  
 
 そっと耳打ちを残すと、再びその場から姿を消す。  
一瞬の出来事であったが、無論のこと、陽炎が見逃すはずはなく、  
 
「まったく、貴様というやつは、ワシが見込んだ以上の事をしてくれたようじゃな」  
「ははっ、申し訳ないばかりで」  
「ほれ、何を呆けておる、さっさと部屋に戻らぬか、秋月が首を長くして待っておるぞ」  
 
 譲は、足早にその場を立ち去ったのだが、その後姿を見つめ、  
 
「そうじゃ、せっかくなら、譲を秋月の婿に迎えてもいいのぅ」  
 
 いつもの怪しげな微笑ではなく、慈愛に満ちた優しげな笑みを見せる陽炎。  
それは、滅多に見せる事の無い、陽炎の“母”としての顔だったのかもしれない。  
一方で、  
 
「しかし、余のお気に入りを取られては、欲求不満が……また男漁りをせなばなぁ」  
 
 舌なめずりをする陽炎の顔が、再び元の淫乱な女狐へと戻る。  
陽炎の新たな犠牲者、それは、あなたかもしれない。  
【終】  
 

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