男の名は平賀譲、極一般的なサラリーマンである。  
高校を卒業後は大学に行きたくないというだけの理由で地元の中小企業に就職した。  
勉強が嫌いだという理由もあるが、早く親元から自立したいというのが一番の理由だった。  
それから2年間、女っ気のない今の職場で事務職のような仕事をしている。  
住処も親元を離れ、会社の寮で自炊すると言う毎日を送っていた。  
趣味は登山。  
富士山のようなメジャーな山も好きなのだが、人混みが嫌いな俺は余り行かず、  
人の行かなそうな時期を狙ってマイナーな山に挑戦するのが俺の趣味となっており、  
その日も、週のど真ん中に有休をもらって登山を楽しみに来ていた。  
「お、社がある」  
バス停から歩いて20分、登山口から少し入ったところに小さな社があった。  
山というのは山岳信仰の舞台になる場合が数多く、登山道の入り口には社の類が建っていることが多い。  
この手の建物があるときはいつもお参りしていくのが彼の決まりだ。  
後々考えてみれば、彼の些細な信仰心が悲劇の発端になるのだが・・・  
「さて、手でも合わせていきますか」  
社の前で手をあわせ、目を瞑って道中の安全を祈願する。  
辺りは静まり返り、木々が風で揺れる音だけが耳にやさしく入ってくる・・・はずであった。  
「アッ・・・ンッ・・・」  
突然、木々の音に混じって聞こえるはずのない音が耳に届く。  
目の前を見ると、社の扉がわずかに開き、声はそこから聞こえてくるようであった。  
「んっ、気持ちいいよぉ・・・ふぅん」  
最初は地元のカップルが昼間から情事にふけっているのかと思ったが、聞こえてくるのは女の声だけ。  
“山の社で昼真っから自慰にふける女”というのは非常に興味があったが、  
面倒な事に関わるのは良しとしない性格であるため、  
(よし、聞かなかった事にしよう)  
そう心に決め、中を覗くことなく登山を続ける事にしたのである。  
だが、山道へと消えて行く彼の背中を見つめる者がいた事に、気が付く事はなかった・・・  
 
それから数時間は素晴らしかった。  
辺りに人の姿はなく登っているのは自分だけ、降り注ぐ太陽の光が山の木々にさえぎられ、  
木漏れ日となって俺に優しく降り注ぐ。  
道はなだらかで息を荒げる事もなく、心を落ち着けるにはぴったりの山であった。  
大自然の偉大さに癒されながら、俺は日々の社会での疲れを癒していた。  
‘ガサガサッ’  
木々の擦れる音に目をやると、登山道の横の茂みが動いた気がした。  
山に登って動物と遭遇する事は良くある事だ。  
まぁ、熊との遭遇は遠慮したいところであるが、小動物との出会いはいつも新鮮な刺激を与えてくれる。  
今回はどんな出会いが待っているのかと茂みを見つめていると、そこから出てきたのは一匹の小さな狐だった。  
金色の美しい毛並みと、先端に白みがかったふかふかのしっぽ。  
一目で‘触りたい’と思わせる可愛らしい姿がそこにはあった。  
その誘惑に突き動かされたのか、こんな所にもまだまだ狐が生息しているんだなぁ、なんてことを思いつつゆっくりと手を伸ばす。  
子狐は身構えつつも逃げることなく彼の手を見つめ、次の瞬間。  
‘ガブッ’  
「・・・・・」  
伸ばした腕に向かって一気に手に噛み付いてきた。  
登山用の手袋をつけているために痛みはさして感じないが、子狐は親の敵のように必死に噛み続ける。  
その姿もまたかわいらしく、猫を持ち上げるように首根っこを掴むとそのまま抱き上げ、  
他の場所を噛み付かれないように注意しながら頭や体を撫でまわすと、  
子狐のほうも落ち着いたようで、尻尾を揺らしながら彼の行為に身を任せる。  
「ん?これは・・・」  
揺れる尻尾を見ていたとき、腕の中の子狐に2本の尻尾が生えている事に気が付いた。  
不思議に思ってその尻尾に触れた瞬間、子狐は体をくねらせて暴れ腕の中から逃走する。  
‘グルルルルルルル’  
どうやら、さっき以上に警戒している。尻尾に触れられるのは嫌いなようだ。  
尻尾が2本、単なる異形か、あるいは妖怪の類か考えをめぐらす。  
興味は尽きないが、本能的に関わらない方が良いという気がしてきた。  
しかし、向こうは敵意むき出しでこちらを睨みつけ、今にも飛び掛ってくる勢いである。  
「しょうがないなぁ・・・」  
そういって背中のザックからオヤツに食べようと思っていた大福を取り出す。  
動物相手であれば食べ物でどうにかなると考えたからだ。  
狐が大福を食べるという話は聞いた事がないが、あいにく他に何も持っていなかった。  
「俺が悪かったよ、あやまる、今回の事はコレで無かった事にしてくれ、なっ」  
そう言って目の前の小狐に語りかけると、大福を目の前にして一瞬だけ齧り付こうとする動作を見せたが、  
思い直したのかすぐに警戒モードに切り替わる。  
(あと一息だな・・・)  
「ふふふ、コイツはただの大福じゃぁないぞ、中に苺の入った苺大福だ、うまいぞぉー」  
子狐のターゲットは、すぐに彼から大福の方に移った  
手に持った大福を右に動かすと子狐の視線が右へ、左に動かすと左へと動くのが分かる  
それを繰り返していると、今度は視線だけでなく首ごと大福の方へと動く  
最後は手にした大福をゆっくりと子狐に近づけていき・・・  
‘シュパッ’  
次の瞬間、手に持っていたはずの大福が消失し、目の前にいた狐の姿も見えなくなっていた。  
周囲を見回すと、2本の尻尾をゆらして茂みの向こうに走っていく狐の姿が一瞬だけ見え、  
食い物に釣られるということは、ただの獣ということだろうと納得した。  
「へぇー、狐って油揚げ以外も食うんだなぁ」  
本日の大発見を振り返りながら、登山を続けた。そして・・・  
 
「よっしゃぁー、頂上だぁー」  
空には降り注ぐ太陽、眼下には光輝く緑、そして後ろを振り返ると、眼前には頬を膨らまして怒るかわいらしい巫女服の少女。  
「・・・ん?」  
自然な流れで一瞬流そうとしたが、いくら標高の低い山だって巫女服の女の子が山頂にいるのはおかしいと考える。  
当然であろう。  
登山道の入り口に社はあったが、人の手が入っているような気配は無く、  
そんな所に巫女自体がいるはずはないし、いたとしても山頂にまで来るわけは無い。  
なんかのイベント?宗教?様々な説が頭をよぎるが、答えは導き出せない。  
しかも、その姿を良く見ると、頭の上には三角形のかわいらしい獣耳と、  
うしろでは大きな尻尾がゆらゆら揺れているのが見える。  
その状況から自分なりの答えを導き出し、勇気を出して尋ねてみた。  
「いやぁ、どこの団体の方?どこ主催のイベントですかね?」  
「ひとつ言っておくが、別に山頂でコスプレイベントとかではないぞ」  
残念ながら彼の考えは間違っていたようであっさりと否定されてしまった。  
「さっきは大福にのせられたが・・・今度はそうはいかんぞ」  
大福・・・はて、大福といえばさっきの子狐が頭に思い浮かぶ  
「大福って、もしかしてさっきの子狐の飼い主さんか誰か・・・」  
「違うっ、私は‘その’狐本人だ!」  
譲は、その発言を聞いた直後、自分の思考が一瞬停止するのを感じた。  
(む、何か?今の発言から推測すると、さっきの子狐=目の前の娘と言いたい訳か)  
妖怪の類は信じられんが、大福の話を知っているとなると嘘とは言い切れない。  
だが、あいにくそんな人外の獣に追いかけられる理由が思い当たらず、  
唯一あるとすれば、彼女(?)の身体、特に尻尾を触った事だろうか。  
「私はこの山を治める山神だっ、おい人間、私の・・・を覗き見てただですむと想うなよ」  
山神という言葉。てっきり妖怪かと思っていたが、まさか山神とは予想外である。  
だが、覗き見たというのが理解できない。この子の何を覗き見たのであろうかを考える。  
何か見たことを言いたいようだが、肝心な所だけ声のトーンが下がって聞き取れなかった。  
「俺がいったい何を見たって?」  
「だから私の・・・・だ!」  
やはり、肝心なところだけが聞き取れない。  
「だから何、はっきりいってもらわないと・・・」  
「だから・・・その・・・」  
さっきの勢いはどこへやら、一瞬顔を背けると、覚悟を決めたのか言い放った  
「私が自慰にふけっている所だ!」  
頬どころか、耳の先まで真っ赤に染めて叫ぶ狐娘  
(あ〜かわいいなぁ)  
顔の下のほうから耳の先まで順に赤くなっていくのが良くわかったが、  
あいにく彼には狐少女の自慰シーンなんておいしい場面を見た記憶はない。  
しかし、この山に入ってからの行動を思い起こすと、ひとつだけ適合する記憶があった。  
登山口の社の中で、誰かがエッチぃ声を上げていた事だ。  
「あぁ、登山口の社でエロい声を上げていたのは君か?」  
「そうだ人間、ようやく思い出したか!」  
真っ赤な顔のままビシッと人差し指を譲に突き出してくるが、彼は若干の疑問を感じた。  
「まて、俺は声を聞いただけで中は見ていないぞ」  
「嘘をつけ、だって姉様が中を覗き見たって言ったもん!」  
(姉さまって誰だ、コイツみたいのがまだ他にもいるってことか?)  
「いや、その姉さまがどういう人(獣?)なのか知らんが、俺は本当に見てないぞ」  
「姉様はやさしい人(獣)です、そりゃぁ時々悪戯したり嘘もついたりもするけど・・・はっ」  
何か気配を察したかのように狐っ子が後ろを振り向くと、茂みからガサガサ音を立てて何かが逃げていくのが分かった。  
狐っ子は物音がした茂みにダッシュで近づくと、ヒクヒクと鼻を動かして匂いを嗅ぐようなしぐさをする。  
それがまた可愛らしい。  
だが、何かを確信したかのような表情をすると、そのままガックリ肩を落としてしまう。  
「姉様・・・また、からかったのですか・・・」  
おそらく、姉様とやらに譲が覗きをしたと偽の情報を吹き込まれたのだろう。  
つまり、姉とやらにからかわれたわけだ。  
 
事態を把握して落胆する狐っ子、しかし、すぐさま振り返って一言。  
「しかし、私の痴態を聞いていたのは事実、貴様には・・・あれ?」  
頭にクエスチョンマークを浮かべる狐っ子の視線の先には、誰の姿もなかった。  
なぜなら、譲は狐っ子が茂みで落胆しているのをチャンスと見て、逃げ出していたのだ。  
「にっ逃がさんぞぉー!」  
山に、子狐の叫びが木霊した。  
 
 
 
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」  
狐っ子がその場を離れた隙に下山道へと逃げ込み、ダッシュでそのまま下山。  
狐耳のかわいらしい少女とのコミュニケーションは非常に魅力的では会ったが、  
人外の獣やら山神やらに付き合っていたら色々とまずい気がしたのが逃げた理由だ。  
自然や景色を楽しむ間もなく走り抜け、なんとか麓の茶屋まで到着し、  
ここまでくればもう大丈夫だろうと思い、屋外のベンチに腰をかける。  
「はぁ、今日は色々と大変だったなぁ」  
「えぇ、そうですわね」  
今日の出会いを思い返しながら感慨にふけっていると、隣から聞き覚えのある声がした。  
譲にとっては、できる事なら二度と聞きたくない声。  
額から急に汗がにじみ出て、ツーッと顔をつたって地面に落ちた。  
視線を先行させながら恐る恐る首を横に向けると、山頂で出会った例の狐っ子がベンチの上で正座していた。  
「さて、これからあなたをどう料理しようかしら」  
狐っ子がそう呟くと、真っ白な巫女服から伸びる腕が変化を始める。  
少女の白くて細い腕がビキビキと音を立てて太くなり、獣のソレへと姿を変える。  
爪が伸び、金色の毛をまとい、一突きで熊をも倒せそうな腕が姿を現した。  
・・・っていうかすでに狐の領域を超えている。  
「この爪で八つ裂きにされたい?それとも、絞め殺してあげましょうか?」  
変化した自分の腕を見せ付けると、伸びた爪をペロリと舌でなぞりながら言い放つ。  
当人は殺されるような事をした覚えはないし、死にたくはないが、人外の獣に人間の理が通じるとも思えなかった。  
「と、とりあえず、そこの茶屋で飯でも食いながらお話なんてどうです?」  
この場を乗り切ろうと無い頭を使って考え、搾り出したセリフがこれであった。  
なんとか穏便な話をしようと持ちかけたのであるが、狐っ子の逆鱗に触れてしまったようで、  
「また食べ物で誘惑しようなんて・・・同じ手に引っかかるほど愚かではないぞっ」  
瞳を真っ赤に燃やし、鋭い爪を喉元につきつける。  
その瞳は青年を睨み殺そうとしているようだが、大福の事を思い出したのか若干恥ずかしそうな表情をしているようにも見える。  
「わかったよ・・・俺の命もここまでのようだ、そこの茶屋のきつねうどんは美味いって評判だったんだがなぁ」  
‘ピクッ’  
彼は見た。  
諦め半分でボヤいやセリフに、彼女の狐耳が反応する所を。  
これはチャンスと直感した彼はさらに続ける。  
「なんたって自家製の油揚げに、この山から湧き出た水で茹でた麺は最高だって聞いたぞ」  
‘ピクピクッ’  
「手打ちの麺のコシは素晴らしく、汁を吸い込んだ油揚げをすすったときの美味さといったら・・・」  
やはり、表情と喉元に付けられた爪は動かないが頭の上の耳だけは正直に反応している。  
「あぁ、山神様にもご一緒願って最後の晩餐にしようかとおもったのになぁ」  
わざとらしいセリフだが、これが彼の今できる最後の手だった。  
(さぁ、どうでる狐娘)  
反応を待っていると、爪は相変らず突きつけられたままだが、ブルブルと振動を始めた。  
鬼の形相で睨みつけていた瞳は急に潤み始め、何かをブツブツと呟いている。  
さらに、口の端からヨダレが垂れてるのが見て取れた。  
そして喉元に突きつけた爪を放し、プイッと背を向けると、  
「ふんっ、そっ、そうだな、はっ話は食事の後でもいいぞ」  
背を向けているのでどんな表情をしているのか読み取れないが、ジュルリとヨダレをすする音が聞こえた。  
(ふっ、勝った・・・)  
譲は、心の中で大きくガッツポーズをとった。  
 
「おばちゃ〜ん、きつねうどん二つねぇ〜」  
うどんが出てくるまでの間、ハシを両手に持ってうどんを待つ姿を見るとただの少女にしか見えない。  
そして、出てきたきつねうどんを瞳を潤ませながら見つめる狐娘と、半ばあきれた表情でそれを見る譲。  
だが、そんな彼の生暖かい視線に気が付いたようで。  
「何を見ているっ!こっ、これはお前がどうしてもと言うから付き合っているだけで・・・」  
などと言ってくるが、内心喜んでいるのが痛いほど伝わってくる。  
「いただきまぁーす」  
美味しそうにうどんをすすり油揚げにかじりつく様は、至福のひと時といった感じだ。  
「ハフハフ、うん、おいしいっ」  
「ふむ、狐の好物が油揚げっていうのは本当らしいな、そんなに好きなら俺のやつも・・・」  
「本当!ありがと・・・ふんっ、しょうがない。もらってやろう」  
‘シュバッ’  
次の瞬間、彼のきつねうどんはただのすうどんに変化していた。  
表情や感情の変化も早いが、行動も素早い。  
そして、5分後にはどんぶりが空になり満足そうな狐娘を見て次なる行動を起こした。  
「さて、それじゃぁおれは先に会計を済ませてくるから、ゆっくりしてってよ」  
言葉通りに会計を済ますと、卓の前で腹をさする姿を確認して茶屋を出る。  
(ここのおばちゃんは巫女服の狐っ子がいても疑問には感じないのだろうか・・・)  
そんな事を考えつつ、そのまま家路に付こうとしたのだが、  
「まてぃ」  
その声と同時に、腰の辺りに先端の鋭そうな物が突きつけられる。多分彼女の爪だろう。  
残念ながら『食事に誘って満足している間に逃げる作戦』は通じなかったようである。  
「今度逃げようとしたら・・・容赦なく殺すぞ」  
と脅しをかけられた上で、登山道の入り口近くにある社に連れ込まれた。  
譲は子狐に生殺与奪権を握られていることを認識せざるを得なかった。  
 
「粗茶ですが」  
「あぁ、どうも」  
小さな社の中、正座して対峙する男(譲)と女(狐)  
なぜか足を動かせないのは狐っ子が何かしたせいで、足が痺れたせいではないだろう。  
向こうは茶を飲んで和みつつも、その場にはなんともいえない緊張感が漂っている。  
「互いに自己紹介がまだだったな、私はここの山神を務めている。雪風と呼べ」  
「自分はごく普通の会社員で、名は譲といいます」  
「ゆずる、ゆずる・・・そうか、そういう名か・・・」  
男の名をブツブツとつぶやいていたかと思うと、急に予想外の質問をしてきた。  
「お前、私を見てどう思った?」  
唐突な質問に意表を疲れたが、この質問には何か裏があるのだろうか。  
「どうって・・・かわいいと思ったけど?」  
と、正直に答えてみると、  
「そっ、そんなことを聞いているのではないぞっ」  
再び赤面する雪風、それでいて耳と尻尾がうれしそうに踊っているのだからたまらない。  
なんだかんだいってもうれしいのだろう。ついつい譲の顔もほころんでしまう。  
だが、急にうつむき加減になり、神妙な顔つきになると、  
「これから貴様を抱く」  
「ブハァッ」  
口にしていたお茶を吹きこぼしてしまった、何言い出すんだコイツは。  
「我が一族は、男と情を交わすとその力が増すのだ。だから、これから貴様を犯す」  
譲としても、(こんなかわいらしい狐っ子とヤれるなら喜ばしい限り)思った。  
「姉さまは、元はここの山神なのだが、今は半人前の私が代役をしておる」  
そう、その姿は出していないが、彼がこの状態になる原因を作った憎きヤツだ。  
「山に独りで入った若い男を食ったことで、若くして力をつけたのだが、  
そのクセがやめられなくて今は停職中、私が代務で派遣されたのだ」  
怪しい、だが、逃げられる状況でない以上、断る事は出来ない。  
「まぁ、お前は断れんぞ、なにせ、その茶には姉様特性の痺れ薬が入っているからな」  
‘ガタンッ’  
それを聞いたとたんに全身が動かなくなり、手にしていた湯飲み茶碗を落としてしまう。  
「人間は我々を見ると脅えるだろうから、一気に押し倒せと姉様から教わったのだが」  
雪風は自分の着ている袴に手をかける。  
「お前は特別なようだ、姉様がくれた痺れ薬が役に立ったぞ」  
(おい、それって確実に姉の陰謀じゃないか?)  
譲は心の中で必死に叫んだ。  
(頼む、気が付いてくれ、自分が今も姉に乗せられているということに・・・)  
だが、それを指摘しようにも口を開く事ができず、気が付けば雪風が生まれたままの姿で目の前にいた。  
しなやかな体のラインだが、やはり気になる頭の上の狐耳とゆらゆらゆれる2本の尻尾。  
そして、若干小さめの胸がちょうど目の前にあった。  
「さて、お前の方も準備せねばな」  
そういうと、雪風は動けずに正座したままの彼を押し倒し、まず、ズボンを脱がしにかかった。  
不器用な手つきでチャックをはずし、パンツとズボンを一気にひん剥く。  
「ふふふっそう怯えるな、ちゃんとこれから気持ちよく・・・きゃぁ」  
余裕の笑みで俺の下着を脱がしに掛かったとき、すっとんきょうな声が聞こえた。  
なんとか首を動かしてみると、雪風の顔が自分のイチモツと接触しているのが見えた。  
勢い良くパンツをひん剥いた結果、股間の真上にあった雪風の額にいきり立ったイチモツが直撃したのである。  
 
「こっ、これがオトコのものなのか・・・ボソッ(はじめて見たぞ)・・・」  
「えっ?はじめて?」  
一瞬、自分の耳を疑う言葉が聞こえ、思わず聞き返す。  
「ばっ馬鹿者、私は百戦錬磨の山神だぞっ!」  
「代務だろ?」  
「うるさいっ!・・・いいだろう、年上の余裕を見せてやる」  
さっき飲んだ茶のせいもあってか、イチモツは天を仰ぎ、すでにやる気全開になっている。  
いきり立った愚息を目の前に驚きの表情を見せるが、まじまじと眺められるとさすがに恥ずかしい。  
雪風はゴクリとつばを飲み込むと、自分の震える手を俺の愚息に近づけてくる。  
‘つんっつんっ’  
「うぅ、思っていたより大きいなぁ、はじめてはもう少し小さい男の方が良かったなぁ」  
つんつんと突っつきながらさらにじっくりと眺めると、今度は竿を握りこんできた  
‘にぎにぎ’  
「この姿の私に立たせるなんて・・・ふふっこのロリコンめっ」  
別に彼のせいではないのだが、心にグサリと何かが刺さった気がした。  
「と、とりあえず・・・舐めればいいんだったかな?」  
チロチロと舌先で亀頭を舐める、さらに、その動きをカリから裏筋まで移動させ、満遍なく唾液を塗りつける。  
「はむっ、ピチュッ、ンッ」  
そして、チロチロと舌先だけで舐めていた動きが段々激しくなり、舌の全体を使ってペニスを包むように変化する。  
「はぁ、はぁ・・・」  
しばらくして口を離すと、自分の舌を口の中に戻して動かし、ペニスの味を感じている。  
「ううぅ、変な味だぞ・・・だが、クセになりそうだ」  
ニコッとかわいらしい笑顔を向けてそう告げられると、譲の心も熱く燃え上がってくる。  
そして、今の一連の流れから、彼女が初心者である事を確認した。  
無論、口には出さないが。  
そうこうしているうちに、今度は小さな口をいっぱいに開き、ペニスを口に含むが、  
わずかな部分しか口に含む事ができない。  
だが、怪しい薬を飲まされた彼にはそれだけでも十分すぎる刺激である。  
カリ首を甘噛みしてペニスを固定し、舌を激しく動かして尿道口を攻め立てる。  
そこから染み出るわずかな体液を全て舐め取られ、はやくも限界が訪れていた。  
そして・・・  
‘ドクッ’  
目の前の幼い狐っ子の口内に向かって盛大に射精してしまった。  
「んっ、んぐぅ・・っ」  
突然の爆発に、男のモノを口に含みながら目を丸くして驚きの表情を見せる。  
そして、喉をコクコクと鳴らして精液をゆっくりと飲み込んでいくが、  
飲みきれなかった分が口の中に残り、端からこぼれている。  
舌を転がしながら、味わうようにゆっくりゆっくりと残った精を飲み込む。  
‘クチッ、ンッ、ンクッ・・・ンクッ’  
あの小さな口の中に自分の精が入り、飲み込まれていると思うと、興奮が再燃する。  
「ばっ馬鹿者!出すなら出すとはっきり言え!」  
「いやぁ、百戦錬磨なら言わずに分かってくれるのかと」  
「!!」  
譲のセリフに対して返す言葉が見つからないようで、  
「ふむ、良い味だったぞ、次はいよいよ・・・・」  
若干誤魔化しながら、今度は69の体勢でペニスをしごき始める、挿入する準備のつもりだろう。  
だが、譲は自分の両腕が動くことに気が付いた。  
何とか抵抗を試みるために手を伸ばし、目の前でゆらゆら揺れるものに触れ、  
出せるだけの力をこめてその目の前のものを握りこんだ  
「ひやぁぁぁんっ」  
突然、雪風が媚声をあげた。  
彼が力の限り握りこんだもの、そう、雪風の尻尾である。  
「ふんっ、はぁん、くっ、さっ、さわるなぁぁ・・・」  
どうやらそこは雪風の性感帯のようで、彼女の意見は無視して愛撫を続ける。  
強く、柔らかく、強弱をつけながら優しく触れたそこは、フサフサの毛がとても気持ちよく、  
しばらくすると雪風のアソコからジュクジュクと愛液が染み出てくるのが見えた。  
なぜかそれが面白く、尻尾にマッサージを続けていた・・・が、  
 
 
「やめろといっとろうがぁ!」  
‘ゴスッ’  
鈍い音と共に顔面に思いっきり膝蹴りをかまされた。  
「ふぅー・・・ふぅー・・・」  
尻尾による快感の余韻に浸る雪風。  
「まったく、油断も隙もあったものではない、貴様、もう2度と・・・あれ?」  
不思議に思って自分の膝下を見ると、鼻血を出して意識を混沌とさせる譲。  
(あれ?頭の上で星がいくつも回っている〜)  
彼のペニスもいっきに萎え、その光景にさすがの雪風も慌てる。  
「あっ、せっかく勃たせたのにぃ・・・頑張ったのにぃ・・・」  
どうやら、心配しているのは譲の意識ではなく、ペニスの方らしい。  
「ひっく、えっぐ」  
自分の失態に、思わず涙を流し始める雪風。  
譲のほうはというと、雪風の一撃によって未だに意識が朦朧としていたのだが、何かが風を切る音を聞いた次の瞬間・・・  
‘プスッ’  
(なんだ?何か針のようなものが俺の首筋に刺さった気がする)  
そして次の瞬間、萎えていた俺のモノが再び天を突くように立ち上がり、頭も体も熱がこもった様になって、体全体が暑く煮えたぎりはじめた。  
「あっ、なんか知らないけど勃ったぁ〜」  
その様子を見て、喜びの声を上げる雪風。  
明らかに外部からの介入であり、その場に第三者がいる明確な証拠であった。  
それが何処の誰かというと、恐らくは例の姉なのだろうが・・・  
喜ぶ雪風は針のことにも気が付かず、そんなこと考えもつかないだろう。  
「よし、それじゃあ今のうちに・・・」  
この期を逃すまいと腰を上げ、ペニスの先端と秘所の入り口を密着させる。  
そして、腰を徐々に落とすと、ペニスに加わる力も強まっていき・・・  
‘ツプッ’  
「あっ・・・いっ痛いよぉー」  
挿入の直後、何かの痛みによって体を硬直させる。  
もしや、山神の類にも処女膜というものが存在するのであろうか。  
目を見開いて体を硬直させるところを見ると、体の構造は人と同じのように思える。  
愛液が染み出ていたので痛みも和らいでいるはずだが、その痛みは男にはわからない。  
「ンクッ、ウグゥーー」  
しかし、自分の膣に迎えたモノを抜くようなことせず、ひたすらに腰を動かし続ける。  
わずかに見えるペニスの根元には、処女幕を破った証拠である血の筋を見て取れた。  
「ンックッ」  
痛みに耐えながら、腰を振る光景は、なんだか見ていられないほどだが、痛みにうめいていたのは最初のうちだけ、変化はすぐに現れる。  
「ハァ、アァ、」  
気が付くと雪風から発せられる声が痛みによるものではなくなっていた。  
熱い吐息、うつろな目、明らかに快楽を感じ取っている。  
「あっ、なにこれ?体の中から何かが昇ってくる・・・怖いよぉ」  
おそらく、今まで感じたことの無い快楽に不安を感じているのだろう  
「気持ち良い、あぁ、イイよぉー・・・」  
直にそれに慣れ、好んで快楽をむさぼるように変化していく。  
最初はわずかに動かすので限界だった腰の動きが大きくなり、グチュグチュと水音を立てながらピストンを続ける。  
コレも獣の血の成せる技なのだろうか?  
「見て、きっ、君のも奥まで呑み込めるくらい大人になったんだよ」  
彼女が結合部をじっくりと見せ付けると、彼のモノが奥深くまで導かれているのが見えた。  
譲はもう我慢の限界であったが、彼女はモノを離す気は無いようだ。  
そして、彼女もその気持ちを敏感に感じ取る。  
「あっ、出すの?中に、中に頂戴!」  
「くっ」  
‘ビュクッ ビュクッ’  
中に射精した瞬間、彼女の体がわずかに光り輝いた気がした。  
そして、ビクッビクッと体を痙攣させた直後  
「ふみゅ〜ん・・・」  
初めての行為に疲れたのか、譲の胸に倒れこんでそのまま眠ってしまった。  
「できれば、俺のモノを抜いてから眠って欲しいんだが・・・」  
腕はどうにか動かすことができるが、あいにく狐っ子一人を持ち上げる力も出ない。  
「スー、スー、スー」  
俺の体の上で安らかに眠る子狐の耳をなでつつ、彼もそのまま眠りに付いてしまった。  
 
再び目が覚めると、全裸で布団の上に寝かされていた。  
何かが体の上に載っている感触に掛け布団をめくると、雪風が胸に抱きついたまま眠っている。  
(とりあえず、俺のペニスは解放されているようだな・・・)  
その安らかな寝顔を眺めつつ、ふにふにと耳を触っていると、ようやく向こうも目を覚ましたようだ。  
「おはよう」  
「あっ・・・おはよう」  
目覚めの挨拶をすると、雪風も気恥ずかしそうに目をそむけながら挨拶を返してくれた。  
どうやら、敵対心は消えているようである。  
しかし、自分の体に当たる硬い感触に気が付くと、顔をニヤつかせた。  
「む、朝からこんなに立たせるとは、貴様はやはり変態だな」  
何かというと、朝立ちしたイチモツが雪風の体に当たっていたわけだ。  
それはオトコの生理現象だから仕方がないのだが・・・  
‘はむっ’  
言い訳をしようと考えていると、雪風が股間のモノにしゃぶりついてきた。  
「おいおい、昨日の今日でもう我慢できないのか?」  
からかうつもりで言ったが、気にすることなくおしゃぶりを続ける  
「ふぉうふゅふほはへはほうはほは?(そういうお前はどうなのだ?)」  
小さな口でペニスの先っちょをチロチロ舐められる快感に彼は・・・  
・・・朝から一発抜かれてしましました。  
 
 
 
バシャ−ン  
「ひぃ〜つめてぇ〜」  
社の横にある井戸水で行き風といっしょに体を洗う。機能の行為のために汗と愛液で体がべとべとだ。  
ちなみに、雪風は狐の姿である。  
ぱっと見が○学生である雪風と一緒に全裸でいるところを見られたら警察沙汰だろうし・・・  
「コラコラ、あばれるんじゃない!」  
暴れる雪風(獣型)を押さえつけ、手持ちのタオルで濡れた体をしっかりと拭いてやる。  
服を着替えた後は、雪風に出してもらったお茶を飲みつつ、いろいろと考えをめぐらし、  
今から帰れば明日の出勤には間に合う事が分かり安堵する。  
「さて、お前のこれからの処遇だが・・・」  
突然、人型に変化した雪風が真面目な表情でかたり始める。  
そこでようやく思い出した。彼は今、雪風に生殺与奪権を握られていることに・・・  
気が付いたら、なんか鋭いツメを出してペロリと舐めたりしてるし。  
「我ら一族の真の姿を見たものが生かして返すのは掟に反する」  
思わず、ゴクリとつばを飲み込む。  
 
「だっ、だが、こっ、これからも来てくれると約束するなら逃がしてやってもいいぞ」  
「えっ?」  
予想外の展開に正直ビックリだが、どうやら命を奪う気は無いらしい。  
しかしなぜ?と思う疑問に雪風は答えてくれた。  
「これを見ろ」  
そう言って、2本ある自分の尻尾を器用に曲げると、譲の前に突き出してきた。  
「さわっていいぞ」  
自分の性感帯であるしっぽを触らせるという意図が読めなかったが、彼は遠慮なく、  
‘ムギュウ’  
「ひやぁっ」  
握るとやはりビクッと体が反応した。  
いきなり握るとは考えていなかったらしく、目を見開いて体を僅かに振るわせる。  
「誰が握れと言ったぁ!触れとは言ったが握れとはいってないぞぉ!」  
怒られました。  
握るのはだめだったようだ、ご立腹の雪風をなだめるように尻尾をなでる。  
ああっ、ふかふかの尻尾の感触は何度味わっても良いものだ。  
「どうだ?何か気が付かないか?」  
何か・・・はて、何だろうかと考えていたが、あることに気が付いた。  
最初に出会ったときよりも尻尾が大きくなっている。また、さわり心地も向上しているように感じる。  
「尻尾が大きくなったとか、毛並みが良くなっているとか?」  
正直な感想を述べると、雪風は喜びの表情を見せる。  
「そうだ、貴様の精を吸ったことで私の妖力が増したようだ」  
そう言って、差し出していた尻尾を引っ込めると自分の腕で優しく撫でる。  
こいつの一族は尻尾が力のバロメーターということだろう。  
なるほど、雪風が最初言っていた事は事実だったと言うわけか。  
(だが、正直な所これ以上コイツに関わりたくない。死にたくないし・・・)  
そんな彼の気持ちを知ってかしらずか、雪風は続ける。  
「お前の精が私に染み込んで来た瞬間、何ともいえない感覚を受けた。どうやら、貴様とは相性が良いようだ」  
「掟はどうするんだ?」  
「なに、貴様は私専用のエサということにしておけば問題はない。最低でも月に1度は私に精を奉げるんだぞ、いいな?」  
あまり良い待遇とはいえないが命には代えられないだろう。  
かわいい女の子とイイコトが出来ると思えば、(まぁ良いか)と思えてしまう。  
「わかった(納得はできないが)、これからよろしく頼むよ」  
こうして、彼の運命の分かれ道である1日が過ぎていったのだった  
 
 
 
「じゃあな、遊んでばかりいないで、お勤めはきちんと果たせよ」  
非現実的な出来事にあいながら、譲はなんとか帰る事ができる喜びに浸っていた。  
来いと言われたからには来ないといろいろ問題がおきそうで心配ではあるが、  
かわいいコイツに会うためだと思えば悪くはない。  
「まてっ、コレを渡すのを忘れていた」  
帰ろうと歩みを進めたときに呼び止められて渡されたのは、綺麗な勾玉の付いた腕輪だった。  
「もらっていいのか?」  
勾玉の他にも色の付いた綺麗な石が幾つか並んだ腕輪。  
「ここに来るときは必ず付けて来るんだぞ、いいなっ」  
「ありがたく頂戴しておくよ」  
そう言って自分の手首にかけると、お礼に彼女の頭を撫でてやる。  
彼女の性格からして、「子ども扱いするな」とか言いそうだが、  
「な、次はいつきて来てくれるのだ?」  
と、期待に目を輝かせ、耳としっぽを嬉しそうに動かしながら言う彼女に、何も言わずそっと口付けをする。  
そして、恥ずかしそうにしている彼女を背に帰途についた。  
「お土産を期待しているぞぉ〜」  
顔を上げ、手を振って俺を見送る雪風を背に、譲るは今度いつ来るかを考えていた。  
 
 
・・・それと同時刻、同じ山中のある場所で  
「ふふふっ、雪風があんなに淫らになるなんて・・・今度来たとき、お相手願おうかしら」  
今回の黒幕が呟いた直後、悪寒がしたのは言うまでもない。  
 
 

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