神に叛くことだと分かっているのに、私はそれを口にした。
熟しきった果実は舌を這わせると甘い液を漏らし、蛇のように口内を跳ねる。
嬉しくて嬉しくて吸ったり噛んだり、左右の実を手で握ったりしてみると、苦しげに蜜を吐いていっそう硬くなる。
そろそろ終りそうかと訊ねれば、彼は愛してる愛してると譫言のように呟いて、舌の上に喉の奥に擦りつける。
悪魔の甘言に耳を貸すほど馬鹿ではないけれど、その焦燥感に満ちた声はやけに真実らしく響いた。
彼は悪徳の象徴だった。
悪魔と聞けば友人達は十字を切り、誰よりも尊いお方でさえ哀しげに眼を伏せる、のに。
私は禁断の果実を食べた、幾度も幾度も、美しい悪魔が唆すままに。
獣のように息を吐きながら、ねえと、悪魔の眼が私を見つめる。
「何時になったら抱かせてくれるの?」
「……悪魔とは寝られない」
「酷いよ。こんなに愛してるのに?」
ああ、本当に。
焦燥感ばかりが彼の言葉を真実らしくして、私は自分の世界を覆したくなるのだ。