「今日のHRを終了する。まだ他のクラスはHR中だから、静かに教室から出るように」  
 
 
「郁ちゃん、今日は水泳部休み?」  
「そだよー。顧問が出張だってさ」  
「いいなあ、こっちは今日も委員会だよー」  
「あはは、ご愁傷様。頑張ってねー」  
「うえぇ…ばいばーい…」  
 
 
あたしは進道郁乃。ここ、秩志雄高校の二年生だ  
水泳部に入ってるけど、今日は休み。家でごろごろすんぞー!  
よっし、そうと決まったらチャリ置き場にダッシュだ!  
 
 
「…なんだよ、こりゃ」  
あたしのチャリになんか付いてるよ…  
なにかって…そりゃ、いわゆる…その…  
「男性器っていうか…バイ、ブ?」  
結構ガッチリ固定されてるし、自転車自体が改造されてるような…  
「立ち漕ぎするとこいつが見えちゃうし…」  
 
 
 
…  
……  
………そうだ!  
「乗りにくいけど、こうやってサドルの後ろに腰掛ければ…」  
…どう見ても勃ってます。本当にありがとうございました  
第一、こんなの股に挟んでたらパンツも見えちゃうっての  
さーて、どうすっかな…って  
 
キーン コーン カーン コーン…  
 
「っ!」  
ヤバい、他のクラスのHRも終わって人が来る!?  
こんなチャリ見られたらあたしの高校生活…  
「ええい、儘よっ!」  
ずぶっ、とあまり聞きたくない音がした…ような気がする  
「〜〜〜っ!!」  
声無き声。もう、色々と涙目だ  
「っはあ…ふっ…!」  
 
 
「あら、進藤さん?」  
「! お、お〜っす…」  
「今日は部活お休みですか? 心なしか顔が赤いですけど…」  
「!? い、いや、顧問が出張でさっ。今日は休みなんだっ」  
思わず声がうわずる。バレてない…よな?  
「そうなんですか、てっきり風邪でも引いたのかと…」  
「いーやいや、あたしは…っ…いつもどおりよっ」  
「…? そうですか、それではまた明日」  
「お、おうっ」  
 
 
ヴィヴィヴィヴィ!  
「ふあっ!?」  
「ど、どうしました?」  
こいつ、ペダル漕いだら急に動いた…?  
「進藤さん?」  
いつまでもここにいるとマズい、さっさと…  
「…進藤さん? どうされましたか?」  
「…あ、ああ〜〜! ちょっと急ぎの用があったのを思い出しただけだよ!」  
「そうでしたか、驚きました…」  
「そ、そんじゃーな…っ!」  
ヴィーン! ヴィ…ヴィーン!  
「ひっ…うっ…」  
こ、漕ぐたびに動くのか? マジで勘弁…  
 
 
「はあっ…はあっ…」  
学校出るだけで疲れた…  
こっから家まで一時間弱…ってのは、遅刻しそうなときのタイムだ  
今みたいなペースで走るとすると、家に着くのは夜だ  
「ここを全力で漕いだら…」  
ここら辺は人通りが少ないし、あたしの帰り道とは逆方向にある商店街に寄っているのか、前方に学校の生徒は見えない  
一回、試しに…  
ヴィヴィー!!ヴィヴィヴィヴィ!!!  
「ひゃっ!?」  
震えがさっきよりも強い。  
…全力で漕ぎながら声を殺して走る自信は、あんまり無い  
「しょうがない、少しゆっくり…っ!」  
ヴィヴィヴィヴィヴィ!  
「〜〜っ!!」  
ゆっくり漕いでも、こいつの震えは止まらない  
下唇を噛んで、声を出したい衝動を抑える  
「これくらいなら、どうにか…っ!」  
ヴィーン! ヴィヴィーン!  
「ふぁ…っ…」  
どうにか、と口に出したものの、辛いものは辛い  
早くどうにかしないと…  
 
 
このバイブをどうにかしないといけない…んだけど、緊急事態発生。  
「…ヤバ。トイレ、行きたい」  
唐突な尿意。原因は多分、昼休みにやった賭けトランプだ  
憎い。調子良く三連勝してしまった自分が憎い。  
『牛乳(紙パック/200ml)とストレートティー(缶/350ml)とミルクティー(PET/500ml)を混ぜてスーパーミルクティー!』  
なんて今日び小学生もしないようなことをやってのけて、それら約1Lをガブ飲みしていた数時間前の自分がとにかく憎い!  
…最後にトイレに行ったの、昼食前だっけな  
「トイレ…トイレ…」  
トイレに行くとなると当然、自転車を降りるってことだ  
自転車を降りるってことは、サドルのこいつが…  
「家までガマン…?」  
するしかない、かもしれない  
まだ半分も進んでないけど、どうにか家までトイレをガマンして…  
 
ヴィヴィヴィ!!  
「ひゃうっ!?」  
自分でも出したことのないような声  
うつらうつらとしていた野良猫はビクッとしたが、幸い周りに人はいなかったみたいだ  
(今のでちょっと漏れた…かも)  
でもあたしには、気にしている時間なんてない  
ゆっくりあせらず、バイブの震えに耐えながらおしっこをガマンして急いで家に…  
「無理っ! 間に合わないっ!」  
もうダメ、ガマンできない! どこかで降りて"する"しかない!  
「あそこ、の路地っ、を曲がっ、て…!」  
ヴィヴィヴィ!!  
「こうっえん、のっ…公…っぅ…衆トイ、レ…」  
ヴィーンヴィーン!  
「っぅ〜〜!!」  
ヴィヴィヴィヴィヴィ!!  
「こ、こな…ら…隠せっ…!」  
ヴィヴィ!! ヴィッ…ヴィ…  
「あと、は…ぬ、抜い…っ!?」  
 
  あっ!んっ! 激しいよぉ、声出ちゃう…  
  出しちゃえよ、こんなオンボロトイレなんて誰も来やしねーって!  
「…っぅ…!」  
あたしは、どうやら『真っ最中』の現場に居合わせてしまったみたいだ  
男の言うとおり、幽霊でも出てきそうな男女共用トイレ  
日の当たる場所にある遊具とは対照的に、トイレは公園の隅の木陰にひっそりと建っている  
「はっ…んっ…」  
ぎゅっ、と太腿をすり合わせ、地団太を踏む  
「早っ…し、てぇ…!」  
  んっ!はあっ!あっ!  
  強情なやつだな。これでどうだっ!  
  んっ!んっ!んっ!  
「も、もう…」  
  んっ!んっ!あっ!あぁぁー!  
 
 
ジュジュジュ!  
「あっ! あっ!」  
ジョッ! ジョ! ジョッ!  
「ぁ…あ…」  
ジョオーー…  
「はあっ…はあっ…」  
チョロチョロ…チョロ…  
「…はぁー…」  
間に合わなかった…トイレ…  
「漏れ…ちゃっ、た…」  
秩志雄高校 高校二年生 進道郁乃が おしっこを 漏らした  
落胆 恥辱 羞恥…色々な言葉が、頭の中をぐるぐる回る  
スカートが濡れるのはギリギリで避けたが、パンツはもうぐしょぐしょだ  
下半身にはおしっこの水滴がかかり、足の周りの水溜りは今しがた「漏らした」ことを物語っている  
「なんで…あた、しがっ…」  
悔しくて、恥ずかしくて、涙が出そうになる  
  もう…恥ずかしいからこういうのやめてよね!  
  結構雰囲気出ててよかったじゃんかよー  
しかし、ずっとここで落胆している余裕は無いようだ  
「人が出てく、る前に…」  
バイブの震えに耐えながら、公衆トイレ…の裏を後にする  
 
 
「はあっ…はあっ…」  
熱い。多分、顔は真っ赤だ。漏らしたこともまだ引きずっているけど、この震えが一番の「敵」だ  
ヴィッ…ヴィッ…ヴィッ…  
「もう、ちょっ、と…!」  
坂を上りきってそこから下れば、家はすぐ…なんだけど  
「上り、坂…」  
行きはよいよい帰りは怖い。そんな言葉が脳裏をよぎった  
普段は加速をつけて一気に駆け上がったり立ち漕ぎしたり友達と話しながら手押しで上ったりしてるけど、今回は事情が違う  
加速したら声が漏れるし、立ち漕ぎしたらバイブが見える。友達と…なんてのは、想像したくない  
結局、あたしには座ったまま漕ぐという選択しか無いんだ…  
 
 
グッ…ヴィッ…グッ…ヴィヴィッ…  
「はっ…ふっ…」  
ひとつ漕いで震えて、またひとつ漕いで震えて…  
グッ…ヴィン…グッ…ヴィヴィッ…  
「ふっ…ぅん…」  
中途半端に漕いだりしたら、震えるだけで進まない  
グッ…ヴィッ…グッ…ヴィヴィン…  
「はぁ…んっ…はぁ…」  
上りきった! あとは坂を下って…  
「おーい、そこの嬢ちゃん!」  
「ひゃいっ!?」  
突然の声。ペダルを漕ぐのと震えに耐えるのに集中しすぎていた  
(不意打ちだよ…。ば、バレてない…よね?)  
「見てのとおりここは工事中でよ。ちょいと遠回りになっちまうが、迂回してもらえんかね?」  
近くにあった看板で道を確認する。コの字に曲がれば、下り坂の途中の道に出られるらしい  
「はいっ、わかりっ、ました…」  
「迷惑かけてすまんね。これも仕事だからよ」  
「いえっ。お、お仕事、頑張って下さいっ」  
「ありがとよ、気をつけてなー」  
「は、はい…んっ…」  
少しだけ声が漏れたけど、バレてないかな…?  
「…ん? あっちの道は階段だったような…  
 あの嬢ちゃん、自転車で降りられんのかね?  
 …ま、若ェし大丈夫だろ。仕事仕事っと」  
 
「うそ…?」  
足場の幅が広い、十段程度の下り階段。自転車用の坂道どころか、手すりすら無い  
(来た道を戻る? けど反対側の道が遠回りだったりしたら…  
 ううん、遠回りよりも心配なのは"向こう側に抜けられるか"ってとこね  
 …やっぱり、ここを通るしか)  
出来るものなら一気に駆け下りたいが、出来るわけも無い  
(一段一段慎重に…)  
ジャッ…ジャッ…ジャッ…  
「ん…はっ…あっ…」  
ジャッ…ジャッ…ジャッ…  
「はっ…ふっ…ぅんっ…」  
ジャッ…ジャッ…ドンッ!  
「はっ…んっ…あっ…!」  
最後の最後、最後の一段での油断  
「ふっ…ぅんっ…!」  
プシュッ…シュッ…  
体がぶるっ、っと大きく震える  
「あっ…はあっ…」  
太腿から伝う雫を、郁乃は感じていた  
(う、そ…これって…)  
潮、吹いちゃった…  
「〜〜〜っ!」  
住宅街での軽い絶頂。潮吹き。郁乃の顔を紅くするには、十分すぎた  
「やだっ…」  
潮吹き…まさかこんなところでするなんてっ  
ハンドタオルで太腿に垂れた…液、を拭く  
郁乃が通り過ぎたアスファルトには、点々模様が描かれていた  
 
 
「も、もうちょっ、と…」  
工事現場が左手に見える。この坂を下りきれば、郁乃の家はすぐだ  
ペダルさえ漕がなければバイブは震えない、ってことは…!  
「一気、に下りら、れるっ」  
これ以上、今の状況に耐える余裕は無い  
チ…チチ…チチチ…  
自転車が加速する、その刹那  
ヴィ…ヴィヴィ!  
「んっ…!」  
バイブが、動いた。ペダルは漕いでいない  
「これってもしかして…」  
"一定の速度"に達すると動く…?  
うそでしょ!? なんでこんな…  
 
 
  嬢ちゃんたち、今ここは工事中だから迂回してくんなー  
   わかりましたー  
   お疲れ様でーす  
  おう、ありがとよー  
「っ!?」  
工事現場のおじさんと、商店街に寄り道したであろう学生の声  
同じクラスの人間もいるのだろう、郁乃に聞き覚えのある声もあった  
彼女たちはものの数分で、郁乃が今いるところに辿り着くだろう  
(ど、どど、どうしよう!)  
もし追いつかれたら…もし声をかけられたら…もしバレたら…!  
   あははー、そんでそんでー?  
   したら彼氏がさー…  
近づく声。郁乃は、意を決した  
 
 
チチ…チチチ…  
ヴィヴィ…ヴィ!  
「あん…んむっ」  
ハンドタオルを咬ませて、声を殺す  
汗とは違う液体を拭いたものを口に…と郁乃は意識したが、すぐに振り払った  
チチチ…チチチチチチ!!  
ヴィッヴィッヴィヴィヴィヴィ!!  
「んんっ! んー! んー!!」  
ヴィヴィヴィヴィヴィ!!  
「んっ! んっ! んー!!」  
ぷしゅっ、と潮を吹く。郁乃の通ったところに点々と、模様が映る  
ヴィヴィッ!!ガッガッ!!ヴィ!!  
「んんー! んー!!! んんっ!!」  
トラックからこぼれ落ちた砂利や石に乗り上げる自転車  
乗り上げる、という程大きなものでも無いが、郁乃に与える振動としては十分すぎた  
「んんっ! はぁっ!! あっ! あっ!」  
思わず、咬ませたハンドタオルが口から落ちる  
「あっ! んっ! ふあっ!」  
はっとした郁乃だが、悲鳴ともとれる絶頂声は、コップに注がれ続ける水のように溢れ落ちた  
「んっ! はあっ! あああっ!!」  
下り坂の終わり。かろうじて意識を保った郁乃がブレーキを引いた、その時  
 
ズンッ!ズンッ!ズンッ!  
「ひぎぃ!?」  
ブレーキを引くと同時に、バイブはピストン運動した  
ブレーキとバイブの連動。ゆっくりした運転を続けてブレーキを引かなかった、引く必要の無かった郁乃には知り得ないことであった  
予期せぬ激しい動きに、僅かに残っていた郁乃のタガは完全に外れた  
「はあっ、あっ、あああーーーーっ!!」  
プシャッ!ジョ!ジュジュ!ビチャ!  
坂の終わり、郁乃は潮か尿かもわからない液体を、甘美な声と共に吐き出した  
今までとは比べ物にならない刺激に、郁乃はただただ身をまかせるだけであった  
 
 
ピンポーン  
「はーい」  
ガチャ  
「進藤さんのお宅ですか? ええと…郁乃さん宛てにお荷物です」  
「あ、私です。ハンコハンコ…」  
「こちらにお願いします…はい、ありがとうございました」  
「お疲れ様でーす」  
改造自転車事件(と、あたしは呼んでいる)から十日、くらい  
次の日になると、自転車は元に戻っていた  
あれは夢だったのかわからない…けど、ひとつだけわかったことがある  
「あたしが、こういうものが好きってこと」  
ビッ!ビリッ!  
『商品説明欄:書籍』と書かれた段ボール箱に入っていたのは、バイブであった  
明日の学校が楽しみだ…  
 
 
「せんぱーい、待ってくださいよー!」  
「あはは、早くしないと遅刻するよー」  
カバンには昨日届いたバイブが入っている  
今日は部室で…  
 

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