平成十六年、夏──東京の秋葉原へ二つの飛行物体が急降下し、萌え  
る街を直撃。千人に上る死傷者を出す大惨事となったが、場所が場所な  
だけに、世間からの同情がまったく得られず、むしろ良いゴミ掃除になった  
という意見が大半を占める事となった。何故かと言うと、被害にあった人々  
というのが、真昼間から同人ショップを何件もはしごするような、アキバ住  
人たちだからである。が、それはさておく。  
 
「う〜む・・・いったい何が・・?」  
瓦礫の山と化した秋葉原の一角で、御結山基樹(おむすびやま・もとき)は、  
今だ砂煙が舞う中で、ようやく立ち上がる事が出来た。彼は萌える専門学校、  
『ヨモギアニメーション学院』  
に通う十九歳。生来の萌え熱が嵩じ、その身をアニメ界へと投じた青年である。  
 
「何か落ちてきたらしい・・・って事は分かるんだが・・・ああ・・・ナロンブックス  
も、コミックけつのあなも跡形も無い・・・何てこった」  
基樹はよろけながらも、廃墟となった秋葉原に昔日の面影を追った。かつて、  
自分を萌え上がらせてくれた店舗がくず落ち、今や影も形も無い。基樹はそれ  
に落胆し、再び地へ膝をついてしまう。  
「アキバがこれじゃあ・・・大須(名古屋の萌え地)まで足を伸ばすしか無いの  
か・・・くっそう・・・」  
甲子園球児のように秋葉原の土を握り、基樹は泣いた。首都がこんな有り様だ  
というのに、考える事がこの程度。  
「通販じゃ、駄目なんだ・・・直に・・店へ行かなきゃ・・」  
店舗で買っても、通販で買っても物は同じ。しかし、萌える男たちはそれを許さ  
ない。何でも手にとってみなければ、納得がいかないのである。もっとも、通販  
は通販でまた、送られてきた商品を開ける楽しみがあるのだが・・・  
 
「う〜ん・・・さくらぁ・・」  
「いんくたん・・・はぁはぁ・・」  
周囲から、基樹と同じダメ人間たちの呻き声が聞こえた。彼らも秋葉原  
を徘徊していたがために、この惨劇に見舞われたようで、それぞれが虫  
の息状態になりながらも、信望する萌え対象の名を叫ぶ。  
「み、みんな・・・大丈夫か?」  
声を聞きつけた基樹が、灰燼の中をさ迷い歩き始めた。どこかに知った  
顔が居ないか──そして、けが人を救助しなければ──と、ダメ人間な  
がらも、人としての良心を以って。と、その時──  
 
「おっ!生きてやがったか、御結山基樹。ずいぶんとしぶといな」  
煙る廃墟の中から、やたら露出度の激しい黒のボディスーツに身を包ん  
だ、悪魔──という表現がぴったりな、美しい女性が現れた。  
「だ・・・誰?」  
「あたし?ああ、お前の命を貰いに来た、見習い悪魔シェリー様よ」  
問い掛けた基樹に向かって、シェリーと名乗った女は大鎌をすらっと抜き、  
にっこりと微笑む。だが、その笑顔とは対照的に、言ってる事があまりにも  
物騒だ。  
「俺の命?何故・・・」  
大鎌をあご先に突きつけられ、基樹は身震いした。今、出会ったばかりの  
女に、どうして命を奪われねばならないのか、納得がいかないご様子。  
 
「え〜と・・・御結山基樹・・・お前さあ、前世であたしたち悪魔の敵だったん  
だよ。詳しくは聞いてないけど、前世のお前は物凄い力があったらしいな。  
それで、数え切れないほどの悪魔が霧散させられたらしいよ」  
見習い悪魔シェリーは目に殺気を携え、基樹に迫った。是が非でも、お命  
頂戴と決め込むつもりらしい。  
 
「そんな訳で、命〜・・・くれない・・・いけね、歌ってる場合じゃなかった。  
ぼやぼやしてると、邪魔が入る・・・」  
シェリーが大鎌を握る手に力を入れた。その瞬間、基樹は目を閉じて今  
際の時を静かに迎える。  
(し、死ぬのか、俺・・・?こんな、訳も分からないままに・・・だが、アキバ  
で死ねるだけ・・・幸せか・・・)  
死を覚悟した基樹の首を、今、まさに大鎌が薙ごうとしたその刹那、十一  
時の方向から一筋の白き風が吹いた。そして──  
 
「キャッ!」  
見習い悪魔シェリーの体が弾け、手にしていた大鎌ごと吹き飛んだ。更に、  
「基樹様、ご無事ですか?」  
そう言って、純白の羽を広げた天使──が、亡き者にされる所だった基樹  
の目前に現れたのである。  
 
「今度は天使かよ!」  
「はい。わたくし、セレナと申します。天界からやってまいりました」  
薄手のロングドレスを身にまとい、宙を舞う天使──セレナと名乗った少女  
は、地にまみれた基樹の手を取り、素晴らしい笑みをたゆませている。その  
笑顔は慈愛に満ち、まさに天使という身分に相応しい。  
「基樹様・・・危ういところでしたが、間に合って良かった・・」  
純白の天使セレナが基樹をそうっと抱き寄せ、耳元で甘く囁いた。見た目で  
はまだ十五歳くらいだが、何やら聖母のようなふくよかさを持っている。  
 
「く、詳しく説明して・・・くれないかな」  
セレナの乳房の間に顔を挟まれ、戸惑う基樹が尋ねた。天使の胸の  
谷間は案外育っており、中々の弾力を持っている。それが、あまり女  
性と縁が無いアニメ青年の心を逸らせた。  
 
「先ほど、基樹様を亡き者にしようとしていた悪魔・・・彼の者立ちと対極  
を成す天界の使い・・・それが、わたくしです。あなた様をお守りするた  
めに、地上へと派遣されてきたのです。あなた様は前世において、魔界  
と戦う天界の武神でございましたから」  
「また、前世・・・か」  
「ええ。先の戦いでは、天界が魔界を薙ぎました。その後、天界を勝利に  
導いた武神は輪廻転生し、あなた様のお体へ魂を宿されたのです。だか  
ら、魔界のものどもは、基樹様の魂を魔界に引きずり込み、次の転生を  
防ごうとしたのです。それを天界はいち早く察知し、わたくしに命を下しま  
した」  
「俺を守れ・・と?」  
「ええ、そうです」  
 
セレナの説明は足早ではあったが、基樹は何となしに自分の置かれた  
立場が理解出来た。要するに、自分は前世の行いの為に悪魔に命を  
狙われ、また、天使の庇護を受けているのだと。そして、納得こそ出来は  
しないが、今はこの天使に縋るしか無い事も──  
(何てこった・・・)  
秋葉原を無に帰した二つの落下物。あれは、どうやら悪魔と天使だった  
らしい。しかも、それぞれが自分に対しての含みを持っている。それと  
分かり、基樹はこの惨状の原因が己である事を知り、背筋を寒くさせた。  
 
「はいはい、話はそこまでだよ」  
まだ、秋葉原大崩壊のショックが覚めやらぬ間に、先ほど天使に吹き  
飛ばされた見習い悪魔、シェリーが基樹たちの前へ現れた。彼女は大  
鎌をなくしたらしく、無手で二人の前へ歩み寄って来る。  
 
「よくもやってくれたね、この堕天使が」  
「悪魔め・・・天の罰を恐れるがいい」  
天界と魔界、両の使いが正対し、一触即発の事態を迎えた。このとき、  
秋葉原の地に伏せっていた瀕死状態のダメ萌え人間たちが、  
「あッ!ベOダンディー様だ!」  
「ウOド様もいるぞ!」  
と、いっせいに色めき立ったことを追記しておく。  
 
「基樹は魔界へ連れて行く」  
「そうはさせない」  
シェリーとセレナが互いを威嚇し、戦闘体勢を取った。見習い悪魔は武器  
を失ってはいるが、不適な笑みを漏らし、自信ありげ。また、天使は天使で  
無手の戦う術を心得ているのか、迷いの無い戦意を見せている。  
 
「なんか・・ヤバそう・・・」  
悪魔と天使の間に、ぴりぴりとした空気が張り詰めていく中で、基樹はただ  
ひとり、不安に駆られていった。ここで両者が戦えば、更なる甚大な被害が  
秋葉原を覆うと感知したのである。  
 
『魔都、秋葉原を、天、魔の使いが直撃!その原因は、ヨモギアニメ  
ーション学院に通う、ダメ萌え青年にあり!』  
 
そんな朝刊の見出しが、基樹の頭の中へ浮かんだ。更に、そうなった  
ら自分は、アキバ住人たちから槍玉に上げられてしまう・・・とも思う。  
 
「おーい!やめてくれ!よそでやってくれ〜!」  
悪魔と天使の間に割って入り、基樹が叫んだ。命も惜しいが、アキバも  
捨て置けない。そんな一心で、ダメ萌え青年は両雄向かい合う中へ、飛  
びこんでいったのである。  
 
「なんだよ、お前・・・気が散るから、あっち行ってろ。それとも、ここで魂  
引っこ抜いてやろうか?」  
勝負に水を差された悪魔、シェリーが不機嫌そうに言うと、  
「そんな事は、絶対にさせない。お下がりください、基樹様」  
天使セレナも一歩も引かない。そうなると、基樹はいよいよ困ってしまった。  
「戦うなら、もう少し穏やかな方法をですね・・・」  
シェリーの顔色を伺いつつ、セレナを懸命になだめる基樹。自分がこの  
いさかいのキーマンである事も忘れ、悪魔と天使の両方を、何とか丸め  
込もうと躍起になっている。  
 
「お前が魂を呉れれば、一番穏やかなんだよ。だから、死んでよ」  
見習い悪魔、シェリーが呆れ顔で言う。しかも、本人を前にして死ね、と。  
「そうは言っても、命は一個しかないし・・・おいそれと魂をあげる訳には」  
う〜む・・・と考え込む基樹。懸命の説得で、両雄の殺気を削ぐ事は出来  
たが問題解決の糸口が見つからない。  
 
「もしかして、お前・・・魔界が恐ろしい所だと思ってるのか?だと  
したら、とんだ見当違いだぞ」  
腕を組み、肌の露出がやたらと多いボディスーツから、乳房の大半  
を剥き出させたシェリーが、愚図る基樹の顔を小馬鹿にするが如く、  
覗き込む。そして、  
「魔界っていっても、娯楽もあるし・・・もし、お前が望めば、あたしが  
・・・うふふ・・何をしてやってもいいんだぞ」  
と言いつつ、基樹の股間にある男を指でなぞった。  
 
「あう!」  
男根を的確に捉えられ、慌てて腰を引く基樹。すると、シェリーは何  
か意を得たように瞳を輝かせた。  
「お前、中々のモノを持っているじゃないか・・・これを、あたしに使って  
みたくはないか?何をしてもいいんだぞ、これで・・・お前はあたしに  
君臨し、思うが侭に振舞える。魔界は、そこにいるお子様の出身地とは  
違って、自由なんだ。なあ、あたしと魔界へ行って、楽しくやろうよ・・・」  
持ち前の魔性をたゆませ、シェリーは基樹をいざなおうとしている。彼と  
て男、淫靡な性を生まれ持った悪魔に、心惹かれぬ訳が無く・・・  
「ほ、本当?」  
と、思わず聞いてしまった。すると、その遣り取りを聞いていた天使、セ  
レナが激昂する。  
「いけません!基樹様!」  
悪魔が淫らがましい誘惑で、基樹を貶めようとすると、天使も負けじと  
対抗した。  
「天界は魔界とは違って、それはそれは・・・美しい場所でございますのよ。  
そこでは、無垢な乙女たちが歌い、水浴びなどを・・・」  
あさましいとは思ったが、無垢な乙女たちと水浴びの所を強調し、セレナ  
は基樹をなだめつつ、気を引こうとする。天使とは言え、こうなってはなり  
ふり構っていられないからだ。  
 
「乙女たちの・・・水浴びかあ・・・」  
命の値踏みをされているにも関わらず、迷いを見せる基樹。魔も良い  
が、天も捨て難い──それが、正直な所であった。  
 
「あたしとよろしくやろうよ・・・何でもしてあげるから・・・ね、基樹」  
「基樹様、清らかにいきましょうよ。わたくしが、お側でお仕え致します  
から・・・」  
悪魔と天使がそれぞれの利点を強調し、ひとつの魂を奪い合う。最早、  
基樹はそのどちらかに駒を進めるだけだ。  
(シェリーの小悪魔的魅惑も捨てがたいが、セレナの清楚な雰囲気も  
いい・・・)  
すっかりいい気になって、いよいよ迷う基樹の心。こうなっては、もう  
どちらかに転ばなければ、うそである。となれば、問題は彼の嗜好に  
かかってくる。  
 
「う〜ん・・・どうしよう」  
シェリーをちらり、セレナをちらりと見遣っては悩む、ダメ萌え青年。だが、  
どちらも魅力に溢れた美しい女性である。故に、決定打が見つからない。  
すると──  
 
「ん、もう・・・はっきりしなよ」  
基樹の態度に業を煮やしたシェリーが焦れた。魔の使いゆえか、積極性  
を持った悪魔は基樹の手を取って、非常にふくよかな乳房へと招きつつ、  
「これが欲しくないの?」  
そう言って、艶めく仕草で青年の魂を揺さぶったのである。  
 
「や、柔らかい!」  
乳房の弾力を感じ取った基樹の心がぐらついた。シェリーの母性は  
むっちりと肉付き、触れて良し、揉んで良しの超一級品である。元々、  
魔性としてある彼女が、淫靡な性を持っているのは当たり前だとして  
も、その魅力的な肉感はどうだろう。  
 
「これを・・・お前の好きに・・して・・・いいんだぞ」  
基樹の手に自分の手を重ね、悪魔は己の武器を散々に披露した。ぐ  
っと張った乳房はなるほど魅惑に満ち、女性に縁遠いダメ萌え青年の  
ハートを、がっちりと鷲づかむ。  
「ああ・・・感じるわ・・ふふッ・・案外やるじゃないか、基樹・・」  
基樹の手が自然と乳房へ馴染み、あさましい動きを見せた途端、シェリ  
ーの頬が緩んだ。そして、女の性をこれでもかと匂わせていく。  
「シェ、シェリー・・・」  
「うふふ・・・ようやく、名前で呼んでくれたな・・・嬉しい・・ぞ」  
基樹に名を呼ばれ、ふふんと鼻を鳴らすシェリー。勿論これは、すぐ傍  
らで事の成り行きを見ている天使へのあてつけである。  
 
「い、いけない!基樹様、お離れになって!悪魔の誘惑に負けては駄目!」  
一心不乱に悪魔の乳房を揉む基樹に食い下がる天使、セレナ。だが、  
この時点において、彼女にアドバンテージは無い。それだけシェリーの  
肢体は魅力に優れ、色香に溢れているからだ。  
 
「堕天使に、用は無いってさ・・・ああん・・基樹ッ!」  
乳房を弄ばれているシェリーが、勝ち誇ったかのように言った。見れば  
基樹は悪魔の乳首を指で啄ばみ、アンプのボリュームを絞るように捻っ  
ている。いよいよ魔性に惹かれていっているらしい。  
 
(このままでは・・・いけない)  
きゅっと唇を結び、天使セレナは拳を握り締めた。今、基樹は完全に  
悪魔の手中に落ちてしまっており、彼女の方を見向きもしない。  
(それにしても、これがかつて天界を救った、武神だったお方のなれの  
はてなのかしら・・・まったく!)  
魂を魔界へ持っていかれるのも困るが、天使は何より自分では無く、悪  
魔であるシェリーになびいた基樹が許せない・・・と思っていた。そして、  
彼の心を取り戻すべく、純白のロングドレスの裾を引いたかと思うと、  
「基樹様、こちらをご覧くださいな」  
ひらりと宙を舞い、天使は惜しげも無く素肌を晒してしまったのである。  
 
「わ、わあ!は、裸だ!」  
背に羽根をなびかせ、肌を見せてはいたがセレナの清らかさは変わらな  
かった。いや、むしろ清楚ゆえのエロスが垣間見え、ダメ萌え青年の心  
の琴線を弾く。  
「こちらへ、おいでませ・・・基樹様・・セレナと遊びませんこと・・?」  
天使は、ロングドレスの下には透けるような素肌──ただ、それだけを  
携えていた。無論、そのドレスを脱ぎ捨てた今、セレナはしなやかな肢体  
に純白の羽根を持った以外は、生まれたままの姿である。  
 
「て、天使・・・ああ、天使だぁ・・・」  
あまりの美しさに心奪われ、シェリーの乳房から手が離れる基樹。そして、  
逃げるように誘うセレナのしたたかさを追い、悪魔の元から開放された。  
 
「ああ、ちょっと!基樹!」  
エサに見立てた乳房を、いい加減に弄ばさせてやった挙句、獲物に逃げ  
られたシェリーは地団駄を踏む。これではまるで、釣果の芳しくない釣り人  
では無いかと憤っても、すでに後の祭り。基樹はセレナを追い、ふらふらと  
足をふらつかせていく。  
 
「ふふ・・・基樹様、セレナをお捕まえになって・・そうしたら・・・」  
天使は舞いながら、基樹を更に昂ぶらせようと煽り文句を繋いだ。  
もう、こうなったら天界からの使いである事も忘れ、彼の心を我が  
物としたい・・・そう思っているだけである。  
「ま、待って!セレナ〜・・・」  
つかず離れずの距離を保つセレナを追う基樹。その姿に、天界に  
おいて危機を救った武神と崇められた過去と、また、魔界では魂の  
存在さえも恐れられるという前世の面影は無し。ただ、異性に翻弄さ  
れる悲しい性(さが)を持った、一人の男でしかなかった。  
 
「ちくしょう!こうなったら、肉弾戦だ!」  
悪魔が天使に誘惑合戦で負けたとなれば、名がすたる──シェリー  
はそう考え、自らもボディスーツを脱ぎ捨て、素肌の勝負を挑んで  
いく。そうして、廃墟と化した秋葉原の中を、ダメ萌え青年と天使、  
それに悪魔の御三方が、つらつらと走っていくのであった。  
 
 
時は流れ、晩夏──都内の某所では一人の青年を囲み、二人の  
女性がなにやら言い争いをしていた。  
「セレナ、お前は昨夜、基樹とヤッただろう!今夜は、あたしの番だ!」  
「シェリーさん、ヤッた・・・などという、お下品な言葉はおよしになって  
下さいな。愛を紡いだ・・・そうおっしゃって欲しいものですわ」  
六畳一間のアパート。その部屋の中心で、悪魔と天使の罵声が飛ん  
でいる。無論、これが夢の類であれば、ただの笑い話にしか過ぎない  
のだが・・・  
 
「実はまだ、決めかねているのです」  
誰に言うでもなく、基樹がぽつり・・・と呟いた。彼は布団の上に寝転が  
り、頭上を飛び交う侮言に顔をしかめている。  
 
「何と言おうと、今夜はあたしが基樹と寝る!いいな、セレナ!」  
「それは、基樹様に決めて頂きましょうよ・・・うふふ・・まあ、結果は見え  
ていますけれどね」  
シェリーとセレナは言い合いに疲れたのか、勝負のゲタを基樹へと預け  
た。しかし、彼もそうは言われても・・・と、優柔不断な向きを見せるだけ。  
 
「それが出来れば・・・今日の事はない訳で・・・ははは・・・」  
三人が初めて出会った、秋葉原大崩壊の日──あの日から、基樹は  
悪魔と天使の誘惑を秤にかける日々を送っている。結局、彼は持ち前の  
ダメ萌え嗜好に見切りをつける事が出来ず、シェリーとセレナ、両名との  
共同生活を余儀なくされていた。もっとも、魂を持っていかれる身であれ  
ば、これが一番良い選択である訳だが。  
 
「じれったいな・・・」  
魅惑的な小悪魔、シェリーが焦れて、基樹の体に覆い被さっていくと、  
「あん、抜け駆けは許しませんわよ」  
遅れをとるものかと、今度は清楚な天使、セレナがダメ萌え青年の足元  
へ傅いた。そして、なんとも淫蕩な夜の帳が下り、艶かしい男女の睦み  
合いが始まっていく。  
 
「キスって、大事だよな」  
シェリーがそう言って基樹の唇を奪い、ちゅうっとひと吸い。それも、舌を  
すぐには絡めず、目で語り合おうと頬を摺り寄せながら・・・だ。すると、  
「そうかしら?基本は奉仕の気持ちよ、シェリーさん」  
今度はセレナが基樹の男根を手にし、そこへ顔を埋めていった。そして、  
薄く色づいた唇の中へ、張り詰めた男の情欲を招いていく。  
 
「ああ・・・シェリー・・・セレナ・・」  
艶かしいキスと男根への口唇愛撫で、基樹の理性は蕩けていった。二人  
の対を成す美しい女性に責め立てられては、ダメ萌え青年などはいちころ  
となるに決まっている。  
 
「キスって美味しいね、基樹」  
異性の唾液を啜るシェリーの表情が淫らに歪んだ。悪魔ゆえ、女の見せ所  
を心得ているらしい。  
 
「おちんちんも美味しいです、基樹様・・・この塩気が、何とも良いお味で・・・」  
あくまでも品良く男根をねぶるセレナも、天使としての気品と理知を失っては  
いなかった。彼女は、基樹と褥を共にする時だってつつましく、控え目である。  
 
「ふたりとも・・・うう・・いいよ、俺は・・幸せ者だぁ・・・」  
悪魔と天使の両名に、男の本懐を果たさせて貰う──数奇な運命を辿っては  
いるが、自分は何という果報者なんだろうと、基樹は思っていた。しかも、二人  
は絶世の美女である。これを果報と言わずとして、何と表すれば良いのか、と。  
 
「ああーん!基樹ッ!もっと、突いてッ!」  
布団の上で犬のように這ったシェリーが、奔放な腰使いで男根を  
迎え込んでいた。基樹は、今宵の伽を魔性の魅力に従わせる事と  
し、悪魔との交わりを先に求めたのだ。  
 
「まあ、シェリーさんったら・・・あんなに腰をお振りになって・・・そん  
なに気持ち良いんですの?」  
シェリーの尻を掴み、思うが侭に男根を吼えさせている基樹の背後  
に回ったセレナが、玉袋を揉み込みながら毒づいた。天使の彼女  
から見れば、男根に屈した悪魔の姿が滑稽な様でもあり、また、淫ら  
がましさが羨ましくもある。心のどこかで、自分もあのように奔放な  
蜜事を楽しみたいと思っているからだ。  
 
「最高よ・・・ああ、基樹のオチンポ・・・ひいッ!す、素敵ッ!」  
女肉が左右に捲れるほどの激しい抽送。基樹は、シェリーを愉しむ  
時は手加減をせず、彼女が気を失うまで激しく責める。それも、余り  
に厳しい行為で、及び腰となったシェリーのクリトリスを引っ張り、  
逃げる事を許さないという残虐さ。また、そうする事で、荒淫好きな  
悪魔もいよいよと本懐を遂げさせて貰えるのだ。  
 
「基樹様・・・後で、わたくしも可愛がってくださいな」  
「ああ、いいよ」  
男根に付随した玉袋をそっと手に取り、セレナが可愛くおねだりを  
すると、基樹は優しく笑った。彼も、この天使の笑顔には弱い。  
「セレナには、うんと恥ずかしがって貰いたいな」  
「いやですわ、基樹様の意地悪・・・」  
セレナにハードな責めは似合わない。基樹はそれを悟り、天使の  
清らかさにつけこむことにしている。  
 
セレナは従順で、奉仕することを喜びとする。だから、基樹は彼女を  
自らの意志で、男根へと跪く性奉仕奴隷としたい。優しい言葉で接し、  
天使、天使と持ち上げているのはそのためだった。清楚な女が恥ずか  
しがる様に、基樹は男児の本懐を見たのである。  
 
「イ、イクーッ・・・ク、クリトリスを引っ張ってッ!基樹ッ!」  
男根を貪っていたシェリーが絶頂を得て、狂乱した。そして、基樹も  
男の欲望の発射準備に入る。  
「クリ、引っ張ってやるからな、シェリー。俺もイクぞ」  
「ああ、最高ッ!な、中でイッてね・・・」  
シェリーの剥いた肉真珠を指で啄ばみ、基樹が一段と激しい腰使いを  
見せた。そして──  
 
「ああッ!」  
がくんと頭を振って、シェリーが果てた。しかも、絶頂が腰骨を揺らした際、  
「こ、ここは天国よッ!うわああッ・・・」  
と、その身を省みず、叫ぶ。  
 
「悪魔が、天国を見てどうするんだい?」  
基樹が呆れ顔でそう呟いた。すると、お預けを喰っていたセレナがずいと  
一歩進み出て、  
「ふふ・・・シェリーさんも悪魔なんかやめて、天使におなりなさいな。きっと、  
悔い改められるから」  
と、微笑んだ。その笑顔があまりに淫蕩で、これではどちらが天使で悪魔か  
分からない。  
 
「ふう・・・あたし、もう・・・ダメ・・・」  
女を責めぬかれたシェリーが横たわると、今度はセレナが基樹の  
情けを受けようと布団の上へやってくる。そして、  
「基樹様、よろしくお願いしますね・・・」  
そう言いつつ、しずしずと両足を開いていった。  
 
「セレナ、あそこを目いっぱい指で開いてごらん」  
「は、恥ずかしいですわ・・・」  
「いいんだ。恥ずかしがるセレナの顔が見たいんだよ」  
当初、魂を狙われていた青年はいつしか支配者の立場となって  
いた。基樹は悪魔と天使の純情を奪い、前世で奮った武神の魂を  
取り戻しつつある。もっとも、今は本人を含めここにいる全員がそれ  
に気づいてはいないのだが。  
 
「ひ、広げますよ・・・」  
乞われるがまま、女穴を自らの指で掻き広げる天使、セレナ。むず  
がる顔が、羞恥に染まって淫らながらも愛らしい。  
 
「濡れてるね、セレナ」  
「ああ、言わないで下さい・・・恥ずかしい」  
 
きゅっとひくつく天使の生肉は、蜜でぬめっている。見るからに、淫ら  
な何かを求めた、女の恥ずかしい涙で──  
「一生可愛がってやる、二人とも」  
従順な天使と奔放な悪魔。その二つを手中に収めた基樹は、欲望に  
顔を歪め、そう言い放つ。そして、深まった宵の間中、二人を相手に  
散々と男液をほとばしらせたのであった・・・・・  
 
おわり  
 

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