去年の異変により、一変したかに見えた世界も落ち着きを取り戻していた
人々はまるで、今の世界が元から続いているように、普通に呼吸し、普通に生活をしている
しかし、俺の中の暗い塵のような感情は確実にその量を増やしていた
今日も仕事が終われば、今はすっかり触手と化した同僚の久保が、憧れの白浜さんから『食事』をもらっている事だろう
あの日以来、多くの男性が触手となっていた
可笑しな事に、まるでアダルトゲームのように、触手たちにとって最も重要な栄養源は女性の性的な分泌物だった
その後の研究により、重いトラウマや精神的ストレスを抱えた男性は触手化に対する抵抗があるようで、実際にこの俺にも何の変化も起きていない
ラッキーだ
当初はそう思った
しかし、やがてその思いはすっかり打ち砕かれる事となる
モテる男というのは、例え触手になってもモテる。そんな現実を俺は目の当たりにする事になる
しかも、生きていくために複数の女性と関係を持つ事を誰も責めなくなったのだ
今まで、尻込みしていた女性達も勇気を出せば思い人(いや、触手か)と結ばれる可能性は高くなる
自然、彼らは更にモテる。
また、触手化してない男性も魅力的ならば、思慮深い、ナイーブなどの印象を与えるわけだ
しかし、俺にかけられた言葉は
「ふ〜ん、意外とネクラなんだ」
という一言だった
それだけなら、今までとは変わらないのかもしれない
しかし、今回の異変で触手化した者達は奇妙な自信と触手としての性的な能力を身につけて、それまで女性とろくに話した事のないような奴等までが、夜毎の相手に事かかないようになってしまった
俺は世界を変えてしまった神にそれでも祈る
元の世界に戻せとか、俺を触手にしろなんて言うつもりはない
ただ、来年の30の誕生日がきたら、魔法が使えるようにしてくれと願うだけだ