雨の日は嫌いだ
身体を濡らすのが嫌だから、そんな理由で彼が来てくれない
あの異変の後で、触手になった彼だけど、運よく元の姿に擬態する能力が身についたとかで、今では常にその姿だ
ところが、彼の身体は酸に対してかなり弱い。昨今の環境破壊による酸性雨を浴びると擬態がしばらく保てないらしく、天気の悪い日には出掛けなくなった
彼は母親と二人暮らしだから、押し掛けるのも気がひけるし
異変後、始めての梅雨を私は悶々と過ごしていた
でも、彼の気持ちもわかるんだ
母一人、子一人で生きてきた、その母親になるべく触手の姿を見せたくないっての
でも、ちゃんと栄養採れてるのかとか心配だし、同じアパートの人とかと何かないか不安だったりするんだよね
なんだか、私って自分勝手な嫌な子だ
と、自己嫌悪なブルーな気持ちを染め替えるような青空とともに、久しぶりに彼が来てくれた
心なしか、やつれて見える
だから、早速お食事を振るまわないと
もどかしく、破るくらいの勢いで服を脱ぐ私に彼は面食らっている
結局のとこ、本当に飢えて渇いているのは私だ
「心配かけて、ごめ……」
謝りかける唇に唇を重ねる
彼もやはり切迫してたのだろう。擬態を保つ余裕がないようで、私の口の中で唇と舌が不思議な柔らかい感触に変わった
彼は所謂、スライムのような不定形なタイプの触手だ
意思の力で形と色を変えている
いつもはギリギリまで人間の姿を保とうとしているが、今日は余裕がないらしく、そんな姿を可愛いと思った
変な話だけど、彼の欲情を確認するとあれほど大きくなっていた私の渇望は落ち着きを取り戻した
とはいえ、それは感情の事。身体はのっぴきならない状態になり始めていた
アメーバが獲物を包み込むように、彼の身体の中に私の首から下が沈んでいる
そして、彼の身体はズリズリと私の表面をすりつけるように動くのだ
たまらなく、なって私は空気の固まりを吐き出し続ける
合間に、彼のごめん、ごめんの情けない声の呟きが聞こえてくる
自分を抑える事ができないらしい
そんな風に彼が私に欲情してくれている事が嬉しいと伝えたいんだけど、嬉し過ぎて、気持ち良すぎて言葉をつむぐ事が出来ない
やっと、本当にやっと「う、うれしいっ、だ、だいしゅきぃ〜、い〜っ」と吐き出すのがやっとで、あとは悲鳴になってしまった
それも仕方ない
だって、私の必死の言葉と同時に彼が入ってきてしまうんだから
柔らかいゼリーみたいなぬるっていう感覚が、私の中でみるみる中の大きさにあわせて、固くなり、ズルズルと動きだすと、私の中の壁までもが動かされる
全体に刺激がきてしまうので、良いところが全部感じてしまって何がなんだかわからないのだ
いつもは情緒ある駆け引きなんかもあって、それも凄く良かったはずなんだけど、フリーフォールを高速で上下するような感覚の快楽に、私はすっかり魂を抜かれてしまって、発情期の猫以上に理性も何もかも手放しちゃった状態になってどうしようもできない
駄目、駄目、駄目
溶ける、溶けちゃうよ
熱くて白くて
何?何?何?
って状態なんだけど、それが思考にも言葉にも反映されてなくって、ただ死にかけの昆虫みたく、じたばたしているうちに……
爆発しちゃって、粉々になって天国に来たっていうか、自分が天国に吸収されたと思ったんだけど、どうやら、気絶というものをしていたらしい
目覚めると彼が擬態に戻って枕元で泣いていた
思えば、かける言葉はたくさんあるんだと思う
貴方は貴方だよとか、ありのままの貴方が好きとか
でも、その時の私は何も言えずにただ彼を抱き締めるしかできなかった