――13――  
 
 どこかでダレカが話している。一人ではない。複数。それも結構な人数。  
 吹き抜ける風に林の梢がざわめくようなイメージ。  
「ぐっ……う、くそ、なんだってんだ」  
 気絶から回復するというのはけして良い気分にはなれない。今も例外ではなかった。  
 どれほど意識を失っていたのか分からなかったが、大して過ぎてはいないのだろう。生理的な反応は何も起きていない。  
 気が付けば、健二は床の上に大の字で寝転んでいた。  
 無意識のうち、仰向けにひっくり返った体を起こそうとして。  
 出来なかった。  
 体どころか、腕すら持ち上がらない。手も足も指先まで感覚はしっかりあるが運動神経だけが抜き取られたみたいに、ピクリともしない。まるで縫いとめられた蝶だ。  
「う?なんだぁ?!体が動か……ない?」  
「目が覚めた?」  
 鈴を鳴らすような綺麗な声。そこで、ようやく初めて健二の知覚は辺りを認識した。  
「え、ア……?うぁ……ひぃぃっ?!」  
 した結果、彼の口からは引きつった悲鳴が漏れた。  
 それも無理はない。  
 自分の周囲が恐ろしく現実感を欠いた、悪い夢の中にいるかのような部屋と化していたからだ。  
 エアの視線が健二を射る。  
 生き残っているテーブルの上、テレビの上、カーテンレール、照明のシェード、ラックの棚板。  
 座り、寝転び、肩を寄せ合い、ぶら下がり、あるいは背の翅を仄白く光らせながら宙に浮いて。  
 何体ものエアが、部屋の真ん中で大の字に寝転ぶ健二を冷たく見下ろしていた。姿かたちは言うに及ばず、全てのエアが浮かべる表情までもが酷似している。  
 いまや彼女達となったエアの眼からは、以前のような優しさや人懐っこい雰囲気はまったく窺えなかった。  
 強いて言えば、そこに浮かぶのは無邪気な残酷さ。幼い子供がこれっぽっちの悪意も持たずに昆虫の翅や肢をもいで遊ぶように、清々しい残酷さとでも言うべきものが浮かんでいる。この場合、どちらが子供でどちらが虫か。言わずもがなだ。  
 これが本当に同じエアなのか。健二にそう思わせるほどの変わり様。  
 健二の背筋を恐怖が駆け上がる。  
 恐怖は、いつの間にかエアが流暢に日本語を操っている事すら忘れさせていた。  
 
 滑稽なくらいに狼狽する健二の視線が少し下がった。目は自分の胸の上空三十センチあたりに焦点を結ぶ。  
 そこにもエアがいた。  
 健二と距離を置く他のエア達と違い、そのエアが増えた彼女達の基となった最初の一体なのだろう。  
 周りを代表するような雰囲気をその身に帯びて、四枚の翅をいっぱいに伸ばし、一人、宙に浮く。  
「な…なぁ、エア……これは冗談だよな?放してくれるよな?」  
「イヤ」  
 さっぱりとした、いっそ爽やかと言っていいほどの声音。  
 エアはほんの一音節で、ばっさりと健二を拒絶する。  
「ケンジ、キラい。ゴハンくれなかった。  
 風と歌わせてくれなかった。  
 イヤだったのに力を使わせた。すごくイヤだったのにアタシのこと、恐がらせた」  
 健二の背を冷たいものが伝い落ちる。  
 エアの言葉が感情に塗れた、激情が吐かせた言葉ならばまだマシであったろう。今のエアの言葉は、まるで鉄のように冷たく硬かった。くるくると吹く風そのもののように、気まぐれな感情を持つエア。それが今の彼女からは全く感じられなかった。  
 健二がただ事ではないと悟るには十分すぎた。そして、悟った所でもう何もかもが遅すぎた。  
 膨れつつある健二の不安を他所に、裁判の判決にも似た厳かな言葉が、狭い部屋に殷々とこだます。  
「アタシも頑張ったのに……天秤を傾けてあげれば嫌な事しなくなると思ったのに。  
 いつか幸運の欲に負けないようになってくれると思ったのに。  
 でも、もう嫌い。ケンジなんか大嫌い。アタシ、母様のところに帰る」  
 最後通告が無情なまでにたんたんと突きつけられる。  
 
 エアのような妖精達。シーリーコートと呼ばれ括られる妖精は人を好む。  
 単純に人の立場から見て、人に利のある存在ならばこっち、と言うただそれだけの単純なカテゴライズであるのだが、シーリーコートは人間への奉仕や善意ある行いを好む。  
 それは、シーリーコートとはそういう存在だ、と信じられてきたからだ。  
 永の年月に渡り、数え切れぬほどの人間がそう信じた。  
 そういう存在であると認識され、無数の信じる心が妖精達を枠に嵌め、自然界で確固とした姿を与える。  
 良き妖精は良き者に幸運をもたらす。  
 古来から彼女らはそう信じられてきた。  
 それ故に、妖精は運の匙加減を調整する能力を身に付けていた。  
 
 そして逆もまた然り。  
 信じる者がいなくなってしまえば、信じない者が増えていけば、妖精は自然界では存在そのものを保てなくなってしまう。  
 人間数世代分以上に相当する長い年月を経て確固とした自我のカタチを持つ妖精ならば、誰が何と信じようが信じまいが、こちら側に来ても存在は揺らがない。  
 しかし妖精としてはまだまだ若齢である、エアのような妖精は一溜まりもないだろう。  
 それは水を満たした巨大な水槽にインクを一滴垂らすのと同じ。  
 いずれ世界の法則によって捕らえられ、希釈されて薄くなり、儚く一陣の風となって消えてしまう。  
 この世の中に妖精なんている筈がない。  
 時代を超えて受け継がれる集合無意識とも言うべき数多の想いは、妖精の実在を否定し、精神的な影響が多分に肉体に表れる妖精達を根本から消し去ってしまう。  
 その為の鳥籠であった。  
 妖精郷に生える蔓草を加工して作られた鳥籠は、彼女を閉じ込める檻であると同時に結界でもある。  
 蔦で囲われた内側を妖精郷の飛び地に仕立て上げるのだ。  
 だが、いかに女王の作り出した鳥籠の魔力と言えども磐石ではない。  
 沈まぬ船がないように、自然界の法則は結界を乗り越えてじわじわと内部を侵蝕し、存在を信じてもらえない妖精はいずれは自己存在を保てなくなる時が来るだろう。  
 そうなる前にたとえ何があろうとも妖精の実在を信じ、己を信じてくれる者を探し出さねばならない。  
 ならないのだが、  
「ケンジ、アタシを信じてくれなかった。  
 最初はアタシを信じてくれてた。でも、今は違う。  
 ケンジ、アタシの力だけを信じてる!アタシがあげる幸運の力だけを信じてる!!」  
 血の通っていなかった言葉は徐々に感情を取り戻し、しまいには叩きつけるような叫びと化した。  
 一転。  
 恋人の耳元で愛を囁くような口調。  
「ケンジはアタシの力が欲しいんでしょ?アタシの事はいらないんでしょ?  
 アタシが居てもいなくてもどうでもいいんでしょう?  
 だったら……そう、アタシ達もケンジはいらないの」  
 クスクスと部屋中のエアが一斉に嘲笑う。  
「アタシは人間の世界が見たかったの。妖精郷に居れば何も気にしないで楽しく暮らせるのは分かってた。  
 それでもアタシは人と、人の世界を見てみたかったの」  
 何も答えられないでいる健二の目の前で宙に浮いたまま、両手を広げ、軽やかにくるりと回ってみせる。  
 
 その動作が、言葉の意味を無理やりに噛み締めさせる一呼吸を作り出す。  
「でもアタシは、アタシがコッチの世界に耐えられない事も知ってた。だから、母様にお願いしたの。籠を作って下さいって。  
 母様は作ってくれる代わりにいくつか条件を出されたわ。まずは人間と契約を結ぶ事」  
 妖精の傍らに居るに相応しい人間を選別する、その為の三つの契約である。  
 あの契約程度の事、信じ、行動を貫けぬとあっては到底、妖精の存在を信じぬけるとは思えない。  
「それに従い、アタシを信じてくれるニンゲンを見つけられれば、それで良し」  
 彼女の母である女王は、婿探し、と呼んでいた。  
 若干の語弊がありそうだが、まぁ、男捕まえるのに変わりはないのだから、そういう意味では女王の言葉は合っている。  
 黙って聞いていた恐る恐る健二が口を開いた。黙って聞いている恐怖に耐えられなくなったのだ。  
「そ、それで、もしも見つけられなかったら……」  
「オムコサンを見つけられなかったら母様の許に戻る、さもなければコッチの世界のルールに飲み込まれてそのまま消える。  
 それが母様と交わした約束よ」  
 だが帰るにしてもエアを守るのは、妖精郷において最高クラスの魔力を持つ女王の作り上げた鳥籠。  
 外からも中からも打ち破るのは至難の技だ。そう、それがエア一体であるならば。  
 時に妖精達が輪舞して自然界に妖精の輪を残すように。たとえ一体ではまるで歯が立たぬ壁でも、数が集えば話は違う。  
 最大級にリンクしやすい同種の魂を増やして、精神を同調させてやれば、魔術の威力は跳ね上がる。  
 魔術の腕が拙い年若い妖精でも打ち破れるだろう。  
 壁を破った後に、強力な魔術によって消費した大量のエネルギーを速やかに補充できる環境であれば。加えて、鳥籠を出て女王の下に辿り着くまで実体を維持できるだけのエネルギーを確保できる環境であれば。  
 故にそれは諸刃の剣。  
 だから女王はエアとの契約と同時に、彼女に呪いを成したのだ。エアの力を押さえつける為に。無為に力を使い消耗してしまわないように、と。  
 まだ見ぬ異界に焦がれる我が子を思っての心づくしと言えよう。  
「だから帰る為の力を、健二から貰うの。イヤだって言ってもダメ。泣いても叫んでも、もうダメ。  
 アタシも健二にいっぱい力をあげたから、オアイコでしょ?」  
 健二に反論する暇を与えず、エア達は搾取にとりかかった。  
 くっと背を反らせた。息を吸う。細い喉が、蛍光灯の不自然に白い明かりに浮かび上がる。  
 数瞬の間。  
 エア達が一斉に口を開いた。  
 
 小さな口が絶叫の形に開けられ、そこから声にならない声が迸った。  
「Kyueeriii――――!!」  
 エア達が叫ぶのは人間の可聴域を超える絶叫の渦だ。  
 健二の鼓膜を通り抜け、脳をピンで突かれるような不快さを与える。叫び声の持つ不可視のエネルギーに、部屋にあるガラスというガラスが凄まじい勢いでビリビリと振動する。  
 ぐにゃりと空気がうねる。  
 音として捉えられなくても皮膚を圧する空気に何がしかの意図、それも悪意めいたものを感じて彼の顔が引きつる。  
 一際大きく空気が揺らいだと思った刹那。  
 ぱん。  
 濡れたタオルを壁に勢い良く叩きつけたような音。乾いた大きな破裂音と共に健二の衣服が、妖声に弾け飛んだ。  
 床に仰向けに寝転んでいるので、背で押さえつけられている箇所は辛うじて残ってはいるが、もはや服は布切れの塊と呼ぶべき物に変わり果てていた。  
「う、うわぁっ!……あ?!あれ、なんとも…ない?」  
 紙吹雪ならぬ布吹雪がはらはらと落ちてくるのを、健二は呆然と見つめる。  
 痺れていて動けないので体の方を見ることも足を視界に持ってくる事も出来ないが、少なくともどこかが痛かったりおかしかったりする箇所はない。  
「は、ははっ。なんだよ、驚かせやがって」  
 肩透かしに終わった恐怖は、反動で虚勢に近い笑いを生んだ。  
 しかし、エアにはこの程度の悪戯で終わらすつもりは毛頭なかった。むしろ、今のはこれから行う行為の下準備。  
 可愛らしい顔から一切の感情を消し去り、健二の胸の上に浮いていたエアがゆっくりと高度を下げる。  
 素肌を晒す健二の胸に、僅かに荷重がかかる。  
 胸に降り立ったと見るや、そのまま、すっと流れるような仕草で身を屈めて四肢を付けた。  
 手足を地に――今は健二の胸が地面代わりだが――付けて四つん這いになる。背中を反らせて、可愛らしい小振りな尻をツンと高く掲げている。いわゆる女豹のポーズ。  
 手足は痺れているが、首から上は麻痺の効きが悪いのか、それとも彼の声を残すためにわざとそうしてあるのか。少なくとも文字通り指一本動かせない手足と違って、何とか身じろぎする程度には動かせる。  
 健二は苦労して首を動かす。視線を下げれば、エアが見つめている。  
「エア……」  
 視線が絡み合う。  
 身体は動かないが何とか口は動く。健二は、身体中に取り付いたエア達をどけてくれるよう、自分を解放してくれるように頼もうとした。  
 哀願を中に含んだ口は、半ばまで開きかけたところで止まった。  
 エアの冷徹な瞳に、喉元まで出かけた哀願が凍りつかされた。  
 その瞳の色はかつては空のブルーだったが、いまは極地を覆う氷の蒼だ。  
 そこは絶対的な冷たさを含んでいた。  
 
 人が人に冷たくする、というのとはレベルが違う。それはあくまでも人同士の話、少なからず意思の疎通は可能だ。  
 人が地を這う蟻の意思を汲み取る事が出来ないように、彼女の瞳からエアの意志は全く読み取れなかった。  
 エアは健二を頑として拒んでいた。  
 存在原理の根本からして人間とは異なるモノが、そのモノに相応しい価値観と倫理を持ってそこにいる。  
 人知の外に棲む者の理を持って、エアは健二を見つめていた。  
「健二の精と血と肉と体を貰う」  
 ごく簡単に、短く、そう告げた。  
 血液も精液も単体で科学的に見れば、およそ無味乾燥な単語の羅列に終始する。だが、その専門用語と数字の集合体も、重なり合いつつも異なる法則を持つ世界の住人にとっては話しが変わってくる。  
 彼らにとって、それは通貨のようなものだ。  
 生命力と呼ばれる、この世に生を受け活動するあらゆる生命体が内包するエネルギー。それをやり取りする為の媒介物。  
 吸血鬼が血を糧とし、夜魔が精を啜るのも全ては同じ事なのだ。  
 そんな人でないモノの理屈を、人である健二に理解できる筈がなかった。  
 エアが踵を返す。  
 そっちの理解など知った事か。言いたい事は言った。仕草がそう告げていた。  
 格好は四つん這いになった女豹のポーズのまま。健二に見せ付けるようにして左右にふりふりと揺れ動く尻が遠ざかっていく。  
 悩ましく振られるお尻の間、真っ白い肉の谷間に切れ込みのように入った一筋のスリットを認め、そこではじめて健二はエアが服を脱いでいることに気づいた。  
 それだけではない。苦労して視線を向ければ、何体ものエアが見える。部屋にいるどのエアも一糸纏わぬ姿だった。  
 手も足も胸も尻も、薄く、細い。成熟していないボディラインの、熟れた肉の重みから解き放たれた姿。  
 捕らえどころなく吹き抜ける風のように、流れるような肢体。  
 彼女らの身を彩るアクセサリーは、高く晴れた空を切り取ってきたような素晴らしく美しい薄青い髪のみ。  
 どのエアもがまるで同じだった。  
 部屋のあちらこちらで、妖精という単語から連想されるに相応しい見事な裸身を晒していた。  
 茫然とあちこちを彷徨っていた健二の視線が、ふと遠ざかりつつあるエアの小さな尻に吸いつけられる。  
 蕾がそっと花を咲かせるように、太腿の間にひっそり佇む縦筋は僅かに綻んで。  
 透明な雫は花弁を濡らす朝露のようで。  
 とろり、と零れ落ちては内腿を伝い落ちる。  
 身体中に絡みつく呪縛を振り切るようにようにして、健二の肉棒がドクンと一つ震えた。  
 
――14――  
 
 健二の視線をお尻の辺りに感じ、魚が餌に食い付くように視線が動くのが面白くって、わざとふりふりと振ってやりながらエアは歩を進める。  
 やがて股間に到達した。エアの手足の下で陰毛がシャリシャリとした感触を返す。  
 黒く縮れた下草を掻き分けて、とうとう巨木に辿りつく。  
 それは恐怖からか。まだ力なくうな垂れていた。それでもエアの身長の半分以上はあるし、竿も胸囲より太い。人間的には並なのかもしれないが、妖精的には超巨根だ。  
「よいしょっ……と」  
 健二の股の間にしょぼくれた様子で垂れている肉棒を抱き枕のように軽く抱いて、ペトンと腹の側までひっくり返す。  
「や、やめろ!」  
 健二が悲鳴を上げる。男性の急所を掴まれる事に、ぞくっと恐怖が走る。  
 ソコがどれだけ弱いのか、男であれば誰でも知っているだろう。  
「うふふ、本当の健二の気持ちはどんななのかな?ふぅん、やっぱり怖い、か。  
 へぇ……エッチな気持ちもあるんだ?」  
 汚れなき存在が卑猥な性器に進んで手を伸ばす。  
 そのシチュエーションに惹かれないと言ったら嘘になる。その嘘をエアは見抜いていた。エンパシーと、腕中から伝わる震えで。  
 言葉と違い、体は実に正直だ。  
「うふふ、ほーら、怖くなーい怖くなーい」  
 ぐずる幼子をあやすように、頭を撫でてやる。頭は頭でも、亀の頭だったが。  
 半分まで包皮を被った卑しい肉塊の先端に、小さな掌が這い回る。  
「くぅぅっ……!はぅっ!あぅっ!」  
 健二の嘘はあっけなく暴かれた。自白の供述は、彼の口から漏れる声によって。  
 恐怖に変わって健二を支配し始めているモノの名は快感。  
 エアの手が亀頭の腹を撫でるたび、全身が引き攣るようになる。  
 弦を爪弾くようにちょっと指を立てて撫でられると、悲鳴にも似た喘ぎ声がだらしなく溢れる。  
 俄然、健二の肉棒は主の意思を無視してやる気を見せ始めた。  
 筋肉に指令を送る神経だけがするりと抜き取られてしまったかのようで、指一本動かせない癖に感覚だけははっきりとしている。  
 逆に動かせない故に、送られてくる快感から逃げられず、もろに味わわされる。  
 見る見るうちに肉棒が膨張を始める。亀頭を軽く抱くエアを、ぐいっと押し退けんばかりの勢いだ。  
「ひゃん!あははは、オチンチンあっつくなってきた。ずるずるぅってオチンチンの皮が剥けてきたよ」  
 男性器の卑称をためらう事無く口にし、健二を情け容赦なく玩んでは楽しむエア。  
 
 まるで初心な子が異性に初めて抱きしめられて緊張するように、エアの体の下で肉で出来た抱き枕が熱く熱くなっていくのが感じ取れた。  
 そこは既に腹に付かんばかりに雄々しく反り返っている。  
 その様が可愛くって、思わず頬擦りする。  
 なにせ、これからたっぷりと頑張って貰わねば困るのだ。  
「どう?」  
 不意に、頭上から声がかかる。  
 頬擦りを止めて見上げれば、そこには頬擦りするエアと同じ姿のエア。彼女の姉妹の内、一体が丁度舞い降りてくるところだった。  
「うん、大きくなってきたよ。すごい硬い」  
「そう、良かった」  
 重力をまるで無視して宙に浮き、大気の妖精の名に恥じぬ軽やかさでフワリと降り立つ。  
 エアの降りる先。それは、健二の肉棒の上だった。  
 先っぽ辺りにしがみ付くエアのほんのちょっと下。  
 裏筋に、つい、と足を降ろした。  
 まさしくこれぞ妖精と言えるような優雅な仕草。  
 空から音無く降る雪のように、まるで重さを感じさせない。これで戯れる先が一輪の花であれば、さぞや絵になるのだが。  
 残念ながら、いま彼女らが弄んでいるのは、オシベには間違いないだろうが男の欲望の象徴だ。  
 彼女らが会話をしている間にも、健二の牡はどんどん猛ってゆく。いや、猛らされてゆく。  
 まっさらな砂浜に足跡を残すみたいにして、ごく軽く踏んでやる。あくまで軽く、そぅっと、優しく。  
 健二がうめく。  
「どう?」  
「うん、ぷっくりしてる。そのうちパンって破裂しちゃいそう」  
 質問するエアと、回答するエア。さっきとは立場が逆になる。  
 があ、と健二が悶えた。  
 足の指で裏筋の縒り集まった紐を摘んでやっただけで、この体たらく。  
「そう、良かった」  
 くすくすとエアが笑う。  
 ぽとりと落とした水滴が波紋を広げるようにして、何人ものエアの笑いが重なる。  
「たくさん、出してもらわないとね」  
「そうだね。たくさんたくさん、ね」  
 二体のエアは、懐中と足元で淫らな遊びを続けながら、無邪気に微笑みを交わした。  
 
 白い両の腕にグロテスクな肉棒の先端を抱くエア。  
 長い髪がふわりと流れては、悪戯げに竿を擽り、健二にむずがゆい快感を与える。  
 彼女の眼下には、ぷっくりと張り詰めた亀頭がさらなる愛撫を欲しがってひくついていた。  
 その先端。  
 彼女から見ると九十度ほど方向を回転させた唇に似ている切れ目。  
 エアは鈴口に、そっとキスをする。そこは既に透明な粘液で溢れていた。  
 ちゅぷ、と卑猥な水音が微かにした。  
 途端、健二の脳髄を襲う強烈過ぎる甘い刺激。思わず腰が跳ね上がろうとして……微動だにしない。反射的な行動すらも封じられた体は強すぎる刺激を逃がす事が出来ず、快感が上半身を駆け上がり彼を直撃する。  
「うあ!」  
 悲鳴じみた喘ぎ声に気をよくしたのか、エアの行動は過激さを増す。  
 薄い唇を軽く開き、歯を立てないようにして鈴口の周りを食む。  
 ぱんぱんに硬く張りつめていながらも粘膜の柔軟さを併せ持つ、なんとも言い難い奇妙な触感を愉しむ。  
「がああ!」  
 はむ、と咥えるたび、エアの後ろから悲鳴が上がった。  
 それが面白くって、はむ、はむ、と甘噛みを続ける。  
 愛し合う恋人とそうするように、舌を伸ばして、そっと相手の唇に差し入れる。  
 肉欲を刺激する音が切れ切れに漏れる。  
 ちゅぅっと吸い上げると、先走りで口内が潤う。  
 イヤでも口内に流れ込んでくる、獣の匂い。そこにはエアの求める物の予兆がしっかりと混ざっていた。  
 エアはいつしか膝立ちになっていた。  
 そそり立つ雄に半身を預け、まるで恋人とするように抱きついて執拗に口付けを交わす。  
「ふふ、健二の蜜がたくさんたくさん溢れてる」  
 亀頭にすがりつくように体を預け、ピンポイントに執拗な口唇愛撫を繰り返す。  
「ん、ふ、はふぅ…あはぁ、美味し……」  
 蜜を零す花と、それに惹かれて集う虫のようだ。  
 普通と違うのは、虫が強制的に蜜を搾り出させているところ。しかも、虫は一匹ではなくて群れだった。  
 あちこちで目配せ一つ交わす事もせずに、息の合った責めを見せている。  
 
 互いに互いの考えが全て分かっていると言わんばかりの動きだが、それも当然。何せ、今はたくさんに分かたれたとは言え、元は同じエアなのだ。分かれる時点までの記憶も、ベースとなる人格や思考パターンまで共通している。  
 薄い腹筋の谷間を舐めあげるエア。  
 睾丸の皺一つに至るまで揉み弄ぶエア。  
 裏筋を優しく踏み撫でるエア。  
 いつの間にやら健二の体に群がっている全てのエアが、彼を快楽の頂きへと襟首掴んで引き摺りあげていく。  
 全身から腰に向かって甘く痺れるような疼きが流れ込み、そのまま脊髄を伝い登って、健二を揺すぶる。理性なんかとっくにグズグズにされている。  
「くすくす、我慢なんかしちゃダメだよ。いつもみたいにアタシ達が健二の欲望を満たしてあげる。  
 出して。健二の白い命、いっぱい出して」  
 色欲に染まった頭では、もうどのエアの口から出た言葉なのか判然としない。  
 淫蕩な言霊が耳から入り込んで、脳までも犯す。  
 上の口からは情けない悲鳴が、下の唇からは白い怒涛が噴き出す。  
 優しく冷徹に亀頭愛撫をしていたエアに逃げる暇も与えず、欲望がぶちまけられた。  
 透明なカウパー腺液を押し退けて ビュクビュクと音すら立てそうな勢いで飛ぶ白濁液は、妖精の小さな身体をいやらしく染め上げていく。  
 それをエアは、嫌がる素振りを欠片も見せずに真正面から受け止めた。  
 嫌がる理由などエアには無いからだ。  
 これこそ、人間の精液こそ今の彼女達が切実に求める物だった。  
 端正な顔と言わず、緩やかに起伏を描く乳房と言わず。  
 精液はそこら中に絡みつき、粘っこい白糸を引きながら滴り落ちる。  
 柔肌の上にぶちまけられた白と半透明のマーブル模様を、エアの細い指先がゆるゆると遊ぶようにかき混ぜる。  
 ぺと、と自分の肌の上に掌を広げ、雄臭い白濁をこそげ取った。  
 掌を合わせて椀を作れば、まだ熱を保ったままの白いスープがたっぷりと溜まる。  
 気持ち悪さに捨てようとしているのではない。そうしようと言うのであれば、これほど蕩けた目は見せないだろう。  
 ちゅ。ぺちゃ。じゅる。じゅる。  
 こくり、こくりと喉が動いては掌中の精液を飲み下していく。  
 常ならば美しい歌を紡ぐ薄桃色の唇が、一心に雄の欲望を飲み干していく様は、ひどく背徳的だった。  
 二杯目もすぐに干す。  
 
 三杯目を掌中に満たした時。  
「アナタだけずるいわ」  
「あ!やん!やだ、なにするのぉ」  
 飛んできた他のエア達にあっという間に群がられ、押し倒された。  
 他のエア達はまったく躊躇を見せず、迷わずに精液塗れのエアにキスをした。  
 キスをした唇は肌から離れずに、彼女の胸と言わず腹と言わずぶちまけられた精液を舐め取っている。  
 綺麗な顔にもベットリと付着した精液を舌の腹が拭い去っていく。  
 性的な気持ちよさもあるが、親猫が子猫を舐めるような、家族の情を示す丁寧な舌先の動きは純粋に心地良い。  
「あ……」  
 エアは恍惚とした表情で、姉妹達の奉仕を受け入れていた。  
 が、妖精とは悪戯をする者。それが身内でも関係ない。  
 乳房に――房と呼ぶにはだいぶ大きさと丸みに欠けてはいるが――唇が吸い付く。乳輪のほとんど無い色素の薄い乳首が、同じような色合いの唇に優しく食まれる。左右の乳首が同時にゾロリと舐めあげられた。  
 突然の胸への愛撫に、エアが顔を仰け反らせて啼く。  
 それを皮切りに、エアの身体のあちこちが淫靡な水音を立て始めた。  
 チュプ、チュプ。にち。くちゅ。チュウ、ちゅるっ。  
 小さな舌と唇が全身を這い回る。  
 そのまま二体、三体と一緒に口付けを交わし、舐め取った精液を舌を絡めてはお互いに交換し合う。  
 肉の詰まったベッドの上。見せ付けて官能を煽るように、自分から白濁汁をまとって妖艶な化粧をしては、しなやかな肢体を絡ませあう。  
 ごくり。  
 腹の上で繰り広げられるレズシーンに、健二は知らず知らずの内、生唾を飲み込んでいた。  
「ねえ、期待されてるよ?」  
「そうみたい。ケダモノみたいな目してるもの。もっとよく見せてあげようか」  
「あぁん!ひゃん!んっ、はぁ、あふぅ……え?きゃ、やん、なにするの?!」  
 周囲のエアが悪戯ッ気満載と言った風にニヤリと笑う。一斉に悪そうに笑う様子は、普段が可愛らしい分、ちょっと無気味だ。  
 体中を舐められているエアをガバッと持ち上げて、本人がジタバタもがくのも気にせずに、体勢を変えさせた。  
 健二の視線の先。  
 無毛の秘裂が白濁に濡れて、切なげに息づいていた。  
 
 妖精の羞恥心は人はちょっと違うのか。それとも、もう快感に思考が蕩けて分からなくなっているのか。不浄の孔まで見えんばかりに開脚させられ、男の目に秘部を晒していると言うのに嫌がる素振りも見せない。  
 浅く熱い呼吸を繰り返すエアに、一斉に彼女の姉妹達が襲い掛かった。ピラニアに群がられる牛のような、と言えば適切だろうか。  
 ツンと先っぽが尖りきった乳房を、薄く肋骨の浮いた脇腹を、色んな体液で濡れる内腿を。  
 幾つもの舌が、指が這う。  
「んうぅ、ふ…うん、そこ……あ…ペロぺロされてるぅ、っは、あん、いいの……」  
 舌が動くたびに綺麗に精液は拭われ、代わりに肌の上にキラキラと濡れ光る唾液の線が引かれていく。  
 エアの滑らかな胸に出来た白い川は重力に引かれてねっとりと流れ落ち、お腹を通って、エアの股間を目指している。  
 その白濁の流れに何本もの細い指先が突っ込まれる。  
 秘裂の左右、ふっくらとした丘を撫で上げては指先にこびり付いた精液を口に運び、味わう。それが彼女達の好物である蜂蜜だと言わんばかりに、口腔で転がし、さんざん舌に絡めてからゴクリ。  
「ん〜〜、っん!きゅぅぅ……もっとぉ、んぅ、あぁん、せつない、のぉ」  
 姉妹達の指は敏感な部分をギリギリで避けて通り、肝心の秘裂には触ってもらえない。  
 くすぐったさにも似た快感にモジモジと股を閉じようとする動きは周りのエアによってガッチリとガードされ、いやらしく腰をくねらせ踊る姿を健二の目に焼き付けた。  
 気が付けば、健二の肉棒は既に力を取り戻している。亀頭はパンパンに張り、雁首のエラは先ほどよりもグッと凶悪な張り出しを見せていた。  
 これだけの痴態を見せ付けられては無理も無い。彼の鼻息は荒くなり、目は欲望に血走っている。  
「ねぇ、後ろの、気付いてる?もうあんなに大きくなってるよ」  
「うん、次もたっぷり射精してもらえそうだよね。じゃあ、そろそろ彼女にはどいてもらおうかな」  
 何事も独り占めは良くない。自分達は同じエアから分かれた姉妹なのだから、いつも仲良く、どんな獲物も平等に。  
 嵐の中の小船よろしく、体も心も快感にもみくちゃにされるエア。  
 誰かの舌が翅の付け根を舐める。  
 誰かの唇が乳首を吸いあげ甘噛みする。  
 誰かの指が前後の孔にツプリと差し挿れられた。  
「――――――ッ!!」  
 声にならない叫び声。  
 雷に打たれたように硬直し、見開かれた瞳からフッと意思の光が失われ、トサッと崩れ落ちる。  
 横たわるエアの開かれた足の間から、しょろしょろと音を立ててナニカが漏れだし、健二の腹の上を流れ落ちていった。  
 あまりに激しい絶頂にイったまま帰ってこないエアを、他のエア達がそのまま抱き上げて、どこかへ運んでいった。  
 痛いほど腫れ上がった健二の肉棒が、ヒクヒクと揺れる。  
 彼の愚息は、極上のレズショーのクライマックスに歓喜の涙を流してスタンディングオベーションを送っていた。  
 
「わ、な……何だぁ?」  
 半ば怯えを含んだ健二の視線の先。  
 とん、とん、と足音一つさせずに軽やかに降り立つ。  
 僅かに足を降ろした衝撃を感じただけで、重力から切り離されているみたいに、まるで重さを感じない肢体が二つ。  
 健二の鳩尾の辺りに、秘めやかな彼女自身を隠そうともしないで居た。  
 ふっくらとした柔らかそうな無毛の丘の下。  
 楚々と閉じ合わさった大陰唇の合わせ目を押しのけて、発情し充血した小陰唇がほんのちょっとだけ姿を見せている。  
 内側の淫肉を僅かに覗かせる唇の隙間からは、はしたない涎がつぅっと一筋、内腿に濡れ光る道を作ってエア達の期待の程を示していた。  
 待ちきれない、とばかりに自分の両腕で己自身を掻き抱く。  
 発情した者に特有の熱く浅い呼吸を繰り返しながら、肉の上を歩く。  
 そうして胸の上まで来ると、肩幅よりも広く股を開く。  
 開いた両足に引っ張られ、自然、くぱぁといやらしく淫裂も口を開けた。  
 塞き止められていた透明な粘液がじわりと溢れ、蛍光灯の明りを反射して煌めいて、エアの秘裂に淫らなアクセサリーを添える。  
 寄り集まり、重くなった雫が一滴。  
 ねとり、と糸を引きながら足元に広がる人間めがけて落ちていく。  
「くぁっ!」  
 狙い過たず着弾。健二の両方の乳首からは、欲情の炎で熱くなったエアの体温が感じられた。  
 二体のエアは大きく股を開きながら徐々に腰を降ろしていく。  
 左右それぞれの乳首を跨いで、健二の胸の上にぺたりと座り込んだ。まだ完全に座っていない。尻を軽く浮かせたままだ。  
 膣口を擦り付け、潤滑油代わりの愛液をたっぷりと塗りつけてやる。  
「く……うぅっ!」  
 たったのそれだけで健二が女のように悶える。  
 その無様な様子にエアは愉しげに笑い、腰を完全に落した。  
 左右に一つずつある小さな肉塊が、ちゅるん、と飲み込まれた。  
「あううぅっ!」  
「Kyun!……uu!」  
「Aaaaa!!」  
 三つの口から三者三様の喘ぎが上がった。  
 いくらエアが小さいとは言っても、乳首では女の芯の奥底まで深く突き上げるようなサイズではない。が、それでも十分な快感が得られる。  
 ゆるゆると二体のエアが動く。  
 
 股を揺らし突起を擦りつけるように、腰を前後に動かしている。熱に浮かされたように緩やかに緩やかに。  
 次第に二体のエアの秘所からはクチュクチュと水音が漏れ始め、卑猥なリズムを刻み続ける。  
 と、暇を持て余したのか。  
 一体のエアが翅を広げて、すーっと大きな半円を描きながら緩やかに降下してきた。  
 そのまま健二の右側に陣取るエアに後ろから抱きつく。  
「あぁん!何するのよぅ」  
「いいじゃない。アタシも遊びたいんだもん」  
 健二の乳首で淫戯に耽るエアの背中に、ぺたんこな胸を押し付け、擦りつける。  
 後ろから抱きついたエアの左手指は、前にいるエアの薄い胸を揉みしだき、右手の方はと見れば肉付きの薄いヒップの谷間に消えている。  
 もぞもぞと蠢く様子から、何をしているのかは明白だった。  
「あ、ダメ!そっちは……!」  
「ダメじゃないでしょ?元は一つの同じアタシだもの。お互いにぜーんぶ知ってるでしょ?  
 どこが好きで、どんな風にされると感じるのか、ね」  
「あっ!やんっ!ちょっと、それ反則だよう、あ、ダメなのぉ、お尻の穴はだめぇ。  
 ぁん、お尻ぃ、こちょこちょするの、いやぁぁ……」  
 口では抗うものの、それが偽りであるのは明白だった。  
 乳首に跨るエアのアナルが、白魚のような指先でちょんちょんとノックされると、  
「ひゃん!」  
 身体全体に緊張が走り、  
「はうっ!」  
 健二の乳首を食む秘裂までもがキュッと収縮する。にわかに量を増し、押し出された愛液がぴゅっと飛沫を上げる。  
 無邪気に悪戯する指が動きを変えた。  
「あ……っはふ、ん、ふぅ」  
 指の腹が皺を撫でつけ、悪戯のお詫びとでも言いたげに窄まりの周りをいたわるようにして優しくゆっくりと円を描くと、エアの全身を強張らせる緊張がとろとろと溶け出していく。  
「あら、あんまり油断してると、こう、よ?」  
「ひゃうっ!んぁ!つっついちゃヤダぁ!」  
 その繰り返し。  
 甲高い嬌声と共に二人で絡み合う右とは対照的に、左のエアは一人、静かに快感を貪っていた。  
 細腰が前後に動き、痛いほど勃ちあがった健二の乳首を浅く咥え込んでは、愛液を掻き出す。  
 かと思えば、お尻が丸く円を描くように踊り、陰唇全体を満遍なく健二の乳首に擦りつけていた。  
 充血した肉の弾力がエアを楽しませ、昂ぶらせる。  
 伏せられた瞳は快感に潤み、睫毛が震える。  
 
 粘っこい水音の合間合間に、ふ、ふ、と切れ切れの熱い吐息の音が健二の耳まで届く。  
 片方の掌全体を胸に滑らせるようにし、もう片方は太腿の間に差し込まれている。  
 女の子の身体中で一番敏感な部分を弄っているのだろう。指がくりっとナニカを潰すような動きをする度に、ぴくんと身体が仰け反る。  
 その度に秘孔全体がきゅんとなり、ナカの肉をとても甘く噛む。  
 どんなに金を積んでも見られない、この世のものならざる淫らなショー。  
 それを眼前に突きつけられ健二は、俄然、猛った。  
 胸からはピリピリと微弱な電流にも似た快感が延々と流れてきている。そうだと言うのに、肉棒は猛りはしても射精できない。  
 視覚聴覚触覚それら全てから快楽が送り込まれていても、肝心の股間には誰も触ってくれないのだ。  
 これではイけない。射精<だ>せない。肉筒の内側をびゅるびゅると白濁が走り抜けていく、あの感覚を味わえない。  
 みっともないほど先走りは溢れ、肉棒の周りを取り巻く空気に擦り付けようとしてまでトドメが欲しいのか、しきりにひくついている。  
 そんな健二に、文字通りの意味で救いの手が差し伸べられた。  
 肉棒に他のエアが纏わりついたのだ。  
「そろそろイかせてあげようか」  
「そうだね。あっちの二人もそろそろ欲しい頃だろうし」  
 ついでに舌も差し伸べられた。  
 竿を緩急つけてマッサージする手と、亀頭の腹をちろちろと刺激する舌。  
 腰の奥に走る神経を引っ掛かれるような快感に、健二はあっけなく弾けた。  
「ああぁぁ……いくっ、で!でるうっ!」  
 打ち出された精液は、一瞬、宙に舞い、ぼたぼたと健二自身に降り注ぐ。  
 余韻に震える肉棒が扱かれ、飛び出し損ねた濃いのが鈴口からドロリとこぼれて、肉棒に纏わりつくエア達の繊手を汚した。  
 ほとんど同時に果てたのだろう。射精の熱気から醒めた頃、上半身を健二の胸に預けるようにへたり込んでいたエア達が身を起こした。  
 胸と足の間に、ぬちゃ、と何本も糸が引かれる。  
 健二の胸元はすっかり愛液塗れになっていて、彼女達の絶頂の激しさ具合を示していた。  
 獣のように四つん這いの姿勢のままで、健二の上を這い回るエア達。  
 そうして健二の腹や胸に飛び散った白濁液を、一滴も残さないと言わんばかりに舐め取っては口に入る端から嚥下していく。  
 ぺちゃぺちゃと舌が肌を這いずる音。粘液を啜り上げる、実にはしたない音が響く。  
 肉棒に絡みついていたエア達も例外ではない。  
 まるで奉仕するかのように、赤黒い亀頭を対照的な色彩で彩っている白濁を丁寧に舌で清めていく。もっとも、そこに奉仕の精神など一欠けらもなかったが。  
 奉仕ならば、射精したばかりで痛いくらいに敏感になっている部分を容赦なく舐め清めたりはしないだろう。当然だ。彼女らがしているのは生気の摂取であって、奉仕ではないのだから。  
「くぅっ!うあ!!エ、ア……痛ぅっ、きついって…」  
 清楚な面立ちとは裏腹の、あまりにも淫らな行い。  
 トロリと蕩けた光を瞳に宿しながら、それは健二に付着した精液が無くなるまで続いた。  
 
 ようやく肉棒への一分の隙もない愛撫が終わり、一息付けるかとホッとしようとした間もあればこそ。  
「はぁ、はぁ、はぁ………ッ?!」  
 健二はギョッと目を見張らせた。  
 翅を光らせて宙に浮かびながら、彼の眼前、妖精が股を広げていたから。  
 ごくりと自分が大きく唾を飲み込む音が、やけに大きく耳に響く。  
 エアの指先は自らの秘裂を大きく割り広げて、膣の奥の奥、子宮口まで見せ付けんばかりの痴態を晒していた。  
 膣は薄桃色に濡れ光り、ヌメヌメした襞の一つ一つまでも見えそうである。  
 泉の如くナカから溢れだす淫汁は尽きず、トロトロと溢れ出しては添えられた指先を濡らし、内腿を伝い流れては爪先まで幾筋も光る流れをつけていく。  
 彼女の行為の意味する所は一つしかない。  
 雌の求めに、雄が応える。  
 唾液に塗れた舌が宙に差し伸ばされる。  
「Kyauun……」  
 ぺちゃ、と二種類の汁が出会う。  
 女陰を這う舌先に好きにさせながら、エアは四股を踏むように大きく、太股が水平になるくらいまで割り開く。  
 踵が尻に付くくらいに膝下を曲げ、何かを求めて腰を突き出した開脚の姿勢を取った。  
 蒼の瞳を期待に潤ませ、はふ、と悩ましげな吐息を一つ。そのまま健二の口に秘所を咥えこませるようにして、身体を沈める。  
 ゆっくりと降りてくる柔らかそうなカラダを、健二は一層の熱意を含んだ舌先で迎え入れた。  
 そして妖精の肌がどのくらい柔らかいのかを、その舌で味わい始めた。  
 指が動かない所為で募るもどかしさを情熱に換えて、舌を蠢かす。  
「Pyuu…a……イイよぅ」  
 ざらついた表面でスリットを撫で上げる。返す刀ならぬ返す舌。つるっとした裏側で舐め降ろす。  
「くぅっ?!」  
 今度は健二が悲鳴を上げた。  
 再び力を取り戻しつつある肉棒にエア達が群がっている。気の抜けかけた風船にまた空気を詰めるかのように、ゆるゆると勃ちあがっていく。幾本もの細い手が、何枚もの小さな舌が、肉棒に血が集まるのを淫靡に手助けする。  
 肉棒の滾りに後押しされて、大きく広げられたエアの股に喰らいつくようにして、顔を埋める。  
 スリットをねろりと舐め降ろした舌は、さらに奥へ奥へと伸ばされる。エアの股下を潜って、肉付きの薄い尻の谷間を割り広げる。  
 さすがにエアも、乙女として最も恥ずかしい場所を舐められるのに抵抗があった。  
 チョンと突ついたような可愛らしいアナルに唾液を塗りたくろうとする舌肉を真っ赤な顔で押し返そうとするが、粘液に手が滑ってしまい、何の抵抗も出来ていない。むしろ、より深い快感を求めて自ら性器を押し付け、擦りつけている風にも見える。  
「ん、あ、ああん!ソッチ、は、ダメ、だよ。あ、やん、そっちはお尻のあ……なぁ」  
 もとより、それが本気の抵抗である筈もない。  
 その証拠に、エアは真っ赤な顔で恥じらいながらも、前後する舌の動きにあわせて彼女の腰がゆっくりと踊っている。  
 明らかに肛門愛撫に感じている。  
 一心に舐めしゃぶる健二の舌先に、ふと、なにやら柔らかい突起を感じるようになった。金属的な硬質さはないが、どこも柔らかいエアの女陰の中で、そこだけ確かにポチッとした感触。  
 それがエアの勃起したクリトリスだと悟るや否や、途端に舌と鼻息が勢いづく。  
 
 たっぷりと唾液を纏わりつかせた舌が往復するたび、エアの甲高い声が部屋中に響く。  
「Hyiaa…i…a……kyuunn」  
 エアが歌う。それは快楽への賛美歌だ。  
 腰を突き出して震えるエアを、健二が口の端から唾液をたれ流しながら演奏する。  
 彼の動きが、時折しゃっくりのように乱れる。秘裂へ奉仕を続けている間にも、他のエア達による健二の全身への愛撫は止まない。  
 胸の上ではエアが二体、さっき同様に彼の両の乳首を男根に見立ててゆるゆると腰を振ったり、勃起した肉の芽同士を擦りつけたりと自慰にふけっている。  
 オナニーに没頭するエアの太股の間では、別の長く薄青い髪が揺れている。  
 乳首で遊ぶエアの体の下には、また別のエア。健二の胸に寝転んで、擦れあう媚肉をぺろぺろと舐めては溢れる愛液を啜っている。  
 健二は舌先を尖らせて穂先とし、潤みきった女芯にジュプリと捻じ込むようにして舐めてやる。  
 途端、耳が痛くなりそうなほど甲高い嬌声が響き渡る。  
 エアが一際大きく身を反り返らせ、びくりびくりと大きく痙攣。闘牛さながらに荒く息を吐く健二の鼻梁に、くたりと覆いかぶさった。襲いかかる快感に、とうとう体に力が入らなくなったのだ。  
 男に身を委ね、耳に心地良い喘ぎ声と火照った吐息を切なげに吐く。  
 肉棒を破裂させんばかりの昂ぶりに後押しされるようにして、俄然、健二の舌が活発に蠢く。  
 もう理性も何もなかった。エアが妖精で、サイズが小さかろうが関係ない。舌で感じる雌の器官、その全てに自分の唾液でマーキングしなければおさまらない。  
 ほんの数センチのところから聞こえる可愛らしい喘ぎが、健二の獣性を更に加速させる。どこもかしこも痺れてどうにもならない中で、唯一まともに言う事を聞く舌を必死に動かす。  
 小さいながらも、ルビーのように赤くぷっくりと充血したクリトリスが翻弄される。  
 舌先でこねるように転がす。  
「ひゃあ!あぁっ!あん!あん、イイよぅ!きもち……イイのよぅ」  
 途端、エアが背を反り返らせて喘ぐ。ぴょんと跳ね起きる様子は、バネ仕掛けの玩具さながらだ。  
 人間の舌表面には、舌乳頭と呼ばれる細かい突起が密集しており、びっしりとビロード状になっている。  
 エア達のサイズからすれば、それはプリプリの肉突起が満遍なく敷き詰められたブラシも同然だ。そんなもので女のカラダの中でも取り分け敏感なクリトリスを舐められたのだから堪らない。  
 表面の細かい凸凹が肉真珠を守る包皮を根本まで剥きあげる。  
 ついで舌に生えた突起の群れが、露にされた肉真珠をもみくちゃにする。  
 無防備になったクリトリスを嬲られると、エアの細い喉が震え、甘い鳴き声が搾り出される。  
 肉の快感に塗れたはしたない悲鳴も、妖精の口から迸るとなると美しく聞こえる。  
「ひ!ひぃっ!……っんっきゅぅぅ、んぅ!んうぅぅっ!先っちょダメェ!」  
 およそ現実離れした光景がそう感じさせるのかもしれないが、健二にそんな事を考えている余裕はなかった。  
 舌が縦横無尽に蠢いて、妖精の秘裂を嬲り回す。  
「は、ふぅ……っや、あ、はひィ、イイ!イくのぉ!イ、イっちゃうよぉぉっ!!」  
 ぷしゅ、と小さな水音。がくりと崩れ落ちるエア。  
 とろり、と口内を何かが伝い落ちる。  
 はぁはぁと荒く息をつく健二には吐き出す暇もなく、飲み下してしまった。  
 酸っぱいようで甘いような、爽やかでいて獣臭くもある、そんな不可思議な味がした。  
 
「ねえ、飲んだかなぁ?」  
「ええ、飲んだわね」  
「ねえ、どうなるかなぁ?」  
「さあ、どうにかなってしまうでしょうね」  
「ねえ、狂うかなぁ?ヒィヒィ言ってイキ狂っちゃうかなぁ?」  
「そうね、狂わせましょう、皆で。  
 狂わせて、溺れさせて、涙と涎を溢れさせて、汚らしいオチンチンの先からはあさましく精液を噴き出させましょう。  
 びゅくびゅく、びゅくびゅく。たくさんたっぷり、尽き果てるまで止む事無く。そう」  
「「「我らが母様の元へ帰る為にも」」」  
 クスクス、クスクス。  
 妖しい微笑が細波のように部屋に広がっていく。  
 ぞくりと健二の背筋を震わせた。  
「エア、おまえら、何を言って……うっ、ぐぅ?!」  
 最後まで言い切れずにうめく。  
 ずくん、と全く唐突にある一箇所が熱を持つ。  
 突然すぎて思わず仰け反ってしまい視界には入れられなかったが、どこに異常が起きたのかは見なくてもはっきりと分かった。男なら誰しも馴染みのある感覚だったから。  
 股間に血が集まる。  
 肉棒に力が漲る。  
 数度出して萎れかけた肉塊が、触れる物すらないのに見る見るうちに硬度を取り戻していく。  
 空気の抜けた風船に、ぷぅっと思い切り息を吹き込んだかのよう。  
「ねえ、オチンチンたててるよぅ」  
「そうね、あさましいわ。ああ、でも仕方ないわ。どんな時でも欲望に忠実なのが人間の性だもの」  
 無邪気さと嗜虐のない混ざった、艶然とした笑みを向ける。  
「もっとも、そう仕向けたのはアタシ達だけれど」  
 妖しく微笑むエア達の視線の先で、肉棒は先ほどよりも立派に勃ち上がっていた。  
 心臓が力強く早く脈を打つ。体中の血管の中を血が走り回って、全て肉棒めがけて流れ込んでいるような感触。肉竿に絡みつく蔦のように浮き出た血管が、破裂してしまいそうなほどにビキビキに張り詰める。  
 反面、指先の痺れが増したような気がした。  
 自分はこんなに絶倫だっただろうか。中学生の頃、自慰連射にチャレンジした事はあるが、その若さを持ってしても五発が限度。それも最後の方は飛びさえしなかった。  
 おかしい。  
 
 恐怖と共に違和感が健二の頭にちらりと浮かぶが、それも束の間。  
「あうっ?!」  
 鋭い快感が脳を白く焼いた。  
 健二の股間には欲望だけでなく感覚さえも戻っていた。否、さらに敏感になっていた。  
 普通は何度もイけば慣れてしまって皮膚感覚が鈍るものだが、張り詰めた肉棒から送られてくる快感のパルスは今まで以上。快楽中枢をぞろりと逆撫でするような感覚に、思考が中断させられる。  
 ぷくりと膨れた亀頭の横腹に小さな舌を這わせながら、二体のエアがくすくす笑っている。  
 精液とカウパーに塗れた肉棒を左右から挟みこむようにして、肢体を絡めている。  
「ふふっ、ねえ、こっち見たよ」  
「まだまだ終わらないよ。もっとたくさん出して」  
 エアが動いた。  
 右のエアが上に行けば、左のエアは下に。頂点に到着すると、逆転して交互に上下する。同じエアから分かたれた姉妹とあって、恐ろしいほど息が合っている。  
 それほど早くはない。  
 激しく早くはないが、無理矢理に快感を味わわせようと、動きは緩慢に、締め付けはキツく。  
 なだらかな胸が赤黒い肉茎に押し付けられる。雁首の下から擦りあげていく。亀頭表面を磨きあげるように滑っていく。  
 痛いほどの快感が健二を襲う。  
 股間で文字通りのポールダンスを踊るエア二体を見ている余裕なんて、あっという間に取り上げられた。  
 エアの肢体が動くたび、大小さまざまな快感の波が押し寄せては健二を弄ぶ。  
「もうこんなにパンパンになってる」  
 亀頭の中腹のぷっくりと脹らんだ辺りを二枚の舌でチロチロと舐められると、視界が白くフラッシュする。  
 敏感なカリ下のクビレを、子猫の喉下を擽るように優しく愛撫されると堪らない。手足の先まで痺れるほどの快感のパルスに目は見開き、食い縛った歯の間から滲むように呻き声があがる。  
 が、イけない。  
 強烈だけど、それは射精できるような種類の刺激ではない。  
 射精という終わりが無いまま、ひたすらに快感を与え続けられる。  
 そんな健二の悶えっぷりに淫蕩に微笑みながら、エア達は健二の脳味噌を快楽で塗りつぶそうとする。  
 残酷なまでに無邪気さ。健二の意志をまるで気にしないで、さらに追い込む。  
「そ、そんな……ひぃっ!」  
 彼を責める舌と肢体が倍になった。  
 
「くすくす、楽しそう。ねえ、アタシも混ぜてよ」  
「いいわよ。さぁ、みんなで踊りましょう。輪になってぐるぐるって」  
「ほらほら、もっとピッタリくっついて……」  
「あははは、四つのオッパイでケンジのくびれてる所、きゅーってしてあげる」  
 肉棒に四方向からエアが抱き締めたのだ。  
 肩をぴったりとくっつけ、鈴口のほんのちょっと上で顔を寄せ合って、うっすらと媚笑と目配せを交わす。  
 先走りで濡れるのも構わずに全身を絡みつけ、健二の肉棒を軸にして輪舞する。  
 まるで膣に挿れているような感触。いや、それ以上だ。  
 膣肉はこんなに自由自在に絞めつけたりはしない。  
 何よりも、雁首にあてがわれた柔肉のリングがグルグル回ったりなんて絶対にしない。  
「……ッ!!か、はっ、あっ!がぁぁぁっ!!!」  
 今度こそ、健二は叫んだ。  
 エア達は肉棒に胸を押し当てたまま、体を浮かして軽やかに回り始めたのだ。乳房の輪で、張り出したエラをキュッと締めつけたままで。  
 人には絶対に出来ない、妖精ならではのパイズリ。どくどくと鈴口から吐き出される潤滑汁で回転は極めてスムーズ。時折、きゅっきゅっとリズミカルに締めつけが弱まったり強まったり。  
 ビリビリと激しすぎる媚電流が雁首から腰の後ろを通って、健二の脳へ流れ込む。  
「ぐぅ!くぁああ!良すぎるぅ!や、やめっ!やめてくれぇぇ!」  
 ぴたりと回転が止まる。  
「っあ、はっ!ふぅ……」  
 途端、妖精の輪は逆回転。  
 哀れ、健二も数瞬前に逆戻り。  
 涎と涙と先走りが際限なく垂れ流される。  
 がつがつと後頭部を床に打ちつけながら強烈過ぎる快感に悶え狂う。もう痛みすら快感に負けてしまい、まるで感じない。  
「トドメ、差してあげるよ。オチンチンからビュビューッて出させて気持ち良くしてあげる。  
 アタシ達にケンジの命の雫、いっぱい頂戴?」  
 つぅーっと四枚の舌が亀頭の腹を先端へ向かって舐め上げる。  
 天辺へと辿り着く。そこにあるのは、開放されるのを切望する切れ込みのような噴火口。  
 つぷり、と一斉にエア達の舌先が鈴口に差し込まれた。  
 絶叫と共に白い溶岩が吹き上がった。  
 
――15――  
 
 出せば出すほど性欲が高まる。  
 イけばイくほどに性感はさらに高まる。  
 全身のあらゆる箇所が敏感になって、どこをどうされても快感しか覚えない。射精するたびに次の射精が恋しくなり、次の絶頂までが短くなっていく。  
 自分の身体が自分の物ではなくなっていくような感覚が健二を襲う。  
 本能はチラリと恐怖を呼び起こしたが、それだけ。  
 頭の片隅がじわりと痺れたようになって、その麻痺感が全身に広がっていく。  
 次第にイく事しか考えられなくなり、恐怖はその他の感情もろとも、快楽に塗り潰されて泡と消える。  
 温かい泥に全身が漬かったような感覚。  
 底の無い快感という泥沼は健二の心を捕らえ、引きずり込んで、甘く甘く腐らせていく。  
「あ!あああぁ、エアァ、イきたいぃ……イかせて……」  
 腰が震える。  
 根元からこみ上げて来る感覚。射精の予感。長くは持ちそうにない。  
 そして彼の予感は、ほんの少し未来にその通りになった。  
 迸る精液。  
 啜る妖精。  
 滾る肉棒。  
 求める自分。  
 もっとイきたい。  
 もっと出したい。  
 もっと気持ちよくなりたい。  
 どこまでもイき続けていたい。いつまでも出し続けていたい。終わり無く快楽に浸っていたい。  
 果たして、飢えた希望は叶う。  
 心優しき妖精達は、彼が彼女に幸運を願った時と同様に、彼の欲望を聞き入れてやった。  
 エアは、健二の望み通り、彼に最後の一滴までも丁寧に吐き出させてやった。  
 
――16――  
 
 互いに寄りかかるようにして建つ細いビルとビルの境界。  
 そこに僅かに出来た間隙。  
 老婆は健二と会った時と同じように卓を広げていた。  
 あの時と違うのは、以前は籠が置かれていた卓上には何もない事。そして客を呼ぼうとするでもなく、静かな眼差しで空っぽのテーブルクロスを見詰めている。ただじっと、誰かを待つようにして。  
 冬の気配を含んだ風が、さぁっと吹いてはテーブルクロスの裾を揺らして過ぎる。  
 彫像さながらに押し黙っている老婆の顔を白く照らしていた街灯が、不意に陰る。  
 老婆が顔を上げた。  
「あぁ……アンタかね、お若いの」  
 立ちすくむ人影は何も答えない。  
 明らかに青年は様子がおかしい。老婆の前に立っているのに、彼は老婆を見ていない。瞳孔は開ききり、焦点を結ばず。何を見ているのか、左右の視線はちぐはぐな方向を向いている。その上、体全体がかすかに震えている。  
 下手な操者の繰るマリオネットにも似ている。まるで誰かが健二というサイズの合わない服を着ているかのよう。  
「その様子じゃあ、やっぱり約束は守れなかったようじゃな。妖精が本物だと知ったならば、交わした約束もまた本物だとどうして気付けん」  
 誰に向けるとも無く、ぼそりと呟く。  
「いや、その欲深さ故に気付こうとする心すらも自ら封じるのか」  
 長くかすかな溜め息。  
 その呟きにも健二は何も答えない。  
 現れたとき同様、今も身体中を無気味に震わせ続ける健二を、憐憫に満ちた瞳がちらりと見やる。  
「人払いは済んどる。出ておいでな、愛し子達」  
 健二がその声に応じた。  
 ぐばっ、と顎が開かれる。  
 老婆の声に、何か返事をしようと言うのか。それとも、いきなり増えた妖精達にされた暴行に、売り主に対して文句の一つでも怒鳴りつけようと言うのか。  
 だが、明らかに様子がおかしい。健二は大きく口を開いたままで、そこからは怒鳴り声も何も出てこない。  
 大きく開けた口を、さらに大きく開こうとしている。全身をかくかくと小刻みに震わせながら、蛇が自分よりも巨大な獲物を飲み込もうとするかのように、さらにさらに大きく口を開ける。健二の頭の付近からはミシミシと軋む音がし始めていた。  
 彼は自らの筋力を総動員して、自らを破壊していく。  
 とうとう限界が訪れた。  
 ゴキッと大きく骨の鳴る嫌な音がしたかと思うと、下顎がかくんと垂れ下がる。顎関節が外れたのだ。だと言うのに、彼は痛がるでも苦しむでもない。一筋の感情の揺らぎも示さない。  
 
 それだけでは終わらなかった。  
 限界を超え、外れた下顎がさらに下を目指して動く。  
 関節と言う支点があるからこそ、筋肉は力を発揮できるのだ。支点を失い、健二はもう動かせる筈がない。  
 だと言うのに健二の口は大きく開いていき、とうとう頬の肉がぶちぶちと千切れていく。  
 千切れた頬肉は、ついには自重を支えることが出来なくなった。崩壊は加速度的に進み、下顎がぶらんと頼り無げに喉元に垂れた所で終わった。顎の中心からぴょこんと、アカンベーとするように水気の失せた舌が飛び出しているのが滑稽だ。  
 様子がおかしいどころの話ではない。恐ろしく異様であった。  
 傷口からは血どころか、体液一滴たりともこぼれない。覗く断面はぼそぼそに乾ききり、朽ち木のような有り様だった。  
 夜気に晒された喉の奥、何者かが蠢く気配があった。  
 目の前で起きる健二の異変にも、老婆に驚くような気配は微塵もない。  
 彼がココに現れた時点でそうなると、彼女は知っているから。遥かな昔から、これは幾度となく繰り返されてきたことなのだ。老婆に驚く理由はなく、彼を哀れむ理由すらももう見当たらない。  
「うんしょ……うんしょ……」  
 小さな人影が、アスレチックでもするように喉を登ってくる。  
 流れるような薄青い髪。しなやかな肢体。  
 エアだ。  
「母様!」  
「おうおう、愛し子よ。よう戻ってこれた。ようやり遂げたのぅ」  
 身の毛もよだつ光景を前にしても眉一つ動かさなかった老婆の表情が、緩む。  
 それは子を慈しむ親の貌であった。  
 エアは一体だけではない。エアが老婆にしがみ付いて頬擦りしているその間にも、次から次へとエアの姉妹達が健二の骸から飛びだしてくる。  
 エアが這い出る。  
 健二の足が崩れ、アスファルトに膝を付く。  
 エアが這い出る。  
 がさり、と言う音と共に健二の太股が半ばから崩れ折れる。  
 エアが這い出る。  
 太股が折れて、仰向けに倒れかけた所を支えていた腕が朽ち折れる。  
 全てのエアが這い出終わる。  
 胴が自重に負けて、くしゃりと潰れる。  
 アスファルトに打ち突けられた後頭部が砕け散る。  
 
 腹、胸、頭蓋、腕、足。  
 崩壊は瞬く間に伝染し、どこもかしこもボロボロと崩れて、人の形をしただけの埃の小山と化していく。  
 役目を終えた"服"に用は無い。用さえ済めば、後は捨てられるのみ。  
 エア達が母の許に辿り着くまでの隠れ蓑になる。それが健二の最後の務めであった。  
 妖精達が自分の姿を隠すのに使う"妖精の外套"と呼ばれる術もあるにはあるが、さほど効果時間が長くない。使ったとしても、効果が切れた時に上手くかけ直せる場所があるとも限らない。さらにエアは風属の妖精だが、目に止まらないほど高速での移動できない。  
 万が一、人に見つかったら、最後の最後で全てが終わる。  
 町中を妖精が群れをなして飛んでいる光景など、誰が信じられるだろうか。  
 だが、それが見た目に人間であれば話は別だ。操り人形じみた怪しい動きではあるが、まさか中に妖精が詰まっているなどと夢にも思わないだろう。  
 存在を認識されなければ、存在を否定される事も無い。  
「ワシらの姿を見れるから、アンタには期待したんじゃがなぁ……」  
 妖精を見るには妖精の目が要る。  
 妖精眼。  
 あらゆる妖魔化生の類いを看破し、魔術を見破り、果ては未来さえ見通すと謳われるチカラ。  
 老婆は健二を無作為に選んだのではない。  
 妖精のパートナーとなるには素養が必要だ。  
 それがいつの事かは定かではないが、健二に列なる血筋には異界のモノが混ざっていたのだろう。彼はそのチカラの一部を受け継いでいたのだ。本人でさえ、そうと気付かないほど極めて微弱ではあったが。  
 老婆がわざと妖精の外套の術を弱めて、人が妖精を認識しやすいようにしていなければ彼も素通りするだけだったろう。  
 しかし、妖精のパートナーとなるには素養だけでは足りない。  
 生まれもった素養が有ったとしても、人から妖精と共に生きた日々の事が失われて久しい。異界の隣人との付き合い方は、とうの昔にほとんどの人の記憶から抜け落ちていた。  
 何よりも大切なのは、信じる心。  
「この国の人間は古くから数多の精霊を信仰しとると聞いたんじゃが……故郷と似てはおるがなかなか上手くいかんの。  
 それに最近では自分達で作り上げた空想すら信じる者達もいる、と言うから来てはみたものの」  
 妖精を信じる人間がいてもよい文化的下地があると思っていたのだが、結果は付いてこなかった。  
 ローブの上に大量のエアを纏わせたまま、落胆の溜め息をつく。  
 ついで、道の上で物言わぬ健二を見やり、口角を吊り上げて、うっそりと笑った。  
「まぁ、お若いの。お主の犠牲は無駄にはならぬよ」  
「そうよ、母様。こうなれたのはケンジのお陰だもの」  
「そうじゃな。婿として迎え、血を混ぜるは叶わんかったが、こうして愛し子達を増やしてくれたからの」  
「「「ねー」」」  
 エアが顔を見合わせて、声を揃える。  
 
 その様が妙に面白かったのか。  
 次の瞬間、再び声を揃え、軽やかに笑った。  
「さて、風が冷たくなってきたわい、そろそろ帰るとしようか。エア、妖精の小径<パス>を開いておくれ」  
「はぁい、母様」  
 老婆の上から一斉にエアが飛び立つ。  
 女王は立ち上がりながら、老婆の姿を、ばさりと脱ぎ捨てた。  
 そこには世にも華麗な妙齢の女性が立っていた。背にはエアと同じような翅。裾の長いドレスを着て、生きた花を幾重にも散りばめた冠を戴いた、妖精達の女王。  
 女王の御前、地面から僅かに浮いて奉納するかのようにエアが踊りを披露する。  
 エアはお互いに手を繋ぎあい、優雅に踊りながら歌っている。  
 妖精の舞踏<フェアリーダンス>だ。  
 妖しく蟲惑的な歌声と踊りに、辺りからは現実感が失われてゆき、徐々に自然界の法則が歪んでいく。  
 ポウッと輪舞の中心に光が宿った。  
 最初は針の先ほどだった光は、漏れ出した水さながらにひたひたと地面を覆い、広がっていく。  
 辺りを薄明るく照らす街灯の冷たい光とは全く違う、春の日差しにも似た温かい白光。  
 舞踏にあわせて、光はどんどんと面積を増していく。  
 ぶぅんぶぅん、とゆっくりと脈動しながらエア達の輪まで光は広がり、そこで拡大を止めた。  
 魔力を持ったロンドは、僅かな時間、自然界と妖精郷とを繋ぐ橋を築く。  
「小径が開けたよ。どうかなぁ?母様」  
「なかなか良い出来です。初めてにしては上々でしょう。  
 ああ、そうそう。帰ったら、真っ先に増えた貴女達の名を決めてあげねばなりませんね」  
 言うなり、娘達の創った光の輪にそっと足を踏み入れる。  
 蝋燭に息を吹きかけたみたいに、女王の姿はふっつりと消えた。  
 それにエア達も続く。  
 あるエアは歩いて、またあるエアはじゃれ合って飛びながら、一人、また一人と妖精の小径を踏み越えて帰還を果たす。  
 そうして妖精の女王と娘達は、彼女らの故郷である異界に消えた。  
 冬を懐に忍ばせた風がひゅるりと吹き、そこに何者かがいた気配を拭い去っていく。  
 妖精の小径の光も消え失せて、跡には妖精の輪が残るのみ。  
 風はいつまでも吹き続け、一人地面に取り残された愚者の骸も、いつしか風の中に消えていった。  
 
 
『幸運の条件』了  
 

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