前の授業は体育だった。男子はこのクソ暑い中、外で走り幅跳びだとふざけんな。
女子はプールでまだ生乾きの髪がちょいと色っぽい。階段で誰もいないのをいいことに
顔を寄せたらするっと避けられた。
「早くしなさい、次の授業始まっちゃうでしょう」
「もおいーよ、先行っとけ。委員長が遅れちゃまずいだろ」
「委員長だ・か・ら。クラスの動向は気になるわ。張り切りすぎて倒れる寸前になるバカがいるんだし」
「そんなバカは見捨ててしまえ」
枠に寄りかかってしっしっと手を振ると、鼻を鳴らして俺の腕を取りかけて、やめた。
焦ったように駆け上がってしまう。さっきの避けようといい何か癪にさわる。
困った顔をして数段上から教科書でスカートを押さえつつ見下ろす。
相変わらずすらっと伸びた脚と黒のハイソが際立って……悔しいが見とれる。
「拗ねないでよ。あんたのその、一生懸命な所……向こう見ずとも言うけどね。
私は見てるんだから。…………好きよ」
最後の所で照れ隠しにあっちを向いた。もう耳が赤くなってる。
その一言で我ながら単純だと呆れるがまあいい、態度の悪さは帳消しだ。
二段飛びで昇って横に並ぶついでに、今日のパンツは何色だと軽くめくってみる。
「やあぁん! 駄目!」
翻ったスカートの中は――――はいてなかった。……履いてない?!
「ちょ、おま……何で」
「もうバカバカバカいやえっちばかスケベ!」
いつもなら殴られ蹴られしてるはずが、本人も動揺してるのかそのまま座り込んで
スカートの裾を引っ張りながら茹でダコ状態になってしまった。
「最近暑いでしょう? 今日は午前中プールだし、早く入りたいなあって思って、
……家から水着来てきたの」
「……で、パンツ忘れて来たと?」
普段からは信じられない気弱な声で告白して、俺の言葉にこっくりと頷いた。
「さすがの強気委員長もノーパンでは心許ないか。上はどうした?」
「キャミ着てるし、気を付けてれば目立たないかなっ、て……」
乳でかくないから大丈夫だろ、と喉で笑うとべちんと手の平で顔面をはたかれた。
「だだだ誰にも言わないでよ。友達にも内緒なんだから、言ったら殺すわよっ」
「イマドキ小学生でもやらねえヘマだよな。……なあ、俺を避けたのって、バレたくなかったから?」
「他に理由がある?」
「いーや。やっぱオマエ可愛いな。好きだぜ」
何のてらいもなく言い放ちやがって。一瞬ガードが緩んだとこにキスを返す。
胸を軽く撫でると、確かにノーブラだ。しかも柔らかい唇の感触とふやけた躰の匂い、
濡れた髪の手触りに加え、はいてない、とくればちょっとヤバイだろ。
「ダメよ駄目、授業行かなきゃ」
怒りつつも唾液垂れてる口元と摺り合わせる太股がますますそそる。
「もうとっくに始まってるよ、サボりだサボり。……しようぜ」
「なに言ってんのよっ、嫌、いーやーっ! あんたバテてるんでしょ」
「下半身別。勃起しちまった。このまま授業行ったら挙動不審者扱いだな」
「こーのーヘンタイ! 本物の痴漢になるつもり?!」
「ノーパン委員長のせいだと大人しく自首するだけです俺は」
「ずるいわよ。脅迫してんの」
「オマエもこの状態で無理だろ? せめてトイレ行かないとな?」
ハイソ越しに引き締まったふくらはぎから奧に手を滑らす。慌てて脚を閉じても
無理だって。はいてないんだからやめろっつっても生で触り放題だ。
くちゅっと鳴る音にいくら目をつぶっても、切ない声と吐息は抑えきれるもんじゃない。
「やめて、トイレはいや、嫌だってばぁ。…………別の所で、して」
――――勝った。
「屋上へ行こう。今なら誰もいない」
……久しぶりだったんでやりすぎた。ちょいと反省。
昼休みにコンビニへパンツ買いに行くと言ってたのに、委員長は疲れて動けず、
代わりに行ってやるという俺の申し出を無下にしたおかげで、放課後までノーパンだった。
ぎりぎり睨み付ける眼に、命の危険を感じてしまったりした。