石段を登った先には鳥居が見えた。  
 
高沢悠はやっぱりここは神社だったか、と心中でつぶやいた。  
 
山の上に続く石段の行き着く先など、確かに神社くらいのものだろう。  
悠は小さく溜め息をつきながら折角ここまで来たことだし、と見物することに決めた。残りの石段をそのまま登り切り、何の気なしに鳥居を潜る。  
 
 
 
そこで悠は凍りついた。神社の敷地に静かな佇まいの女性が一人いたのだ。  
 
悠は階段を登ってきた疲れも忘れ、その女性に魅入っていた。  
うっわぁ…こんな美人、見たことねぇ…  
年の頃は悠よりいくつか上だろう。  
 
背の中ほどまである見事なストレートの黒髪。  
 
切れ長の瞳と美しく整った顔立ちは、クールビューティとでも言うべきか、大人の美女という印象を受ける。  
 
少女の危うさではなく、女の余裕と落ち着きを感じさせる容貌だ。  
 
同時に目を引かれたのは彼女の服装だった。  
 
身体の前に合わせ目のある、真っ白い上着に緋色の袴を身にまとい、容貌とは対照的な清楚さを演出していた。いわゆる巫女装束である。  
 
 
美しさに心臓の鼓動を跳ね上がらせた悠だが、我に返るとすぐに巫女に声をかけた。「すみませーん、この神社の方ですか?」  
悠に声をかけられて初めてその巫女は悠がそこにいることに気づいたようだった。やや驚いたような顔で悠の方を振り向き、その姿を視界に捉えると、表情がふっと柔らかくなった。  
「あ、お客様ですね。いらっしゃいませ」  
女性にしては随分低い声だった。だがそのハスキーな声は彼女の雰囲気によく似合っている。悠の近くまで歩み寄り、礼儀正しく一礼するその巫女に釣られるように、悠まで礼をしてしまう。  
 
「あ……ど、どうも」  
「お参りに来たんですか? 珍しいわね、こんな時期にくるなんて」  
巫女も自分の方が悠より年上だと思ったからだろうか。挨拶の後は砕けた口調で悠に話しかけてくる。魅力的な微笑を浮かべながら語りかけてくる巫女の姿に、悠は心を揺さぶられた。  
「いや、お参りっつーか……すみません、写真撮らせてもらっていいですか?」  
「え? 写真? わたしの?」  
悠の申し出を聞いて、一瞬巫女はきょとんとした顔になる。  
「ええ、そうなんですけど……あ、駄目ですか?」  
悠は高校時代の修学旅行を思い出していた。  
(京都の巫女さんは写真とか駄目だって言ってたっけ。やっぱ神主さん辺りから止められてんのかな?)  
 悠の期待が過去の前例から縮んでいく中、美しい巫女はくすくす笑い出した。  
「あははは……いいわよ、写真撮っても。結構いるのよね、君みたいな人って」  
「え? いいん……ですか?」  
 繰り返し問う悠に、巫女は微笑みながらうなずいた。  
 
「あら……それとも撮りたくないの?」  
 巫女は手を後ろ手に組むと、前かがみになって悠の顔を見上げ、悪戯っぽく笑った。男をからかうような、挑発するような、小悪魔のような表情。  
 
悠はどこか遊ばれているのを自覚したが、相手はそうお目にかかれない大人の美女。従うのが一番だろう。  
「それじゃ鳥居のそばに立ってもらえますか? 写真、撮りますんで」  
悠は背中のバッグからカメラを出すと、魅力的な微笑を浮かべたままの巫女を、何度かシャッターに収めた。  
 
「巫女さん、ありがとう。いい写真が撮れましたよ!」  
撮影を終えると、悠は満足そうな顔で巫女に礼をした。巫女はどこかほっとしたような表情で、悠に歩み寄りながら尋ねてきた。  
「君、この町の人なの?」  
「あ、そうです。大学の関係で、最近ここに引っ越してきたんですよ」  
「ふーん、最近ってことは、それじゃ大学1年生? 今年で19歳? 道理で年下に見えてしまうわけね……わたし23だし」  
「はは、オレから見てもお姉さんって感じじゃないですか、巫女さんは」  
「ふふ、そうなんだ。ところで……」  
また先ほどのように悠を下から覗き込む。  
 
巫女のハスキーな声が突然甘くなった。  
 
「ねえ、わたしの写真だけでいいの……?」  
「……え?」  
突如の変質に悠は戸惑った。巫女の表情に男を惑わせる色彩が含まれているのを感じたが、突然のことに頭も身体もついていかない。  
 
相手が何を言いたいのか悟る前に、悠は巫女に絡めとられていた。  
巫女は両腕を悠の首に絡ませ、抱きつきながら悠の唇を奪った。  
「……っ!」  
悠の混乱は頂点に達した。頭が混乱して何も考えられない。  
 
はっきりしているのは服越しの柔らかい女の身体と、密着した唇の甘い感触だけである。巫女は容赦なかった。唇を合わせるだけでは飽き足らぬと言わんばかりに、舌先が蠢きながら悠の唇を割って口腔に侵入する。  
 
キスも初めての悠にとって、巫女の技巧は刺激が強すぎた。  
いつの間にか股間はこれ以上なく硬くなり、それを知ってか知らぬか、巫女の舌は悠の口内を意のままに蹂躙した。  
 
悠の舌に絡みつき、口の粘膜の上を這い、口に張り付くような愛撫を怠らない。  
どれほどの時間が過ぎたのだろう。巫女は抱きついた力を緩め、スッと唇を放した。絡み合った舌の間に、艶めかしい銀の糸が引かれた。  
悠は身体から力が抜け、膝がガクンと折れた。  
 
そのまま巫女に体を預けるような姿勢になってしまった。  
 
巫女は悠を優しく抱き締め、自分で立つように促した。  
「うふふ……坊や、初めてだったんでしょう? ファーストキスの感想は?」  
今までとは口調も違っていた。悠はまだ巫女の変化を把握し切れないでいる。  
「ちょっ……こんな、なんでっ……」  
顔を真っ赤に染めて視線を逸らしながら、悠はやっと言葉を絞り出した。  
 
まだ頭の整理がつかない。19年間、女に縁などなかったのに。  
「ねえ、境内の裏に行きましょう」  
巫女は悠のあごに手を伸ばすと、人差し指で悠の顔をくいっと自分の方に向けさせた。強引に視線を合わせ、甘ったるい声で悠に囁いた。  
 
「坊やが今まで体験したことのない快感、お姉さんが教えてあげる……」  
余りにも魅惑的な提案だった。  
 
異性との体験が何もかも初めての悠にとって、それは抗えない誘惑だった。  
「はっ、はい……おっ、お願いします…」  
期待半分、不安半分。  
 
そんな表情の悠をその瞳に映し、巫女は心中でつぶやいた。  
(ふふ……結構いるのよね、君みたいな人って……)  
 
 
巫女に連れて行かれるように、悠は境内の裏に回った。  
 
そこには大きな庭石に囲まれた池があった。  
 
庭石は人が寝転がれるほど大きく、そして平らだった。  
池の水は庭端の小さな滝から注ぎ込まれている。  
「わたし、桜井美月っていうの。坊やの名前は?」  
「た、高沢です……高沢悠って言います」  
「ふーん、高沢悠君ね。大学1年生、19歳と」  
美月と名乗った巫女は、その池の脇の一番大きな石に腰を下ろす。  
 
悠はその 池の脇で、どうしたらいいのか分からず、立ち尽くしてしまう。  
 
「ねえ、どうしてそんな所に立ったままなの……? こっちに来て」  
美月は戸惑った悠を見つめ、自分の脇に座るように誘う。  
「あ、はい……すみません」  
悠はおずおずと美月の隣に座った。どうも美月の前では気後れしてしまう。  
「緊張してるんだ。楽にしていいのよ……」  
美月は腰掛けた悠を抱き締めた。思わず悠は身体を硬くしてしまう。  
 
柔らかい感触が巫女服越しに伝わってくる。  
「可愛い……ふふ、ドキドキしてるのね」  
美月はそのしなやかな手を伸ばし、悠の頬を撫でる。  
 
真っ赤になった悠を安心させるようにその手を首筋に伸ばし、鎖骨を這わせ、胸板をさする。むず痒いような掌が心地よく、徐々にその手は下へと伸びていき、腹部に到達する頃には、悠の股間は既に勃起していた。  
「気持ちいいでしょ……?」  
美月から発せられるハスキーな声は例えようもなく魅力的だった。  
 
美月のキスと同じで、この甘い声には逆らえそうにない。  
白い指はそのまま下に伸びていき、下半身に達した。  
 
ズボンの上から悠の肉棒に触れると思ったその途端、ぴたりと美月は手の動きを止めた。想像していた快感がやって来ない。  
 
悠は裏切られたような気分で美月を見る。  
今や服とは対照的に淫らな雰囲気をまとった巫女は、悠の心理まで見透かした  
ように笑っていた。  
 
「駄目よ。まだ触ってあげない」  
「そ、そんな……」  
美月は慣れた手つきで悠の服のボタンを外していく。  
「服は脱いだ方がいいでしょ? 脱がせてあげる……」  
慣れた手つきで悠はすぐ全裸にされてしまった。  
 
美月は相変わらず巫女装束のままで、自分だけが裸になっている事実に恥ずかしさを覚えるが、期待と不安がそれをはるかに上回っていた。  
美月は悠の背後に座り、背中から抱きついた。  
 
脇の下から手を通して悠の心臓の上に片手を置いて鼓動を確認する。  
「ふふ……悠君、すっごくドキドキしてるね」  
美月は悠の肩に顔を乗せ、鼻にかかった甘い声をかすれさせながら囁いた。  
「わたしもすっごく楽しみよ……満足させてあげるね……」  
直後に美月の細くしなやかな指が、悠の下半身に柔らかく絡みついた。  
 
「うっ!」  
思わず悠は喘いでしまう。美月のような美女に初めて触れられ、一気に興奮の度合いが高まる。しかも美月は本気を出している風でもない。  
 
小刻みに指を滑らせながら、じわじわと着実に悠を高みに導いていく。  
 
悠のペニスからは透明な粘液がもう滲み出している。  
巧みな愛撫に悠はたちまち息が荒くなった。  
 
美月はそんな悠の様子に震えそうなほどの高揚感を覚える。  
 
指先は心得たかのように男の性感帯を攻め始めた。  
亀頭を撫でていた右手は微細な動きを絶やさず下り、ペニスのくびれを這うよ  
うになぞり、左手の指は包み込むように肉棒全体を愛撫し始める。  
 
「あぅっ……!」  
指戯が引き起こす快楽に悠は辛うじて堪えた。  
 
ここで射精してしまうのは勿体ない。射精したいが、したくない。  
 
相反する感情がせめぎ合う中で、悠は我慢する方を選んだ。  
「あら……よく我慢できたわね。普通の男はもうイッちゃうのに……」  
耳元からそんな扇情的な言葉をかけられた。  
 
悠の陥落は最早時間の問題だった。  
 
とても美月の愛撫には耐えられない。  
 
これ以上愛撫されようものなら、その瞬間が限界だろう。もう我慢し切れない。  
美月も悠が限界近いのは分かっているのだろう。悠の分身からすっと手を引  
いた。悠は物足りなさと、これで一息つけるという安堵を覚えたが、すぐにこ  
れは嵐の前の静けさに過ぎないと悟った。  
 
美月が背後から甘く囁いてきたからだ。  
 
「うふふふ……我慢できたご褒美よ。今から本気でしてあげる……」  
美月は悠のペニスに手を伸ばした。悠の分身から出た透明の液体を亀頭に塗  
りたくり、カリの部分を指で円を描くように攻め立てる。美月の残りの指は、  
“男”の裏筋を優しく巧みに愛撫する……。  
「うわっ、もう、オレ……!」  
先ほどとは比較にならない快感が次々と下半身から送り込まれてくる。  
 
限界に達しつつある射精感に抵抗するも、それは激流の中の小舟に過ぎなかった。そこにとどめを刺したのは美月だった。  
 
果てしなく甘ったるい言葉が悠を刺激したのだ。  
「我慢できなくなったら、出してしまってもいいのよ……」  
その一言で悠は頂点に達した。  
「もう出るっ……あああっ……!」  
美月の手中のペニスが一段と硬くなり、脈動する地点が変わるのを指先で感  
じた。こうなった男は例外なく射精するのを美月は経験から知っていた。  
 
この場所を精液が駆け抜ける瞬間に、美月は何よりも興奮させられるのだ。  
悠は下半身を駆け巡る快感と共に、肉棒の先端から白い情熱を噴き出させた。  
痙攣と共に二度、三度と射精は続く。美月は力を弱めながら、びくんびくんと  
生き物のように震え続けるペニスがおとなしくなるまで愛撫し続けた。  
 
「はあっ、はあっ……み、美月、さん……」  
「なあに? 気持ち良かったでしょう……?」  
荒い息が収まりそうにない。悠は美月の問いにうなずくのが精一杯だった。  
美月は天使のような微笑みを見せると、興奮の余りに紅潮した顔を悠の顔に  
近づけ、軽く触れ合うだけのキスをした。そして頬を手で掴んで顔を自分に向  
けさせ、また挑発するように囁くのだった。  
「ねえ……まだデキルわよね?」  
 
 
悠は美月の問いにコクリと頷いた。余りのことに冷静な判断力を失っていたかもしれないが、悠は頷いて意志を示した。  
美月はそんな悠を見て満足気な笑みを浮かべた。  
「そうね、19歳の童貞クンだもん、まだまだデキるわよね……?」  
美月は悠を愛しそうにギュッと抱き締めた。服越しだが、美月の柔らかくて  
暖かい胸に悠の顔が埋もれる格好となった。  
 
女に抱かれるというこの状況に、悠は頭がクラクラしてきた。  
「ふふ、もうすっかり元気になってるじゃない?」  
美月が笑う。もう復活したというより、射精したのに勃起が収まらないという方が正確なところだろう。悠の分身は張り詰めたままだったのだ。  
 
「まっ、もうデキないなんて言っても、すぐに勃たせてあげたけどね……」  
美月は両手に腰を当てて上半身を屈めて悠に自分の顔を接近させ、まじまじ  
と悠を見つめた。気後れしたままの悠は座ったまま後退りしてしまう。  
「ふふ、やっぱり坊やって可愛いわ……悠君って最高……」  
美月は唇を舌で湿した。獲物を味わう前の舌なめずり、男がこの仕草で口  
腔での性交を想像してしまうのをこの妖艶な巫女は知っていたのだ。  
悠は期待と羞恥心からカァッと頬を染めてしまう。  
 
これではもう、どちらが女なのか分からない。  
「うふふふ……もっとわたしを楽しませてね……」  
美月は両手を腰に当て、上半身を屈めて舐め回すように悠を見つめる。  
 
小さな頃、親に咎められるときこんな姿勢で見下ろされたような気がする。  
 
そのためでもないだろうが、悠はこの瞳に射竦められたように、美月を直視できなくなってしまう。悠は俯いて目を伏せた。  
シュルリ……と衣擦れの音がした。  
 
何の音かと視線を上げれば、美月が白衣の帯を解き、無造作に手放したのだ。パサリと地に帯が落ちる。  
(う、わ……!)  
 
悠は目に飛び込んできた光景に息を飲んだ。  
 
美月は姿勢を変えず、手だけを動かして帯を外したのだ。  
 
拘束を失った巫女服は当然緩む。服の合わせ目に隙間が生まれ、その奥にある乳房の谷間がくっきりと浮かび上がったからだ。  
男の欲を最もかき立てるであろう、乳房の先端こそまだ巫女服の白衣に覆われているものの、二つの豊満な膨らみの間に深く切れ込んだその溝もまた、男  
の情欲を充分に刺激する。悠の視線はもう美月の胸元に釘付けだった。  
巫女装束の特性から、これまで美月の身体のラインをうかがい知ることは出  
来なかった。身体つきが細身なのは分かったが、男なら誰しもが気になるであ  
ろう乳房の膨らみは、今の今まで分からなかった。  
だが、まさかバストの谷間がこれほど深い切れ込みを作り出すとは……巫女  
服でさえなければ、男はついその膨らみの豊かさに目が行ってしまうだろう。  
「ねえ、悠君……」  
美月の呼びかけで悠は我に返った。応じるように見上げたところで目の前にあった美月の顔にまた唇を奪われる。美月の舌が悠の唇を割って、口内に侵入してきた。膝が抜けるほど、あの情熱的で甘い大人のキス。  
悠は美月の思うがままに口腔を弄ばれるが、今度はオズオズと美月の舌に自  
分の舌を絡めてみた。美月は一瞬動きを止めたが、悠の意思表示を喜ぶように、更に激しく舌を絡ませ合った。悠も負けじと美月の舌を押し返し、逆に美月の  
口腔に舌を滑り込ませようとするものの、百戦錬磨の美月がそんなことを許す  
はずもなかった。舌を激しく動かすのを止め、文字通りねっとりとした愛撫に  
切り替え、悠の口腔のあらゆる箇所に絡みついていく……。  
 
「んぅっ……!」  
溜まらず喘ぎ声を上げる悠。余りの淫靡さと情熱、更には快感までをも演出する舌の戯れに、悠は力が抜けるどころか、美月に吸い取られるような感覚さえ覚えていた。  
美月は悠の身体から力が抜け、抵抗する様子がなくなったのを見計らって唇を離した。艶かしい銀の糸が伸びるのも構わず、美月は余裕の笑みのままだ。  
「ふふ、ちょっと本気出しちゃった……悠君のキス、なかなかセンスいいわね」  
褒められたのだろうか。センスがいいと言われたのにここまで圧倒され、しかもそのテクニックを「ちょっと」と形容するのだから、素直に受け止めていいものだろうか。美月の技巧は本当に底が知れない。  
「うふふ……わたしの今のキス、良かったでしょ?」  
美月は笑い出す。男を圧倒した昂揚感か、はたまた童貞の心理を見抜いて  
 
からかう楽しさからのものか。妖艶な色香を漂わせる美女の、次の手管は何なのだろう? 悠は既に期待すら抱いていた。  
「悠君。今の舌使い……もう一度してあげよっか?」  
爛々と瞳を輝かせながら、美月は耐え難い誘惑を次々と提案してくる。  
「ただし、今度はこっちの方にね……」  
 
 
淫靡な瞳の輝きが、より増したような気がした。  
美月は悠のペニスを指し示しながら、そう提案してきたのである……。  
口による男性器の愛撫――勿論そういった性交の様態があることは、氾濫する性のメディアから知識を得た悠も知っていた。  
「フェ……フェラ、ですか?」  
恐る恐る美月に尋ねてしまう。  
「そうよ。フェラチオ。口でしてあげようと思ってるんだけど  
 
                 …さっきの舌使いでね。気持ち良かったでしょう?」  
 
美月はくすくす笑い、またあの舌なめずりをしてみせた。  
 
悠は女に翻弄されていることを痛感しながら、やはり溢れてくる期待に逆らえなかった。何より激しく自己主張する自分の分身が収まらない――本当はつい先ほど射精したばかりなのだが。  
「そ、それじゃ……お、お願いします。フェラ……してください」  
美月の唇の端が更に持ち上がった。クス、と美月は艶かしく笑う。  
 
この先に何をされるのか、思わず想像してしまう笑いだった。  
「いいわよ……」  
美月は妖しい微笑を浮かべた。  
 
悠の足を開くとその間に座り、悠の頬を撫でながら甘く囁く。  
「気持ち良くなっても、いいって言うまで出しちゃ駄目よ……」  
それだけ言うと美月は悠の肉棒に貪りついた。  
 
大きく口を開けて、硬く勃起して引き締まったペニスを先端からくわえ込む。  
「え、ええっ!?」  
 
美月の許可なく射精できない……あのたまらない舌使いに耐えられる自信などどこにもない。  
童貞の男でなくとも、この要求に耐えられるとは思えない。  
(あ、そうか。やっぱり口に出されるのは嫌なのかな……)  
悠なりに美月の意図に納得はできた。  
しかし美月は想像していたほど強く吸い付いてこない。  
肉棒全体を舐め回し、口内に分泌された唾液をまるで塗りたくるように軽めの愛撫を続けていた。  
悠はここまでしてくれる美月がだんだん愛しくなってきていた。  
突然の誘惑と圧倒的な性戯に操られ、今でも驚きは収まったとは言い難いが、今まで女に相手にされもしなかった男を、  
ためらいなく受け入れてくれたことに感謝に近い感情まで覚えてしまっている。  
 
「美月さん、ありがとう……」  
悠が感謝の言葉を言いながら美月を見つめたその刹那、身体の芯に痺れるよ  
うな快感が走った。肉棒への圧迫感が瞬間的に跳ね上がり、何かがペニスを這  
い回っている――美月が本格的に仕掛けてきたのだ。  
「んっ……ふぅっ……んん、あん……」  
美月の口と鼻から少しずつ息が漏れる。  
美月は激しい動きでペニスに愛撫を加え続けた。  
肉棒を口に含み、喉の奥で締め付けた。  
唇と舌を裏筋とカリのくびれに沿ってピタリと張り付かせ、口を前後に動かすことで巧みに愛撫する。  
悠はもうされるがままで、まるで女のような喘ぎ声を漏らすことしかできなかった。  
美月は男の欲望を煽る上目遣いで、悠の様子をうかがった。  
「美月さん、気持ち良いっ……うっ……くぅっ!」  
悠の反応に満足したのか、美月は笑っていた。  
 
『男なんか、全部知ってるんだから……』とでも言いたげな、上目遣いの視線が悠を射抜く。  
視線を逸らそうとしない美月を真っ向から見つめようにも、下半身に注がれる快感が許してくれそうにない。  
もう悠は爆発寸前だった。  
射精感が募り、やはり美月のテクニックには耐えられそうにない。  
裏筋とくびれの交差するポイントをチロチロと舌で刺激され、更に口内にくわえ込まれる。  
このままでは確実に射精に至ってしまう。  
(出しちゃ駄目って言われてるんだ……っ!)  
悠は歯を食い縛るように耐えた。柔らかくて暖かい口の愛撫はあの白い指以上に気持ちいい。  
耐えられるわけがない……!  
「美月さん、もう駄目ですっ! 我慢できません!   
限界です! もう出ちゃいますよぉ……っ!」  
 
悠は素直に告げた。このままでは美月の口に出してしまう。  
 
しかし美月の許可があるまで出してはならないのだ。  
美月の愛撫がぴたりと止まった。危なかった。本当に射精の寸前だった。  
 
精子の軍勢はまだ下から押し上げるような名残惜しさを見せるが、悠は呼吸を乱れさせながら抑え込んだ。  
射精できないのは辛かったが、これで少しは大丈夫  
だろう。  
「はぁ、はぁ……はぁ……」  
まだ肉棒にぬめりがある。美月が咥えたまま放さないのだ。  
 
悠が辛うじて視線を送ると、美月は更に淫靡な表情を浮かべた。  
 
そして悠と目が合った瞬間に再び口と舌の戯れを再開する……。  
「……うぁあっ!」  
悠はこのとき悟った。これが『さっきの舌使い』なのだと。  
 
美月の今度の愛撫は激しくはない。  
 
だが、ペニスからじわじわと注入される悦楽は先ほどとは比較にならなかった。  
『さっきの舌使い』――フェラの前の大人のキス。  
抵抗する悠の舌をテクニックで圧倒した、あのねっとりとしたキス。  
それがこのフェラなのだ。思えば先ほどまでの激しいフェラは更にその前、悠が抵抗するまでのキスをイメージした舌使いではないか。  
悠の分身には美月の舌がねっとりと絡み付いている。それは時折ピクンピクンと生き物のように蠕動し、裏筋とカリをも同時に刺激する。  
 
こうされているだけでも、しばらく待っていれば射精させられてしまいそうだ。  
柔らかな口の粘膜が張り付き、舌だけでは絡み付けない箇所を着実に攻め立  
てる。柔らかく、そして暖かい粘膜が肉棒を包み込み、ねっとりと吸い付いて男の性感を煽り立てる。  
そんなものを悠は今、味わっているのである…、しかもまだ美月から射精の許可はもらっていない。  
しかも美月はピストンのようにペニスを口から出し入れし、更にここからねっとりと「男」をしごくのだ……そう、ねっとりと。  
 
「美月さんっ……!」  
たちまち射精感が限界に達する。美月の口がほんの一往復しただけで、悠は  
喘ぎ声を上げてヒクヒクと震えた。いつになったら許可をもらえるのだろう。  
痺れるような快感が下半身から全身に走り巡る。  
「美月さん、駄目です! オレ、オレもうっ……ダメッ……!」  
悠がそう観念したところで、美月はまた上目遣いで悠を見つめた。  
 
悠はその瞳に、獲物を捕らえた獣の目と同じものを感じた。  
美月は悠が限界を告げても許可を下さない。クールな視線で悠を見透かしたように射抜いていた。  
口内で舌と粘膜を絡みつかせたペニスが突然膨れ上がるのを感じた瞬間  
 
美月は一気に肉棒を吸い上げた。  
「ああっ……! うあっ、く……はあぁあっ……!」  
堰を切ったかのように、凄まじい快感が悠の芯にほとばしった。  
 
今までにない勢いで白い情熱が放たれたのが悠にもはっきりと分かった。  
 
全身を痙攣させながら美月の口に精液を放つ。肉棒の脈動が更なる快感を招き、二度、三度ドクンドクンと、悦楽と共に精子を絞り出すようにペニスが震えた。  
美月は大量の精液が放たれたのをすべて口で受け止め、射精が続く間、ずっと吸い上げ続けていた。  
恐らく悠は射精と共に身体の芯から何かが引きずり出されるような悦楽を味わったことだろう。  
 
美月は仰け反ったまま喘ぐ悠を見下ろすような場所に立ち、見せ付けるように口に放たれた精液をコクンと飲み干した。  
口の端から一筋零れた精子を指ですくうと舌で舐めとる。  
悠はその淫蕩さに思わず見惚れてしまった。  
「ふふふ……まだ出していいって言ってなかったのにね……」  
「そんなっ、だって、気持ち良すぎて……」  
まだ悠の呼吸は乱れたままだ。荒い息の隙間を縫ってやっと声を絞り出せる程度だった。それほどまでにあの吸い上げフェラは強烈な快感だったのだ。  
 
あれほどの絶頂感を悠は今まで味わったことがない。  
「うふふ…、別に出してしまっても良かったのよ。わたし、悠君のイク瞬間の顔を見てみたかったの。もうとっても可愛かったわ……」  
美月はクスクスと笑い出した。  
「だって童貞君がわたしの口に耐えられるはずないじゃない…、ただイカせるだけじゃ面白くないもの。だからたっぷりと観察させてもらったわ、うふふ…」  
悠は虚空を見つめるしかなかった。どう転んでも美月の掌の上なのだろう。  
美月は瞳を潤ませて悠に抱きついた。帯を緩めて肌の露出が増えた分、悠の胸板に直接美月の肌の温もりが伝わってくる。  
 
 
 

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