基本的に積極性に欠ける私の恋心なんてものは、自己完結のためにあるようなもので、一度として実ったことなどない。
気になる誰かができても話しかけることすらできないのだから、それは当然の結果だ。
小学校や中学校に通っている時は、それでも一向に構わない、自分の気持ちに折り合いをつけることには慣れていたので、気にも留めなかった。
でも、高校に入って、性的な知識を得て、自分で自分を慰めることを覚えて以来、私の恋心は屈折へと向かった。
「・・・・・・・・・・・・」
何が原因で人を好きになるのか分からない。だけど気付いた時には、私は特定の誰かを好きになっていて、近付きたい、話したい、触れ合いたい、そういう欲求を持っている。
高校に入って二年が過ぎた頃、私には好きな人ができた。同じクラスで、取り分け目立つタイプでもないのだけど、穏やかな話し方に好感の持てる人だった。といっても、彼と直接に話したことはない。
私は見ているだけで、そんな私に彼と話す機会などあるはずもない。それでも私は満足だった。私は片思いの自己完結の末、見ているだけで満足できるようになってしまったのだ。
小学校、中学校とそういう経験を繰り返したお陰で、すっかり慣れてしまった。
ただ問題なのは、高校に入って以来、私の片思いに性的なものが絡んできたことだ。
初めて自慰を行ったのは偶然に過ぎない。お風呂に入っている時、何となく湯の中にある下腹部を眺めていた。割れ目を隠すように生えている毛を見ているうち、心臓が音を鳴らすように弾み出して、
気付いた時には下腹部に手が伸びていた。割れ目の側を指でさすれば、肌を撫でる感触だけでない、熱が生まれる感覚があって、頭の中がぼうっとした。てっきりのぼせたのかと思いながらも、割れ目を
撫で、もう片方の手で膨らみに欠ける胸を揉んでいると、湯よりも熱いものが体の中から込み上げてきた。
やがて、ぼうっとしたものが弾ける感覚とともに、気だるさに襲われた。
全身の力が抜ける勢いと、肺の中の空気が全て吐き出されていく解放感に、えもいわれぬ気持ちよさを覚えた。知識として知っていた絶頂の意味を悟った気がした。
以来、私の優先順位は自慰が頂点となり、あらゆる事柄もそれの下に位置する結果となった。
恋すらも、愛すらも。
放課後、窓から差し込む夕日に照らされて生まれる影を見ながら、彼の席に腰を下ろす。
窓の向こうからは、運動場で部活動に励む生徒の声が聞こえる。椅子の座り心地は自分の席と代わり映えしないけど、ここに彼が座っていたと考えると、それだけでスカートと下着を通り越して、お尻
に熱を感じた。
荒い傷のある机に指を這わせて、頬を寄せる。冷たい触れ心地は無機質で、何も感じることはできない。でも、彼が使っているというだけで、感触までも変化する。まるで柔らかくなって熱を孕んでいる
ような気すらしてくる。
それが片思いのもたらす力だ。
「・・・・・・・・・・・・」
今、この光景を、彼が見ているかもしれない。そう考えると頬が熱くなった。
(・・・そう、実際に、今、彼が・・・・・・)
教室に忘れ物をした彼が、階段を上がり、廊下を歩いて教室の前に立つ。教室の扉は何故か開いていて、そこから中を見る。そうすると影の薄いクラスメイトが、自分の席に座っている。
見られている、そう思うだけで割れ目の奥にむず痒さが生まれた。机に頬を触れさせたまま、手をスカートに滑り込ませる。太腿を指先でなぞれば、産毛の逆立つ気配が全身に走った。
「・・・・・・ぁ」
小さく喘ぎながら、指先を下着に触れさせる。
教室の扉の前で、彼は呆然と私を見ている。何をしているのか、それは一目瞭然だけど、あまりの驚きに何の反応もできず、彼はただ見ている。
その、見られているという妄想だけで、割れ目の奥が熱くなり、液が溢れるのを感じた。このままでは下着を濡らしてしまう、そう思って下着を脇に寄せ、割れ目を露出させる。乾いたそこに指を触れさせ、
左右に開くと、溜まっていた液が溢れ出た。
生温かい液を指先に感じながら、それを割れ目に塗りたくる。そうすると教室内に漂う風すらも敏感に感じ取ることができるようになった。
熱くなっている頬、高鳴っている心臓、火照っている体、それら全てを、彼が見ている。教室の扉の向こうで、呆然と、小さな喘ぎ声を漏らす私を見つめている。
「・・・ぁ、ぁ、ん・・・は、ぁ・・・」
私の声を、彼が聞いている。
指先で割れ目を擦れば、止め処なく液は溢れて、指を濡らしていく。左右に広げて突起を剥き出しにして、もう片方の手でその突起を擦ると、小さな痺れが連続で走るような快楽を味わえた。
「・・・・・・んん、ぁ・・・はぁ、ぁ・・・」
彼が見ている。
快楽の走る度に震える私の体を、無様に足を広げて割れ目を弄る私の姿を、耳まで真っ赤にして半開きの口から涎を垂らす私の顔を、彼が見ている。
「・・・や、ぁ・・・!」
彼が見ている中で、私は激しく突起を擦り、絶頂に達した。頭の中の空白が破裂して広がっていく感覚の後、胸の中までが気だるさに包まれていく。呆然としたまま口を閉じて漸く、こぼれていた涎が
頬についていることを知った。
上半身を起こして、片方の頬を涎に濡らした顔で振り向く。真っ赤な顔で、潤んだ瞳をしている私を、彼が・・・・・・でも、そこに彼はいない。
開け放しになっている扉の向こうには廊下と窓があるだけで、人の姿はない。彼は私のことなんて見ていない。
「・・・・・・ああ」
根元まで濡れている指を扉に伸ばしてみても、彼には全く届かない。
だから精々、私は私にできることをする。私にできることなんて、恋心を性欲に利用するだけで、浅ましいことばかりだけど、今はそれでいい。
いつかきっと、彼も気付く。
だからこそ私は、涎で彼の机を濡らし、割れ目から溢れる液で椅子を濡らし、教室を後にする。
いつか彼は気付く。その時、私の恋心は性欲とどのように結びつくのか。それだけを考えながら、ぼうっとした頭で、帰途に着く。家では彼の姿を思い描いて自慰をする。そうすることが、私の片思いに
なりつつある。
終わり。