帰り道、駅からのそう遠くない道のりを
あたしは何でこんなに早足で歩いているんだろう。
普段なら歩をゆるめる駅前のケーキ屋も、今日はその甘い香りを避けたくて
道路を横断し反対側の歩道を進んだ。
とにかく早く家に帰りたい…
今はただ、何とも関わらず一人になりたかった。
その理由をはっきりと思い出さないように、忘れないように…
もどかしくドアに鍵を刺し、叩き付けるように自室のドアを閉める。
鞄と一緒に、この冬初めて着たダッフルコートを放り投げると、
あたしはベッドの上に乱暴に腰掛けた。
…急に寒くなるからいけないんだ…
まだ少し上がっている息を整えながら、妙な責任転嫁をする。
あたしだって、昨日までは腰丈のピーコートだった。
街中の人が昨日より暖かい恰好になった。
だからあんな服を着た人なんか、全然珍しくない…。
本棚の一番上の段にあるのは、去年の冬の日付のアルバイト求人誌。
もう半分癖のように、それをちらりと見上げて、目を伏せた。
今日だって帰宅時いつものように電車に乗った。
ドアの前に立ち外を見ていると、降りる駅で電車が減速し始める。
そして、電車が完全に止まりドアが開くまでのほんの瞬間…
あたしは、全身が甘い緊張に総毛立つのを感じた。
ホームから乗り込もうとドア前に立つ見知らぬ男性、
その人が着ているのが、真新しいスエードのコートだったから。
今日の事を思い出すと、心臓の辺りがギュッと苦しくなる。
その時、奥の方に息を潜めた別の場所も、キュンと切なくなった。
あたしは小さくため息をつくと、
のろのろと両手を制服のスカートの中に入れ、暖かい太股の間に挟む。
そして奥には触れず、しかしその存在を確かめるように
入り口を何度も自分で締め付けて、ひくつかせた。
その度に擦れるショーツの布は、もう既にぬるぬるとしていた。
……たったあれだけの事で……
あたしは段々霞がかかってきたような頭の中で、
また今日の事を思い出していた。
ドアが開き、あたしがすぐに降りないのを確認すると
その男性は電車に乗り込んできた。
すれ違う一瞬に、あたしは全神経を集中させる。
そして、その男性のスエードのコートから立ち昇る懐かしくも切ない匂いを、
周りに気づかれないように、胸一杯に吸い込んだ。
ドアが閉まるのを知らせるメロディーで
はっと我に返り、あたしは慌てて電車から飛び降りた。
動き始める電車の男性を振り返ることもせず、ただ家路を急ぐ。
湧き上がる甘い感覚と、少しの悔しさを抱いて。
…あいつの事、思い出させられてしまった…
無意識にまた本棚を盗み見てしまう。
あたしは片手をブレザーの裾から進入させ、シャツの上から胸を包み込んだ。
薄手のブラ越しに、小さな感触。
立ち上がって敏感になったそこを、親指と人指し指で
優しく何度も何度もつまむと、ショーツの奥がまたひくひくっと震えて、
お尻から腰、背中、うなじへと、甘美な波がせり上がった。
……んっ……はぁ…
波に押し流されるように、太股の間にあった指先がショーツに向かう。
もう溢れているそこに早く触れたくて、布地の横から中指を進入させた。
……ぁあ…あ…はぁ…
ぬるぬると熱いそこは、中指の先端をくわえると何度も締め付けた。
反対の手はシャツの第三ボタンを外し、今度は素肌の胸をなでまわすと
痛いほど堅くなった乳首を、小指の腹でくるくると転がす。
…あっ……あぁ…あんっ…
またあそこがキュンキュンして、無意識に腰が小刻みに動いている。
……もっと欲しいよぉ……
あたしはたまらなくなって、ブレザーとスカートを床の上に脱ぎ捨てると
ベッドの中に急いで潜り込んだ。
仰向けになり軽く膝を弛めると、片手をショーツの中に滑り込ませる。
一番触れたかった部分、その先端に中指がたどり着いた。
溢れた蜜で既になめらかなそこを、指の腹で小さく往復させる。
…ああっ…あっ…んっ…んっ…んっ
口からこぼれる嬌声を、何とか飲み込もうとした。
マンションの外廊下側に窓があるこの部屋で、不用意なことはできない。
でも、今のあたしときたら何ていやらしい恰好をしてるんだろう。
シャツのボタンの隙間からは、ブラのずれた胸がのぞいてる。
下半身は…ぬるぬるで半分透けているショーツと、ソックスだけ。
そしてショーツの中に片手を入れて、クチュクチュと音をさせているあたし。
考えると急に頭がカッとなった。恥ずかしい、見て欲しい、恥ずかしい。
空いていた手が膝の裏側をすくい上げ、太股を大きく開く。
布団を掛けていても、それだけで恥ずかしいポーズに、ギュッと目をつぶった。
「探検しよう」ってあいつに強引に手を引かれ、遊歩道を奥へ奥へと進んだ。
到着したのは冬枯れの木立の中の、小さな東屋。
背もたれのないベンチに背を丸めて座り、暖かい缶コーヒーと紅茶を飲む。
ずいぶん歩いて暖まった体も、座るとすぐ冷えてきた。
「寒いね」っていうと、あいつはなぜか嬉しそうに「寒いな」って言う。
「じゃ」そう言って、あいつは片足を上げてベンチをまたぐと
あたしの右半分を抱え込むようにぴったりとくっついた。
突然のことにとまどい肩を退くと、
あいつは着ていたスエードのブルゾンの前を開いてあたしを包み込む。
「これで暖かい?」あたしの髪をかき上げて、耳の後ろに唇をあてた。
慣れない衝撃に、心臓が大きく跳ね上がった。
……あっ…ん…はぁ…
こんな恥ずかしい恰好で、あいつの事思い出してる。
ぬるぬるの中指は休むことなくクリを前後する。
膝の裏側をつかんでいた手が、快感の中心に向かい太股の裏をたどり始めた。
あいつの唇がやわやわと首筋に降りていく。
体が無意識にビクッ、ビクッと応えてしまう。心なしか息も荒くなってきた。
「あっ…」
突然耳を甘噛みされ、思わず声が出る。
そんな自分に驚き、羞恥と快感で涙が浮かんできた。
彼の匂いとスエードの匂いに包まれて、頭がクラクラする。
「も、だめ。誰か来ちゃうよ。」
「来ないって。」
顔を上げさせられると、少し荒々しくキスをされる。
いつの間にかセーターの中に入ってきた手が、あたしの胸を揉んでいる。
ブラの上からもわかるほど堅くなった乳首を転がされた。
「…はっ…はっ…ぁん…あん…」
唇を解放されると声が出てしまう。どうしよう。その時あいつが言った。
「でも、だれか来ちゃうかもな。」
太股をたどる指がやっと泉の中心に到着し、
濡れ濡れのショーツの上から押すとプチュッといやらしい音をたてた。
そのまま指にぐっと力を入れると、布地ごと指先が入っていく。
……はあっ…あぁっ…あぁん…あぁん…
だめ、やっぱり声が出ちゃうよ。
もう邪魔でしかないショーツを脱ぎ捨てると、
入り口をパクパクさせて待っているあそこに細い指を沈めていく。
…は…ぁ…あ…あ…ああぁん…
待ちきれなかったように何度もキュゥンキュウンと締め付ける。
緩んだ瞬間に抜き差ししようとすると、また締め付けた。
根本まで入れた指を少し強引に出し入れすると、
ニチュニチュという音と一緒にどんどん溢れてくる。
もう一方の手は一番敏感な部分に向かう。
周りからクルンクルンと何度も円を描くと、
先端が欲しがって、自らねだるように腰を小さくゆすった。
…あっ…あっ…あっ…
もう我慢できなくなって、中指の腹でクリに触れる。
…あぁっ…あぁっ…
指を小刻みに震わせ、少し強く押しつける
…ああっ…あっ…ああっ…あああん…
…ああん…ああん…も…だめ…え……イ…ッちゃ…
!!
その時、窓の外から足音が聞こえた。
パタパタパタ…小さく走り抜ける足音の後から
ゆっくりと響く広い歩幅。
コツ、コツ、コツ、コツ…
…だめ、今、声を出しちゃ…ぁ
コツ、コツ、コツ、コツ
…早く通り過ぎて…早くぅ…
胸を激しく上下させ、潤んだ目は大きく開いたまま。
口を大きく開けて、吐息を嬌声を逃がして…
全身で窓の外の気配が消えるのを待つ。
…もう…いい?…許して…
気配が消えるとあたしは無我夢中で布団をかぶる。
うつ伏せになり枕に顔を埋めた。
…もう…だめぇっ…
あそこに差し込まれた指で、壁面をグイグイ刺激する。
指をくわえ込んで締め付ける入り口を、
抜けない指でわざと小刻みに出し入れしてまた刺激を与える。
…はあっ…ああっ…もう…
クリをなでるだけでつま先が痺れる。
…ああっ…ああっ…ああっ…ああっ…
指先を押しつけて左右に細かく動かしたその時。
…はっ…あっ…あぁあああん!!
荒い息で、ベッドの中ぐったりと横たわる。
もうどのくらいそうしていただろうか。
焦点の定まらない視線は、いつのまにかまた本棚を見ていた。
「でも、だれか来ちゃうかもな。」
あいつの言葉が頭の奥に浮かんで、沈んでいった。
また街のどこかであの匂いを嗅ぐ度に、
あたしはどうにかなってしまうんだろうか…。
まだ冬は始まったばかり。
fin.