……宵闇の漆黒に濡れそぼったような夜。獣達も寝静まり、森の中は、閑散とした静寂さを保っている。  
 深い深い密林は全てを飲み込んでいるように広大で、煌々たる銀色の月の光もそれを隅々まで照らすことは絶対に無い。  
 そんな森の奥、まるでそこだけ切り絵で切り取ったように、黒い穴をあけている場所がある。……何のことは無い、そこは人工的に均された土地であり、そこには森にそぐわない洋館が一件、人目をはばかるかのようにひっそりと建っていた。  
 森の中の洋館……よく物語などに使われる物だが、この洋館も、それらで想像していたものとほぼ、相違無い。夜の闇も重なってか、ただでさえ不気味に見えてしまうこの館は、その薄気味悪さをいっそう増しているように思えた。  
 このお話の舞台は、この洋館の中にて。さあ、語り始めよう――――  
 
 
 部屋には衣擦れの音が響いていた。  
豪華で、壮言かつ耽美な装飾に囲まれたこの部屋は、そこに住む者が高貴な生まれだと言うことを主張している。夜の暗闇に隠れて尚、その輝きが色褪せる事等有り得なく、それらの調度品はそれほどまでにお互いの華麗さを競い合う。  
 ベッドも、その内の一つである。天蓋の付いた大きなベッドは、シックな美しさと機能性を兼ね揃えた、非常に良いものである。  
 そのベッドの上で蠢く影。部屋には露わな嬌声が忍び漏れる。  
「んっ…くっ、くはぁ……」  
 一組の裸の男女。暗闇で絡まり合うその二人の情事は、熱くとろける様な熱をもって、底冷えする部屋の空気を上気させる。  
「かふっ…くあぁぁっ……」  
 息は荒く弾けるよう。しかし、余裕の無さそうなのは女より寧ろ男の方……青年と言うにも少し若い位の男の子だ。もう一人の女性は、そんなまだ若い男の子を愉しむ様に、彼の奥にある熱を揺さぶって行く。  
 彼女の自らの腰辺りまでありそうな長く綺麗な髪がその動きに合わせて流れる。  
 男の子の髪は茶色でかなり短い。  
 ……そして二人とも、その髪の間、つまり、頭のてっぺんからは耳が覗いていた。  
 女のそれは、猫のものであり、男は犬のものである。  
「きゃんっ!…っはぁ、はぁ…っ」  
 男の口から、又一層高い嬌声が漏れる。どうやら、この二人の内でリードを取っているのは女の方らしかった。  
「ふふっ、いいわ。もっと鳴きなさい……」  
 そう言って、後ろから男の局部を手で激しく責め立てる。その間も、舌は男の耳を這い頬を這い首を這い……女の攻めに容赦など微塵も無く、また攻められている彼には余裕など一片も無い。  
「レミィ、さま……ぁ、ぼく、もう……っ!」  
 男が、子供の様に透き通った声で限界を訴えるが、レミィは意に介した様子も無く、攻めの手を加速させて行く。  
「も、もう……もうっ!」  
 叫びと共に放たれる精。それはレミィの手を汚し、ベッドも汚す。  
「く……はアッ、はッ……」  
 放ちきった男の荒い呼吸が、部屋に響く。  
「もう果ててしまったの…しょうのない子」  
 少し押さえ気味の声で、そう呟く。だが、言葉の裏に暗い情念が秘められているのが男は分かったであろうか。  
「貴方ばかり気持ち良くなってしまって……主人を愉しませないなんて、悪い子ね」  
 
そう言ってクスリと笑い、その手で男の子……コウの首根っこを押さえつける。そのまま力を入れ、無理矢理に自分の顔の方を向かせる。  
「あっ……!」  
乱暴なやり方に悲鳴じみた声が上がるが、レミィは意に介していない。  
「コウ」  
更に顔を近づける。もう殆ど触れ合ってしまう様な位置だ。  
「貴方のが腕にかかってしまったわ。……舐めて綺麗にして頂戴?」  
ずい、と右腕を差し出す。彼女の腕の上半分位までは体毛が覆っていて、その体毛には、コウのの放った精が月の光でてらてらと光っていた。「あら、どうしたの?コウ」  
首から手を放したレミィは急かす。コウの顔には少しばかりの怯えと、その行為への躊躇いと、彼女への自分の想いとが混ざった、複雑な顔があった。  
「は、い……わかり、ました」  
コウの許諾の一言。おずおずと舌が伸ばされ、彼女のふさふさとした体毛部分に舌が触れた。  
 
恐る恐るに舌が進められる。さらさらとした体毛の感触と、自分が放った精の味がコウの舌に伝わって行く。  
「そんなペースでは一生終わらないわよ……ねぇ?コウ」  
厳しい叱咤がコウに向けて飛ぶ。レミィは自分の腕に伝わるこそばゆくも心地良い感触と、微妙な表情で私の腕を舐め上げる召使いを眺め、それらに浸っていた。  
急かせられ、何とも必死な表情のコウ。  
 ……私の可愛いコウ。私の言いつけをきちんと守り、このような事までしてくれる彼の健気さに、途端に沸き上がる愛おしさ。更に相反するようなその従順な召使いに対する嗜虐衝動までもが鎌首をもたげ、それらの思いがレミィの気分を否応無しに高めてゆく。  
レミィは空いていた左手でまた首を掴み取る。驚くコウも気にせずに、そのまま彼の顔を自らの右手に押しつけた。  
「んんっ――――!んっ、んむぅっ!」  
コウは苦しそうにじたばたと藻掻く。それでもレミィは、躊躇せずそれを続けた。  
 
「んふ、いいわ、コウ……」  
それ程強い力を入れていた訳では無いらしく、コウが少し強く抵抗すれば、その拘束は割合早く解かれた。しかし、密着状態で藻掻いていたせいか、コウの顔は自分の精と唾液に濡れ、月夜の光で先程のレミィの様に光を反射して輝いていた。  
「……ぷはっ。んんぅ……」  
顔に付いているのが嫌なのか、手で顔をこするコウ。  
「ふふっ……コウ、貴方それじゃ猫が顔を洗っているみたいよ。犬なのに」  
「あ……」  
くすくすと笑うレミィ。コウは笑われたのが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめている。そんなコウの正面に回り、レミィはいきなり彼の顔に近づいて行く。  
コウは少し驚いて反応するが、すぐに大人しくなった。レミィはお互いの息遣いが分かる位の位置にある彼の濡れた顔を舌で舐め上げてみる。  
「ひゃっ!?」  
今度こそコウは驚きの声を上げる。けれど、目の前にあるレミィの顔を見つめて、途端にそのまま押し黙ってしまった。  
 
目蓋、鼻の上……レミィはコウの顔を丁寧になぞる様にして進む。そのまま、唇と舌が触れ合った時、ピクッ、とコウの身体が電気を通したみたいに跳ね上がる。目を瞑って耐えるコウが、レミィの目に写る。  
レミィは彼の唇の周りをなぞる。その感触に小刻みに震えるコウ。先程、あんなにも体外に放出した筈の男根は、ずっと勃ちっ放しだ。  
突然、レミィはコウの頭を押さえて唇を塞ぐ。いきなりのレミィの行動だったが、コウはちゃんとレミィの舌と唇を受け入れる。  
「んむっ……」  
レミィはコウの柔らかい唇を舌で味わう。それだけで脳の奥が陶然とした快楽に酔い、目眩に似た気持ち良さが襲ってきた。  
少しずつ、焦らない様に、じらす様に唇の周りを舐め回し、甘噛みする。私の愛撫にそのたび反応するコウは女の子の様で、抱きしめてしまいたい位に、可愛らしかった。  
レミィの手がコウの頭から放され、肩に回る。そうなると、キスはさらに激しさを増してゆく。  
唇から口内へ、舌が移動する。  
 
「んっ!」  
一瞬、コウの身体が跳ね上がるが、すぐに力は抜かれた。コウの歯茎をレミィの舌が這い回る。歯茎だけではない。頬の内側、コウの舌にまでレミィの舌が絡められ、同時に彼女の唾液も味わうことになる。  
呆れるくらいに長いディープキス。それが終わる頃には、もう既にコウの口の中で彼女の舌が当たらなかった所は無いだろう、と言ってしまって差し支えないぐらいに彼の口内は蹂躙され尽くしていた。  
二人して息は荒かった。無理もない、この間二人は殆ど呼吸していないのだから。  
「はあ、はあ……っ、コウ、もうこんなに?」  
私が指を指したのはコウの男根だ。ピクピクとかすかに動くそれは、もう限界まで膨れ上がっているようだった。  
「あ……は、恥ずかしいです、あんまり見ないでくださ……っふあっ!」  
「凄い……いつもより大きいかも」  
レミィはコウのそれに手を触れていた。本当にゆっくり触れただけなのに、コウは声を上げて反応する。それにあわせて、コウの臀部に付いている尻尾がふらふら揺れるのが見ていて楽しい。  
 
「コウ……感じている?」  
手中のものを刺激しながら、私はそう尋ねる。  
「…………」  
そんな私の問いに、やはり押し黙ってしまうコウ。……この子は基本的に奥手なのだと、心の中で分かっていながらも、反応がないことに寂しさを覚えてしまう。  
「それとも、これじゃ駄目かしら……ねえ、コウ。止めた方がいいの?」  
「え?……そ、それは」  
「残念だわ……本当に残念だけど、仕方がないじゃない。嫌がるのを無理矢理と言う訳にも行かないわ……」  
「あ……え、えと……」  
途端に慌て始めるコウ。しかし、言いたい事が口に出せず、しゅんと頃垂れる。何だか、獲物を追い詰めた狩人の気持ちになった気がする。  
……彼が私にそうさせるもの『母性をクスグル』とでも言うのであろうか?コウはそれを持っているのだと思う。大体にして、そんな透明な瞳で見つめられたらちょっかいの一つや二つも出したくなる、って言うものだ。  
余人がそれを愛だと言うならば……それはきっと疑い様も無い愛であるだろう。  
「……仕様がない、か」  
 
はあ、とため息が漏れる。勿論、コウの踏ん切りのつかなさに対してだ。  
だけれどそれも良いか、とも思う。そんな性格がコウたる所以であり、そもそもにして、性格というものが一日で劇的に変わる等有り得ることでは無い。  
……いつか変わってほしい事ではあるのだけれど。  
「コウが乗り悪いんだもん」  
私は拗ねたようにそう漏らす。  
「自分から、私の上に覆い被さって来る位の気概が欲しいわ」  
「そんな……まさか、主人であるレミィ様にそんな事は……」  
「ベッドの上ではただの男と女じゃない?」  
「ああレミィ様、そんなはしたないこと言わないで下さい……仮にもレディなんですよ?」  
赤面して私を窘めるコウ。まるでお目付け役みたいな事を言う。  
「あら、はしたないのは貴方じゃない?」  
私はそう言いながら、くすりと笑った。  
「え?」  
「だってね……」  
私はコウの頭から突き出た耳を甘噛みする。  
「あ……ち、ちょっと……ふぅん」  
コウの乗り気の無さに萎えさせられた私の中の何かに、再び火が灯される。  
 
「感じているんでしょ?男の子なのに、耳なんかでね」  
そんな私の質問に視線を逸らすコウ。コウの感情表現はストレートで、すぐ顔や行動に出てくる。  
「耳だけじゃないの……」  
空いていた私の指は、彼の臀部に生えている尻尾を掴む。コリッとした尾骨の感触が指に跳ね返ってくる。  
「きゃっ!し、尻尾……ふぁぁっ、尻尾、は、駄目……です」  
駄目と言われて、止める奴はいないのだ。尾骨を柔らかく揉み解す様にしながら耳への愛撫もつづける。ベッドの上に座っていたコウは、へたり、と力が抜けて横になる。  
「駄目?何が駄目なの?そんなに気持ちよさそうな顔をして……」  
「だ、駄目なものは、駄目なんで……すっ!」  
「それでは私には伝わらないわよ、何が駄目なのか、私にちゃーんと伝えて、その理由が私を納得させるなら、許してあげても良いけど」  
コウの耳たぶから唇を放し、尻尾をくすぐる手の動きを止め、彼の顔を目の前に引き寄せる。話をするには少し近い距離だ。  
 
「あの……」  
コウはどこかそわそわしている。言いあぐねているせいか、はたまた余りにお互いの顔が近距離過ぎるせいか、もしくは両方という可能性が一番高いように思えるが。  
「……気持ち良すぎて、」  
「ん〜?」  
「気持ち良すぎて……これ以上なんて、とても」  
半ばやけくそだったんだろうと思う。言った後、コウは俯いたまま動かない。……そんなコウの有無を言わさず、私は彼をベッドに押し倒した。  
「れ、レミィ様!?何を!」  
その時、私はどんな顔をしただろう。笑っていたのか、真面目な顔なのか、自分の表情というのは、見ることができないからとても姿の掴みにくいものだなと、ふと思う。  
「いいよ、気持ち良くなったって。一緒に気持ち良くなろ。一緒にどこかに飛んで行こう」  
「レミィ様……?」  
コウの不安そうな瞳が写る。が、返事をする事無く、私は彼の胸に舌を這わせ始める。  
「んっ……」  
少しだけ、艶めいた声が彼からあがる。  
 
胸板の上を舌が滑ってゆく。時々舌に緩急をつけて、更にはキスもする。彼の胸板の辺りは体毛が薄くて皮膚もむき出しで、直に触れる皮膚が暖かくて気持ち良かった。  
「……ちょっと、くすぐったいです」  
コウはそう言って、軽く笑う。  
「ふふっ……」  
それに釣られて私も笑い声を上げる。  
「じゃあ、これはどう?」  
「……え?ちょ、ちょっとレミィ様?!」  
私はコウの脚の方へと顔を移動させる。視界に入るコウのペニス。既に大きくなっているそれを私は手で優しく掴みとる。  
「コウ……気持ち良くしてあげるから」  
舌で、コウのそれを一度、舐め上げてみる。  
「ふあっ!」  
更に容赦なく、余すことなく舐め続ける。時々、舌だけではなく唇で刺激を与えてみる。  
「ん……んちゅ、ん……」  
「く、んっ!ん、んぅ、はぅぅ!だ、だめですよっ!」  
手も休まずコウを責め立てる。臀部の尻尾、菊穴、脇腹だってくすぐれば反応が返ってきた。その絶え間無い攻めの結果、コウのそれは少しずつ大きくなってきてきている。手から伝わる感触でそれがわかった。  
 
「ふ……」  
ついにはその一物を口の中に含む。  
コウのは、その少し頼りない外見(彼は、他人に本当の年を言うとことごとく驚かれる)に似合わず大きめな方……だと思う。口に入れていると、サイズがぎりぎりでかなり辛い。それでも、我慢して彼のそれをしごき始めた。  
「んちゅ、んっ、んむ……くちっ、くちゅっ」  
「……れ、レミィ様、っぁあん!そ、そんなこ、こと……駄目、だぁめで、すぅぅ……」  
コウは私から逃れようとしているのか、少しずつ腰が引けてゆくのだが、私はそんな彼を逃さない。ただ、彼のを舌で弄び、口全体を使って愛撫する。  
「駄目だって……駄目だって、言ってるのにぃ……きゃんっ!」  
コウはレミィの愛撫に耐えきれず、漏れ出す声が止まらない。だが、その声もレミィには艶やかに響く。  
もっと鳴かせたい。  
もっと、もっと。  
この子の感じる声を聞いてみたい。  
これ以上の快楽を与えたら一体どうなるのだろう?  
嗚呼、いとおしい。背筋を伝って痺れが走るほどに、嗚呼……  
この身体の一片たりとも無駄にしたくは無い。  
 
……レミィの想いは狂おしい程にコウを想う。どちらかと言えば気ままで飽きっぽい猫人の類に属する彼女だが、たとえ何に属していようと、その強烈な情意は飛び抜けているだろう。  
何かに取り付かれるように燃え上がるその感情の火種は、一体何なのであろうか?  
彼女の思いの加速と比例して、彼女の動きも加速してゆく。そこから鳴り響く淫らな水音は、最初に比較してずいぶん激しくなった様に思える。  
「レミィ様ぁ!はあっ、はぁ……僕、もう……ふぁ」  
コウの口から限界の色が滲み出てきても、その激しい愛撫は止むことを知らない。むしろその声で、勢いは増したよう。  
コウは口に手をやり、自分の声が漏れ出すのを何とか押さえるのだが、苦しげな喘ぎ声はそれでも外に漏れ出す。  
「くぅ…ッはぁ!はっ!はぁ、はぁん!れ、レミィ様、ホント、に……」  
駄目、とは言い切れなかった。  
跳ね上がる口の中の強ばり。レミィの口内には、堰を切ったように溢れてくる大量の液体。彼の精液だ。  
「ふああぁぁぁ……」  
全て吐き出し一気に脱力するコウ。  

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