私が1-2の扉を開けると目の前には素敵な百合世界が広がっていました。  
「女の子同士でキスとは・・・ごゆっくり」  
私はピシャリとドアを閉めました。  
ピシャリとドアが開きました。そして私は右腕を掴まれ文字通り百合世界の中に引き込まれました。  
 
 
「あのー、私家に帰りたいんですが。」  
扉を塞がれてしまった私はおずおず切り出します。別世界の住人はとても怖いので。  
「ふはは!そのまま家に帰れる訳なかろうが愚か者が!お前はここで死ぬのだ!」  
バカは黙れ。無視して話を続けます。  
「別に千佳ちゃんとバカがどんな関係でも私気にしないよ。長いつきあいだし。」  
つーか昔から千佳ちゃんはその気があるんじゃないかなぁと思ってました。まあ決して口には出しませんでしたが。  
「・・・君がどう思うかはあまり問題じゃない・・・」  
ひでぇ  
「・・・ボクが気にしてるのは周囲の反応・・・」  
千佳ちゃんは表情を出しません。いつもは気になりませんが今日はとても怖いです。  
「へ、平気だよ!私誰にも言わないから!」  
「信用ならない」  
いや、少しくらい考えてくれよ。即答?三点リーダなし?  
「なら亜衣ちゃんの口を塞いでしまえばいい!はっはっは!」  
こいつはバカ過ぎる。私は一瞬バカの方に視線を向けてしまった自分を恥じながら千佳ちゃんの方に向き直りました。すると千佳ちゃんは珍しく表情を出していました。  
笑っていたのです。うっすらと。マジで怖いです。美人な子が笑うと凄みがでるって知りました。私には一生使う機会が巡ってこなさそうですが。  
「・・・その案採用・・・」  
は?  
「・・・亜衣を押さえつけて美紀・・・」  
「あいあいさー!」  
いや、ヤバいよこの美人さん。幼なじみを縛り上げようってか!しかもそのロープどっから出したんだよ!あとバカ!なんでそんな力強いんだよ!  
まあ、結果だけいえば手早く簀巻きにされましたよ、私。もうぐるぐる巻きです。  
「ふぅ、いい仕事したぜ!」  
もうお前には二度とノート見せてやらん。  
私は椅子の上から簀巻きの私を見下ろしてる千佳ちゃんに叫びました。  
「何よ、これ!私をどうしようっての!」  
千佳ちゃんは返事を返す代わりにぼそりと呟きました。  
「・・・楽しくなりそうだ・・・」  
本当にアブナイなぁこの子は・・・  
 
千佳ちゃんはゆったりとした足取りでバカに近づきなにやらひそひそと話し始めました。感じ悪いなぁ。まあ簀巻きにした時点で感じ悪いけど。  
お、こそこそ話が終わったようです。と思いきやバカがこちらにすっ飛んできました。地雷を埋めておけばよかった。簀巻きだけど。  
「千佳ちゃんが亜衣ちゃんのこと好きにしていいってさ!うひょー!」  
何がうひょーだくたばれ。そして私はこいつも危ない世界の一員だということを思い出しました。  
「あのさ、美樹。あんたがバカなのは知ってるから今までのことは冗談で済ませてあげるわ。だからさっさとこの紐をうわっ」  
突然うつ伏せにされました。まあ簀巻きなので転がされたという方が正しいかもしれません。  
「亜衣ちゃん!今の格好はかなり間抜けで魅力がない!」  
ぶっ飛ばすぞバカ!つーかお前がやったんだろうが!  
「でも私はその格好でも充分楽しめる方法を知っている!」  
そういうやいなやバカは私の靴をいきなり脱がし始めました。  
「うるさいよバカ!つーかなにしてんの!あんたが知ってることなんてミジンコ以下なんだから偉そうにすんな!」  
「ふふふ、亜衣ちゃん・・・今の君はミジンコ以下の更に以下・・・つまりミジンコだ!」  
・・・ああ愛すべきバカ。なんで生まれてきちゃったの?  
「いいから解きなさい。そして勉強しなさい。」  
「やだ。」  
突然美樹が私の足の裏をくすぐり始めました。唐突過ぎる衝撃に私の体が意志を無視し勝手に跳ね上がります。  
「ちょっ、はははは!何ひゃひひゃははは!何してんの美樹!」  
「んー、何か千佳ちゃんがこうしろってさ。それにしても亜衣ちゃんったら、ビンカン☆」  
死ね、変態親父!私は笑いながら千佳ちゃんの方向を向きました。するとビデオカメラを持った千佳ちゃんの姿が見えます。何を撮影しようとしてんだ!  
「・・・美樹ストップ・・・」  
ピタリと指が止まりました。私はゼイゼイ息を切らして新鮮な空気を取り込みます。都会の空気も捨てたもんじゃない!  
「・・・亜衣、君が助かる道はただ一つ・・・美樹にキスをねだるんだ・・・」  
「はあ?何言ってんのよ!バカじゃないうはゃひゃひゃ!」  
千佳ちゃんが手を上げると美樹が私の足の裏を引っかきました。バツグンのコンビネーション見せつられた私は暴言を慎むことを心に誓います。  
「・・・ボクはバカじゃない・・・君が美樹にキスをせがむところをこのカメラで撮影したら・・・ボクも安心出来る・・・」  
ああ、そういうこと。要するに私を仲間に引き入れてしまおうって考えなのね。  
「・・・どうかな?」  
「お断りよ!私は変態祭りに参加する気はないわ!」  
「・・・そ・・・なら仕方ない・・・美樹。靴下脱がしちゃっていいよ・・・」  
「待ってました!ここからが地獄だぜ!」  
返してニーソックス!まあただの白い靴下だけど。  
「私のテクニックに酔いな!」  
これからバカにいいように蹂躙されるとなると気が重くなる。重く・・・  
・・・あー、実は私くすぐり弱いから怖いんですよね。誰か助けて!啖呵きったの私なのにビビりまくりですよ!  
 
「それではまず人差し指でつついてみましょうかねぇ・・・」  
美樹が嬉しそうに言います。くそぅ、後で覚えてろよ!  
「ひっ、く・・・」  
「おやおや敏感な反応。それではそろーりそろーり・・・いっぽんばーし・・・」  
「うっ・・・くふふ・・・」  
想像以上にキツいですこれ。簀巻きのせいで暴れることどころか身じろぎも出来ないでただ足の裏からの刺激に耐えるしかないとは・・・  
「うひひ、さっき靴下の上からくすぐってた時に気づいちゃったんだよねぇ亜衣ちゃん土踏まずが弱いでしょ?」  
げ、バカのくせに鋭いな!確かに私の弱点は土踏まず。でも悟られるとは・・・  
「まあ安心しなよ。最初は避けるさ。ほーら次は足の指のラインをなぞってあげるよ! 」  
「!あははは、やめ、あははははは!」  
完全に予想外の所に刺激を受けた私は思わず笑い出してしまいました。  
「なんだ、もうちょっと頑張ると思ったのになぁ。亜衣ちゃんの根性なしー!」  
「はひゃひゃ!このバカ!なにを勝手なことを!」  
「なんだって?」  
突然足の指を広げられ指の間をくすぐられました。  
「うひゃひゃひゃひゃ!やめ、やめてー!」  
「やめてほしけりゃ美樹様ごめんなさいと言ってごらん亜衣ちゃん?」  
もう、笑いすぎて涙が出てきました。頭もがんがんします。ええい畜生!もうなんでも言ってやるわい!  
「ひーひー、ごめんなさい美樹様!キスしてくださーい!」  
「はい!」  
ちゅ  
あまりにもあっけなく私のファーストキスは奪われました。もう世界どうにでもなっちゃえ!  
「・・・録画完了・・・良かったね亜衣、君も変態祭りに参加したよ・・・」  
あーそーですか、つーかどうせ簀巻きのアイディアもあんたでしょ!くそう、見た目人形みたいなクセにどれだけ黒い心隠してんだ!  
「ところで千佳ちゃん。もう終わりにゃ?」  
こらこらバカ、意味が分からないゾ!  
「・・・まさか、ここからが本番・・・だよ・・・大体ボク参加してないしさ・・・」  
「にひひーだと思ったさ!まだ弱点責めてないのにギブアップしちゃうからつまんなくって。」  
おいおい、勘弁してくださいよ。私がマラソン走った後みたいになってて話せないからって勝手に決めるな!  
「・・・美樹は知らないだろうけど・・・足が二本あるのは二人で分けあえるように・・・なんだよ・・・」  
「へぇ!さすが千佳ちゃん!もっのしりー!」  
帰れ、ホモサピエンスをバカにするな。  
「はあはあ・・・いい加減にしなさいよ・・・」  
「・・・復活が早くて助かるよ亜衣・・・」  
指をわきわきさせるバカを残して私の方に来た千佳ちゃん。そっと耳もとに口を寄せて一言言いました。  
「・・・亜衣のことは昔からずっと好きだったんだ・・・」  
私はふっと微笑んでこう返しました。  
「あのー、私家に帰りたいんですが。」  
「楽しくなりそうだ」  
・・・三点リーダはなし・・・か  
 

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