その日の夕方もアランは赤い自転車を漕いで、“彼女”の元へ急いでいた。  
 俗に言うワーウルフである彼は、白い毛並みを白衣で押さえつけていた。  
これでも村で唯一の医者なので、清潔感が出るようにとその長い尻尾すら出していないのだが、  
村の人間からは不評である。  
 村から少し離れた所に丘がある。“彼女”はそこに住んでいる。  
 “彼女”は、ワーカウと呼ばれる種族で、体格の良い、物静かな女性だ。  
別にアランとその“彼女”は恋人でも夫婦同士でもないのだが、アランは三日に一度、彼女の母乳を取りに行っている。  
 それは決して淫乱な事情から行っているのではなく、“治療”のためだ。  
 ワーカウと呼ばれる種族は、成人になると赤ん坊がいる、いないにも関わらず、大量の母乳が出る。少し昔ならば、  
成人する前にワーカウの者はワーブルと呼ばれる男性のみの種族と結婚し、夫や子供にその母乳を与えるのだが、  
そのしきたりが崩れた現代では、こうして医者が彼女たちの母乳を処理しなければならない。  
 それも、都会の方ならば看護婦がする事なのだろうが、なにぶん狭い村なので、医者と呼べる者はアランのみしかいない。  
そうして、仕方なく男であるアランが“彼女”の母乳を処理する事になっていた。  
 村から約一キロと言ったところか。“彼女”の煉瓦で作られた家が見えた頃には、アランはすっかりバテてしまっていた。  
小さな頃から本漬けだった彼は、ワーウルフであるにも関わらず体力がない。そのおかげで村の者たちからも怖がられずにすんでいるのだが。  
 自転車を家の隣に立てかけて、アランは玄関を叩いた。郵便ポストには“アセリア”と記名されていた。  
「こん…にちは」  
 
長い舌を出して息を整えていると、玄関の扉が開いた。“彼女”、アセリアがアランの目の前に立っていた。  
 白を基調とした毛並みに、黒が混じっている。細い尻尾の先には、申し訳なさげに黒い毛が生えていた。  
「遅かったな。アラン」  
「すみません。…ちょっと、はぁ、きつい」  
 アセリアは白いカッターシャツとスリット入りのタイトスカートを身に着けていた。  
カッターシャツがその豊満な胸によってぱんぱんに引き伸ばされ、シャツの上からでも桃色の乳房が透けて見える。  
――――見ちゃ駄目だ。見ちゃ。  
 自分はあくまでも“治療”のために来ているのだと、下半身に言いつけた。  
「いつも、すまないな」  
「いえ、大丈夫ですよ。…いや、あの、別にいやらしい気持ちでやってるんじゃなくて、その…」  
「わかっているよ」  
 白い毛並みのその顔に、微笑を浮かべてアセリアはアランに紅茶を差し出した。  
「ワーウルフだから、熱いのは大丈夫だな?」  
「あ、はい。だ、大丈夫です」  
「ミルクは?」  
「結構です。あ、いやあの、別にアセリアさんのえと、…お乳が汚いとかそういうんじゃなくて」  
「わかっているよ」  
「…すみません」  
 ワーウルフなのにワーカウであるアセリアに、アランは恐縮しっぱなしだった。やはり大学で医学を教えていればよかったかも、  
と思いながら紅茶を啜った。  
 
アセリアも自らが注いだ紅茶を口元に持っていった。両手両足がひづめというのに、なかなか器用にカップを持つ。  
「さて、さっさと済ませようか」  
「あ、はい」  
 医者としての立場や誇りと、頭の中に渦巻く性欲が入り交じって、いつもアランは葛藤する。  
そして何とか前者が後者を打ちのめした後、アランはカバンからいつものさく乳器を取り出した。  
 一方がラッパのように開いており、そこにフィットするように胸を当てる。  
そして反対側の風船のような所を握ったり放したりすると、ラッパと風船の中間にある瓶へ母乳が溜まる仕組みだ。  
 アセリアがシャツのボタンを外して、アランの前ではだけて見せた。  
アランはさっさとラッパの部分をアセリアの右胸へと押し当て、風船を絞った。  
「……いつも思うが、どうしてこっちを見ないんだ」  
「いや、あの…男ですし、見られたくないと思って」  
「もう何回もやってるんだ。君には見られても構わないさ」  
「は、はぁ」  
 そう言われてもアランはしっかりとアセリアの胸を見る事などできない。  
「あの」  
「なんだ」  
「やっぱり自分で出来ないですか? さく乳」  
「できないから君を呼んでいるんだろう」  
「…すみません」  
胸を見ないように、うつむきながらひたすら握ったり、放したりの繰り返しを行い、  
そして同じようにして左胸も終わらせた。  
 
「じゃあ、これで失礼しますね」  
「あ、待ってくれ」  
「え?」  
 ともかくあんな事をしたのだから、アランは早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。  
「クッキーを焼いたんだ。…もしよかったら」  
「いや、でも」  
「診察時間は終わってるだろう?」  
「…はぁ」  
 なぜか自分が気恥ずかしい気持ちになりながら、アランは先ほどさく乳を行った居間で、アセリアが来るのを待った。  
「ワーウルフの口に合うかどうかはわからないが」  
 アセリアが一皿にいっぱいのクッキーを持って現れた。カッターシャツのふくらみはまだ消えていないようだ。  
まぁ、さく乳したばかりの時はまだ小さくならないと聞いているので、大丈夫だろうとアランは考えた。  
 だが、アセリアと談話しながら一時間ほど様子を見ていても、依然として胸のふくらみは小さくならなかった。  
そして、  
「…んっ」  
 クッキーと同時に出した紅茶を片づけようとしたアセリアが、突然声をあげた。  
 
「どうしました」  
「…胸が」  
 見るとカッターシャツの前面が透けている。  
そしてそれが母乳のせいだと気付くまで時間はかからなかった。  
「もう一度さく乳しましょう。きっと量が足りなかったんです」  
 急いでさく乳器を取り出して、先ほどと同じように右胸にラッパの部分を当て、  
風船を握り、そして放した。だが、一滴も母乳は出てこない。  
「何でだ…?」  
 アランが当て方を変えて、もう一度試した。だが、またも一滴すらも母乳は出てこなかった。  
「……アラン」  
「は、はい」  
 いつも持ち歩いている医学辞書をめくっていたアランに、アセリアが声をかけた。  
「君が直接、揉んでくれないか」  
「えぇっ!」  
 直視する事すらできないのに、そんな事ができるものか。  
アランは首を左右に振った。長い口に生えたヒゲがそよそよと揺れた。  
「さく乳器だから駄目なんだ。頼む」  
「でも…僕男ですよ?」  
「だが医者だろう」  
 仕方なしにアランはアセリアの背後へと回った。両手を脇の下から伸ばし、片手でアセリアの胸を掴み、  
もう片手で母乳を受け取る瓶を持つ。  
「……んっ…ぁ」  
だんだんとアセリアの鼻息が荒くなっていた。最初は極力声を出さないようにしていたようだが、  
今では揉まれるたびに口から声が漏れる。  
「…ふ、ん……んあっ」  
いつもの口調とは打って変わって、胸のふくらみを愛撫するたびに、  
アセリアは可愛らしいあえぎ声を出す。  
 アランもだんだんと頭の中が性欲で満たされ、  
いつの間にか彼女の硬くなった乳房を執拗に弄り続けていた。  
 
乳輪にそって指で軽く愛撫しながら、乳頭を軽くつまむ。アランの指先から母乳がしたたり落ちる。  
「ア、アラン」  
 手つきがいやらしくなったアランに対し、アセリアはそれを咎めようとしたが、いつの間にかそのいやらしい手つきによって自分が欲情し、  
股間がしっとりと濡れている事に気付いた。  
「ぁ…は…は…」  
 後ろのいるワーウルフの指先が乳頭に触れ、突っ張ったその胸を荒々しく揉みくだすたびに、  
アセリアがいつも押さえていた感情がだんだんと姿を現してくる。  
 勢いよく吹き出す乳汁がぽたぽたと床に落ちる。すでに瓶は白い液体でいっぱいになっていたが、アランはそれを居間のテーブルに置き、  
空いた両手で同時に二つのふくらみを刺激し始めた。  
「ぁ…ぁ…ぅん」  
 その刺激が欲しくて欲しくてたまらなかった。胸が突っ張るたびに毎夜毎夜ワーウルフの彼を想い、その割れ目を濡らした。そして彼は今、自分の胸に欲情している。  
「ちょ、直接吸ってくれないか」  
 返事もせずにアランはアセリアを仰向けの状態に押し倒した。そのままアセリアの腹の上にマウントし、腰を曲げてアセリアから母乳を吸い上げる。  
吸い上げるたびにその刺激に反応して身体が反り上がるアセリアを、アランは自分の体重を使って押しとどめる。  
生暖かい液体は緊張したアランの喉を潤してくれる。  
「んっ…ふん…」  
 片方をその長い口で吸い続けながらも、もう片方を手で愛撫する。愛撫されるたびに乳汁が飛び出す。そしてそれに伴って濡れた股間もうずき出す。  
 
耐えきれなくなってアセリアはタイトスカートにひづめをやった。スリットごとスカートを持ち上げて、湿った下着を膝の上あたりまで脱いでみる。  
「挿れて…」  
 言うと彼は少し戸惑った。白い毛で覆われた彼の顔は、乳汁によって濡れている。  
「お願い」  
 アセリアは今までのストイックな口調とは一転して、完璧に女のそれとなっていた。さながら子供のように一途に彼を求める姿に、  
アセリアのそばにいたワーウルフはやがて、自らの毛並みを押さえていた白衣を脱ぎ捨て、ベルトをゆるめてズボンを降ろした。  
 赤くぎんぎんに充血したその男根を抜き放ち、多湿状態となっている薄い桃色をした彼女の中へと挿入する。  
 仰向けの状態となった彼女の腰を優しく抱き、太股を脇に挟んで、ワーウルフはゆっくりとピストン運動を始める。  
 亀頭が自分の中で暴れるたびにアセリアは唸った。初めてで、しかも相手が同型種族に当たる者ではなく、  
ワーウルフという事もあったのかも知れないが、アセリアはひどく興奮した。  
 腰に会わせて男根が前後に動くたびに、くちゅくちゅと愛液と先走りが混ざり合った音が聞こえる。  
 アセリアの中はワーウルフの男根を優しく締め付け、愛液にまみれた男根はさらにその運動の速度を増す。  
 ワーウルフの腰が動くたびにアセリアの奥底を叩く。そして叩かれるたびにその快楽に溺れる自分がいた。  
 
 最初は意識などしていなかった。  
 なんだかんだと言い寄って、身体を狙ってくるような男と同じだと思っていた。性欲が強かったが、  
貞操観念も強かったアセリアは、自分が身体を預けるべき男はこの男ではないと思っていた。  
 どうせいやらしい気持ちで、自分の身体を見るのだろうと思っていた。  
 だが、実際に会って話をしてみるとどうだ。彼の毛並みを白衣で押さえつけ、  
たったこの程度の丘でへばるワーウルフにあるまじき姿は、村の者から馬鹿にされながらも、  
アセリアの気持ちをしっかりと変えていた。  
 いつのまにか彼と会うのが楽しみになり、やがて淫乱な気持ちになる事が多かった。  
そしてその気持ちは絶頂を迎かえ、彼の男根を飲み込んでいた。  
 粘液が混ざり合う音と、二人の呼吸音だけが部屋の中に響き渡っていた。男根は彼女の中で暴れ回る。  
「ぃ…あっ、うん」  
 彼は必死に腰を動かし、アセリアの中もそれに応えるようにぎゅっと彼の肉棒を締め付ける。  
 やがて彼のピストン運動が最高速度に達し、そして彼女の中へとその白濁とした液を放出した。  
激しかったピストン運動は急にゆっくりとしたものとなる。  
 アセリアの割れ目からは彼の液体が、愛液に混じってあふれ出ていた。  
 
「今日は…すまなかったな」  
 立てかけていた自転車を起こしたアランに、玄関へ背中を預けながらアセリア言った。  
「いえ、…僕も乱暴してしまいましたし」  
 うつむいて本当に申し訳なさそうな顔をするアランに、アセリアはほんのイタズラ心を抱いた。  
「思い切り中に出しておいて」  
「…すみません」  
 恐縮して小さくなるアランを見て、薄くアセリアは微笑んだ。冗談だ、と付け加えた。  
「また来てくれ。待ってる」  
「はい」  
 言ってアランは自転車に乗った。  
「今度は、…治療じゃなくてな」  
 オレンジの陽の光を浴びながら、去りゆく彼の姿を眺め、アセリアは呟いた。   
   
 
 

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