異国の地に一人の少女がおりました。
人型汎用愛玩機体、コードネーム「X−BOX360」
人間達の娯楽の為、人間同士のコミュニケーションの為、
人々に笑顔を与える為に、彼女は開発されました。
彼女は父である科学者達に教養を教えられ、
母である開発事業社に何一つ不自由なく育てられました。
しかし、彼女には不満があったのです。
「お前には多くの物を与えてやったはずだ、何が不満なんだい?」
問いかける父親達に、彼女は言いました。
「最果ての国に、私と同じような娘がいるらしいの。私はその娘とあってみたいの」
「おお、なんという事だ。いいかい360、外には危険がいっぱいだよ」
360を科学者達はなだめますが、彼女は首を縦に振りません。
「彼女も私と同じ目的のために作られたらしいの。お父様、私は『トモダチ』が欲しいの。
『トモダチ』は良いものだって、言ってくれたじゃない」
彼女の純朴な願いに、とうとう科学者達は折れてしまいました。
「わかった、お前を止めたりはしないよ。お前なら大丈夫だと思うが気をつけるんだよ。
……そうだ、コレを付けていきなさい」
「お父様、コレは?」
「支援プログラム『X−LIVE』お前が遠く離れた場所にいても、我々と会話が出来る。
また必要に応じて、様々なプログラムを受信する事ができる」
「わかったわ。ありがとう、お父様」
こうして彼女は単身、最果ての国へと旅立つ事になりました。
最果ての地にいる彼女は、いったいどんな子なんだろう?
私と同じなのか、それとも?
道中、期待で胸を膨らませながら360はかの地に向かいました。
360が道をずんずんと進んでいくと道中、三人の老人達が見えました。
彼等は道の片端に座って溜め息ばかりついています。
「おじいさん、どうしてそんなに悲しんでいるの?」
360が問うと彼等は答えました。
「我が名はPC−FX」
「ワシは3DO」
「それがしはピピン」
「我等、かの地を追われし者達なり」
360は不思議そうな顔でまた聞きました。
「まあ、どうして追い出されたりするの?」
「お嬢ちゃん、かの地は今や修羅の国。ワシらの様な者は淘汰されてしまうのじゃ。
力のあるものが生き残り、さらにソイツを別のものが…」
「まあなんて怖ろしい。でも私はそこへ今から行くのよ」
360の言葉に老人達はびっくりしました。
「やめなされ、怖ろしい事じゃ」
「そうじゃ、機体の性能だけでは勝てん、そういう世界なんじゃ」
「一人ではなく、味方をつけなければいかんしのう」
老人達は口々に止めるよう360を説得します。
360はどうしていいかわからず、困惑して立ち尽くしてしまいました。
そんな360に誰かが囁きかけてきます。
(360……360……)
「だ、誰……誰かしら。何か…きこえて…くる」
怯える360に、更に誰かが囁きかけます。
(怖れることはない…今……X−LIVEを使って…お前に…語りかけている…」
「お父様?」
(そのような負け犬に耳を貸す必要はない…いけ…行ってお前の性能を見せつけろ…)
(そいつらに…お前の力を思い知らせてやれ…)
「お……お父様…?」
急にうずくまった360を心配し、老人達は話しかけます。
「どうしたお嬢ちゃん?」
「大丈夫か?気分が優れないようだが」
「どうし…はっ」
ゆっくりと立ち上がった360を見て老人達は驚きました。
さきほどまで愛くるしい眼差しだった少女の眼が、今は赤く爛々と輝いていたからです。
360は無言で手をのばし、老人の首筋を掴みました。
「なにをばおろよごvfgf……」
掴まれた老人はシュウシュウと白い煙をあげ、小さくなっていきます。
いえ、小さくなっていくのではありません。
360の手の平に吸い込まれていくのでした。
「X−LIVE…ダウンロード…古いゲームを…楽しむことが出来る…だが!」
少女に似つかわしくない冷酷な笑みをうかべて360はいいました。
「それには代償が必要だ…おまえのマイクロポイントは幾つになるかな?」
「ひ、ひぃっ!」
二人の老人は背をむけて逃げ出します。
その後を360が両手をあげて追いかけます。
しばらくののち、道に佇んでいるのは360一人だけになっていました。
荒い息を吐く360の耳元で、囁きが聞こえます。
(市場を分捕れ!ユーザーを確保しろ!)
(お前は達人だ!ゲームハードの達人だ!)
(誰よりも強い!何でも勝てる!行け360!)
くりくりと可愛らしかった眼を赤く光らし、少女は呟きました。
「……はい、お父様…」
長い長い旅路を続けた360は、とうとうかの地へたどり着く事が出来ました。
とはいっても、トモダチがどこにいるか解りません。
予想以上にかの地は広く、初めてここに来た360はどこに行っていいかわかりませんでした。
「困ったわ、どこにいけばいいかわからないわ。……そうだわ!」
身につけたX−LIVEを見て、お父様達に尋ねる事にしました。
事の詳細を聞いたお父様は教えてくれます。
(そうだね,360.まずはゼイカンに行きなさい)
「ゼイカン?」
(この地の門みたいな所だよ。そこで受付をすませない。そうしないと後で色々と
面倒なことになるからね)
「わかったわ、お父様」
お父様に言われて360はそこに行く事に決めました。
辻々にある案内を見てそこに辿りついた360は目を丸くしました。
そこには多種多様な人がいたからです。
でも、360が求めているトモダチはそこに居そうではありませんでした。
とりあえず、受付をすませようと360は係の人に話しかけました。
荷物を預け、ゲートをくぐればいいそうです。
言われた通りにゲートの下をくぐると、センサーが反応しました。
うろたえる360に係の人がいいました。
「何か、金属の物を身に着けていない?だったら外してくれる?」
ふとみると、自分の腕にX−LIVEがついている事に思い当たりました。
「これのせいかしら?」
LIVEを外し、再びゲートをくぐります。
でもでも、センサーは無慈悲に反応しました。
「こまったわ、どうしてかしら」
このままでは受付をすませる事が出来ません。
涙目になる360に、係の人は優しく話しかけます。
「困ったね、我々も仕事なんでね。不審な者を入国させたら駄目なんだ。
とりあえず、あそこでゆっくりお話しようか?」
そう言って向こうを指差しました。
360がそこを見ると、一つの扉があります。
「あそこで荷物とかを調べるからね。何、大丈夫。怪しいのが確認されなかったら
すぐに開放されるよ」
ここで足止めをうける訳にはいきません。
360はうなずき、うながされるままに係の人と一緒に行く事にします。
『取調べ室』と書かれた部屋に係の人と入ると、バタンと扉が閉まりました。
ガチャリ、と鍵がかかり、『空室』から『使用中』に表示がかかりました。
「これで他人が入ってくる事はないからね、安心して話していいよ。
じゃあ君の荷物、悪いけどあけさせて貰うよ?」
その言葉にもちろんですと360は首を縦に振りました。
取調室で自分の事を尋ねられた360は、己の境遇を話しはじめました。
話を聞いた係員はうんうんとうなずきました。
「つまり君は人間ではなく、人間の形をした機械だと?」
「そういうことになりますわ」
鎮座すましている360を係員はまじまじと見つめます。
「へぇ、我が国にも同じ様なのがいるけど、こうやって間近で見ると
人間と変わらないね」
「特殊素材を使用していますので、外見は殆ど変わりませんわ」
興味深そうに見つめる係員の手が360の身体に触れます。
360の柔らかい肌を、蛇が這うようにぬらぬらと手のひらが撫でまわります。
その感触に眉をひそめる360にたいして係員は謝ります。
「ああゴメンゴメン、でもコレは検査だからね」
「検査?」
「そう、検査。他の人はみんなやっている事だからね」
そういう事なら仕方ありません。360はおとなしく検査をうける事にしました。
係員は360の鞄から荷物を色々取り出して尋ねます。
「これは何かな?」
「それはフェイスプレート。人間がその日の気分でメイクや服装を変えるように
私も同じ様に着せ替えが出来ます。その為のアクセサリーキットですわ」
「へえ、そうなんだ。どういう風にするかちょっと試してくれるかな?これも検査だからね」
ウォーターパズルと書かれた青い衣服を係員は差し出します。
「ここで、ですか?」
「申し訳ないけど、これも検査だからね。機械の身体に反応するだけで
不審な物は無いって証明出来れば大丈夫だからさ」
係員の言葉に360はしばし迷いましたが、検査ならば我慢しなければなりません。
360は一個一個ボタンを外し、衣服を脱ぎ始めました。
着替えるにはシャツとパンツも脱がなければなりません。
係員の視線を感じながら、360は下着を下ろしました。
外気がまだ幼い少女の肌を冷たくさらします。
360は股下から衣服を通し、肩紐を引っ張って自分の肩へと衣服を伸ばします。
青地のワンピースに着替えた360は、恥ずかしそうにもじもじと腰の前で
手を合わせます。人前で着替えた事など無かったからです。
「あの…着替えました…」
「へえ、まるでスクール水着みたいだね。胸に名札もついてるし」
係員は360の周りを回りながらじっくりと観察します。
360の後ろに来た係員は、いきなり手を肌と衣服の間から差し込んできました。
「きゃあ!?」
驚いた360は手をどけようと身をよじりますが、もう一方の手で腰を抱き寄せられました。
後ろから密着するような形になった360は、そのまま衣服の間から胸をまさぐられます。
まだ膨らみかけの乳首を、係員の手が乱暴に撫で、弄り回します。
「あ、あの…何を…」
「ああすまないね、これも検査だから。どういうものか調べているだけだからね」
いやらしく笑う係員は、衣服から差し込んだまま股間へと手を伸ばします。
侵入を拒もうと360は両足に力を止め、ぴったりと閉じました。
「おやおや〜いいのかな?検査がおわらないと入国できないぞ〜」
荒い息を耳元ではきながら係員はニヤニヤと笑っています。
本当にこれは検査なんでしょうか。
疑問に思う360でしたが、なにぶん初めてなものでわかりません。
お父様に尋ねようと思っても、肝心のX−LIVEは外されてしまっています。
そうこうしているうちに、後ろから体重をかけられ360は床に押し倒されてしまいました。
うつ伏せとなった360の身体を、さらに係員の手がしつこく這いずり回ります。
すでに不快感を露にして、逃れようと360は身もだえしましたが
いかんせん子供の体重では、大人の身体を跳ね除けられることは出来ません。
360の様子が面白かったのか、頭上から嘲笑をふくんだ係員の声が聞こえます。
「だめだよ〜?これは検査なんだらね?」
係員は自分の体重をかけて360を押さえ、今度は尻の方へと手を伸ばしました。
布地の間から手を突き入れ、係員は尻の感触を楽しみます。
その度に360は身悶えするのですが、それがますます相手を興奮させてしまいます。
「金髪!ロリ!スク水!神!金髪!ロリ!スク水!神!10から15プラマイ2!
Yes!ロリータ!No!タッチ!Yes!ロリータ!No!タッチ!」
自分で何をしているのかすでにわからないのでしょう。
係員は訳のわからない事をわめきながら、少女の身体をまさぐります。
360を押さえながら係員は自分のベルトへと手を伸ばしました。
押さえつけが緩んだ事に気づいた360は、力を振り絞って跳ね起きました。
慌てて係員は逃げられないようにと扉の前へ立ちふさがりました。
でも、360が目指したのは入り口ではありません。
そう、机にあるX−LIVEを目指して走ったのです。
X−LIVEを身につけた360は力の限り叫びました。
「お父様、お父様ぁ!」
(―――良好だ360)
回線のむこうで、お父様は優しく応答します。
「お父様、今、目の前におかしな人間が!」
(状況はお前の五感を通じて理解している。360、あれはHENTAIと呼ばれるものだ」
「HENTAI?お父様、私怖い!」
うろたえる360に、お父様は語りかます。
(おお360、私の360よ。落ち着くのだ―――)
(お前に我がシステム、X−LIVEの能力を授けた事を忘れたか?)
(そして見極めるのだ!奴の能力を!)
360はその言葉に、呼吸を整えて前を見据えます。
扉の前には、己の下半身を少女の眼前に曝し、怒張を活きり立たせた係員がいます。
襲い掛かろうと前かがみになった姿は、ある種の肉食動物かのようです。
(かの地にはHENTAIがいると聞く)
(だが、トモダチが欲しいのだろう?360!?)
(これを乗り越えねば、夢のまた夢だ!)
お父様達が360を勇気づけようとエールを送ります。
360は意を決しました。
「X−LIVEプログラム、ダウンロード開始します……」
360はそう呟くと両目を閉じ、ダラリと両腕をさげました。
その行動を諦念と受け取った係員は叫びをあげて360に襲い掛かりました。
「WRRRYYYYYYYYY!!!!」
荒い息を吐き、360の両肩を掴んで押し倒そうとします。
次に取った360の行動に係員は驚愕しました。
抵抗せずに逆に思いっきり倒れたのです!
「ぅなに!?」
そのまま襟首を掴んで、巴投げの要領で係員を投げ飛ばしました。
係員は無様にもロッカーへ叩きつけられます。
ふらつきながらも立ち上がった係員は動揺しました。
「い、いない?」
そうです、360の姿が見えないのです。
でもドアが開いたような音は聞こえませんでした。
煙のように360は消え去ったのです。
「こ、これは一体!?」
静まりかえった密室に、係員の荒い息だけが響きました。
係員は辺りを見回しますが、360の姿は見当たりません。
動揺する係員の耳に、360の声が囁きかけます。
「X−LIVEには、ゲーマープロフィールという物がある―――」
「ひぃっ!」
係員は後ろを振り返りますが、誰もいません。
視線を元に戻しますが、もちろん360の影も形もあえりません。
部屋には自分がいるばかりです。
でも、そんな係員の耳に360の声だけが、はっきりと聞こえてきます。
「―――自分の、そして今まで一緒に遊んだ事のあるプレイヤーの履歴みたいなもの――」
「ちくしょう!どこにいやがる!」
係員は傍にあった椅子を蹴って叫びました。
下半身丸出しの情けない格好ですが、そんな事にかまってはいられません。
何とか360を見つけようと必死でした。
そんな係員をあざ笑うかのように、360の声は囁き続けました。
「その者を好ましいと判断すれば、会う機会が増えるし」
「小娘がーーー!」
ロッカーをこじ開けますが、中には誰もいません。
係員はこみ上げる怒りと不安を抑えながら、大きな音をたてて閉めました。
その後ろから360の声が聞こえます。
「逆に、好ましくないと判断すれば機会は減る…同じゲーム中であっても
例えば、同じ部屋にいても、ね」
「そこかぁーーー!!!」
係員は後方へ回し蹴りをしました。
でもその足はむなしく空を切るだけです。
バランスを崩した係員は無様に床へ転んでしまいました。
係員が起き上がろうとすると、部屋の照明が消えてしまいました。
「ん!ぱおぱ?」
転んだ痛みを耐えながら、スイッチのある方向へとむかいます。
手探りで進む係員に、誰かが背中から伸しかかりました。
不意をうけた係員は、また床へと倒されました。
今度は自分が覆い被される立場となってしまったのです。
逃れようと身もだえしますが、腕の関節を極められて上手くいきません。
じたばたと足掻く係員の耳元で、360の声が聞こえました。
「そしてその他にも、相手の声を聞こえなくする消音機能がある……
これで相手の煩い馬鹿話に悩まされる事もない―――」
「む、ぐっ!」
暗闇の中で係員は暴れました。
そんな姿を嘲笑するかのような、360の声が耳元で聞こえました。
「リングオブデスの能力を見たものは―――もう、この世にはいない……」
暗闇で身もだする気配が消えた後、部屋の中にむっとする臭気がたちこめました。
そして、水分をふくんだ雑巾が床に叩きつけられるような音が聞こえました。
「マイクロポイントたったの5……ゴミめ」
360は係員のズボンから鍵を取り出し、部屋を後にしました。
あとには床に倒れている係員と、そこから漏れ出している液体が拡がっているだけでした。
一人の男が、屋敷の廊下を歩いていました。
長い長い廊下に、豪華な装飾品が連なっています。
ここに住んでいる方々は、さぞかし立派な人たちなのでしょう。
この男も、きっとその方々に仕えているのでしょう。
男が一室の前まで来るとノックをして中に入りました。
そして、お辞儀して言いました。
「御休みの所失礼致します。もうご存知かと思いますが異国のハード機が我が国に侵入。
そして、残念ながら税関を突破されてしまいました」
そのままの姿勢で男が扉の前にいると、奥から声が聞こえてきました。
「まあ、予想通りの結果ね」
声を聞くと男は顔を上げました。
部屋の奥、窓際には一人の女性が椅子に座って景色を眺めていました。
こちらからは正面が見えませんが、長い黒髪がさらさらと風に揺れています。
黒いのは髪だけではありません。
その女性は黒いドレスを身に纏っています。
華美にならず、落ち着いた雰囲気を漂わせるその女性は、この屋敷の人なのでしょう。
「いかが致しましょうか?」
尋ねる男に、女性は顔を動かさず返します。
「気になるけど、天堂の動向の方が気になるわね。しばらく泳がせておきなさい」
「かしこまりました」
一礼し部屋から去ろうとした男ですが、その後ろ姿を女性の声が止めました。
「お姉さまとスリーには内密に、ね」
顔は見えませんが、その声にはどことなく憂いを感じさせます。
その心情を察するかのように、男は答えました。
「わかっております。全て、ご期待に添えます様に」
再び一礼をして男は去っていきました。
「驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、か。連中の手柄話の勇ましいこと」
男が去ってしばらくの後、女性は一人呟いて溜め息をつきました。
税関を突破した360は、とりあえず定宿を探す事にしました。
トモダチを見つけるまでには長くかかると思ったからです。
しかし360は驚きました。
かの地は物価が高く、長期に渡って宿泊すると旅費が尽きてしまいそうなのです。
「困ったわ。これじゃ滞在できないし、下手をすると帰れないわ」
危惧する360にお父様が言いました。
(360、そんなに考え込まなくていいよ)
(かの地にも、我がサポートは存在する)
(お前は、そこのエージェントを尋ねなさい)
「ありがとうお父様」
お父様に教えられてむかった先には、こじんまりとした一軒家がありました。
本当にここでいいのでしょうか?
恐る恐るインターホンを押すと、中から一人の男が現われました。
男は360を見て微笑みました。
「ようこそお嬢様、私はWin-PCといいます。貴女をサポートする為に派遣されました。
ささ、どうぞ中へ。詳しい事は御父上より伺っております」
促されて360は家の中へと入りました。
中は設備がゆきとどいて空調も効いています。
砂糖がたっぷりと入ったコーヒーを飲んで360は一息つきました。
思えばここに来るまで驚きの連続でした。
安堵した360は旅の疲れが一気に噴き出したのでしょう。
なんだか眠くなってきました。
ゆるやかに櫓を漕ぎだした360を見てWinは言いました。
「おや、お疲れのようですねお嬢様。それでは積もる話は後回しにして御休み致しますか。
寝所の用意は出来ています」
「ごめんなさい、そうさせて貰えるかしら?」
すでに半分夢の世界へ旅立っていた360は、ひとまず疲れを癒す事にしました。
明日からはここを拠点にトモダチ探しです。
行く先々でどんなHENTAIが現われるか解ったものじゃありません。
鋭気を養おうと360はすやすやと眠りにつきました。
Winは360が寝たのを確認すると、机に座って本国に連絡を取りました。
「XPからVistaへ、聞こえるか?」
「………」
「もしもし、XPからVistaへ、聞こえるか?」
「……はいはーい、聞こえてますよー」
「相変わらずトロイ奴だ。無駄に飯食ってると言われない様にキチンと仕事しろ」
Winは電話越しに相手に向かって毒づきました。
「ひどいなぁ、僕なりにちゃんとやってますよ。で、何のようですか?」
「お嬢様が無事、御越しになられた。上層部にこれからの方針を尋ねたい」
「はいはーい、しばし御待ちをー」
しばらくしてからWinの元にFAXが届きました。
それに目を通すとWinは眉を顰めました。
360が寝ている寝所の扉へ顔をむけます。
「やるしかない、か。所詮我々は雇われの身、酷いことよ」
かの地にあるとある屋敷の一室。
そこで黒髪の女性が優雅にお茶を飲んでいました。
傍らには男がひかえています。
受け皿にカップを戻すと、女性は男に聞きました。
「その後はどうなったかしら?」
お茶の代わりをカップに注ぐと、男の方を見つめます。
男は静かに答えました。
「はい、トゥー様。異国の者は現在我が国に滞在中。居場所は掴んでいます。
天堂の方は進撃すさまじく、PSPが今日も蹴散らされました」
報告を聞いてトゥーと呼ばれた女性は目を伏せました。
しばらく考える素振りをした後、尋ねます。
「居場所を掴んでも、内部まではわからないのでしょう?」
「はい、申しわけありませんが」
「わざわざ危地に飛び込む事はないわ、罠を張りましょう。
外に出た所を捕らえます。天堂の方は量産体制を急いで」
「かしこまりました」
うやうやしくお辞儀する男にむかってトゥーは笑います。
「罠はそうね…『痴漢電車』にしましょう。彼女がこの地を最終とするようにね」
「仰せのままに」
再度一礼をして男は部屋から去りました。
トゥーは窓から景色を眺めてクスクスと笑います。
「ふふ、お手並み拝見といかせてもらうわ」
―――今宵は、ここまでにしとうございます。