そこは都内でも有名な交通量の多い道路だった。  
 
信号の切り替わりも目まぐるしく、  
横断歩道を渡れる時間もほんの10秒ほどしかない。  
 
普通に歩けば問題なく渡りきれる時間なのだが、  
広い世の中には足が悪い人達だっているのだ。  
 
そんなわけで、今、俺の前には  
歩道を渡れず困っている老婆の姿があった。  
 
ガクガクと震える足首。  
もし渡る決意などしようものなら、  
間違いなく歩道の真ん中で立ち往生。  
運転手から罵倒の嵐だろう。  
 
見かねた俺は老婆に手を差し伸べた。  
困っている人を助けてあげるのは俺にとっては当然のことなのだ。  
 
「ありがとう坊や」  
無事に渡りきった老婆からの感謝の言葉。  
その気持ちだけでいいのに、  
老婆は財布の中に手を入れると、せめてもの感謝の印と、俺にお金を差し出すのだ。  
もちろん俺は断った。  
そんなものが目当てで老婆を助けたわけではないのだから。  
しかし、老婆の意思は変わらない。  
数分の口論の後。結局、俺は老人から感謝の印を受け取った。  
「それじゃあ、気をつけて下さいね」  
俺は老婆と手を振って別れた。  
 
ガシャン!  
「………!?」  
ガラスが割れるような物音。  
即座に背後に振り返る。  
しかしそこには誰もいない………。  
「な…なんだ…気のせいか…」  
それでも、ぬぐえぬ不安感。  
なんなのだろう。  
…今日の朝からずっと背後に感じる、この強い違和感は………。  
 
それから街を歩いていると  
「あの。ごめん。ちょっといい?」  
「はい、なんでしょう」  
「道を訪ねたいんだけど」  
近づいてきたのは、俺と同じぐらいの年の女の子…。  
地味だが、けっこうカワイイ外見をしている。  
「○○ビルというのを探しているんだけど…」  
「…?あのアイドル事務所の?  
 それならこの先の道路を真っ直ぐ行って  
 3つ目の信号を右に曲がったところですよ」  
「あ、ありがとう………。うっ…!」  
突然倒れそうになる女の子。  
咄嗟に体を支える。  
「だ、大丈夫。貧血?」  
「…………」  
ぐるるるる  
「!?」  
それは聞いてはいけない音だったのだろう。  
気づいてはいけない音だったのだろう。  
お腹の音を聞かれた女の子は泣きそうな顔をしていた。  
「ひょっとしてキミ…………お腹すいてるの?」  
「……………お金がなくて一週間何も食べてないよぉ…ぐすっ」  
それは死んだ魚のような目だった。  
「あぁ…夢を叶えるため…はるばる都会にやってきたのに………  
 私………もうダメなのかしら…………」  
絶望の吐息。  
俺の胸の中で今確実に一つの命が消えようとしていた。  
 
見かねた俺は。  
「………あの…そこに定食屋があるんだけど…いく?  
 …もし良かったらだけど」  
その言葉を待っていたかといわんばかりに…。  
「ホント!マジ!?ゲロラッキー!!  
 マヤー!この人がおごってくれるって」  
「ホント?お姉ちゃん」  
途端に元気になる女の子。  
さらに、どこからともなくマヤと呼ばれた女の子が現れる。  
感じがよく似ていることから姉妹と察する。  
「やっと親切な人に出会えたね。お姉ちゃん」  
「うん。私達が大女優になった暁には、靴磨きぐらいさせてやんなくちゃあね」  
「………」  
あまりの落差に言葉もでない。  
先ほどまでの死にそうな姿は幻覚だったのだろうか……?  
ひょっとして俺…騙されてる?  
いや…まぁ…お腹が減ってたのは事実だろうし  
…先ほど老婆からもらったお金だ……かまわんだろう。  
 
ガシャン!  
「!?」  
「見たぞ!見たぞ!見たぞーーーー。  
 決定的瞬間を現行犯逮捕というやつだ」  
「!」  
背後から飛び掛ってきた声。  
氷水でもぶっかけられたように背中が冷えていく感覚。  
 
見たくはないのだが…確認しないわけにもいくまい。  
そっ…と俺は背後を振り返った…。  
「とーーーっ!」  
高い場所から降りてきて地面に着地。ポーズをきめる少女。  
「愛と平和の正義の使者!マジカル・メロンちゃん参上っ!」  
そこには背中に羽根の生えた白い少女  
…………………………また、こいつか…。  
 
さて、少女はいきなりだがギロッっと凶悪犯罪者のような目つきで俺を睨んできた。  
「キ ー サ ー マ ー !  
 よ、よ、よりにもよってエンコーとは…恥をしれ…恥を!  
 この痴れ者めっ。!  
 まったく、なんという、けがわらしい生き物だ………。  
 不潔!不潔!不潔!!」  
なにやらいつにも増して興奮している御様子。  
顔は真っ赤にそまって、頭からは蒸気が湯気のように昇っていた。  
「まっ…まて、オマエ何か絶対的な何かを勘違いをしているぞ」  
「黙れっ!我は先ほどから全てを見てきたのだぞ。  
 親切なフリして老人から金を巻き上げるっ!  
 金をビラつかせて、女子高生の体を買う。  
 地獄の悪鬼共にも劣る、愚劣な行為の数々…最早救い難い!」  
あーー。人の話し聞く気ゼロだな…こいつ…。  
横にいる姉妹は俺以上に疑問だったのだろう。  
「都会にはヘンな人もいるんだね…」  
「えと…その………?ひょっとして妹さん?」  
「違うっ!断じて違うっ!てゆうかこんな妹イヤだ!」  
全力で否定する俺。  
「何をごちゃごちゃとぬかしておるか………」  
少女は手を空に向けて体をクルッと一回転。  
その手にはバトンが握り締められている。  
…………まさか、こんなところでアレを…?  
 
俺の脳裏に家の半分を跡形もなく吹き飛ばしたレーザービームが浮かんだ。  
―――あれを使うというのか?  
やばい…都心が火の海になる様がリアルに浮かんできた。  
「ククク……塵一つ残さず消滅させてやる」  
あの殺意に満ちた目は間違いない。  
あれですね…。  
「うおおおおお!」  
俺は世界を守るため勇猛果敢に飛び込んだ。  
先手必勝。  
殺られるまえに殺れ。  
レーザービームを放つ前にバトンをひょいっと取り上げる。  
「あっ!!あーーー!!  
 な、なにをするかキサマっ!  
 それは卑怯だぞ。返せっっ!」  
俺はバトンを少女が届かない高い位置まで上げる。  
ピョンピョンと飛び跳ねてバトンを取り戻そうとする少女。  
「こ…この!人間ごとき下等生物の分際で我を弄ぼうなどとっ!!」  
もっとも無駄な努力だ。  
俺と少女との身長差だけでも、かなりのものがあるのだから。  
「ハハハ。ここまでとどいたら返してやるよ」  
「ひっ……この…このぉ…」  
何度も跳ね続ける少女。  
バトンを背後にもっていく。  
「返せっ!」  
今度はバトンを前に  
「ほらほら、今度はこっちだぞ」  
「返せっ!この!返してェー!」  
だんだんと声に泣きが入ってくる。  
バトンをエサに翻弄される少女。  
 
「ハハハ。どうした動きが鈍ってきているぞ」  
「…………はっ…………はっ………はっ…」  
優越感に浸る俺。  
しかし、ふと…周りの視線が気になった。  
大衆達がボソボソと陰口を叩いているように見えるのだ…。  
ひょっとして意地の悪い兄貴だと思われてるのだろうか…俺…。  
いい年した高校生が、小さな子をいじめてるようで  
なんだか、悪いことしてる気になってきた俺は、バトンを返してやることにした。  
だが、そう思ったときには少女の顔は涙でずぶ濡れだった。  
「うっ……ううっ…ぐすっ…ふぇぇええん。  
 こ…このタマナシヘナチンがっ!覚えてろーーーーバカーーーっ!」  
泣きながら去っていく少女。  
「あっ。ちょ、ちょっとまてオマエっ!」  
バトンを返さなきゃということもあるが、  
いつまでも俺の命を狙う暗殺者を野放しにしてはおけないのも事実である。  
あいつ、口は悪くて思い込みも激しくて、ついでに生意気なヤツだが、  
悪いやつじゃないような気がする。  
せめて和解ぐらいしておかないと……。  
 
俺は即座に少女の後を追おうとしたが、  
ガシッ  
後ろから何者かに掴まれた。  
「定食〜〜〜」  
「定食〜〜〜」  
「!?」  
ゾンビのように俺の体にしがみついてくるのは、ハラペコの姉妹だった。  
 
 

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