あの夜から二週間ほどが過ぎた。  
僕も雪恵さんも、何事も無かったかのように互いに接している。  
でも、なんとなくしこりが残ったままのような気がして、しっくりこない。  
元々そんなに仲が良かったわけじゃないが、今のままではなんというか、いけないと思う。  
せめて、雪恵さんが僕の顔をまっすぐに見られるくらいまでには回復してほしい。  
それにはどうすればいいか、勉強そっちのけで考え、接する時間を多く持つしかないという結論に達した。  
家にこもりっきりの雪恵さんを、外に連れて行ってあげるなんてどうだろう。  
何か特別なこと、例えば映画に行くとか。  
そう思いついた僕は、帰宅するやいなや台所へ行き、いんげんの筋取りをしていた雪恵さんを誘った。  
「映画…でございますか?」  
「うん。駅前の映画館で、面白そうなのが公開してるんだ」  
「ですが、坊ちゃま。私などより、お友達と行かれたほうが楽しいのでは…?」  
予想どおり煮え切らない返事をする雪恵さんに、僕はとっておきの武器をポケットから取り出した。  
「それが、だめなんだ。ちょっとこれを見てよ」  
高校の生徒手帳を出し、校則のページを開く。  
『保護者同伴の場合を除き、劇場・映画館・ボーリング場等への立ち入りを一切禁ずる』  
この条文を指で示し、どうだと胸を張った。  
「保護者…ですか」  
「うん、そう。大人がいないとだめなんだ」  
本当はこんな校則は死文で、今どき守っている律儀な奴はいない。  
でも、雪恵さんを誘うためならこんなものでも使わなきゃ。  
「保護者なら、大奥様や奥様では…?」  
「婆さんはアクション映画じゃなきゃ見ないし、母はホラー専門なんだ」  
「トキ江さんは…」  
「老眼なんだから字幕が見えないよ。暗い所で座ったら寝ちゃうかも」  
「そう、ですね…」  
雪恵さんが前掛けのフリルをいじりながら、首を傾げて考え込んだ。  
「他の大人に、お心当たりはないのですか?」  
「うん。兄さんや義姉さんはアメリカだろう?だから、雪恵さんしかいないんだ。お願い!」  
大げさに手を合わせ、拝み込むように頭を下げた。  
「坊ちゃま、女中にそんなことをなさってはいけませんっ」  
慌てたように雪恵さんが言い、僕の頭を上げさせる。  
距離が近くなり、ふわりといい香りがした。  
「うんって言ってくれたら頭を上げるよ」  
しつこいかと思ったが、もう一押ししてみる。  
意地でも、一緒に映画に行ってやるんだ。  
「坊ちゃまが、そこまでおっしゃるなら…。  
承知いたしました。私で宜しければ、お供させていただきます」  
「えっ、本当!?」  
耳に届いた言葉に、僕はばね仕掛けの人形のように一瞬で頭を上げた。  
目が合った雪恵さんは、少し困ったように笑いながら僕を見ていた。  
「大奥様と奥様に許可頂ければですが…。私が、坊ちゃまの保護者代理をするなど認めませんと仰るかもしれません」  
「そんなことないよ、きっと大丈夫だったら。今から僕が行って、2人に許可をもらって来る」  
だから待っててと言い置いて、僕は祖母の部屋へと走った。  
外出がちな祖母ではあるが、今日は家にいるはずだ。  
勢い良くドアを開けると、祖母はテラスの椅子に座っていた。  
 
「お前、レディの部屋に入るときはノックくらいおし」  
「誰がレディだよ、誰が」  
いつもの軽口に、反射的に反論する。  
その年で、よくもレディなんて言えるものだ。  
「そんなに息を切らして。何かあったのかい?」  
尋ねられ、ああそうだったと思い出し、咳払いを1つ。  
「週末、雪恵さんを貸してほしいんだ。一緒に映画を見たいんだけど、誘ったら、あなたと母さんの許可がいるって言われて」  
「なるほどねえ」  
「普段は生意気ばかり言ってすみません。2人で出かけるのを許し…てください」  
不本意だが、頭を下げて頼む。  
許可が下りなければ、2人きりで出かける計画はパアだから。  
「なるほど。お前にしちゃあ考えたじゃないか」  
「うるさいなあ。許可してくれるの、くれないの、どっちなんだよ」  
にやにや笑いながら言う祖母の態度にムカッとくるが、ここで怒ってはだめだ。  
「そうだねえ。こないだは私が不用意なことを言ったから、雪恵さんに迷惑をかけてしまったし。  
いいだろう、気晴らしをさせてやっておくれ。千鶴子さんには私から言っておく」  
「ほんとかい?恩に着るよ!じゃあ」  
許可が下りたことを雪恵さんに知らせたくて、さっさときびすを返したところでシャツをつかまれた。  
「ちょいとお待ち」  
「何だよ」  
「これを持ってお行き」  
祖母が袖から財布を取り出し、5千円札を差し出した。  
「軍資金だ。映画の切符代とお茶代にでもおし」  
「いいの?」  
「お前にあげるんじゃないよ、雪恵さんの子守賃代わりだ」  
「へっ?」  
「お前のね。私がスポンサーなんだから、帰ったら会計報告をきちんとすること」  
僕はデートのつもりなのに、祖母にしてみれば孫を雪恵さんに子守してもらうだけにすぎないか。  
腹が立つが、しかし、懐が暖かくなるのはありがたい。  
そういえば、小遣い日前なのに財布の中身のことをちっとも考えていなかったし。  
「…分かったよ。ちゃんと報告する」  
「みっともない真似をして、恥をかくんじゃないよ」  
「分かってるよ」  
ムッとしながら言い、お金を受け取る。  
会計報告という名目で、僕にその日の行動をしゃべらせて、また一笑いしようと画策しているくせに。  
しぶしぶ礼を言って祖母の部屋を後にし、許可が出たことを雪恵さんに話しに駆け戻った。  
それでは、不束者ですがお役目を果たしますと頭を下げられ、僕も慌てて同じくらいに頭を下げた。  
 
 
人生における初デートだから、失敗はなんとしても避けたい。  
雑誌を読んだりしてイメージを描き、万全を期して当日に備えた。  
言うべき言葉を実際に口にして、その似合わなさにベッドの上を転げ回ったことは僕だけの秘密だ。  
にやけたり不安になったりと、忙しいウイークデーが過ぎ、そして週末がやってきた。  
その日の朝、いつもより早く起きて身繕いをし、たんすの中のありったけの服を出して着ていく物を選んだ。  
なるべく大人びて見える物を選んで着て、玄関へ行くと雪恵さんはすでに待ってくれていた。  
いつもの白い前掛けをしていないのが、何だか新鮮に思える。  
珍しく明るめの色の着物を着ているのが、出かけることを意識してくれたようで嬉しかった。  
「じゃ、行こうか」  
精一杯落ち着いた口調で言い、並んで歩きながら映画館へ向かう。  
本当は、ここで手をつなげればいいんだけど…。  
それは無理だったので、せめて見るだけならと、道中に雪恵さんの整った横顔を何度も盗み見た。  
女性、しかも美人と並んで歩くなんて初めてだから、妙に緊張してしまう。  
そんなに脚も長くないくせに、歩くスピードは大丈夫かなどと気を使って。  
やっと映画館が見えたときには、早くも一仕事終えた気になっていた。  
雪恵さんには入り口で待っていてもらい、窓口へ券を引き換えに行く。  
当日券を買うんじゃなくて、それよりも数百円安い前売り券だから、あんまり見られたくない。  
 
指定券を持って何食わぬ顔で戻り、館内に入った。  
「あ、あの…足元、大丈夫?」  
暗い客席を移動するどさくさに紛れ、雪恵さんの手を取る。  
手と手が触れ合った時、ちょっとびっくりされたが、拒否するそぶりは見えなかった。  
華奢なその手指をそっと握るだけが、今の僕には精一杯だ。  
触れ合った部分の温もりを感じながら、映画館の暗闇に感謝した。  
 
席についてしばし、予告編に続いて映画が始まった。  
初デートに深刻な作品はふさわしくないと、洋画のオーソドックスなラブロマンス物を選んだ。  
定まらぬ恋を繰り返していたヒロインが、最後はいつも傍にいてくれた男と幸せになるという筋書きらしい。  
男は年下じゃなく、年上のエリートなのがちょっと引っかかるけど。  
しかし、草食動物のようにおとなしかった男が、映画の後半で情熱的にヒロインに迫るシーンは圧巻だった。  
僕も外国人ならああいうキザなせりふを言って、雪恵さんの心を動かしたりできるのだろうか。  
自分が同じ言葉を言うことを想像し、空しく沈黙した。  
ちょっと僕には荷が重い、この映画を参考にしようと思ったのは失敗だった。  
溜息をつく僕の前で、ずっと思っていてくれた男の真心にヒロインは涙を流し、キスシーンでENDマークが出る。  
照明がつき、隣をうかがうと、雪恵さんはぼうっとした目でスクリーンを見ていた。  
映画の最中にもそれとなく窺ったところでは、雪恵さんはストーリーに集中していたように思える。  
ヒロインに感情移入して、楽しんでくれただろうか。  
屋敷にばかり閉じこもってないで、自分にもああいう恋愛をできる可能性があると思ってほしい。  
できれば、その相手がこの僕だったら、とも想像してほしい。  
…もっとも、僕はあの男ほど頭もよくないし、顔も普通だけれど。  
 
映画館を出て、また並んで歩く。  
さっきよりも二人の間の距離が少し近くなったみたいで、嬉しい。  
でも、まだ手をつなぐには至らないのがもどかしい。  
思い切って触れてみようかとも思うが、保護者代理にと頼んだ外出で手をつなぐのは変だ。  
妙な小細工をせず、いっそのこと「デートをしよう」と誘った方が良かったのかと今になって考える。  
微妙な距離を目で測りながら、うずうずする手を持て余した。  
 
手のことばかり考えていてもしょうがないと、別のことに意識を向ける。  
祖母にもらった小遣いは、前売り券2枚を買って2600円が消えた。あと2400円残っている。  
映画代とお茶代にでもしろと言われたお金だから、どこかで一休みしようかと思う。  
「ね、雪恵さん。喫茶店へ行こうよ」  
多少遅くなっても構わないという言質を祖母からとってあるので、今日は強気だ。  
だが、映画をおごって頂いたのだから今度は私が払います、と雪恵さんに食い下がられてしまった。  
「だめだったら!僕が誘ったんだから僕が払う」  
男としては、初デートくらい格好をつけたいのに。  
意外に強情な雪恵さんもかわいいなと思いつつ、僕も一歩も退かずに主張を続ける。  
「僕は年下だけど、今日は雪恵さんをエスコートするつもりで来たんだ。  
高校生だから、洒落たレストランには連れて行ってあげられないけど、せめて喫茶店でパフェでも食べよう」  
「パフェ…ですか?」  
あ、雪恵さんの心が少し動いた。  
やはり女の人だから甘いものには弱いとみえる。  
「うん、僕も食べたいから付き合ってよ。家じゃ食べられないだろ?」  
うちの食事は和食が中心だから、若い雪恵さんは物足りなく思うこともあるんじゃないだろうか。  
そう予想して、女心に訴えてみる。  
「そう、ですね…」  
「じゃあ決まりだ。行こう」  
こくりと頷いた雪恵さんの手を取り、喫茶店へと歩いた。  
手をつなぐというよりは引っ張るという感じで、甘い雰囲気はかけらもなかったのだが。  
しかしさっきとは違って、明るい場所で雪恵さんに触れているという高揚感のようなもので、僕の頭の中は一杯になった。  
 
どうにか喫茶店に入り、狭い2人掛けのテーブルに腰を下ろした。  
お辞儀をしたら頭がぶつかりそうなくらい小さなテーブルを挟んで、雪恵さんと向かい合う。  
それだけのことなのに、何だかウキウキしてきた。  
「雪恵さん、先に選んでよ」  
メニューを取り、開いて置いてあげると、雪恵さんはそれに目を落とした。  
僕も反対側からのぞき込み、書いてある文字を見る。  
しかし、視線の先に俯いた雪恵さんの胸元が目に入ってしまい、目が釘づけになってしまった。  
あの夜、一瞬だけ露になった胸の谷間は、今も僕の脳裏に焼きついている。  
変に紳士ぶったりしないで、どさくさにまぎれて軽くでも触れておけばよかった。  
惜しいことをしたと、今になって猛烈な後悔がこみ上げる。  
女の人の胸にはまだ触れたことがないけど、聞いた話では男のそれとは違い、しっとりと柔らかく指先に馴染むらしい。  
雪恵さんは肌がきれいだから、きっと僕の想像よりもはるかに触れ心地がいいんだろう。  
メニューを見るふりをしながら、着物の胸元から透視するみたいにして、さらにその膨らみを凝視した。  
今日の下着はどんなだろうか、普段の着物と同じで控えめか、それとも意外に大胆なデザインだったりして…。  
 
「───、坊ちゃま?」  
「はへっ?」  
本人には絶対言えない妄想に浸っていたところ、いきなり呼ばれてすごくマヌケな声が出てしまう。  
慌てて咳払いをし、何でもない様子を取繕った。  
「な、何?」  
「私、チョコレートパフェを頂きたく思うのですが、構いませんでしょうか…?」  
「あ、うん。じゃあそうしなよ」  
「坊ちゃまはどうなさいます?」  
雪恵さんの胸元に夢中で、自分の注文を決めていなかったことに気付き、慌ててメニューに視線を落とす。  
いつのまにかこちらを向いていたメニュー表。気がきくなあ雪恵さんは。  
「えーと、どうしようかな…」  
抹茶パフェの文字が目に入り、さらにはフルーツパフェ、特製モンブランの文字にも誘惑されてしまう。  
注文をぐずぐず考えるのは男らしくないと、雑誌に書いてあったのに。  
僕が決めるのを待っている雪恵さんの視線を感じて焦り、結局同じ物を頼むことにした。  
 
注文を済ませてメニューが下げられ、何となく雪恵さんと目が合って微笑んだ。  
いい雰囲気だ、ひょっとしたら周囲の客に本物の恋人同士だと思われるかも。  
今の空気を壊さないような、気の利いた会話をすべきだな。  
盛り上がる話題、話題……。  
「雪恵さん、映画はどうだった?」  
残念ながら、ムードのある話題というやつが思いつかなかったので、映画の話題に逃げる。  
「はい、とても面白うございました」  
「うん、僕も面白かった。思っていたより、コメディの要素も多かったよね」  
「ええ、ヒロインの靴が池に落ちてしまったところ、とてもおかしくなりました」  
「ほんとだね、せっかくおめかししたドレス振り乱して『私の靴ー!!』って叫んだところでしょう?」  
「はい。あんなに綺麗な女優さんなのに、役のためならみっともなく叫びもするものなのですね」  
「女優魂ってやつなのかなあ?当たり役だったよね」  
話が盛り上がり、雪恵さんが楽しそうな顔になったのを見て僕のテンションも上がる。  
いいぞ、大人っぽくはないが、会話は弾んでいる。  
 
「ね、雪恵さん。また映画に付き合ってよ」  
「えっ?」  
気をよくした僕の言葉に、雪恵さんはパチパチとまばたきをした。  
「僕、今度はあの予告編でやっていたのが見たいんだ。来月公開って言ってた、あれ」  
「北欧の村のナントカという映画ですか?」  
「うん。あの犬ぞりの男の人の話」  
肝心な所で映画の題名を忘れてしまい、じれったい。  
「雪恵さんはどう?見たくなかったら他のでもいいよ?」  
僕は別にあの映画じゃなくても、雪恵さんと見られるのなら何でもいい。  
ホラーやスプラッタは御免こうむりたいけど…。  
 
「私でよろしいのでしたら、お供させていただきます」  
雪恵さんがにっこりと笑って言ってくれた言葉に、僕は天にも昇る心地になった。  
最初に誘った時の煮え切らない態度とは雲泥の差だ。  
「ほんと?約束だからね?」  
また来月、2人で映画に行けるんだ。  
小遣いを貯めておかなくちゃ。  
「でも坊ちゃま、あれは男同士の友情のお話ですから、お友達同士で行かれたほうがいいのではありません?  
クラスメートを誘われた後、私が同伴いたしますから」  
「だめだよ、僕は雪恵さんと行きたいんだから!」  
友達となんか行けるわけない、恋敵をわざわざ増やすようなものだ。  
「僕の友達は、映画よりテレビゲームなんかの方が好きみたいなんだ。だから2人で行こうよ」  
雪恵さんの案を却下し、2人で行くことを強調する。  
早く本人に「デート」と言えるようになりたい。  
「来月の上映予定を調べておくから。祖母にも僕から言っておく、今回もすぐOKくれたから、来月も大丈夫だよ」  
「坊ちゃまがそう仰るなら…」  
雪恵さんが少し赤くなり、小さく頷いた。  
…かわいい。  
「忘れないように指切りしておこうよ」  
素直に差し出された雪恵さんの細い指に、僕の指をからめる。  
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲ますっ」  
「指切った…」  
雪恵さんも小さな声で唱和し、頬をほころばせた。  
これで、来月も2人で出かけられる。  
ああ、バラ色の未来が見えるようだ。  
「…あの、坊ちゃま」  
「ん?」  
真っ赤になった雪恵さんが、からめた指を必死に解こうとしている。  
どうしたのかと思ったら、パフェを運んできたウエイトレスが、テーブルの前で困ったように立ちつくしていた。  
 
パフェを食べながら、また映画の話をした。  
二人の共通の話題というのを模索すると、ふさわしいのはこれしかなかったから。  
祖母を始めとする家人の話をするのは、せっかく二人きりでいるのにもったいないと思えた。  
僕は何時間でもしゃべっていたかったのだが、テーブルの上が空になると、さすがに店を出ざるを得ない。  
レジの前で、自分が支払いをすると言い合ってまた一悶着した後、外に出る。  
ご馳走になりましたと頭を下げられ、こちらも慌ててお辞儀をする。  
僕としては、もう少しぶらぶらしたかったのだが、夕飯の準備があるからと雪恵さんが帰宅を勧めた。  
さすがに、夕飯をすっぽかすわけにはいかないので、しぶしぶ頷いて家路につく。  
途中、水ようかんが名物の村雲庵の前を通ったので、土産でも買っていくかと店に入った。  
来月も映画に行くから、祖母へのワイロの代わりにしようと思って。  
5個1050円の水ようかんを買い、もらった軍資金の残りは50円になった。  
帰宅し、夕食前に祖母の部屋へこっそりと行って、今日のてん末を報告する。  
映画に喫茶店、全く私の言った通りじゃないか、センスが無いねえとからかわれてしまった。  
しかし、来月もまた行くつもりだと告げると、祖母は得たりという顔でニヤリと笑った。  
「ほう。じゃあ来月には何べんもお使いを頼もうじゃないか」と言って。  
お駄賃という名のデート代をくれることを匂わせているのだろうか。  
憎まれ口ばかり言うこの人も、本当は僕のことを気にかけていてくれるのかもしれない。  
素直に礼を言い、祖母の部屋を後にした。  
 
夕食時には、給仕をする雪恵さんはいつもの地味な着物と前掛け姿に戻っていた。  
少し残念な気がするが、今日はとても楽しめたから、よしとすべきなのだろう。  
来月の外出がもっと楽しくなるように、もっと策を練らなければいけない。  
部屋に戻り、昼間の反省会を一人とり行う。  
とりあえず、喫茶店で同じ物を注文したのは失敗だった。  
違う物、例えばイチゴパフェなんかを注文しておけば、一口あげることもできたのだろうから。  
そうすれば、もっと親密な雰囲気になれただろうに、返す返すも残念だ。  
「坊ちゃまの物を頂くなんてできません」と遠慮されるだろうけど、そこを押して食べてもらう。  
映画に誘った時みたいに、きっと少し困ったみたいに笑って、最後には言うとおりにしてくれるんだろう。  
その時の表情を想像し、いい気分になったところで睡魔に負けてしまった。  
寝る前にいいことを考えたせいか、その夜はとてもよく眠れたように思う。  
翌朝、僕が食堂で目にしたのは、一足先に朝食を終え、デザートに僕の分の水ようかんを食べている祖母の姿だった。  
 

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