「さあ、得意のタックルが出るか!?」  
「下がっちゃダメですよ!」  
20型の地デジ対応テレビからオリンピックの熱闘が伝えられてる。  
現在の競技は女子レスリング。日本人選手が決勝戦を奮闘してる。  
レスリングに興味があったわけじゃない。  
ただ、暇だから見てるだけ。  
恭介・・・キミが、構ってくれないから・・・。  
 
キミはベッドに座っていつものように本を読んでいる。  
わたしがここに来たときに読んでいたものとは違う文庫本。  
熱心に読み進めている横顔、真剣な眼差し、すごく・・・好き。  
その瞳に見つめられる時の幸せ・・・。思い出すだけで心臓がドキドキしちゃう。  
キミが傍にいる空気感が・・・好き。  
心から安らげる。安心できる。優しい気持ちになれる。  
だけど。  
 
わたしたち、もうただの幼馴染じゃないんだよ?  
恋人同士になったんだよ?  
キミはわたしの、彼氏・・・なんだよ?  
わたしが"キミの部屋にいること"。  
その表面はいつものことでも、"中身"はもう・・・違うんじゃないの・・・?  
 
「フォールだ!!オリンピック連覇達成ーーーーー!!」  
「いやぁ、やりましたっ!!」  
 
実況アナウンサーと解説のおじさんが、喜びを爆発させる。  
画面上で選手がガッツポーズをしながら泣いている。  
それを見て、わたしも胸がきゅん、ってなる。  
きっとわたしたちが知らないところで、いっぱいいっぱい努力したんだろうな・・・。  
苦しかっただろうな・・・。  
 
あんまり喋らないからって、感受性が鈍い訳じゃないんだから。  
 
「ね、ぇ・・・」  
呼びかけてもキミは反応してくれないね。読書中はいつもそう。  
わたしの声が小さいのもあるけど・・・もう少し注意を向けて欲しいよ・・・?  
 
Tシャツの肩のとこを引っ張ると、ようやくキミは顔を上げる。  
「・・・金メダル・・・」  
キミはテレビにチラッと視線を向けただけだった。  
「ああ」  
たった2文字で感想ともいえない反応をして、キミはまた視線を戻す。  
わたしの中で、ふつふつと怒りが湧き起こってくる。  
 
ものすごく頑張った選手に、どうしておめでとうが言えないの?っていうのもあったけど。  
それ以上に・・・わたしはキミと、感動を共有したかったのに。  
 
急に立ち上がったキミ(たぶん飲み物を取りにいきたいんだ)を、わたしは通せんぼする。  
「なんだよ・・・ひかる?」  
キミがわたしの名前を呼んだの、これが今日始めて。  
分かってる?・・・もう4時間も一緒にいるんだよ?  
「・・・だ、め」  
言いたいことは山ほどあるのに、これしか言えなかった・・・。  
どうしたら自分の気持ちを上手に伝えられるのかも、何から話していいのかも、よく分からない。  
 
キミの顔が困惑の表情を形作る。  
 
出逢った頃からずっとそう。  
どんなときも、キミはわたしに嫌な顔をしないね。  
こんなわたしを、めんどくさがらないね。  
キミはとても、優しいヒト。  
 
「ひかる・・・?どうかしたのか?」  
 
急に真剣な表情になって、それまでの態度が嘘のように、心配そうにキミが顔を覗き込んでくる。  
すぐ目の前に、大好きなキミの顔がある。  
それだけで、わたしの顔は真っ赤になる。  
 
「顔赤いぞ?熱でもあるんじゃないのか?」  
 
前髪が触れ合いそうな距離までキミの顔が近づいて・・・。  
訳が分からなくなって・・・キミに思い切り抱きついちゃった・・・。  
まるでタックルみたいに。  
 
「おわっ」  
二人の身体が、ベッドに倒れこむ。  
反射的に目を閉じていたわたしの鼻腔を、キミの香りがくすぐる。  
 
「だ、大丈夫か?」  
大好きな匂いに陶然としていたわたしに、キミの声が届く。  
「・・・うん」  
気づけばキミの両腕が、ちょっと強めにわたしを包んでくれてる。  
守ろうとしてくれたの?  
嬉しい。もの凄く嬉しいよ。  
その気持ちに、それをうまく表現できないもどかしさが混ざって、わたしをちょっと大胆にする。  
 
「ン・・・ちゅ・・・」  
やっぱりちょっとなんかじゃない・・・。普段のわたしはこんなことできないもの。  
恭介は、固まったように動かない。  
どうしよう・・・。  
変に思われないかな・・・?本当は嫌だったりするのかも・・・。  
でも、怖くて確かめることなんてできない。  
目を閉じて必死に唇を押し当てていたら  
「・・・んあっ!?ンンッ!」  
キミの舌が、わたしの口の中に入ってきた。  
熱くてヌメヌメしてて、でも全然嫌じゃない。  
キミに、蕩かされちゃいそう・・・。  
 
何秒くらいそうしていたんだろう。  
幸せに包まれた時間。  
名残惜しいけど、息ができなくなって唇を離す。  
 
キミはちょっと驚いた顔をしてた。  
でも、切なそうな顔だったよ?  
 
「わたしの・・・フォール、勝ち・・・」  
何言ってんだろう、なんて思わなかった。  
もう、ちょっと変になってるね、わたし。  
「ばか、フォールってのは・・・肩をつけるんだよ」  
キミは乱れた呼吸で、わたしを抱きしめたまま反転して上下を入れ替わった。  
 
「ひかる・・・したい」  
 
いつもはドキドキする、キミの真剣な眼差し。  
でも今は、ホッと胸が温かくなった。  
良かった。  
キミもちゃんと、わたしとしたいって・・・思ってくれてるんだ。  
嬉しくて、涙が出そうになる。  
 
「今日はずっとしたかったから、ひかるを見ないようにして耐えてたってのに、さ・・・」  
「・・・えっ?」  
 
わたしにはそんなに女の子として魅力を感じていないのかと思ってた・・・。  
キミにとってわたしは「保護対象」で、エッチなことなんて・・・もうする気にならないのかな、とか・・・。  
 
「お前のせいだぞ」  
甘く甘くキミが言う。  
それだけで内腿の付け根が熱を帯びてくる。  
 
「・・・責任、とる・・・から」  
わたしが言うと、キミは嬉しそうに微笑んだ。  
そして今度は、キミがわたしをフォールする―――  
 
 

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