結局、その時の騒動事態はすぐに鎮静化したが、その日からしばらく男子と女子の間に奇妙な壁を作り出す事態となった。  
解除した瞬間、お尻を見た縁か仲良く話しを弾ませていた前の席の女の子は、目を見開いて座っていた椅子ごと物凄く後ずさったりと、大なり小なり女の子達は皆驚きの動作の後、悲鳴を発する事となった。  
その瞬間、スカートの下を見せていた女の子達は尚悲惨で、悲鳴を上げた後、座り込み泣いてしまう子も居た程だ。  
更には女子の大半による悲鳴の大合唱だった訳であり、隣のクラスから授業していた先生が見にきたりもする等騒然となっていたが、一人の女子の言い訳によって、その場は収まった。  
その時の、『ぱんつはいてない騒動』で、数少ないスカートを捲らなかった女子の一人だった所為か、他の女子と比べて精神的なダメージが少なかったのだろう。  
畳み掛けるように先生に事情を説明し、その場を取り繕う事に成功していた。  
 
ゴキブリが大量に出た。  
 
これで押し通した彼女に、ちょっと尊敬の眼差しを送ったりもした。  
真相を知っている男子勢はその言い訳を否定する事も出来たが、そうする事は無かった。  
真相が知れれば色々と面倒であろうし、当事者たる女子連中が秘密にしようとしているのである。  
良いおかずも得られたし、面倒事になるよりは、彼女等の思惑に乗っかろうといった心情なのだろう。  
僕自身もあまり騒動が大きくなる事は望んでいなかったので、その方針に準じる事にした。  
 
その後、騒動のショックからか学校を休む女子が出たり、しばらくは男子は性欲処理の為のおかずに困らなかったり。  
僕は力の試しがてら、下履きは無粋との男子陣の見解を尊重して、密かにぱんつに対する防備を忘れて貰ったり。  
 
そしてどうにか女子がショックから立ち直り、騒動が風化しつつあった今日この頃、僕は再び魔法の力を試すべく、決意を新たに学校へと赴いた。  
 
 
古文の授業。担当の先生は余り質疑応答に拘らず、ひたすら古文音読や説明行ってくれるので、クラスメイトの動向を観察するのには都合が良い。  
そう思いながら、僕はクラスの女子達の様子を眺めていた。  
授業が始まってすぐ、先程僕はある魔法をクラスの女子達に施したのである。  
 
授業中、という状況もある為か、目に見える動きをした女子はまったく居なかった。  
少なくとも、何も知らない人が見るならば、傍目には何の変化も感じられないだろう。  
しかし、その状況を促した僕には、女の子達の小さな変化に気づいた。  
僅かに体を強張らせ、聞き耳を立てるかの様にゆっくりと辺りを窺うかの様に頭を動かす少女達。  
周囲の状況を気にしながら、逆に周囲から気づかれない様に身を縮めるかの様な雰囲気。  
もちろんそういった行動は、僕の魔法による影響である。  
彼女等の今の心境を一言で表すなら、こうだろう。  
 
―――何で私、パンツを履いているの…!?  
 
ぱんつに関する恥ずかしい事柄、認識だけを残して、その他諸々を忘れてもらったのである。  
皆平静を装っているが、頭の中は何故自分はぱんつを履いているのかという疑問と、そんな状況に対する羞恥心で一杯だろう。  
頬の赤さからも、それは容易に想像できた。  
暫く、僕は女子達の様子を眺めていたが、不意に一人の女子生徒に目が留まった。  
高瀬涼子。クラスを含め、学年上位の成績を常に修めている、所謂できる女の子である。  
顔も美人であり、身長の高さも相俟って、スラっと伸びた肢体の綺麗さから、男子内でも密かに人気だ。  
ただ性格が特に男子に対しては割ときつい所もある故か、男女含めて彼女の利発さと話せば分かる融通の良さ等を知る奴は少ない。  
先日の騒動でスカートの下を晒さなかった数少ない女子の一人でもあり、男子に大いに悔しがられた子でもある。  
そんな彼女を注意していると、不意に走らせていたシャーペンを置き、右手を机から降ろした。  
そのまま腰の辺りを摩り、しばらくして、またペンを握る。  
体が痒いのだろうかと思い観察していると、少し間を置き、また同じ様な動作を行う高瀬さん。  
その後も何度も手を机から下げ、腰を摩るような行為。よく見てみると、スカート越しに肌を押し、指でゆっくりと引掻く様に動かしている。  
ポリポリと痒い所を掻く動作とはまったく違う、何かを気にしているような奇妙な動作に、僕は怪訝な表情を浮かべ…暫くして、僕はある見当へと思い至った。  
 
(…ひょっとして、ぱんつ脱いでる?)  
 
まさかという思いながら、高瀬さんを注視し…顔を僅かに左右へと向け、周りに気を使うような動き、そして見えた頬の赤さに、僕は疑念を確信に変えた。  
脱いでいるのだ。ぱんつを。それも授業中に。  
幾ら僕の力が働いているとは言え、まさか授業中にそんな行動に出るとは思わなかった僕は、食い入る様に彼女の行動を見つめた。  
スカート越しに何かを抓む様な動作を行い、段々と弄っている手を、お尻を伝い、太股へと場所を移していく。  
時折、逆の手を腰に廻し、右、左と均等にその行為を繰り返していく。  
服越しのその行為はやはり遣り難いのか、時間を掛けていたが、やがて腰からぱんつを降ろす事が出来たのか、彼女は腰を浮かす様な動作をした後スカートの裾を整え、作業を終えた。  
顔を伺うと、心なしか安心したような、ホッとしたような表情が見受けられる。  
本当にぱんつを脱いでしまうのだろうかと、不安と期待の両方を抱いたが、スカートから下着は覗く事は無く、傍目彼女は何時もと変わらない様子である。  
 
(脱ぎたかったけど、ぱんつを人前に晒す訳にも行かないから…って事かな?)  
 
高瀬さんの脱いだであろうぱんつは、スカートの下、太股の辺りで脱ぎかけの状態になっているのだろう。  
当人としては取り敢えず恥ずかしい状態を正し、安心しているのであろうが、クルクルと捩れたぱんつを太股に引っ掛け、秘部を外気に晒しているであろうその様子は、想像してみれば滑稽でしかない。  
 
そんな思いを抱きながら、何気なく教室の様子を見渡すと…殆どの女子生徒に同じ様な動作が見られ、僕は思わず口元を歪めた。  
モゾモゾと落ち着かない女子達の様子に、不振の目を向ける男子も何人か見受けられる。  
気づかれない様に振舞っているとはいえ、人前でぱんつを脱いでいる、そんな変態的な行為を図らずも取ってしまっている少女達。  
履いていても誰も気づかないだろうに、彼女達はそれが恥ずかしい事だと信じて疑わず、結果的に更に恥ずかしい事態へと自身を陥れている事に気づいていない。  
 
(…まあ、僕の所為だけど)  
 
ニヤニヤする顔を繕いながら、僕は暫し、女子達の見えないストリップ行為を眺め続けていた。  
 
「…では続きを、高瀬」  
「はいっ!?」  
 
先生からの指名を受けた高瀬さんに、クラスの視線が集まった。  
淡々とした普段の彼女に似つかわしくない、妙に余裕の無い、強張った声での返答だったからである。  
その理由を知る僕は心の中で苦笑を浮かべ、立ち上がり、スラスラと教科書を読み始めた高瀬さんを見つめていた。  
 
「―――大きくなる鉢にうづだかくもりて、膝もとに……置き、つつ」  
 
数行読み進めた後、不意に彼高瀬さんの音読が止まった。  
怪訝に思った先生が彼女を見遣るが、何事も無かったかの様に続きを読み始めたのを確認すると、視線を持っている教科書に落とした。  
…正面の先生では、机や生徒が邪魔をして、気づかなかったのだろう。  
だが、周りの生徒…特に彼女を確認できる横から後ろの生徒は、音読を続ける高瀬さんに釘付けとなっていた。  
 
正確には、高瀬さんのの足元に落ちたぱんつに、である。  
 
音読の為立ち上がった瞬間、太股に引っ掛かっていたぱんつが重力に負け、ずり落ちてしまったのだ。  
なんとかそれ以上の落下を防ごうと、音読中、足を広げる等して抵抗していたのだが、その動きのおかしさがクラスの視線を更に惹き付ける事となってしまった。  
ついにはパサリと、ぱんつは彼女の足元へと落ち、衆目にその様子を晒す事となったのである。  
 
教科書を読み終え、着席した高瀬さんには、何時もの凛とした雰囲気は無く、ただ顔を真っ赤にして俯くだけであった。  
足首に絡まったぱんつを少しでも隠そうとしているのか、足先を交差させ、ぱんつを挟み込んでいるが、そんな事で全てを隠せる筈も無く、その存在や色もはっきりと確認できる。  
 
そんな様子を見つめる男子生徒の間に、興奮と共にある種の期待感が沸き起こっているのが見て取れた。  
先日の騒動がまだ記憶に新しい以上、皆感じているのだろう。  
今日もまた、クラスメイトの痴態が見られるのか、と。  
 
授業が終わり、休み時間になると、健全な男子にとっては踊り出したくなる様な光景が、繰り広げられる事となった。  
休み時間にぱんつをなんとか処理しようと、トイレに赴こうとする女子が大量に発生し…結果、立ち上がった瞬間、ストンと足元にぱんつを落としてしまう子が相次いだのである。  
履く訳にも行かず、人前で脱ぐ訳にも行かない。それ故の行動だったのだろうが、結局はより男子達の興奮を煽る結果にしかならなかった。  
ぱんつが落ちた瞬間立ち止まり、血の気が引いた様な顔を浮かべ、すぐに顔を真っ赤に染めると、拾い上げ机に戻ってポケットや鞄に仕舞い込む子。  
拾わずにそのままパンツをずり上げ、太股でなんとか固定して不自然な大股歩きで教室を出ようとする子。  
落ちたぱんつを拾い上げると、体裁を整えるかの様にポケットに仕舞いながら、トイレへと向かう子。  
対処の仕方はそれぞれだったが、皆等しく自分の下着を男子の目に晒し、羞恥で顔を染めていたという点では一致していた。  
 
だが、彼女達の受難はそれだけでは収まらない。  
何故なら、僕が授業毎に認識の解除、魔法の指向を行った為である。  
 
突然、授業中にぱんつの事を思い起こし、ノーパン状態の自分達に顔を赤くする女子達。  
なんでぱんつを脱いでしまったのと、後悔と自責の念に囚われながら、頼り無い下半身を気にしつつ授業を受ける。  
逆にぱんつを履く事の恥ずかしさを思い出し、再び授業中にぱんつを脱ぎ出す少女達。  
態々履いてしまった自分の迂闊さに顔を顰めながら、授業を聞く事無くスカートの下での脱衣に精を出す。  
休み時間になれば履くか脱ぐかの為に教室を出、何度も自分の下着を男子に晒してしまい、その都度羞恥で頭を埋め尽くされる。  
中には足元に落ちたぱんつに足を取られて転倒してしまい、不幸にも男子にスカートの中身を見られてしまう子も居たりと、女子にとって今日一日、気が休まる時は無かった。  
 
最初は女子達の痴態に敢えて触れないでいた男子達も、一日が進むに連れて女子達が醜態を繰り返す様に段々と野次を飛ばす様になり、午後には話題として憚らず、女子達の行動に目を光らす様になっていた。  
既に女子の下着は色や模様、形など、殆ど全てが男子達に把握され、休み時間には女子の下着に関する談義で持ち切りであった。  
対する女子達は、その男子達の様子を諌める事は無かった。  
自分達は自ら下着の脱ぎ履きを行ってしまっており、結果的にとは言え男子達に話のネタを提供してしまっており、あくまで悪いのは自分達なのである。  
自分達に彼らの声が掛かった時ぐらいは怒りを露に出来るが、男子が話している話題を強行に止める事も出来ず、一日中恥ずかしさに打ちひしがれる事となった。  
 
放課後前のHR、その日一日の異常な状況にすっかり慣れてしまった故か、男子達の間で色々と突っ込んだ話が出てきたりもしていた。  
 
「…ぱんつくれねーかな」  
「何に使う気だ。いやむしろ使う気かお前」  
「流石にそれは無理だろ」  
 
隣で盛り上がる男子連中の輪に半ば加わる形で、特にする事も無い僕はぼんやりと、彼等の会話を聞いていた。  
担任がまだ来ないのをいい事に、男子達の間で交わされる話題。  
散々男子達の前で披露された女子のぱんつ。  
異常な状況が続く一日に感化されたのか、誰それのが欲しいやら、擦り付けたい等、欲望の捌け口として色々と話が弾む事態となっていた。  
一部の男子では、貰って来い行って来い等と、本気ともとれる様な冗談が飛び交っている。  
 
(…それも面白いかも)  
 
ゴキブリの様にぱんつに対する嫌悪感だけ残して忘れさせれば、嫌いなもの故手放させるのは容易だろうか。  
いや、そんなものを求める男子に嫌悪感を抱く可能性も…。  
 
「うむむ…」  
「どうしたよ?」  
 
思わず声を出して考え込む僕に、隣に居座っていた佐野が声を掛ける。  
何でも無いと答えると、佐野は僕に対して先程の話題、ぱんつを貰って来れるだろうかという話を振ってきた。  
明らかに行きたそうな彼を無視しつつ、僕は興味無さげに答えた。  
 
「行ってくれば佐野」  
「…大丈夫だと思うか?」  
 
心配そうな佐野及び取り巻きの男子一同だが、先日の彼の言葉で女子達のあられもない姿を拝めたのが忘れられないのだろう。行きたい、行って欲しいという願望が見て取れる。  
本人も満更ではない様で、否定しながらも顔は欲望に歪んでいる。  
つまり、後ひと押しが欲しいのだろう。  
取り敢えず、力を使ってみるかと内心思いながら、僕は満面の笑みで太鼓判を押してやった。  
 
「大丈夫サ」  
 
暫くウンウン悩んだ挙句、赴いた佐野を見遣りながら、僕は力を使うタイミングを計ろうと意識を集中した。  
 
「なあおい」  
「…」  
「片桐ー」  
「…」  
「片桐様」  
「…何?」  
 
しつこく言い寄る佐野に観念したのか、ようやく彼との会話に応じる片桐さん。  
一日中続いた痴態の連続に、男子との会話にかなり抵抗があるのだろう、睨む様に佐野を横目で捉えながら続きを促す。  
というか、今日一日の中で初めてのまともな男子女子間での会話では無いだろうか。  
そんなどうでも良い事を思い浮かべながら、僕は密かに女子に対して力を使いつつ、二人の会話に聞き入った。  
 
「今日はやけに下着を目にする事が多いな」  
「うん?…あー、何でか脱いだり履いたり、変な一日だったからねー」  
 
心なしか険の取れた片桐さんの様子に、僕は効果を確信した。  
一方、佐野は殴打や拒絶を覚悟していたのか、予想外の反応に面食らいながらも、片桐さんとの会話に花を咲かせていた。  
 
「変って、自分でやっといて何を言うか」  
「いや、私も良く分からないのよ。何であんなにパンツ着たり脱いだり、恥ずかしがったりしてたんだか」  
 
ぱんつ、という単語を臆面無く言い放った片桐さんの様子に、ピクリと反応する男子達。  
そんな様子を知ってか知らずか、佐野は目的を達成するべく更に話を畳み掛けた。  
 
「お前はぱんつを何だと思っているんだ」  
「何って、パンツはパンツでしょ?」  
「いや、ぱんつの用途とかだな」  
「用途って、何かあったっけ?」  
 
首を傾げる片桐さんを見遣りながら、僕は心の中でほくそえんだ。  
色んな感慨を忘れさせ、ただぱんつという認識だけを残す。これが仕掛けた力の内容。  
言うなれば路端の石の様なものだろうか。女子にとっては、ぱんつはただ身体に付着している糸クズ、そんな感じの認識となってしまっているのだろう。  
 
「いや…じゃあなんでぱんつ履いてるのかと」  
「何でって…何でだろう…」  
 
ぱんつを履く事の意義を見出せないのだろう。疑問の声を挙げ、考え込む片桐さん。  
そんな様子を見て、男子集団の中から、「いけるんじゃね?」「この前な雰囲気…!」という囁きが漏れ聞こえる。  
佐野も片桐さんの様子から感じ取ったのだろう。  
緊張した面持ちから一転、邪な笑みを浮かべ、彼女に問い掛けた。  
 
「んじゃさ、要らないなら、くれよ」  
「良いけど…」  
 
何でこんなものを欲しがるのだろうという思いを抱いているのか、歯切れの悪い答えを返す片桐さん。  
しかしぱんつを渡す事には躊躇は無いらしく、すぐさまその場でスカートの中に手を入れた。  
まさかそんなにスムーズに行くとは思わなかったのか、呆気にとられる佐野の前で、スルスルとぱんつを下ろしていく片桐さん。  
片方づつ足を上げ、ぱんつを抜き取ると、何時もの調子で何事も無かったかの様に、佐野にそれを握らせた。  
 
「はい」  
 
その場で脱いだ片桐さんのぱんつを握り締めながら、返ってきた佐野。  
ごくりと男子一同が唾を飲み込む中、佐野は満面の笑みで皆に言葉を発した。  
 
「これはいける」  
 
直後、目的の女子のぱんつを得ようと、クラス中の男子が教室に散った。  
 
面食らう女子を後目に、クラス中で交わされる、ぱんつの購入希望と、譲渡の遣り取り。  
人気の有る女子には男子が一挙に集中し、ジャンケンを行ったりもしている。  
その様子を見ながら、自分の持つぱんつなんかが何故そんなに欲しがられるのか、大いに悩む女の子。  
一方では突然起こってしまう認識の切り替えを憂慮していたのか、ノーパンで過ごしていたのだろう。  
ポケットや鞄からぱんつを取り出し、手渡している女の子も見受けられた。  
 
しばらくそんな教室の様子を眺めていたが、僕も誰かのぱんつを得ようと思い至った。  
丁度良く席に着いていた、前席の女子へとぱんつを強請る。  
 
「ごめん、もう渡しちゃった」  
 
出遅れた。  
誰かまだ居ないかと、教室を見渡す僕。  
そんな中、視界に一人の女子を見出し、僕はその子のぱんつを貰おうと彼女の席へと近づいた。  
 
「高瀬さん、ぱんつくれない?」  
「…こんなもの貰って何か得するの?」  
 
まだ彼女のぱんつは無事だったらしい。  
自分のぱんつの価値に疑問を浮かべながらも、了承の意を示すかの様に、高瀬さんは座っていた椅子から腰を浮かし、スカートの中に手を入れる。  
太股が露になるのにドキドキしながら、僕はぱんつをずり降ろし、足を抜き取る高瀬さんの様子を見つめていた。  
 
「はい、どうぞ」  
 
そう言って、自らのぱんつを手渡す高瀬さん。  
普段通りと変わらない彼女の澄ました様子に、僕は思わず噴き出した。  
 
「…どうかしたの?」  
「いや、ちょっと可笑しくって…ありがとう」  
 
怪訝な表情の高瀬さんからぱんつを受け取り、クラスを見渡すと、男子は皆一様に女子のぱんつを手に入れたらしかった。  
想い人のものを手に入れられず炙れた男子も、残っていた女子を順次周り、『同級生のぱんつ』というおかずを得る事に腐心していたようだ。  
一通りクラスが何時もの状況に戻った所で、丁度良く担任が入室し、HRの為に皆席へと戻っていく。  
後は放課後、帰宅か部活を行うだけである。今日はもうお開きといった所であろう。  
 
(僕も手に入れたし…実験も十分に出来たかな)  
 
そう思いながら、意識を集中する。  
 
―――認識を解除する  
 
自分の席で硬直する女子達を後目に、HRは何時も通りに進行していった。  
 
HRが終わり、部活や帰宅の為の準備をするクラスメイト達。  
そんな中でも帰宅する男子は、今日の状況、そして『戦利品』を早く使いたいのか、足早に教室を後にする奴が目に付いた。  
対する女子は、皆ぱんつを男子にあげてしまい、下着の無い状況である。  
部活での着替えや、帰り道の危うさを考え、意気消沈する子。  
男子が自分の下着をどうするのか、思い描いて顔を青くまたは赤くする子等、様々である。  
だが、自分達が自発的に渡してしまったのである。それを糾弾し、更に取り返す…余程の覚悟が無ければ、そんな行為に打って出る事は出来ないだろう。  
 
「あの…」  
 
女子達の思考を分析しながら、不意に掛けられた声に顔を挙げると、高瀬さんの顔が目の前にあった。  
特に親しい訳でも無い彼女からの接近に、思わず身構えながら頭の中で疑問を浮かべる僕。  
そんな事も知らず、しばらく視線を泳がせた後、高瀬さんはおずおずと話を切り出してきた。  
 
「その、返してほしいんだけど…」  
 
(…まさか本当に取り返しに来る子が居たなんて)  
 
言ったきり、目線を落として俯く彼女。  
自分からぱんつを差し出しておいて、あまつさえそれを返してくれと懇願する。  
そんな状況に余程葛藤しているのだろう。今も肩を震わし、僕の言葉を待っている様子だ。。  
 
「何を?」  
「私の…下着…」  
「何で?」  
「っ!?…何で、って…」  
 
言いたい事は分かっているが、何となく悪戯心が芽生え、答えをはぐらかす僕。  
必死に顔に現れそうになる笑みを押さえながら、僕はポケットに入れ込んでいた彼女のぱんつを取りだした。  
それを見て、顔を更に赤く染める高瀬さん。  
しばらく、あれこれと発するべき言葉を模索していた様であったが、結局思いつかなかったのだろう。  
やがて消え入りそうな声で、一言呟いた。  
 
「…お願い」  
 
(…まあ、いっか)  
 
懇願する高瀬さんを見ながら、僕は頃合かと、彼女にぱんつを返す事を決めた。  
これ以上引き伸ばすと、周りで固唾を飲んで見つめている女子達から制裁を受けかねない。  
クシャクシャになっていたそれを差し出すと、高瀬さんは素早くそれを受け取って鞄に仕舞い込んだ。  
 
「ノーパンで帰るの?」  
「うるさいっ!」  
 
先程までのしおらしい様子とは打って変わって、叫ぶ様に僕の問いに答えると、そのまま走り去る様に高瀬さんは教室を後にした。  
 
(…僕の力通りに、自分からノーパンになったりしちゃう様な子の癖にねー)  
 
精一杯の強がりなのだろうが、今日一日の様子を思えば、ただの虚勢でしかない。  
そんな高瀬さんの痴態を思い起こしながら、ふと教室の隅を見ると、片桐さんが佐野と何か話し、佐野を右手で打ち据えている光景が目に留まった。  
彼女の左手には、くたびれた布のような物。どうやら佐野から奪い取ったもとい返してもらったようだ。  
しかし、彼女や高瀬さんの様に返してもらうという選択肢を選び、成功した女子は少数派だろう。  
廊下でも、帰ろうとしていた男子を呼び止める女子の姿が見えたが、彼女は男子に何か言われ、真っ赤になって俯いてしまった。  
その様子を笑いながら、その場を去る男子。  
かいた恥と頼り無いスカートの中の影響か、スカートの裾を握り締め、立ち尽くす少女。  
 
そんな光景と、その状況を作り出した自分の力に少なからず興奮している自分を自覚しながら、僕は帰路へとついた。  
 

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