「あちい…」
炎天下の中、愚痴を言いながらもどこか楽しげなクラスメイトの言葉を聞きながら、僕達男子はプールサイドに佇んでいた。
夏。海。もといプールである。
午後の体育、最近続く暑さに参っていた所の、水泳の授業。男女皆等しく涼む事が出来ると、今日の午後を楽しみにしていたのだ。
皆ワクワクしながら友達と話したりしているが、実はその期待感には、もう一つ別の意味も含まれている。
この学校の水泳の授業は、普通は隣のクラスと一緒になり、男子女子にそれぞれ分かれて、一時間おきに交代でプールを使うのが慣習となっている。
しかし、今回教師の方での予定の立て方の不手際によって、何の因果か一つのクラス単位で、生徒皆一緒に授業を受ける羽目になってしまったのだ。
つまり、プールの男女での共用。
一時限前は隣のクラスが、同じ様に不手際の煽りを受けてそうだったらしく、女子の水着姿を堪能できた等と、そのクラスの男友達から伝え聞いていた。
その所為もあってか、今日の授業を男子に限っては、特に楽しみにしていたらしく、周りのクラスメイト達のテンションは炎天下に負けず上がりっぱなしであった。
逆に女子生徒からの評判は、言わずもがなである。
先程更衣室に入っていった女子生徒の様子も、男子に対する警戒感からか、水泳の授業を手放しで喜べないといった感じてあった。
無論、僕が先生方に慣習としてあった授業の方針を一時的に忘れてもらった故の状況であるが。
心の中で笑みを浮かべながら、僕は今日の実験の舞台となるプールを見渡した。
この学校のプールは古く、校舎から校庭を挟んだ遠い場所に位置しており、周りを新築の建物や樹林によって覆われた、利用者にとっては中々不便な物件である。
つまり、何かしら騒ぎが起きたとしても、プールに居る人意外にはここでの騒動ははまず関知されない。
(どんな顔して出てくるだろう)
先程行使した力の内容を反芻しながら、僕は女子達が着替えているであろう更衣室の方を見つめた。
男子の何人かにも、同じ様に更衣室をじっと見つめている輩が何人か見受けられる。そこまで露骨にいかなくても、チラチラと気にしている奴も多い。
学校指定の平凡なものだとはいえ、皆、女子達の水着姿に期待しているのであろう。
(まあ、その期待は裏切る事になっちゃうだろうけど)
心の中で、女の子達の水着姿を想像しているであろうクラスメイト達に、若干の謝罪をする。
少し経って、ガラリと開いた更衣室の扉の音が聞こえ、僕はそちらに意識を集中した。
「あっつい!」
「陽射し凄いねー」
更衣室から和気藹々と出てきた女子達に、プールサイドの男子達はついに来たかと一斉に女子達の方を見遣り…次いで皆、ポカンとした顔を浮かべていた。
皆、疑問の表情を浮かべ、続いて一様に信じられないといった顔をする男子達。
そんなリアクションを知ってか知らずか、男子達とは反対側のプールサイドに歩いていく女子達。
そのまま準備体操を行うのだろう。体操の間隔を取るかのようにプールサイドに広がっていく。
それを見て、男子も準備体操の為に間隔を広げながら、対岸の女子達の姿を見遣った。
女子達は皆、学校指定の水着では無く、それぞれ形の違うツーピースの水着を着ている。一部カラフルなものを着用しているのを除けば、白味がかった色調が目立つものばかりだ。
しかし、よく見てみればそれが水着では無い事は一目瞭然である。
「…ブラ?」
「あれぱんつだよな…?」
ざわざわと、男子達の間でどよめきが聞こえる。
目を擦ったりして、改めて女子の着ているものを確認する奴も居たが、何度見てもそれは学校指定の紺色の水着とは程遠い、それ所か水着ですらない代物だった。
水着ではなく、下着なのだ。
今回は更衣室に女子が入った瞬間、力を行使し、学校指定水着をただのモノとしての認識以外忘れさせ、下着もまた水着と似通った要素以外の認識を忘れさせたのだ。
その結果、彼女達は今、状況と認識から、下着を水着だと思い込んでいるのである。
取り敢えず準備体操を始めた女子につられる様に、同じく体操を始める男子達。
しかしその意識は視線と共に、対岸に居る女子達の体に釘付けとなっていた。
上半身に着用し、胸の形を整えているブラジャー。
スポーツブラ等、いくつかの種類は見受けられるが、それ等は皆例外無く、体操によって形を変える彼女達の胸の膨らみを支えている。
下半身、腰周りと秘部を覆うぱんつは様々な色、模様、プリントと、女子の好みや性格によってそれぞれ違う。
体操による足、そして腰の動きに合わせて、ぱんつの下の凹凸を浮かび上がらせ、一部の薄い布を使用してしまっているであろうぱんつを履いている女子の股間には、うっすらと処理された陰毛が、強い陽射しの中存在を誇示していた。
そして当の女子達本人は、男子に見られてスタイルが気になるのか腰元を気にしたり、人の後ろに隠れるように準備体操を行っている子も居る。
若干男子達の存在を気にしているが、自らの着ているものに対しては何ら恥らう事は無く、準備体操に精を出している様であった。
(ただ水着を着ただけの、普通の状態だもんね…?)
彼女達は、普通通りの水泳の授業のつもりなのだ。
しかし、男子達から見てみれば、水着ではなく、あろうことか下着姿で水泳に挑もうとしている女子達である。
紺色の学校指定水着に身を包んだ女子達を想像していた男子からすれば、青天の霹靂に等しい。
そんな状況に、早くも男子達の股間は膨らんでいたが、着ているのは水着一枚だけである。隠せる筈もない。
「準備運動終わったら、シャワー浴びて来い!終わったらプールサイドで整列!」
体操が終わり、股間の膨らみを悟られまいと、大急ぎでシャワーへと向かう男子達を後目に、テクテクと水泳を楽しもうと笑う女子達が続いていった。
担当の教師には、授業遂行以外の余分な感慨を忘れてもらっている。
その為、女子の下着姿にもまったく動じる事も無く、今もプールで泳いでいる生徒の一人に指示を出していた。
今日の授業は最近までと同じく、泳ぎの程度や泳法によってグループを分けられ、それぞれのレーン毎での練習である。
そんな中、女子は各人練習に精を出しているが、男子は殆ど泳ぎの練習に意識を割く事は無かった。
僕も練習ではなく、目の前で同じく並び、泳ぐ順番を待っている女子の一人に意識を集中する。
何時も通りに授業を進める教師のおかげで、授業は男女でレーンを分ける事無く男女混合となっているのだ。
至近距離で見る女の子の背中、そして体育座りの所為かぱんつがずれ、覗いているお尻に、僕はごくりと唾を飲み込んだ。
クラスの女子達にとって今、下着は水着である。それ自体は疑問に思う事は無い。
しかし、水着と違って丈夫さ、伸縮性は遥かに劣り、素材もすぐに水を吸う様なデリケートな品物ばかり。
そんなものを着用して水泳を行えばどうなるか…僕は、順番が来てプールの中に体を沈める前の女の子を追う様に、プールへと視線を向けた。
入水した女の子は、前を泳ぐ男子が一定の距離を進んだ事を確認すると、壁面を蹴って泳ぎ出した。
クロールの練習を行っているのだろう。腕を廻し水面を叩く毎に、水飛沫が跳ねる。
それを眺めながら僕も次に泳ぐ為プールに入ると、少しして彼女の様子が変化した事に気づいた。
急にバタ足の勢いが小さくなり、暫くすると泳ぎを止めその場に立ち止まってしまったのだ。
辺りを見回す様に窺う彼女の顔に、運動による高揚以外の頬の赤さを見る事が出来る。
泳いでいる時の水流によって、ぱんつがずれてしまったのだ。
密かにゴーグルを着けた顔を水面下に沈め、水中の彼女の下半身を凝視する。
目を凝らすと、所謂半ケツ状態になってしまったぱんつを、急いで引っ張りあげて元に戻す様子が観察出来た。
水面に顔を出してみると、丁度ホッとしている彼女とゴーグル越しに目が合う。
直後、茹蛸のように顔を真っ赤にしながら、慌てて前を向き直り、クロールの練習を再開する彼女に苦笑を浮かべながら、僕は別レーンの様子を見渡した。
背泳ぎの練習をしているレーンでは、順番がまわって来て準備の為に元気良くプールに飛び込んだ女の子が見て取れる。
盛大に水飛沫を上げ、水面から半身を覗かせると…着水の衝撃でブラがずれ上がり、弾力のあるおっぱいを覗かせてしまっていた。
慌てて元に戻そうと、胸の位置を直していた彼女だったが、ぱんつの方も飛び込んだ勢いで水に押され、Tバックの様にずり上がってしまっているだろう。片手の先は水面下に沈んだままだ。
そこに、飛び込むなという先生からの叱咤が浴びせられる。注目された彼女は恥ずかしさで俯きながら、ぱんつとブラの位置を必死に戻そうと両の手を動かしていた。
飛び込み台からの練習を行っている子等は、もっと悲惨であった。
ブラがずれるだけならば幸運で、勢いのついた水中への突入によって、水の抵抗がぱんつに大きく掛かってしまい、ずれる所かぱんつがすっぽりと脱げてしまう子が多数に上ったのだ。
無論その状態から泳ぐ事が出来る訳も無く、飛び込んだと同時に立ち上がってしまい、太股どころか膝までずり落ちてしまったぱんつを慌てて履き直している。
平泳ぎのレーンでは、女子の後に続く男子が、いやに短い間隔で泳ぎ出していた。
その男子の目線は常に前を向き、正面を泳ぐ女子を凝視している。
股を開くような泳ぎ方故か、ずれたぱんつにお尻どころか、彼女達の秘部を直に覗けるかもしれないとでも思ったのだろう。
近くで見ようと前に進み過ぎ、女の子に蹴りを入れられて水中でのた打ち回っていた。
その他の練習をしている女の子、泳ぐ事に精を出している女の子達も、皆少し泳ぐと底に足を着き、お尻の部分や胸を気にしてまた泳ぐという状況を繰り返していた。
水流ですぐにぱんつが脱げ、ブラがずれてしまうのだから当然だろう。
泳いでいて、水着がずれる、脱げるという事は普通起こり得る事であるし、彼女達もそれ自体は気にしていない。
しかし、その頻度が彼女達の経験からして遥かに多い、今日の授業。
ましてやそのずれ方、脱げ方は、普通の水着とは明らかに勝手が違う。
もっと泳ごうと思っても、少し泳いだだけでお尻や胸を晒してしまい、しょっちゅう顔を赤める女子達。
立ち止まってしまっては、先生に注意を受け、仕方なくまた泳ぎ出し、再び恥ずかしい場面を晒してしまう。
そんな状況を作り出してしまっている水着に対し、彼女等の戸惑いを隠せない様子が見て取れる。
しかし、それが授業で使う水着であると思い込んでしまっている以上、彼女等はその不満を行動として表す事も出来ないのだ。
練習に打ち込みながらも、そんな女子達の下着姿、そして痴態を存分に観察し、僕はそろそろ水泳の練習もいいかと結論づけた。
勤勉に泳ぐのも良いが、そろそろもっとじっくり女子の肢体を見る機会が欲しい。
そう思い至った僕は、先生に自由時間が欲しいと詰め掛ける事にした。
まだやる事があると難色を示した先生に力を行使し、授業で行う事柄の忘却を行わせる僕。
何も無いなら自由時間でと言い包められた先生は、釈然としない表情を浮かべながらも、渋々それを了承した。
何となく、自由時間となって4レーン5レーンの間で男女の境界が出来ていたプールだったが、何時しかひたすら泳ぐ体育バカを除いて、男子は皆その境界付近で遊びながらも、女子の方を覗き見る様な状態となっていた。
その視線の先の女子達は、自由時間となった今、激しい運動や泳いでいる子はおらず、ゆったりと水に浸かり、お喋りに花を咲かせている子が多い。
そんな彼女達が来ている下着は、既にぐっしょりと濡れている。
ある程度持っていた伸縮性も、長時間水に浸かってしまった事で失われてしまっただろう。
既に彼女達の履いているぱんつ等は、水を吸ってヨレヨレの状態となり、少し動くだけで脱げてしまう子も多くなっていた。
プールから上がる瞬間、底を蹴ってプールサイドに上がろうとし、体に纏わっていた水が流れる力だけでぱんつが脱げてしまい、顔を赤くしながらプールサイドに腰掛ける女の子。
その様子を目にしてため息の様な歓声を上げる男子達に、不意に声が掛けられた。
「ねえ、ちょっと。佐野」
「あん?」
そちらに視線を向けると、何処と無く憮然とした様子の片桐さんが佇んでいた。
それに高瀬さんや、女子が二名程…それぞれ剣呑な、それでいて釈然としないといった思いを抱いているかの様な表情で、僕達の前にやってくる。
当然ながら、皆下着姿である。高瀬さんなどは、水を吸ったぱんつが心もとないのだろう。片手で腰を押さえるようにぱんつに手を掛けている。
間近で見る女子の濡れた下着姿に、思わず唾を飲み込む男子達。当然僕もその中に含まれる。
対する片桐さん達は、そんな男子達の心情を分かる筈も無く、若干嫌悪の表情を浮かべながらも、佐野を中心とした数人の男子に話し掛けた。
近くに居た僕も必然的に、その話の輪の中に半ば加わる形で会話を聞く。
「…ちょっと、聞きたい事って言うか、確認したい事があるんだけど、いい? 今日の水泳の授業なんだけど」
「皆ポロリばっかしてくれるおかげで眼福でした」
「茶化すな」
おちゃらける佐野をバッサリと切り捨てる片桐さん。
それに合わせて、集まっていた高瀬さん達が恥ずかしそうにしながらも睨みつけるが、謝りながらも佐野は何処吹く風である。
こう言う時は、彼のキャラクターが羨ましい。
「…勝手に脱げちゃうのよ。しょうがないじゃない」
彼女達としても、しょっちゅう胸やお尻を晒してしまう水着に辟易しているのだろう。
視線をさ迷わせながらも、ボソリと言い訳じみた返答を返す片桐さん。
しかしだからと言って脱ぐ訳にもいかず、かと言って変わりも無いのだ。これが水着なので仕方無い、そんな感じである。
片桐さんもそこには余り触れて欲しく無いのか話題を切り上げ、本題の話を始めた。
「…最初、更衣室で気づいたのよ。水着が無いって。女子全員」
「は?」
「それで皆水着を探して…皆揃って、制服の下に水着を着てる事に気がついたの」
片桐さんの話に、首を捻る男子達。
内容は単純だが、話が突拍子も無いというか、脈絡がおかしいのだから当然だろう。
しかし女の子達はそれを意識しているのかしていないのか、どんどんと話題を進めていった。
「そんな皆揃って忘れたり、思い出したりするような状況って、アレ以外有り得ないでしょう?」
「けど、変になってる時って、全然そんなの気づかないでしょ?男子達もその…パンツ履いてなかった時とか、その事全然気にしてなかったし」
高瀬さんの発した言葉に続く様に、女子の一人が不安げに同意を求める。
どうやら彼女達は、前々から続く『騒動』が、今自分達の身に起こっているのではないかと考えている様だ。
話を締め括るかの様に、片桐さんが言い難そうに言葉を発した。
「つまり私達は今、ああいった状況の真っ只中で…その、女の子として恥ずかしい状態じゃないかどうか、聞きたいのよ」
「…何故俺等に聞くので?」
「視線のやらしさが何か酷いから」
中々酷い言われ様であるが、彼女達からすれば、今の男子達の視線は水着の女の子を見る目とは程遠いものであると感じているのであろう。
「それに…」と呟いて、水面下を見る様な仕草をし、顔を赤くする高瀬さん。
視線の先の水面の下は、男子達の下半身。その履いている水着の中心は皆例外無く盛り上がっている。
確かに、これだけ男子達が憚らず興奮しているのを見れば、何か可笑しいと察する事も十分に足るだろう。
対して答えを迫られた佐野は、葛藤していた。
男子連中は正常な思考のままである。その視点から見れば、今の女子の状態がいかに異常なものかは語るまでも無い事だ。
しかし、この異常な状態のおかげで、女子の下着姿などと言う、普段絶対にお目に掛かれないものが拝めるのである。
―――指摘すればこの美味しい状況も終焉?
そんな思いが責めぎあっているのだろう。
だが、葛藤している佐野の様子から、高瀬さん等は異常があるらしいと感じ取った様だ。
ため息をつくかの様に「やっぱり…」と呟いている。
「まあ…有り体に言っちゃえば」
取り敢えず、既に答えを得てしまっている様なので、本当の事を暗に告げてみる僕。
苦虫を噛み潰したような表情を作りながら、「全然実感沸かない…」と言って自分の体を眺める片桐さん。
目の前で水に濡れた片桐さんのブラ、そしてそれに包まれた胸が、体を捻る片桐さんの動きに合わせて形を変える。
ブラは片桐さんの胸を一応隠しているが、水を吸って重くなった影響か、肌との間に隙間が出来、彼女の形の良い胸をより多く晒していた。
ごくりとその様子に唾を飲み込むと、不意に冷たい声が投げ掛けられる。
「…一応、男子のそういう厭らしい視線が嫌だっていう感覚はあるのだけど、これは正常なのよね?」
「え」
「…聞くまでも無いわよ涼子。君、あと佐野とか。見るな」
どうやら僕の視線を高瀬さんに見られていたらしく、顔を上げると、彼女の嫌悪の表情を浮かべた顔があった。
その言葉に状況を把握したのか、胸を腕で隠しながらジト目で僕達に言葉を発する片桐さん。
心なしか後ろに着いて来ていた女の子達も、少し警戒するように後ずさっている。
(…自分達からその体が良く見える様に近づいてきたんじゃないか)
一方で、「嫌だ、見る」等と言って、水中で蹴り飛ばされている佐野がちょっと羨ましい。
割と冗談めかしている部分も多々あるとは思うが、なんとなく面白くないという思いを浮かべた僕は、脳内で非難の責任を彼女達に押し付け、腹いせとばかりに、魔法の力を行為した。
一瞬だけ目をパチクリと瞬かせた後、自分の体へと視線を落とす片桐さん達。
間髪入れず、彼女達、そしてプール中から女子生徒の悲鳴が響き渡った。
「いやあああああああっ!?」
「ちょ、おま何して…ってうおあ!?」
突然の事態に驚く佐野。彼に限らず、クラスの男子生徒達は皆一様に似た様な状態だ。
いきなり彼等の目の前で、女子が悲鳴を上げながら下着を脱ぎ出したのだ。驚かない方がおかしい。
何処からか投げられ、頭に引っ掛かったブラを握りながらも、僕はついでとばかりに意識を集中する。
直後、野太い声や悲鳴が響き渡り、今度は男子も同じく水着を脱ぎ去り、投げ捨てていった。
周りを気にせず、女子は下着に、男子は水着に手を掛け、皆少しでも早く脱ごうとバシャバシャと水飛沫をたてている。
まるでゴキブリが張り付いていたかの様な慌てっぷりである。
着ている物の嫌悪感だけを残してみただけだったのだが、掛けられた皆の変わり様に僕は驚きながらも、僕も同じ認識を得ていると誤魔化す為、驚いた様な仕草を取りながら、腰に手を掛け水着を脱いでいく。
水面下とはいえ、クラスメイト達の前で裸を晒すことにはちょっとした抵抗もあったが、周りは皆裸なのだ。対した問題は無いだろう。
「…何してるの」
「いや、そっちこそ」
阿鼻叫喚な事態を過ぎ、冷静になったのだろう。お互いを見ながら、呟く女子と男子。
気がつけば、全裸の男女が幾人も、下着や水着の浮かんだプール内で佇んでいるという、傍目かなりシュールな光景が繰り広げられていた。
方や胸や下半身を何とか隠そうと体を縮め、手を当てている女子達。その顔はもちろん真っ赤に染まっている。
逆に男子は素っ裸とはいえ、下半身は水の中である。羞恥を感じて隠す仕草はしてみても、余り女子程徹底はしていない。
むしろ目の前に広がる裸の異性、クラスメイト達の様子を積極的に窺う剛の者も居たりと、欲望に貪欲な者が多数を占めていた。
(裸の付き合いで親睦を…なんちゃって)
そんなクラスメイト達の様子に苦笑しながら、僕は更衣室から女子に施していた一連の魔法を含め、認識を解除した。
水泳の授業が終わり、僕も含め、着替え終わった男子達が次々教室へと戻ってくる。
水泳特有の気だるさに見を委ねながらも、席についた男子達は皆、先程の授業の様子を顧みて話を弾ませていた。
クラスメイトの下着姿。そしてあまつさえ彼女達の生まれたままの状態を目に焼き付ける事が出来たのだ。
タオルで髪を拭きながら、焼き付けた女子達の裸体を思い浮かべ、または語り合って、だらしない笑顔を浮かべている。
無論、股間は膨らみ、今にも弾けそうな輩も何人か見受けられる。
だが、それにも増してある種の期待感が男子、そして教室中を包み込んでいた。
女子達が水泳で使った服飾。つまり普段常に着用している下着類。
これ等は全てプールで水の中に浸され、しっかりと水を吸ってしまった事だろう。
そして着替えの為の短時間でそれが乾く筈も無く、そんな濡れた下着を着用する事など到底出来る筈も無い。
「…どう考えてもノーブラノーパンだよな」
ボソリと呟かれた誰かの言葉が教室に響き渡り、辺りがシンと静まり返る。
直後、ガラリと教室の扉が開かれる音に、教室内の男子達が一斉にそちらを注視した。
彼等の視線に晒される中、教室へと入ってくる女子達。
そんな彼女達を血走った目で男子達は凝視し…時が経つ毎に、その興奮した様子は徐々に冷め、困惑した表情が浮かんでいった。
下着を着ていなければ確実に存在するだろう、乳首によってシャツに浮いたポッチも見えなければ、ノーブラノーパンを気にして羞恥に顔を染める女の子の表情も無い。
彼女達の状態は、何時もと変わらぬ、至って普通の淑女然といった様子であった。
そんな困惑の感情が広がる中、水泳用具を入れた袋を片付ける彼女達をしばらく見つめ続け…ボソリと、佐野が言葉を発した。
「…水着?」
その漏れ聞こえた佐野の言葉を聞き取ったのか、片桐さんが彼に向き直り、ニヤリと笑った。
「何?ひょっとして中に何も着てないとか思ってた?」
そう言って笑い掛ける片桐さん。
よく見てみれば、その制服のシャツの下には、胴から胸までを覆う紺色の布地が薄っすらと見え、肩にはその布地と繋がる白い肩紐らしきもの。
まさかと辺りを見回してみれば、入ってきた女子達にも皆等しく、同じ様な布地がシャツの下に透けて存在していた。
どう見ても学校指定水着です。本当にありがとうございました。
認識を元に戻した所為で、学校指定水着の存在と用途を明確に思い出し、その為、使わずに放置されていた水着を下着の代用にしたのだろう。
辺りで「ちくしょうやられた」「期待して損した」等と、男子達の声が響く中、女子達は何時もの彼女達と変わらぬ態度で、それぞれの席へと着席した。
様子を見ていても、何ら羞恥や戸惑いを見せない彼女達に、なんとなく敗北感を感じる僕や男子達。
そんな男子達を後目に、何やら服の下に水着を着る事について、子供の頃を思い出す等、話に花を咲かせたりしている女子も居る。
多少は気恥ずかしそうな面持ちの女子も見受けられるが、着込んでいるのは水着。有り体に言ってしまえば、特に見られても構わない服飾なのである。
その辺りの感情からか、悔しそうに見遣る男子達に向けて余裕そうな笑みを返したり、中にはスカートを捲って挑発的に下半身の水着姿を披露している子まで居た。
「制服にスク水…」
「いやこれはこれで…」
一部の男子が、彼女達の様子を興奮しながら見つめていたのは、まったくの余談である。