3年生ともなれば、目の前に迫った受験戦争に打ち勝つ為に、一部の例外を除いてひたすら猛勉強に励み出す生徒が大半だ。
が、そんな受験勉強とは殆ど無縁の授業として、体育がある。
息抜きと割りきれる人やそのスポーツが好きな奴でもなければ、憂鬱な授業である事には疑いの余地は無い。
まして、夏真っ盛り。汗だくになるよりは、まだ教室で参考書と向き合っていた方が有意義だろう。
そんな、この年次の生徒達に比較的不評な体育。
ここのこの学年の授業方法は変わっていて、複数のクラスで幾つかの種目からやりたいものを選び、集まった人毎に、その競技を学ぶというものだ。
どれかを必ずこなさなければいけない以上、夏真っ盛りのこの時期には、やはり水泳を選ぶ人が多い。
体育館競技のバスケットや…まして柔道なんかを率先して選ぶ人は、その部活に入っている人でもなければ余り居ない。
が、各種目には当たり前の様に定員が決まっている訳で、炙れた人は愚痴を言いながら、夏中、汗だくになって希望外の種目に精を出す。
俺自身もそんな輩の一人であり、バスケットに滑り込まされた事を、決定時はえらく呪ったものだ。
(…その時の俺、後悔しようぜ)
そんな事を思いながら、今現在目の前に広がる光景…下着姿でバスケットのシュート練習を行う女子達を眺める。
他の男子達と同じく、彼女達の肢体を食い入る様に凝視しながら、俺はほくそ笑んだ。
体育館の中に居る、バスケットボールを追いかける女子達…彼女達は皆、下着姿。ブラとぱんつである。
シュートを行う毎に、ジャンプした少女の胸が、抑えつけたブラと共に、大きく跳ね、着地と共に重力に引っ張られて、その弾力を示すかの様にユサユサと揺れる。
胸だけではない。ぱんつに覆われた彼女達の股間は、運動によって微妙に下着がずり上がり、合間から白いお尻の肉が覗く。
何かしらの挙動を行う毎に、柔らかそうに揺れる太股。
「どうかした?」
「…いや、何でも」
パス練習のパートナーとなっている女子からの問い掛けに、俺は慌てて持っていたボールを彼女へと送り出した。
その彼女もまた、下着姿。
どうやら上下セットらしい、薄い萌黄色のブラとぱんつが、健康的な肌によく映えている。
慌てて投げた為に、目測が狂った俺のボールを頭上で受け取った拍子に、プルプルと震える胸の膨らみ。
そんな光景を存分に堪能しながら、俺はこの異常な状況が始まった休み時間の様子を思い起こした。
発端は、体育の時間の前の着替え。
授業は隣り合う辺りの複数クラス合同で行う為、着替える時はそれぞれの教室を男女で分かれて更衣室として使う。
なので、自分達も何時も通りに更衣の為、教室で制服を脱ぎ…何か忘れている様な奇妙な感覚に首を捻りながらも、体育館用のシューズを片手に、教室を後にしたのだ。
そして同じ様に、隣のクラスから、着替えが終わった筈の女子達…下着しか身に付けていない女子達が、何人も出て来た。
当然、俺を含めて、それを見た男子は大いに狼狽した。
当たり前である。女子達があろう事か下着姿で、公衆の面前、というか俺達の前に居るという状況。普通なら、有り得る筈が無い。
しかし当の女子達は、そんな俺達を始めは気にもせず、一人また一人と、自分の体育の集合場所へと赴いていく。
下着姿である事以外は、普段と全く変わり無い、談笑しながら歩いていく女子達。
それを見て固まっていた、余りにもな俺達のおかしな様子に、何人かの女子が、「どうかしたの?」と尋ねてきた。
当然、その異常さに、何でそんな格好を? という問いを、俺達は行う。
対して、問い掛けられた女子達は、不思議そうな顔でこう答えた。
「そんな格好って…制服脱いで着替えただけじゃん。体育の時はそうでしょ?あんた達だって」
何時も通りの体育の仕方じゃないかと堂々と言い放たれ、二の句が告げない俺達。
更に、逆に俺達の格好…パンツ一枚の格好を指摘され、漸く俺達は、自分達の服飾の状態を自覚した。
(…何で俺達もぱんつ一丁なんだ…?)
疑問が沸き起こり、こんな状態になったであろう、着替えの時の様子を思い起こす。
(体育の時は、制服脱いで着替えるんだよな…制服脱いで…別にそれ以外やる事無いから…)
…なんだ、別に変な事は無いじゃないか。
制服を脱いで、体育の為の格好に着替えた。何もおかしい所は無い。
ついでに、女子の格好も着替えの仕方と照らし合わせ…着替えたら下着姿になるのも当たり前だと、納得する。
そんな俺達を見て、「ボケたの?」とからかいながら、体育館に赴く女子。
その彼女の、一歩踏み出す毎にプリプリと揺れる、青いぱんつで覆われたお尻を堪能しながら、俺はその女子の尻を追い駆けるかの様に、体育館へと歩を進めた。
―――おかしくは無いが、女子が下着姿である事に興奮しない訳は無い。
男女等しく、下着姿で各々の集合場所に赴いた訳だが、道すがら、すれ違う男子達の好奇の視線に、女子達は晒され続けていた。
廊下を歩く俺達や女子を見て、ギョッとした様な視線を向ける生徒が、男女問わずに何人も。
が、暫くウンウン唸った後、何か合点がいったのか、彼等は皆、納得した様にそれぞれの行動へと移っていく。
…男子の場合、そのまま下着姿の女子達を眺め続ける事が大半だったが。
まあ、仕方の無い事だろう。
生まれたままの姿の一歩手前とも言える露出度。
加えて、普段絶対に見る事の無いだろう、下着姿の女子達をまともに見られる事なんて、滅多にある事じゃない。
噂では、前に下の学年のクラスで似た様な事態があったらしいが、目の前の様子を見て、案外その噂も本当かもしれないなと俺は思った。
(…ん? ていうか着替え、何時もこれが普通だっけ? 今日初めて見た様な)
何か釈然としない思いを抱いたが、体育館に入って、視界に広がった大勢の女子達の格好に、そんな思いは瞬時に消し飛んだ。
分かってはいたが、皆、例外無く下着。
質素な物からカラフルな物、一部顔に似合わず少々過激な物を着ている子まで、様々だった。
「あー、今日は皆混ざって授業するからなー」
生徒が揃ったのを見て、最初に発せられた、担任の先生からの言葉。
…種目は同じでも、体育の授業は普通、男女別々で行うのが通例だ…ったと思う。
が、疑問を感じても、俺はその異常さを指摘する気にはなれなかった。
…こんな美味しい状況、自ら手放す気は更々ない。
見回した視界の男子達も、気持ちは一緒だったらしく、目が合うたびに、皆、頷いていた。
授業も終わり、着替えも終わって次の授業を待つ、教室内。
火照った身体を休めるかのように、俺は隣の女子との会話を楽しんでいた。
「やっぱり男子、速いねー」
そう言って隣の席から声を掛けてくる、バスケットでチームだった女の子。
試合終了の彼女は、息も絶え絶えといった様子だった。
やはり男子に付いて来るのが大変だったのか、太股に手を掛け、前屈みになって、荒い息を吐き続ける。
両腕で挟まれ、汗を吸ったブラごと重力を受けて谷間がクッキリと見て取れ、呼吸に合わせて上下する上半身と連動して、卑猥に形を変える、柔らかそうな塊。
胸と股間以外、大半が晒された白い肌には、例外無く、全身に汗の粒が幾つも浮かんており、それが重力に従って、艶かしい彼女の体のラインを滴り落ちていく。
授業中、殆ど試合そっちのけで、彼女のその痴態とも言える様子を、余す所無く凝視し続けた。
試合中も、守備の時など、触れ合ったり、ぶつかったりしてしまう事は良くある事。
汗の臭いすら嗅げそうな間近で、相手のチームに混じった女子達と、攻守の駆け引きを行う。
偶然かわざとか、彼女達の着ているブラに、指を引っ掛けてしまい、危うくポロリをさせそうになったりも。
「水泳、凄かったらしいぞ」
「女子、下着姿で泳いだって?」
俺達以外でも、休み時間の教室では、それぞれの体育で起こった出来事の話題について持ちきりだった。
特に水泳は凄かったらしく、下着姿で泳ぎまくり、終盤にはポロリし放題で、眼福だったらしい。
「あー、ずっげえ柔らかかったわあいつの胸」
「触り放題だったなあ」
柔道では、男女共に下着姿で試合形式の対戦を行ったらしく、当事者の男子が興奮した面持ちでその様子を話していた。
男女共に下着姿の為、腕や肩、腋等を鷲掴んで何とか投げようと画策するが、持つ部分が頼り無く、結局強引に寝技に持ち込むしか無かったらしい。
お陰で、女子と密着して、彼女達の柔らかい肌や胸の膨らみを思う存分堪能したとか何とか。
微妙に柔道や水泳の面子に対する羨ましさも自覚しながら、俺は教室内で談笑している女子達に視線を移した。
彼女達も、男子の会話は聞いている、聞こえている筈。
だが、ハプニングと言える事態の話しに対しては、顔を赤くしたりはするが、それ以外の事に付いては、特に咎める様な事はしない。
むしろ、何を当たり前の事を話しているのかという態度で、殆ど意識はしていなかった。
(…普通の授業、普通の格好のつもりだったんかなあ)
だから、話している事も普通の当然起こり得る事態…とでも思っているみたいだ。
そんな予測を経てつつ…ふと、彼女達の服飾に、違和感を覚える。
傍目、至って普通の制服姿。
暑さを凌ぐ為か、若干短めのスカートに、夏服の薄手のブラウス。
そのブラウスに薄っすらと透ける筈のブラジャーの存在が見当たらず、変わりに、学年の最年長である事を誇示する様な、胸部の隆起。
そして、その先端部を強調するかの様な皺を形作る、白いブラウス。
(…浮いてね?)
有り体に言ってしまえば、乳首がブラウスに浮いていた。
それはもう、クッキリと。
「ちょっと、何? 人の胸ばっかりジロジロ見て」
視界外から聞こえた言葉に振り向くと、何人かの女子が、男子の一人に難癖を付けていた。
その男子はと言うと、指摘された事実が本当らしく、ペコペコと謝ってはいる…が、顔はニヤつき、視線は女子の顔を見遣りつつも、何処か落ち着かない。
(つーか…女子、皆ブラしてなくね?)
怒っている女の子も、取り巻きの子も、注視してみれば皆、普段透けている筈のブラが見えない。
辺りを見渡すと、既に何人もの男子が気付いていたらしく、その視線が、例外無く近くの女子の胸に集中していた。
怒られていた奴も、そんな一人なのだろう。
俺自身もグルリと確認してみたが、視界にいる女子達皆、傍目例外無く、ブラウスの下にある筈の服飾が見当たらない。
「…なあ」
「ん、何?」
「何でそんな格好してんの?」
先程話した、隣の席に座っていた女子に、問い掛ける。
彼女も、よく見てみれば、周りの女子達と同じ様に、ブラの存在が確認できなかった。
薄っすらと、ブラウスに当たった胸の先端が、僅かな皺となってその存在を主張している。
対して、問われた彼女は、意味が分からなかったらしく、「どう言う意味?」と、難しい顔だ。
…暫く躊躇した後、ストレートに聞かんと始まらんと覚悟を決め、俺は言葉を発した。
「…何で、ブラしてないの?」
「え? 体育終わったんだから、当たり前でしょ。着ていた体操服とかちゃんと脱いで、制服着ないと」
「…つまり、体育の時着ていた…下着を脱いで、制服を着た訳?」
当たり前じゃないと、胸を逸らしながら俺を窘めた彼女の胸元で、二つの突起がその色合いすら透ける程に、存在を主張する。
目の前で浮かび上がったクラスメイトの乳首を、俺は思わず、食い入る様に凝視した。
(すげ…つーか下着っていう事は、下も…ぱんつも履いて、無い?)
…こんな事態を引き起こした何処かの神様に感謝しながら、俺は教室中の男子達と同じく、周りに佇むクラスの女子達を、その日一日中視姦し続けた。
「お、おはよう」
「…おはよ」
朝の登校時間。
遅刻を防ぐ為に足早に廊下を歩いていた僕は、丁度トイレの前で、中から出てきたクラスメイトの女子…入学して数ヶ月、密かに好意を寄せている女の子と鉢合わせした。
社交辞令的に挨拶を述べた僕に対し、目の前の彼女は、何処と無く不機嫌そうな、言葉少ない対応。
トイレから出た所という、余り人に会いたくない状況故もあるんだろうけど、それとはまた違う、警戒感がありありと見える表情に、僕は若干顔をひくつかせた。
(…昨日のアレだろうなあ)
何故か、下着姿の先輩達や同級生が、大量に校内をうろついていた。
一言で言えば、そんな事が昨日起こったのだが、その時は僕や、恐らく学校中の生徒の皆、その事をまったく異常に思う事が無かった。
それをおかしいと思ったのは、僕の場合、家に帰宅した瞬間。
それまで頭に何かが居座っていた様な感覚から開放され、その日の異常さを再認識したのだ。
当然、オカズだった。
多分僕と同じ様に、目の前の彼女も、そう言った事を認識したんだろう。
と言うより、多分全校生徒が、僕と同じ様に、帰宅したぐらいで確認したんじゃないだろうか。
登校中にすれ違った女子等、例外無く憂鬱そうにしていた辺りから、僕はそんな察しをつけていた。
(その辺りからの警戒感…かなあ?)
目の前の彼女自身は、昨日の騒動には直接関与してはいない。
僕のクラスは昨日は体育が無かった為、クラスの女子達が下着姿になる事が無かった為だ。
変わりに、僕を含め男子は皆、廊下を闊歩する下着姿の女子達の痴態を憚る事無く眺めていたけど。
多分目の前の彼女もそれを覚えているのだろう。何処と無く侮蔑している様な視線を投げかけられ、微妙に凹む。
(昨日は別に何も言ってこなかったのに…)
一重に、正気に戻ったが故だろう。
まあ、自身の身にも降り掛かるかもしれなかったし、ひょっとすれば、今日もこれからまた似た様な事が起こるのかもしれない。異性を警戒するのも当然か。
会合は一瞬で、軽く会釈した彼女は、そのまま僕の脇を通り過ぎて、教室に向かう。
その後姿を見遣りつつも、パタパタと動く、細身ながらも綺麗な彼女の足に目を惹かれ、視線を落とす僕。
(…?)
そこにあったモノに、一瞬何だろうという疑問を浮かべ…次の瞬間思い至った答えに、僕は信じられないといった感情を抱きながら、咄嗟に彼女を呼び止めた。
「あの!」
「…?」
「あの、それ…何?」
後ろから投げ掛けられた、僕の要領を得ない問い掛けに、振り返った目の前の彼女は首を傾げ、疑問符を浮かべている。
それを受けて、改めて確認するかの様に、彼女の足元を指差す僕。
つられて落とした視線の先、左の足首に、何か布切れのような物が引っ掛かっていた。
それを一秒ほど見た後、顔を挙げて、僕に言葉を発する彼女。
「何って、パンツだけど?」
どうかしたの? と、純粋に何を言っているのか分からないと言った風な様子に、僕は軽いパニックに陥った。
―――何で、下着を足首に引っ掛けて歩いているのか。
思わず「何でぱんつがっ!?」と叫びたかったが、直接的に言うのは、セクハラ的な意味でちょっと憚られる。
果たしてその物品を注視していいものかどうかと、微妙に視線をさ迷わせながら、何故、足に引っ掛かっているのかと、僕は言葉を濁しながらも彼女に問うた。
「何でって…トイレでおしっこした時に、邪魔だったから脱いだんだけど。何か変?」
「いや…履かないの?」
「え、何で?」
小首を傾げる彼女。ちょっと可愛い。
微妙にずれた感想を抱く自分に心の中でツッコミを入れながらも、僕はその回答に一瞬呆然とし…そして、ある確信を抱いた。
(…これって、昨日みたいな状態に、彼女もなってる?)
恐らく、間違い無いだろう。
昨日の様な異常事態。それが、クラスメイトである目の前の彼女に起こっている。
「…いや、うん、何でも無いよ」
「?…早く教室来ないと遅刻確定だよ」
一転して微妙にニヤニヤしだした、僕の曖昧な答えを訝しみながらも、彼女はもう話す事は無いとばかりに僕の脇を通り過ぎ…二歩程歩いて、立ち止まった。
僕の指摘で、その存在を意識させてしまったのだろうか。視線を落とすと、足元のそれ…先程まで履いていたであろう、自分自身のぱんつを、幾分か気にしている。
「邪魔…」
そう呟くと、もう片方の足で引っ掛かっていたぱんつを無造作に踏み付けると、足を抜き取る彼女。
そのまま、隅の方へと踏み付けていたぱんつを軽く蹴り飛ばすと、何事も無かったかの様に、教室へと戻っていった。
彼女の姿が見えなくなってから、廊下にポツンと落ちていたそれを拾い、広げてみる。
長く履かれているのか、少しくたびれた白地の布に、幾つかの紋様をあしらっただけの質素な下着。
朝方、家で催しでもしたのだろうか、それとも長年使っている故の汚れなのか、中心と言える部分の布地に、僅かに染みた薄い黄ばみ。
ドロリとした興奮と奇妙な高揚感に体が昂ぶるのを自覚し、僕はそのぱんつを、自分のポケットへと仕舞いこんだ。
チャイムが鳴り出し、急かされる様に、僕も教室へと駆ける。
その途中で、廊下の片隅に転がる布着れのような物を一つ見つけ…僕は今日の学校生活に、大きな期待と興奮を抱いた。
ここ二日程、学校全体を対象にした実験を行っている。
内容自体は、特に真新しい事はしておらず、今までの実験で行った事の焼き直しだ。
一日目は、『着替えについて、一部分の常識や決まり事を忘れてもらう』
二日目の今日は、『下着についての感慨を忘れてもらう』
主題はこれだけである。
前者は体育で着替える時の常識。制服を脱いで『体育で使う服を着る』、の一連の流れの一部分を忘れてもらった。
なので、昨日体育のあったクラスでは、生徒達は皆制服を脱いで、そこで着替えを終わってしまい、そのまま授業へと赴いてしまったらしい。
その日は男女共に下着だけで運動に励んだり、休み時間中、学校中で下着姿の生徒達が闊歩する愉快な事態となっていた。
加えて微妙に、男女一緒にを意識する様、皆々の感慨に手を加えたりもした。
お陰で体育のあったクラスでは、男女が中々刺激的なスキンシップに励んでいたらしい。
また、面白いのが、僕の力を使った故の矛盾から生じた、彼等の自発的にとった行動だった。
僕の力で、体操服を着ていないので、授業が終わってから着替える時には、着替えの為脱ぐべき体操服等が無い。
―――何か脱いで制服に着替えるべきのに、脱ぐべき体操服は…?
その辺りのおかしさを解消する為、その時着ていた下着を脱ぐ事で、心の中の帳尻を合わせてしまったらしい。
お陰で、対象となった生徒は皆、ノーブラノーパンで、授業後を過ごしていたという事だ。
家に帰り付いて、僕の力が溶けた女の子達等は、さぞかし顔を赤くして悶絶した事だろう。
後者である今日の実験では、単純に、ぱんつの事をどうでも良く思ってしまっているだけ。
なので、普通に生活している分には一見、何も変化はない。
しかし、ぱんつに対して何かしら思考が及んだときは、その限りではない。
例えば、トイレ。
トイレに行けば、用を足す為に邪魔なぱんつを意識する為、必ず脱いで下ろし…そこでぱんつをどうこうする必要性が無くなる為、ぱんつの事はどうでもよくなり、半ば忘れてしまう。
よって、トイレに赴いた後…膝辺りにぱんつをずり下ろしたままの女子達が、大量発生している。
中には歩く時に邪魔だったのか、片足を抜いたり、ぱんつ自体をその辺に捨てている女子も、結構居たらしい。
学校で生活していれば、一日の間にトイレを使わない生徒は、まず居ない。
恐らく放課後には、この学校の女子は例外無く、ぱんつを人前に晒し尽くし、ノーパンとなっているだろう。
トイレに限定しなくても、ぱんつやブラを疎ましいとさえ思えば、所構わず自発的に脱いでしまう。
事実、廊下を抵当にうろついていたら、女子の一人が何か思い至った様に、ブラウスの中に両手を入れる瞬間を目の当たりにした。
多分、締め付けが気になったのか、ホックを外したのだろう。ごそごそと背中を弄くった後、つかえが取れたという感じで、ホッとした表情を作ると、そのまま歩き去っていった。
無論、形が崩れ、不自然な様子のブラと、はみ出た乳房を制服に浮かび上がらせて、だ。
そんな状態の為、昨日から僕のクラスの男子達は、可愛いと評判の他クラスの子や、下級生、上級生を見に行ったり等もしている。
が、その男子達はそれはそれで楽しいが、何処か物足りない、といった様子であった。
その原因…教室を見渡し、僕はその理由を改めて感じ入る。
パッと見、明らかに疎らな生徒の数。
無論、男子達が学校内に繰り出しているのが理由ではない。
女子、全員欠席中。
言うまでも無く原因は、先日の大毛剃大会である。
女子のほぼ全員、半泣きだった。
自ら性器を晒し、あろう事か陰毛の処理を男子に頼み込み、恥ずかしい所を惜しげも無く披露してしまったのだ。
一部、男女の中が深まったクラスメイトも居るらしいが、大半にとっては心の傷である。
男子と顔を合わせたくない。
また恥ずかしい目に遭ってしまうかもしれない。
暫く学校に行かなければ、騒動も無くなるかもしれない。
理由としては、こんな所であろうか。
連絡の取れる男子からの断片情報でも、大体その辺りらしい。
昨日から学校中を対象にして実験をしているのも、彼女達がストライキ宜しく、登校拒否に走ってくれたからという側面もある。
ほっといてもその内来るだろうと楽観的に思っていたのだが、二日経ってもそんな様子は見られない。
流石にこれは深刻だと、休み時間中は男子連中も顔を付き合わせているが、解決策が出る訳も無く、途方に暮れていた。
むしろそんな相談は建前で、何時の間にか先日の女子達の秘部の様子の談義へと話が膨らんでいる事が多い。
そもそも、昨今の不思議な現象は彼等にとってはただの棚からぼた餅、関知し得ない事柄なのである。
状況に身を任せるしか、彼等には方策が無いのだ。
根本である僕自身が力を使う事を止める考えは、無い。
こんな楽しい状況を自分から放棄するなんて、有り得ない。
(皆等しく被害を被っているのだから、みたいな考えで、通ってくれないかな)
ここ二日程、実験を兼ねて男女問わず全校生徒に及ぶ力の行使を行って、そんな考えの土壌を作ってみてるが、難しそうである。
むしろ、学校で常にそんな事態が起こっていると知って、余計に登校しない意思を固めてしまうかもしれない。
いざとなれば、ほとぼりが冷めるまで控える事もやむを得ないかなと思いながら、僕は昼休みの茹だるような暑さに身を委ねた。
「すいません。川越志乃…さんの席って、何処でしょうか?」
ここ二日全く聞かなかった教室内での女性の声に、僕は何だろうとその声の発生源を見遣る。
見ると、教室の後ろの扉から、小柄な少女が顔を覗かせていた。
制服の細かな装飾の違いから察するに、どうやら所謂後輩の女の子らしい。
珍しい下級生の女子の訪問に、色めき立つクラスの男子。
その雰囲気を後押しされるかの様に、一見紳士の皮を被った佐野が丁寧に応対している。ニヤつく顔を何とかしろよと突っ込んでやりたい。
漏れ聞こえる話から察するに、何でも、休んでいる彼女と友達らしく、家が近いついでにお使いを頼まれたらしい。
(…やっぱり、よっぽど堪えたのかな)
先日盛大に引っ叩かれ、未だに痛みを湛えている気がする頬を擦りながら、涙目で空き教室を後にした川越さんを思い出す僕。
目は怒りに満ちていたが、それまでの自分の痴態を自覚してしまった所為か、体は強張り、縮こまり、そして僅かに震えていた。
普段の勝気な態度とはまったく違う、しおらしい雰囲気。そのギャップに、僕はかなりの興奮と劣情を催した。
(女の子って感じだったなあ)
そんな、この場に居ないクライメイトの事を思い起こしながら、何処と無く、ぎこちない様子の目の前の少女を眺める。
恐らく、男子ばかりの教室の異様さに面食らっているのだろう。
オズオズとしながらも、教えられた川越さんの席に辿りつくと、目的の物品を求めて、引出しの中を漁っている。
が、教室中の男子は、そんな彼女の一挙一動ではなく、もっと限定的な部分…彼女のスカートの裾へと着目していた。
(…この子も、今履いて無いんだ)
学校に一日中居て、トイレを使わない生徒はまず居ない。
既に昼を越えている時間帯。この下級生も、十中八九、既に学校のトイレに赴いており…スカートの下は、恐らく、何も身につけていないのだろう。
その証拠に、スカートの裾から、ずり下ろしてそのままなのであろう、淡い水色のストライプが入ったらしき下着が覗いており、周りの男子達の劣情を煽っていた。
…何となく、力を使って、彼女のスカートの中を直接確かめてみたい衝動に駆られる僕。
が、流石に今、学校全体で起こっている僕の力以上の物事を、この場で個人に、特定の条件の力を使うのは、少し憚られる。
(自発的に動いたら、バレちゃうだろうし)
佐野辺りが上手い事踊ってくれれば良いのだが、流石に他力本願過ぎるだろう。
が、その辺りを推敲する思考を止める理由は無く、どんな風にすればと思いを巡らす が、流石に一人でクラス中の男子の好奇の目に晒させるのは忍びない と思い、取り敢えずテクテクと動き回る彼女を眺め続ける事にする。
「…?」
一瞬こちらを見て、微笑んだ様な 気がしたが気の所為 かな。
まあ良いかと、ノートらしきものを手にし、足早く教室を後にする女の子を横目に見遣りながら、僕はこれからの実験をどうしていくか、その妄想に浸った。
「先輩」
翌日。
朝見た天気予報が言うには、今日は今年一番の暑さらしく、まだ涼しい筈の登校中でも、流れ出る汗が絶えない。
その鬱陶しさに、いっそ服を着る事の意義を忘れてもらって皆で裸になるか等と、靴箱前でスリッパに履き変えながら、今日の実験の内容を吟味していた僕に、凛とした女の子の声が投げ掛けられた。
その声に振り向くと、一人の少女。
何処かで見た子だと記憶を辿り…昨日教室に来た下級生の女の子だと、思い至る。
「えっと、昨日の」
「はい、昨日のです」
僕の曖昧な問いの内容を察したのか、合わせるかの様に、簡潔に答えを返してくる彼女。
短めに切り揃えられた髪を湛えた、小さな頭。
下級生故か、単純な性徴の遅さ故が、何処と無く必要以上に幼さを感じる肢体。
中々可愛い子だなあと、不謹慎な事を考える僕を知ってか知らずか、微笑んでくる。
どうやら、何か頼み事があるらしく、「ちょっとお願いがあるんですが」と、オズオズと問い掛けてきた。
何かな?と相槌を打ちながら、果たして、接点の全く無い僕に何の用だろうと、思考を巡らせる僕。
(…昨日何か川越さんの机から取ってってたから、返却を頼むとか?)
「ああ、別に先輩に何かお使いを頼む訳じゃ無いです」
まるで考えを見透かされた様な言葉に、ちょっと驚く。
その僕の様子が面白かったのか、朗らかな笑みを浮かべる彼女。
憮然とした僕に謝意を示しながら、次いで、「あの…」と前置きし、言葉を発した。
「騒動起こすの、止めてもらえませんか?」