原稿を書き上げて久しぶりにまとまった休みのとれた私は、唐突に温泉に入りたくなり、その日のうちに
家を飛び出し列車に乗った。
……。
その温泉宿には、可愛らしいふたりの娘がいた。十五歳と十二歳くらいの少女で、細い身体に小さく整
った顔立ちをしていて、よく気がつき働く子たちだった。私は五日ほどその宿に逗留するつもりだったが、
このふたりのおかげでひとりで過ごす寂しさは感じずに済みそうだと思い、宿選びに成功したことを喜んだ。
……。
温泉宿について三日目。夜のだいぶ遅い時間に、露天風呂へと私は向かった。
しかしそこには意外にも先客がいた。心の中で舌打ちをした。風呂を独り占めして満喫するつもりだった
のに、と。だからといってここでわざわざ戻るのも癪だったし、相手も気にするだろう。私は気にせぬように
して、湯船に近づいていった。
何歩か歩を進めたところで、ぎくりとして立ち止まった。
湯船にいるふたりもこちらを見ている。
それはここで働いているあの娘たちだった。
丸裸だった私はすぐさま股間を隠し、彼女たちに背を向けた。
「すまないっ、まさか君たちだとは」
……。
「長谷川さま、一緒に入りませんか?」
年長なほうの少女が、そう言ってきた。
「え、いや、でも……」
「せっかくいらしたんですもの。戻るのも手間でしょう」
「それはそうだけれど……いやダメだ、まずいよ」
「なぜです? いけない理由でもありますか?」
「だって、君たちは女の子だし、もう子供とは言えない年齢だ」
「長谷川さまが男で、だから私たちとの間に間違いがあっては困る、と?」
「そういうことだね」
「ふふ。たしかにそんなことになったら大変です。けれど……長谷川さまは女と見れば誰彼構わず襲い
かかるような方なのですか? 私にはそうは思えないのですが」
「ばっ、馬鹿にしないでくれ。私には確かな理性がある」
「そうでしょう? でしたら平気ではありませんか」
「いや、しかし……」
「それとも、私たちの理性をお疑いですか?」
「君たちの……? ──あっ、いや! ……何を言うんだ、君は。私はそこまで自惚れてはいないよ。
そんなことは考えてもいない」
「あら。そうなのですか? 長谷川さまは、その……少々無防備なのですね」
「どういうことだい、からかっているのか?」
「お気を悪くさせてしまったのでしたら、すみません。私には長谷川さまは十分に魅力的な方に見えて
おりましたので──。けれども私たちにも理性はありますから、男と見れば誰彼構わず……ということは
いたしません。ですから、さあ」
「……………」
「そこにいては風邪を引いてしまいますわ。どうぞこちらへ」
誘いを断って部屋に戻るのが一番正しい選択だというのはわかっていた。けれど、正直に言えば美し
い少女たちとの混浴という状況にも心惹かれていた。彼女たちが良いと言っているのだから、一緒に入
ることくらい問題はないのだ。
問題は自分の感じているやましさと、身体に生じているひとつの現象だった。
「……ひとつ、問題があるんだ」
「なんでしょう?」
「わ……私は今、勃起しているんだよ」
「えっ」
背後からは絶句する気配が伝わってきた。ふたりはどんな表情を浮かべているのだろう。嫌悪感を浮
かべた目で私を見ているのだろうか。
強烈な後悔の念がわき上がってくる。やはり何も言わずに去るべきだった。
すまない、と言って脱衣所へ向けて足を踏み出そうとした時、
「ふふっ、うふふっ」
背後から彼女の笑い声が聞こえてきた。もうひとりの少女も、小さな声で笑っている。
かあっ、と顔が熱くなった。
「すみません、ふふっ……そうだったのですね。嬉しいですわ」
「な、なにが嬉しいんだ」
「だって、私たちでそうなってしまったのでしょう? それはとっても嬉しいことですわ。女として認めて
いただけたということではありませんか」
「……嫌じゃないのかい? 私は君たちに欲情してしまっているんだよ」
「ええ、それが嬉しいのですわ。若く魅力的な女性が、長谷川さまと一夜を共にしたいと望んでいると
言ったら、長谷川さまはどう思われますか?」
「それは……まあ、喜ぶだろうね」
「それと同じですわ。その、それが大きくなるということは、相手に対してそう言っているのと同じこと
ですもの」
「いやしかしっ、だからそれが、君たちに迷惑ではないかと……」
「長谷川さまには理性がお有りになるのですよね?」
「う、む……それなりに、ある」
「でしたら、平気ではありませんか」
「……そうだね、わかった。今から、そちらを向く」
胸を張り、意を決して私は彼女たちのほうへと身体を向けた。
先ほどから脳裏に焼き付いていた彼女たちの裸体が、変わらずそこにあった。少女らしい、華奢で
ありながら女性特有の丸みを帯び始めている、綺麗な身体だった。肌は瑞々しく輝いていて、その肢
体が目の奥に飛び込んできた時、私は一瞬くらっとしてしまった。
ふたりは微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
その視線が、膨らみのわからぬように両手とタオルで巧妙に隠した股間へと時折ちらちらと向けら
れることに、私は気付かぬふりをして湯船へと向かった。
湯船に入る時タオルを外そうか外すまいかと悩んだが、タオルを湯船に漬けるのはマナー違反で
あるし、彼女たちもこの現象を許容しているのだから、ええい構うものか、と私はいちもつをさらけ出
してやった。
ふたり分の視線が一気に股間に集まった。
真正面にいる年下のほうの少女は、凝視、といっていいほどに上半身を少し乗り出してまじまじと
見つめていた。年上のほうの少女は微笑みを崩さずにさりげなく、されどしっかりと私の股間を視界
の中心に捉えていた。
自慢出来るほどの大きさではない、平均的なものであったが、それほどまでに熱心に見られてい
るとなると何だか誇らしい気分になってくる。どうせ水面下にあるのではっきりとはわからないだろう
が、私は股間に力を入れて一回り大きくして見せつけてやった。
「……あ、あらやだ、すみません。はしたないことを」
年上のほうの少女が恥ずかしそうに笑いながらそう言った。ちゃぷ、と音を立てて年下のほうの少
女も岩壁に背を預ける姿勢に戻った。心なしか二人とも先ほどより顔が赤い。
年下のほうの少女はともかく、年上のほうの少女のその反応は意外だった。
「あまり見慣れていないのかい」
いくぶんか余裕が生まれてきた私は、そう訊いてみた。
「ええ。仕事の時に何度か見たことはあったのですけれど……はっきりと見たのは、これが初めて
です。こんなことを思うのははしたないことかも知れませんけど……とっても不思議な形をしているの
ですね、見ていてどきどきしてしまいます」
確かに。自分では見慣れてしまっているが、純粋に物体として見れば、ただの棒というには少々
特殊な形状をしているかも知れない。人体から生えていると考えれば尚更か。
「そうかい、参考になったのなら嬉しいよ。ああ、しかしいい湯加減だ」
私は肩まで浸かるため、足の先をずるずると湯船の中に伸ばしていった。
股間をさらにさらけだすような格好になって、ふたりの視線がまたそこに集まる。初めて見たのな
ら仕方ないことだろう、と思ってそれは気にしないことにする。
「ふたりはいつから入っていたんだい。この湯加減ではあまり長居すると湯あたりしてしまうんじゃ
ないかい?」
「いえ、大丈夫です。まだしばらく入っていようかと思いますわ」
「あまり無理してはいけないよ。私には気を遣わなくて良いからね」
「ええ。ここのお風呂は好きで、毎日入っていますもの。加減は心得ておりますわ。長谷川さまこ
そ、気持ちよいからと長湯し過ぎませぬように」
そんなふうにゆったりと話をして湯に浸かっているうちに、性的な興奮は治まっていき、気付けば
いつの間にかいちもつは小さくなって湯の中でゆらゆらと揺れていた。ふたりもその頃にはもう私の
股間を意識しなくなっていた。
ふたりが出て行ったあと、私は星空を見上げながらふたりの裸身を思い出した。
ひとりきりになって遠慮する必要がなくなったいちもつが、脳裏のその映像に反応してまたむくむ
くと大きくなっていく。その感覚が、先ほどふたりにじっくり見られた時のことを思い出させて、よりい
っそう強張りは確かなものとなっていった。
「いい身体だった……」
年上のほうの少女は、あと二、三年もすれば身体つきも完全に女のものとなって、さすがに私も
我慢できないほどの美人になるだろう。年下のほうの少女は背丈の割に胸がずいぶんと大きくな
っていて、大人になればさぞ豊満な乳房になるに違いないと思われた。
どちらも、いい女になる。
もちろん今の身体だって十分に魅力的だ。思わず身体が反応してしまうくらいに。
来年もまたここに来よう、と私は誓った。
END