やっとじめじめした暑さも落ちつき、心地いい風が家の中を通る。
少し早めにお昼ご飯の支度を終え、庭の手入れをしている祖母を呼ぼうかと思ったその時に
玄関の戸がガラガラと開く音が聞こえる。
「たっだいまー!」
「あんた人の家に来たときにはお邪魔しますでしょ。」
家にはいってくるなり、さっそくツッコミをいれなきゃいけないこの男は私の幼馴染みだ。
親同士が仲がよく、幼い頃からの付き合いだが
数年前私と弟がこの古いが大きくて落ち着いた祖母の家に越してきてからも毎週のように遊びに来ている。
「いらっしゃい。チヒロちゃん。」
庭から戻ってきた祖母がタオルで顔を拭きながら声を掛ける。
「はい。これ前ばーちゃんが食べたいって言ってた店の豆大福!」
「あらー、嬉しい。覚えててくれたの?」
毎回持参するお菓子を祖母に手渡し
満足げに笑う幼馴染みを横目に見ながらお茶を入れる。
チラリと時計を見ると、弟のサッカーの迎えは今から出れば丁度いい時間だ。
「環ちゃんもう行く?」
「うん。そろそろ出る。
おばあちゃんお昼台所にあるから先に食べててね。」
「ありがとうね。気をつけていってらっしゃい。」
優しい笑顔で送り出してくれる祖母の分のお茶を出し、カバンを手に玄関に向かう。
すると自分の分のお茶を入れようとしていたらしい彼が慌てた様子で立ち上がる。
「ちょっと待てよ!もう出んの?」
「今日は早めに終わるのよ。」
「だったら俺も一緒に行くー。」
そんなことを言いながら靴を履く彼のつむじを眺める。
相変わらず柔らかそうな髪ね。なんて考えていると、いつものように「ん。」と目の前に右手が差し出される。
寂しがりやな彼は手を繋ぐのがとても好きなのだ。
私はしょうがないわね。と笑いながらもその温かくて自分よりもすこしだけ大きな手をとる。
「「いってきまーす!」」
いまだ強い日差しに目が眩んだけれど手を引かれて歩き出す。
あぁ今日も騒がしい日曜日になりそうだわ。と一番騒がしい人物の感触を左手に感じながらも、
笑っている顔を見られるのが恥ずかしくて、
「チヒロ、歩くの遅い。」と彼の前を歩いてしまう私なのであった。