「……何であんなことしたのさ」
色々と片付けた後、晶は俺にそう言った。
ベッドに座る晶に対し、俺は床に正座をしている。裁判でも受けている気分になる。
「……その、晶が寝ている姿を見てたら、《何やってもいい》って言葉を思い出して……」
「襲いたくなった、と」
「……」
思い返せば単純な話だ。欲望に負けた男が女に手を出した。ただそれだけ。
……もちろん、それが許されることだとは思わない。自分は最低な人間だ。
「輝がこんなことするとは思わなかったよ」
「……すまん」
一時の気の迷いとは言え、大事な幼なじみの信頼を裏切ったのだから。それも最悪の形で。
気まずい沈黙が流れる。晶は何かを考えているようだった。
さて、俺にはどういう審判が下されるのだろうか。
考え得る最悪の罰は……絶交を宣告されることだが。
「……一つ聞きたいんだけど」
しばらく経ってから、ポツリと晶が言葉をこぼす。
「その、もしも寝てたのが私じゃなかったら、輝はどうしてた?」
「ど、どうしてたって……」
質問の意味がわからない。そもそもそんなシチュエーションになるはずもない。
「そ、その、例えば、いいんちょが相手だったりしたら……とか」
「……何で木崎が出てくる?」
「だ、だって委員会で一緒だし、いいんちょは可愛いから」
目を反らしながらボソボソと呟く。むくれたような顔つきは、先ほどとは違う赤に染まっている。
同じクラスの委員長である彼女とは一緒にいることが少なくない。なぜなら俺は副委員長だからだ。
確かに彼女は有能だし、人として魅力的でもある。俺自身、彼女には何度も助けられている。
だがしかし、それは友人としての話だ。俺は特に彼女を異性として意識してはいない。
……あぁ、晶が言いたいことはわかった。
要するに、「女なら誰でもよかったのか」を問うている。
それなら答えは簡単だ。
「……何とも思ってない奴に、手を出したりはしない」
そう、晶が相手だったから。俺はこいつの魅力に抗し切れずに、あんな真似をしたのだ。
それだけは、偽らざる事実である。信じるかどうかは晶次第だが。
「……そ、そうか」
適当な相づちを打ち、晶は再び黙り込んだ。
俺から言うことは、もう何もない。あとは晶が決めることだ。
再び生じた沈黙の時間、俺は晶の決定をじっと待つのみだった。
「……うん、決めた。輝」
ずいぶん長い間黙っていた気がする。それを破ったのは晶だった。
「あぁ、何だ」
どうやら俺の処遇を決めたらしい。俺はそれに従うべく返事をする。
「そこに立って、目を瞑れ」
「……?」
よくわからないが、指示に従う。何をするつもりだ?
「……よし」
気合いを入れるような掛け声のあと、何やらごそごそと動く音がする。
こういうとき、何も見えないのはけっこう怖い。ぼやぼやしてると後ろからバッサリだったり。
そうやって悶々としていると、ふと正面に晶の気配を感じた。
そのまま俺の腰の辺りに触れ……
「……って、あ、晶!?」
想定外の事態に思わず目を開ける。
視線を下に向けると、晶が俺のズボンを脱がしにかかっていた。
「ちょ、晶、止めろ!」
思わず大声を上げる。すると晶は睨むようにこちらを見上げ、
「こ、これは罰だ。私がされたことと同じことを、私が輝にする」
そう言い放ち、再び行動を開始する。
「ば、バカなこと言うな!」
「バカなもんか!お、お前が悪いんだぞ!」
俺の必死の抵抗もむなしく、ズボンは一気に引き下ろされる。
続けてトランクスにまで手をかけるものだから、俺は必死の思いで晶の腕を掴んだ。
「こ、こら、離せ」
「離せるかバカ!お前何してるかわかってるのか?」
「……だから輝と同じことをやる。拒否権はないからな」
……目には目を、と言うことらしい。確かに晶は負けず嫌いの一面はあるが、しかしこれは。
「ま、待て!そういうのは好き合ってる男女がやることで……」
「輝は私にしたじゃないか」
「そ、それは……」
当然だが、俺は晶の言い分に反論できなかった。
同じことを俺はこいつにしたのは、間違えようのない事実である。
「とりあえず、腕から手を離せ」
据わった目付きの晶に言われ、俺は仕方なく手を離した。
同じことをする、と晶は言った。それはつまり俺のを色々と弄るということで。
晶の考えがよくわからない。なぜ対抗意識が芽生えるのか、意味不明だ。
……しかし、これからされることに、何となく期待をしている自分がいた。
ついにトランクスも脱がされ、俺のモノが外気に晒された。
「う、わ……」
晶が息を飲むのが聞こえる。
実に情けない話ではあるが、俺はこれからのことをつい想像してしまい、
「な、何で大きくしてるんだバカ!」
俺のそれは今、硬く隆起し、上向いていた。
「いや、その。これから晶がすることを考えたら、つい」
シチュエーションはともかく、好きな女が自分のを触るというのだ。
普通、興奮せずにはいられない。
「へ、ヘンタイめ!」
そう俺に罵声を浴びせかけ、晶は俺のモノをじっくりと観察する。
俺が晶の秘所の変化に驚いたのと同じく、こいつも俺の昔との違いに慌てているのだろう。
興味津々と言った風情で、色々な角度から何回も眺めてきた。
「そ、それじゃやるぞ……」
しばらく観察した後、いよいよ晶が俺のモノに手を伸ばす。
そろそろと近付けられた手、晶の細い指が、硬くなったそれを掴む。
それもかなり力強く。
「ぐぁっ!?」
力加減を盛大に間違えられたため、激痛に襲われる。何となく予想はしてたが。
「ぇ、あっ、ご、ごめん!」
慌てて晶が手を離す。握られた部分がちょっとだけ痛みを訴える。
「い、いや、いいんだ。俺が悪いんだからさ」
今の俺は晶に何をされても文句は言えない。そもそも俺を罰するのが目的なのだから。
「そ、それは……、そう、なんだけど」
何やら微妙に意気消沈した様子の晶。まるで自分が失敗してしまったかのような。
「晶の好きなようにやればいい。お前の気が晴れるまで、痛めつけられても構わない」
俺としてはフォロー……というか、当たり前のことを言ったつもりだ。
晶の考えはよくわからない。
けど、これで晶の気が少しでも晴れるというなら、どんなことをされたって、
「そ、それじゃダメなんだ!」
突然大声を出され、俺の思考が中断される。
自分の声にはっとした晶は、打って変わって顔を伏せ、ボソボソと呟くように、
「そ、その……、輝には、ちゃんと気持ち良くなってもらわないと、こ、困るんだ……」
などと言った。
……意味がわからない。何で俺が気持ち良くなる必要がある?
晶は俺に怒っていて、これはそのことに対する罰で、俺は晶にひどいことをして……。
晶の言葉に混乱している俺に対し、こいつは言葉を続けた。
「だ、だって、私だけ気持ちいいのは、ずるいじゃないか……!」
顔を真っ赤にしてそんなことを言うが、俺にはますます理解できない。
「……っ!もういい、勝手にやるからな!」
顔中に疑問符を浮かべていた俺に対し、晶は怒ったふうに再び俺のに手を添えた。
先ほどよりも優しく手で包み、
「こ、こうだっけ……?」
ゆっくりと、上下に扱き始めた。
「うぁ……っ」
初めてなのだろう。
おそるおそるといったふうなその手の動きは、正直言って稚拙である。
いや、ここでいきなりAV女優みたいな技術を発揮されても困るが、問題はそこではない。
「こう、か?……あ、何かピクピクしてる」
あの晶が。
クラスの男子に「身体は大人、頭脳は子供」と揶揄される晶が。いつまでも子供っぽいと思っていた晶が。
……俺の大事な幼なじみの、晶が。
俺のモノを、一生懸命扱いている。
それだけで、俺はもう限界に上り詰めそうになった。
「あ、あきら……、や、やっぱりやめ……!」
息が荒くなる。それはますます硬さを増し、今にも出してしまいそう。
「やだ。これは罰なんだからな」
やがて、晶の手の動きに緩急が生じてきた。何となくテクニックみたいなものを掴んだらしい。
(こ、これはまずい……)
このままだと本当に出してしまう。しかもこの位置だと、晶の顔に……。
「ふぅ、それにしても、何かカメの頭みたいな形だな」
そんな俺の焦りもどこ吹く風といった様子の晶。何だかズレた感想を洩らし……ふと、手の動きを止めた。
「……あ、晶?」
今にも達してしまいそうな場面で寸止めされたことに、
深い安堵感とちょっとした名残惜しさを感じつつ、
とまった手の持ち主の様子を伺う。
晶はじっと俺のモノを見つめている。
そのままの姿勢でしばらくじっとしていたと思うと、
「……ぺろっ」
いきなり舐めた。
「ばっ、っつあ……っ!」
完全な不意打ちに、もはや俺の我慢も限界だった。
「ん?ひゃ、あっ!?」
俺の分身から放たれた白濁液が、すぐそばにあった晶の顔を汚していく。
先ほど晶の身体を弄っていたときの興奮が残っていたからか、
射精はそれからかなり長く続いた。
「……ぁ、はぁ、はぁ……?」
そのまま射精後の脱力感にしばらく身を任せていた。
それから意識がはっきりしてくると、しだいに周りも見えてきた。
そこで俺の目に映ったのは、
「はぁ……、あ、晶!?」
「……うぇ」
白いドロドロした汁――まぁつまり俺の精液なんだが――塗れの顔をした晶が、
今にも泣きそうに顔を歪めている姿だった。
「ひ、ひかるのばかぁ!何するんだよ、いきなり!?」
「わかった、わかったからとりあえず落ち着け、動くな!」
怒り心頭といった晶をなだめつつ、その顔を拭いてやる。
半分は自業自得だろうとは思うが、そんなことを言えば晶の怒りは倍加するから、とりあえず黙っておく。言わぬが花というやつだ。
「うぇぇ、苦い……」
「の、飲んだのかよ……」
晶の何気ない(と本人は思っている)一言にドキリとする。
一瞬、こいつが俺のをくわえているイメージまで浮かんでくるから重症だ。
そういった動揺を何とか隠そうと思っていると、何やら晶が感慨深そうに、
「でもこれって……その、輝も気持ち良かった、ってことだよな?」
などと言う。
「……まぁ、な」
冷静を装うのは、晶の言うことが図星だからである。
それでも、認めるのは何となく悔しい。よって、軽く流すことにする。
「そっか、よかった……」
そんな俺の心情を知ってか知らずか、晶が安心したような声でつぶやく。
そのままお互い黙り込む。
俺は晶の身体を弄った。晶は俺の息子を扱いた。
これでおあいこ。これ以上、何かが起こることもないだろう。
これは言わば、一夜限りの過ちだ。今ならば、まだ何とか引き返せる。
このまま片付けを済ませ、晶を家に帰しさえすれば。
また明日からは、いつもの俺たち、幼なじみの関係に戻れるはずだ。
「……よし、終わり」
晶の顔の汚れをすべて拭き取り、俺はそう告げた。
そう、やりすぎた悪戯はここで終わり。明日に備えて早く寝ないとな。
「さ、そろそろ帰れよ。今日はもう家で寝ろ」
ごく自然に見えるよう立ち上がり、晶に帰宅を促す。
「……」
「……晶?」
しかし、晶は動こうとしなかった。
その場に座りこんだまま、何かを考えている様子だ。
「おい、晶。早く立てって」
「……輝」
しばらく間があってから、ふいに晶は意を決したように顔をあげる。
こちらをじっと見つめてくる真剣な表情に、俺は動揺してしまう。
思わず後退りしそうになる中、とうとう晶が口を開く。
「……続き、しよ?」
その台詞は、俺をまたもや仰天させるのに十分な重みを伴っていた。
「おま、自分が何言ってるかわかってるのか!?」
この続きをする。つまり俺と晶が一つになることであり。
それはもはや、幼なじみの範疇を超えた、立派な男女の営みである。
「ダメ、なのか?」
「当たり前だ!」
「何でさ!?」
そう、当たり前だ。それはさすがにいけないことだ。
それでも晶は引き下がらない。立ち上がり、噛み付くような勢いで迫ってくる。
「な、何で、って……」
すぐ傍に晶の顔がある。その迫力に圧されつつも、必死に言葉を選ぶ。
「そ、そりゃ悪戯とか罰とかの範囲を超えてるだろうが!
さすがに幼なじみ同士がやることじゃないだろ!?」
……思ったことがそのまま口から出てきた。
いやいや落ち着け自分。ちゃんとゆっくり諭してやれ。
「……あー、だから、そういうのは然るべき相手を見付けて、その上で……」
「然るべき相手って?」
人が話してるときに聞くな、ただでさえ平静を欠いているのに。
「……そりゃ、好きな相手に決まってるだろうが」
ごく当たり前のことを告げる。
少なくともお前は、俺のことをそういう目では……
「……幼なじみが好きな相手だった場合はどうするのさ」
「まぁその場合はだな……って、なんだと?」
思わず聞き返す。今のは幻聴か?
「……何さ、その反応は」
「え、いや、だって、お前は俺のこと、単なる幼なじみとしか……」
宿題を写させろと言う晶。遊ぼうといきなりタックルをしてくる晶。
いつまでも子供っぽく、昔と変わらず接する晶。
その中に俺を異性として意識したような行動が、
果たしてどれだけあっただろうか。
「そ、それは輝も一緒じゃないか!
ずっと『晶は幼なじみだ』って言い張って!」
俺の言葉に、晶が真っ赤になって反論する。
確かに、俺は晶の幼なじみであり続けた。
そこからの一線を、決して踏み越えようとはしなかった。
自分の思いに封をして、何もないように過ごしていた。
顔を赤くしたまま、なぜか泣きそうになりながら、晶が叫ぶ。
「わ、わたしだって!」
……晶も、一緒だったのか?俺と同じで、本当の気持ちは。
「わ、わたしだって、好きでもない相手に、あんなことしないからな!」
……俺を、単なる幼なじみ以上に、思っていてくれたのか?
「ひ、ひかる、苦しい……!」
気付いたら、晶を抱き締めていた。それも力強く。
「あ、す、スマン」
謝って、少し力を抜く。しかし腕からは解放しない。
腕の中の晶は華奢で。それでも昔よりは女の子らしくなって。
そして何より、愛しかった。
肩を抱いて、晶の顔を真正面に見据える。
「ひ、ひかる……」
涙に潤んだ瞳が俺を見つめていた。
晶が俺に伝えてくれた大切な気持ち、俺はそれに応える義務がある。
一度深呼吸をする。心を落ち着け、思いを形に変えていく。
「晶、ありがとう」
伝えたい思いが、自然と言葉になる。
「俺も晶が好きだ。誰よりも大切に思っている」
何と情けないのだろう。
きっかけは俺の悪戯だった。次は晶の罰。
そして晶は、俺に好意を告げてくれた。
それからようやく俺の告白。順番がメチャクチャだ。
「……最初に、それを言ってよな」
晶の拗ねたような返事。
しかしその表情からは、嬉しそうな雰囲気が溢れていた。
長年の思いがようやく通じた、そんな気持ちが顔に出ている。
そのまま抱きつかれ、顔を胸に埋めた姿勢で、
「輝のバカ!ずっと待ってたんだからなっ!」
本当に嬉しそうに、思いのたけをぶつけてきた。
「ほ、本当にやるのか……?」
正直、ちょっと戸惑っている。今からすること、その意味に。
「いやダメだ、今やるんだ」
そんな俺の言葉は、目の前の少女に一蹴されてしまう。
俺と晶は、生まれたままの姿になっていた。
おまけにベッドの上で、寝転がった晶に俺が覆いかぶさるような姿勢だ。
そんな体勢からすることは、一つしかない。
「し、しかし、何も焦る必要はないだろ?」
確かに思いは通じ合った。俺と晶は幼なじみから恋人になったのだ。
だからと言っていきなり行為に及ぶのは、ちょっと急ぎすぎじゃなかろうか。
「いいじゃないか、今までが長い付き合いなんだから」
そんな俺の意見もまったく意に介さない晶に、ちょっとした疑問を抱く。
「なぁ晶、何か理由でもあるのか?そこまで急いでさ」
「え、ぅあ、そ、それは……」
疑問をぶつけると、なぜかいきなり言葉に詰まる晶。
そんなに困らせること言った覚えはなかったが、しかし晶の答えは予想外だった。
俺から目を逸らし、しばらくもごもごと口を動かしてから、
「……が、我慢できないんだもん……」
などと恥ずかしそうに言うのだから。
「い、言っとくが、別に私はヘンタイじゃないぞ!?
た、ただ、色々されたりしたりで、気分が高ぶっちゃってだな……!」
慌てて弁解する姿は、しかし赤い顔によって可愛さを倍加する効果しかなかったし、
「あ、晶、お前可愛すぎ……」
何というか、俺の理性を吹き飛ばすのには十分だった。
「そ、それじゃやるぞ」
「ぅ、うん」
晶の中への入り口に、自分のモノをあてがう。
晶の準備はできていて(い、インランじゃない!と主張する晶もまた可愛かった)、
俺のほうも、避妊具もつけて問題はなかった。
「ひ、輝もそういうの持ってるんだな……」
「クラスのやつが渡してきたんだよ」
冗談のつもりだったのだろうが、まさか本当に使うことになるとは。
閑話休題。
「痛かったら、ちゃんと言うんだぞ」
「わ、わかった。けど、輝も我慢するなよ」
お互いが緊張しているのがよくわかる。
電気は消しているから細かい表情は見えないが、たぶん両方とも顔は真っ赤だろう。
「そ、それじゃ、いくからな」
宣言し、ゆっくりと腰を沈める。
初めて男を受け入れた晶の中は狭く、そして熱かった。
「ぁ、ぐ……ぅ」
苦しそうな晶の声。すぐに動きをとめ、様子をうかがう。
「あ、晶、やっぱり無理しないほうが……」
「だ、だいじょぶ、だから、つ、つづけて」
そういう晶の顔はまさに痛みを我慢しているようで、俺は躊躇してしまう。
「ひ、ひかる、はやく、ぅ……」
「で、でも、晶」
促され、しかしそれでも先に進めない。
「わ、わたしは、ひかると一つになりたいから……」
そんな俺に、晶はニコリと笑いかけてきた。
苦しそうな、それでも本当に嬉しそうな顔で、
「ひかるを、もっと、かんじたい……」
痛みを堪えて、そう言ってくれた。
「あ、晶っ……!」
そこまで言われて、もう俺も我慢しなかった。
自分の気持ちを乗せて、一気に腰を沈める。
きつい締め付けを無理矢理押し退け、そのまま膜を貫通する。
「ぅあっ、ぐ、ぃ……!」
晶の表情が、苦痛に歪む。
破瓜の痛みは相当なものだろう。変わってやれたらどんなにいいか。
「す、スマン!大丈夫か!?」
「く、ぅ……ちょ、ちょっとだけ、待って……」
やはり一気にやるのはまずかっただろうか。
ゆっくり時間をかけるのも大変だと思ったのだが……。
痛みを耐えている晶の背中を優しく擦る。
あまり意味はないだろうが、それでも何かしてやりたかった。
「……やっと、一つになれたな」
小さな声で、晶がつぶやく。
「あぁ。ごめんな、痛くして」
「うぅん、いいんだ。この痛みは、輝を受け入れたってことだから」
謝る俺に対して首を振って、
「ずっと待ってた。こんな日が来ることを、輝と一つになる日を……」
暗闇になれた目が、晶の表情を映し出す。
まだちょっと痛そうで、無理していないとは思えなかったけれど、
「ありがとう輝。本当に、本当に嬉しい」
それでも晶が浮かべていたのは、言葉通りの、
誰をも幸せにしてしまいそうな笑顔だった。
しばらく休憩してから、晶が「もう動いてもいい」と言った。
俺はそれに応え、ゆっくりと腰を動かす。
「ぅ、ぐ、ぁっ……んぅ……!」
俺が動く度に、晶の苦しそうな声がする。すぐに動きが止まりそうになるが、
「い、いいから、つづけて……!」
という言葉に従う。
しばらくはそのペースで続けた。なるべく晶が痛みを感じないように。
「ふ、ぁっ!ん、ぅ……ひぁ、あ、んっ……!」
やがて、晶の声が色を帯びたものに変化してきた。
それに合わせて、俺の動きも激しくなっていく。
「ひゃぁっ!お、おっぱい、いやっ、ひ、ぁ、ふぁっ!」
腰を打ち付けながら、晶の胸を揉みしだく。乳首をつまみ、扱いてやる。
「は、ぁんっ、ひぁっ、ふぁっ、はぁっ……!」
先程弄ったときとはまた違う激しい反応に、興奮はさらに高まる。
「ぁ、はぁっ!ひ、ひか、るぅ、ふぁ、ひ、ひかる……、ひ、ぁっ……!」
「あ、あきらっ!う、ぁ、あきらぁっ!」
俺たちにはもう理性なんかなかった。互いが互いを求めあい、どんどん高みに登りつめる。
「ふぁっ!ひ、ひかるっ、わ、わたし、もぉ……っ!」
「あ、あきら、だすぞっ!」
絶頂を迎える瞬間、俺と晶は手を握りあった。
しっかりと、決して離れぬように。
「ぁ、ぁ、あっ!〜〜〜っ!!」
「う、あ、ぁっ!」
瞬間、晶の身体が大きく仰け反る。
俺は晶の腰を抱え、そのままゴムの中に己の精を吐き出す。
そのまま絶頂の余韻に身を任せ、俺と晶は微睡みの中に沈んでいった……。
目を覚ます。
空は未だ暗く、夜が深いことを伝えてくれた。
時計を見ようと身体を横に向け、
「……あ」
自分の隣に、幼なじみが裸で寝ていることに気が付いた。
「いや、俺も裸か」
思わず苦笑する。子供時代でもこんなことはなかった気がする。
夢ではなかった。俺と晶は確かに一つにつながったのだ。
そのことが嬉しくて、つい表情が弛んでしまう。
傍らに眠る幼なじみの寝顔は、いつも以上に幸せそうで。
愛しい相手の頬を優しく撫でつつ、小さな声で囁いてみる。
「これからもよろしくな、晶」
幼なじみとして。それ以上に恋人として。
明日からも頑張ろうと、再び眠ろうと目を閉じて。
……明日?
そういえば、明日は始業式だったような……。
「って、しまったぁ!起きやがれ晶ぁ!」
慌てて飛び起き、隣で眠る幼なじみを叩き起こす。
「ふにゃ……、な、何だよいきなり……まだねむい……」
寝起きも可愛らしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。
自分たちは、いや正確には晶が、致命的なミスを犯していた。
「このバカ、宿題がまだ終わってないだろうが!」
「…………あ」
そう、すっかり忘れていたが、明日は始業式である。
そもそも晶がここにきたのも、俺に宿題を手伝わせるためだ。
それなのに、それを忘れて情事に耽ってしまったのは、まったくの誤算だった。
「先にしたのは輝じゃないか」
「う、うるさい!とにかくやるぞ!」
「えぇ、今からぁ!?」
壁に目をやる。時計の針は、午前3時過ぎを示していた。
「まだ間に合う、徹夜で仕上げるぞ!」
「えぇぇぇぇーっ!?」
灯りをつけ、テーブルに向かう。
甘い時間はあっと言う間に過ぎ去って、迎えたのはいつにない大ピンチ。
だがまぁおそらく問題はない。
思いが通じた二人に怖れるものなどないだろうし、
「ほら、ちゃんと問題やれ!さっさとしないと明日に間に合わないぞ!」
「うぅ、あんなこと言わなけりゃよかった……」
とりあえず、晶の分の宿題は、ちゃんと本人にさせてやれるみたいだし、な。
始業式が終われば、次はホームルームの時間となる。
二学期は学校行事がいくつかあり、
今日はそれについての話し合いを行うことになっていた。
担任の先生に名前を呼ばれ、教壇に立つ。
「では、今日のホームルームを始めます。」
委員長の私は進行役だ。いつものように議題を告げる。
「今日話し合うのは、体育大会での各競技のメンバー、
それから合唱コンクールの曲決め、あとは文化祭の……?」
途中まで言って、黒板に書き込む音がしないことに気が付いた。
書記は副委員長の仕事だ。私は自分の補佐役の様子を伺う。
ある程度予想はしてたが、やはり彼はボーッとしていた。
心ここにあらず、といったところか。
彼とはこの2年間ずっと同じクラスだから、このような経験は何度かあった。
始業式の日はほぼ必ずこんな調子で、何だか意識がおぼろげなのだ。
(始業式の前日に、夜更かしでもしてるのかしら?)
とは言え、普段の仕事は完璧だ。前日まで課題をため込むタイプとも思えない。
まぁいい。とりあえず仕事をしてもらおう。
色々な疑念は横において、小さな声で彼に呼び掛ける。
「斎藤くん、板書お願い」
「え……、あっ、すまん木崎」
私の言葉で引き戻されたのだろうか、慌てた様子で議題を黒板に書き留めていく。
「それでは、まず最初に体育大会について話し合います。
体育委員、前に出てきてください」
気を取り直し、ホームルームを再開させる。
男子の体育委員はすぐに前に出てきた。しかし、
「女子の体育委員、出てきてください。……神崎さん?」
もう一人の体育委員、神崎さんの返事がない。
普段なら、
「はいはーい!いいんちょ、元気かー?」
なんて、物凄く元気のいい返事をしてくれるのだけど。
神崎さんの席を見る。
いつも元気なはずの彼女が、今日はなぜか机に突っ伏していた。
「神崎さん?大丈夫」
「おい晶、起きろ」
斎藤くんが神崎さんの席まで行き、彼女の肩を叩く。
神崎さんと斎藤くんは仲がいい。聞くところによると、幼なじみなのだとか。
……幼なじみ。
窓際のある席に目を向ける。
あいつも他のみんなと同じく、神崎さんの様子を自分の席から伺っている。
去年ならきっと、どこ吹く風といった感じで外でも見てたに違いない。
ちょっとは進歩したのかなと、喜ばしくも寂しい気持ちになる。
「ほら晶、起きろよ。体育委員の仕事だぞ」
「……ふぁ……、あ、ひかる、おはよー」
「おはよー、じゃない。ほら立てよ。体育大会の話だから」
そんなことを考えている間に、斎藤くんが神崎さんを起こしたみたいだ。
ふらつきながらも立ち上がる神崎さん。眠そうな彼女というのも珍しい。
「ふぁー、あ、そうだ。ひかるー?」
「何だよ……ってこら、首にぶら下がるな!」
うまく立てないのか、神崎さんが斎藤さんにしなだれかかる。
相変わらず仲がいい。この二人は猫とその飼い主みたいな雰囲気がある。
クラスの雰囲気も、この二人を見守るときはとても和やかだ。
だから、その次の瞬間、
「ひかるー、おはよー」
斎藤くんにもたれかかった神崎さんが、
「それはさっき聞いた……んぅ!?」
そのまま彼にキスしたときの、
「なっ……」
『ええぇぇぇーっ!』
クラスにはしった動揺は相当のものだった。
「えへー、おはよーのキスだぞぉ」
「こ、バカっ、こんなところで……!」
寝呆けている神崎さん。動揺する斎藤くん。
「み、みんな静かに!落ち着いて!?」
クラスのざわめきを止めようとする私は、二人がちょっと羨ましかったり。
なぜって、今の二人とも、
「あは、顔真っ赤だぁ」
「あ、たり前だっ!……ふ、不意打ちが初めてとか……」
とっても、幸せそうだったから。