「……何であんなことしたのさ」  
色々と片付けた後、晶は俺にそう言った。  
ベッドに座る晶に対し、俺は床に正座をしている。裁判でも受けている気分になる。  
「……その、晶が寝ている姿を見てたら、《何やってもいい》って言葉を思い出して……」  
「襲いたくなった、と」  
「……」  
思い返せば単純な話だ。欲望に負けた男が女に手を出した。ただそれだけ。  
……もちろん、それが許されることだとは思わない。自分は最低な人間だ。  
「輝がこんなことするとは思わなかったよ」  
「……すまん」  
一時の気の迷いとは言え、大事な幼なじみの信頼を裏切ったのだから。それも最悪の形で。  
気まずい沈黙が流れる。晶は何かを考えているようだった。  
さて、俺にはどういう審判が下されるのだろうか。  
考え得る最悪の罰は……絶交を宣告されることだが。  
 
「……一つ聞きたいんだけど」  
しばらく経ってから、ポツリと晶が言葉をこぼす。  
「その、もしも寝てたのが私じゃなかったら、輝はどうしてた?」  
「ど、どうしてたって……」  
質問の意味がわからない。そもそもそんなシチュエーションになるはずもない。  
「そ、その、例えば、いいんちょが相手だったりしたら……とか」  
「……何で木崎が出てくる?」  
「だ、だって委員会で一緒だし、いいんちょは可愛いから」  
目を反らしながらボソボソと呟く。むくれたような顔つきは、先ほどとは違う赤に染まっている。  
同じクラスの委員長である彼女とは一緒にいることが少なくない。なぜなら俺は副委員長だからだ。  
確かに彼女は有能だし、人として魅力的でもある。俺自身、彼女には何度も助けられている。  
だがしかし、それは友人としての話だ。俺は特に彼女を異性として意識してはいない。  
……あぁ、晶が言いたいことはわかった。  
要するに、「女なら誰でもよかったのか」を問うている。  
それなら答えは簡単だ。  
「……何とも思ってない奴に、手を出したりはしない」  
そう、晶が相手だったから。俺はこいつの魅力に抗し切れずに、あんな真似をしたのだ。  
それだけは、偽らざる事実である。信じるかどうかは晶次第だが。  
「……そ、そうか」  
適当な相づちを打ち、晶は再び黙り込んだ。  
俺から言うことは、もう何もない。あとは晶が決めることだ。  
再び生じた沈黙の時間、俺は晶の決定をじっと待つのみだった。  
 
「……うん、決めた。輝」  
ずいぶん長い間黙っていた気がする。それを破ったのは晶だった。  
「あぁ、何だ」  
どうやら俺の処遇を決めたらしい。俺はそれに従うべく返事をする。  
「そこに立って、目を瞑れ」  
「……?」  
よくわからないが、指示に従う。何をするつもりだ?  
「……よし」  
気合いを入れるような掛け声のあと、何やらごそごそと動く音がする。  
こういうとき、何も見えないのはけっこう怖い。ぼやぼやしてると後ろからバッサリだったり。  
そうやって悶々としていると、ふと正面に晶の気配を感じた。  
そのまま俺の腰の辺りに触れ……  
「……って、あ、晶!?」  
想定外の事態に思わず目を開ける。  
視線を下に向けると、晶が俺のズボンを脱がしにかかっていた。  
「ちょ、晶、止めろ!」  
思わず大声を上げる。すると晶は睨むようにこちらを見上げ、  
「こ、これは罰だ。私がされたことと同じことを、私が輝にする」  
そう言い放ち、再び行動を開始する。  
「ば、バカなこと言うな!」  
「バカなもんか!お、お前が悪いんだぞ!」  
俺の必死の抵抗もむなしく、ズボンは一気に引き下ろされる。  
続けてトランクスにまで手をかけるものだから、俺は必死の思いで晶の腕を掴んだ。  
「こ、こら、離せ」  
「離せるかバカ!お前何してるかわかってるのか?」  
「……だから輝と同じことをやる。拒否権はないからな」  
……目には目を、と言うことらしい。確かに晶は負けず嫌いの一面はあるが、しかしこれは。  
「ま、待て!そういうのは好き合ってる男女がやることで……」  
「輝は私にしたじゃないか」  
「そ、それは……」  
当然だが、俺は晶の言い分に反論できなかった。  
同じことを俺はこいつにしたのは、間違えようのない事実である。  
「とりあえず、腕から手を離せ」  
据わった目付きの晶に言われ、俺は仕方なく手を離した。  
同じことをする、と晶は言った。それはつまり俺のを色々と弄るということで。  
晶の考えがよくわからない。なぜ対抗意識が芽生えるのか、意味不明だ。  
……しかし、これからされることに、何となく期待をしている自分がいた。  
 
ついにトランクスも脱がされ、俺のモノが外気に晒された。  
「う、わ……」  
晶が息を飲むのが聞こえる。  
実に情けない話ではあるが、俺はこれからのことをつい想像してしまい、  
「な、何で大きくしてるんだバカ!」  
俺のそれは今、硬く隆起し、上向いていた。  
「いや、その。これから晶がすることを考えたら、つい」  
シチュエーションはともかく、好きな女が自分のを触るというのだ。  
普通、興奮せずにはいられない。  
「へ、ヘンタイめ!」  
そう俺に罵声を浴びせかけ、晶は俺のモノをじっくりと観察する。  
俺が晶の秘所の変化に驚いたのと同じく、こいつも俺の昔との違いに慌てているのだろう。  
興味津々と言った風情で、色々な角度から何回も眺めてきた。  
「そ、それじゃやるぞ……」  
しばらく観察した後、いよいよ晶が俺のモノに手を伸ばす。  
そろそろと近付けられた手、晶の細い指が、硬くなったそれを掴む。  
それもかなり力強く。  
「ぐぁっ!?」  
力加減を盛大に間違えられたため、激痛に襲われる。何となく予想はしてたが。  
「ぇ、あっ、ご、ごめん!」  
慌てて晶が手を離す。握られた部分がちょっとだけ痛みを訴える。  
「い、いや、いいんだ。俺が悪いんだからさ」  
今の俺は晶に何をされても文句は言えない。そもそも俺を罰するのが目的なのだから。  
「そ、それは……、そう、なんだけど」  
何やら微妙に意気消沈した様子の晶。まるで自分が失敗してしまったかのような。  
「晶の好きなようにやればいい。お前の気が晴れるまで、痛めつけられても構わない」  
俺としてはフォロー……というか、当たり前のことを言ったつもりだ。  
晶の考えはよくわからない。  
けど、これで晶の気が少しでも晴れるというなら、どんなことをされたって、  
「そ、それじゃダメなんだ!」  
突然大声を出され、俺の思考が中断される。  
自分の声にはっとした晶は、打って変わって顔を伏せ、ボソボソと呟くように、  
「そ、その……、輝には、ちゃんと気持ち良くなってもらわないと、こ、困るんだ……」  
などと言った。  
……意味がわからない。何で俺が気持ち良くなる必要がある?  
晶は俺に怒っていて、これはそのことに対する罰で、俺は晶にひどいことをして……。  
 
晶の言葉に混乱している俺に対し、こいつは言葉を続けた。  
「だ、だって、私だけ気持ちいいのは、ずるいじゃないか……!」  
顔を真っ赤にしてそんなことを言うが、俺にはますます理解できない。  
「……っ!もういい、勝手にやるからな!」  
 
顔中に疑問符を浮かべていた俺に対し、晶は怒ったふうに再び俺のに手を添えた。  
先ほどよりも優しく手で包み、  
「こ、こうだっけ……?」  
ゆっくりと、上下に扱き始めた。  
「うぁ……っ」  
初めてなのだろう。  
おそるおそるといったふうなその手の動きは、正直言って稚拙である。  
いや、ここでいきなりAV女優みたいな技術を発揮されても困るが、問題はそこではない。  
「こう、か?……あ、何かピクピクしてる」  
あの晶が。  
クラスの男子に「身体は大人、頭脳は子供」と揶揄される晶が。いつまでも子供っぽいと思っていた晶が。  
……俺の大事な幼なじみの、晶が。  
俺のモノを、一生懸命扱いている。  
それだけで、俺はもう限界に上り詰めそうになった。  
「あ、あきら……、や、やっぱりやめ……!」  
息が荒くなる。それはますます硬さを増し、今にも出してしまいそう。  
「やだ。これは罰なんだからな」  
やがて、晶の手の動きに緩急が生じてきた。何となくテクニックみたいなものを掴んだらしい。  
(こ、これはまずい……)  
このままだと本当に出してしまう。しかもこの位置だと、晶の顔に……。  
「ふぅ、それにしても、何かカメの頭みたいな形だな」  
そんな俺の焦りもどこ吹く風といった様子の晶。何だかズレた感想を洩らし……ふと、手の動きを止めた。  
「……あ、晶?」  
今にも達してしまいそうな場面で寸止めされたことに、  
深い安堵感とちょっとした名残惜しさを感じつつ、  
とまった手の持ち主の様子を伺う。  
晶はじっと俺のモノを見つめている。  
そのままの姿勢でしばらくじっとしていたと思うと、  
「……ぺろっ」  
いきなり舐めた。  
「ばっ、っつあ……っ!」  
完全な不意打ちに、もはや俺の我慢も限界だった。  
「ん?ひゃ、あっ!?」  
俺の分身から放たれた白濁液が、すぐそばにあった晶の顔を汚していく。  
先ほど晶の身体を弄っていたときの興奮が残っていたからか、  
射精はそれからかなり長く続いた。  
「……ぁ、はぁ、はぁ……?」  
そのまま射精後の脱力感にしばらく身を任せていた。  
それから意識がはっきりしてくると、しだいに周りも見えてきた。  
そこで俺の目に映ったのは、  
「はぁ……、あ、晶!?」  
「……うぇ」  
白いドロドロした汁――まぁつまり俺の精液なんだが――塗れの顔をした晶が、  
今にも泣きそうに顔を歪めている姿だった。  
 
「ひ、ひかるのばかぁ!何するんだよ、いきなり!?」  
「わかった、わかったからとりあえず落ち着け、動くな!」  
怒り心頭といった晶をなだめつつ、その顔を拭いてやる。  
半分は自業自得だろうとは思うが、そんなことを言えば晶の怒りは倍加するから、とりあえず黙っておく。言わぬが花というやつだ。  
「うぇぇ、苦い……」  
「の、飲んだのかよ……」  
晶の何気ない(と本人は思っている)一言にドキリとする。  
一瞬、こいつが俺のをくわえているイメージまで浮かんでくるから重症だ。  
そういった動揺を何とか隠そうと思っていると、何やら晶が感慨深そうに、  
「でもこれって……その、輝も気持ち良かった、ってことだよな?」  
などと言う。  
「……まぁ、な」  
冷静を装うのは、晶の言うことが図星だからである。  
それでも、認めるのは何となく悔しい。よって、軽く流すことにする。  
「そっか、よかった……」  
そんな俺の心情を知ってか知らずか、晶が安心したような声でつぶやく。  
そのままお互い黙り込む。  
俺は晶の身体を弄った。晶は俺の息子を扱いた。  
これでおあいこ。これ以上、何かが起こることもないだろう。  
これは言わば、一夜限りの過ちだ。今ならば、まだ何とか引き返せる。  
このまま片付けを済ませ、晶を家に帰しさえすれば。  
また明日からは、いつもの俺たち、幼なじみの関係に戻れるはずだ。  
 
「……よし、終わり」  
晶の顔の汚れをすべて拭き取り、俺はそう告げた。  
そう、やりすぎた悪戯はここで終わり。明日に備えて早く寝ないとな。  
「さ、そろそろ帰れよ。今日はもう家で寝ろ」  
ごく自然に見えるよう立ち上がり、晶に帰宅を促す。  
「……」  
「……晶?」  
しかし、晶は動こうとしなかった。  
その場に座りこんだまま、何かを考えている様子だ。  
「おい、晶。早く立てって」  
「……輝」  
しばらく間があってから、ふいに晶は意を決したように顔をあげる。  
こちらをじっと見つめてくる真剣な表情に、俺は動揺してしまう。  
思わず後退りしそうになる中、とうとう晶が口を開く。  
「……続き、しよ?」  
その台詞は、俺をまたもや仰天させるのに十分な重みを伴っていた。  
 
「おま、自分が何言ってるかわかってるのか!?」  
この続きをする。つまり俺と晶が一つになることであり。  
それはもはや、幼なじみの範疇を超えた、立派な男女の営みである。  
「ダメ、なのか?」  
「当たり前だ!」  
「何でさ!?」  
そう、当たり前だ。それはさすがにいけないことだ。  
それでも晶は引き下がらない。立ち上がり、噛み付くような勢いで迫ってくる。  
「な、何で、って……」  
すぐ傍に晶の顔がある。その迫力に圧されつつも、必死に言葉を選ぶ。  
「そ、そりゃ悪戯とか罰とかの範囲を超えてるだろうが!  
 さすがに幼なじみ同士がやることじゃないだろ!?」  
……思ったことがそのまま口から出てきた。  
いやいや落ち着け自分。ちゃんとゆっくり諭してやれ。  
「……あー、だから、そういうのは然るべき相手を見付けて、その上で……」  
「然るべき相手って?」  
人が話してるときに聞くな、ただでさえ平静を欠いているのに。  
「……そりゃ、好きな相手に決まってるだろうが」  
ごく当たり前のことを告げる。  
少なくともお前は、俺のことをそういう目では……  
「……幼なじみが好きな相手だった場合はどうするのさ」  
「まぁその場合はだな……って、なんだと?」  
思わず聞き返す。今のは幻聴か?  
「……何さ、その反応は」  
「え、いや、だって、お前は俺のこと、単なる幼なじみとしか……」  
宿題を写させろと言う晶。遊ぼうといきなりタックルをしてくる晶。  
いつまでも子供っぽく、昔と変わらず接する晶。  
その中に俺を異性として意識したような行動が、  
果たしてどれだけあっただろうか。  
「そ、それは輝も一緒じゃないか!  
 ずっと『晶は幼なじみだ』って言い張って!」  
俺の言葉に、晶が真っ赤になって反論する。  
確かに、俺は晶の幼なじみであり続けた。  
そこからの一線を、決して踏み越えようとはしなかった。  
自分の思いに封をして、何もないように過ごしていた。  
顔を赤くしたまま、なぜか泣きそうになりながら、晶が叫ぶ。  
「わ、わたしだって!」  
……晶も、一緒だったのか?俺と同じで、本当の気持ちは。  
「わ、わたしだって、好きでもない相手に、あんなことしないからな!」  
……俺を、単なる幼なじみ以上に、思っていてくれたのか?  
 
「ひ、ひかる、苦しい……!」  
気付いたら、晶を抱き締めていた。それも力強く。  
「あ、す、スマン」  
謝って、少し力を抜く。しかし腕からは解放しない。  
腕の中の晶は華奢で。それでも昔よりは女の子らしくなって。  
そして何より、愛しかった。  
肩を抱いて、晶の顔を真正面に見据える。  
「ひ、ひかる……」  
涙に潤んだ瞳が俺を見つめていた。  
晶が俺に伝えてくれた大切な気持ち、俺はそれに応える義務がある。  
一度深呼吸をする。心を落ち着け、思いを形に変えていく。  
 
「晶、ありがとう」  
伝えたい思いが、自然と言葉になる。  
「俺も晶が好きだ。誰よりも大切に思っている」  
何と情けないのだろう。  
きっかけは俺の悪戯だった。次は晶の罰。  
そして晶は、俺に好意を告げてくれた。  
それからようやく俺の告白。順番がメチャクチャだ。  
「……最初に、それを言ってよな」  
晶の拗ねたような返事。  
しかしその表情からは、嬉しそうな雰囲気が溢れていた。  
長年の思いがようやく通じた、そんな気持ちが顔に出ている。  
そのまま抱きつかれ、顔を胸に埋めた姿勢で、  
「輝のバカ!ずっと待ってたんだからなっ!」  
本当に嬉しそうに、思いのたけをぶつけてきた。  
 
「ほ、本当にやるのか……?」  
正直、ちょっと戸惑っている。今からすること、その意味に。  
「いやダメだ、今やるんだ」  
そんな俺の言葉は、目の前の少女に一蹴されてしまう。  
俺と晶は、生まれたままの姿になっていた。  
おまけにベッドの上で、寝転がった晶に俺が覆いかぶさるような姿勢だ。  
そんな体勢からすることは、一つしかない。  
「し、しかし、何も焦る必要はないだろ?」  
確かに思いは通じ合った。俺と晶は幼なじみから恋人になったのだ。  
だからと言っていきなり行為に及ぶのは、ちょっと急ぎすぎじゃなかろうか。  
「いいじゃないか、今までが長い付き合いなんだから」  
そんな俺の意見もまったく意に介さない晶に、ちょっとした疑問を抱く。  
「なぁ晶、何か理由でもあるのか?そこまで急いでさ」  
「え、ぅあ、そ、それは……」  
疑問をぶつけると、なぜかいきなり言葉に詰まる晶。  
そんなに困らせること言った覚えはなかったが、しかし晶の答えは予想外だった。  
俺から目を逸らし、しばらくもごもごと口を動かしてから、  
「……が、我慢できないんだもん……」  
などと恥ずかしそうに言うのだから。  
「い、言っとくが、別に私はヘンタイじゃないぞ!?  
 た、ただ、色々されたりしたりで、気分が高ぶっちゃってだな……!」  
慌てて弁解する姿は、しかし赤い顔によって可愛さを倍加する効果しかなかったし、  
「あ、晶、お前可愛すぎ……」  
何というか、俺の理性を吹き飛ばすのには十分だった。  
 
「そ、それじゃやるぞ」  
「ぅ、うん」  
晶の中への入り口に、自分のモノをあてがう。  
晶の準備はできていて(い、インランじゃない!と主張する晶もまた可愛かった)、  
俺のほうも、避妊具もつけて問題はなかった。  
「ひ、輝もそういうの持ってるんだな……」  
「クラスのやつが渡してきたんだよ」  
冗談のつもりだったのだろうが、まさか本当に使うことになるとは。  
閑話休題。  
「痛かったら、ちゃんと言うんだぞ」  
「わ、わかった。けど、輝も我慢するなよ」  
お互いが緊張しているのがよくわかる。  
電気は消しているから細かい表情は見えないが、たぶん両方とも顔は真っ赤だろう。  
 
「そ、それじゃ、いくからな」  
宣言し、ゆっくりと腰を沈める。  
初めて男を受け入れた晶の中は狭く、そして熱かった。  
「ぁ、ぐ……ぅ」  
苦しそうな晶の声。すぐに動きをとめ、様子をうかがう。  
「あ、晶、やっぱり無理しないほうが……」  
「だ、だいじょぶ、だから、つ、つづけて」  
そういう晶の顔はまさに痛みを我慢しているようで、俺は躊躇してしまう。  
「ひ、ひかる、はやく、ぅ……」  
「で、でも、晶」  
促され、しかしそれでも先に進めない。  
「わ、わたしは、ひかると一つになりたいから……」  
そんな俺に、晶はニコリと笑いかけてきた。  
苦しそうな、それでも本当に嬉しそうな顔で、  
「ひかるを、もっと、かんじたい……」  
痛みを堪えて、そう言ってくれた。  
「あ、晶っ……!」  
そこまで言われて、もう俺も我慢しなかった。  
自分の気持ちを乗せて、一気に腰を沈める。  
きつい締め付けを無理矢理押し退け、そのまま膜を貫通する。  
「ぅあっ、ぐ、ぃ……!」  
晶の表情が、苦痛に歪む。  
破瓜の痛みは相当なものだろう。変わってやれたらどんなにいいか。  
「す、スマン!大丈夫か!?」  
「く、ぅ……ちょ、ちょっとだけ、待って……」  
やはり一気にやるのはまずかっただろうか。  
ゆっくり時間をかけるのも大変だと思ったのだが……。  
痛みを耐えている晶の背中を優しく擦る。  
あまり意味はないだろうが、それでも何かしてやりたかった。  
「……やっと、一つになれたな」  
小さな声で、晶がつぶやく。  
「あぁ。ごめんな、痛くして」  
「うぅん、いいんだ。この痛みは、輝を受け入れたってことだから」  
謝る俺に対して首を振って、  
「ずっと待ってた。こんな日が来ることを、輝と一つになる日を……」  
暗闇になれた目が、晶の表情を映し出す。  
まだちょっと痛そうで、無理していないとは思えなかったけれど、  
「ありがとう輝。本当に、本当に嬉しい」  
それでも晶が浮かべていたのは、言葉通りの、  
誰をも幸せにしてしまいそうな笑顔だった。  
 
しばらく休憩してから、晶が「もう動いてもいい」と言った。  
俺はそれに応え、ゆっくりと腰を動かす。  
「ぅ、ぐ、ぁっ……んぅ……!」  
俺が動く度に、晶の苦しそうな声がする。すぐに動きが止まりそうになるが、  
「い、いいから、つづけて……!」  
という言葉に従う。  
しばらくはそのペースで続けた。なるべく晶が痛みを感じないように。  
「ふ、ぁっ!ん、ぅ……ひぁ、あ、んっ……!」  
やがて、晶の声が色を帯びたものに変化してきた。  
それに合わせて、俺の動きも激しくなっていく。  
「ひゃぁっ!お、おっぱい、いやっ、ひ、ぁ、ふぁっ!」  
腰を打ち付けながら、晶の胸を揉みしだく。乳首をつまみ、扱いてやる。  
「は、ぁんっ、ひぁっ、ふぁっ、はぁっ……!」  
先程弄ったときとはまた違う激しい反応に、興奮はさらに高まる。  
「ぁ、はぁっ!ひ、ひか、るぅ、ふぁ、ひ、ひかる……、ひ、ぁっ……!」  
「あ、あきらっ!う、ぁ、あきらぁっ!」  
俺たちにはもう理性なんかなかった。互いが互いを求めあい、どんどん高みに登りつめる。  
「ふぁっ!ひ、ひかるっ、わ、わたし、もぉ……っ!」  
「あ、あきら、だすぞっ!」  
絶頂を迎える瞬間、俺と晶は手を握りあった。  
しっかりと、決して離れぬように。  
「ぁ、ぁ、あっ!〜〜〜っ!!」  
「う、あ、ぁっ!」  
瞬間、晶の身体が大きく仰け反る。  
俺は晶の腰を抱え、そのままゴムの中に己の精を吐き出す。  
そのまま絶頂の余韻に身を任せ、俺と晶は微睡みの中に沈んでいった……。  
 
 
目を覚ます。  
空は未だ暗く、夜が深いことを伝えてくれた。  
時計を見ようと身体を横に向け、  
「……あ」  
自分の隣に、幼なじみが裸で寝ていることに気が付いた。  
「いや、俺も裸か」  
思わず苦笑する。子供時代でもこんなことはなかった気がする。  
夢ではなかった。俺と晶は確かに一つにつながったのだ。  
そのことが嬉しくて、つい表情が弛んでしまう。  
傍らに眠る幼なじみの寝顔は、いつも以上に幸せそうで。  
愛しい相手の頬を優しく撫でつつ、小さな声で囁いてみる。  
「これからもよろしくな、晶」  
幼なじみとして。それ以上に恋人として。  
明日からも頑張ろうと、再び眠ろうと目を閉じて。  
……明日?  
そういえば、明日は始業式だったような……。  
「って、しまったぁ!起きやがれ晶ぁ!」  
慌てて飛び起き、隣で眠る幼なじみを叩き起こす。  
「ふにゃ……、な、何だよいきなり……まだねむい……」  
寝起きも可愛らしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。  
自分たちは、いや正確には晶が、致命的なミスを犯していた。  
「このバカ、宿題がまだ終わってないだろうが!」  
「…………あ」  
 
そう、すっかり忘れていたが、明日は始業式である。  
そもそも晶がここにきたのも、俺に宿題を手伝わせるためだ。  
それなのに、それを忘れて情事に耽ってしまったのは、まったくの誤算だった。  
「先にしたのは輝じゃないか」  
「う、うるさい!とにかくやるぞ!」  
「えぇ、今からぁ!?」  
壁に目をやる。時計の針は、午前3時過ぎを示していた。  
「まだ間に合う、徹夜で仕上げるぞ!」  
「えぇぇぇぇーっ!?」  
灯りをつけ、テーブルに向かう。  
甘い時間はあっと言う間に過ぎ去って、迎えたのはいつにない大ピンチ。  
だがまぁおそらく問題はない。  
思いが通じた二人に怖れるものなどないだろうし、  
「ほら、ちゃんと問題やれ!さっさとしないと明日に間に合わないぞ!」  
「うぅ、あんなこと言わなけりゃよかった……」  
とりあえず、晶の分の宿題は、ちゃんと本人にさせてやれるみたいだし、な。  
 
 
 
始業式が終われば、次はホームルームの時間となる。  
二学期は学校行事がいくつかあり、  
今日はそれについての話し合いを行うことになっていた。  
担任の先生に名前を呼ばれ、教壇に立つ。  
「では、今日のホームルームを始めます。」  
委員長の私は進行役だ。いつものように議題を告げる。  
「今日話し合うのは、体育大会での各競技のメンバー、  
 それから合唱コンクールの曲決め、あとは文化祭の……?」  
途中まで言って、黒板に書き込む音がしないことに気が付いた。  
書記は副委員長の仕事だ。私は自分の補佐役の様子を伺う。  
ある程度予想はしてたが、やはり彼はボーッとしていた。  
心ここにあらず、といったところか。  
彼とはこの2年間ずっと同じクラスだから、このような経験は何度かあった。  
始業式の日はほぼ必ずこんな調子で、何だか意識がおぼろげなのだ。  
(始業式の前日に、夜更かしでもしてるのかしら?)  
とは言え、普段の仕事は完璧だ。前日まで課題をため込むタイプとも思えない。  
まぁいい。とりあえず仕事をしてもらおう。  
色々な疑念は横において、小さな声で彼に呼び掛ける。  
「斎藤くん、板書お願い」  
「え……、あっ、すまん木崎」  
私の言葉で引き戻されたのだろうか、慌てた様子で議題を黒板に書き留めていく。  
「それでは、まず最初に体育大会について話し合います。  
 体育委員、前に出てきてください」  
気を取り直し、ホームルームを再開させる。  
男子の体育委員はすぐに前に出てきた。しかし、  
「女子の体育委員、出てきてください。……神崎さん?」  
もう一人の体育委員、神崎さんの返事がない。  
普段なら、  
「はいはーい!いいんちょ、元気かー?」  
なんて、物凄く元気のいい返事をしてくれるのだけど。  
 
神崎さんの席を見る。  
いつも元気なはずの彼女が、今日はなぜか机に突っ伏していた。  
「神崎さん?大丈夫」  
「おい晶、起きろ」  
斎藤くんが神崎さんの席まで行き、彼女の肩を叩く。  
神崎さんと斎藤くんは仲がいい。聞くところによると、幼なじみなのだとか。  
……幼なじみ。  
窓際のある席に目を向ける。  
あいつも他のみんなと同じく、神崎さんの様子を自分の席から伺っている。  
去年ならきっと、どこ吹く風といった感じで外でも見てたに違いない。  
ちょっとは進歩したのかなと、喜ばしくも寂しい気持ちになる。  
「ほら晶、起きろよ。体育委員の仕事だぞ」  
「……ふぁ……、あ、ひかる、おはよー」  
「おはよー、じゃない。ほら立てよ。体育大会の話だから」  
そんなことを考えている間に、斎藤くんが神崎さんを起こしたみたいだ。  
ふらつきながらも立ち上がる神崎さん。眠そうな彼女というのも珍しい。  
「ふぁー、あ、そうだ。ひかるー?」  
「何だよ……ってこら、首にぶら下がるな!」  
うまく立てないのか、神崎さんが斎藤さんにしなだれかかる。  
相変わらず仲がいい。この二人は猫とその飼い主みたいな雰囲気がある。  
クラスの雰囲気も、この二人を見守るときはとても和やかだ。  
だから、その次の瞬間、  
「ひかるー、おはよー」  
斎藤くんにもたれかかった神崎さんが、  
「それはさっき聞いた……んぅ!?」  
そのまま彼にキスしたときの、  
「なっ……」  
『ええぇぇぇーっ!』  
クラスにはしった動揺は相当のものだった。  
 
「えへー、おはよーのキスだぞぉ」  
「こ、バカっ、こんなところで……!」  
寝呆けている神崎さん。動揺する斎藤くん。  
「み、みんな静かに!落ち着いて!?」  
クラスのざわめきを止めようとする私は、二人がちょっと羨ましかったり。  
なぜって、今の二人とも、  
「あは、顔真っ赤だぁ」  
「あ、たり前だっ!……ふ、不意打ちが初めてとか……」  
とっても、幸せそうだったから。  
 

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