「それでは、どうぞ」  
 
 サジムの横を通って、ぱたりとベッドに倒れるルク。  
 青い髪が広がり、大きな胸が一度揺れる。両手両足を微かに広げ、全身から力を抜  
いていた。ベッドに寝るのは苦手と言っていたが、短時間なら平気なのだろう。  
 
「何やってるの?」  
「こういうもノは男の人がリードするものらしいでス。ワタシもよく知りませんシ。どうぞ、  
本能の赴くままグワっと襲って下さイ。飢えた獣のようニ」  
 
 淡泊な表情のまま、妙な比喩を口にする。  
 
「そ、そうか?」  
 
 腑に落ちないものを感じながらも、サジムは両手を伸ばした。このような場面は生ま  
れて初めてだが、何かが色々と違うような気がする。  
 とりあえず、両手でルクの胸に触れる。サイズはかなり大きい。  
 柔らかな生地の手触りと、指を押し返す弾力。ゼリーかグミのようだった。人間とは違  
うだろう。指を押し込むと、その分押し返してくる。  
 
「どうでスカ? 私の胸の手触りハ?」  
 
 緑色の瞳を動かしながら、ルクが口を動かした。  
 返答に困って、サジムは視線を逸らす。ひどくズレたことをしている予感がしていた。  
場合によっては明日後悔するだろう。多分、手遅れだ。  
 むにむにと胸の形を変えながら、  
 
「普通かな? それより、ルクはどうだ?」  
「うぅん、なんか変な、感じでス」  
 
 少し詰まったような返事と、どこか困ったような表情。人間の女が感じた時のような反  
応である。演技ではないだろう。  
 
「気持ちいいのか?」  
 
 手の動きを止めて尋ねる。実のところ、ルクが性感を覚えるとは思えない。スライム  
に性感も何も無いだろう。今も半分以上ノリでやっているのだが――  
 ルクは居心地悪そうに肩を動かしながら、  
 
「えッと、ワタシ本を読んで気持ちよくナルように、自分で性感神経を作ってみましタ。で  
も、これ、気持ちイイんですカ……? 何だかワタシが思ってたのと違ウ……。スゴク身  
体がぞくぞくしまスヨ……?」  
「そう、か……」  
 
 サジムは頷いた。じっとりと背中に汗が滲む。口の中が乾き、喉の奥から焼け付くよ  
うな熱がこみ上げてきた。固くなる下腹部。我ながら現金なものである。  
 
「なら、好きにやらせてもらうけど、いいかい?」  
「ハイ。ご主人サマのために働くのが……ワタシの仕事ですから。ご自由に……どうぞ。  
もっと乱暴にしても大丈夫ですヨ。ワタシ、頑丈ですから――」  
 
 目蓋を少し下げて、ルクはぎこちなく微笑む。  
 
 何も言わずに、サジムは再び胸を弄り始めた。今までのように遠慮はせず、両手で  
やや乱暴に。両手の指を不規則に動かして、胸の形を変えていく。半液体の身体のた  
め、面白いように自在に形を変える大きな膨らみ。  
 
「ご主人サマ、とっても……気持ちイイです。ん……」  
 
 何かを耐えるように、ルクは両太股をすりあわせていた。  
 サジムは右手を胸から放して、頭の後ろに回した。上半身を少し起こしてから、青い  
透明な唇に自分の唇を押しつける。胸を触る左手はそのままで。  
 
「ん、ふぅ……」  
 
 喉から漏れる息。柔らかく滑らかで弾力のあるルクの唇。  
 唇を触れさせるキス。どちらも経験がないため動きは拙いものだが、それでも必死に  
口付けという行為を味わう。  
 
「んん……」  
 
 ルクが差し入れてくる舌に自分の舌を伸ばし、お互いに絡め合わせた。舌先に感じる  
のは、弾力のあるガラスのような舌触りと微かな甘さ。自分はゼリーみたいで美味しい  
と言っていたのも、あながち冗談ではないだろう。  
 しばらく口付けを味わってから、サジムは唇を放した。  
 
「うぅ、キスって凄い、ですネ……。身体が痺れますヨ」  
 
 目蓋を下ろしながら、ルクは舌を口に戻す。  
 胸を触る左手の平に感じる突起。  
 
「……服脱がすぞ」  
「はい」  
 
 目蓋を半分下ろしたままルクが頷き、脱がしやすように両手を上げた。  
 サジムはワンピースの裾を掴み、上へと引っ張る。少し引っかかるとも思ったが、す  
るりと滑るように脱がすことができた。着ているものはワンピース一枚。  
 裸体を晒し、ルクが視線を背ける。   
 
「ちょっと恥ずかしいでス」  
「それより、形きれいになってない?」  
 
 濃い青色の髪と緑色の瞳、透き通った青い身体、胸の奥に漂う赤い球体。最初見た  
時はマネキンのような粗い造形だったのだが、いつの間にかに驚くほど人間に近づい  
ていた。よく見ると手足も以前より精巧になっている。  
 
「ご主人サマの書斎にあった本を読んデ、人間に近づけてみましタ。どうでしょウ、気に  
入ってイただけましたカ? 結構自信あるんですガ」  
 
「よくやるよ……」  
 
 他人事のように笑ってから、サジムはルクの両腕を掴んだ。振り払われないように。  
弾力のあるガラスのような感触。やはり人間とは違う。  
 
「どうするつもりデスか?」  
 
 ルクの問いには答えない。  
 胸の奥が熱くなるものの、サジムは気合いで誤魔化した。頭が沸騰したように熱い。  
さきほど飲んだ酒のせいではない。だが、今更止まるわけにもいかない。  
 青い首筋に舌を走らせる。  
 
「ん……」  
 
 両手を握り閉めるルク。人間と同じような反応。舐めてみると実際に分かる皮膚の滑  
らかさと、微かな甘さ。甘味の薄い水飴のような味だった。  
 
「ナンだか、ふあっ……ワタシおかしい、でス、ヨ……?」  
 
 舌の動きと自分の反応に、ルクが戸惑いを見せる。  
 さきほど性感神経を作ったと言っていた。疑似骨格なども作っているし、人間と変わ  
らぬ動きからするに筋肉部分も作っているだろう。思いの外精巧に人体を模倣するこ  
とができるらしい。さすがは、クリアト先生。  
 冷静な部分でそんなことを考えながら、サジムはルクの首筋や肩を一心に舐めていた。  
 
「ん、あっ、ご主人サマ……そんなに嘗めないで、下さイ」  
 
 首を左右に動かし、ルクは腕を動かそうとしている。  
 サジムは一度舌を放し、苦笑いを見せた。  
 
「さっき好きにしていいって言ったじゃないか」  
「そうですケド……」  
 
 緑色の瞳を動かしながら、ルクは不満そうに口元を曲げる。  
 
「なら、好きにさせてもらうよ」  
 
 可能な限り冷静に言ってから、サジムはルクの胸に口を近づけた。青く透き通った丸  
い膨らみと、微かに色の濃い胸の突起。それを口に含む。再び感じる微かな甘さ。  
 
「んぅ……!」  
 
 ルクが震えた。ゼリーのように微かに波打つ青い身体。予想していた通り、首筋など  
とは感じ方が違う。胸には性感神経を集めているのだろう。  
 しかし、かまわずサジムは唇と舌を動した。  
 
「あれ、んぁ。オカシイでス、ん、本当ニ。ワタシ、んん、何だかヘンでス……あ、何だか  
身体が、ふあぁ、言うこと……聞いてくれません、んんっ、ぅぁ」  
 
 視線を泳がせ、ルクは小さな声を上げる。感覚が分からず強めに作ってしまったの  
か、自分で想定した以上に性感神経が過敏らしい。  
 舌先に感じる乳首を前歯で甘噛みしながら、サジムは右手をもう一方の胸へと持って  
行く。人差し指で乳首を押し込むように弄り始めた。  
 
「……待って、ご主人サマ……。身体が熱イ、痺れる? あっ、んあぁ、ふああッ!」  
 
 なすすべもなく、ルクが跳ねる。今までの違う大きな痙攣。  
 サジムは一度動きを止めた。呼吸が震えているのが自分でも分かる。心臓の鼓動が  
鼓膜まで届いていた。肩で息をしながら、確認する。  
 
「イっちゃった?」  
「はイ……。思っていタよりも、ずっと気持ちよくテ」  
 
 空笑いとともに、ルクが答えた。  
 
「それはよかった」  
 
 自分でも的外れなことを口にしていると思う。  
 熱でも出たかのようにも頭が熱い。サジムは左手を横に伸ばした。ベッドの傍らに置  
いてあった水差しを手に取る。ガラスの水差しと一リットルほどの水。コップも使わず飲  
み干していった。ぬるい水が、喉の渇きをかき消す。  
 水差しを戻して、一息ついた。  
 
「大丈夫デスか? ご主人サマ」  
「大丈夫だ……。何ともない」  
 
 心配してくるルクに、空元気を返す。ここまで来ては、男として止めるわけにはいかな  
い。ルクの好意を無駄にするのも嫌だった。  
 サジムは右手を下ろし、右手をルクの足の付け根に触れさせる。  
 
「ひっ……」  
 
 ルクが身体を引きつらせた。女性としての部分も精巧に作られている。弾力のある膨  
らみに挟まれた、何も生えていない小さな割れ目。人間と同じ女性器。色は他と変わら  
ぬ青色だが、造形はかなり正確だった。  
 そこにゆっくりと指を這わせた。  
 
「あ、あ、ふぁ。これハ、凄いデス……。んあぁ」  
 
 両手で口を押さえて声を抑えるが、効果はない。秘所の感度は、皮膚や胸よりもさら  
に高く作ってあるのだろう。指先で撫でるたびに、微かに達しているようだった。  
 サジムは指を放した。ルクの肩と腰を掴み、ベッドに対して横向きに寝かせた。自分  
はベッドから降り――数秒の躊躇を置いてズボンの前を開く。  
 
「行かせてもらうぞ?」  
 
 そろそろ我慢の限界。興奮しすぎて触れてもいないのに出しそうだった。女性経験も  
ないのに、よくここまで出来たと我ながら感心している。  
 
「どうゾ。思い切リ来てくださイ」  
 
 不安と期待の混じったルクの言葉。  
 サジムが太股に手を触れると、誘うように両足を開く。  
 青い太股の付け根にある、女性の最秘部。生身の人間とは違うが、それでも十分に  
扇情的で美しかった。人間よりもきれいかもしれない。  
 
「行くぞ……」  
 
 自分に言い聞かせるような囁き。  
 サジムは自分のものを右手で押さえ、その先端を割れ目へと押し当てた。呆れるほ  
ど簡単に、先端が呑み込まれた。今までに感じたことのない感触に、喉の奥が焼ける  
ような熱を帯びていた。早鐘のように鳴る心臓。  
 
「……んっ」  
 
 暖かく柔らかな体内。それだけで射精に至るほどの衝撃が突き抜ける。だが、下腹  
に力を入れて踏み留まった。まだその時ではない。  
 自分を押さえるように、ルクを押さえるように――ルクの両肩を掴む。  
 
「動くぞ……」  
 
 言いながら、サジムは腰を前へと押し込んだ。  
 ぬるり、と抵抗もなく挿入されていく。  
 
「んん、あぁ……。入って来まス」  
 
 人肌の液体のような奇妙な感触をかき分けながら、ルクの秘部の奥へと進んだ。そ  
の様子は透明な身体の上から丸見えになっている。  
 そして、根本まで呑み込まれた。  
 
「ん!」  
 
 引きつるルク。再び達したらしい。  
 緑色の瞳から知性の光を半ば欠けさせ、甘い声を上げる。  
 
「ふあァ、気持ちいいでス、ご主人サマ……。このママ、思い切り動いてくださイ。んんっ、  
お願いしまス、ご主人サマぁ……、ワタシを滅茶苦茶にして下さイ」  
 
 何も答えず――答える余裕もなく、サジムは腰を前後に動かし始めた。  
 膣と呼べるだろうか。粘りけと滑らかさを併せ持った半液体が、自分のものに絡み付  
いてくる。それは異様な感触だった。今までに感じたことのない心地よさ。  
「ぐ……」  
 
 歯を食い縛るサジム。自分も達する寸前まで来ているため、激しく腰を動かすことが  
できない。それが却って丁寧にルクを刺激しているようだった。  
 背中を反らしたまま、ルクが快感の悲鳴を上げている。  
 
「あ、ふあぁ、ああっ、ご主人サマ……あっ、スゴく気持ち、んんぁ、いいでス。もっと激し  
く、ふあっ……。動いて下さイ……!」  
 
 言われた通りに、サジムは腰の動きを激しくした。それで、容易く限界を突き抜ける。  
身体の奥底から湧き上がる熱い衝動。  
 
「あっ、ご主人サマ、ワタシの中に出して……!」  
「もう、限界……だ!」  
 
 がくん、と身体が震えた。  
 今までに体感したこともない、強烈な射精感。目の前が真っ白になって、思考も呼吸  
も何もかもが止まる。一瞬ながらも意識が吹き飛んだだろう。  
 青い液体の中に白い液体が解き放たれていた。  
 
「あ……ア、ふああっ……。ご主人サマぁ……」  
 
 ルクが甘く陶酔するような言葉を漏らす。決して強くはないものの、今までで一番深い  
快感を覚えているようだった。両目を閉じてじっくりと味わっている。  
 そのことに、サジムも深い満足感を得ていた。  
 五秒ほどの間を置いてから、ルクが首に腕を回してくる。サジムのものはまだ体内で  
勢いを残していた。吐き出した白い液体は霧のように消えている。  
 サジムもルクの肩に両腕を回して、お互いにお互いを抱き締めた。  
 
「ご主人サマ、大好きでス……」  
「ありがと」  
 
 サジムは微笑みながら、ルクの頭を撫でた。  
 
 
 -------  
 
 
(おまけ) 
 
「おはようございまス。ご主人サマ」  
 
 ベッドの傍らに立ったルク。昨日と同じワンピース姿。  
 朝の七時。起床の時間だった。窓の外は相変わらずの薄曇り。台所の方から漂って  
くる美味しそうな匂い。久しく食べていなかった、まともな朝食だろう。  
 だが、サジムはベッドに突っ伏したまま呻いた。  
 
「腰が抜けて、動けない……」  
 
 昨夜の情事の後、十分ほどルクとお喋りしてから、身体を拭いて気絶するように眠り  
についた。いつになく疲れていたと記憶している。ついさっき目が覚めたら、身体が動  
かないことに気づいた。  
 
「でも、無理すれば何とか……!」  
 
 自身に気合いを入れ、両手をついて起き上がる。動かないと言っても、全く動かない  
わけでもない。ただ、自分のものでないような全身の筋肉。  
 一分ほどかけてベッドに腰掛けた体勢に移る。  
 サジムは大きく息を吐いた。  
 
「力が入らない……」  
 
 赤い眉を寄せて、自虐的に笑う。今日一日はまともに動けないだろう。  
 心配するように眉を傾けるルク。  
 
「大丈夫、ですカ?」  
「……大丈夫じゃない。だから、昨日の夜みたいなことは二度としないでほしい。君の  
好意は本当に嬉しいけど、親しき仲にも礼儀ありだ」  
 
 子供に言い聞かせるように、注意する。昨晩は多少酔った勢いもあったが、本来なら  
このようなことはするべきではない。相手が人間だろうと人間以外でも。  
 次に誘ってきても、断る決意はできていた。  
 
「分かりましタ」  
 
 肩を落として、残念そうに答えるルク。これ以上言っても折れることはないと分かった  
しい。主人相手に我儘を言ってはいけないことは理解しているだろう。  
 しかし、完全に諦めたわけではないようだった。  
 
「でも、ワタシが何かご主人サマの喜ぶようナことができたラ、ご褒美としてまたワタシと  
交わってくれますカ?」  
「ダメだって……」  
 
 サジムは首を左右に振る。  
 
「ご主人サマのケチ」  
 
 ルクは目蓋を下ろして、そう言った。  
 

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