Blue Liquid 4話 ルクの調整
後編 反撃で逆転?
「おい……」
サジムは手を伸ばして、ルクの腕を掴んだ。
だが、表面に触れたまま、手が腕に呑み込まれていく。粘りけの強い液体に触れたようう
な手応えとともに、手がルクの腕をすり抜けた。
ぺたり、と。
ルクの手がサジムの胸に触れる。
「ご主人サマ、今度はワタシから攻めさせてもらいますヨ」
口の端を少し上げ、緑色の瞳でサジムを見つめる。
普段は機械的なルクだが、時々妙に人間的な仕草を見せることがあった。感情は人間よ
りも拙いらしいが、全く無いわけでもない。
サジムの胸に触れていた手が、溶けていた。
生ぬるい液体が、服の隙間から流れ込んでくる。水とは違う感触。水とは違うので服に水
分は染み込んでいないが、あまり気持ちのいいものではない。
溶けた下半身が、サジムの両足を包み込もうとしている。
全力で暴れれば抜け出せるだろう。ルクの身体はそこまで強くはない。しかし、サジムは
大人しくルクのする事を受け入れていた。
「僕を食べる気じゃないだろうな?」
ルクの腕に指を触れさせながら、一応訊く。
「そういうことはしまセンヨ」
顔を近づけながら、ルクは否定した。
「ものを消化するって、ご主人サマが考えてイルよりもずっと大変なんですヨ。皮膚を薄く溶
かすくらいはできても、それ以上は無理デス」
「へぇ」
頷きながら、サジムは左手の二指をルクの口に差し込んだ。
「あむ」
ルクが口を閉じる。
半透明の唇を通し、咥内にある指が見えていた。身体が半透明のため、ルクは口に入れ
たものが丸見えとなってしまう。そのため、サジムの見ているところでは食事をしようとしな
い。恥ずかしいのだろう。
舌が動き、指先を舐めている。
「ご主人サマの味がしまス」
表情から力を抜き、サジムの指に舌を絡めていた。指先に触れるルクの舌。生き物のよ
うにざらつきはなく、滑らかである。皮膚などと変わらない。惚けたようにサジムの指を舐め
るルクは、ひどく扇情的だった。
「ん……?」
ルクの下半身が、サジムの腰から下を包み込んでいる。ズボンの隙間などから足まで流
れ込んでくる、青い液体。じっとしているうちに、身体の半分くらいをルクに包まれてしまって
いる。
サジムはルクの口から指を抜いた。口元から指先まで伸びる、細い糸。
数秒それを見つめてから、ルクがサジムに目を戻す。
「どうですカ、ご主人サマ?」
ルクの身体が、ズボンの前を開いた。何をどのようにしているかは、よく分からない。サジ
ムの腰辺りを包み込んだまま、器用に体内を動かし、サジムのものを取り出してみせた。さ
きほどからルクの痴態を見せつけられ、既に全開である。
「ワタシだって、やれば色々とできるんデスヨ?」
「!」
背筋が粟立った。
青い液状の身体が動き、サジムのものを絡めるように刺激していく。手で触るのとはまる
で違う、上下左右に蠢く青い液体の壁。言いようのない、甘く熱い快感を作り出し、手足の
先まで行き渡っていく。
「これは――」
喉が渇き、胸が熱い。
「うぐ」
サジムは息を止めて、目を閉じた。ルクの身体の作り出す快感に抵抗も無く射精する。
青い液体の中に、白い液体が混じり、そのまま溶けて消えた。
手足の痺れに身体を支えきれず、サジムは仰向けに上体を倒す。
サジムの頬に手を触れ、訊いてくる。
「気持ちよかったデスカ?」
「かなり」
正直に答えた。見栄を張る理由も無い。
「じゃ、次は僕の番だね?」
「へ?」
ルクが首を傾げた。
サジムは右手を伸ばし、ルクの胸に触れた。水風船を思わせる、丸くたわわな膨らみ。そ
の表面に指先を這わせる。表面に薄い膜があるかのように、押した分だけ凹み、自在に形
を変えている。
「あゥ……」
ルクが瞬きをしながら、手の動きを凝視していた。
サジムは胸の先端の突起を指で摘む。
「あっ」
ルクが動きを止めた。
普段は丸いだけの胸なのだが、今回は律儀に乳首まで作っていた。胸の先端の突起と
その周囲の緩やかな膨らみ。それこねるように、サジムは指を動かす。
「ふあぁ、んんッ! あ……」
サジムの身体にもたれかり、ルクが声を震わせた。
手で力無くサジムの腕を掴むが、腕を退けるほどの力は無い。
「ご主人……サマ、それ、駄目。だめでスぅ、ぁあっ!」
サジムが指を動かし、胸を弄るたびに、ルクは切なげな息を漏らしている。人の形を保っ
ていた上半身も、徐々に崩れ始めた。身体を固定する余力が無くなっている。
サジムは手を胸に押し込んだ。
表面を突き抜け、体内へと侵入する。
「ああっ! それ、それハ……!」
ルクの体内を直接かき混ぜ刺激する行為。定型を持たない液体の身体だからこそ可能
な無茶だった。表面に触れるよりも、神経部位を直接触られるのは刺激が大きい。
「うぅぅ。はっ、おかしく、なりそうデス。ふあぁ……」
身体を震わせながら、焼けるような快楽に悶えるルク。
その身体が、一度固まった。
「デモ……! ワタシ、負けませン」
緑色の瞳に意志の輝きを灯す。
ルクの身体が、サジムの身体へと絡みついてきた。意志を持った液体が、上着の袖や裾
から、侵入してくる。身体を直接包み込むように。
「う……」
全身から送られる快感の信号に、サジムは喉を鳴らした。
ルクの身体が優しく肌を撫でる感触。形容しがたいくすぐったさが、全身から染み込むよ
うに神経へと、その痺れと熱を伝える。まるで身体が溶けていくような錯覚。
「んんっ、ご主人サマ、どうですカ?」
緑色の瞳を向けてくるルク。
「凄いな、ルク」
身体全体を愛撫する動きに、サジムのものを絡めるような動きも加わって、凄まじい快感
を作り出していた。気を抜いたら、そのまま気を失ってしまうかとも思うほど。
「なら、こっちも本気で……!」
脂汗を流しながら、サジムは両手をルクの胸に突っ込んだ。青い表面を突き抜け、体内
へと潜り込む両手。飛び散った飛沫が床に落ちる。
そして、胸の奥に浮かぶ赤い核を掴んだ。
「ひゃぅ!」
大袈裟なまでに震えるルク。
今まで触る事はなかったが、触っても大丈夫なことは、今日ルクから説明された。そして、
性的な意味でも弱点であることは、さきほどの反応が証明している。
サジムは両手を動かし、核を直接揉み始めた。
「ああ、ああっ。ごひゅジンサマ……それは、反則ッ! うんんんッ」
ルクは身体を仰け反らせた。
サジムの上に乗っかったまま、緑色の瞳を天井に向け、唇を震わせる。辛うじて形を残し
ている上半身を悶えさせ、湧き上がる快楽を受ける。両腕は肘から溶けて、残りの液体部
分と混じっていた。
「凄い……」
ルクの反応が新たな震動となり、サジムの身体へと還元されている。神経が溶けるかと
思うほどの強く、濃い快感のうねり。
「あ、それ、だめデス……。あぅぅ」
ルクの口元から、青い液体が涎のように垂れている。
サジムは右手を伸ばした。手がルクの背中を突き抜ける。手の平で背中を押えてから、
抱きしめるように、身体を引き寄せた。
さきほどから伝わってくるルクの快感に、サジムも限界だった。
「ルク、行くぞ……」
「はイ、ご主人サマ――来て、下さい……!」
小さくルクが呟いた。
「ッ!」
全身から染み込む快楽に、サジムは思い切り精を解き放っていた。痛みすら覚えるほど
の強烈な精通に、視界が一瞬白く染まる。神経から脳髄まで駆け抜ける電撃に、意識が焼
けるような錯覚を感じた。
「ご主人、サマ……」
両腕で抱きしめられたルクが、ゆっくりと息を吐き出す。
仰向けのサジムと、溶けた身体でサジムを包んでいるルク。形を保っているのは、胸から
上だけだった。溶けかけた両腕でサジムに抱きつき、サジムの両手に抱きしめられている。
絶頂の余韻に浸るように、どちらも動かず、声も出さない。
ふとルクが口を開いた。
「しばらク、このままで居させて下さイ……」
「気が済んだら、離れるんだぞ?」
ルクの頭を撫でながら、サジムが答える。
「はイ」
ルクは短く返事をした。
エピローグ
サジムは出掛けるルクを見送りに出ていた。
元見張り台の正面玄関。分厚い木の扉を開けた先に、石畳の階段が五段続いている。
その先は、石畳の歩道となっていて、正面の道へと続いていた。
「どうですカ?」
玄関ポーチに立ったルクが、くるりと一回転する。
その姿は人間の少女のものだった。背中中程まである赤い髪の毛と色白の肌、手足も
人間と変わらない。瞳は緑色のままだが、それを気にする者はいないだろう。白い上着に
と、青色のスカートという恰好で、首元に小さな黄色いネクタイを付けている。
「いつもながらよく出来てるよ」
サジムは腕組みをしながら、その造形に感心していた。
魔術の助けがあるとはいえ、人間と寸分変わらぬ姿を作っている。髪の毛のような形の
部分も、律儀に一本一本分けられた髪の毛へと擬態されていた。
「時間掛かるのが欠点ですケド」
普段の姿から人間の姿に擬態するには、一時間ほど掛かってしまう。その最中どのよう
な事をしているのかは、見せたくないらしい。
ルクは置いてあった時計に目を向けた。
「そろそろお仕事に行く時間デス」
「いつもすまんな」
サジムは苦笑を見せる。
行きつけの食堂兼酒場の木蓮亭。サジムの遠縁の親戚として、ルクは木蓮亭でアルバイ
トをしていた。家事全般は得意なので、評判はよいとの話だ。
「あと。カラサさんが、もう少し高いの頼めと言っていましタ」
木蓮亭の女将のカラサ。ルクを気に入っているおばさんである。最近、サジムが安いもの
ばかり注文していたのが気になっていたようだ。
「もうすぐ本売り出されるから、その時は飲むよ」
「そう言っておきマス」
サジムの言葉にルクが頷く。
それから、改めて一礼した。
「では、ご主人サマ。行ってきまス」