「むっ、ン……」  
 
 驚いたようにルクが目を開く。  
 しかし、サジムは引くことなく唇を味わいながら、ルクの口へと自分の舌を差し込んだ。  
舌に感じるのはほんのりした甘さ。以前、自分は美味しいと言っていた言葉通り、淡い  
甘さを帯びている。  
 ひとしきりルクを味わってから、サジムは口を放した。  
 
「あゥ、ご主人サマ?」  
「こうして貰いたかったんだろ?」  
 
 困惑するルクに、口端を持ち上げてみせる。倒れないように右手でルクの肩を支えな  
がら、空いた左手で頭を撫で、サジムは続けた。  
 
「断っても離れそうにないからね。やるなら腹括って最後までやってやるよ。ぼくも全くル  
クに興味がないってわけでもないし」  
 
 自分で言うのも何だが、思いの外酔っぱらっているようだった。素面ならば何とか追い  
払っているだろう。しかし、今回はルクを受け入れようという気になっている。ルクの相手  
をするというのは嫌ではないのだ。  
 
「ありがとウございまス……んっ」  
 
 礼を言い終わらぬうちに、サジムはルクの胸に触れていた。  
 弾力のある大きな青色の膨らみ。表面は滑らかで、丈夫なゼリーを触っているような  
感触である。その大きな胸を弄ぶように、左手が動いていた。  
 
「ご主人サマ――。んっ、ふぁ」  
 
 ルクが身体を震わせている。  
 不定形となった下半身が絡みついているせいで、サジムはルクの反応を文字通り肌  
で感じていた。そのため、ルクが感じる場所を手に取るように知ることが出来る。  
 
「ふあッ、凄いデス……。ご主人サマの、手が、あぁっ」  
 
 胸の縁を撫でられ、ルクが引きつった声を上げた。  
 構わず、サジムはルクの左右の胸を攻め続ける。しかし、普段よりも表面に強さがな  
いようだった。アルコールのせいで固定化が弱まっているのだろう。  
 
「ルク、中に手入れていいか?」  
「中って、どコですか……?」  
 
 訊き返してくるルクに、サジムは一言だけ答えた。  
 
「ここ」  
 
 指を皮膚の表面に突き立てるように曲げ、そのまま奥へと押し込んだ。ぬるりとした手  
応えが手の表面を走り抜ける。  
 
「ッ!」  
 
 ルクは緑色の目を見開いた。  
 サジムの左手首から先がルクの胸の中へと潜り込んでいる。固まりかけのゼリーに手  
を入れているような感じだった。ほんのりと冷たいルクの体内。  
 身体に手を入れられるのは初めてだったのだろう。ルクは未知のものを見るように、  
自分の胸を見つめていた。幸い苦痛ではないらしい。  
 
「ご、ご主人サマ……? ワタシの身体の中に――ぃッ!」  
 
 言い終わるよりも早く、サジムは左手を動かした。ルクの身体が激しく跳ねる。  
 胸の中を揉むというのは奇妙な感覚だった。抵抗の強い水の中で手を動かしているよ  
うな粘り気。時折手に引っかかる部分は体内の骨格だろう。一見気持ち悪いように思え  
て、癖になるような感触である。  
 
「ふあああッ、ひっ、いいィ、んんあッ! ご主人サマ……!」  
 
 背中を仰け反らせてルクが声を絞り出していた。集中が途切れているせいか、腕や髪  
の毛から溶け出している。青い液体が音もなく滴っていた。  
 手の動きは止めずにサジムは尋ねる。  
 
「もしかして痛い?」  
「痛く、ッッ、はナイですケド……!」  
 
 首を左右に動かしながら、ルクが必死に答えを返してきた。苦痛でないことは訊かずと  
も分かる。サジムの手はルクの胸からお腹や肩までかき混ぜていた。  
 
「ご主人サマの手で、んん――! ひっ、あ、神経がッ、直接刺激されテ、ああッ! 気  
持ちよすぎマス! んんっ、くっ、おかしく、なりそうデス――!」  
「そう言って貰えると、ぼくも嬉しい」  
 
 笑いながら頷き、サジムはルクを支えていた右手を引き寄せた。抱き寄せるように。  
その唇に自分の唇を押しつける。口元から微かな水音が聞こえてきた。  
 
「ン――」  
 
 さきほどよりも結合の崩れた唇。溶けた組織が口の中へと流れ込んでくる。淡い甘さ  
が口に広がった。文句なしに美味しい、上品なゼリーのような味わい。ルクは逃げようと  
もしない。いや、逃げること自体が思いつかないのだろう。  
 
「んッ……! ンン――!」  
 
 ルクの反応が変わる。  
 サジムの手が身体の内側から皮膚をくすぐっていた。胸やお腹、腋の下など、ルクの  
感じる場所を体内から指で撫でる。体内と表面を同時に刺激。まともな生物には理解不  
能なものだろう。そして、ルクにとっても初めての快感だった。  
 ルクが絶頂へと上り詰めていくのが直に分かる。  
 
「う、あっ――! ご、主人……サマ……っ!」  
 
 サジムから唇を放し、ルクは大きく身体を痙攣させた。思いの外あっさりと達してしまっ  
たらしい。胸の奥の核が脈打ち、青い身体が何度も震える。  
 サジムはルクの胸に差し込んでいた手を引き抜いた。  
 表面が薄く湿っているだけで、手に青い液体が付着しているということはない。ルクの  
組織は他の物質に付きにくいと言ってたことを思い出す。  
 
「美味しかったぞ、ルク」  
「はイ……。ありがとウ、ございマス……」  
 
 粗い呼吸を繰り返しながら、ルクが朦朧とした返事をした。目付きが虚ろで、胸が上下  
に動いている。人間のように呼吸はしていないようだが、人間のような仕草は自然と取っ  
てしまうらしい。  
 だらりと下ろした両腕。肘から先が溶けて水飴のようになっている。  
 
「まだ終わりじゃないよ」  
 
 サジムは自分の身体に絡みついたルクの身体をそっと撫で始めた。お腹の辺りから、  
辛うじて残った腰の辺りと太股、そして溶けた青色の液体部分へと。  
 ふるふると揺れながら、快感を表現する青い半透明の体組織。水を主成分としてタン  
パク質や特殊な魔術式で身体を構成しているらしい。  
 魔術につていはサジムの管轄外だった。  
 
「何、をしていル、んんっ、でスカ?」  
 
 何とか半分ほどまで形を戻した右腕で口元を押さえつつ、ルクが手の動きを凝視して  
いる。表面を撫でるたびに、全身が震えて気持ちよさを表現していた。  
 
「何となく」  
 
 言いながら、サジムは撫でる位置を変えていく。  
 そうしてしばらく撫でる位置を探っていると、  
 
「うんっ」  
 
 ルクの声がうわずった。明らかに反応の違う場所である。サジムの左太股辺りにくっ  
ついている液体状になった部分。そこに性感神経が集まっているのだろう。乱数的に生  
まれた強い性感帯と表現するべき場所だった。  
 
「ここか」  
 
 サジムは左手の指をかぎ爪状に曲げて、その部分を掴み取る。抵抗があるわけでも  
なく、あっさりとルクの身体から分離した。  
 
「!」  
 
 緑色の目を丸くして硬直するルク。さすがに予想外だったらしい。  
 サジムの左手には、すくい取られたルクの一部があった。手の平に乗るほどの青い半  
透明の液体。ルクの破片。大きな水滴を手に乗せているようだった。  
 
「ちょっと試したいことがあって。小説書きの知的好奇心というべきかな? ルクって自  
分から離れた部分も感覚つながってるみたいだし、ね?」  
 
 にっと笑い、右手を放す。  
 支えを失い、ベッドに倒れるルク。両手をついて起き上がろうとしているが、骨格がほ  
とんど崩れているので、一人ではまともに動くこともできない。その様子からするに予感  
は当りだろう。右手を持ち上げながら、必死に声を上げる。  
 
「ご主人サマ、待って下さイ――!」  
「やだ」  
 
 一言答えてから、サジムは手の平の破片を両手で握った。  
 
「ひぁッ」  
 
 ルクの身体が跳ねる。予想通り、破片と本体の感覚はつながっていた。およそ三十メ  
ートル以内ならば分れた部分とも感覚は共有している。それはルクが言っていたことだ  
った。つまり、近くにあれば身体の破片への刺激も還元される。  
 
「これは、思ったより凄い」  
 
 サジムは会心の笑みを見せた。  
 両手を動かし、無防備な破片を攻める。柔らかな水風船のようにぐにぐにと形を変え  
るルクの一部。そして、そこは性感神経の集まった部分でもあった。  
 
「ひッ、ああッ……! アあっ、ご主人サマっ――。んんンんッ、ワタシの身体、ふあぁ、  
オモチャにしなイで、えっ、っあ、っ、下サい、っ!」  
「だって面白いから」  
 
 気楽に笑いながら、破片に指を差し入れぐりぐりと捻る。  
 
「いっ、はっ……ぁッ」  
 
 指の動きに反応し、痙攣しながら引きつった声を上げるルク。無防備状態の破片。体  
内に指を入れられ、直接性感神経を刺激されているのだ。  
 その姿を見ながら、サジムは両手の指を破片の中へと差し入れる。  
 
「ひィぁァッ!」  
 
 ルクが悲鳴じみた声を漏らした。  
 歯を食い縛りながら、形の残った上半身を仰け反らせる。  
 サジムはその姿を眺めながら、両手の指を動かした。十本の指と破片を絡み合わせ  
るように、両手を動かす。それはルクの性感神経を直撃していた。  
 
「いいイぃぃ、んアああぁぁぁ……! んんっッッ!」  
 
 ルクの喉から漏れる、擦れた嬌声。身体を震わせながら、何度も達しているようだった。  
自分から切り離された部分を弄られるというのは、人間には想像もできないことである。  
しかし、ルクはスライムという性質上、その奇妙なことを体感していた。  
 十秒ほど痙攣する姿を眺めてから、サジムは右手で破片を置いた。  
 
「大丈夫か?」  
「は、ハひ……」  
 
 砕けた声音の返事。  
 
「そろそろ、ぼくも挿れさせて欲しいんだけど」  
「ド、うぞ。ワタシも、ご主人サマが、欲しいデス……」  
 
 弱々しい声で、ルクが言ってきた。しかし、下半身は液状になっていて、肝心の挿れる  
部分がない。とりあえず、輪郭は残っているが、輪郭しか残っていないとも言える。とは  
いえ、今の状態では全身が性器のようなものだろう。  
 サジムはズボンから自分のものを取り出した。ルクの両脇に手を差し入れ、身体を抱  
え上げる。女性としての部分は辛うじて形を残している程度だった。  
 
「行くぞ?」  
 
 サジムはゆっくりとルクを下ろしていく。受け入れる態勢が出来ているのか表面強度  
が落ちているのか、体内へと入る際の抵抗はほとんど感じない。自分の身体が流動性  
の弱い液体をかき分けていく。  
 そうして、青い半透明の液体が、サジムの下腹部を包み込んだ。  
 
「んっ。は、入りましタ……」  
 
 対面座位のような格好で、下半身同士がくっついている。しかし、この状態ではどちら  
も腰を動かすことができない。ゆらゆらと動く青い液体の流れを感じる。  
 サジムは右手を伸ばして、さきほどつかみ取った破片に手を触れた。  
 
「んッ」  
 
 ルクの反応には構わず、破片を半分掴み取る。量は減っているが感度に差はないだ  
ろう。破片をルクの下半身へと押し込み、体内から自分のものを握り締めた。普段自分  
で慰めるように、ルクの破片ごと右手を上下に動かす。  
 
「ンあああッ! ご、ご主人、サマ、ふああぁァッ!」  
 
 ルクが甘い悲鳴を上げる。  
 自分を自分で慰めるありふれた行為。だが、ルクの身体がローションのようになり、い  
つもとは全く違う快感を生み出していた。  
 
「これは、新感覚――」  
 
 それだけではない、ルクの破片は周囲と一体化し、その部分を強烈な性感帯へと変え  
ていた。ルクの仮初めの秘部は、サジムの手の動きに合わせて、歪められ掻き混ぜら  
れ、強烈な性感を発生させる。  
 まるで、自分で慰める動きを、ルクが共有しているかのように。スライムの身体だから  
こそ可能な荒技に、ルクは為す術なく絶頂に突き抜ける。  
 
「んンンああっ! ご、ご主人っ、サマ、ふあァァぁぁッ、んいいぃぃッ」  
 
 しかし、サジムは止まらない。  
 左手で残った破片を掴み取り、ルクの顔へと押しつけた。性感神経の集まった破片が、  
顔の組織と同化し、顔自体を強力な性感帯へと変化させる。  
 
「ふ、ああ、ぁ?」  
 
 何が起こったのか理解できないと言った表情のルク。  
 サジムはルクの肩に左手をかけて、抱き締めるように引き寄せた。だが、結合がかな  
り弱くなっていたのだろう。みぞおち辺りで胴体が千切れ、サジムは仰向けに倒れた。  
胸から上がサジムの身体へとのしかかる。  
 辛うじて形を残した腰回りは、サジムの上に乗ったまま。  
 
「いただきます」  
 
 サジムは左手でルクの肩を押さえたまま、口付けをした。  
 
「!」  
 
 ルクの身体が十何度目かの大きな痙攣を起こす。さきほど顔に押しつけた性感神経  
の集まった破片。それは顔の表面と一体化していた。今までとは違い、ルクの口は立派  
な性感帯と化している。  
 
「んん――! ンっ、あふっ……!」  
 
 サジムは自分の唇と歯と舌で、ルクの口を蹂躙した。唇を舐め、唇を甘噛みし、咥内  
へと舌を差し入れ、甘い液体を舐め取る。それら全てが、ルクの思考を揺らしていた。  
 さらに肩を抱きかかえていた左手が、ルクの身体へと潜り込み、再び体内を直接刺激  
し始める。胸や肩やお腹、首筋など、ルクの感じる部分を身体の内側から攻めていた。  
 無論、自分のものを扱く右手の動きは止まらない。  
 ルクが背中を反らし、唇が離れる。  
 
「んはぁっ――! あはぁッ、ごひゅじん、さマ……! 凄い、凄イ、ああああッ、もう気持  
ちよすぎテ……くうん、あっ、ワはシ、壊れひゃイまふ……!」  
 
 誰へと無く叫んでから、ルクがサジムの唇にむしゃぶりつく。  
 溢れる快感に、ルクの全身が波打つように跳ねた。意識も朦朧としていて、思考もろく  
に働いていない。変則的な方法から作り出される快感は許容範囲を越えている。  
 
「んん――、あはっ、ごしゅぃんさま……大好きデすぅ――!」  
 
 甘い声で呟きながら、ルクは無心にサジムを求めている。  
 サジムの思考も半ば停止していた。  
 自分が何をしているのかも分からない状況で、何度となくルクの体内へと射精しながら  
も、勢いは衰えない。お互いに快楽を共有しつつ、まるでルクと自分がひとつになってい  
くような陶酔感とともに際限なく快楽へと溺れていく。  
 
「あ、うっ、ルク……」  
「ふあぁ、ご主人サマ……」   
 
 お互いに呼び合うが、声は届いていない。  
 しかし、お互いに我を忘れて相手を求めていた。  
 
 
 
 そうして。  
 サジムはいつしか意識を失い、ベッドに倒れていた。  
 ルクも人型を保てなくなり、失神したサジムの上に力なく広がっていた。  
 
 
 -----  
 
 翌日の午前九時前。  
 
「どうだった、ルクちゃん」  
 
 木蓮亭にやってきたルクを迎えたのは、カラサのその言葉だった。好奇心に瞳をきら  
きらと輝かせながら、ルクをじっと見つめている。  
 昨日の夜、サジムに情熱の白を飲ませた反応だろう。  
 
「実は、覚えてないんでス……」  
 
 椅子に荷物を置きながら、ルクは正直に答えた。右手で頭を押さえて左右に振ってみ  
せる。赤い髪が揺れた。頭痛とは違うものの、意識がやや重い。  
 
「何やったの?」  
 
 きょとんと呟くカラサに。  
 ルクはしばらく考えてから、申し訳なさそうに頭を下げた。  
 
「サジムさんのお話ですト、ワタシがお酒少し飲んで酔っぱらっちゃったんですヨ……。  
何だか凄いことヤっちゃったみたいで、朝起きたらサジムさんに怒られてしまいまシタ。  
金輪際、お酒を飲むなト」  
 
 朝目が覚めると、身体がバケツに放り込まれていた。酷くやつれたサジムから、昨日  
は暴走して凄いことになったと告げられた。何をしたのかまでは言われていない。自分  
の記憶も、サジムに料理を出した辺りから途切れている。  
 記憶がないので分からないが、サジムに五分ほど説教され、今後一切アルコール類  
を口にしてはいけないと厳命された。  
 
「あらら、それは悪いことしたねぇ」  
 
 カラサが右手をぱたぱたと振っている。あまり罪悪感を覚えているようには見えない。  
事実大して悪いとは思っていないだろう。  
 
「いえいえ、大丈夫ですヨ」  
 
 ルクはそう言い返した。  
 ふと、カラサが呟く。  
 
「そういえば、結局サジムのやつは酔っぱらわなかったのかい?」  
「そうみたいでス。サジムさんの四分の一はハッカク地方の人なので、お酒には物凄く強  
いって言われました。同じ血筋であるはずのワタシは物凄く弱いんですケド……」  
 
 ルクは自分の赤髪を指で示した。  
 ずっと北西にあるハッカク地方。その地方の人間は綺麗な赤毛と、桁違いなまでのア  
ルコール耐性を持つ。サジムの母方の祖父は、その地方の人間だったらしい。その血  
筋のおかげで、サジムは酒に強い。今朝聞かされたことだった。  
 
「ふーん」  
 
 興味なさそうに相槌を打つカラサ。  
 
「ま、いいでしょう。また機会があったら協力してあげるわ」  
「おーい、二人とも何話してるんだ?」  
 
 店のドアが開き、五十歳ほどの体格の良い男が入ってくる。調理用の白衣を纏った、  
温厚そうな男。木蓮亭店主のトーアだった。さほど凄い人には見えないものの、その料  
理の腕は本物である。  
 
「早く準備しろよー」  
「あいよ」  
「分かりました」  
 
 返事をしてから、カラサとルクは開店準備に取りかかった。  
 
 
  ------  
 
 
 サジムは薬箱から取り出した栄養剤を水と一緒に飲み干した。  
 テーブルには起きっぱなしにされた酒瓶が置かれている。底には色の抜けた白っぽい  
草が落ちていた。ヒトヨイ草と呼ばれる珍しい薬草である。  
 
「情熱の白に、ヒトヨイ草……」  
 
 ぼさぼさの赤毛を撫でつけ、呆れたようにその名称を呟く。  
 図鑑で調べてみるととんでもない草だった。薬草というより麻薬と呼ぶべきだろう。事  
実、準麻薬指定植物だ。濃縮した葉液は蜂蜜のような見た目で、魔術薬として使われ、  
副作用として強い媚薬効果があるらしい。草自体を口に入れても媚薬効果は薄いが、  
アルコールと一緒に摂取すると、強く現れることがあるらしい。  
 ヒトヨイ草のことはカラサも知らないだろう。  
 
「酒に強いと思って油断した……」  
 
 昨夜の痴態を思い返しながら、サジムは首を振った。全身の関節が軋んでいて、身体  
に力が入らない。生命力を削り取られたかのように。  
 ルクは全く覚えていなかったが、自分は半分くらい覚えている。まるで自分が自分でな  
いような乱れ様。明らかに異常な状態だった。  
 細くため息をつき、サジムは酒瓶を持ち上げる。  
 
「酒には気をつけよう……」  
 
 そう呻いて、微かに残った中身を口に流し込んだ。  
 

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