Blue Liquid 3話 ルクの空腹  
後編 いただきマス  
 
 
 サジムの左手と溶けた右手を絡ませながら、ルクが左手を自分の胸に当てた。誘うよう  
な仕草とともに、淡々と言ってくる。  
 
「どうゾ、ご主人サマ。ぐわっと襲っちゃって下さイ」  
「なんか違うような……」  
 
 多少疑問に思いつつも、サジムは右手を伸ばした。  
 ワンピースの生地を押し上げる胸の膨らみに触れる。丸く大きく、指を押すとゼリーのよ  
うな弾力で押し返してくる。人間とはおそらく違う感触だが、触り心地は決して悪いもので  
はなかった。  
 ルクがサジムの膝の上に腰を下ろす。左手を絡ませたまま、右向きに。  
 自分の胸を揉んでいる手を見下ろしてから、  
 
「ご主人サマ、手つきがエッチですね」  
「お前が言うなって」  
 
 一度反論してから、サジムはルクの首筋に噛み付いた。  
 
「ふぁ」  
 
 ルクが吐息を漏らす。  
 青く透明な身体に歯が食い込んでいく。表面の結合が弱くなっているのか、あっさりとサ  
ジムの口を受け入れる。口の中へと流れ込んでくる、ルクの身体。ほんのりと甘いゼリー  
のような舌触りだった。  
 
「あっ。ご主人サマ……」  
 
 ルクが切なげな声を漏らした。  
 サジムの左手に絡まる溶けた右腕が、その快感を教えていた。  
 右手でルクの胸を弄りながら、その首筋を味わう。サジムの手と舌が動くたびに、ルクの  
身体が震えていた。手や顔など、容姿を構成している部分がゆっくりと崩れていく。  
 
「あぅ、壊れちゃいそうデス」  
 
 ルクの首筋から口を離し、サジムはルクの唇に自分の唇を会わせた。  
 右手で肩を抱きしめながら、ルクの咥内に舌を差し入れる。応じるようにルクの舌が動  
いていた。固まりかけのゼリーのような舌触りと、ほのかな甘さ。  
 
「ぅぅ……」  
 
 ルクが惚けたように目蓋を下ろす。  
 
 一度サジムから口を放し、手で唇を撫でた。  
 
「ご主人サマのお口、美味しいでス」  
 
 口元に微かな笑みを浮かべ、緑色の瞳を指先に向ける。溶けかけた指先から唇まで、  
青い液体が糸を引いていた。それは、奇妙に艶やかな仕草だった。  
 
「本気で消化はするなよ」  
 
 一応釘を刺しておく。  
 サジムは左手を持ち上げた。ルクの袖口から伸びる青い液体の絡みついた左手。その  
指先を、ルクの首筋に触れさせた。指を押し込むと、指が緩くなった表面を突き抜け体内  
へと潜り込んでいく。  
 
「うんン?」  
 
 ルクが戸惑ったような声を上げた。  
 ぬるい水を進むような感触とともに、手がルクの身体を進んでいく。  
 
「うぅ、ふあぁ……。やっぱリ、んァ、変な感じデス……んっ」  
 
 体内を直接弄られ、ルクが身を捩らせる。  
 ルクを構成する青い半液体。その中にサジムは手を入れ、ルクの身体を内側から触っ  
ていく。人間の骨格のような部分はあるが、触れるだけて溶けてしまう。  
 サジムは前腕半ばまでルクの首筋に差し込み、手を動かした。  
 
「あぅ、あ……っ」  
 
 溶けかけた手で、サジムの肩に掴まりながら、ルクが甘い呟きをこぼす。  
 肩や腋、胸を膨らみを、内側から撫でていくサジム。手の動きに合わせて、ワンピースの  
生地が動いていた。身体を外からではなく中から弄られるという、まともな生物では不可能  
な芸当である。  
 指の動きに合わせて、ルクが口をぱくぱくと動かしていた。  
 
「ご主人……サマぁ……。そんな、胸ばっかリ……」  
「分かった、分かった」  
 
 サジムは右手でワンピースの裾を摘んだ。裾を持ち上げ、脚に触れる。膝から下は液状  
になって、床に垂れていた。脚の結合も弱くなっているらしい。  
 無論、左手の動きは止めていない。  
 指先を太股の内側を何度か撫でてから、サジムはルクの身体に指を差し込む。  
 
「んっ」  
 
 体内に指を入れられる感触に、ルクが声を呑む。  
 
 サジムはルクの太股を指で辿りながら、脚の付け根へと手を動かしていく。反射的に、  
ルクが両足が取じた。しかし、サジムの手がルクの太股に呑まれただけで、動きを妨げる  
ことはできない。  
 
「あぁ、ご主人サマ……」  
 
 擦れた声をともに、ルクがサジムに抱きついてくる。  
 サジムは右手の指を脚の付け根から、下腹部に移動させた。人間でいう膣の辺りへと指  
を差し込んだまま、そこをかき混ぜるように指を動かす。  
 
「あっ! ふあっ、ご主人サマ、そこは……! そんなに弄っちゃ、ダメでス!」  
 
 悩ましげな声で、ルクが言ってきた。そこか性感神経の集まった場所なのだろう。指の動  
きに合わせ、ルクの快感が見る間に高まっていく。どういう原理か、ルクの頬は赤く染まっ  
ていた。目も虚ろで、口元から溶けた青い液体が垂れている。  
 
「もう前技は終わりかな?」  
 
 サジムは右手を引き、ズボンのベルトを外して自分のものを取り出した。  
 溶けた手で口元を覆い、サジムのものをルクが凝視する。  
 
「早く、来て下さイ……ご主人サマ……」  
「ああ。行くよ、ルク」  
 
 サジムは溶けかけたルクの身体を持ち上げた。  
 その身体はよ軽かった。太股から下は液体状になっていて、脚の意味をなしていない。  
他にも、固定化できずに液体になって床に垂れている箇所が多い。  
 ゆっくりとルクの身体を、自分のものの上に下ろしていく。  
 先端が触れた。  
 
「ふあっ!」  
 
 ルクが両手で口を押さえる。  
 しかし、止まらない。サジムのものが、ルクの下腹部へと呑み込まれていく。青い半液体  
を引き裂くように、奥へと進む。律儀にも、ルクの下腹部は生物の膣を模した構造になっ  
ているようだった。  
 数秒で、サジムのものが根元まで呑み込まれる。  
 
「うんッ。ご主人サマの、全部入りましタ……」  
 
 嬉しそうに微笑み、溶けかけた右手で生地の上からお腹を撫でる。サジムのものがルク  
に呑み込まれている。しかし、その接合部分は白いワンピースによって隠れていた。  
 
「ここからは、ワタシに任せて下さイ」  
 
 ぎこちなく、笑う。  
 
 途端、サジムのものを包む周囲が動き始めた。ルクの仮初の膣が、まるで意志を持った  
かのように淫猥に蠢き、サジムに強い快感を与えていく。  
 
「ルク……これって……?」  
 
 背筋を駆け上がる痺れに、思わず尋ねた。  
 しかし、ルクは答えない。  
 
「んっ……」  
 
 切なげな声を漏らし、全身を小さく跳ねさせる。サジムのものを包み込む、生き物のよう  
な動き。それを行うために、色々な神経を集めたのだろう。そこには快感神経も含まれて  
いるようだった。  
 
「ふぁ。思ったよりモ、凄いでス」  
 
 ルクの動きは勢いを増していく。  
 前後左右に渦巻くように動くルクの胎内。それは、生物としての常識を越えた刺激をサジ  
ムに与えていた。快感はあっという間に限界を突き抜ける。  
 
「う……うぁっ!」  
 
 身体を強張らせ、サジムはルクの中に精を解き放っていた。  
 蠢く半液体の組織によって、半ば搾り取られるような射精。普段の数倍以上を吐き出し  
たのかと錯覚するような、強烈な絶頂だった。痛みさえ感じるほどの。  
 一度身体を強張らせてから、脱力する。  
 ルクが溶けた両腕でサジムを抱きしめた。  
 
「ああ……っ。ご主人サマが、ワタシの中に入って来ます……」  
 
 どういう仕組みか、恍惚とした表情で頬を赤く染めている。サジムと同時にルクも達した  
ようである。やはり膣に当たる部分に、性感神経を集めていたのだろう。  
 
「なら――」  
 
 サジムは、右手をルクのスカートの中に入れた。  
 ずぶりと水に手を突っ込むように、手をルクの腰に押し込んだ。固まり掛けたゼリーのよ  
うな身体をかき分け、自分のものを掴む。周囲ごと。人間で言うならば、膣を外側から鷲  
掴みにされたようなものだろう。  
 
「ふあっ……?」  
 
 性感神経を集めていた部分を直接掴まれ、ルクが戸惑ったように声を出す。  
 左手でルクの身体を抱きしめたまま、サジムは右手を動かした。性感神経の塊と化した  
膣部分ごと。ヌルヌルとした半液体が、サジムのものを上下に扱く。  
 
 想定外の動きに、ルクが悲鳴を上げた。  
 
「あああッ! ふあっ――。ごしゅ、ご主人サマッ……! はああっ、ふあぁあぁ、いきなり  
ダメで……それ、ダメ、駄目でス! ふあああっ」  
 
 もぞもぞと手足を動かそうとしているが、ほとんど液体になっているため、まともに動かす  
ことができない。体内の性感神経が集まった場所を、内側と外側から攻められているのだ。  
全身に走る痺れは、さっきの比では無いだろう。  
 
「ルク、こっちに顔を向けて」  
「ご主人サマ……うん!」  
 
 サジムは左手をルクの頭に回し、思い切り口付けをした。  
 
「うン……むっ……!」  
 
 薄い唇に自分の唇を会わせ、無遠慮にルクの咥内へと舌を差し入れる。ルクもそれに  
応じるように、自分の舌を絡ませてきた。固まりきれずに溶けたルクの組織が、味覚を刺  
激する。文字通り相手を食べるような口付け。  
 
「ごしゅ……ジんサ――あっ!」  
 
 右手で掴んでいた膣部分が大きく痙攣する。と同時にサジムは二度目の精を放っていた。  
身体の奥から全て撃ち出すような射精が、ルクの胎内を強く叩く。  
 内側と外側からの快感の中心を攻められ、ルクが大きく絶頂を迎えた。  
 
「ふあああ……あぁ――あっ、ご主人サ――マ……!」  
 
 何度か身体を大きく痙攣させ、口を意味もなく開いて閉じる。出そうとした声が出なかっ  
たらしい。それから、糸が切れたようにサジムにもたれかかってきた。  
 椅子に座ったまま、サジムはルクを受け止める。  
 
「ルク、大丈夫か?」  
 
 袖から伸びる両腕と裾から伸びる両足は、形を保てず床に垂れていた。身体もかなりぐ  
にゃぐにゃに溶けているようである。人間ならば腰が抜けたと表現するだろう。ルクは芯が  
抜けてしまい、まともに身体を構成できなくなっていた。  
 
「すみませン。少ししたら落ち着くのデ、しばらくこのままでいさせて下さイ」  
 
 ルクがそう言ってきた。  
 
 
 エピローグ  
 
 
 
 ルクの身体でべたべたになった身体を洗い、台所へと戻る。  
 
「どうだ?」  
 
 寝間着姿のまま、ルクを見る。  
 元の形状に戻ったルクが、食器の片付けをしていた。  
 
「もう大丈夫でス。どこにも問題ありまセン」  
 
 左手を動かしながら、そう言ってくる。  
 半分溶けた状態からとりあえず人型に戻り、身体を再構成したようだった。左手はどこも  
問題なく繋がっている。握って開いてみても、その動きに支障はない。  
 
「ご主人サマの精液取り込んだラ、最近固まり悪かったのも直りましタ。人間の情報の再  
装填は無事に成功したようデす」  
 
 一度左手を液状にしてから、再び手の形に戻してみせる。人間の情報を取り込んだおか  
げで、液化と固化の切り替えがやりやすくなったらしい。  
 予想以上の速効性だった。  
 
「それはよかったな」  
 
 サジムは椅子に座って、近くに置いてあったコップを手に取る。中身は普通の水。  
 中の水を二口飲んでから、一度コップを置く。  
 流しから取り出した皿を、布巾で拭きながら、ルクが緑色の目を向けてくる。  
 
「では、ご主人サマ。また、ワタシの固まりが悪くなってきタラ、その時はさっきみたいにワ  
タシを抱いて下さいネ?」  
「分かってるって」  
 
 適当に手を振って、サジムは頷いた。  
 ふとルクが皿を拭く手を止める。  
 
「……? 以前だったラ、こういう時は拒否してましたケド」  
「あー」  
 
 サジムは呻いた。  
 血を飲ませるから身体を重ねるのは拒否。以前ならそのような態度を取っただろう。ル  
クもそこを疑問に思ったようだった。  
 吐息してから、コップの水を全部飲み干す。  
 窓の外の夜の闇に目を移し、サジムは小さく呟いた。  
 
「やっぱり、ぼくもむっつりスケベか……」  
 
 

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