しばらくの間、二人はくっついたままぴくりとも動かなかった。  
 そして、始まりとは逆に、名残を惜しむように二人の唇が離れていく。  
「……っはぁ。え……と、だったら、どうなるんだ?」  
 想い人の間抜けな言葉に吉村は苦笑する。だが、すぐにそれは満面の笑みに変わった。  
「信じられないけど、僕たちは両想いってことだよ」  
「ほんとに?」  
「うん」  
 力強く吉村がうなづくと、香織が吉村に飛びついた。  
 吉村は支えきれずに、そのままよろよろと背後のベッドに倒れこんでしまう。  
「ちょっ、北条さん。その……裸のままだと刺激が強すぎて、状況が状況だし、僕だって男だし」  
「なぁ、吉村?」  
 顔のすぐ横で香織にささやかれて、吉村はどぎまぎした。近すぎて今の香織がどんな表情をしているのか、まるで見えない。  
「な、なに」  
「あたしとしたい?」  
 吉村の頭の先に雷が落ち、前身をくまなくしびれさせたのち、つま先から出ていった。  
 い、今の状態でしたいって、ことはあれのことか?  
 ……セックス。  
 単語が頭に浮かび、心臓は激しくビートを刻んだ。  
「ほ、北条さん?」  
「好きな相手とだったらしたいものじゃないのか?」  
「そりゃしたいけど、けどその」  
「さっきモデルになってて、吉村の視線でなんか気持ちよくなって」  
 さきほど香織の様子がおかしかったのはそういうわけか、と吉村が納得する。  
「これが感じるってことなんだって思って。それで、吉村もあたしのこと好きだっていってくれて、  
 言ってること訳わからないと思うけど……あたしの性格だと、今、勢いでいかないと、後からだと絶対にそんなことできないと思うから」  
 
 先ほど、人生最良のときを迎えたと確信した吉村だったが、それは誤りだったと気づいた。好きな女の子と自分の部屋で二人きり、女の子は全裸、しかも両想いになったばかりで、彼女はひとつになろうと誘っている。  
 明日から、世界中の神様に感謝して生きよう。  
「ほ、北条さんがいいのなら僕もしたい。でも、その前にこっち向いてくれないかな。顔が見たい」  
「見れるわけないだろうっ! こんな状況で!」  
 首筋まで真っ赤になって、香織が怒鳴った。  
「恥ずかしいの?」  
「殴るぞっ」  
「それは嫌だけど……」  
 そこまで言うと、吉村はすばやく香織と体を入れ替えた。あっけにとられている香織に吉村がのしかかる。  
「えっ? だめだっ、見るな!」  
 香織が慌てて顔を隠そうとするも、両腕を押さえられてままならない。  
 涙で潤んだ瞳も、薄桃色に染まった頬も、日に焼けた肌も、細い首筋も、鎖骨のくぼみまでもが綺麗だと吉村は感じた。  
「綺麗だ。すごく」  
 そして、今度はゆっくりと顔を近づけていく。  
 香織もそれに応えるべく、目を閉じた。  
 空手少女の意外に長いまつげも、緊張して固く結ばれている唇も、すべてが恋人を迎えるためにあった。  
 互いの唇にとろけるようにやわらかく、愛おしいものが当たった瞬間、二人は痛いぐらいに強く抱きしめあった。  
 二人はぎこちないながらも、だからこそ情熱的なくちづけを交わした。  
 吉村の舌が恐る恐る香織の唇に触れた。香織はびくりと体を震わせたが、それに応えるべく唇をわずかに開いた。  
 隙間から、進入した恋人の舌は、とびきり甘く感じられた。それをさらに味わいたいと、香織も舌を絡ませる。  
 くちゅくちゅと舌が動き、吉村の舌が香織の中に触れるたびに、そこから融けていきそうな心地になる。  
 
 いつしか香織はキスのとりこになっていた。  
 互いの舌を思う存分に味わい、唾液を交換しあい、唇の心地よさを堪能する。  
 吉村が顔を上げると、香織はうっすらと目を開いて、ものほしそうな視線をよこした。  
 それに応えるべく、今度は軽い、触れ合うだけのくちづけを交わす。  
 吉村が視線をおろした。はりのある美しい丘が目に入る。おそるおそる小さなふくらみに手を伸ばしてみると、それは掌にすっぽりと収まった。  
 胸から伝わるぬくもりを感じながら、香織は頬を染めた。  
「あの、その……胸小さくてすまない。こんなところまで女の子らしくなくて」  
 自分を卑下する香織を止めるべく、吉村が手を動かす。  
「んっ! はぁ……ん」  
「可愛い女の子しかそんな声はだせないと思う」  
 餅のようにむにむにとやわらかい感触を味わいながら、吉村がふくらみ始めた先端をつまんだ。  
「ひぁっ、そこはぁ、んんぅっ」  
 こらえようとする香織の意思を無視して、敏感な部分をつままれた体は敏感に反応する。我慢しきれずになかば悲鳴のような声が漏れた。  
 小ぶりな乳房のぶんまで頑張ろうというのか、乳首が痛いぐらいに立ち上がり、とがっている。  
 意地悪をしたくなった吉村が、可愛らしい突起を指ではじいた。  
「ひやぁっ」  
 しびれるような痛みが走ったかと思うと、じんじんと熱をともなって快感が広がっていく。  
 香織はもはや吉村の思うままだった。  
 しばらく胸をいじりまわし、香織をもてあそんでいた吉村だったが、とうとう我慢できなくなった。  
 淡いピンクの乳首に舌を伸ばす。味を確かめるようにひと舐めするともう止まらない。胸に吸い付き、思う存分しゃぶりだした。  
「うあっ、きゅ、急にそんなっ。くぅ、はぅぅ……」  
 オナニーもしたことのなかった香織に、この刺激はきつすぎた。  
 乳首を優しく甘噛みされるたびに口の端からよだれをたらし、胸を揉みしだかれるたびに目が潤み、恍惚とした表情で吉村の頭を抱きかかえた。  
「あ、あっ。なんだ……んっ、こんなのぉ、知ら……なひぃ」  
 
 お椀のようにというには大きさが足りないが、形のよい胸がゆがめられるたびに、香織の声が切羽詰ったものになっていく。  
「北条さん」  
 耳元でささやかれ、乳首をつまみあげられた瞬間。香織の受けた悦びは頂点に達した。  
 背筋をのけぞらせ、快感に耐える香織。  
「んっ、あ、あ……ひぁぁぁ!」  
 いきなり様子の変わった香織に驚いて、吉村が顔をあげた。  
「北条さん?」  
「……なんか、すごかった」  
 全身を包む幸福感の余韻に浸っている香織の顔は、少女ではなく女になっていた。  
 あまりの色気の股間にさらなる血液が流れ込む。  
「もしかしてイッちゃったの?」  
「この感じがっ、ふあっ、そういう……ことなのか? わからないけど、そうかもしれない」  
 ぼんやりとした意識のまま、余韻に震える香織が応えると、吉村は嬉しくなった。そして、もっと気持ちよくしてやりたいという心がわいてくる。  
「もっと気持ちよくしてあげる」  
「?」  
 怪訝な顔をした香織だったが、自分の下半身に手が伸びていくのをみて事態を察した。  
「ちょ、ちょっと待て」  
 そこを触られるのは、まだ少し怯えがあった。  
 慌てて体を起こす。  
「あ、あたしばっかじゃ悪いからさ、今度はあたしがして……」  
 そこで、初めて香織は吉村のズボンが膨らんでいるのに気づいた。  
「うわっ!」  
 叫んでしまってから、慌てて口を押さえる香織。  
 あ、あれは、あれがぼっ……してるんだよな。  
 あたしは、本当に今からするんだ、セックス。  
 いまさらだが、事態を改めて理解すると、試合のときでさえ感じたことのないような緊張が香織を襲った。  
「え、えっと、吉村も脱いでくれなひと、あたしだけ裸っていうのも困る、から?」  
 香織の声が裏返り、緊張から妙な話し方になる。  
 その言葉に、いまさら脱ぐのも恥ずかしいね。と照れくさそうに笑いながら吉村が服を脱いでいく。  
 
 全裸になった吉村への香織の視線は陶然、股間に集中した。  
 ぽかんと口をあけて、呆然と見つめる。  
「さすがにそんなに見られると恥ずかしいんだけど」  
 とは言うものの、吉村は隠そうとはしない。  
「どうすればいい?」  
「とりあえず……手でしごいてもらうとか」  
「こっ! これを!?」  
 香織が大きくのけぞった。  
「いやだったらいいけど」  
「あたしがやるって言ったんだからやる」  
 ベッドから降り、吉村の足元に座りこむ香織。  
 顔をそむけ、できるだけ見ないようにしながら、香織はペニスに手を伸ばした。  
 しかし、触れる寸前で手が止まってしまう。  
「やあっ!」  
 場違いな気合を発すると、香織の手が素早く動き、勃起したものを握り締めた。  
 驚いたのが吉村である。まるで加減せずに勢いよくこられたため、握りつぶされるかと思うほどに痛い。  
「ぎょぉおっ! 痛い! 痛いってば、もっと力抜いて優しく」  
 情けない悲鳴をあげるがこれは男なら仕方ない。  
 顔を真っ赤にしながら、申し訳なさそうに香織が力を緩める。  
「ごっ、ごめん! 加減がわからなくて。ここからどうすればいい?」  
「そのまま上下に動かしてくれると嬉しいんだけど」  
「わ……わかった」  
 ごくりと生唾を飲み込むと、香織はがしがしと荒っぽく握り締めたそれをしごきたてた。  
 途端に吉村が二度目の悲鳴をあげる。  
「いっ! 痛いっ!」  
「ご、ごめん!」  
 ぱっと手を離した香織は、おそるおそる自分の握っていたものをちらりと見ると、即座に視線をそらせた。  
「もっと優しくしてくれると嬉しいな。ここは急所だし」  
 正確には睾丸が急所なのだが、敏感な部分ということに違いはないだろう。  
 現に、吉村の目には涙が滲んでいる。  
 
「なんでこうなんだろうあたしは……。がさつで……」  
 香織は度重なる失敗に頭を垂れて落ち込んでしまう。  
「だれだって始めてはしょうがないよ。慣れればいいだけだし」  
「なっ、慣れるかな」  
 うつむいた香織のほほに朱が走るが、吉村からはつむじしか見えない。  
 吉村も言ってはみたものの、慣れている香織が想像できない。むしろ慣れないままのほうが可愛いかな、とやくたいもないことを考えてしまう。目の前の少女に知られたら正拳が飛んでくること間違いなしだ。  
「……とりあえず、もう一回してもらえる?」  
「う、うん」  
 吉村のものはダメージを負ったことを微塵も感じさせずに、そそり立っている。  
 今度はゆっくりと、しかし目はそっぽを向いたままで、香織はペニスを包み込むようにして触れた。  
「痛くないか?」  
「うん。大丈夫」  
「よし……それじゃあいくぞ」  
 わずかに不安をおぼえた吉村だったが、今度は三度目の正直というやつだった。  
 しゅにしゅにと皮のこすれる音が聞こえるたびに、ペニスに血液が流れ込みさらに硬く、大きくなる気がする。  
「これでいいのか?」  
 真剣な様子の香織なのだが、やっていることがやっていることだけに、どことなく間抜けな感じがする。  
「気持ちいいよ。北条さん。好きな人にされるのってすごく気持ちいい」  
「そんなのは言わなくていいっ!」  
 ぎこちなかった香織の動きもしだいに滑らかになっていった。  
 それにつれて吉村の息も荒くなっていく。  
「北条さん」  
「なんだ」  
「その、今度は……口でして欲しいって言うのはだめかな」  
「口で? なにを?」  
「僕のを舐めて……」  
「変態っ!?」  
 勢いよく顔をあげた香織が叫んだ。  
 
「いいっ! 違うって。けっこう普通のことのはず……だと思う」  
「本当に? 私をだますつもりじゃないだろうな」  
 眉をよせ、あくまで疑う香織。はっきりいって香織の性知識は小学校の性教育に毛が生えたようなものである。そんな世界にいればフェラチオなどはアブノーマルな行為にしか思えないのだろう。  
 見つめられることに耐え切れなくなったのか、吉村が手をばたばたと振った。  
「無理ならいいよ。全然いいから」  
「いや、あたしも女だ。他の女がしてるなら負けられない。どうすれば気持ちいいんだ?」  
 勝ち負けの問題ではないとは思うものの、せっかくその気になってくれたのに水を差すほど吉村も枯れてはいない。  
「えっと……口でくわえてしごいたり、舐めたりすればいいと思う。それじゃあ、よろしく」  
 よろしくされてもおいそれとできるものではない。  
 口に含むとなれば、さすがにそれを見ないわけにはいかない。  
 血管が浮いて、痛いぐらいに勃起したペニスをまんじりともせずに見つめる。  
 眉はしかめられたままで、とても色事の最中とは思えない。  
「ほんとに無理ならいいから」  
 心配した吉村の声も耳に入らない。  
「あー」  
 がぱりと口を開け、ゆっくりと口元を近づけていく。  
 ちらちらと香織の舌が口の中で動いているのが吉村に見えた。それが今から己のものにからみつくのだと思うと、それだけでイッてしまいそうになる。  
 香織は緊張しているのか、呼吸の感覚が短い。はぁはぁとかすかな息遣いが部屋の片隅に響く。  
 そのため、吉村はペニスで香織の息遣いを感じ、その緊張ぶりを察することができた。  
 開かれた香織の唇から舌が顔を出した。いつのまにか香織の瞳は閉じられている。まつげが小刻みに震えていた。  
 少しずつ、香織の口元に吉村の勃起したものが近づいていく。  
 すえたオスの匂いが香織の鼻を刺した。以外にもそれほどいやな匂いだとは思わない。  
 もう、吉村が香織の舌先の熱を感じられるほどの距離に達し、粘膜同士が触れようかという瞬間。  
 
「や、やっぱり恥ずかしくて無理だっ! できない!」  
 真っ赤な頬をさらに染めて、香織が顔を上げた。今にも泣きそうな顔をしている。  
「こ……今度までには絶対にできるようにするから、練習するから……今は許して!」  
 それほど恥ずかしいのを堪えて、そこまで頑張ってくれたことだけで吉村は満足だった。  
 そして想いが堪えきれずにあふれ出る。  
「ああ! いつもはあんなに凛としてかっこいいのに、今はこんなに可愛いなんて! それも僕のために!!」  
 吉村が確実になにかを踏み外した。  
「馬鹿なこと言うんじゃない!」  
 暴れようとする香織をベッドに引き上げると、キスをしながら押し倒す。  
「んむ! んっ……」  
 とたんに香織の体から力が抜けていく。  
「北条さんがあんなに頑張ったんだから次は僕の番だよね」  
 勝手に宣言すると、吉村は舌を香織に這わせだした。  
 胸元の白と褐色の日焼けの境界線にゆっくりと舌で触れたのを皮切りに、じっくりと味わうように香織を舐めつくす。  
 まず左側の鎖骨をなぞり、胸をとおり、わきに到着する。同じように右側も丹念に愛撫していく。  
 舌が動くたびに香織の体は小刻みにふるえ、可愛らしく反応した。  
 おなかのあたりに舌がやってくると、香織の体が硬直した。  
 なぜなら、そこは香織が誇らしく思うと同時に、嫌悪している部分でもあったからだ。  
 普通の女の子とは違う部分。割れた腹筋は鍛え上げた自分の証であり、女らしくない自分の証でもあった。  
「そ、そこはいいよ……そんな男みたいなところ」  
 香織が弱々しく恋人をとめようとする。  
「どうして? ぜんぜん男みたいじゃないよ。すごく、すごく綺麗だ」  
 腹を割っている線にいとおしげにくちづけした吉村は、今まで以上に執拗に口を動かした。  
「……っ、ふぁっ、あっ、くぅぅ」  
 触れられた部分への嫌悪感がどんどん消えていく。残るのは誇りだけ。  
 香織はくすぐったいような、気持ちいいような、妙な心地で吉村に感謝していた。  
「ひゃっ」  
 おへそを舐められた香織が悲鳴をあげたのをきっかけに、吉村は香織のお尻に手を回し軽く持ち上げた。  
 
 香織の足は自然と開かれてしまう。当然、大事な部分は丸見えだ。  
「ちょっ、吉村っ! 見るなっ、やめろっ」  
 ぱっくりと開かれた足を閉じようともがく香織だが、普通の体勢ならともかく、今のような格好では力がまるではいらない。  
 しかし、吉村は吉村でなにを考えているのか、なかなか香織自身に触れようとはしない。ただ、じっとそこを見つめるだけだ。  
 すると香織はモデルをしていたときよりも激しい視線を感じ出した。しかも今度は本当にそこを触られているような感覚さえする。  
 じっとりと、体の奥から蜜が湧き出した。  
 その様子を見ても吉村はまだなにもしようとしない。いや、顔を近づけて匂いを嗅いでいるようだ。  
 ひくひくと鼻を動かすと、鼻腔を通り抜けた匂いが直に脳を刺激する。  
 初めて嗅ぐ馥郁たる女の香りは吉村を夢見心地にさせた。  
 が、その行為は香織にとっては羞恥を煽ることに他ならない。にもかかわらず、なぜか快感は増していくばかりだ。  
 やがて、香織の秘所に溜まっていた愛液は限界を超えたのか、とろとろと重力にしたがって流れだした。  
 ひきしまったお尻の割れ目にそってこぼれていき、とうとううっすらと色素の沈着した小さなすぼまりにまで達する。  
 その頃になると、香織から普段の強気さはなりを潜め、ただ弱々しい声しかでなくなっていた。  
「吉村ぁ、本当に恥ずかしいんだ……」  
 小さな声が耳に入ったのか、吉村がおもむろに動いた。  
 しかし、香織が想像したように手を離したのではなく、指でそこに触れたのでもなかった。  
 吉村は、さらに香織のお尻を持ち上げると、自分はそのままの格好で首を伸ばし、香織の秘所にむしゃぶりついた。  
「そんなところ、んっ! くぅ……ひっ、だめ、だっ」  
 初めて味わう女の味に、吉村は夢中で舌を動かし、音をたてて蜜を吸った。  
 一方、香織ももっとも敏感な部分をいじり、舐めしゃぶられて頭が羞恥と快感でどうにかなりそうになってしまう。  
 やわらかい肉ひだをうねうねと動く舌が掻き分けていくたびに、背筋がのけぞり、かみ締めた唇からは堪えきれずに甘い悲鳴が漏れる。  
 
 偶然、歯がひっかかり、包皮から埋もれていたクリトリスが顔を出すにいたって、香織は恥も外聞もなく吉村の頭にしがみついた。  
「も、もうっ、本当にこれ……以上はだめ、らめらっ!」  
 切羽詰った香織の様子に、さすがに吉村も顔をあげた。口元は香織の体液でぐしょぐしょになっている。それを手で拭うと、真剣な表情で香織を見つめた。  
 香織は今までに感じたことのない感覚を受け止めきれずに泣いていた。ぽろぽろと涙をこぼしている。  
「怖いよぉ。吉村ぁ、なんだかおかしいんだ。あたし、あたし・・・」  
 吉村が優しくキスをしてやると、香織はわずかに安心したようだった。しゃくりあげるのが止まった。  
「いまからするよ。初めてはつらいって聞くけど、できるだけ優しくするから」  
 恋人の言葉を全面的に信頼しているのか、香織は黙ってうなずいた。  
 それを合図に吉村が腰を動かし、挿入しようとする。しかし、初めてで緊張しているせいか、なかなか上手くいかない。  
 濡れた表面をこするばかりで中に進入できず、失敗の数だけ香織が嬌声をあげた。  
 幾度目かの挑戦の末、ようやくこれまでにないぐらい硬くなった自身の扱いに慣れたのか、香織の入り口に亀頭がわずかに沈み込んだ。  
 はぁはぁと香織の呼吸が吉村の耳に届く。それにリズムを合わせ、一息にペニスを香織の中に沈めた。  
 香織の中は素晴らしい締め付けだった。他人をなかなか受け入れない性格そのままに、媚肉は吉村の侵入を拒む。  
 しかし、一度ペニスを許してしまうと、きつすぎるといってもいいほどに、きゅきゅうと初めての男を捕まえて離そうとしない。  
 まさに香織そのものだった。  
 その上、内側のひだが常にうごめき、間断なくペニスを刺激する。  
 香織の引き締まった身体をつくった空手は、こんな部分にまで極上の影響を及ぼしていた。  
 
 目をぎゅっと閉じ、初めてを堪える香織。縋るものを求めて、その手は自然と吉村の背中にまわされていた。  
「くぅぅぅっ」  
 香織が眉を寄せ、破瓜の痛みに耐えるそぶりをみせる。  
 あまり刺激しないように、吉村もぴたりと動きを止めた。  
「どう? 痛い?」  
 ただ体を硬くしている香織を案じて、吉村が声をかける。  
 しかし、香織はゆっくりを首を振った。おそるおそる閉じられていたまぶたをあげた。  
「……痛くない」  
「へ?」  
「全然」  
「え?」  
 予想外の展開に、吉村は間抜けな受け答えしかできない。  
 ぼんやりしたままでいると、香織が困惑した顔で口を開いた。  
「なんだか変なっ、あっ……感じはするけどぉっ、痛くはない。は、初めてって痛いものなんだろう? なんで? あたし、本当に初めてなのに、なんで? 嘘なんかついてないのに、痛くないよぉ」  
 激しい運動をしているうちに、処女膜がなくなってしまうということがある。香織の場合は厳しい空手の練習中になくなってしまったのだろう。  
 しかし、そんなことのわからない香織は、自分が嘘つきだと疑われるのではないかと怯えている。  
 そんな香織を吉村は強く抱きしめた。  
 自分を包み込む力に香織は安堵する。  
「大丈夫。嘘ついてるなんて思ってないから安心して。初めてが痛くなくてよかったよ。北条さんを苦しませなくてすんだんだからさ」  
 きゅっと自分に覆いかぶさる体にしがみつき、泣きそうな声で香織が言った。  
「……吉村ぁ」  
「かっこつけすぎてる?」  
「ばか」  
 言葉の意味とは裏腹に、それを言った香織は幸せそのものだった。  
「動いていいかな」  
「うん」  
「良かった。じっとしてるだけで気持ちよすぎて、北条さんを気持ちよくさせてあげられなくなりそうで」  
 香織は照れ隠しに怒鳴ろうとした。しかし、それはかなうことがなかった。  
 おそるおそる吉村が腰を動かし始めたからだ。  
 
「ひぁ! ……あっ」  
 ぱくぱくと香織があえいだ。  
 破瓜の痛みがなかったとはいえ、初めてに変わりはない。  
 隙間なくペニスに絡みついた柔肉をこすられて、声にならない声をあげる。  
「痛い?」  
 ぷるぷると首を振る香織。  
「ち、違う。……電気が走ったみたいになって」  
 吉村は安心して再び動き始めた。  
 みっしりと詰まった香織の秘部は、自分のものを引き抜くのにも力がいるほどに、吉村を咥えこんで離そうとしない。  
 たっぷり時間をかけて一往復を終えると、香織は放心したようにぽっかりと口を開けていた。  
 本人の意思とは関係なく、ひくひくとうごめく内壁が、香織の感じている快楽の度合いをあらわすように激しくうねって、更なる動きを求めている。  
 それに応えて吉村は抽挿を繰り返した。  
 はじめはぎこちなかった動きも回を重ねるごとに慣れたものになっていく。  
 肉棒が突き入れられると、そのぶんの愛液があふれ、シーツを汚した。  
 ぐちゅぐちゅと粘膜が絡まりあい、二人は初めての行為に没頭していた。  
「はぁっ、くぅぅん。よひむらぁ、すごひよぉ……あそこが、あそこがぁ」  
 すすり泣くようにして押し寄せる快感の波に耐えながら、香織が吉村の背に回した手に更なる力をこめた。  
「北条さん、僕も気持ちいいよ」  
 好きな女を思うままにしているという満足感が、吉村の行動を加速させていく。  
 今まで以上に激しく、香織の奥まで侵入する。  
 体の一番奥を突かれ、思わずのけぞった香織が、恋人の背中に爪をたてる。  
「ひぁぁっ! あぁ……んぁっ、こわひよぉ、おかしくなるぅ……」  
 吉村の体にしがみつくようにまわされていた足が、香織の自由にならなくなり、伸ばされる。ぴんと伸びた爪先が痙攣するように揺れた。  
 それでも、嬌声をあげるのを恥ずかしがっているのか、大声を出すことはせず、ひたすらに堪えている。  
 一方の吉村は限界に近づいていた。  
 ただでさえ狭かった香織の中が、きゅうきゅうと締まりだしていたからだ。  
 吉村がピストンに慣れだしたように、香織の媚肉も男を受け入れることに慣れだしたのだろう。今まで以上に妖しくうごめき、吉村を責めたてた。  
 
「あぁーっ! だめ、だめ……もうらめぇっ!」  
 とうとう我慢できずに、香織が嬌声をあげた。  
 と、同時に吉村も限界を向かえた。初めてにしては十分以上に耐えたと言っていいだろう。  
 慌てて己のものを引き抜こうと身を引く。  
 しかし、なにを勘違いしたのか香織が吉村にしがみついて離そうとしない。  
「らめぇ、はなれなひでぇ……怖いよぉ」  
「っ! 北条さんっ!」  
 恋人の名を呼ぶと、吉村のペニスがびくびくと痙攣した。  
 亀頭が膨らんだかと思うと、勢いよくどろどろの濃い精液を放出する。  
 もはや声もでない香織がのけぞり、秘所が最後の一滴まで搾り取ろうと肉棒を締め上げた。  
 香織は一つにつながったまま、気を失い、ぐったりとベッドに沈み込んだ。  
 主の意識がなくなってからも、淫部はぴくぴくと動き、最後まで吉村に尽くそうとしている。  
 力を失った己のものを抜き取ると、荒い息をつきながら、吉村は香織を見下ろした。  
 自分以上に荒い息遣いでいるが、その顔は幸せそうに安らいでいる。  
「はぁー」  
 大きく息を吐くと、吉村は二人とも汗だくなのに気づいた。  
 タオルを取ってこようとベッドを降りかけた吉村だったが、ふと思いついて再び香織に覆いかぶさった。  
 そのまま香織の汗を舌ですくい、舐めだしたのだ。  
 首もとをぺろぺろやっていると、くすぐったいのか、口元をほころばせて香織が身じろぎする。  
 それを面白がって舌を動かしているうちに、香織が目を覚ました。  
 初めのうちはぼんやりとしたままで、状況がわかっていない様子だったが、しだいに意識がはっきりしだしたのだろう。自分の体を嘗め回している吉村に気づいた。  
「なにをしている」  
 まだ本来の調子をとりもどしていないのか、どこか間抜けな質問だった。  
「汗を拭き取ってるんだ」  
「舌でか」  
「うん」  
 こっくりと吉村がうなずいた。  
 ここでようやく覚醒しきったのだろう。  
 素早く飛びのくと、布団で体を覆い隠した。  
 
「へっ、変態!」  
「普通の恋人どうしならみんなやって……」  
「それは絶対嘘だっ!」  
「ばれた?」  
「当たり前だっ」  
「でも、体はなんとかしないと。とりあえず……シャワーでも浴びる?」  
 
 香織の強固な主張により、二人は別々にシャワーを浴びた。  
 風呂場まで服を抱えて走る香織の揺れるお尻を見て、飛び掛るのを我慢したり、シャワーを浴びながら、背中の引っかき傷の痛みににやにやしながら耐えていたのは吉村だけの秘密である。  
 照れくさいような、嬉しいような。恥ずかしいような、どきどきするような。不思議な心地で二人は部屋に戻った。  
 しばらくの沈黙のあと、吉村が口を開いた。  
「えっと……モデルの続きしてもらっていいかな」  
 途端に香織の顔が真っ赤に染まった。  
 先ほどまでの行為のきっかけとなったことを思い出したのだ。  
 あたふたとしている香織を見て、吉村が苦笑する。  
「大丈夫。今度はきちんと服をきてもらうから」  
 それを聞いて、今度は香織が苦笑した。  
 それから一時間。様々なポーズの香織を吉村がスケッチブックに写し取っていった。  
「どうかな、これなんかいい感じに描けてると思うんだけど」  
 吉村が香織でいっぱいのスケッチブックを開いた。  
 香織がそれを見て溜息をつく。  
「やっぱりあたしじゃないみたい」  
「その、僕が言うのもなんだけど……北条さんってもっと自分に自身を持っていいと思うよ。すごく綺麗だし」  
「なに言ってるんだ」  
 ばしばしと吉村の背中を香りが叩く。  
「ぐっ、いや、本当に、モデルがいいから僕の絵も上手く見えるんだ。それに……」  
 そこで言葉をきると、吉村は意を決したように再び話しだした。  
「それに、やっぱり好きなことを一生懸命やってる人はすごいと思う。  
 だから、その、つらいときもあると思うけど、僕に手伝えることがあるならなんでもするから、あんまり自分を嫌いにならないで欲しい」  
 言い終えると吉村は香織の様子をそっと窺った。  
 
 香織はしばらく黙っていたが、ゆっくりとうなずき、かすかに笑った。  
「北条さん!」  
「本当にありがとう。心配してくれて。うん、あたしはもう大丈夫だと思うよ。なんだか吹っ切れた。  
 吉村の言うとおり、好きでやってる空手なんだ。吉村見ててそれを思い出した」  
「僕を?」  
「吉村が絵の話するときとか、描いてるときとかに、楽しそうだったり、嬉しそうだったりするの見てて、なんか最初に空手始めたときの気持ちを思い出した気がする。  
 空手習い始めたときはそんな周りの期待とか、プレッシャーなんかぜんぜん感じてなくて、ただ自分が好きで楽しかったからやってたんだと思うと、今の自分がバカらしくなってさ。  
 吉村が言ったみたいに、あたしには休憩が必要だったんだなと思う。今だからそう思えるんだろうけど。いい息抜きになったよ。  
 それに……その、空手以外の楽しみも見つけられそうだし」  
 香織は言い終えるとはにかむように笑った。  
 
 それから三日後。香織は引き止める吉村をむりやり引きずって、前回の試合で負けた大山美冬の通う学校をたずねた。  
 なかば道場破りのようなかたちで訪れた香織の頼みを美冬は快く受け入れ、二人は試合をすることになった。  
 結果は引き分け。勝てはしなかったが、香織にとって満足のいく試合だった。  
 芯が太くなった感じがする。とは対戦後の美冬の言葉である。  
 
 その後、密かにファンの多かった香織を奪ったとして吉村が多くの男子生徒と少数の女生徒に恨まれたり。  
 文化祭に出品された香織をモデルとして描いた吉村の絵が、うっすらと情事の後をイメージさせるとして学校で問題になったり。  
 当日になって絵のことを知った香織が吉村に上段回し蹴りをきめたり。  
 色々あったがそれはまた別の話である。  
 

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