高層階マンションに芸能界を席巻したアーティスト、倉木愛がいると誰が知るだろうか。しかし流動の激しい歌手業界において、人気を落とさずに売れ続けるのは難しいことだ。
愛も例外ではなく、今では時々の新曲発売などは控えていたが、テレビ、新聞によるメディア出演はめっきりなくなりさびしい毎日を送っていた。
「あーあ、最近暇ね。プロデューサーもあんまりいい話をしてこないし、もうダメなのかなぁ」
高級ソファーに腰を掛け、二十代を過ぎ、一息ついて自分の境遇を考え始める。
自分では昔のはつらつとした元気な姿も、自慢の長い髪も、顔つきもけして衰えてはいないと感じていた。
それに歌も踊りも依然自信はある。ただ若者や社会が手のひらを返したように、扱いを変えたのを感じて明らかに戸惑うばかりだ。
浮いた話もない今は好きなクマのぬいぐるみに毎日話しかけ寂しさをこらえるしかない。
「あれ、誰か来たのかな?」
チャイムの音に気づく。先ほどから何度もなっていたようだが、これからを考えすぎたため耳に届いていなかったのだ。
防犯のためにドアの向こう側を映すテレビを見たとき、愛は予想もしないものを見て息をのんだ。
テレビのモニターに映っていたのは、薄汚れたスーツに乱れたYシャツ姿の男、髪も服と同じく手入れをされていない。
そのみすぼらしい男こそが、愛の父親だった。愛が幼少のころに母親と別れ、次に会った時には自分のそっくりさんで儲けようとした男だ。
二度と会いたくないと思った男、それがいますぐ十数センチのドアの向こうに立っている。父親は弱弱しい声で話しかけてきた。
「あ……愛ちゃん。いるんだろ。パパだよ。ほら、いれてくれないか。お願いだよ」
「……何しに来たの。早く帰ってよ!」
愛は叫ぶようにして答えた。胸の奥が急激に冷えていくのを感じる。手足が痒くなり、また血が引いていく。細胞すべてがこの男を否定していた。
「あー、すんまへんな。入れてもらえますか。色々外じゃ話せんことがあるんで」
第三者の声が聞こえなかったら、ドアを開けずに無視してベッドに飛び込んでいたはずである。
それを止めたのは人を抑え込む力をもった声のせいである。慌てて声の主を見ると父親の後ろから、サングラスをかけた小柄な男の姿が見えた。またほかにも数名の男が後ろに構えているようだ。
(このままだとまた騒ぎになっちゃう)
以前にも父親でマスコミを騒がせて呆れられている。今度大騒ぎになれば、もう二度と芸能界での浮上はない。愛は怯える手を押さえながらドアを開けて男たちを迎え入れた。
「コーヒーでも……入れましょうか」
「ああ、いりまへん。お気になさらず」
居間には六人の男たちが集まる。父親はもとより皆まともな仕事についていないような雰囲気を漂わせている。こんな場面を他人に見られただけで一大事だ。
「実はお宅のお父さんがわしらに借金しとりましてな
男は自分を石崎と名乗り、軽い口調で話し始めた。彼らは父親に依然話題になったそっくりさん騒動の企画に出費したスポンサーだった。
しかし事務所とのゴタゴタとマスコミ騒ぎで発売は中止され、損失はすべて企画した父親にかぶってきたということだ。最後にはニッチも察知も行かなくなった父親が泣きついてきたのが娘の愛だった。
「で、私にお金を払えっていうんですか?ふざけないでよ!」
愛は怒りを父親にぶつけるほかなかった。今までもこれからも迷惑をかけ続けるこの男に対して、それ以外に感情の生きようがないのだ。
「まあまあ、ところで愛さん?今いくらぐらいお金都合できますか」
「そんな払うなんて!……とりあえず二千万程度ならありますけど」
根が優しい愛は憎々しい父親が今にも死にそうな顔でいることに耐えられなかった。ただ今の愛に金はほとんどない。金持ちの性でもあるが苦しむ友達にあげて支援をしたり、事務所の言われるようにして給料を決めてきたためだ。
今はほとんど儲かる手段も、CDも売れないためにマンションに住み続けるだけで手一杯というありさまだった。
「足りまへんな。あと五、六倍はいります。色々と他にも都合したりしてたんでね。事務所から借りるってのは無理でっか」
「事務所は無理です。言うのはつらいですけど……ほとんど見捨てられてる状態で、他のアーティストに手を取られてますし」
「そうでっか、ならわしのほうでいい案があるんですが……」
石崎が愛の金策に困っている顔に、助け船を出すように金を儲ける手段を話し始めた。ただし案は愛が絶望と怒りと苦悩を同時に起こさせるほどのつらいものだった。
「で、出来るわけないじゃないですか!お、お父さんと一緒にAVビデオに出演するって」
「そうですな、大変ですな」
話によれば父親と娘による近親相姦ビデオの撮影、それをよりによって歌姫とされていた倉木愛に求めるという。愛は話を聞き終わらないうちに、すぐにでも男たちをたたき出したい感情に駆られる。
「でもいいんですよ、こういうのは。あまりに嘘すぎる内容だと信用されまへんやろ。歌姫と父親のファックなんて見ても信じる人いませんし」
「……できません」
長い沈黙の後、それだけ言った愛を一瞥した石崎はため息をついて立ち上がった。周りの男たちも同じようにうなづくと玄関に向かう。もちろん父親は逃げられないように両手を抱かれている。
このあとは父親が彼らに好きなようにされ、下手をすれば命の危険にさらされることは確かだった。父親自身もよくわかっているのか、おびえた表情とともに滑るフローリングに無駄な抵抗をして足を踏ん張る。
しかし男二人の力に引きずられてはどうしようもなかった。すべてが無駄な抵抗だ。
「あ、愛ちゃん。パパを助けてよ!愛してるよ、本当だよ。助け……」
「それでは失礼します。ご迷惑おかけしました」
石崎の最後の一言は妙に律義だった。愛は石崎の後姿を見守るほかなく、じっと考え事をするしかない。頭の中では今までの父親の姿や、記憶のすみに残る父親の思い出が小さく映っては消えていく。
石崎の手がドアノブに届き開いた直後に愛は必死に声を絞りだした。
「お受けします」
一時間後、ベッドの周りで男たちが撮影の準備をしている。服はラフなスタイルのTシャツとスカートでベッドに腰をかけている。父親は隣で目を伏せつつも、チラチラと愛の方を向いて反応をうかがっていた。
もうスーツは脱いでブリーフ一丁という代わりようだ。ブリーフに目を寄せると大きくテントを張っており、とても興奮している様子である。
愛は出演の条件を決めた。表には売らない、一回だけで終わらせる、最後の挿入時には必ず避妊、すなわちコンドームの着用を持ちかけた。石崎は二つ返事で承諾したが、後悔はいまだに消えない。
(逃げちゃいたいよ)
愛の純粋な気持ちだった。しかしベッドの先でイスに座って指示を行う石崎は乗り気で、引き返すことはできないということを肌身で感じていた。
「それじゃ、はじめますんで。3、2、1、よしっ」
石崎の合図とともにライトを適度に当てられ、二人は小型のカメラに向かってあいさつをする。最初は愛の番だ。
「ど……どうも蔵元……愛です」
顔を隠し影で映らないように抵抗するが、石崎は許さない。カンペの紙がカメラ外から提示される。
『それじゃだめやろ!モノホンっぽいが。偽もんにしたいなら、それこそもっと明るくやらんと』
確かに愛の抵抗するしぐさ、それは親子による近親相姦を嫌う女の顔でしかない。愛はすべてを捨てて笑顔をとりつくろう。
「……ハーイ、蔵元愛でーす。みんな初めましてー。ファンの方もいるのかな?今日は私とパパのセックスを見てくれてありがとう」
昔よくテレビに出ていたときと同じように元気に言い切る。目の前にいるのはヤクザと安っぽいカメラと部屋の照明しかなく、恐るべき違いではあった。
父親の方はどこでも自分の本性を隠す気はないようで、命が助かった高揚感も相まってうまく空気に乗って話を始めていた。
「僕がパパです。今日は愛ちゃんが僕といっしょにセックスしてくれるので楽しみにしてました」
恥も外聞もなくスラスラと口から出る言葉の雨あられに愛は驚きと失望する。愛はこんなことをここまで楽しげに語れる男が存在することが信じられない様子だ。
「それじゃ、まずはキスしまーす」
父親は大きな手のひらで愛を掴むと唇を押し付けた。愛は何もできない。なにか反応しても急にキスをされたことと、父親の顔が迫ってきたことで体が固まってしまっていた。
唇と唇をくっつけるだけのキスだが、本当に小さいころにされたキスとはまるで違う、豚にでもキスされているかのような感触しかない。
「大人のキスも教えてあげるね」
唾でよごれた唇、そこへ舌がねじ込まれる。さらに苦痛にゆがむ顔、目は見開かれる。父親とのディープキスなど想像さえしない。
それが目の前で現実となった。可愛らしい舌も、父親の平たい舌で絡み取られ、まるで蛇に締め付けられる小鳥とでも言うような感覚に陥る。
キスは永遠とも思えた二、三分ほども終了して石崎も次のステップに進むように要求してくる。フリップに書かれているのはフェラチオという文字、やはりやるとは思っていても実際にやるとなれば拒否感は圧倒的に強くなる。
可憐で歌を歌うだけに鍛え上げられた唇と喉を、男のイチモツを加えるためだけに使う。それは歌姫の否定でしかないが、父親は乗り気だ。履いているブリーフを部屋の隅に投げ捨て愛の目に男性器を見せつける。
今まで男性と何人も付き合ってきて、セックスもしたことがある。比較的慣れていたとはいえ、自分の父親の男性器はここまで醜悪かと思わず目を閉じた。
細長く黒ずんだソレは娘相手でも逞しくそそり立ち、それでいて時折先端から汁を吹く。また周辺を彩る陰毛のジャングルは手をつけられず自由気ままに伸び臭いを強くさせる。
(こ、こんなのを舐めろっていうの?無理よ、無理に決まってるじゃない)
眼の端から涙がこぼれ、偶然にもペニスの上に落ちて流れて滴る。熱い涙の粒を受けて反省から少しでも萎えればよいのに、そんな仕草はなくますます喜び勇んでいきり立つ。
やがて周りから暗黙の指示のように眼で合図がなされた。娘が落ち込んでるのを知らずに父親は汚れた手で命と同じぐらい大事な髪を掴んで無理やり口にくわえさせる。
「ングッ!グウウッ!」
小さな唇はこじ開けられた。唇だけをピンポイントで移しているため目は映らないが、そこには先ほどよりもたくさんの涙が流れていた。
「はぁぁ……。愛が私のチンポを舐めてくれてる。いいよぉ、愛ちゃん。とってもいい」
一言で表現するなら口内へのレイプそのものだ。歯を立てないと知っているからこそ、無茶苦茶に口の中を突きまくる。おかげで喉にこみ上げるものを押さえられず何度も吐きそうになる。
それを無視して何日も洗わない汚らしいペニスが、舌という極上のマッサージで刺激され歓喜にあふれていた。喉を通じ鼻にかけて異臭も漂う。
「で、出ちゃうよ。出ちゃう!愛ちゃん、出ちゃうよぉ」
愛が目を開いて上を見れていたならば、中年男のあさましい顔が目に焼きついたに違いない。
愛はそんな暇などなく唇と下でしごかれたペニスの先端から、ふいに大量の精液が噴き出てくるのに対処するほかない。
「んー、ンー、んー」
躊躇することなく次々とためられていた精液が喉への向かって流れていく。恥垢と汚れと唾とが混ざる精液を、苦みしか味わえないものを必死に喉へと送り込んだ。
生暖かな口内へ思う存分と精液を送り出した後、ようやく抜き出したペニスを目の前でふるい落とす。おかげで飛び散った精液は愛の顔になすりついていった。
口の端から呑み込めなかった精液は滴り落ちて、その顔はもはや歌姫ではなくただのAV女優でしかなかった。それからしばらくのことは覚えていない。
呆然として寝ている愛の服を取り去って、長く執拗な愛撫が始まった。時間にしておよそ三十分にもわたるもので、髭が乳首や腰、股、大事な部分に押し付けられたことだけ覚えていた。
「よし、そろそろいいんじゃないか?」
「そうですね。ヘヘ、じゃあ愛ちゃん、気持ち良くさせてあげるからね」
愛撫が止まり、愛の視線が父親をとらえた。さっきまでとは様子が違う。父親は愛の股をカエルのような足の開き方にすると猛る自分のペニスをあてがっている。
濡れたそこにいきなり差し込もうとしているのだ。問題は先ほど言っておいたはずのコンドーム着用がなされていないことである。頭には妊娠という文字が不意に浮かぶ。
妊娠危険日は近い。このまま少しでも液が入ろうものならば、最悪の結果は避けられないかもしれなかった。手で押しのけようとしても、つかまれて身動きが取られないようにされる。
両手を捕まれて顔だけ石崎に向けるが、石崎は笑うだけで止めてはくれない。愛は困惑するほかなかったが、父親が耳の近くで言葉をつづけてくれた。
「実は生ハメしたら次のイベント企画の資金をやるって言われてるんだ。だからコンドームはつけないからね。大丈夫だよ、親子で子供なんてできないさ」
愛は驚きの顔を向けた。実に手前勝手で最初から裏切る気があっての撮影会だったのだ。こうなることもわかっていて、無理にやってきた。娘を売る行為に、親としての愛着は失っていった。
「は、放してよ。もうやめる、やめるんだから」
「無理だよ。パパのためにちょっと我慢してくれてもいいじゃない。それにパパも我慢できないよ。愛ちゃんのこんな体見たら……入れるよ」
逃げて噛みついてやろうとする前に動きは止まる。ヴァギナに一気に差し込まれたのだ。深く入ったペニスは、パズルのようにピッタリとくっついていた。
「痛い、痛いよ!」
いくら濡れていても嫌っているものの挿入は簡単ではない。それを無理やり力だけで入れたのだ。それほど伸縮性に富まない愛のヴァギナは父親のペニスに違和感だけしか感じられなかった。
「大丈夫だよ、愛ちゃん。ちゃんとヤッてたら気持ち良くなるからね」
痛みに歯をくいしばって耐える。すぐ近くでは荒い息のカメラマンがカメラを向けていた。接合部分を特に念入りに描写する。愛はそうした現実をみるにつけ、心を閉ざそうとしても閉ざせられない自分への怒りが積もっていく。
だが何と言うことだろう、何回もつかれている内に腰に痺れが生じてきた。しかも痺れは何か異常なものではなく、心地よいしびれと痛みだった。頭が変になっているのではなく、体が父親のペニスを受け入れて適応していた。
血がつながっている者同士は相性がいいというが、愛はそんなことは嘘だと思っていた。またそんなはずはないと思っていた。しかし体は確実に父親のペニスを受け入れ、ヴァギナは父親用へと変化していく。
膣の奥底の子宮を突く猛烈な回数のファック、だんだんと体はなれていく。腰を振る最中にも再び熱いキス、さきほどはあれほど嫌っていたのに、今はなぜか受け入れられる。
頭が拒否しすぎて逆の現象を起こしているのだろうとも思えた。しかし自分の体が父親を受け入れたのを知ると急に愛は考えるのをやめた。父親相手でも楽しんでしまえばいいと、子供をはらんでもいいと思い足が絡みつく。
「愛ちゃんも喜んでるんだね!パパ頑張るからね」
絶望にさいなまれた娘を見て父の腰つきがさらに強く大きくなる。両手で腰をしっかりと掴んで、先走りの液を一滴でさえこぼさないようにと力が入った。
雌としての本能が膣壁はさらに厳しく責め立てて、射精を促し雄へ欲望を放つように収縮する。突っ込まれれば締まり、抜くときには開き、ペニスの動きを助けた。
「いく、いっちゃう。ああっ」
数度の強い締め付けで、ペニスからすごい勢いで精液が噴射されていく。最初のフェラチオよりもさらに多い。精巣にため込んだ精液、全てを相手に送り込もうとするほどの量だ。
何億もの精子がヴァギナの中を入り乱れ、子宮へと向かっていった。愛は精子の流れが腰全体に強い刺激と快楽を呼び起こしているのを感じた。子宮へと突き刺さる精子の流れが、喜びを誘うことを覚えたのだ。
「でてるよ、愛ちゃん。いっぱい出てるよ!」
射精から十秒近くたってもまだ終わる気配はない。数日分、ヤクザに連れまわされろくに体力もなかったが、性欲だけは十二分に残っていた。それをすべて娘へとつぎ込む。
受け入れられず子宮がいっぱいになっても、親子であるがゆえにつながった性器の隙間は逃げ道を失い、またもや子宮へと進んでいくのだ。
(ああ、私本当におかしくなっちゃったのかな。なんか気持ちがいいや)
うつろな目は天井のまぶしいライト、また体の上で腰を振る父親、他の名にもうつさない。快楽のみを映して、甘美な悦びを父親の射精が終わるまでじっくりと味わっていた。
父親は放心して横たわる娘に満足して、ペニスを抜く。脱力したペニスは首を下に提げて、先から残りの汁を床のカーペットの上に垂れ落とし続けていた。ヴァギナからもやっと逃げ道を探し当てた精液が落ちてシーツで溜まりを作る。
最後まで終わったが、石崎はさらに性行為続行の合図を出した。一度程度で数千万をチャラにされてもしょうがないというわけだ。ほかの男たちも撮影を続ける。
(またやるんだ……。今度はもっと気持ちいいといいな)
愛は予感していたのか、逃げることはない。今はただ快楽におぼれたかった。すべてを忘れたかったのだ。
愛の思いを受けたのか、それともまだ独りよがりの興奮に書きたてられてか、勇は再度硬直させたペニスを再び会いの中へと突き進ませていった。
『倉木愛、芸能活動から引退を決断』
半年後、ひっそりと芸能スポーツ欄に倉木愛の引退報道が書かれていた。しかし昔は一面を飾っていたのと比べると実に寂しいもので、ファンサイトもほとんど少なくなった今、一部のファンを除いて騒ぐ者はいなかった。
もちろんファンたちはそれぞれ少ないながらも、恋愛での引退や単純な芸能界からの挫折などを語り合った。しかし新しい情報が出てこないので、数か月した後は語るものもいなくなってしまった。
AV業界では公然と本物の蔵木愛のAVとして売られていたが、最後に至ってのともに楽しむ様子があまりにもいきすぎていたためにできの悪い偽造ビデオ扱いされて売上はそれほどでもなかった。それが倉木愛が騒がれた最後の出来事だ。
その後、また数カ月の後にある地方の田舎都市にある産婦人科病院で、出産して数日ほどたったばかりの女が赤ん坊を抱いていた。整えられた清潔なベッドの上で赤子をあやしているのは、まぎれもなく愛である。
近くには数か月前とほとんど変わらないみすぼらしい姿をした男、愛の父親が立っていた。彼は愛とのAVを撮影し交換した後に、また新しい事業にチャレンジしたがあえなく不発、その後、彼女を頼ってここに来ていた。
「なぁ、愛ちゃん。なんかほしいものあるか?なんでも持ってきてやるよ」
愛が本当にほしいのは、数か月前に戻っての歌姫の道、そして男に対して親としての姿だった。しかし望みは叶わず妊娠に気づき、自分を見つめなおしたときに堕胎するという選択はできなかった。
いくら憎んでいる父親でも、自分の父親、目の前の赤子の父親なのだ。今はもうすべてを捨ててこの田舎で暮らす気でいる。愛は自分を世捨て人として、生きていくことを選択した。
父親も普通の仕事を始めると言ってくれている。自分と赤ん坊二人が見ていることが条件だが、男がやっとまともになってくれるという証だ。
「喉が乾いちゃった。お父さ……、いえ、あなた、お願いね」
勇は愛にあなたといわれた時だけ、本当にうれしそうな顔をした。愛が生まれた時に喜んでくれた顔と同じだ。父親といっしょにくらす間に何度見れるかわからない。
しかし愛は自分の父親が、今度こそ本当の父親像を見せてくれると思い願う。
願いの中でも不安に襲われる時もあるが赤ん坊の太陽のような暖かい笑顔を見て、そんなことはなく幸せに生きていけると願い、未来は明るいものになると思うのだ。
END