「さ、桜と申します。よろしくお願い致します…優也様」
目の前に緊張した面持ちの彼女が来たのは、俺が17歳になってすぐの事だった。俺の家である柏木家は、日本でも指折りの資産家で、そして俺は跡取りでもある。
都心の一等地に建っ屋敷は、祖代々受け継がれたもので、その広さは全体で東京ドーム2つ分はあるだろう。当然、家族だけでは、管理できず、執事やメイドなど、多数いた。桜は新しく来たメイドである。しかも、俺の専属であるらしい。
「専属?そんなもの、いらねぇよ。お前の娘とは言え、まだ、中学生じゃ使えねーよ」
筆頭執事である高橋と横にいる桜を一瞥してすぐに用はないとばかりに視線を携帯電話に移す。
「旦那様の御言い付けでございます、優也様。それに、桜は十分にお勤めできますでしょう。それでは、わたくしはこれで失礼いたします」
高橋はそう告げると、一礼して、部屋を後にする。
「おい、高橋!」高橋は、俺に有無も言わせない内にいなくなり、部屋に残ったのは、俺と桜の2人だけになった。俺は、ソファーに寝転びながら、ドアの近くにまだ、緊張している桜を見た。真新しいメイド服に身を包んだ桜はどう見ても13、14ぐらいにしか見えない。
それが、俺の専属メイドなどとは…。しかも、えらい自信有りげにお世話できると言うのだから、俺は、深いため息をもらした。
「お前…、本当にいいのか?いくら親から言われたとはいえ、学校もあるだろう?」
俺は携帯電話をカチャカチャ操作しながら、桜も見ずに言った。
「あ、あの、優也様。わたくしは、優也様をお世話させて頂く為に、訓練も受けてございます。」
そして、少しうつむき小さな声で付け加えた。
「わたくし、もうすぐ21歳になります…」
(俺より、3つ上かよ…)
俺は思わず携帯電話を床に落とす。すると、すかさず桜は、小走りに来て携帯電話を拾い上げ、俺に差し出す。目の前に来た桜の顔を俺はまじまじと見る。
髪の毛は、染めた事がなさそうな艶やかな黒髪を、一つにまとめている。携帯電話を持つ手は、小さいながらも、指はほっそりとしていて、俺には丁度いいサイズだが、やけに大きく感じられた。
「優也様…わたくし、確かに…見かけでは、頼りなく感じられましょうが、精一杯勤めさせていただきますっ! ですから…っ」
お側に…消えそうな声で桜は、大きな瞳を少し潤ませ懇願し、俺を見上げた。俺は不覚にも、その表情にドキッとした。
(やべぇ、いじめたくなる…)
思わず、くせで押し倒しそうになるのをこらえ、携帯電話を受け取り、笑顔を作る。
「そうか、なら桜、これからお前にやってもらうからな。よろしくな」
「は、はい!ありがとうございます。優也様、何なりとお申し付けください!」
桜は、はちきれんばかりの笑顔を見せぴょこんと頭を下げた。
(楽しみだな…。色々と)
俺は、退屈でたまらなかったこの家での生活が、これから楽しいものにさせる事にした。
桜が俺の専属メイドとしてやって来て、1週間がたった。メイドとしては、思ってた以上に完璧だった。小さな身体で実によく動く。
桜は朝から元気だ。だか、彼女にとって災難の始まりでもある。
朝が弱い俺は、桜に起こされる。
「優也様、おはようございます!」
桜は自動カーテンのスイッチを押し始めは優しく俺を起こす。もちろん、俺はこんなのでは起きない。
桜は、次にベッドの横に来て俺を揺さぶり起こそうとする。
「優也様、早く起きて下さらないと、学校に遅れてしまいますよ?」
ここで本当は目を覚ますのだが、まだまだだ。
桜は、少し止まる。しかし、俺が起きないので、意を決したように俺の掛け布団を勢いよく、剥がす。
「きぁあああああっ!!」
俺は、この桜の声でようやく目を開けるのだ。
布団が剥がれた瞬間に俺は桜をがっちりと抱き締める。小さい体は俺の腕の中にすっぽり納まっている。
「ゆ、ゆ、優也様っ、お、お止めくださいっ…!お、お願い、お願いですぅ…」
「やだね、気持ちいいだろう?桜、今日は、このままでいようか?それとも…」
俺は、一段と力を強め、下半身を密着させ、ふぅと桜の耳に息を吹き掛ける。
「ひぁぁんっ」
桜は、かわいい声をあげる。顔は真っ赤どころか、全身ゆでタコだ。
桜は、少しでも離れようと身をよじる。
「ゆ、ゆ、優也さま、おく…れてしまいます…っ。じゅ、ご準備して頂かないとぉ…」
「わかったよ、準備するよ。食事は部屋で食べるから、持って来て」
抱き締める手を緩め、桜を解放する。
桜は、逃げるようにその場から離れ、ドアの所で少し乱れた衣類を整え、かしこまりました。失礼いたします。と言うとぴょこんと一礼して部屋を出た。
俺はクスクスと笑いながらそれを見送り、きちんとブラッシングされ、しわ一つない制服を着た。
ほどなくして、朝食を乗せたワゴンと共に桜が戻ってきた。
「優也様…、毎回申し上げてますが、パジャマをお召しになってから、おやすみください。風邪でも引かれたら大変でございます」
テーブルに朝食を並べ、コーヒーをカップに注ぎながら、桜は、少しふくれて言う。
「いつも言ってるだろ。ずっとああだったんだ。今更変えれねーよ」
「それに、あ、あのような…事は、その、止めていだけると…」
桜は、顔を真っ赤にさせながらも、意を決したように、俺をみる。
「なんで?朝のあいさつじゃん。ハグ。お前だってハグぐらいでうろたえないで、もう慣れろよ。それとも嫌なのか?俺が」
「い、いえ、そのような事はっ…。ただ…その…」
ここで言葉が止まる。ますます顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。理由は、もちろん、俺の朝立ちしたモノを当てるからだとは想像がつく。
パンツ一枚で寝るから、すぐに目に入る。その姿に初日桜は、倒れた。顔を真っ赤にして固まる桜に握らしたからだ。
まあ、それからしたら、多少進歩しただろう。あれ以来握らせないが、びくびくした姿がまたいいのだ。
「ハグのおかげで朝スッキリ目覚めるのにな。お前、俺に遅刻させたいわけ?」
「そ、そのような事、ございません!」
「じゃ、問題ないじゃん。それに、お前は俺の為にいるんだろ?桜。」
「左様でございます…。優也様は、お目覚めの時に、その、わたくしが必要だと、おっしゃるんですよね…?」
泣きそうな潤んだ目で、俺を見る。
「当たり前だろ?お前以外、誰が起こすんだよ」
桜は、顔を覆い、とうとう泣き出してしまう。
俺は、やりすぎたか?と思い、席を立ち、桜の顔を覗き込む。
「も、申し訳ございませんっ…、優也様にそこまで言っていただけて、嬉しくて…」
思わず押し倒しそうになるが、ぐっと堪える。
「これからも、わたくしが出来るがあれば、何なりとお申し付けください。優也様の専属になれて、わたくし、本当によかったです!」
涙を拭い、笑顔で答える。「ああ、頼むな、桜。お前が専属で俺もよかった」
「まあ、もうこんな時間に!優也様、お急ぎください!」
桜は、パタパタと俺の鞄を取り、車の待つ玄関へと促す。
「行ってらっしゃいませ、優也様」
桜や他にいるメイドに見送られ、俺は車に乗り込んだ。
(まずは、いい感じだな。我慢するのも楽じゃねぇな。ま、楽しみはまだ、始まったばかりだ)
俺の通う学校は幼稚園から、大学、大学院まである、良家の子供達が通う事で有名だ。
しかし、中身は所詮高校生、あまり変わりはない。
「優也、どうよ?専属メイドの調子は」
教室に入ると、親友というより、悪友である坂本良輔が話かけてくる。
「いいよな、専属なんて、しかも年上だろ?お前の事だから、もう手つけたんだろ?」
「いや、まだ」
「はああ?!お前が手ぇ出してないなんて、ありえねー!」
良輔は驚きのあまり、つい大声を上げる。
まあ、驚くのも無理はない。俺は、今までうちに居るメイドも、先輩、後輩、同級生、その他数え切れないほどの女とヤッてきている。
もちろん、すべて遊びだ。
俺の肩書きはもちろんだか、女受けする容姿のおかげで、女に不十分しない。しかし、その殆どが、俺が言えば、はじめは恥ずかしがった女も、すぐに足を開き、やりたがる。
「今までとタイプが違うからな…。からかうだけでも十分楽しいさ」
今朝の事を思い出す。我ながら、よく耐えたものだ。
やるのは簡単だが、またには、こんなのも悪くない。が、このまま我慢するのは体によくないだろう。
「かな、来いよ」
側に居た女に声かけ、教室を後にした。
すぐに優也の後を追う。その顔は、嬉しさが全面にでている。
いつもの朝の始まりだ。
一方、桜は、優也の部屋を掃除しながら、今朝の事を思いだしていた。
ベッドメイキングをした時は、思わず顔が真っ赤になる。
「優也様の為だもの。頑張らないと、いけないよね…」
今まで、桜は男性と付き合うどころか、あまり触れ合う事も付き合いすらした事なかったのだ。
優也がする事、いう言葉すべて初めてで、桜は、どうすればいいのかわからなくなるのだ。
桜はこの屋敷に来て間もないし、優也専属という立場で、他のメイドからの風当たりは厳しく、相談する相手がいない。
友人にも相談するのも恥ずかしい。
どうしたものかと悩んでいると、一人の人物を思い出す。
手早く部屋の掃除を終わらせ、一段落させると、とある部屋を訪ねた。
「失礼します、桜です。今までよろしいですか?」
どうぞと言う声を聞いて、静かにドアを開け、中にはいる。
「どうした?早速、他のメイドにいじめられたか?」「違います、そのような事は始めから覚悟してた事だから、大丈夫よお兄ちゃん」
屈託ない笑顔を見せる。
桜の兄、冬吾は、桜より十歳上で、父の元で執事しなるべく、修行中だ。歳が離れているせいか、仕事が忙しい父の変わりに、桜の面倒を見てくれた。
早くに母を亡くしてからは、桜にとって父親、母親代わりであり、大好きな兄である。
「で、なんだ?優也様の事か?」
「うん…。お兄ちゃん、優也様に付いて長いでしょ?それで、聞きたい事があって…」
冬吾はすぐにピンときた。
大学をでて、すぐにこの屋敷に来たので、当然桜よりも優也については詳しい。一人っ子の優也は、プライベートでは、兄のように接していたからだ。
実の妹から聞くのは、複雑な気持ちだが、超がつくほど奥手な桜も一つ成長したなと思うと、嬉しくもある。
「優也様は、中々、パジャマを着て寝て下さらないの。お兄ちゃん、注意なさったとある?」
「え?いや…、優也様にとって、あれが一番リラックス出来るとおっしゃるからな。俺にもそれは分かるからな」
「そう…なの?」
兄の言葉に、桜は、男の人は、そういうものなのかと、思った。
「優也様、朝が苦手でいらっしゃるでしょ?それで…、もちろん、起して差し上げるのだけども…」
桜は、真っ赤になってうつむく。
「いつも、ぎゅって、強く抱きしめられて…、ふぅって耳に…息を吹き掛けられるの…。ねぇ、お兄ちゃんはその時どうしてたの?」「……は?」
「だぁから、どんな対応してたの?」
冬吾は、頭を抱える。
「あのな…桜。いや、それはな、直接優也様に聞けばいいだろう?きっと、お前にしか、出来ない事があるだろうから」
冬吾は、純粋すぎる桜にいきなりアドバイスできず、優也に丸投げする事に決めた。
「そうだよね…。わかった、お兄ちゃんありがとう!」
(後でどうするつもりか聞いとくか…)
笑顔で答える桜の頭を撫でた。
俺は、だるいだけの授業が終わると、いくつかの誘いを断り、駐車場へと向かう。
俺の送り迎えは、冬吾の役目だ。いつものように、ずらりと並ぶ駐車場で、俺が出てくるのを待っている。
「お疲れ様でございます。今日はどうされますか?」「家に戻る」
「かしこまりました。珍しいですね。このままお帰りになるのは」
桜が来る前は、直接家には戻らず、必ずどこかへ出かけていた。しかし、今は、家に居るのも楽しい。
「面白いのがいるからな」楽しそうに答える俺をバックミラー越しに冬吾は視線を送る。
「いかがですか?桜は」
「あいつは、俺の事知らないんだな」
「桜が今日来ましたよ。どうすればいいのかと」
思わず、声に出して笑う。
「お前はなんて言ったんだ?全部教えたのか?」
「いいえ、自分で尋ねなさいと。多分、すぐに聞いてくるかと。あれは、純粋です。くれぐれも扱いには気を配っていただけると」
俺の女の扱いが、どれだけのものかよくわかる冬吾だ。心配になるのは無理もない。
「考えておきたいが、無理だな。ああも反応されるとな。いじめがいがある。これでも、我慢はしてるさ」
俺は、今朝の事を思い出しながら言う。
「貴方がまだ、手を出してないのに驚きましたよ。どうなさるんです?」
「答えは一つだ、冬吾。お前の妹だろうが、今は俺の専属だ」
これだけ言えば、冬吾には通じるだろう。
(桜…、頑張れよ)
冬吾は、心の中で祈った。
「お帰りまさいませ、優也様」
玄関で桜と数人のメイドが出迎える。桜に鞄を渡し、部屋へと共に戻る。数人のメイドの顔が残念そうになる。
今までは、それは自分たちの役目であると同時に合図でもあったからだ。もちろん、桜は知る由もないのだが。
部屋に戻り、上着を桜に預ける。それを受け取り、丁寧にブラッシングする。
「桜、コーヒー」
「かしこまりました、すぐにお持ち致します」
上着をハンガーにかけ、ぴょこんと一礼し、部屋を後にした。
数分後、桜はコーヒーと少しの焼き菓子を持って戻ってきた。
「あ、あの、優也様。お聞きしたい事があるのですが、今よろしいですか?」
桜は、カップを渡しながら、遠慮がちに見上げる。
「何?」
ホントにすぐだな…。流石兄妹、よく知ってる。
「あ、あの…、朝起きられる時なんですが…、他にわたくしが出来る事ございますか…?」
「ある。してくれんの?他にも」
ぱぁっと明るい顔になった桜を見る。
「はい!もちろんです。わたくしにお任せください!」
期待した表情の桜に俺は、当然の如く伝える。
「んじゃ、キスな」
桜はきょとんとした表情で、俺を見た。
「キス…で、ございますか?」
「そ、もちろん、ここにな」
俺は、唇に指を当てる。桜は、相変わらずきょとんとしていたが、ようやく意味がわかったのか、ゆでタコになり、慌てふためく。
「キ、キ、キキキシュって、優也さまっ…」
パニックになってるのか、言葉が変になってる桜を俺はにこりとした。
「できるよな?まさか、知らない?」
固まる桜は、首をブンブンと横にふる。
「じゃ、明日からな。今日はもう下がっていい。頼んだぜ、桜」
有無も言わせず、すでに決定事項だ。
「か、か、かしこまりました…。そ、それでは、し、失礼いたしましゅ。あ、い、いたします」
桜は、フラフラと部屋を後にした。
あれから、食事の時間になっても、まだ動揺し、失敗を繰り返す桜を、目が合った瞬間に唇に指を当てるなどして、反応を楽しんだ。
桜は、仕事をこなそうとするが、先程の優也の言葉に動揺し、失敗ばかりした。結果とうとう、メイド長から、お小言をもらうはめになった。
なんとか仕事を終え、食事も喉を通さなく、早々と、屋敷の同じ敷地内に建つ、使用人用にある自分の部屋へと戻った。
(ど、どうしよぉ…。キ、キスだなんて…。わ、わたし、した事ないのに…)
ぐるぐるとその事が頭を回り、眠れないまま、夜が更けていった。次の日、桜はとうとう一睡も出来なかった。
ぼぉっといた頭をさますために、冷たい水で顔を洗う。メイド服に着替えると、気分が、しゃきっとする。
(よしっ!優也さまの為、喜んでいただきたいもの。頑張らないと…!)
気合いを入れるように、顔を叩くと、優也の部屋へと向かった。
ノックをし、部屋へとはいると、まだ寝ていた。思わず、唇に目をやってしまい、顔が赤くなる。
雑念を払うように頭を振り、勢いよく、カーテンを開ける。
「ゆ、優也さま、朝でございます!」
思わず、声がひっくり返る。これで起きないのはわかっている。覚悟を決め、ベッドの横に座り、キスをした。
「おおおおおはようございますっ!優也さま!」
「っ…いてぇ。お前…なにすんだよ…」
痛さのあまり、目が覚めた。
「キキキキキスでございますっ」
「キスぅ?ぶつかってきただろうが…」
桜は、緊張のあまり、勢いがつきすぎ、唇をと言うより、歯が当たったのだ。しかも頬骨に。
「何時だぁ?」
「7時でございますっ!お支度をっ!」
時間を聞いて、俺は、ため息をつく。
「…今日は休みだから、おそくでもいいと、言ってはずだが…?」
きょとんとした桜は、思い出したのか、真っ赤になり立ち上がる。
「も、申し訳ございません!もう一度、お休みに…」
頭を下げる桜の腕を掴むと、俺はベッドへと倒す。
「ゆ、ゆ、優也…さま…?」
「丁度、休みだし、時間もある。お前に教えてやるよ。色々とな」
俺は桜の耳元でささやいた。
続