10月に入り、行楽シーズンということもあって茶店は盛況だ。  
最初は馴染めなかった茶摘み娘の格好にもようやく慣れ、赤いたすきも瞬時に結べるようになった。  
独身者の強みで、主婦パートの人達が夕方には帰る中、私は夜9時ごろまでお店にいて最後の後片付けまでしてから帰る。  
うちの事情を知っているオーナーは、帰り際に残り物のおでんを包んで持たせてくれるようになった。  
色の染みてしまった練り物や、割れたがんもどき、煮崩れて串から外れてしまった牛筋など。  
大根なら少々煮過ぎてしまっても、鍋底大根ということで価値は落ちないが、これらは明日もう使えない。  
このお土産のおかげで、我がアパートの土曜の夕食は大抵おでんになる。  
牛筋だけは取っておいて、こんにゃくと一緒に煮直して小鉢の一品にしたり、お好み焼きの具に転用することもある。  
 
 
茶店で働く土曜以外は、相変わらずアルバイトやチラシのポスティングを続けている。  
一つの職場に長くいるより、短期の仕事を渡り歩いた方が実入りがいい。  
商店街のリサイクルショップで買った中古自転車に乗り、どこへでも行った。  
稼げる時に稼いでおかなければ、病気などのいざという時に困る。  
そのような感じで東に西にはせ参じ、日中を働いて過ごす。  
夜はアパートに帰り、夕食を作って旦那様の帰宅を待つ。  
あの方は、家庭教師のアルバイトが意外に合ったようで、今も問題なく続けている。  
自分の大学を目指して頑張っている生徒なので、つい熱が入ってしまうと前に仰っていたことがあった。  
お茶菓子に甘い物が出ると、旦那様はそれを持って帰ってきてくれる。  
夕食後にお茶を入れ、そのお菓子を半分こして食べるのもなかなか楽しかった。  
二人で頑張っているお陰で、わずかながら家計は黒字に転じ、まさかの時に備えられるようになった。  
 
 
 
毎日の朝食を作る間、同じくリサイクルショップで買ったラジオを聴くのが私の日課になっている。  
台風15号関連のニュースの取り扱いが、ここ数日多くなってきているのを感じていた。  
今日はいよいよ本州に上陸し、この地域を縦断するとアナウンサーがしきりに伝えている。  
「台風は、今夜ですか?」  
起床された旦那様が問われるのに頷き、そうですと答える。  
「日中じゃないからましですね。夜だから、そんなに影響はないんじゃないでしょうか」  
私は今日の夕方まで商店街でアルバイト、旦那様は大学へ行く。  
朝から雨に降られては困るのだが、今はまだいい天気だ。  
「そうですね、それは都合がいい」  
いつものように旦那様は、私を見てにっこりと笑った。  
朝食を終えて2人揃って部屋を出て、それぞれの目的地へ向かう。  
今日のアルバイト先は、店主の妻がお産で里帰り中の惣菜店。  
あちこち行っている私だが、最近は時々こうして商店街の中の店で仕事をもらえるようになってきた。  
苦境に立った主に付き従う感心なメイドの子だという噂が流れ、それを見込んで仕事を持ってきてくれる人が現れたためだ。  
自分の境遇に同情してくれる人がいるのを想定して、むしろそれが広がるよう確信的に立ち振舞ったせいもあるが。  
臨時で人手が必要な店が出た場合、まず声をかけてもらうことが多くなっていた。  
何を頼まれてもある程度はこなせる、小器用なのが役に立っていると思う。  
商店街ならアパートと近いし、帰りに夕食の買い物もできる。  
そんなこともあり、私はこの商店街に色々とお世話になっていた。  
 
 
昼頃、風がにわかに強まりだし、雨がアスファルトを叩き始めた。  
惣菜店はガラス戸のない路面店に近い形態なので、天気が荒れると仕事にならない。  
これからもっとひどくなるだろうから、今日はお仕舞いにしようと店主が決めて早々に店じまいを始める。  
約束の時間働けないのは困るが、お客もほとんど来ないしこれでは仕方がない。  
今日の収入が減るのを嘆きながら、私は小走りにアパートに戻った。  
旦那様はまだ帰っていないようだ。  
天気は今後荒れる一方なんだから、早めに帰ってくればいいのに。  
何となく気になってしまい、ラジオの台風情報を聞きながら家事を片付けた。  
外を見れば、雨足がさらに強くなり、窓ガラスが白く見えるほどに打ち付けている。  
アパートの前にある川は増水したりしないだろうか。  
 
ここは2階だから水は来ないだろうけど、そこはボロアパート、流れてでもいかないかと不安になる。  
実際、風に煽られただけでそこここでミシミシという音が聞こえているのだ。  
大家さんに場所を借りて植えたほうれん草が、雨で駄目になりはしないかとも気になる。  
そわそわしながら家事を続けて夕方になったが、旦那様はまだ戻ってこない。  
雨風はさらにひどくなり、ラジオの音が時折聞こえなくなるほどだ。  
あまりに耐えかねたので、無理矢理窓を開けて雨戸を閉める。  
数十秒のことなのに、吹き込んできた雨で床が一部びしょぬれになってしまった。  
慌てて雑巾を取り出し、ついでにと六畳間全体を拭き掃除してみる。  
日焼けしてささくれ立った畳は、あまりきれいにはならなかった。  
やるだけ無駄だったかと、少し疲れた気分になった。  
 
 
壁の時計が6時を指し、一人で夕食をとる。  
惣菜店のアルバイトが半端に終ったので、新しく作ることはせず有るもので適当にすませた。  
旦那様には、冷蔵庫に鮭の切り身があったからあれを焼いてあげよう。  
男の人だから、残り物だけの食事はわびしく感じるかもしれないし。  
早々に食べ終り、久しぶりにゆっくりとお茶を飲む。  
旦那様が帰ってこなければ、台所の片付けも、お風呂の準備も洗濯もできないのだ。  
湯飲みを用意する時、いつものくせで2つ取り出しそうになって焦る。  
テレビも無いし、ラジオもいい加減飽きた。  
何か内職の仕事を見つけておけば、こういう時に暇が潰せたのに。  
床の間に積み上げてある旦那様の本に手を伸ばすが、数ページ繰っただけで元に戻す。  
外国の言葉で書かれた本など、私に読めるわけがない。  
カーテンを開けて外を見ようとしたところで、さっき雨戸を閉めたことに気付く。  
川はあれから増水してはいないだろうか、畑は大丈夫だろうか。  
窓を開けようとしてやめ、アパートの1階に下りて外の様子を見てみる。  
少し足を踏み出して左右を見て、風雨の凄さに慌てて屋根の下へ戻る。  
ただ、川はまだ大丈夫のようでホッとした。  
久しぶりの台風直撃に、不安になっているだけだと自分に言い聞かせる。  
本当に危ないのなら、避難勧告のサイレンが鳴り響くはずだ。  
落ち着いていればいいと呟き、部屋に戻って畳の上にころんと横になる。  
これ以上はひどくならないといいなと思いながら、私はいつの間にか眠ってしまっていた。  
 
 
ガランガランという大きな音がし、飛び起きて辺りを見回す。  
時計を見ると、8時を少し過ぎたところだった。  
外は依然、大荒れの気配で窓を開ける気にもならない。  
今の音は何だろう、バケツでも転がっていったんだろうか。  
この分だと、台風が去った後の片付けも大変そうだ。  
旦那様はまだ帰ってきていないようで、外とは正反対に部屋の中はしんとしている。  
もう一度アパートの1階に下りてみたが、特に何が見えたわけでもない。  
帰ってこない可能性が高い人をじっと待っているのが馬鹿らしくなって、もう寝ようと布団を敷いた。  
歯磨きをしていないことをふと思い出し、洗面所へ行く。  
鏡に映った浮かない顔の自分と目が合ったその時、前触れも無く玄関のドアが開いた。  
「あ…」  
そこに立っていたのは、全身びしょぬれで、頭からぽたぽた雫の落ちている旦那様だった。  
「美果さん、ただいま」  
濡れねずみのまま律儀に挨拶したかの人が、小脇に抱えていた荷物を差し出す。  
妙に厳重にビニール袋に入ったそれを見た瞬間、私の頭の中で何かがぷつんと切れた。  
「なんで帰ってきたんですか!」  
自分でも驚くような大声でどなってにらみつけると、旦那様はたじたじとなった。  
「なんで、と言われましても…ここが家ですから」  
「家ですから、じゃありませんよ!台風でこんなに荒れてるのに、きっちり帰ってくるなんてどうかしています!  
大学にでも泊まる方が安全なことくらい分かるでしょう!」  
反論するすきを与えず、頭ごなしにどなりつける。  
これが、メイドが主人に対して取る態度だろうか。  
「しかし、無断で外泊するなどという素行の悪いことは…」  
「もう大人なのに、素行もくそもないでしょう!一日くらい帰ってこなくたって、心配なんかしませんから!」  
実際は昼過ぎから待っていたのに、どうしてこんなことを言ってしまうんだろう。  
わずかに残る冷静さが、呆れたように頭の隅で呟く。  
 
旦那様はぼんやりしているから、飛んできた物で頭を打ったり、川に落ちたりしそうで。  
帰り道の途中で困っている様子が頭に浮かんで、本当は気が気ではなかった。  
探しに行こうにも、私のいない間に帰ってこられたら…と思うと、部屋を留守にするわけにもいかず。  
じりじりしながら、夕方から時計とにらめっこをしていたのだ。  
 
 
その時、全身ずぶぬれの旦那様がひどく大きなくしゃみをした。  
緊迫した空気に似合わないその音が、私をハッと正気にさせた。  
お風呂場へ走り、蛇口をひねって湯船にお湯を張る準備をする。  
湯が溜まるまでに体を拭いてあげようと、バスタオルを引っつかんで玄関へ向かった。  
「脱いでください。寒いでしょうから」  
体を小刻みに震わせる旦那様に、手短に言う。  
それを聞き入れようとするが、シャツもパンツも肌に貼りついて脱ぎにくいらしく、もがく旦那様を手伝った。  
下着一枚になったかの人の前に立ち、タオルで雨粒を拭う。  
体を拭き終えて髪に取り掛かろうとした時、いきなり抱きしめられた。  
「あ…」  
触れた旦那様の肌は、10月の雨のせいで可哀相なほど冷え切ってしまっていた。  
「もうすぐお風呂が沸きますから、我慢してください」  
肌をさすって言うのだが、旦那様は歯の根が合わないほどがたがたと震えるばかり。  
暖めてあげなければと、さっき敷いた布団へ引っ張っていき、自分と一緒にくるみ込んだ。  
横並びになって布団をかき合わせ、二人ぴったりとくっつく。  
旦那様の手が私の肩を強くつかんで抱き寄せた。  
ぎゅうぎゅうと密着されて息苦しいけれど、寒がる人を遠ざけるわけにはいかない。  
湯たんぽになったつもりになって、私はそのままじっとすることを決めた。  
 
 
ようやくお風呂のブザーが鳴り、旦那様を支えて連れて行く。  
冷たい体を湯船に沈めて一安心し、肩の力が抜けた。  
「十分に温まってから体を洗ってください。それからまた500数えるまでお湯から出ちゃいけません」  
そう言い置いて扉を閉め、旦那様の脱いだ服を片付けて着替えを出す。  
濡れた床を拭いていると、お風呂場から湯を使う音が聞こえてきた。  
一人分の夕食の準備を整えてしまい、ちゃぶ台の上に置いて旦那様が出てくるのを待った。  
湯から上がった旦那様の顔に、血色が戻っていることに少しホッとする。  
夕食が用意してあると伝え、私も入れ替わりにお風呂に入る。  
温かいお湯に浸かると、さっきまでの心配やイライラが溶けて流れていってしまうように思えた。  
妙にすっきりした気分で、お風呂から出てパジャマに着替える。  
こんな天気だから洗濯は明日にした方がよさそうだ。  
片付け物だけしておこうと台所へ行くと、旦那様の分のお皿が無い。  
見回すと、お皿はすでに洗い終えてあり、水切りかごに立てかけてあった。  
頼まないうちにやってくださるなんて、珍しいことだ。  
引き戸の隙間から六畳間をのぞくと、あの方は黙ってじっとちゃぶ台の前に座っていた。  
「旦那様?」  
私が呼びかけると、驚いた顔でこちらを見る。  
しかしそれは一瞬だけで、旦那様はまたうつむき、ちゃぶ台へ視線を落とした。  
いつにない深刻な雰囲気に首を傾げる。  
帰り道に大事な論文でも濡らしてしまったんだろうか。  
落ち込んでいるのなら下手に声をかけないほうがいいと、自分の布団を片寄せた。  
「美果さん」  
旦那様の分の布団を敷こうと押入れを開けたとき、名を呼ばれる。  
振り返ると、旦那様がじっとこちらを見ている。  
何か話でもあるのかと思い、対面に座った。  
 
 
「今日は、本当にすみませんでした」  
正座をした旦那様に深々と頭を下げられ、面食らう。  
帰りが遅かったのを謝ってくれるのは、もう別にいいのに。  
「気にしないでください。私もさっき暴言を吐いてしまいましたから」  
「いや、それは…」  
旦那様が言いよどみ、溜息をつく。  
 
「美果さんがああ言ったのは、僕のことを思ってくれたからこそなのでしょう?」  
「え」  
「僕がボーッとしていて、途中で行き倒れてでもいないかと心配していてくださったのでしょう」  
肩を落とし、すまなそうにしながら旦那様が言う。  
そりゃあ確かに心配はしていたけれど、それをこの方に悟られるのは何だか癪だ。  
「別に心配なんかしていませんってば。さっさとご飯をすませて寝てたんです」  
布団を示して言うと、旦那様が指を伸ばして私の右の頬に触れた。  
「ここに、畳の跡がうっすらと残っています」  
慌ててそこに手をやると、確かに言われたとおりだった。  
「や、寝相が悪かったんですよ。布団からはみ出ちゃったみたいで」  
頬を擦りながら早口で言うと、旦那様はわずかに首を傾げた。  
「あなたの寝相はしごく良い方ですよ。同衾しても、蹴られたり、のし掛かられたりしたことは一度もありません」  
「……」  
「僕を待つうちに、うたたねをなさっていたのでしょう?」  
妙に冴えたことを言われてしまい、咄嗟に返す言葉が見つからない。  
黙っていることが、待っていたという証拠になるような気がして胸が騒いだ。  
 
 
「こんな日に長いこと待たせてしまって、本当に申し訳ありません」  
私の沈黙を肯定と取ったのか、旦那様が言葉を続ける。  
「もっと早く帰ってくるべきでした。皆と足並みを揃える必要などなかったのに」  
「皆?大学の研究室の皆さんですか?」  
ようやく口から出た言葉に、旦那様が頷いて答えてくれる。  
「ええ。最初は、まっとうに各々のすべきことに取り組んでいたんです。  
しかし、風雨が激しくなってくると、妙に皆が陽気になって盛り上がり始めて」  
偏差値の高い大学の人でも、小学生みたいにはしゃいだりするのだろうか。  
奇妙に思えるけれど、同じ人間なんだから案外根っこは一般人と共通なのかもしれない。  
「そのうち、なぜか別の研究室の人間も集まって合同大掃除が始まりました。  
普段は散らかっていてもどこ吹く風のくせに、一度スイッチが入ると止まらなかったみたいで」  
「皆さんのテンションに飲み込まれて、掃除を手伝ったんですか?」  
「ええ」  
旦那様なら、皆がどれだけ騒いでも一人涼しい顔で研究をしてそうなものなのに。  
まあ、流されてしまうのもこの方らしいといえば、らしくはある。  
「掃除が一段落したら、誰かが『台風と言えばコロッケだ!』と叫んだのです。  
その言葉に同調した数人が、学校近くの肉屋までコロッケの買出しに行きました」  
「コロッケ、ですか?」  
「はい。台風の時にコロッケを食べるという行動をとる人が、この日本には一部いるようなのです」  
「東北とか、中国地方の風習とかですか?」  
「いいえ。地方ではなく、有志が行う新しい取り組みのようです」  
「へえ」  
何の意味があるのか、考えてみても分からないな。  
「行った者は普通のコロッケ、クリームコロッケ、カレーコロッケなどを机に山になるほど買ってきたのです。  
余った分はもらって帰ってきたので、冷蔵庫に入れておきました」  
それは食費が助かると、名も知らぬ旦那様の研究仲間に心の中でお礼を言った。  
「それで、そのコロッケの山をさかなに酒盛りでもしたんですか?」  
「いいえ、大学なのでお酒は持ち込めないのです。しかしコロッケとソフトドリンクだけで、なぜこんなにと思うほど盛り上がって」  
「それに飲み込まれて、帰るタイミングを失ったってことですか?」  
「ええ。面目ありません」  
旦那様がまたうなだれて頭を下げた。  
謝ってくれているのだけど、私は全く腹が立たないのだ。  
「別に怒ってませんから。旦那様がすまなく思われることは無いですよ」  
むしろ、勢いに飲まれて帰れなくなるなんてこの方らしい。  
タイミングを掴み損ね、立ったり座ったりを繰り返す旦那様の姿が容易に想像できて、ちょっと笑った。  
 
 
「いや、謝るべき時には謝らねばなりません」  
妙にきっぱりとした口調で旦那様が言う。  
「帰りを待ってくれている人を放って、馬鹿騒ぎの中にいたのは事実なのですから」  
「ですから、待ってたわけじゃありませんから!」  
 
思わず声が大きくなり、膝立ちをして反論する。  
「アルバイトが早く終って、することがなくてごろ寝していたんですよ」  
手を意味も無く動かしながら言葉を重ねる。  
「だから本当に、ちっともおとなしく待っ…きゃあぁ!!」  
待ってはいません、と言おうとした時、突然バリバリと大音響がして飛び上がる。  
続いてドシンという音と共に床が揺れ、思わず目の前の旦那様に抱きついてしまった。  
何?一体何の音だろう。  
とうとう川が溢れて、アパートが押し流されてしまうんじゃないだろうか。  
恐ろしい想像に、体が震えて止まらない。  
 
 
怯える私の背中に、旦那様の腕が回る。  
優しく抱きしめて背を撫でてもらうと、少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。  
「庭の木が折れた音でしょう。そんなに怖がることはありません」  
ゆっくりと言い聞かされ、こわばっていた体から力が抜ける。  
思考回路は正常に戻り、慌てて旦那様から体を離した。  
普段はメイドにあるまじき大きな態度を取っている私が、柄にもなく怯えただなんて恥ずかしい。  
「もう、いいんですか?」  
拍子抜けしたように問われ、言葉に迷って短くはいと返事をする。  
パジャマのしわを伸ばして、何でもないと体裁を繕った。  
「今の美果さんは、妙に女の子でしたね」  
おっとりと呟かれた旦那様の言葉に、頬にかあっと血が昇る。  
「ほんのちょっと、びっくりしただけです。台風直撃なんて久しぶりですから」  
「ええ。気丈な美果さんが、悲鳴を上げるのも納得のいく規模の台風ですね」  
「ですから、それは…きゃあっ!」  
また音と共にアパートが揺れ、みっともなく叫んでしまう。  
整えた体裁は無残に崩れ、私はもう一度旦那様に抱きついてしまっていた。  
とっさのこととはいえ、一生の不覚だ。  
 
 
「怖いのなら、おとなしくしていればいいですよ」  
今度は私の頭を撫でながら、旦那様が言う。  
「台風が治まるまで、こうして抱いていてあげますから」  
だから怖がらなくても大丈夫です、と旦那様が続ける。  
言い訳したくせにまた抱きついてしまったのは、かなり恥ずかしい。  
一刻も早くまた体勢を立て直そうかと思うけど、もし三度目に抱きついてしまったら、と悪い想像が働く。  
旦那様が帰ってくるまでは、多少揺れてもこんなにびっくりも怯えもしなかったのに。  
普段はこの方に頼る気など全くないのに、何で今はこうなんだろう。  
抱きついた姿勢のまま、旦那様の匂いを一杯に吸い込みながら考えた。  
「怖いのなら、気をそらすことをしましょうか」  
ふと、私の頭を撫でる手を止めて旦那様が言う。  
「気をそらす、ですか?」  
「ええ。外のことが頭から消えるような、何か別のことをです」  
「はあ。そうですね…」  
これ以上みっともないとこを見られないのなら、それに越したことはない。  
「何かいい案があるんですか?旦那様」  
「ええ。僭越ながら一つだけあります。まずは目をつぶってください」  
「はい」  
言われたとおりに目をつぶると、旦那様は私を抱きしめたまま畳の上をじりじりと移動した。  
 
 
そのまま仰向けに倒され、背中に布団の柔らかい感触がする。  
「えっ?」  
思わず目を開けて見回すと、さっき二人で入り込んだ布団の上に押し倒されていた。  
真上には、旦那様が少し微笑んで私を見つめている。  
何をするんですかと尋ねようとして、この状況では一つしか答えがないことに気付く。  
だがちょっと待って欲しい、心の準備がまだ全くできていないのだ。  
「あの、旦那様…んっ」  
時間を稼ごうとして開いた口を、旦那様の唇にふさがれる。  
吸い付いて閉じさせられ、もう喋るのはおよしなさいとでもいうように何度も柔らかく力が掛かる。  
 
くすぐったさと気恥ずかしさとともに、何だか触れ合った部分からじんわりとほてりが体にしみていって。  
喋る意欲はあっけないほど簡単に摘み取られ、私はただ従順にキスを受けた。  
旦那様とこうするようになったのは、このアパートに引っ越して初めて体を重ねてから。  
お屋敷で職務の一環として閨に上がっていた時は、キスなんてしていなかった。  
セックスよりキスが後というのも妙な話だけれど、本当なんだからしょうがない。  
そもそも、この行為にそれほど夢を持っていたわけじゃないから、しないことに不満はなかった。  
恋人とか夫婦とか、気持ちが通じ合っている特別な二人がすることだと思っていたから。  
しかし、いざ旦那様と唇を重ねるようになってみると、意外にも全くいやな気はしない。  
唇の薄い皮膚を通して、旦那様のふんわりとした感じが自分の中に流れ込んでくるみたいで。  
キスの後は、何だか妙に落ち着いて、胸がほのかに暖かくなるのだ。  
 
 
触れ合っていた唇が離れ、目を開ける。  
「今、外のことは全く気にならなかったでしょう」  
旦那様の言葉にハッとした瞬間、雨と風の音が急に耳に戻ってくる。  
さっきと同じに激しく打ちつけ、吹き寄せて自然の猛威をこれでもかと示す音が、確かにキスのときは消えていた。  
そんなものとは比べ物にならないほど微かな、唇の触れ合う音や私達のパジャマがこすれあう感触は、すごくリアルだったのに。  
「僕も、たまには役立つとは思いませんか」  
どうだとでも言うように旦那様が胸を張り、それがおかしくて私はくすくす笑った。  
「旦那様も、やるときはやる男なんですね。お見それしました」  
キスに夢中になっていた恥ずかしさがそこで急にこみ上げ、わざと冗談めかして返事をする。  
「全ての面において美果さんに頼りきりでは、少々情けないですからね」  
苦笑を交えつつ旦那様が答える。  
外は暴風雨真っ只中なのに、この六畳間にはそんな状況は全く無関係になっていた。  
 
 
旦那様が手で私の目を覆い、もう一度唇を重ねてきた。  
胸にまたぽっと火が灯ったようになり、ひどく心地いい。  
いつの間にか目を閉じていた私は、旦那様の手が顔から外れていたことに気付かなかった。  
ぷちぷちと音がしてパジャマのボタンが外され、意識が元に戻る。  
そして前触れもなく、下半身がいきなりヒヤリとした。  
「きゃあ!」  
慌てて手をやるがすでに遅く、旦那様は脱がせたズボンを私の手の届かない場所へ置いた。  
「今日の下着は桜色ですか。いい選択ですね」  
何の寸評かと問おうとしかけたところで、そんなのはどうでもいいと思い直す。  
下半身を覆う最後の一枚に伸ばされた旦那様の手を掴み、その動きを止めた。  
「あの、まさか」  
「はい?」  
「また、あれをやるんですか?」  
「当然でしょう」  
今さら何ですかというような口調で言われ、キスの余韻が完全に冷める。  
ご厚意には感謝するが、やっぱりあれはご遠慮したい。  
「いやです」  
脚をぴったりと閉じ合わせ、首を振って拒否の意思を伝える。  
「どうしてですか。いつも、泣きそうな声で中々に可愛らしく乱れるではありませんか」  
「っ!」  
臆面もなく言われて、顔から火が出そうになる。  
どうしてそう邪気のない口調で、いやらしい意味のことを言えるんだろうこの人は。  
「今日は気分が乗らないんです。だから、それはパスしてもらって」  
「でも、あれを丹念にすれば、台風のことも頭から消えると思いますよ?」  
旦那様の言葉に同調するように、またドーンと地響きがする。  
「そうですけど、でも…」  
やっぱり、あれは恥ずかしすぎていやだ。  
「全く触らないわけにはいきませんよ。痛い思いはしたくないでしょう」  
「はあ、それはまあ」  
「軽くだけしますから。ね」  
気乗りのしない私をなだめて、旦那様は脚を割り開いた。  
 
 
私の言う「あれ」とは、旦那様にあそこを舐められることだ。  
お屋敷にいたときは一度もしなかったくせに、旦那様は一旦興味を持つと、それを意識から外すことはなかった。  
学者先生の卵にふさわしい旺盛な探究心をもって、体のどこをどうすると私が反応を返すかを観察されてしまったのだ。  
熱心に探られるうち、私は自分でも把握していなかった弱点を知ることになった。  
足の指、膝の裏、腰骨の上など。  
そこに旦那様の手や舌が触れると、体が震えるのを抑えることができない。  
こういうものは慣れれば反応しなくなるというものでもないらしく、一旦知られてしまうとどうしようもなかった。  
そしてとうとう、旦那様に触られて私が一番大きく反応する場所を知られてしまったのだ。  
それがどこかは、もう改めて言う必要は無いと思う。  
数回は散々拒否して、絶対にしてくれるなと言ったのに、それは聞き入れてもらえなかった。  
ある時、いつものように胸やその他の場所を触られていい気持ちになっていた隙に、いつの間にか移動していた旦那様がそこに触れて。  
ヤバイと気づいた時には、旦那様の舌が私のひだを割り、その場所に到達していた。  
とんでもなく恥ずかしくて、お願いだからやめてくださいと、最後には涙さえ浮かべて頼んだのに。  
いつになくしおらしいお願いはあっけなく却下され、旦那様は自分の思うように事を進めた。  
実際、そこを舐められるのが気持ち悪いとか、生理的に受け付けないというほどいやだったわけではない。  
男性に性器をまじまじ見られる恥ずかしさと、その相手が仮にも自分が主人と呼ぶ人であることに対する罪悪感めいた物。  
この二つが拒否の主な理由だった。  
肌の感覚に限って言えば、むしろ気持ち良かったのだ。  
旦那様の舌がそこでうごめくと、ぞくぞくするような快感が沸き起こり全身に伝わる。  
そしてそれが再びお腹の下に集まり、キュッと切なくなる。  
もっと触って欲しいと、心とは裏腹に体が求めてしまうのだ。  
こうなってしまうと、理性と本能が頭の中で乱闘を始めてしまう。  
そして、いくらもしないうちに本能が勝って、私は旦那様のされるがままになってしまうのだ。  
もちろん、私もいつも旦那様に一方的にやられているわけではない。  
かくなる上は仕返しをと思い、私も旦那様のアレを触るようになった。  
手の平で擦ったり、指先で撫で上げると旦那様が息を飲む。  
その反応を見ることで溜飲が下がり、近頃は口で愛撫をするようにもなっていた。  
こうすると、手で触れたときよりもさらに反応が大きくなって面白いのだ。  
 
 
考え事をしていた私の下着越しに、旦那様の指があそこを触ってくる。  
力を入れずになぞられるのが、形を確かめられているようで恥ずかしい。  
むしろ強く圧迫されるより、何倍もそこを意識してしまうのだ。  
気を確かに持っていようと脚に力を入れると、旦那様がそれをたしなめるような動きをする。  
どうやら、私が脚を閉じようとしたと思ったようだ。  
「あっ」  
中央のくぼみを下着の上から押され、くちゅりと湿った音がする。  
後で全部脱がされ、ここに旦那様のアレが入ってくるのかと思うと体が震えた。  
「痛いですか?」  
問うてくる旦那様に首を振って見せ、横を向いて枕に顔を押し付ける。  
目を開けてしまえば視線が合ってしまうから、そうならないように隠したのだ。  
「んっ、あっ…あ…」  
一番敏感な肉芽を旦那様の指にとらえられ、輪郭をなぞるように刺激される。  
直接触られると痛いけど、下着越しなら大丈夫。  
ゆっくりと這わされる指の動きに集中し、浅い呼吸を繰り返した。  
その辺りの湿りが増して、下着が張り付く感触がする。  
この感じはあまり好きじゃない…と、腰をもぞもぞ動かした。  
「脱ぎますか?」  
旦那様の言葉に、少し迷ってはいと答える。  
さっきは抵抗したくせに、お尻を浮かせて脱がせてもらった。  
覆う物のなくなった場所が、外気に触れて身がすくむ思いがする。  
濡れた不快感は消えたけど、今度は何だかスースーして心許なくなってしまった。  
「いいですか?」  
私の膝を撫でながら旦那様が尋ねるのに、もう一度頷く。  
ある程度濡らしてもらったから、大丈夫なはずだ。  
枕にまた顔を押し付け直し、旦那様が身を沈めてくるのを待った。  
 
「んっ!」  
力を抜いてじっとしている私のあそこに、アレではない物が触れる。  
この柔らかさと動きはそう、舌だ。  
旦那様が私のあそこを舐めている。  
それを理解した途端、慌てて下方へ手を伸ばして旦那様の頭を押しのけた。  
お尻を引いて、布団の上をじりじりと交代して距離を取る。  
「どうしましたか?」  
「それはいやだって言ったじゃないですか!」  
さっき、あれはいやだからパスしましょうと言ったのに、聞き入れてもらえなかったことにへそを曲げて口答えをする。  
「私のためにと思ってくださるのは有難いですけど、本当にいいですから」  
「でも、美果さんはこうされるたびいやだと言いますが、最後には抵抗しなくなるでしょう」  
旦那様の言葉に心臓が大きく跳ねる。  
「それは、その。ちょっとくらい従順な方がいいかと思って…」  
「ふむ。その割には、目を潤ませてねだるように僕の顔を見られるときもあるようですが」  
この方の怖いのは、全くからかうつもりもないのにこういうセリフを言うところだ。  
冷静に、平坦な口調で言われるとこっちが困ってしまう。  
昼間の生活面のことなら倍言い返せても、こっち方面のことは言い返すのに苦労する。  
 
 
黙りこくったままの私の膝を、旦那様が割り開く。  
またあそこに舌を這わされ、全身に震えが走った。  
敏感な場所を刺激される快感と、そんな場に主の顔があるという羞恥。  
この2つが手に手を取って、私を執拗に責めたてた。  
さっきは下着越しにつつかれた肉芽を、今度はすくい上げるように旦那様の舌が動く。  
そのたびに短く声を上げ、身をよじって愛撫に耐えた。  
そこを触られると、頭がぼうっとなって、舌が次どう動くのかの他は何も考えられなくなる。  
全身、パニックにならざるところは無しで、上へ下への大騒ぎになるのだ。  
「あ、んんっ!」  
旦那様が舌に力を入れ、肉芽への圧迫を強くする。  
「やだ、あ…ああんっ、あっ、ん!」  
丹念に刺激され、口からは勝手に声が出る。  
耐え切れずに暴れ、池之端家仕込みの方法で整えたシーツが手足の下でどんどんと乱れた。  
「旦那様、っ…やっ、あ…あぁ!」  
とうとう音を上げ、けいれんして達してしまう。  
緊張していた体から、だらりと力が抜けた。  
 
 
「……」  
どうしよう、言い訳の言葉が何一つ思いつかない。  
そんなとこは舐めないで、やめてと散々訴えたくせにあっけなく達してしまった。  
目を合わせたら何か言わなければならなくなると、顔を枕に押し付けて硬直する。  
こんなことをしている時点で、動揺しているのは旦那様にばれているに違いないのに。  
何か超常現象が起こって、今しがたのこの方の記憶が飛んで眠ってくれないだろうか。  
そんなことを考えながら、ひどく濡れた感触のする場所に力を入れて違和感に耐えた。  
「美果さん?」  
伸び上がった旦那様が、耳の近くで声をかける。  
「大丈夫ですか?起きてますか」  
「自分にも分かりかねます」  
もはや、何を言っているかも分からない。  
「変じゃなかったですから、ご安心なさい」  
旦那様が頭を撫でてくれ、子供に教えさとすような口調で言う。  
ああいったことをしてもらう時、私がいつもいやだのだめだの変だのと駄々をこねるから、心配してくれているみたいだ。  
こういうときに不安を取り除いてもらえるのは、実を言うと嬉しい。  
本当は変だったとしても、それを言わない旦那様の心遣いが有難かった。  
上半身の力を抜き、枕から顔を離して上方をうかがう。  
「起きたようですね」  
旦那様がにこりと笑い、頬に軽いキスを一つくれた。  
 
今度は私が旦那様のアレを…と思い、起き上がろうとすると押しとどめられた。  
「無理しなくても構いませんよ」  
「えっ?」  
旦那様のアレに触れるのは、別に無理強いではなく、私の意思でやっていることだ。  
主人とメイドなんだから、奉仕という意味合いも兼ねているのだし。  
「えーと、無理じゃなくて、しようと思ったからですけど…」  
口の中でもごもごと釈明の言葉を呟く。  
「お気持ちは嬉しいですが、今日は大丈夫です。今度2回分してくだされば」  
「2回?」  
それは骨が折れそうだ、変な所が筋肉痛になってしまいそうで。  
「いいですよ。借りを作るのはいやなんです」  
旦那様の言葉を無視して起き上がり、同じ高さで向かい合う。  
濡れた場所が微かな音を立ててうごめき、思わずビクリとした。  
今度は私が頑張る番だとばかりに、旦那様のアレにゆっくりと触れる。  
上下に擦り上げると、いくつかの溜息と共にそこの質感が変化してきた。  
固くて、逞しい。  
他の男の人のアレは見たことがないから断言できないけど、きっと旦那様のはそう表現するのがぴったりのはず。  
屈んで、今度は舌で触れてみる。  
口に含んで吸い付くと、旦那様はうっと苦しそうなうめき声を上げた。  
さっきこの方がしてくれたことを思い出し、同じように唇と舌を使って刺激を加える。  
ちょっと息苦しいが、ここが我慢のしどころだ。  
ベッドなら無理のない姿勢でできるのかな、とふと考える。  
このアパートにはそんな物、ふさわしくないんだけど。  
「あ…っ、く…」  
旦那様の息遣いが荒くなって、ちょっと嬉しくなる。  
一方的に気持ち良くしてもらうままでは、私の性格に合わない。  
 
 
肩を押し返され、動きを止める。  
上目遣いに見上げると、何ともいえない表情でこちらを見る旦那様と目が合った。  
「準備をしますから、あちらを向いてください」  
そう言われて素直に背を向けると、立ち上がって引き出しを開ける音がする。  
事前に用意しておかないあたりが、あの方らしい。  
それにしても、なんで見ちゃいけないんだろう。  
お屋敷にいた頃も、旦那様は私に背を向けて準備をしていた。  
ゴムを女がつけてあげるというコミュニケーションも、世の中にはあると聞く。  
後学のために見てみたいと、音を立てないように振り返って、そうっと肩越しに旦那様をうかがう。  
前かがみになり、がさごそと手を動かしているのをじっと見つめた。  
なるほど、ああやって着けるのか。  
 
 
いきなり振り返った旦那様と目が合い、互いに驚き悲鳴を上げる。  
裸で叫んで飛びすさるなんて、さすがに滑稽だ。  
「あちらを向いていてくれるように言ったでしょう」  
落ち着いた旦那様が、少し拗ねたように言う。  
「すみません、興味があったもので」  
言いつけを破った私が悪いので、ここは素直に謝る。  
「興味ですか」  
「はい。どうやって着けるのかと思いまして」  
女がこんなことを言うのはNGかもしれないが、本当に一度見てみたかったのだ。  
座り直した旦那様に手を引かれ、私はこの方の下半身の上に乗りかかるような形になった。  
いつもと異なる体勢にきょとんとし、目の前にある顔を凝視する。  
「たまには違う方法もいいでしょう。そのまま、こちらへ」  
導かれるままに距離を詰めると、太股に固い物が当る。  
見なくても、それが何かは容易に想像ができて頭に血が昇った。  
「どうしました?」  
「旦那様、あの。ちょっとこれは」  
「え?」  
「都合が悪いんです、この格好」  
「何の都合ですか。言い訳は美果さんらしくありませんね」  
 
そんなことを言われても、不安なのだ。  
「明らかに無理なら、すぐやめますから。一度おいでなさい」  
ここまで言われてしまっては、さすがに断れない。  
私はのろのろと膝立ちをし、位置を合わせて腰を下ろした。  
 
 
旦那様のアレが体をうがつ感触に、大きく息をつく。  
体重がもろにかかるせいか、いつもより深く、圧迫感も増しているように思われた。  
アレの固さや形などもいつもより鮮明になっているように思え、羞恥心が湧いた。  
主の上に座り込み、貫かれている。  
いつもは私が下になっているのに、何だか今日は自分から求めているみたいで妙な気分だった。  
体が不安定になったので、旦那様の肩に手を置かせてもらう。  
互いに呼吸を整え、しばらく何も言わずにじっとしていた。  
「大丈夫、ですよね?」  
沈黙を破って問われ、頷く。  
「いつもと違いますから、少し緊張してしまいます」  
私が考えているのと同じことを旦那様が呟く。  
その手が私の腰に回り、引き寄せられた。  
「動いてみませんか」  
少しくらいなら、大丈夫かも。  
だめならすぐやめようと決め、恐る恐る腰を動かし始めた。  
伸び上がっては腰を落とし、抜き差しを繰り返す。  
体重のせいで、入ってくるときの圧迫が強くて何度も呻いた。  
これは、危険かもしれない。  
気をしっかり持とうとお腹に力を入れると、今度は旦那様が呻いた。  
「あまり、締め上げないでください」  
言われた言葉に、また頬に血が昇る。  
「締め上げてなんかいません」  
言い返してまた動き、慎重に息を吐く。  
向かい合って座っているせいで、乳首が擦れて気持ちがいい。  
下半身から気をそらすため、上半身の密着を強くして動く。  
こうでもしなければ、自分がどうにかなってしまいそうだった。  
「あっ、あ…ん…ああ…」  
吐息が甘くなり、旦那様の肩に置いた手に力が入る。  
これはこれで良くって、頭がぼうっとなった。  
「大丈夫、だったでしょう?」  
息を吐く合間に旦那様が言い、背を撫でてくれる。  
「大丈夫、です」  
夢見心地で返事をして、またお腹に力を入れてみる。  
今度は意識して旦那様のアレを締め付けてみた。  
「あっ」  
旦那様が眉根を寄せて切ない表情になる。  
背を撫でる手が止まり、上体が引き寄せられた。  
今度は、自分の内壁に旦那様のアレをこすり付けるように動いてみる。  
さっきとは違う刺激に中がぎゅうっと収縮し、吐く息がまた甘くなった。  
「んっ…はっ…あ……ん………」  
浅い呼吸を繰り返し、快感をコントロールする。  
しかし、体を支配する熱の高まりに耐え切れなくなって、旦那様の肩にしがみついてしまった。  
そのまま腰をくねらせ、アレが自分の中にくまなく当るように動く  
旦那様も荒い息を抑えず、私を突き上げてくる。  
時々、叫んでしまいそうになるほど気持ちいい場所が擦り上げられて体が跳ねた。  
「あっ…。なんか、すごい…」  
あんまり感じないようにしていたはずなのに、もうそんな意識はどこかへ行ってしまった。  
夢中になって旦那様の膝の上で動き、私達は感じ合った。  
もうだめみたいだ、体の奥底から何か大きな力がわきあがってくるのを感じる。  
「旦那様っ、私…」  
目を合わせて限界を訴えると、旦那様もまた切なげな表情で私をご覧になる。  
「そうですか、僕も、もう…っ…」  
さらに何か呟こうとした唇を自分のそれで塞ぎ、最後の瞬間に向かって動きを速める。  
いくらかの後、さっき旦那様に舐めてもらった時よりもさらに大きな快感に飲み込まれ、もう一度達してしまった。  
 
ぐったりとした体が抱きしめられ、さらに突き上げられる。  
そして、旦那様が一際苦しそうな声をあげ、体を震わせて達したのを感じた。  
ゴム越しでも、旦那様が吐精されたのは何となく分かるものだ。  
何も喋る気になれなくて、肩に抱きつき直し、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。  
 
 
ようやく人心地がつき、体を離すと気恥ずかしさが湧いてきた。  
床の間の方に視線をやり、旦那様から目をそらす。  
「美果さん」  
そうした私を咎めるように旦那様が口を開いた。  
「台風のことは、気にならなくなりましたか?」  
問われて、少し考えてあっと思う。  
そういえば、脱がされた時から今の今まで全くそのことは意識から消えていた。  
あれだけ荒れ狂っていた風雨の音が聞こえなくなったとは、考えてみれば恐るべきことだ。  
「はい、お陰様で全く。ありがとうございました」  
お礼を言うと、いえいえと旦那様が謙遜する。  
「そうこうしている間に、随分と天気も落ち着いてきたようですね」  
確かに、風雨の音は依然しているものの、先程よりは格段に小さくなっている。  
台風は通り過ぎて、もっと東の方へ行ったのに違いない。  
改めて考えてみると、たった数時間天気が荒れただけで怯えていたなんてかっこ悪い。  
なんだか身の置き場が無くなって、汗をかいたままだといけませんからと旦那様をお風呂場に追いやった。  
 
 
待つ間、あの方の分の布団を敷く。  
使った布団のシーツを取替え、出てきた旦那様と交代でお湯を使った。  
窓の外はもうすっかり落ち着いていて、これなら外に出ても大丈夫そうだ。  
明日、起きたら畑へ行ってほうれん草の具合を見てみよう。  
敷地の掃除も手伝ったほうが、大家さんの覚えも良くなるだろうか。  
そんなことをつらつらと考えながら、お風呂場を出て六畳間へ向かう。  
旦那様は寝転んではいたが、まだ眠ってはいなかったようでこちらを向いた。  
「明日、コロッケを食べましょう」  
提案されてはいと返事をしたが、ふと気付く。  
「旦那様は、今日しこたま食べられたんじゃないですか?明日もだと飽きませんか」  
「いいえ。贅沢は敵ですから」  
この方の口からこのような言葉が出てくるとは、少し驚きだ。  
もう揚げてあるコロッケは冷凍もできないだろうから、早めに食べてしまう方がいいんだろうけれど。  
「分かりました。じゃあ、パンで挟んでコロッケパンにしましょう」  
「ほう。それは目先が変わっていいかもしれませんね」  
「ええ。せん切りキャベツもつけますから、食感も違ってくると思います」  
「そうですか。楽しみにしています」  
クリームコロッケは、コロッケパンには向かないかも。  
ならばそのまま食べようか、もしかしたらカニやエビが入っているかもしれない。  
もしそうならご馳走だ。  
 
隣の布団から、旦那様がじっとこちらを見てくる。  
体の熱が治まった今、そうされるのは何だかきまりが悪かった。  
「美果さん」  
聞こえないふりをしたいが、この距離では明らかに不自然だ。  
返事をしてしぶしぶそちらを向くと、旦那様はにこりと微笑んでいた。  
「こちらにいらっしゃい。一緒に寝ましょう」  
布団を持ち上げて促され、どうしようかと考える。  
一通りのことが終った以上、一緒に寝る意味があるとは考えられないのだが。  
「ほら、早くいらっしゃい」  
尚もせかされ、たまには素直に旦那様の言葉に従うかと、仰るとおりにすることに決める。  
布団にもぐり込んだ私を引き寄せ、旦那様はまた頭を撫でてくれた。  
この方に撫でてもらうのは、正直言って心地いいから好きだ。  
自分が毛並みの良い子猫にでもなったようで、悠々自適な気分になる。  
目を閉じてされるがままになっているうちに、いい具合に眠気が押し寄せてきた。  
「お休みなさい」  
「お、やすみ…なさい」  
なんとか返事をし、体の力を全部抜く。  
コロッケパン以外のコロッケの活用方法をうとうとと考えるうちに、私は旦那様の腕の中で眠ってしまっていた。  
 
---続く---  
 

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