星暦2444年。天使の住む天聖界と悪魔の住む幽星界の間に、地球が『挟まる』。長年争って来た天使と悪魔達は、戦いの場を地上へと移行させた。  
 それから数百年後、巻き添えを喰らった人類は殆どが死滅。地上の大半も崩壊し、戦いの中で天使と悪魔の数も大幅に激減する。  
 きちんとした形で残ったのは日本だけ。その日本で、東西に住家を別ち、最後の戦いが行われてようとしていた。  
 
 
 
 
 ―――――――。  
 
 
 
 
 巨大な鉄塊の集落。  
 それが、この街を一言で表すのに相応しい台詞。  
 三桁を超える階層のビル群と、夜を否定する多色で多大なネオンライト。  
 車は当たり前の様に空を飛び、何段もの車道レイヤーを作っている。  
 
 星暦4444年。  
 日本の首都東京は、五人の女幹部が取り仕切るグループ『凶神会』により、遊郭と賭博場で織り成す暗黒街へと変貌を遂げていた。  
 
 
 
 
    『魔天使ココエルの聖戦G-HARD OF COCOEL』  
 
 
 
 
 地上の月ルナ、天聖界の月アルテミス、幽星界の月ヘカーテ、三つの月が真ん丸く浮かぶ熱帯夜。  
 その下、聖都仙台の中心に存在する時代錯誤で巨大な仙台城。その最上階の座敷に君臨するのは、北陸の天使達を纏める『百万石(ひゃくまんごく)』の長、大天使マサムネ。  
 淡いブルーに艶めく長髪に、見るもの全てに女を意識付ける抜群のプロポーション。先の戦いで左目の視力を失い、眼帯で覆い隠してはいるが、そんな傷も美を引き立たせるアクセントにしか感じさせない。  
 全身を黒色のライダースーツに包み、左手には『愛刀・コジュウロウ』を片時も放さずに帯刀する。  
 コジュウロウとは、死別した弟の名前。極度のブラザーコンプレックスだったマサムネは、弟亡き後も武器に名を移す事で愛しい面影を抱いていた。  
 
 そんなマサムネの前で、片膝を着き、頭を下げるのは一人の天使。  
 マサムネと同じく全身を漆黒のライダースーツで包み、クリムゾンレッドの長髪を襟足で二つに分け、天使を主張する白い肌に、悪魔を主張する黒き翼と尻尾。敵対する両方の血を引く、魔天使ココ。  
 大天使の祝福を受け、エルの任命式が終わり、ココはココエルへと名をシフトする。  
 名の後に付く『エル』とは、『導く者』と言う意味。  
 産まれて僅か9年で、天使ココは教えを乞う側から乞われる側えと立場を変えた。  
 天使にとってこれは喜ばしい事。普通の天使にすればとても喜ばしい事。  
 しかしココエルに……ココにとっては違う。この世で数少ない翼を有する者にとっては、悪魔と天使のハーフにとっては、死刑宣告と同じなのだ。  
 悪魔も天使も長い地上生活の末に、翼が退化して無くなってしまう。翼を有しているのは、悪魔が天使を強姦して産まれた子供だけ。  
 そんな者達は、どちらに属しても優遇されない。使い捨ての鉄砲球として常に最前線へ。  
 即ち、ハーフにとってのエルの位とは、与えてやるから死んで来いと言う赤紙だ。  
   
 「早速だがココエルよ……中立地帯だった東京が、敵国側に傾きつつ有るのは知っているな?」  
 最上階の一室。障子を閉め切り、僅かな月光と四隅に置かれた行灯(あんどん)だけを明かりにして、百万石を取り仕切る女天使マサムネが、正面で片膝を着くココエルに問いを投げる。  
 「はい。不戦地域協定を、悪魔側が侵そうとしていると聞いております」  
 魔都東京。天使と悪魔が人の地を壊し、その罪悪感から唯一にして手を出さなかった場所。人類の全てが……日本人の全てがこの都市で暮らす。  
 そして唯一の、天使にも悪魔にも付かない中立地域。天使と悪魔が立ち入らない場所。そう決められた場所。  
 しかし最近、悪魔達が東京へ出入りしていると言う噂が立っていた。  
 
 「なればどうするココエル? お前の双子の妹ノノエルも、七日前に送り出したっ切り帰ってこぬのだ」  
 マサムネは薄暗い部屋で目を細め、青き眼光を輝かせ、口元を僅かに吊り上げて笑みを浮かべる。  
 「っ……私が出向き、真相を、確かめて参ります」  
 それを俯いたまま、悔しさで下唇を噛み締めたまま、ココエルが応えを返す。  
 双子の妹ノノエルも、七日前に全く同じ指令を受けて行方不明になっていた。  
 敵対者が居る地に単身で乗り込ませられ、七日も音信不通。無事で在るわけが無い。  
 にも関わらず、マサムネが与えたのは全く同じ任務。つまりマサムネは失敗すると解っていて、姉のココにも死刑を宣告していた。  
 「ぬかるなよココエル。しくじれば……わかってるな?」  
 マサムネがコジュウロウを抜き、その乱れ波紋の刃をココの首筋に添える。万が一にも逃げ帰って来れば殺すと念をも添えている。  
 「はい。必ずや……」  
 理不尽な言葉にもココは俯いたまま肯定するしかない。  
 唯々、妹が無事ならば救いたいと言う微かな願いに縋るのみ。  
 「行って来いココエル……期待、しているぞ?」  
 
 ハーフの魔天使は違う。産まれ付き違う。肌の色や羽や尻尾の有無もそうだが、もっと根本的なモノ。  
 悪魔は必ず両性で産まれ、誕生から千日調度に、どちらかの性器が無くなって男女に別れる。  
 天使は必ず無性で産まれ、誕生から千日調度に、どちらかの性器が出来上がって男女に別れる。  
 しかし魔天使は違う。必ず女で産まれ、誕生から千日調度にクリトリスが以上発達し、男性器のペニスへと役割を変わる。  
 故に、幾ら肌の色を偽ろうと、幾ら尻尾を隠そうと、肌を重ねようとすれば必ず魔天使だとバレる。  
 だから魔天使は、魔天使としか子を成せない。悪魔にも天使にも拒絶されるから……  
 
 「助けるからねノノ……そしたら、二人で暮らそ?」  
 城の真上、ネオンライトに照らされた夜、三つの月を眺めながら、シャチホコの上に佇んで魔天使だけが持つ羽を広げる。  
 白く色付く息を吐き、決意と夢を空に流し、まだ九つの、小さな全身に力を渡らす。  
 「It’s‐a‐showtime!!」  
 そして冷気が覆う冬の空へと、祈りを籠めて跳躍した。  
 
 

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