廊下からパタパタと足音がする。
(やっぱ心配させちゃったかな・・・・悪い事したな)
医師に包帯を巻いてもらいながら、恭介はこれから起こることに苦笑した。
バン!
「キョウ!もう手遅れなの!?」
恭介の予想通り、幼馴染みの凛が息をあげて診療室に入ってきた。
いきなり命の心配かよ、と予想通りの展開に更に苦笑いが込み上がる。
医者の方も微笑んでいる。
「勝手に殺すなよ。左手にヒビが入っただけだよ」
巻き終わった左手を見せると、凛は一気に脱力する――――
と、恭介は思っていたのだが、
「この―――」
「・・・・?」
凛が震え始める。それが怒りだと解った瞬間恭介は青ざめた。
「ま、待て!おちつ・・・」
「バカバカバカー!!!勝手に心配させてー!恭介の大バカー!!!!」
「わっ、やめろ凛!とりあえず投げるのやめろ!ハサミは投げるな!」
包帯やらテープやら弾幕に事故以上の恐怖を抱きながら恭介は叫んだ。
医者の微笑みは、もはやひきつっていた。
「今度こそ死ぬかと思ったぞ・・・・」
「・・・ゴメン」
病院を出た二人は街を歩いていた。
「・・・・その」
「なに?」
「・・・・別に」
「・・・・なんだよ」
もっとも恭介は凛の言いたい事の予想はついていた。
十年以上の付き合いは伊達ではない
再び凛が口を開く。
「・・・・急いでくれてたんだよね?」
「あー、うん。早く凛に会いたかったし」
「バ、バカ!だからって事故起こさないでよね!」
顔を仄かに朱にしながら顔を背ける。
「凄く心配したんだから・・・もし、もしキョウが死んじゃったら・・・」
だんだん凛の声が震えていく。
(・・・・ったく、ツンデレは好きじゃない筈だったのにな)
またしても恭介は苦笑したが、それを隠して凛の肩で腕を回した。
「大丈夫。左手なら支障は大してない。俺は帰宅部だし。それに・・・」
「・・・・」
一瞬ためらったが、そのまま続ける。
「俺は凛を置いて勝手に死にはしないから安心しろ」
「・・・・バカ」
うるんだ眼を見せながら、それでいて綺麗な凛の顔に
恭介は愛しさを覚え・・・少し悪戯心も生まれた。
「あー、でもあれだ。一つ困りそうだな」
「・・・?」
「片手じゃお前の胸、揉みきれないな」
「・・・!!」
みるみる凛の顔が真っ赤になる。
ニヤリと笑い、恭介は更に続ける。
「お前好きだもんなー、胸いじられるの。すぐに・・・・」
「こんの大バカヤロー!!!キョウなんか死んじゃえー!!!!」
恭介の足を思いきり降んで、全力で走っていった。
痛みに耐えながらも
(そっちはいつものホテルへの道だろうが・・・)
と、本日4回目の苦笑を浮かべながら、
恭介は愛しき幼馴染みを追いかけた―――