隣で考え事して歩いているのは宮野恭平、それを横目に見て機嫌が悪くなっているのは  
私、宮野和歌子。  
 
恭平とは遠縁のいとこって関係、いとこだから同じ姓かってーと、そういうわけでもない、  
私の生まれ育ったこの地区は宮野姓がやたら多いってだけ。  
恭平の家は、早くにお母さんを亡くしていたせいで、恭平が小学校へ上がるのをきっかけに、  
環境のいいお父さんの実家に引っ越してきたのだそうだ。で、うちは遠縁とはいえ親戚なんで、  
家族ぐるみでのお付き合い。  
 
恭平が家でご飯を食べていくことなんてざらにあったし、歳を取って出かけるのが億九な家の  
親に代わって、恭平のお父さんに色々なところへ遊びに連れて行って貰ったりもした。  
私は、近くに近い年の子がいなかったから、自然と遊んだ回数が多かったってだけのこと。  
 
…そりゃ、今考えるとあんまり女の子らしい遊びじゃなかったなと思ったりするけれど。  
お日様神社で隠れんぼとか、飼い犬のシロを連れて裏山探検とか、ふもとの小川で魚釣りとか、  
お陰で運動能力はずいぶん鍛えられまして、スポーツ全般得意になっちゃった。  
 
そんなこんなで、小学校、中学校と一緒に来て、高校も同じく隣の市の進学校に進んだ。  
私も恭平も親からは同じ県内の国立学校に行ってくれって頼まれているって事は、大学も  
一緒になるかも。  
まぁ、大学は受かることが出来たらって事なんだけれどね。そのために今は色々頑張って  
いるところ。  
 
でも、ここまで一緒だと流石に呆れてしまう腐れ縁だ。  
 
だからといって、別に私が朝恭平の家に行って起こして一緒に登校ってなんてベタな関係では  
ありませんから。あしからず。  
…まぁ私の方が何時もギリギリで駅に向かってダッシュしているせいだから何だけれどね。  
 
こういうと「がさつな女」って印象もたれるかもしれないけれど、私だって、年頃になってお洒落  
には気を遣うようになっているし、化粧も覚えた、美人は得をするって思うし、そのためには努力  
もしなきゃと。  
 
自分でいうのも何だけれど、実際私は美人な方だと思ってる。  
そりゃ街歩いていたらスカウトされたりなんてする訳じゃないけれど、それなりに猫もかぶって  
いるから男子からの人気はあるみたい。告白は何度もされてきたし、内申書の点数稼ぎで  
生徒会に入ったら、なぜか副会長に推薦されてなったりもしたしね。  
 
恭平とは男女交際ではなく、やっぱりあくまで幼なじみの関係。  
暇な時は恭平の家に押し掛けていって、お菓子食べたり、ビデオ見たり、ゲームやったり、  
勉強したり…。  
一見恋人同士のつきあいに見えるかもしれないけれど、やっぱりこれは男女交際ではないと  
思ってる。  
だってもし互いが同性であっても同じ事してるんじゃないかな。  
甘い雰囲気になることもないし…。  
 
そんなこんなで、恭平とはこんな関係がずっと続くものだと思っていた。  
いや、あえて本音を言えば「ずっと続いて欲しかった」。気の置けない友人として、猫かぶらない  
で素の私が出せる相手として、恭平にはずっと隣にいて欲しかったのだ。  
 
 * * *  
 
今日、恭平が告白されたらしい。  
相手は恭平の所属している美術部の後輩、加奈子ちゃん。私から見てもかわいいと思える子だ。  
ちっちゃくて、女の子らしくて、ころころ笑って、一生懸命で、保護欲を掻きたてるような、そんな子。  
 
「いーじゃん、つきあっちゃえば」  
なんか面白くない。そんな心を隠してからかうような口調で言う。  
「こんな機会もう2度と無いかもよ、恭平が告られるなんて」  
「簡単に言うなよ」  
意外とまじめな恭平の声に顔を向ける。  
「それに、もしつきあったら和歌子、お前家に来ること禁止になるぞ」  
「えっ、なんでよ」  
それは困る、これから親から隠れてどこでお菓子食べればいいってのよっ…って問題は  
そこじゃないけれど。  
 
「あのなぁ、逆の立場で考えて見ろよ。お前がつきあっている男がいくら友達だからって  
別な女の子を度々家に上げているような奴だったらどう思うよ」  
想像してみる。想像上の相手は…恭平だ。恭平の家に見知らぬ女の子がやってきて、  
私のポジションをとってしまう。そんな想像。  
 
「う、たしかに嫌かも…」  
「だろ」  
自分の想像に自己嫌悪、なんで恭平なのよ。  
 
「俺さぁ、今回告白されて思ったんだ、告白ってすげー勇気がいるって事」  
「ふうん」  
「いつもころころ笑っているあいつが、顔真っ赤にしてふるふる震えながらこの手紙受け  
取ってくださいって…」  
 
なんかイライラして言葉を遮る。  
「なに、もて自慢?」  
「違うよ、こんなに一生懸命の告白には、やっぱり一生懸命答えたいって」  
「それって…つきあうってこと?」  
恭平が、他の子とつきあう?今更、私を残して?…ん?私を残して?  
 
「いや、俺も勇気出さなきゃないかなってこと」  
恭平が立ち止まる。何事かと私も足を止める。  
 
「和歌子、お前が好きだ、ずっと前から…」  
「へ?」  
 
なになになに、恭平?なにこの急展開?  
「お前が告白される度に、俺はもういつもどうにかなりそうだったんだ。でも、今の関係が  
良すぎて、この関係の変化するのが怖くてずっと言えなかった」  
 
「ちょっ、ちょっと恭へ…」  
「和歌子、俺とつきあってくれないか?」  
 
がつんと言う衝撃、頭が真っ白になってなにも言えなくなる。  
「お前が告白されても断っているのは、俺が居たからだというのが思い上がりの勘違いって  
言うんだったら言ってくれ」  
「そ、それは…」  
 
しどろもどろに言葉を紡いでもその続きが出てこない。長い時間がたった。  
恭平の静かな声。  
「どうなんだ」  
 
だめだ、降参。そうです、そのとおりです。恭平、アンタが居たからだよ。  
「…うん、恭平が居たから断ってた…」  
恭平、私もずっと好きだった。でも好きって思わないことにしていた。  
理由は恭平と同じ、関係が壊れるのが怖かったから。  
 
「ふぅ…」  
恭平が力を抜いてガードレールに腰をかける。  
「勝算があったとはいえ、すげー緊張した」  
なんだと、勝算があっただと?おい。  
「なにそれ、計算ずくってこと?」  
「ははは、六四くらいには、って自惚れていたんだけれど、うれしいよ和歌子」  
笑顔の恭平を見てられなくなって思わず背中を向ける。  
顔が真っ赤になってるの何となく判る。こんな顔恭平に見られたくない。  
 
「ふ、振られた時はあっさりその子とつきあうつもりだったんじゃない?計算高い奴ぅ!」  
「そんなこと無いよ、悪いけれどこの話は断って、和歌子に振られた傷心を一人寂しく慰める  
ことにしていたさ」  
「ど、どうだか、判らないよね、そんなの」  
 
恭平が近づいてくる気配がする。心臓が高鳴って爆発しそう。相手は恭平だよ、なんで今更  
こんなになる必要があるってのよ。  
 
「和歌子…」  
肩を掴まれ振り向かされる。恭平の顔が目の前にあった。なんだ恭平も真っ赤になってる  
じゃん。  
 
「好きだ…ン」  
突然キスされた。  
キスキスキスゥ?こんな天下の往来で?突き飛ばそうとしても力が入らない。  
唇が触れ合うだけの軽いキス、でも、たぶん忘れることが出来ないであろう私のファースト  
キス。  
不覚にも状況に流されキスに酔っている自分が居た。  
 
ブォォォォォ…  
 
車が通り走り去る音で我に返る。  
「ひょ、ひょうへひ!ぷはっ、あんたなに考えてんの?こんな往来でっ!」  
キスする恭平を無理矢理引きはがす。  
「誰もいないよ、車なんかはすぐいっちゃうし」  
 
なにしれっと言ってるの?コレも計算尽く?危ない奴め。  
「黙れ変質者!だ、誰も見てなきゃいいってもんじゃないでしょっ!」  
「変質者はひどいな、和歌子だってその気になってくれたじゃ…」  
 
ぷはっ、思わず吹き出す。  
「なってません!うぅ、私はこんな変態と共に過ごしていたのか、よく今まで貞操が守れた  
ものよね。それにしても好きな人がこんな変態だったなんて私可哀想!」  
「好きな人に変態変態と詰られてる俺可哀想…」  
「もう口開くなっ!いいわ、いいでしょう、これからアンタん家に行って、洗いざらい話して  
貰うからね、いつから私を好きになったのか、どういうところが好きなのかをねっ」  
 
私は相当目を据わらせて恭平に詰め寄っているようだ。恭平の顔が青ざめていく。  
「うわぁ、俺そういうの苦手っぽいんだけれど、好きなら好きで良くない?」  
「良くないっ!今後のつきあい方も考えなくちゃ危うくてやってられないわ」  
「今まで十年以上積み重ねた信頼関係は…」  
「さっきのキスで吹っ飛びましたっ!」  
 
ははは、なんだ、なんにも変わらないじゃない。  
そっか、お互いとっくの昔に好きになっていたんだもの、変わるわけがなかったんだ。  
 
ごめんね、加奈子ちゃん。  
恭平はずっと前から猫っかぶりでわがままでかわいくない女に夢中だったみたい。  
私も朴訥なわりに気が利いて優しい恭平に夢中であったことを気づかされました。  
 
とりあえず恭平の家に行ったらキスをしよう。  
ゆっくり思い出に残るような優しい恭平とのセカンドキスを。  
 

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