あれから4日が経った。理奈の父親は一向に帰ってこない。相変わらず土生との共同生活。  
(まだ恋人同士ではないので、あえて『同棲』とか、『新婚生活』とか言うのは避けておこう。)  
 
「…つ…」  
「つ?」  
「疲れたよー。」  
「なーに言ってんだこの馬鹿。あんな程度で疲れてどーすんだ、理奈。」  
「翔がなんでそんなにも疲れてないのかが不思議だよ。」  
 
玄関に到着するやいなや、ばたりと倒れこんだ。  
今日も3時間、野球漬け。たまったものではない。半端ない練習量なのである。  
 
「お風呂沸かして―。」  
「ったく…世話が焼ける。」  
 
乳酸が筋肉を支配している理奈と違って、土生はさほど息が上がっていない。  
率先して家の事をするのは疲れてない方、と決めているので、  
 
…これで4日連続土生、という事になる。  
 
「とりあえず湯は入れ始めたから、リビングで休もう。」  
「うん。」  
 
ユニフォームを脱ぎ、びしょびしょのインナーウェアを洗濯籠に放り込む。  
お互い下着姿の相当ラフな格好でテレビ画面に向かうのだが。  
 
今日はろくなテレビ番組が無い日だったっけ。  
 
「行け、電撃だ!」  
「やったー、直撃よ、アシュの勝ちだわ!」  
「サンキュー、メイ、ダウン!これであと1つで…」  
 
10年以上続いている子供向け長寿番組。関連ゲームも爆発的な売り上げを見せているらしい。  
もっとも、この2人にはこの番組の良さは分からないらしい。  
 
「あ、消した。」  
「見てたの?」  
「お前の巨乳をな。」  
「…。」  
 
こういったやり取りにももう慣れた。明日で、土生がこの家に住み込んで1週間になる。  
土生の理奈への扱いの悪さは、いまだ治ってない。  
冗談の悪口を言うのはたびたびで、ドリンクが飲みたいと言っては理奈の巨乳にしゃぶりつく。  
別に嫌ではないのだが、  
 
土生がそのような事をする原因がどうしても気になる。ただ、その理由が分からない以上どうしようもない。  
どうにかして土生をやりこめようと考えるだけで精一杯。もちろんそんな努力は無駄なのだが。  
 
「お風呂入ろ?」  
「ああ。ただ、きょうは風呂の湯あふれるかもな…」  
「なんでよ。お風呂の湯入れすぎた?」  
「今日突然増えた理奈の体積で水かさが増える。」  
 
必殺ぐるぐるパンチはあえなく止められた。  
 
 
「ふんふんふーん♪」  
「…。」  
 
先に体を洗った土生が湯船につかって、楽しそうに体を洗う理奈を鑑賞中。  
ヌード、と行きたいところだが、まだ体に泡が残っており、大事な部分ははっきりとは見えない。  
 
洗面器から湯が滝のように流れ落ち、泡が消え去ると乳首がしっかりと見える。  
…何を思ったか、突然湯船から立ち上がった。  
 
「どうしたの?」  
「…。」  
 
ボディソープを手に溜め込む。  
そして理奈の背後に立ち、揉みしだく。  
 
「…。」  
「どうしたの?」  
「…反応がない。」  
「いや、そりゃ気持ちいいけどさ。…喘がなきゃいけないものなの?」  
「言うつもりがなくても、体が勝手に反応し、喘ぐものだ。」  
「だったら、あたしは何もしなくたっていいじゃん。」  
「ああ…だが。」  
 
乳首をつまみあげる。だが、反応はない。  
 
「なんで理奈の体が反応しないかって言ってるんだ!」  
「そんな事言われても…」  
 
怒りにまかせて、シャワーの出力を最大にした。  
逃げようとする理奈をとらえて、水責めを敢行。  
 
「きゃははははっ!だから、冷たいって!」  
「お前のその体に、お仕置きしてやる!」  
 
いつもこんな感じで、お風呂タイムは過ぎていく。  
 
「はあ…」  
「そう沈まない。ほら、おっぱい飲む?」  
「いらない。」  
「いつも勝手に飲むクセに、あたしがおっぱいあげる、って言ったときには拒否するんだから。  
 そんな調子だと、いつかそっちから求めてきても、拒否するかもしれないよ。  
 何の断りもなくしゃぶってきたら、叩き倒しちゃうかもね。」  
「…。」  
 
突然涙ぐんでしまった。  
冗談のつもりで言ったのに。  
 
「ちょ、ちょっと、こ、こんな軽い冗談で泣かなくたっていいでしょ!?」  
「泣いてなんかない…畜生。」  
 
堪えていたが、我慢の限界に来ていたのだろう。  
理奈に抱きついて、おっぱいをしゃぶりはじめる。  
 
「意地張るよね。なんでだろ。」  
「こく…こく…」  
「意地張ってたら、おっぱい飲んでないか。でも、普段からあたしに意地悪してほしくないなあ。」  
「…嫌だ。」  
「なんで?」  
「…もっともっと、強くなる。野球で、絶対に優勝する。」  
「…。」  
 
どこかずれているような気もする返答。  
でも、野球で勝ちたい気持ちは、一緒だった。  
 
「…うん、がんばろ、翔。」  
 
 
とはいったものの。  
やはりもう少し練習メニューの改善を提案したいのは確かだった。  
 
「遅れてるぞ理奈!  
 ほかの連中、女子にすらついていけねえのか、情けねえぞ!」  
「お…男も女も、関係ないでしょ?土生君。」  
「黙って走れ!関係ないのなら、俺に後れをとるな!」  
「はーい…」  
 
金曜日。明日は週末だというのに、そんな嬉しさがどこかへ吹っ飛んでしまった。  
監督を見ると…ありゃ、居眠りしてるよ。助けてよ、監督…  
 
「サボるな!」  
「はーい。」  
 
バッティング練習でも、細かいところまで注意が行く。  
 
「橡浦!上体が突っ込んでる!」  
「す、すみません。」  
「いいか、もっとこう…」  
 
そこまで上体が突っ込んでいるわけではない。  
だが、どんなに細かい改善点も、見逃さない。自分の持っている技術を、叩きこむ。  
 
「赤松、バントはそうじゃない、こうだ!相手の球を、怖がるな!  
 てめえらには、打撃力が決定的に不足している、大会までには、とても間に合わない!  
 だから、点を取るのは、橡浦、俺、そして山下!俺たち3人で何とかする!」  
「はい!」  
「俺たち3人しか打てない以上、3人だけでは取れる点には限界がある!おそらく1点、多くて2点だ!  
 その得点を、理奈が死ぬ気で守り切る!  
 いいか、お前らが出来ることは、ランナーが出たら確実にバントし、相手に少しでもプレッシャーをかけること!  
 そして、確実かつ、広範囲を守れる守備力を身につけること!」  
「はい!」  
 
橡浦が出て、土生と山下で何とか橡浦をホームに返す。理奈で最少得点を守り切る。  
そのために、残りの選手が出来ることは、出来ることを確実にこなす。これに尽きる。  
 
「出来ることだけでいい、確実にこなせ!そして、鉄壁の守備を身につけろ!」  
「はい!」  
 
理奈が豪速球を投げ込む。全員頑張ろうとはしているが、バントでも空振りかファールチップばかり。  
打者に厳しい声を飛ばすが、理奈も例外ではなかった。  
 
「理奈!体が開いている、それじゃコントロールは定まらない!」  
「う、うん!」  
 
素振りをしているのは橡浦と山下のみ。この2人にだけは、打撃技術を教えている。  
この2人は、自分の能力以上の事をやってもらわなければ困るし、それが出来る可能性を秘めている。  
 
「お前らはあいつらと同じ扱いじゃない。  
 いいか、確実に出来ることだけ確実にすればいい、なんて甘ったれた考えを持つな。  
 お前らは、打つんだ、いいな!」  
「はい!兄貴!」  
「OK、あんちゃん!」  
 
チームの方向性が、まとまった。  
監督は薄目を開けて、ゆったりと微笑んでいる。  
 
次の日の土曜日。  
今日もくたくたのぼろぼろで帰路に着くのだが。  
 
「ねえ、もうちょっと練習のメニュー何とかならないの?」  
「…。」  
「ねえ!」  
「しゃべれるくらい体力余ったから、もうちょっと練習メニュー増やせってか?」  
「…。」  
 
何を言っても無駄である。  
怪我とかそんな問題じゃなく、ただ疲れる。本当にもう勘弁してくれ。  
 
「…なんだ?」  
 
ふと横を見ると、いつもの公園が見える。  
しかし今日はなんだか騒がしい。  
 
「おーおー、なんだか大戦争が起こってるらしいな。」  
「またなんかいろいろやってるねえ。  
 …あ、不意打ちだ。しかもあの人西中のボス…」  
 
女子を囲んでいた男子たちに割って入り、助太刀する明。  
疲れていたので、公園の入り口付近、その大戦争を見つからない位置でゆっくり観戦する。  
 
「…ん?誰かが来るぞ。」  
 
必死になって戦場から公園の入り口に向かって逃げ出すカップル発見。  
いかにも戦いの役に立ちそうにない男子と、胸を抑えながらそれについていく少女。  
 
「…こっちに来るね。」  
「とばっちり喰らう。隠れてろ。」  
 
逃げ出す謎の2人組。  
結局こいつらは誰なんだ…ん?なんかあっちも大きな高校生?と西のボスと…女の子?  
2人がかりでも勝てるもんなのかねえ。  
 
この様子は『夕立』及び『バージョンSDS』参照。  
 
 
「…お、終わったようだな。」  
「東小の皆、全員逃げてっちゃった。」  
「さあて、いい休憩になった、行くか。」  
 
ちなみにこの時、明に見つかってはいたのだが、  
 
「あ、あいつ…」  
「どうした?」  
「おお、岸。無事だったか。いや、東小の野球少年があそこにいたから…」  
「東小!?すぐに追い打ちを…」  
「待て待て。深追いはまずい、今日はこの辺でいいよ。」  
「そもそもあいつ、野球するためにこのあたりに来てるだけで、戦争参加者じゃないからなあ。  
 関係ない奴を追いまわす必要はない。」  
 
兵法にのっとった岸と、事情を知っている明に制され、追い打ちは免れた。  
 
(でも、いつまでこのあたりにいるつもりなのかな?…土生君。)  
 
多少は回復した体をすっくと立ち上がらせ、安住の地、我が家へ。  
…と、そう簡単に事は運ばなかった。  
 
「…ちっ、司馬か。」  
「か、隠れよ!」  
 
周りを見渡してみても、家の塀で並んだ1本道。  
隠れる場所などありはせず、あえなく見つかった。ちなみに今日は5人組、あのユキちゃんはいなかった。  
 
「急げ、横穴公園で、みんなが俺たち援軍を待ってる…あ、土生!」  
「…なんだよ。早く援軍に行くんだろ?」  
「え?でも、戦争はもう西の勝利に終わったよ?」  
(この馬鹿…)  
 
援軍に駆け付けるため急いでいる司馬。土生に構っている暇がない以上、  
戦争が終わっていることがばれなければ何もされないはずだったのだが。  
 
理奈がまた余計なひと言。  
 
「なにい!?くそ、手遅れだったか…」  
「だったらせめて、こいつらをメタメタにしちまおう!ついでに女の方は後でまたたっぷりと…」  
「え…た、たっぷりって…」  
 
何となく理奈にその意味はつかめていた。  
セクハラを数多く受け、ましてや強姦されかけたことすらあったのだ。恐怖心がよみがえる。  
 
「さあて、今日は負けねえぞ、おまえら、ボールさえよければ、こいつは怖くねえ!」  
「ちい。しゃあない。  
 …なあ、さっきから俺たちの帰り道、ずっとついてきてるんだろ?  
 怖いのは分かるけど、助けてくれないか?」  
「はあ?お前、何いってるんだ?やっちまえ!」  
 
5体2。数で圧倒的に優勢の状態で、襲って…  
…いや、襲われた。  
 
 
「ぐはっ!」  
「お、おまえはユキ!ぐほっ!」  
「えいっ、たあ!」  
(まったく、さっきからこいつ、俺たちの後をついてきてよお…  
 あんまりいい気分はしなかったが、ストーカーを許してやったんだからこれくらいはしてもらわねえとな。)  
「しょ、翔…この子がいるの、知ってたの?知っててああ言ったの?」  
「ああ、最初から気付いてた。ったく…」  
 
当然理奈は気づいていなかったらしい。  
おっと、その間にも格さんと助さんが敵をばったばったと…って、1人しかいないか。  
 
「に、逃げろ!」  
「覚えてろよこの裏切りもの!」  
 
横穴公園の後に行われたミニ戦争は、東小援軍が散々な敗北を喫した。  
 
「…ちっ、司馬か。」  
「か、隠れよ!」  
 
周りを見渡してみても、家の塀で並んだ1本道。  
隠れる場所などありはせず、あえなく見つかった。ちなみに今日は5人組、あのユキちゃんはいなかった。  
 
「急げ、横穴公園で、みんなが俺たち援軍を待ってる…あ、土生!」  
「…なんだよ。早く援軍に行くんだろ?」  
「え?でも、戦争はもう西の勝利に終わったよ?」  
(この馬鹿…)  
 
援軍に駆け付けるため急いでいる司馬。土生に構っている暇がない以上、  
戦争が終わっていることがばれなければ何もされないはずだったのだが。  
 
理奈がまた余計なひと言。  
 
「なにい!?くそ、手遅れだったか…」  
「だったらせめて、こいつらをメタメタにしちまおう!ついでに女の方は後でまたたっぷりと…」  
「え…た、たっぷりって…」  
 
何となく理奈にその意味はつかめていた。  
セクハラを数多く受け、ましてや強姦されかけたことすらあったのだ。恐怖心がよみがえる。  
 
「さあて、今日は負けねえぞ、おまえら、ボールさえよければ、こいつは怖くねえ!」  
「ちい。しゃあない。  
 …なあ、さっきから俺たちの帰り道、ずっとついてきてるんだろ?  
 怖いのは分かるけど、助けてくれないか?」  
「はあ?お前、何いってるんだ?やっちまえ!」  
 
5体2。数で圧倒的に優勢の状態で、襲って…  
…いや、襲われた。  
 
 
「ぐはっ!」  
「お、おまえはユキ!ぐほっ!」  
「えいっ、たあ!」  
(まったく、さっきからこいつ、俺たちの後をついてきてよお…  
 あんまりいい気分はしなかったが、ストーカーを許してやったんだからこれくらいはしてもらわねえとな。)  
「しょ、翔…この子がいるの、知ってたの?知っててああ言ったの?」  
「ああ、最初から気付いてた。ったく…」  
 
当然理奈は気づいていなかったらしい。  
おっと、その間にも格さんと助さんが敵をばったばったと…って、1人しかいないか。  
 
「に、逃げろ!」  
「覚えてろよこの裏切りもの!」  
 
横穴公園の後に行われたミニ戦争は、東小援軍が散々な敗北を喫した。  
 
「まあ、…何と言うか、助かったんだが…なんでついてきた?」  
「そうよ、ストーカーなんて…」  
「いや、あの…ばれないと思ったんで…」  
「えっと、そうじゃなくて、理由を聞きたいんだけど。  
 助けてもらった身としては、今更ストーカーがどうのこうの言うつもりはないから。」  
 
うつむいたまま、何も話さない。  
土生には見えていなかったが、頬が鮮やかな紅に染まっていた。  
 
「お、おふたりは、その…」  
「ん?」  
「あ、えっと、その…」  
「何がなんだって?」  
「ご、ごめんなさいっ!」  
 
すたこらさっさと逃げて行く。結局、何が何だか分からなかった…  
…と、土生の肩に何か命中する。  
 
「…なんだ?」  
「もしかして、雨?」  
「まずいな、空が…ひと雨きそうだ、大急ぎで帰ろう。」  
 
その頃、明や千晶、そして先ほどのカップルもずぶぬれになっていた。  
明や千晶がこの時裸の関係になったのは周知のとおりである。  
 
そしてこの2人はと言うと。  
 
「どうにか間に合ったか…」  
「そだね。」  
 
家の中からどしゃ降りの外を眺めている。  
こんな状態で出前を出すのも気が引けるが、そうなると飯はどうしよう。  
 
「何か冷凍庫になかったかなあ…ねえ、翔、何か作ってよ。」  
「ん?ああ、じゃあ風呂を沸かしておいてくれ。」  
「はーい。」  
 
慣れた手つきで料理を作っていく土生。  
それを楽しみにしながら、風呂の準備を進めて行く理奈。  
 
「出来たぜ。」  
「速いねー、相変わらず。」  
「3時間くらい煮込まなければならない料理の方が良かったか?」  
「…そういう意味じゃないから。」  
 
食事を済ませると、風呂に入る。  
今日は練習が厳しかった。一段と気持ちいいはずである。  
 
「先入ってるね。」  
「ああ。…。…?」  
「どしたの?」  
「いや、別に。」  
 
体のどこかが、変な感じがする。  
何と言うか…変に軽い。  
 
「ふー…気持ちいいなあ!」  
「入るぜ。」  
「うん。」  
 
分身はすっかり勃っているものの、理奈の裸を見るのもすっかり慣れた。  
だが、理奈の方はというと。  
 
「…どうした?」  
「なんか、また傷が増えている気がする。」  
「そうか?怪我しやすい体質なのかもな。」  
 
そんなわけない。理由はただ1つ。  
土生は誰よりも練習に全力を出し、妥協や甘えがない。それだけである。  
心のどこかで甘えのある選手は、体に傷を負ったりはしない。  
 
スポンジにボディソープをつけて、洗っていく。  
…その時、異変が起きた。  
 
「…あ。」  
 
スポンジを落としてしまった。  
やれやれと思いつつ拾い上げるためにスポンジに手を伸ばす。  
…だが、腕が持ち上がらない。  
 
「…く、なんだよ…」  
「ど、どうしたの!?」  
「…腕が上がらない、曲がらない…」  
「そ、そんな…」  
「気にするな、感覚がなくなっているだけだ、すぐに元に戻る。…うっ。」  
「だ、大丈夫?」  
「なあに…しびれる感覚が、多少つらいだけだ…」  
 
水音とともに、理奈が浴槽を出て、スポンジを拾い上げる。  
そして、優しく土生の背中を洗い始めた。  
 
「り、理奈!?」  
「あたしが、洗ってあげるね。」  
「いや、いいって!すぐに腕は元通りに…」  
「我慢しないの!もっとあたしを頼っていいんだから…」  
 
そう言われると言い返せない。  
理奈の想い、そしてその声が愛しい。  
 
「翔が疲れてることにも気を配らずに、料理を作らせたあたしにだって…  
 だから、せめてこれくらいはさせてよ!」  
「…。ああ、わかった…。」  
 
沈むような声の土生。  
…どこか理奈の心遣いを嫌っているようにも見える。  
 
「いつもいいように意地悪されてるからね、だから何となくこうしてあげるのは嬉しいな。」  
(…もう充分、普段からしてるじゃねえか…)  
「何か言った?」  
「いや。」  
「そう。…そういえば、翔は今、腕が動かせない。」  
 
体をほぼすべて洗い終わったとき、彼女はまだ洗っていない部分がある事に気がついた。  
その凶器ともいえるものに対し、無意識のうちに避けていたからであろう。  
 
「な、なんだ?(声が…何か企んでるような…)」  
「すなわち…あたしに、反抗できない!」  
「…。お、おい…」  
 
理奈が土生の真正面に座った時に、そのたくらみに気がついた。  
理奈が軽くスポンジで胸を洗い、ボディソープをつけて滑りを良くする。  
 
「いただきまーす!はむっ!」  
「や、やめろっ!」  
「やめないよーん!」  
 
おっぱいで土生のモノを一口で飲みこんだ。  
そのまま上下に動かしていく。  
普段からおっぱいを見せたりと巨乳においては積極的にエッチをするが、下半身ではほとんどエッチをしない。  
 
パイズリも最初に風呂に一緒に入った時以来だったし、理奈の秘所はいまだ土生には見られていない。  
さすがの理奈も下半身には、ある程度の抵抗感があり、いつもいつも、とはいかなかった。  
 
「あ…」  
 
腕だけでなく、下半身もしびれてきた。  
もはや土生は左腕以外完全に封じられたも同然。  
 
「そろそろいきそうかな?それじゃ…」  
「あっ!」  
 
お湯を陰茎にかけてあげる。  
すでにカチカチに固まり温度もあがっていた陰茎が、熱いお湯をかけられさらに反応する。  
 
「り…理奈…だ、出したい…」  
「うん、わかってるよ。んむ…」  
 
口の中に入れて出し入れする。  
さほど激しくはないものの、既にさっきからのパイズリのおかげで効果抜群。  
それでも速度がゆっくりなのでなかなか出ない。  
 
「理奈…も、もう…」  
「ん!」  
 
理奈が土生を楽にするために、スピードを上げる。  
その緩急をつけた攻撃に、土生はあっさり陥落した。  
 
 
「んんっ!んぐ!んんっ!」  
「…っ!」  
 
2度目の射精の味も、理奈にはやっぱり苦く感じた。  
 
理奈の助けを借りながら浴槽に入る。  
腕はまだ治らない。  
 
「腕、大丈夫?」  
「…。」  
「顔、真っ赤だね。」  
「…うるせえ。」  
 
体を浴槽にしっかりと沈めて落ち着きたかったが、腕がまともに動かないので気を抜けない。  
その様子を理奈が察知して、  
 
「!」  
「これで沈まないよ。」  
 
理奈が抱きしめる。  
ふかふかのおっぱいに包まれる。  
だが、土生はその柔らかい感触に気持ちよさを感じることはなかった。  
 
…ただただ、自分が情けなかった。そして、涙した。  
 
「しょ、翔!?」  
「…なんでだよ…」  
「な、何が?」  
「…俺はさ、…仲間に慕われてはいたけど、ずっと孤独だった。  
 でも、理奈が来てくれて、180度変わった。」  
「ありがと。」  
「…でも、今までチームで一番だった俺の前に、急に強い奴が現れて、  
 今までにない、感覚を味わわされた。」  
「それって、やっぱり…」  
 
土生に突き飛ばされた。  
その理由を、ついに知る事が出来る。そう思った。  
土生の苦しみを、分かってあげられる、と。  
 
「…やっぱり、俺より野球のうまいやつがチーム内にいる事を、心のどこかで憎んでいた。  
 ずっと俺が一番だったから、だから憎んでいた。…こんな事思ってちゃいけないんだけど。」  
(な…なんて言えばいいんだろ、あたし…)  
「…でも、自分の本当の心に気付かせたのは、…それも理奈、お前だ。」  
「ど、どういう事?」  
 
ドキッとした。やばいと思った。  
土生に怒られる、叱られる…何か悪い事したっけ。理奈の記憶の引き出しを目まぐるしい勢いで開けていった。  
 
「…あの時。理奈に心を救ってもらって。  
 心の底から、思い切り泣けるように、おっぱいで受け止めてくれて。」  
「翔…」  
「いつも、風呂に入る時も、寝るときも、おっぱい飲ませてくれて、甘えさせてくれて。  
 どんな時でも、包み込んでくれて。」  
(…親と早くに生き別れたから、甘えんぼさんなんだよね…)  
「そのうえ、野球の腕でも負けてて…俺は…」  
 
土生が苦しんでいたその理由。  
 
「ずっと、理奈に対して劣等感を抱いて、これからやって行かなきゃならないのかって…」  
「!」  
「いつもお前に意地悪していたのはそのせい。すこしでもその劣等感から抜け出すためにやってたこと。  
 …でも、所詮何の効果もない。そんな事をしても、理奈に勝っていることにはならない。」  
「翔だって、十分すごいって、あれだけ打てて、守備もうまくて…」  
「理奈と比べたら、全然だ!俺なんか…」  
 
県内のリトルでもかなり評価の高い土生。  
なのだが、土生は全く理奈には野球の腕では敵わない…そう感じていた。  
いくら理奈がそれを否定しても、効果はない。  
 
「俺なんか、全然だ!」  
「…。」  
「ずっと、理奈に、守られて、その苦しみが、女のお前なんかに…わかってたまるかよ!  
 …こんな腕…こんな動かなくなった役立たずの腕…」  
「しょ、翔!?まさか!」  
 
右腕を振り上げる。もう感覚は元に戻っていた。  
そして土生が目を向けた先は、…浴槽の淵。  
 
「要らねえんだよ!」  
 
自分への怒り、そして悔しさ。  
野球選手の資本ともいえる体を、自らの手で壊す。  
 
「…!」  
「や…やめて…」  
 
理奈が両手で右手首をつかみ、辛うじて最悪の事態は避けた。  
…そして、思わず理奈も手が出た。  
 
「つっ!」  
「馬鹿!」  
 
パシンという音。  
土生は、ただ呆然としていた。  
 
「…俺は…俺はどうすりゃいいんだよ…」  
「そんなの知らないわよ!少なくとも、大事な手を、壊すべきじゃない!」  
「…そうだけど…そうだけど…」  
 
土生がまた涙を流す。  
…そしてついに理奈がキレた。  
 
「ぐあっ!」  
「…。」  
 
さっきの平手打ちじゃない。  
平手打ちも少し痛かったが、土生が心配ゆえの平手打ち、大した威力はない。  
 
…だが、今度は本気で殴った。叩いたのではなく、殴った。  
土生への怒り、いらつき。豪速球を生み出すその左腕からの一撃の威力は、生半可なものではない。  
 
「…つっ…く、口の中切れたじゃねえか、いきなり」  
「何がいきなりよ。  
 自分の弱さを人のせいにして押しつけて。本当にそれでもプライドがあるの?」  
「う、うるせえ!」  
 
先ほど平手打ちをした、翔の心配をしていた理奈とは違う。  
心の底から怒り、土生に対して冷徹に当たる理奈。今まで誰にも見せた事のない、凍り付くような表情。  
そのあまりに背中を凍りつかせる表情に、三度涙を流す。  
 
…だが、理奈は容赦ない。  
 
「はっ、そんなんなら、別のもっと弱いリトル、いや、子供会の野球チームにでも入ったら?  
 そんなんで泣くなんて、片腹痛いわね!」  
「な、なんだと!?」  
「呆れた!そんな事で涙流すのが、優勝目指してる奴のやる事!?」  
「ぐ…」  
 
以前土生がチームメイトに言った言葉、それをお返しされた。  
 
「そんなにあたしに負けているのが悔しいなら、あたしに勝てるように強くなりなさいよ!  
 その程度の強さしか無くて、優勝なんてできると思ってんの!?…いや、優勝する気があるの、の方がいいか。」  
「この…!」  
 
理奈を殴ろうとした。だが、手が動かない。  
痺れているからではない。理奈の圧倒的な何かに、完全に怯まされる。  
 
「ふうん、翔でも、悔しいと思う事があるんだ。  
 そうね。悔しいのなら、今から野球で勝負しない?」  
「…しょ、勝負…」  
「逃げる?」  
「ああいいだろう、やってやろうじゃねえか!」  
 
土生が勢いよく浴槽を出て、体を拭くのもそこそこに風呂場を出て行った。  
 
「…さあて、あたしも行かなきゃ。」  
 

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