ふと目を覚ます。
そっか、翔と寝ていたんだっけ。でもあいつはいない。先にリビングに行ったのかな。
時計を見ると…うん、こんな時間に目を覚ますって事は、
「おはよー。」
すぐにこいつに会いたかったんだ、ってとこかな。
「って、何してるの?」
「…それはこっちのセリフだ。」
あれ。また口調がおとなしくなってるよ。
まあ、以前の翔に戻った、なんてことは絶対にないと思うけど。
「…胸丸出しで、何をしたいんだ?」
「え…はわわわっ!」
ちょっと、パジャマのボタンが外れて、左の乳房が!丸見えじゃないの!
こいつ、人のおっぱい吸っといて、しまっておこうという気配りはないわけ!?気配りは!
「もうっ!ちゃんと元通りにしといてよ!おっぱい吸うのは構わないからさ!
…で、何してるの?」
「いや、飯を作ってるだけ。
監督が夜遅くまで帰らないことも多いから、自炊は慣れてる。
もっとも、冷蔵庫にあるありあわせのものしか使ってないがな。」
ソーセージにスクランブルエッグ。大好きなイチゴジャムが添えてある焼きパン。そして緑豊かなサラダ。
嗚呼、お父様がいない時に、目を覚ました時にこんなにも素晴らしい朝食が置いてあるのを想像できるでしょうか?
「…出来た、食え。」
「ちょっとお!なーんかテンション低くない!?昨日より以前の翔に戻ってるよ!」
「…戻っちゃいない。俺は、熱いころの俺に戻った。お前のおかげでな。」
「どーこが!人がせっかくこんなに素晴らしい朝食に感動してるってのに!
せっかくの嬉しさも半減」
「理奈のために作ったんだ、食え。」
…。
ああもう!なんでこう掴みどころがないのよ、こいつは!
「いただきまーすっ!ったく…」
「不機嫌になるんなら、料理を口にしてからなるんだな。」
なーによ!スクランブルエッグなんて、どんなに絶妙な焼き加減でも所詮材料は卵!
おいしくなりっこなんて…
「…。」
「牛乳、砂糖。絶妙な加減が分かってなけりゃ、卵の本当の味は引き立たないぜ!」
「…!」
こ、こいつ…
にんまり笑って、あたしを見て…あー!してやられたー!
「ひゃははははっ!
その間抜け面が見たかったのさ!あー、笑い堪えてた甲斐あった!」
「ま、間抜け!?せめて驚いた顔って言いなさい!」
「理奈の驚いた顔は、間抜け顔なんだよ!一緒の事さ!」
ええい、もうゆるさないんだからっ!必殺、ぐるぐるパーンチ!
…こ、こいつっ!いとも簡単にあたしの肩を掴んで止めて…
「リーチが違うんだ、届くわけないだろ。」
「むー!うるさいうるさいうるさいっ!」
あー、なんなのよこいつ!おとなしいままにさせとけばよかった!…きゃっ!
い、いきなり何するのよ!背中に手を回して抱きしめて…
「その間抜け顔が、一番可愛いんだけどね。」
「〜〜〜っ!」
あー、うー、にーっ!
…もう、なんなのよ、なんで許す気になっちゃうのよ…ん?
「ねえ、あたしの椅子のコップにはジュースが注いであるけど…」
「ん?」
あたしの食器と思ったのだろう。片方の席には可愛い食器ばかりが並んでいる。
事実あたしの食器なんだけど。
一方、隣の翔の席には普通の食器。あたしもパパも両方使うんだけどね。だから間違った選択なんかじゃないんだけど…
「翔の席。コップ置いてないよ。」
「うん?もうドリンクは用意してあるから。」
「え?どこに?」
「ここに。」
指差した場所。
おっと、そういえば文句を言った身でありながらまだおっぱいをパジャマの中にしまってなかったっけ…え?
「ちょい、ちょいとー!?」
「おっぱいを服にしまわずに出してるって事は、飲んでほしいって事だろ?
…ま、そうでなくても最初からおっぱい飲むつもりだったけどね。」
はいー!?いや、そりゃおっぱい飲むのはまあいいとして、牛乳の代わりとしてですか!?
ていうか、あたしと翔の席、隣同士で、向い合わせじゃない事に少し違和感を感じてたけど、
よく見るとその隣り合った席の距離もやたらと近くありません!?
「さ、食べよー!」
「こらー!」
結局、あいつの思う通りになった。
机の上に左胸を置かされ、度々食器を置いては乳房を持ち上げて乳首をくわえてこくこく飲んで。
本当にドリンクを飲む感覚で、喉を潤すために飲んでた感じ。しかも、
「理奈。おっぱい。」
「え?」
「おっぱい。持ち上げて飲ませて。」
「…。…はい。」
あたしにおっぱいを持ち上げて飲まさせるように指示。妻に「お茶。」って言う夫の様に。
キー!何なのよこいつは!
…でも、なんで反抗しなかったんだろ。何で「やだ。」って言わなかったんだろ。
「こく…こく…」
(…もう。)
本当においしそうに飲むなあ。いろいろムカつくヤツだけど、それだけは嬉しい。
…多分そのせいかな。断らなかったのは。おいしそうに飲む姿見たいから。
おっきいおっぱいでよかった。好きな人が、あたしのおっぱい気にいってくれるから。
…のはずだったんだけど。
「ごちそーさまー。…ふう、のど渇いたな。冷蔵庫のジュースでも飲むか。」
「ちょっとおー!?」
喉かな土曜の朝でした。
「少し腹ごなしするか?着換えろ。」
「え?」
先日届いた数着のユニフォーム。
昨日来たのはちゃんと洗濯に出して、新しいのに袖を通す。翔は半袖半ズボンのまま。
そして向かった場所はあたしの家のブルペン。…初めて翔と出会った場所。
言葉のキャッチボール劇場の、始まり始まり。
「今日は練習何時から?」
シュッ。パシッ。
「1時。」
シュッ。パシッ。
「じゃあ、お昼までは一緒にいられるね。」
シュッ。パシッ。
「悪いが、荷物とか取りに一旦帰らないと。ここから監督の家まで、結構かかる。」
シュッ。パシッ。
「そっか。今持ってるの、昨日の汚いユニフォームだけだからね。」
シュッ。パシッ。
「で、練習終わったら着替えとか洗面用具とか荷物持ってまたこの家に戻ってくる。」
シュッ。パシッ。
「うん。あ、座ってくれる?」
ビュッ。バシッ。
「肩が出来たのか。そうだ、あと、この服も今日は借りておく。」
シュッ。パシッ。
「その服、あげるよ。どうせあたし、もう着れないもん。」
ビュッ!バシッ!
「そうだな。ズボンはともかく、シャツは今の理奈にとってはブラとしてしか機能しそうにないし。」
シュッ。パシッ。
「あはは、そういう使い道があったね。」
ドウッ!ドゴン!
「そういえばさ、俺たち起きてまだそんなに経ってないんだけど。」
シュ。パシ。
「それが、どうしたってのよっ!」
ドオウッ!
「そんな速い球、起きたばかりで捕れるかあっ!」
ズドオオオンッ!
喉かな土曜の朝でした。
今日も泊まりに来てくれる、そんな嬉しさを心に秘めながら、土曜日の朝は過ぎていきました。
「おーう、遅いぞ、土生。」
「すみません。全員来てるみたいだな。」
「昨日はお泊まりは楽しんできたか?…って、どうしたんだ、その大荷物は。」
「あの、監督…折り入って頼みたい事があるんですが。」
数日の間理奈の家でお世話になる事になったのですが、許可をもらえませんか。
「ああ、そう。構わんよ。それで家からこれだけの荷物を取ってきてたんかい。」
「帰った時には、もう監督はいなくって…」
あっさりOK。話の分かる監督だ。
「とりあえず、適当に好きに練習してくれ。」
「そうですか。それじゃあ、好きにさせてもらいます。」
(ん?それってどういう…)
「全員集合!」
大声を張り上げる土生。
それを聞いたチームメイト達。即座に土生のもとへ駆け寄る。
「俺は昨日、理奈に説得されてな。やる気を出せって怒られた。」
(土生さんを怒った?)
(ラリナの奴、やるなあ。)
(さっすが、姉御!おいらの姉御なだけあるぜ!)
当然、理奈が顔を赤くしてうつむいたのは言うまでもない。
「で、てめえらにひとつ言っておく。
…この秋大会、死んでも優勝するぞ!」
(おおっ!)
(兄貴が!昔の兄貴に戻った!)
(土生さん!やる気になったんですね!)
「てめえらはハッキリ言って、弱い!橡浦と山下、理奈以外は、戦力にならねえ!
赤松!さっきの練習でのエラーの連発は何だ!」
「す、すみません!」
「てめえらを、秋大会までの4ヶ月で、徹底的に鍛え上げる!
優勝なんて無理だ、できっこない、なんて思っているやつは、今すぐここから立ち去りやがれ!」
チームメイト達がざわめく。
なんだなんだ、どうした、いったい何があったんだ、そんな感じ。
「お、俺たちはいつだって優勝を夢見て」
「夢見るだけか白井!現実にするんだろうが!
そもそも夢見るとか言いながら、腑抜けたプレーしかしてないだろうが、
そんなんで優勝できると思ってんのか!」
「あ、いや…」
「ちょっと思うだけなら誰だってできる!
だがな、本当に優勝する気があるヤツが、あんな間の抜けたプレーができると思うか!」
「は、はい!」
「いいか、所詮練習は週5日、平日3時間、土曜日6時間、それをたった4ヶ月だけだ!
その程度の時間ぐらい、てめえらだって全力出せるだろ!死ぬ気で練習するぞ!」
土生の変貌ぶりに驚きつつ、全員がやる気を出した。
俺はやるぞ、土生さんについていきます、次々そんな声が聞こえてきた。
5時間後。午後6時。
「なあ、土生。いくらなんでもやりすぎじゃないのか?」
「こんな事で…へばってたら…ゆ、優勝なんて…」
土生も相当へばっている。
だが、理奈、橡浦、山下は立っているのがやっと、他の連中は立ち上がることすらできない。
「ちょっと、しょ…土生君、もっと投げさせてよ、あたしずっと素振りとランニングばかり…」
「投げ込みはし過ぎると肩を壊す!そんな事より下半身強化だ!
てめえら、いつまで休憩してるつもりだ!グラウンド10周行くぞ!怠けるな!」
よたつきながら土生が走りはじめる。
やれやれといった表情で理奈が付いていき、橡浦と山下が必死に後を追う。
土生のこの練習姿勢があるからこそ、全員が泣き言ひとつ言わずに土生についていくのであろう。
口だけではなく、誰よりもメニューをこなしている、そんな土生の言う事なら、誰もが納得してついていく。
帰り道。
当然土生は理奈の家に泊まるので、理奈と一緒に帰路についている。
「だ、大丈夫?」
「なあに、あの程度の練習でばてるような俺じゃ…」
理奈の家にしばらくの間泊まる為、衣服などの大量の荷物を持っていく必要がある。
その重さは、練習疲れどころではないその身には堪えるであろう。
「持とうか?」
「…自分のことくらい、自分で…」
なんとかたどり着いた。
最後は理奈に肩を貸してもらったが、意地でも荷物だけは最後まで自分で持ちきった。
「ただい…だ、大丈夫!?」
「すまん、風呂を頼む…マジですまん。」
玄関でぐしゃっと潰れる土生を見ながら、大急ぎで風呂の湯を沸かした。
この状態では料理も作れないだろう。今日も出前である。
「ふー……。」
生き返る。本当に生き返る。
よたよたの足で風呂場までたどり着き、理奈のおかげで湯気の沸きたっている風呂に身を沈める。
「ふー……。」
我ながら無茶をしたものだ。
だが、あれくらいしないと、本当の勝利は手に入らない。
「…ん。」
「あれ、今日は驚かないのね。」
「驚く元気もない。」
裸姿で風呂場に入る理奈。
理奈も相当疲れており、すぐに浴槽に身を沈めた。
「んー…あったまるね。」
「…。」
「ちょっと!?寝たら溺れるよ!?」
「はっ!?あ、ああ…」
「心配ね…おいで。」
「…え?」
理奈が土生の背中に手をまわし、抱き寄せる。
「理奈?」
「これなら溺れないでしょ?」
「…おっぱい。」
「え?もう、エッチ…はい、どーぞ♪」
理奈が巨乳を持ち上げてやると、すぐに乳首をくわえ、出ない母乳をコクコクと飲みはじめる。
おっぱいを本当においしそうに飲むその姿は、理奈を幸せにし、病みつきにさせた。
「野球軒でーす!理奈ちゃーん!」
出前のおじさんが呼ぶ声。
店長ではあるが、理奈の注文を受けた場合はたとえどんなに店が忙しくてもかならず店長がやってくる。
ゆえに、理奈にとっては「いつものおじさん」として馴染みが深い。
「はーい!」「どうも。」
「あれ?君は今日もいるのかい。2人分って聞いてはいたけど、まさか今日も君とはね。」
「ええ、しばらく理奈の家に厄介になる事になったんで。」
「そうかいそうかい。理奈ちゃんも、寂しい思いをしないで済むね。」
「はい!」
「2人分って聞いてまたお友達連れてきたと思って、理奈ちゃんが寂しくないと思うとおじさん嬉しくてね。
今日はおまけでいろいろ作ってきたから、たくさん食べられるぞ。
それじゃあ、おじさんは店が忙しいから、じゃあね!」
大急ぎで帰っていく。どうやら店は繁盛しているらしい。
おそらくは今日地元開催されているプロ野球で、地元のチームが勝ったからだろう。
「こりゃあうめえや!」
「ほんと!おいしーい!」
中華料理屋なのに、サラダやオムライスもある。
もちろんこんなメニューは中華料理店である野球軒にはあるはずがないのだが、
無理して2人のために手元にある材料で洋食を作ってくれたのだろう。
「そういえば、明日一緒にどこか行くって言ってたよな。…もぐもぐ。」
「うん!行きたいところがあるんだ!翔と一緒にデート!…もぐもぐ。」
「デートって…まあ、男の子と女の子が一緒に出かけりゃ…もぐもぐ。」
「でね、どこ行くと思う?きっと気にいると思うんだけど…もぐもぐ。」
「さあ…全く想像がつかないなあ。どこ行くんだ?理奈。…もぐもぐ。」
「それはね…球場!デーゲームのプロ野球見に行こうよ!…もぐもぐ。」
食べながら喋るのは、行儀が悪いのでやめましょう。
理奈の部屋。
他にも空き部屋はあるのだが、理奈の希望で土生の荷物はすべてここに置くことに。
部屋そのものも結構広く、勉強机も中央の丸机なので一緒に勉強できる。
ベッドだけは狭いが、彼らにとっては逆に好都合である。
「宿題?」
「ああ。やっておかないと…」
「はあーあ、あたしのもやらないとなあ…ん?ちょっといい?」
ふと、土生のランドセルを見る。
ランドセルをめくると、学校名が書いてあった。
『東条小学校5年2組 土生翔平』
「え、えっと…も、もしかして翔って、東小!?」
「え?あたりまえじゃないか。俺の住んでるあたりは、東小かもう1つ近くにある小学校に行くのが普通さ。」
「…こ、ここのエリアがどんな場所か分かってるの?」
「知るかよ。俺は別に連中の争いになんざ興味はねえ。
初めて会ったときも、平気でここまでランニングしてたじゃねえか。」
平然と言ってのける。
理奈は驚いていたが、理由はこういえば分かるだろう。
「こ、このあたりは西小のエリアよ!?わかってるの!?」
「だな。」
「だな、って…」
「東小という理由で、俺が嫌いか?」
「そ、そんなんじゃないけど…このあたりにいたら危険なんじゃ…」
「なあに、逃げ切ればいいだけじゃねえか。喧嘩こそそこまで得意じゃないが、
鍛えてるんだ、スタミナは段違いだぜ。橡浦には及ばねえが足だって相当早いんだ。」
「…。」
理奈の所属するクラスは、西浦小学校、通称西小の5年1組。
東小と西小はお互いテリトリーなどで対立関係にあり、激しく争ってケンカしている。
もっとも、それについては読者の諸君もよく知っていることだろう。
「…巻き込まれないでよ。」
「心配するなよ。東小の頭のシバケンさんって人に俺達が野球やってることを伝えたら、
西小には手を出さないように言っておく、万が一巻き込まれるような危険な情勢になったら、
野球グラウンドまで護衛をつけるって。」
「そうなの?」
「ああ。
シバケンさんも柔道やってるらしくて、体育会系が問題起こすのがまずいって事を分かってくれててさ。
それに、西小の頭は馬鹿な奴じゃないから、関係ない奴を巻き込むことは、ないだろうって。」
ほっと一安心。
ちなみに、橡浦、山下、黒田も東小、赤星、青山、青野、白井は東小の近くの小学校。
赤松は同じ西小にいたのだが、1つ学年がしたという事もあり理奈がリトルに入ってしばらくして知った。
東小の近くには野球グラウンドが無く、少し遠いが河川敷のグラウンドまで来て練習しているのである。
「ねえねえ、一緒に宿題やろ?」
「好きにすればいいさ。」
すぐ横で宿題のノートを広げ、軽く寄り添いながら勉強を始める。
…理奈はお世辞にも頭は良くなく、成績優秀の土生に質問攻めをしていた。
「もうちょっと自力で解けよ…」
「いやあ、頭のいい人が隣にいると、便利だねえ♪」
「おかげで、こっちの宿題は捗らなかったがな。」
「まあまあ、お礼にほら。おっぱいあげるから機嫌直して。」
ベッドの中で不満をぶつくさ言う土生を、理奈がなだめる。
お互いがくっ付いて寝る、幸せな時間。
「今日は眠い。お休み。」
「あれ、おっぱい飲みたいんじゃないの?」
「明日早めに起きないと、球場の席とれねえぞ。」
「あ、そか。明日は8時には起きようね。」
二人とも目を閉じ、黙り込む。疲れているのですぐに寝つけるだろう。
(ん?)
理奈の胸に何かが触れる。
と思った次の瞬間には、ボタンが次々外れていく。巨乳がぐにゃぐにゃと変形していく。
(…ばか。)
乳首の濡れる感触を楽しみながら、眠りについた。
次の日。
早めに朝食をとって、9時ごろには出発した。
「どうやっていくんだ?」
「そこのバス停からバスに乗るの!」
バス停でしばらく待つ。
バスが来ないかな止まっていると、別の何かが近付いてくる。
「…やばいっ!あの人、西小のボスなの!」
「!」
朝からランニングをしている。
おそらく喧嘩のために鍛えているのだろうか。
「す、すぐ隠れよう!」
「…いや、この近くに隠れる場所はない、逃げたら不審に思われて、追いかけてこられる可能性もある。
ここはやり過ごした方がいい。」
「う、うん。」
西小のボス―八坂明が、段々と近づいてくる。そして、
「ん?あ、君はうちの5年生の。」
「え?あ、はい、ど、どうも!」
巨乳のせいか割と知名度は高いようである。
もっとも、明の幼馴染、千晶の気にかかる存在として、存在を伝えられたとみた方がいいだろうが。
「なに?驚いたような顔して。」
「い、いいええ!ど、どうぞランニングの続きを。」
「どこへ行くんだい?」
「ええ、っと、そのお…」
「野球場ですよ。プロ野球見に行くんです。」
話に割って入る土生。
これ以上理奈に話を続けさせるとまずい事が起こる可能性もある。
「君は?」
「理奈の友達ですよ。これから一緒に野球を見に行くんです。」
「…でも、君は西小では見ないね…このあたりに小学校は西小しかないし、
このあたりに住んでいる子はみんな西小に通うはずだよ。」
「それがどうかしましたか?俺がこのあたりに住んでいないとでも?」
「…。
そういう事か。野球が好きってことは、野球をやっているのだろう。
そして、野球をやるためにここにきている…のかな?」
「さあ?」
理奈がドキドキしながら2人のやり取りを見ている。
だが、流石は土生。少々のことで動じるような事はない。
「聞いているよ。東小から、何人かこのあたりまで足を運んで野球をしているやつがいるとか。
シバケンから聞いた、と言えば分かるかな。」
「へえ、そうなんですか。」
「そして、君がその中の1人。もしかして、チームの中じゃ一番うまいのかい?」
「何を話してるかさっぱりわかりません。」
「大丈夫、うちの生徒に敵意持って喧嘩しない奴は、襲わないさ。
君たちは西小と喧嘩するためじゃなく、野球をするために来ているのだから。
安心してくれ、君たちに手は出さない。」
「…理奈、あのバスか?」
バスがこちらへ向かってくる。『球場経由』と書かれている。
「…あ、う、うんうん、そう、そうあれあれ!乗ろう?土生君!」
「ああ。」
バスのドアが開く。
だが、バスが出発する前に、一言言われる。
「でも、個人的には東小には敵意を持ってる。
東小の行いによっては、場合によっては、頭に血が昇ってシバケンとの約束を忘れて、
襲わないと約束した、その東小の野球少年と言えどボコボコにしてしまうかもね、土生君。」
「…。」
バスが発車した。
直後、理奈の頭を軽くチョップ。
「あうっ。」
「馬鹿、相手に簡単に情報を漏らすな。
俺の名前、バレてしまっただろ。」
「ご、ごめん…」
「まあ、ひとまずは大丈夫、だと思うけどな…」
バス停では、明がバスを見送っていた。
「土生君、か。さあて、ランニングの続きっと!」
「おーい、明ー!」
「ん?千晶!」
「はあ、はあ…追いついた…ボクと一緒にランニングしよ!」
「…面白い奴に出会った。千晶が言っていた、野球をやっている巨乳の女の子。
おそらくチームメイトだが、そいつの彼氏が、東小の奴だった。そいつに出会ったよ。」
「えっ?
…もしかして、シバケンが言っていた…」
「ああ、確かに東小の野球少年の話は聞いていたが、まさかその巨乳の女の子と関係してたとはねえ…
しかも、俺の強さを知っているはずなのに、あのふてぶてしさ…」
バスは、曲がり角を曲がって、視界から消えていった。