運命の日曜日まで、あと3日。  
前日から再開された練習では、威勢のいい掛け声がこだまする。  
 
「センター!」  
 
ユキと橡浦のコンビの足取りも、軽やか。  
外野手なのでそこまでコンビネーションは要求はされないが、  
 
やはりお互いの守備範囲や心理状態などを把握しているのは強み。  
 
「任せたぜ。」  
「オッケー。」  
 
捕って、即返球。  
脚と打球反応は橡浦の方が上だが、送球と捕球の動作はユキの方が上。  
 
「ナイスボー。(うん、流石ユキちゃん。)もういっちょ!」  
「チュウ、お願い!」  
 
守備範囲ぎりぎりのボールをうまく掬い捕る。  
この鉄壁の外野陣なら、そうそう長打を喰らう事もないだろう。  
 
…少しは、勝てる希望も見えてくるというものである。  
 
 
「明日は金曜日、祝日だから学校は休みだ。  
 みんな、好きなように練習してくれ。土曜日に連携の確認を取るために少しだけ全体練習、  
 その後ミーティングを行う、いいか?」  
「じゃあ土生さん、久しぶりに秘密基地に行きませんか?」  
「おー、いいなそれも。じゃあいくか!」  
 
各自片づけに入っているが、その時理奈が小声で土生を呼んだ。  
 
(どうした?)  
(今日ちょっと用事があるから、いけない。ごめんね?)  
(用事?まあいいや、わかった。先家に帰ってるんだな?)  
(ん。)  
 
 
「チュウ、…行くの?」  
「どうかしたのか?」  
「いや、…えっと、ううん!」  
「言えよ。」  
 
せっかくみんなが遊びに行くのに、それを邪魔しちゃいけない。  
…そんな遠慮は、あまり橡浦は好きではない。  
 
「…今日、あたしの誕生日なんだ。」  
「え、そうなのか?」  
「うん。パパとママが、ごちそう用意してくれてる。だから、練習が終わったら、すぐに帰らないと。  
 ただ、チュウは」  
「俺にも、祝ってほしいんだろ?」  
 
つまるところ、そういう事である。  
 
「祝ってほしいって言ってくれさえすれば、俺も喜んでユキんちへ行くぜ。」  
「…うんっ!」  
 
 
「はい、もしもし…緒方さん?」  
 
突然携帯からの呼び出し音。  
 
「…はい…はい…わかりました、今から行きますね。」  
 
巨体を揺らしながら、土生に先に帰る由を伝えた。  
 
 
 
 
「しっかし、久しぶりだー。」  
「おい、ここ、くもの巣張ってるぜ。」  
 
男子数名が集う秘密の基地。  
 
「じゃーん!」  
「お、これ、どっから手に入れたんだ?」  
「木曜日のごみ置き場は、宝の山だぜ!」  
 
数冊のエロ本。1冊ずつ配布される。  
土生にももちろん、行きわたる。  
 
「おおーっ!」  
「すげーっ!」  
 
理奈の影響もあり、土生は適当に流し読む。  
…と、あるページに行き付いた。  
 
…理奈によく似た女の子が、これまた理奈の家によく似たリビングで、強姦というシュチュエーション。  
もちろんこれはフィクションなのだが、  
 
 
――10年くらいたって、適当な男と流れでやるくらいなら――  
 
 
記憶の糸が、過去へとつながっている。  
 
 
――たとえ小さくたって、今翔とやって…その方が、絶対に後悔、しないもん!――  
 
 
この世の中、いつ突然人気のないところに連れてこられて…  
それが初めてだったら、そんな男に処女を奪われるかもしれない。  
 
…こんな事になる前に、本当に好きな人に、初めてを捧げたい…  
 
 
理奈の、女の子の初めては、一度きりだけ。…今、ようやく、その意味が分かった。  
 
 
気が付くと、「悪い」と一言だけ残し、秘密基地を飛び出す自分がいた。  
木々のざわめきが、妙に騒がしく聞こえる。  
 
 
「あわわ…ああ、翔、助けて…」  
 
悲しげに土生の助けを求める声。  
もちろんその声の主は今更説明するまでもない。  
 
「うう…喜んでくれるかなあ。」  
 
普通のものよりかなり色の濃いナポリタン。  
迷わず、ストレートに言うならば、焦げる一歩手前。  
 
「いつもおいしい料理作ってもらってるから、たまにはあたしが翔を喜ばせたいんだけど…  
 そういえば、いつ帰ってくるんだろ?」  
 
ふと時計を見る。  
帰ってくるまでにはもう少しかかるだろうか。  
 
「うーん…まあいっか。ついでにサラダか何か」  
 
バターン!  
 
 
「え!?な、なになに?」  
 
いつも、こんなに大きな音を玄関のドアは立てないはず。  
慌てて玄関のほうまでかけて行く…前に、音の主が姿を現す。  
 
「翔?ど、どうしたのそんなに慌てて…早かったけど、何か…」  
「ハァ…ハァ…。」  
「ど、どうしたの…?」  
 
目つきが、怖い。  
…次の瞬間、  
 
「え?ちょ、翔?きゃあっ!」  
 
土生のソファの手前まで押され、突き倒された。  
…いや、これは文字通りソファに「押し倒された」と言った方が正しい。  
 
 
「ちょっ、え?やああっ!」  
 
服の中に手を突っ込む。  
スポーツブラごと、服をめくりあげ、乳首に吸いつく。  
 
(え、お、おっぱい飲むのはいつもの事だけど、なんか違う!)  
(理奈は…俺のものだ!)  
 
しゃぶりながらハーフパンツの中にも手を入れ、  
 
「…あああああっ!  
(な、なにこれ、こんなに上手だったっけ!?)」  
(俺の手で…俺の手で…)  
 
犯す。  
傷つける。  
そして、理奈を、手に入れる。  
 
「ひゃあっ!」  
 
下着もろとも、ハーフパンツを足まで下ろし、そのやや太めの腿を開く。  
何度か見た、ピンク色の世界。  
 
理奈は、抵抗しようとは、しなかった。  
 
(翔…)  
 
怖いけど、それ以上に、嬉しい。  
目の前にいるのは、まぎれもなく、いつも自分のそばにいる、土生翔平だから。  
 
…どんなに痛くたって、傷ついたっていい。  
土生が、翔が、自分とセックスしてくれる。  
 
「…いくぞ…」  
 
ズボンのチャックを開けようとするが、焦っているのかなかなか開かない。  
…一秒でも早く、理奈の中に入れたい、犯したい、故に焦っている。  
 
それでも何とかチャックが開き、トランクスのボタンをはずし、その肉棒を取り出す。  
 
「…っ!?」  
 
今まで見たことがないくらいの大きさ。  
まっすぐにそそり立ったその肉棒を、まだ前戯も行っていない、処女膜つきの割れ目にあてがう。  
 
見上げると、鬼気迫るような土生の顔。  
 
 
…ふと、涙が出る。  
痛いんだろうなあ、初めての上に、まだ全然濡れてない。痛いんだろうなあ。  
 
…でも、嬉しいなあ。  
なんだかとっても、嬉しいなあ。  
 
 
「いくぞ…」  
 
土生の両手が理奈の両肩に置かれ、理奈の膣に突き刺すために、全身に力を込め、  
 
―――そして―――  
 
 
 
…。  
 
 
「ハッピバースデーディアユキちゃーん、ハッピバースデートゥーユー!」  
 
目の前にはチキンやサラダ。  
1年に1回のイベント、豪勢にやってこそ意味がある。  
 
「話は聞いてるから。君の親の目が覚めるまで、ずっとここにいるといい。」  
「あ、はい。お願いします…」  
「ユキは一人っ子だから。迷惑だなんて思わなくてもいいよ。」  
「じゃあ成人するまでいようかな。」  
「はっはっは…」  
 
冗談のつもりだった。  
でも、それが本当になるかもしれない。  
 
「ごめんね、空き部屋がなくって。  
 兄弟仲良くがいい!って、家を建てる時に子供部屋を広く設計したらしくて…」  
「ああ、気にすんな。」  
 
子供部屋は一室にまとめたらしい。  
他の部屋は何らかの形で機能しているらしく、しばらくの間という事でユキの部屋に入る事に。  
 
「さあて、今日の宿題っと。教えてくれるよね、チュウ!」  
「え?」  
 
…この後、4年生のユキが、5年生の橡浦を教える事になるのだが、この辺は省略。  
 
 
(お風呂沸いたよ〜。)  
「あ、だってさ。  
 入ろ?」  
「ああ、先はいっていいぜ。」  
「…。」  
「ん?」  
 
空手をやっていただけあって、ユキの力は強い。というより、力の使い方が分かっている。  
 
「わわっ!?」  
「一緒に入るの!」  
 
まるで柔道のように、うまく橡浦のバランスを崩し、部屋から引きずり出した。  
 
チョポン…  
 
「ちょっとお、せっかく一緒に入ってるんだから、仲良く話そうよー。」  
「出来るかよ。」  
「こっち向きなさいって。えいっ!」  
 
ザパン!  
 
「あ…、わ、わりい、みちまっt」  
「そのまま!」  
「は、はいっ!」  
「…あたしも湯につかるね。」  
 
ザプン…  
 
「…なあ。」  
「ん?」  
「恥ずかしい…って思わないのか?」  
「ぜんぜん。空手やってた時なんか、すんごく薄着だったしね。  
 試合の時以外は殆どTシャツ一枚。それで寒稽古。」  
「うわ…」  
 
ピチョン…  
 
「つ、つめてっ!」  
「あはは。寒稽古の話したからかな。  
 たまに稽古で道着を着てるときなんか特に暑くってさ、帯外して前開けてたよ。」  
「え?」  
「暑くて我慢できない時なんかは、Tシャツも脱いでたっけ。」  
「!!?」  
 
チャプン。  
 
「は、恥ずかしくないのか!?」  
「周りだってみんなそうやってたしね。別に抵抗なかったけど。」  
「で、でも女の子だし…」  
「子供だもん。」  
「そ、それに、大人よりそんだけデカイおっぱいだったら…」  
「ああ、これ?ま、確かに一部の男子がいやらしい目で見てた時期もあったけど、  
 試合で戦って以来、そんな事もなくなったなあ。」  
(ちからでおとなしくさせたわけか…おそろしいやつ。)  
 
タプン。  
 
「ねえ。」  
「な、なんだよ。」  
「チュウは、このおっぱい、好き?」  
「え、な、なんだいきなり!」  
「このおっきなおっぱいも、チュウにとって私の好きなところ?」  
 
ザパン!  
 
「の、のぼせたかな!先あがるぜ!」  
「あ!」  
 
バタン!  
 
「…もう。」  
 
部屋に帰ると、何やら橡浦がきょろきょろしている。  
 
「何か探し物?」  
「ああ、布団はどこかってね。…前は閉めろ。」  
「え?」  
 
寝間着の前ボタンを1つもとめていない。羽織っているだけ。  
 
「そんな事より、布団でしょ?あたしのベッド、使いなよ。」  
「いや、それは…」  
「いいのいいの、しばらくの間だけなんだから。ね?」  
「あ、ああ…」  
「あたしはまだちょっとリビングでやることがあるから、じゃね。」  
 
非常に眠かったせいか、割と遠慮もせずに布団に入ってしまった。  
宿題はさっきやったとはいえ、まだ9時半である。  
 
 
(…ああ…眠い。明日は休みだし、ゆっくり…)  
 
キィ、とドアの鳴き声がする。  
どうやらユキも用事を済ませたようだ。  
 
「チュウ、寝たの?」  
(…いろいろはなすのもめんどくさいな。悪いけど、寝たふり…)  
「寝ちゃったね。ま、いっか。」  
 
ごそごそと音がする。…すぐ後ろで。  
世の中の人は、この状況を2番煎じというらしい。  
 
「…?わっ!」  
「あ、起こしちゃった?それとも、起きてた?」  
「…あ、えーと…」  
「ううん、気にしないんで。眠たいんだから、無理に話をしたくはないよね。」  
「ああ、悪い…じゃなくて!  
 ユキは別に布団もってきたんじゃないのか!?」  
「え?あたし、一言も布団を別に用意するなんて言ってないけど?」  
 
確かに。  
 
「じゃ、じゃあ早く言えよ、俺の事なら何とか出来た…」  
「だって一緒に寝るなんて言ってしまったら、絶対に拒否してたでしょ?」  
「当たり前だ!」  
「…嫌?」  
「う…」  
 
上目づかいで、悲しそうな目でそう言われると何も言えないのはお約束。  
 
「…てことは、予備の布団があろうとなかろうと、最初からこのつもりだったのか?」  
「もっちろん!」  
 
やれやれ。とは思いつつも。  
まさか身近で同じことをしている人間がいるとは橡浦もユキも思っていなかった。  
 
「…という事は。」  
「え?」  
「俺がこんな事をするのも予想通りてことだな?」  
 
…土生と橡浦にも、異なる点はあったらしい。  
 
「きゃっ!」  
「そっちからちょっかい掛けてきたんだからな…もうおせえぞ。」  
「え、エッチ!」  
 
嬉しいはずなのだが、まさか開き直って逆に襲われるとは思わなかった。  
胸を揉まれることに対する不快感ではなく、自らの予想を上回った橡浦に対するムカつき。  
 
(なんか…腑に落ちないなあ!)  
「…嫌そうだな。」  
「うん、すっごく嫌!」  
「風呂でもあれだけ誘ってきて、ここでもあれだけ言ってきて。  
 まーさかここにきて嫌でした…ってことはねえよなあ?」  
「う…」  
 
据え膳食わぬは男の恥。  
橡浦も男として、これ以上からかうユキの思い通りにはならない。  
 
ユキもエッチな事は嫌じゃない。橡浦に形勢を逆転されたことが嫌。  
もちろんそれは橡浦にもわかっている。だからこそ、自分のプライドを守り、本能にしたがう。  
 
光陵エロ本同盟会長兼会計、橡浦隼人の本領発揮。  
 
「わ、は、激し…」  
 
エッチな事は人一倍大好き。エロ本でも巨乳娘がお気に入り。  
ユキの生巨乳は、橡浦にとって非常に満足出来る大きさを持っていた。  
 
「…おいしい?」  
「ユキってさ、おっぱいも、野球も、すごいよね。」  
「それって、褒めてるの?」  
「もち。」  
 
からかい目的で予想外だったとはいえ、やっぱり好きな人とエッチできるのは嬉しい。  
もちろん橡浦も子供、エッチと言ってもやっていることは乳首をただひたすらしゃぶっているだけ。  
 
…でもなかった。  
 
「はうっ!」  
 
当たり前のように下の方にも手を伸ばす。  
 
(す、すごい…  
 このまま、指でイかされて…)  
 
次第に高ぶっていき、一瞬、背筋に力が入った。  
 
「はあ…はあ…」  
「やったことなかったけど、意外とうまくいくもんだね。」  
 
橡浦の慣れたような言動に、少しムカっと来たが、  
 
「さて、そんじゃあ…」  
「え?ちょ、ちょっと!」  
 
下着ごとずらし、下半身を丸裸に。  
ユキを、自分のものにしたい。ずっとそばに置いておきたい。  
 
「ちょ、チュウ!そ、それは、ダメ…」  
「ユキ、いくよ。」  
 
橡浦は「ダメ」の言葉を「セックスしてほしい」と捉えていた。  
…だが、当のユキは、本気で嫌がっていた。  
 
涙が、流れる。  
もちろん、ヤりたい。  
でも、処女を失う怖さ、この状況で橡浦が避妊を考えているわけがない事実。  
 
 
…そして何よりも、橡浦が自分の体目当てで付き合ってるのではないか、と言う不安。  
 
 
 
…。  
 
 
ユキの陰唇からこぼれ出す、薄紅色の溶け込んだ白濁液。  
 
半分覆いかぶさるようにして、うつぶせになっている橡浦。  
 
根っからのスポーツ少女故か初体験時の激痛はほとんどなかったものの。  
陰茎挿入や射精に心地よい快感を得たものの。  
 
…ただただ、悲しかった。  
 
 
「ユキ…」  
 
橡浦がそっと抱いてやる。  
…次の瞬間。  
 
「ごほっ!?」  
 
腹部に拳が一発。  
彼女が空手の達人、という事を忘れていた読者も多かったのではなかろうか。  
 
それでも、本来なら昏倒寸前のはず、だが橡浦はかなり苦しそうな表情をしているだけ。  
行為の直後で体の力が抜けている。全力が出るはずがない。  
 
「な、なんだよ…」  
「馬鹿ぁ…チュウの、バカァ…」  
 
泣いている。  
行為の直前から涙を流しているのに、橡浦は気付いていた。  
だが、その涙の意味を、橡浦はずっと勘違いしていた。  
 
…それに、たった今気付かされた。  
 
「なんで…なんでこんな事…」  
「え、えっと、その、ユキが、誘ってくるから、つい…」  
「セックスまでして欲しいなんて、誰が言ったのよ!  
 …あ。」  
 
原因は、そもそも自分自身にある。  
少なくとも風呂場では、橡浦は自分自身を抑えていた。  
 
「…ごめん、あたしの、せいなんだよね。  
 でも、もしこれで…」  
「そのつもり、だったのかも、しれない。」  
「え?」  
 
そのつもり…  
もしかして、最初から子供をつくるのが目的だったという事なのだろうか?  
 
「ま、待って、それって、どういう…」  
「俺はもう、一人ぼっちなんだよ。昔の、あんちゃん…土生さんみたいに。」  
「!!?  
 え、お、お父さんもお母さんも、いるじゃない!」  
「…もう、いないんだ。」  
「え?」  
「2人とも、致死量寸前の煙を吸い込んでしまって、もう、意識が戻らないかもしれない…」  
 
一生、目を覚まさない。  
それは死んでいるのと同じ。兄弟もいない橡浦は、一人ぽっち。  
 
「でも、数日で意識が戻るって」  
「巨神戦を控えて、本当の事を言えるわけないだろ!」  
 
偶然事実を知ってしまった山下と緒方を除けば、  
橡浦が本当の事を話したのは、目の前にいる恋人、ただ一人。  
 
「だから、家族が欲しかった、ずっとそばにいてくれるやつが欲しかった。  
 セックスしてしまえばユキをずっと離さずにいれる、あわよくば子供を作って、家族を増やせる…」  
「…っ!」  
「なんてな。  
 そんな事を言ってセックスを正当化しているだけだよ、俺は…」  
「馬鹿あっ!」  
 
もう一発。  
体力が戻りかけたユキの一発。  
 
「ぐっ…!」  
「そんな理由…単にセックスしたかっただけなんでしょ!?  
 それに、そんな事したからって、そんなの本当の家族じゃない、子供が出来たって、そんなの足枷よっ!」  
「…う…」  
 
気絶しかけるほどの一発。  
だが、橡浦は痛みに耐える。今、気絶するわけにはいかない。気絶したら、ユキが目の前から消える。  
 
「…ご…めん…」  
「何に謝ってるの!」  
「…取り返しのつかない、行動」  
「違う!そんなんじゃない、あたしが言いたいのは…」  
 
言いたいのは…  
 
「そんなことしなくてもあたしはチュウの家族になれるって事に、チュウが気付いてなかったって事!  
 チュウが望めば、あたしはもう、とっくにチュウの家族なんだよ!」  
「ユ…キ…?」  
「ショックだよ、あたしの存在が、チュウの中じゃ…  
 あたしは、ずっとそばにいるつもりで、こうやって一緒に寝てたんだよ!」  
 
そうだ。  
いくら告白したとはいえ、知り合ってまだほとんど経っていない異性と、こうやって一緒に寝るなんて…  
 
「ずっと…一緒にいてくれるのか?」  
「早く気づいてよ、この朴念仁…」  
 
きがつけば、また再び陰茎が熱いものに包まれていた。  
 
「…いいのか?」  
「うん…」  
 
その頃、下の階にいるユキの両親は、何やら騒いでいるとしか気付かなかった。  
 
 
…。  
 
目の前に、理奈がいる。  
涙を流す、理奈がいる。  
何かをあきらめているような様子の、理奈がいる。  
 
「ん…」  
 
下半身が、熱い。  
見ると、丸裸になっている。理奈も同様。  
 
「…翔?」  
 
まさかと思い確認する。  
理奈のあそこは濡れており、白濁液が少しだけ垂れている。  
 
…だが、自分のあそこは、まだまだ元気である。  
 
「翔?」  
 
理奈は精液を全部飲みこんだが、理奈の魅力が再び自分のあそこを元気にさせたのか。  
それとも、これは白帯下なのか。  
 
「翔!」  
「あ、え、えっと…」  
「…どうしたの?」  
 
血が出てる様子はない。  
だが、スポーツバリバリなら、処女膜を破る時に血が出ないこともある。  
 
「…俺は…」  
「?」  
 
ついに、やってしまったのか。  
 
「理奈と、やったのか?」  
「え?」  
「よくわからない、記憶があいまいで…  
 理奈を目の前にして、やりたいって思ってしまって、気がついたら、ソファの上にいて…」  
「…。」  
 
そっぽを向く。  
 
「理奈?」  
「…。」  
 
これではどちらか分からない。  
処女を失ったショックと考えるのが本来は自然だが、  
セックスをしたがっていたのにしてもらえずに残念、という可能性も十分にある。  
 
「…何も、覚えてないんだね。」  
「ほ、ほんとだって!」  
「わかってる。いつもの翔じゃないって、思ってたから。  
 なんでだろうって思ってたけど、理由が分かって一安心♪」  
 
その笑顔は、無理をして作ったものなのだろうか。  
 
「そうだ、早く食べようよ、覚めちゃうよ?」  
「あ、ああ…ん?」  
 
理奈が飯でも作るのか。  
机の上を見ると、確かに料理がある。  
見た目は自分のに遠く及ばず、おそらく味も同様だろう、でも。  
 
「うん…いけるよ。」  
「本当!?」  
 
 
そこそこ、おいしかった。  
 

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