「すみません、尾花さん。試合を受けてくださって。」
「いやいや、石井の頼みだ。君のイチオシのチームなのなら、こっちも喜んで試合を受けるさ。
しかし・・・女子の多いチームだな。」
「さやかだって女の子ですが。」
「いや、あれは戦力にならんよ。すまないね、君の顔に泥を塗ってしまうようなことをして。
今日の試合は君の頼みを聞いてスタメンだが、悪いが結果を出せなければあるいは退団だわ。」
タクローの胸中は複雑。さやかが悪いわけではない、チームのほうがどちらかと言うと悪いだろう。
だが、自分を日本一にまで導いてくれた球団を、糾弾するのは気が引ける。
だが、退団になってくれるならそれでいい。
さやかを必要としてくれる球団はすでにあるのだから。
「あれ、翔?今日は出場するの?」
「さやかちゃんがいるからな、スカウティングの一環だ。
それに、どうやら今日の試合の結果次第では、あいつの退団もあるようだ。」
「退団・・・」
理奈の胸中は複雑だった。
選手が愛するチームを追い出されるその辛さは、察するに余りある。
だが、土生はあくまでチームの勝利だけを追い求める。
「理奈、お前の手でさやかに引導を渡してやってくれ。」
「・・・。」
「理奈?」
「・・・うん、わかった。」
諸手を挙げて賛成はできない。だが、土生のチームを思う気持ちだって、その過去を考えれば察するに余りある。
辛い時期を、光陵の為に乗り越えてきた。それが無ければ、自分がエースとして拾われる事もなかった。
土生の為に、やれることはやらないといけない。
光陵リトル
1、8・橡浦
2、6・赤松
3、9・瑞原(ユキ)
4、5・山下
5、2・土生
6、7・赤星
7、4・青野
8、3・白井
9、1・野村(理奈)
大洋リトル
1、6・石井(さやか)
2、8・荒波
3、3・中村紀
4、5・筒香
5、7・金城
6、9・森本
7、4・石川
8、2・高城
9、1・藤井
先攻は大洋。
早速さやかが打席に入る。
(インコースだ。
こいつは流し打ちが上手い、お前の球威で詰まらせてやれ。)
(うん。)
だが、理奈のコントロールはそれほどいいわけでなく、失投も多い。
その逆球を狙われた。
(まずい、アウトコース!)
(もらった!)
狙い通りの流し打ち。
だが、ショートの赤松が飛びつく。
(えっ!?)
すぐさま体制を整え、全力投球。
土生程度の足があればそれでも内野安打のあたりだったが、結果は、
「アウトー!」
「そんな・・・」
バッティングは素晴らしいものを持っている。
だが、ベンチに帰った後の監督の対応は冷ややかなものだった。
「あのあたりで内野安打も取れないのかお前は!
第一、余裕で抜けるような鋭い打球をなんで打てない!」
監督としては、石井に期待している分厳しくいこう、と言うのが本来の方針だった。
だが、期待に違う日々が続くにつれ、ストレスの捌け口と化してしまっているのが現状。
「・・・。」
「あんなの、ありなんですか、土生さん。」
大洋ベンチはもちろん、流石の光陵ベンチもその態度に対しては冷ややかな目で見るしかなかった。
結局、この回は三者凡退。
光陵の攻撃に当たり、土生は1つの指示を橡浦とユキに送っていた。
「流し打ち、ですか?」
「あたしは、引っ張り?」
「そうだ。できる限り、ショートを狙ってくれ、いいな。」
明らかにさやかを狙っている。
さやかの守備を見極める狙いもあるが、エラーを誘発して退団に近づかせるのを狙っている。
相手の藤井はエースの左投手だが、さほどいいピッチャーというわけではない。
難なく流し打ちに成功する。しかも三遊間の鋭い当たり。
(取れる!)
だが、さやかが横っ飛びでいいキャッチングを見せる。
とはいえ、橡浦の足は半端な速さではない。余裕の内野安打。
そして、やはりというべきか相手監督の怒号が飛ぶ。
「何やってんだ石井!
取ってから起き上がるのも遅い、送球も弱い、今のくらいアウトにしろ!」
「す、すみません、監督!」
今ので駄目出しかよ、と言う空気が流れる。
むしろ止めたほうを褒めるべきだろう。
赤松が送って1アウト。ここでユキがバッターボックスに入る。
チームきっての強打者だが、引っ張りを義務付けられていると流石にアウトコースへの球は厳しい。
(やばっ!)
アウトコースのカーブを引っ掛ける。
三遊間の抜けるか抜けないかのあたり。赤松なら追いつける打球だが、さやかは追いつけない。
それどころか、
「あっ!」
グラブを掠めたのが災いし、打球が方向を変え、速度を落としてしまった。
浅めに守っていたレフトが打球めがけて突進していたが、あわててファールグラウンドに走っていった。
レフトが取った時にはすでに橡浦はホームベース手前まで走っていた。
隙を突かれ、ユキはファーストを蹴ってセカンドまで到達。
「くそっ!」
レフトの金城の必死の送球も及ばず、ツーベースヒット。
やはり監督の怒号が飛ぶ。
「何をやってるんだ!自分が何をしているのか分かっているのか!」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
普通のショートなら内野安打になっても追いつくことくらいはできるだろう。
さやかの守備範囲はショートとしてはやや不十分、と言えるかもしれない。
さらに藤井は山下、土生に連打を喰らい、3点を取られる。
その後も上位打線を軸に着実に点を重ねる。
2つも悪い印象を残し、2回以降にいいプレーを見せられても困るので、その後土生はショートに打球を飛ばさないように指示。
さやかのその後の2回の打席も、いい当たりが正面をつく。
結局、さやかは3打数0安打。エラーこそ無いものの、2度の守備機会ではアウトを取れず。
試合も7−0で光陵が快勝。
光陵ナインは意気揚々とグラウンドを後にする。
「いや、強いね、君達は。」
「ありがとうございます、タクローさん。」
「しかし、さやかの奴、また尾花さんに怒られてるんだろうな・・・」
大洋リトルはそのままグラウンドに残って反省会。
もちろん、実質的にはさやかの糾弾会。
「あきれたよ、今日も全然駄目だ。」
「ご、ごめんなさい、次こそは・・・」
「もういい、石井の妹だからと思ってたワシが馬鹿だった。
兄の七光りのせいで、どれだけ他の奴の出番を奪い、どれだけ迷惑をかけたと思ってるんだ!
とっととこのリトルから出て行け!」
ついに放たれた戦力外通告。
さやかは必死に食い下がるが、聞く耳を持ってくれない。
「どうか、どうかそれだけは!」
「いい加減にしろ!そもそも女のお前が野球をやるほうが間違ってるんだ。
こんなグラブ、必要ないだろう!」
グラブを無理矢理取り上げると、放り上げてしまった。
木に引っかかってしまい、背が低く木登りもできないさやかにはどうしようもない。
「明日迎えの車を用意してやる、それで家に帰れ。それまでは部屋で待機してろ。
お前ら、宿舎に帰るぞ!」
グラウンドに一人取り残されたさやかは、木に引っかかったグラブを見上げ続けていた。
「ふいー、食った食った!」
「それにしても、よかっただろ、俺のセンター前へのしぶといヒット!あれをいぶし銀っつーんだ!」
「お前のはポテンヒットだろ?
俺の内野安打の全力疾走こそ、ヒットの中のヒットだぜ!」
夕食もタクローを囲む。今日は勝利の余韻に浸っているようだ。
理奈以外全員1安打ずつ打ったので、低レベルではあってもネタには困らない。
「山下・・・あいかわらず食うの早いな。」
「いいじゃねーか。俺、腹ごなしにちょっくら歩いてくるわ。」
量もスピードも、そして181cmの身長もすべてが規格外の4番、山下。
一足先に夕食を済ませると、さすがに腹が苦しいのか、腹ごなしに散歩に出かけた。
「ふぅーい、食った食った。
俺は今日3打数1安打、1打点か・・・」
打点を挙げたのはいいが、ヒットの数では橡浦に負けている。
4番としてのプライドが、その結果に不満を持たせている。
(ぐすん・・・おなかすいたよぉ・・・ぐずん・・・)
「ん?なんだ?」
昼の試合があったグラウンドに差し掛かったとき、女の子の泣き声が聞こえてきた。
近づいてみると、声の主はあのさやかだった。
「おーい、どうした?」
「ぐす・・・あ、あなたは昼間のサードの・・・」
「山下力だ。そんな事より、何してるの?」
「ぐすん・・・監督にグラブを投げられて、木に引っ掛けられて・・・」
またあの監督か。
そう思いながら木を見ると、なんだ、こんな低いところかと逆にあっけに取られる。
「こんなもん・・・そらっ!」
「わっ!」
181cmの体躯があれば、ちょっと飛ぶだけですぐに取れた。
130cmも身長のないさやかには決して届かぬ世界だったが。
「あ、ありがとう・・・」
「ていうか、兄さんを呼べばいいのに。
つーか、グラブくらい明日でも捕れるんだし、先に飯を食えばよかったのに。」
フルフルと首を横に振る。
「そのグラブ、お兄ちゃんが日本一になったとき使ってたグローブなの。
それをわがまま言ってもらった、大切なグローブなの。」
「!」
「だから・・・こんな事になったなんて、言えない!
これを置いて、ご飯なんて食べられない!」
本当にこの女の子は兄を愛している。
兄弟のいない山下にとっては、うらやましさすら感じていた。
「だから、ありがとね、チカちゃん!」
「ち、チカ・・・?」
「力(ちから)なんでしょ、名前。ありがとね!大好き!」
駆け出す少女を見ながら、そんな女々しい名前はないだろうと心の中で突っ込みを入れていた山下だった。
朝の食堂。
いつものように光陵リトルとタクローでご飯を食べている。
「・・・?」
「どうしました?」
「いや、さやかがあそこにいるんだけど、なかなか来ない・・・」
こちらをちらりと見ては、目線をまたそらす。
こっちが来るのを待ってるのかと思い、タクローが駆け寄っていった。
「どしたん?」
「お兄ちゃん、あの、あのね、その・・・」
「うん、どうした?」
「・・・大洋に、リベンジしたいの!」
まさかの大洋を敵に回す発言。
昨日あの後何が合ったと思いつつ、とりあえず椅子に座らせた。
「ああ、そういえば、お前にあげたんだっけ、あのグラブ。
いい加減ぼろぼろなんだから、買い換えてもいいんじゃないのか?」
「やだ!あれはあたしの宝物だもん!
・・・許せない、あたしにはいくら辛く当たってもいいけど、お兄ちゃんを悪いようにするのは・・・!」
「ま、まぁ、そう思ってくれるのはありがたいが・・・」
話の内容を飲み込むと、光陵の選手も反発し始めた。
「流石にそれは酷いぜ!」
「土生さん、今度は完膚なきまでにやっつけましょう!」
「・・・向こうが受けてくれるかな。昨日勝ったばかりだぞ。
こっちが負けてリベンジってならまだ分かるが、その逆は不可解極まりないだろうし。」
一方、同じ頃。
食堂の光陵エリアから少し離れた場所で、大洋でも議論が紛糾していた。
「監督、よかったんですか?」
「うるせぇな。あんな役立たず、最初から面倒なんて見なきゃよかったわ。」
「けど、石井さんの妹なのに、ぞんざいに扱ったりしたら・・・」
さすがにさやかへの擁護の声もちらほら聞こえる。
しかし、そんなことはお構い無しの連中もいる。
「石井の問題どうこうじゃねーだろ。
あの光陵とかいうリトルに負けたほうが問題じゃねーのか!?」
「そうだよ、女ピッチャーにやられて、黙ってられるか!」
「お前ら、いい事言った!監督として、昨日の負けは情けない!だが、こっちは女が足を引っ張ったから負けたんだ。
その枷が消え、そしてその熱い気持ちがあれば、必ず勝てる!」
「監督、リベンジがしたいです!
どうかもう1度チャンスをください!」
どうやら、向こう側からリベンジの機会を与えるような流れになってきた。
「すまないね、なんか色んな事に巻き込んでしまって・・・」
「いえいえ、こちらこそ、さやかちゃんが仲間になってくれて、嬉しいですよ。」
大洋とのリベンジマッチがとんとん拍子に決まり、明日行われる事になった。
すでにさやかの先発出場は決まっているが、守備位置はショートではない。
ユキのノックを受けている場所は、サードベース付近。
「しかし、サードを守らせるのか。」
「なれないとは思いますが、さやかちゃんの守備センスなら無難にこなすでしょ。
ショートに赤松がいるのもあるけど、さやかちゃんはちょっと足が遅い。」
ショートを守らせるには、守備範囲に不安がある。
だが、打球反応や球際の強さは、ホットコーナーを守らせるにはもってこい。
タクローもかつてサードを守っていたそうで、コンバートには特に抵抗は無いようだ。
「もう1つは、山下をファーストに置けるのが大きい。
元々本職はファーストだし、あの身長を考えるとファーストが一番適任でしょう。」
「・・・確かに、あれほど巨大な小学生は初めて見る。」
身長181cm。
これほどの体躯があれば、少々送球がそれても難なく捕ってくれる。
ピッチャーやファーストにとって、恵まれた身長はそれだけで立派な武器となる。
「山下はさやかちゃんのグラブを捕ってくれたそうですし、コンビを組ませる事で相乗効果も期待できる。
打てる1番がいることで、橡浦とユキちゃんの2、3番が強力に機能するわけです。」
「4番は?」
「4番は山下に任せますよ。相棒ができたことで、これから伸びてくれる事を期待しましょう。
さて、俺は理奈の球でも受けてくるか。」
レガースにマスクを装着し、ブルペンに入る。
肩慣らしにキャッチボールからはじめるが、理奈がおもむろにこんな提案をした。
「・・・今、周りには誰もいないね・・・」
「ん、どうした?」
「ねぇねぇ、ここってさ、隠れたデートスポットがあるんだって。」
子供の合宿となれば、やはりその手の話題だって挙がるだろう。
本来の目的から逸する背徳感が、男女の感情をさらに高める。
「ね、いかない?いかない?」
「馬鹿いうな、何の為にここに来てると思ってる。
それに、エースとキャプテンがチームの和を乱すような事はしちゃいけない。」
「えー?そんな固い事言わずにさぁ!バレなきゃいいの!
禁欲生活も3日目、もうそろそろ限界なんじゃない?」
「・・・。」
「ほらほらぁ♪」
ユニフォームの第二ボタンまで外し、魅惑の谷間をこれでもかと見せ付ける。
しかし、いかんせん18.44mも離れているこの状況では、やや効果が薄いようで。
「そんなに発散させたいなら、1人でやっとけ。トイレとかでやりゃいいだろ。
俺は次の日に響かせるような事はしたくないんでな。」
「なっ・・・なによ、それ!
せっかくのお泊りなんだよ!もう少し、仲睦ましくしようとか・・・」
お互いの意識に大きな隔たりがある。
最後には土生もとうとうキレた。
「どうしてもってんなら体力の有り余ってる奴を誘え!
ほら、さっさと投げろ!そんな事考えてる暇があるんなら、チェンジアップくらい使えるようになれ!」
「・・・っ!」
ホームベースの後ろに土生が座り込み、結局会話はそれっきり。
雑念の込められたストレートは、最後までミットに快音を残す事はなかった。
「ラリナ、どうしたん?」
「・・・ん、えっ?」
「元気ないぜ、まさかもうバテたのか?」
「う、ううん、大丈夫。」
あれからも土生との気まずい空気は変わらない。
当の土生は、何も無かったかのようにハンバーグを頬張っているが。
「・・・ごちそうさま。」
「あれ、もう終わりですか?」
「うん、あんまりおなか空いてないから・・・お先に。」
結局、一言も会話を交わさないまま、外の空気を浴びに言った。
暗く無人のグラウンドが見える位置にしゃがみ込む。
確かに野球をしにきたのは事実。けど、好きな人への想いは、抑えきる事はできない。
程なくして、一組の男女が近くを歩いてくるのが見えた。
山下と、さやか。どうやらさやかに手を引かれている模様。
何かを感じ取ったのか、理奈は木の陰に隠れる。
「ど、どうしたんだ、いきなり一緒に来てって。」
「あの、あのね。・・・その。
す、好きです!」
「・・・えっ?」
「つ、付き合ってください、チカちゃん!」
相変わらず微妙な名前のままだが、さやかが何を言っているのかは一応理解できた。
ただ、性的好奇心旺盛とはいえ、恋愛に対しては少々疎い面もある。
「ええっと・・・ど、どうすりゃいいんだ・・・?」
「そ、その、あたしのこと、好きになってください・・・!」
理奈もその様子をドキドキしながら観察している。
男なら受け止めてあげなよ、そう心の中で叫びながら。
「・・・まぁ、こんな俺でいいのなら・・・」
「ほ、ほんと!?」
「・・・けど、俺、気の利いたことできな・・・わっ!」
突然飛びつくさやか。
身長が50cmも違うので、まずジャンプして、よじ登るように肩に手を回す。
「んしょ、んしょ!」
腕にグッと力を込め、ようやく山下の顔にまで顔が届き、そして、
「んっ!」
「!?」
キスに到達するまで、10秒。
史上最高の身長格差を有した小学生カップルの誕生の瞬間である。
「!!!!!?????」
理奈はと言うと、その様子にパニックになっていた。
土生とは、まだキスまで行き着いていないのもあるだろう。
「ね、ね、お風呂までキャッチボールしよッ!」
「あ、ああ・・・」
かわいらしい一幕を見届けた理奈。
ピュアホワイトな2人が去っていくのを見届けると、再びグラウンドの前に座り込んだ。
「・・・そうだよね、翔に文句を言う前に、あたしがもっと好きにならないと!」
好きな想いは、ボールに乗せていくらでも届けられる。
そう思うと、明日の大洋戦を頑張れる気がしてきた。
さて、帰るか、と思ったその瞬間、もう1組の男女が近づいてくるのが見えた。
「えへへ、これで3日連続だね。」
「やっぱ、こういうところ来たら、隠れて色んなことしねーとな。」
橡浦とユキ。こちらは文句なしに自他共に認めるカップルである。
リトル全員が気づいているわけではないが、理奈や土生、監督は黙認している状態。
「やっぱ、あそこいいよねー、絶対誰も来ないし。」
(・・・あそこ・・・『愛の芝生』の事?)
昼間、理奈が土生に言った、隠れたデートスポットの通称である。
子供達のみぞ知る、後輩へと受け継がれていく貴重な秘密基地の事である。
ただし、カップル以外は入ってはいけないという規則も同時に作られる。
だから、独り身、特に男は昼間しかその場所を見ることはできない。
オカズ目的で覗き見る事も許されない、言わば邪魔されずに安心して愛を確約してくれる場所といえる。
着いた場所は、きれいに整備されているかのような芝生。
湿っぽくも無く、寝転んでも汚れる事はなさそうだ。
・・・そう、だからこそ、『向いている』。
「・・・!!」
橡浦が股を開いて座ると、ユキが早速ズボンのジッパー・・・通称、社会の窓を開く。
そこから肉棒を取り出すと、躊躇無く口にくわえる。
(ふ、二人とも、そんな仲だったなんて・・・
あたしと、翔以外にも、いたんだ・・・!)
禁断の世界をのぞく禁忌。
近くの木から、チームメイトの情事に見入る。
「うあっ!」
「・・・いっぱい、出たね・・・」
暗くてよくは確認できないが、何が起きているのかは簡単に見当がつく。
実際に見るよりも、想像を掻き立てる方が、かえって性欲も増す。
「今度は、おっぱいだよ?」
「ああ・・・んむっ」
「ん、んぁん!」
授乳プレイ。
思わず、自らの右腕が、右胸の先端をなぞり始めた。
・・・吸って欲しい、自分のパートナーに。
でも、居ない。だから自分で慰めるしかない。
(こ、こんなことやってちゃ・・・
でも、体が勝手に・・・)
勝手に動く。
今までは当たり前だった土生と一緒の生活が、ここにはない。
体が知らず知らずの間に、蝕まれていた。
もはや見ているどころではない。
音だけをオカズに、必死になって自らの身体で遊ぶ。
「そ、そこはっ・・・」
「すっかりトロットロだな。ユキのヘンタイ。」
「う、うるさっ・・・いっ・・・!」
理奈の右手も、秘所を弄る。
くちゃくちゃと音を立てながら、快楽を求めて指を動かす。
「さ、入れるぜ。」
「ぅん。」
(・・・え、イレル?・・・ま、まさか!)
服が肌蹴たまま、木の影から2人の様子を観る。
暗くてはっきりとは見えないが、喘ぎ声と共に、2つの人影が重なっていた。
「はっ、あっ、だ、だめっ!」
「いいぜっ・・・ユキ!すげぇ締め付けだっ!」
(!!!)
さっきまで、日本一の幸せ者で、日本一堕落した小学生だと思っていた。
けど、違った。
真に愛するもの同士だけが行える特権を目の当たりにした今、理奈の中の何かが崩れ去った。
「くっ、出る、だすぜッ!」
「いいよ、きてっ、チュウっ!」
(翔、いいよ、中に、たくさんっ・・・!)
次の瞬間、子宮の中が一気に熱くなった。
2人の少女は共に果て、しばらく芝生の上で横たわっていた。
・・・理奈は自由に動かない体で、何とか茂みにまで身体を運ぶ。
木陰では見つかるかもしれないと、必死に正気を保ちながら。
「ふぅ・・・ふぅ・・・・んっ」
何とか落ち着いて、身体を起こす。
すでに2人は愛の芝生からは消えており、とりあえずはほっと一息ついた。
「2人とも・・・すごかったなぁ・・・」
理奈の感情を支配するのは、驚きより羨望。
同じ夢に向かって燃えているはずだったチームメートが、別の何かに見えた。
明日から、2人とどう向き合えばいいのか。
・・・そして、今立っているこの場で、行われていたのは、紛れも無く、
「・・・っ!」
体が火照る。そして、力が抜ける。
本能が、まだ足りないと欲している。快感を欲している。
立っていられない。その場にへたり込み、ズボンを緩める。
シャツのボタンを外し、ブラを捲り上げ、たわわに実った爆乳をさらす。
「はあっ・・・ああっ、翔ッ!」
元々体に不釣り合いな爆乳は、理奈自身ではどうしても持て余してしまう。
いつもは土生が好きなだけ遊んでくれるが、自分で遊ぶとなると勝手が違う。
なんにしても大きすぎる。
両手でつかんでも、まだまだ余る。指の間から肉がはみだす。
粘土遊びのように捏ねても、熱は迸るばかり。
自分の体がもう1つあるかのような大きさでは、性欲を支配するどころか、逆に支配されてしまう。
「だめ、もっと、もっとっ・・・」
無我夢中で揉みしだき、乳首を口に運んで、吸う。
だが、これも土生がいつもしてくれるようにはいかない。
「・・・う、ふえぇ・・・」
最後の足掻き。
秘部に指を運び、弄り続ける。
「翔、翔っ・・・!」
パートナーに、蹂躙される想像。
思うがままに突きまくられ、本能のままに遊ばれる。
そんな哀しい想像で、理奈は満足するしかなかった。
1人の選手が、ふと妙な声のするほうへ足を運ぶ。
そこが、禁断の聖地である事など知らず。
「・・・なんだろ?」
そこには、信じられないほどの爆乳をぐにゃぐにゃとさせながら。
隠すべき場所をあられもなく晒している少女。
あのおっぱいに不釣り合いな、リトルのユニフォーム。
だが、その目で確認したその顔は、確かに小学生のそれだった。
(・・・こ、これってっ・・・!?)
ユニフォームと顔をその目に焼き付けながら、走り去っていった。