「さぁ、張り切っていこー!」  
 
1日休息をとり、土生やユキの看病の甲斐あってすっかり元気を取り戻した理奈。  
元気が有り余っているのか、ランニングでも先頭を走る。  
 
「土生さん、何かあったんですかね?」  
「ん?」  
「明らかに姉御、一昨日より元気でしょ。あんなことがあったのに。」  
「さ、さぁな。」  
 
橡浦には事情を話してもいいものだが、やはり秘密にしておきたいのはキャプテンだからだろうか。  
 
「いっち、にー、さん、しっ!…あれ?」  
 
ベンチの前に4人の人影が見える。  
近づくに連れて、その正体に確信をもっていく。  
 
「あなたたちは…」  
「よぉ。」  
「練習試合の申し込みですか?生憎、うちはもうこの合宿では試合は受けません。」  
 
ベンチ前にいた西村たちの呼び掛けを軽くあしらう。  
だが、逆に西村が理奈をあしらった。  
 
「そんなんじゃねぇよ。お前に用はない。  
 橡浦、山下、赤松、こっちに来いよ!」  
「お、俺たち?」  
 
理奈に追いついた光陵ナインが西村のもとに駆け寄る。  
 
「俺たちはよ、本当の光陵を復活させてぇんだ。  
 外様のいない、昔っからの仲間と、一緒に全国を目指したいんだよ、な!?」  
「…。」  
「あ、土生、お前はダメだからな。俺たちを突っぱねたんだから、当然だろ。」  
「3人とも、俺たちと一緒に戦おうぜ、な?」  
 
4人がそれぞれ橡浦達の目の前に立ち、握手をしようと手を伸ばす。  
ユキもさやかも、不安そうに見守る。  
 
「「俺は…」」  
 
決断の声を、言おうとしたその瞬間だった。  
 
 
159 名前:おまけのストレート 投稿日:2012/11/11(日) 23:23:58.36 ID:Dulu+UDU 
「3人とも、行けばいいじゃない。」  
「ラリナ姉さん!?」  
「姉御!?」  
「あたしは止めないよ。誰がどこに行こうと、そんなの勝手だもん。」  
 
土生も内心は驚いたが、何も言わずに黙ってその様子を見ている。  
理奈が出ていくわけではないし、何より理奈を信じているから。  
 
「けど、これだけははっきり言っとくね。  
 あたし、もし全員が出ていっても、翔と一緒に光陵に残るよ。」  
「え…しょ、翔?」  
「うん、あたしはキャプテンをそう呼んでるの。もう隠す必要ないと思ってさ。」  
(お、お前は、恥ずかしいことを…)  
 
事実上の交際宣言。  
そして、さらに言い放った。  
 
「あたしは翔さえ居れば、どんな相手だってねじ伏せちゃうから。  
 自分の全国制覇の夢を砕きたい人は、お好きにどーぞ?」  
「理奈…」  
「あたしが18個三振とって、翔がホームランを打つ。それでおしまい。  
 それで文句ないでしょ、翔?」  
 
かつては内気だった理奈が、いつの間にかたくましく成長していた。  
決して弱気な姿は見せない。移籍のショックなんて、意に介さないとばかりの、堂々たる姿だった。  
 
…それは間違い無く、土生の、そしてナインの心をとらえていた。  
 
「…ったく、いい性格になったな、理奈。」  
「そうだよ?もし点を取れなくて負けたら、一生許さないから。」  
「やれやれ。そんな面倒ごとに付き合えってのか?」  
「うん!  
 …嫌だと言っても、ずーっと一緒だからね。」  
 
ユキとさやかは顔を真っ赤にしている。女の子にはあまりに恥ずかしい会話だった。  
そんな二人の彼氏も、どうやら決心した様子。  
 
 
160 名前:おまけのストレート 投稿日:2012/11/11(日) 23:24:40.97 ID:Dulu+UDU 
「…やれやれ、こわいこわい。  
 こんなおっかねぇピッチャーと戦いたくないね。なぁ赤松?」  
「同感です。ラリナと土生さんが一緒の方が安心できますよ。」  
「赤松、言うようになったじゃねぇか。  
 俺達、頼りになるエースと一緒に、戦いたいっス。」  
 
「お、おいおい、こんなやつの言うことなんか、ハッタリだぜ?」  
「それに、お前らもじきに、黒田や青野たちと同じ目に合うんだぜ?」  
「そうだよ、そうならないうちに、全国行きのスタメンを…」  
 
新井の言葉を遮るように、はぁ、とため息をついた。  
 
「第一、姉御がいない地点で、全国行きなんてできるわけないじゃないですか。」  
「あの5人は、ろくに練習もしなかったし、そんな奴はスタメンは無理ですよ。  
 あんな5人、俺たちは必要ないですし、見習おうとも思いません。ね、土生さん?」  
 
山下に呼応するように、土生も持ち前のふてぶてしさをいかんなく発揮。  
 
「あぁ、俺がお前たちを全国に連れていくぜ。  
 つーわけだ。ご足労をかけましたね。」  
「…まぁいい。俺たちの好意に甘えなかったことを、後悔するんだな。」  
「こいつらに後悔はさせませんよ。  
 俺と理奈で、アンタラを必ず、ぶっ倒す。」  
 
これでいい。  
自分を信じてついてくる奴らに出来る事は、自信をもって引っ張ることなんだから。  
そして、全国制覇という、最高の恩返しで報いればいい。  
 
「じゃぁな。地区大会、待ってるぜ。」  
「…。」  
 
光陵は再び1つになった。  
そう信じて、合宿最終日を終えた。  
 
 
夕食を終えて、宿泊棟に戻る光陵ナイン。  
ただし、女子も含め、全員が橡浦と山下のいる男子3人部屋に向かっている。  
 
「いよいよ明日帰れるんだね!」  
「そういや、色んなことがあったな。大変だったぜ。」  
「うんうん、だからこういう日くらいは…」  
「却下な。」  
「えーっ!!!」  
 
リトルの選手である前に、彼らは夏休み中の小学生。  
土生は、言ってみれば彼らの監視役だ。  
 
合宿中の彼らの動向を、ここで振り返ってみることにしよう。  
 

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