ふ、と息をつくと同時、ぬるりと羽の先に蜜がつく。体はまだ熱い。
自慢の翼が己の体液で色を変えてしまったのを、雉は物憂げに見つめた。
「桃太郎さまぁ……」
明日はとうとう鬼ヶ島だ。桃太郎との旅も最後になるだろう。雄雄しい瞳や優しい言葉を
思い出すだけで体は火照り、思わずもぞもぞと腰がくねる。
玉虫色の翼は鳥そのものだが、体は女体のそれだ。体が火照れば腰は動くし、熱に脳が
しびれるような、焦燥感ともいえる飢えが襲ってくる。
欲しい。柔らかな羽では物足りない。どうせ体が人間の女なら、指もそれならよかったのに。
他の物の怪、狐狸妖怪とは美しさが違うのだと、そう自負していた体をうとましく思うのは初めてだ。
もう一度は果てた後だというのに、雉は再び羽を足の付け根に伸ばした。
「いい匂いだなァ」
ぎく、と肩が強張る。息すらも一瞬止まった。けれどおそるおそる首だけを後ろに巡らせた雉は、
自分のすぐ後ろに立っていたものを見て、すぐに脱力した。
「いい匂いがずうっとしてるから、何かと思いました」
桃太郎のそばで寄り添うように休んでいたはずの、白い犬がそこにいた。
柔らかそうな尻尾をぱたぱたと揺らしてこちらを見つめる様は可愛らしいといえなくもないが、
なにぶん体が大きすぎる。
桃太郎さん、桃太郎さん、と主にうるさくまとわりつくこの犬っころが、雉は大嫌いだった。
普通の犬に毛が生えた程度の力しかないくせに、彼は主人に特に信用され、また可愛がられて
いたからだ。それに素直でまっすぐな性格も何だか気に食わない。
開いた足を閉じもせず、雉はふんと鼻を鳴らしてみせた。
「何よ。邪魔しないでよね。さっさとあっちいって」
「でも……こんなにいい匂いがしてたら寝れないんです」
「寝なさいよ。やあね、ガキのくせに一丁前に色気づいちゃって」
「あのぅ、舐めてもいい?」
「ばーか。ダメに決まって、んっ」
太ももを撫でる感触に、雉は思わず声を漏らした。見れば、犬の熱い舌がぬるぬると太ももを
なぞっている。
「何してんのよっ! バカ、やめろっ」
「だってすごくおいしい」
「ひゃあんっ」
遠慮も知らないこの犬っころは、ふっくらとした雉の肉丘を一気に舐めたのだ。長い舌が陰核をこすり、
雉は体を震わせる。内側からとろりと蜜があふれ出るのを自覚してしまい、体がかっと熱くなった。
「あ、また出てきましたねえ」
「うるっさい! も、離せぇ……!」
ごめんなさい、と素直に謝りながらも、犬は行為をやめようとしない。
ハッ、ハッ、と荒い息が陰唇にかかる。それだけで雉の背中にぞくぞくと快感が走る。早く
触ってほしい、舐めてほしいと、体がうずいているかのようだ。
舌先が花びらのような陰唇をめくる。雉はびくびくと震えながら喉をのけぞらせる。
「やっあ、やだ、んんっ」
犬の前足がぐ、と太ももにのしかかる。無意識に力が入っているのか、爪の先が雉の柔らかな腿を
引っかいた。その痛みさえ、今の雉には快感になってしまう。
「うわあ、あふれてる……」
犬の感嘆したような声に羞恥がよみがえる。慌てて足を閉じようとしたが、間に犬の体があるので
それもままならない。ふさふさとした毛が内腿を撫でるばかりで、結局体のうずきを大きくさせるだけだ。
舌がちろちろと陰唇についた愛液を舐めとっていく。
鋭い牙の先が時折陰唇にぬるりと当たり、このまま噛み切られでもしたらどうしようという恐怖と、
しかしどこかでそれを望むような甘い焦燥が同時に雉を襲う。焦らすような舌の動きに雉の腰はうねり、
閉じようとしていたはずの足は犬が舐めやすいように大きく開かれていく。
そして犬の舌が膣口に触れた。
「っ、やん……」
舌が膣の中にねじこまれる、そのしびれるような快感を期待して雉が甘い声を上げたそのとき、舌は
すっと遠ざかってしまった。
「え」
「す、す、すみませんでしたぁぁ!」
見れば、犬がすっかり勃起してしまった自分の分身を隠すように前かがみになって――ほとんど土下座の
ような体勢だった――泣きそうになっている。
体を起こしつつ、雉は呆気に取られたように犬を見つめた。状況がうまく飲み込めない。
「な、何でやめるのよ」
問いただすような雉の口調に、犬はますます小さくなった。
「だって……ずっといやって言ってるし、あの……ごめんなさい」
「はあ?」
「嫌がってる人にむりやりこんなことするなんて、僕は……。最低ですっ!」
どうやらこの段階になってようやく正気に返ったらしい。
しかし、こんなところでやめられては困る。いまだ雉の内部は快感を欲してひくひくと収縮しているのだ。
艶めいたため息をつきそうになりながら、雉は精一杯のしかめっ面を作って犬を睨みつけた。
「アンタねぇ……こんなことしてタダですむと思ってんの?」
「ご、ごめんなさいぃ!」
「許さないわよ、絶対。……ね、だから」
言いながらゆっくり足を開く。ぐっしょりと濡れた陰部が犬の目にはよく見えるはずだ。
案の定、犬はおろおろと落ち着きなく視線をさまよわせている。
自身の指先で陰唇を撫でながら、雉は口付けをねだるように唇をとがらせた。
「きて。気持ちよくしてぇ……」
こうして、犬と雉はほとんど一睡もしないまま、鬼ヶ島突撃の朝を迎えたのだった。
おしまい