「意識侵食 二話」  
 
 
 
 ホロフェルネス王国、北端。  
 昼の頃合いだと言うのに、普天にはどろどろに濁った泥雲が、彼女らの上を横切っている。  
 地上に拡がる凄惨な光景に、聖華女戦士団の長・ラケルも、さすがに息をのんだ。  
「なんということだ……奴の手はこんな辺境にまで及んでいるとは……」  
 全身をフルプレートで固め、頭部さえもアーメットによって完全に覆い隠している彼女は、兜の中から落胆に満ちた声を発した。  
 背には、この大陸では滅多にお目にかかれない、黄金を施した槍を帯びている。  
 総数四百の女戦士を従える彼女に、極めて相応しい得物といえよう。  
 少し前まで賑やかに栄えていた町だったこの場所が、いまや面影さえない廃墟と化しているとは……亜族どもめ。  
「これ以上の暴挙は許してはならん。スザンナ……」  
「はっ」  
 スザンナと呼ばれた彼女は、団長であるラケルの傍らで凛とした声を上げた。副団長である。  
 スケイルメイルにスティールヘルム、ロングスカートという装備は、団長と比べれば軽装だが、彼女にとっては十分なものなのだ。  
 背に帯剣しているのは双つのロングソードである。  
「リリィ達はまだ戻らないのか?」  
 リリィとは伝令長の名で、彼女を含めた四人で、女戦士団の周囲を危険がないよう常に探索しているのだ。  
「はっ。戻る気配もありません」  
「そうか……」  
 頭部全体を囲った兜の奥から、嘆息混じりの返答が帰ってくる。  
 表情を窺うことが出来ないので、ラケルの心情は声や仕草でのみしか知ることができない。  
 一つの強みでもあった。  
「しかし、ここには本当に何も残っていないようだな。亜族がいなければ、セリカの経験も積ませてやれん」  
「そうですね……団長、私は少々西のほうの様子を見て参ります」  
「ああ、分かった」  
 話題を遮断するようなスザンナの言葉に棘があったのを、ラケルは気付いただろうか?  
「カティア、行くわよ」  
「はい」  
 副団長・スザンナは、まるで亜族の輪姦現場を見た乙女のように、従騎士三人を伴って足早にその場から立ち去ってしまった。  
 
「団長は分かっておられない。セリカを帯同させたのは、単なる陛下の戯れだというに……」  
 二十二という歳の割りに童顔な副団長が、瞑目しながら首を振って独りごちた。  
 昨日振った雨が水溜りとなり、スザンナの悔しげな表情とその向こうの暗灰色の雲を映し出している。  
 暗黒を思わせる天空に、見渡す限りの荒れ野が相まって、スザンナの陰鬱な気持ちを更に強くしていた  
 何故、私がセリカなんかと比較されなければいけないの……?  
 あの子は私と十も違う。腕も天地ほどの差がある。なのに……  
「スザンナ様……」  
 従戦士の一人・カティアが、なやめる主人をいたわって声をかける。  
 別に団長も、スザンナとセリカを比較している訳ではないのだが。  
 最低でも十五歳からしか入団できない聖華女戦士団に於いて、セリカは十二歳で入団するほど、剣の冴えが尋常ではなかったのだ。  
 
 天賦の才を持っているセリカを意識するのは、副団長であるスザンナにとって当然とはいえたものの……  
「……みんな、ごめんなさい。少し自涜して落ち着くわ」  
「はい……」  
 スザンナの懇願に、従戦士達は当たり前のように得心した。  
 ありえないことに、彼女はこうして戦場となりえる場所で自慰に耽ることに何ら抵抗が無い。  
 生娘である彼女は女性にしては性欲が強く、文字通り欲求不満といえる状態が多い。  
 器用な彼女は、自らの手淫で‘それ’を容易に失くすことが出来る。  
 その上で、性的快楽に抗する力はラケルに次ぐものを有している手前、自涜に及ぶぐらいで文句を言われるのはたまったものではない。  
「さて……」  
 ふぅ、と呟くと。  
 スケイルメイルを、スティールヘルムを、レザーベストを、ロングスカートを……  
 目にも止まらぬ速さで装備や衣服を脱いでいくスザンナを、従戦士達は淡々とした目つきで見入っていた。  
 この光景にはもう慣れている。  
 あらわになったスレンダーなカラダには、胸と股を隠すだけの白布だけが纏われていた。  
 兜を外した為、ボリュームのある金髪が首元まで垂れ下がっている。  
「はあぁぁっっ……!!」  
 全身を打ち震わせ、愉楽の前の艶な息をはくスザンナ。  
 待っていたのか、と訝りたくなるくらい。彼女の顔、それに身体は、誰が一目しても察せるほど火照っていた。  
 実際、行為に至るのは八日ぶり。彼女にとっては長い。  
 バッ、といきなり、胸と股を白布の上から手で押さえる。  
 やや控えめな胸を揉み、股間部に伸びた右手は既に内部へと入り込み、くちゅくちゅという水音が洩れ始めていた。  
「はぁ……んっ……やぁぁあんっ」  
 あどけない顔と同じく、甘い喘ぎも未だ幼さが抜け切れていない。  
 快楽の波が、信じられないような速さで猛りを上げていた。  
 ……平時であれば、あと百も数えないうちに達することが出来ただろう。  
 今日、‘それ’に気付くのが遅かったのは、従騎士であるカティアにとって人生最大の誤謬といえた。  
 荒れ野の果てに視えた、無数の黒い影。  
「ス、スザンナ様! あれを――!!」  
 カティアは、叫んだ時にはもう遅いということに、四人の中で最初に気付いてしまっていた……  
 
 
 
「しかし……あれも大変だな」  
 団長・ラケルは、廃墟となった町へ頭部全体を覆ったアーメットの‘顔’を向け、落ち込んだ者を慰めるかのように呟いた。  
 ‘あれ’とは、副団長・スザンナのことである。  
 ……むろん、気付いていた。  
 スザンナが、若干十二歳のセリカを意識しすぎていることには。  
 だが、実際問題剣の才についてはラケルはおろか、スザンナより上だろう。  
 ラケルは今二十八歳、スザンナは二十二歳、セリカは十二歳だが、三年後には全員の腕が対等になっていそうな気さえするほど、セリカの強さは尋常ではない。  
「ねえ、おねえちゃん」  
 緊迫した場にそぐわない、幼い少女の声がラケルの脳に刻み込まれる。  
 セリカだ。  
 
レザーヘルムを被った頭部から、二つに結った金髪が両頬を伝っている。  
 面差しは極めて整っているものの、その眼差しには深い険が含まれていた。  
「……なんだい、セリカ?」  
 ‘おねえちゃん’と呼称されはしたがセリカの姉ではないラケルは、フルプレートを軋ませる不快な音を立てながら、声の主である少女の方へ向き直った。  
 長身痩躯のラケルの半分ほどの彼女は、団の中で最も軽装だった。  
 身に付けているのは皮製の防具だけ。  
 見目は華奢だが、膂力や体力は同年代の少女のそれを軽く凌駕するセリカを持ってしても、鋼や鉄製の防具を身に付けるのは厳しい。  
 理由としては、彼女が希少な双剣使いであるからだ。  
 腰の両脇に吊るされているのは、彼女専用にあつらえた短めのレイピアである。  
「わたしのでばんはいつくるの? はやくあぞくをきりきざみたいなぁ」  
 本当に十二歳の可憐な少女が発したのか疑わしくなる言葉を、セリカは事も無げに綴り終えた。  
「どうだろう……もしかしたら出番はないかもしれないね」  
「そ、そんなぁ」  
 心底、残念そうな声色でうめくセリカ。  
 幼いが故の純な残酷さが、一層彼女を強くしていることを、ラケルも知悉していた。  
「む……?」  
 ふと、ラケルの視界に映る荒れ野の奥に、小さな人影が入ってきた。  
 その人影の方へ身体を向けてじっと目を凝らすと、伝令長・リリィが、伝令兵のエバを背負って走っているのが分かった。  
 かんがみるに、二人は犯られて亜人とされてしまい、逃げ延びたリリィとエバも命からがらといったところか。  
 つまり、火急を要する事態である。  
「――囀(さえず)るなっっ!!!」  
 怒声一閃。  
 ラケルが放った怒りの声が、彼女の後方に並ぶおよそ四百の女戦士の耳を打った。  
 驚くべきことに、傍らのセリカは殆ど静止したままの無表情である。  
 それは本当に、些細なざわめきだった。今のラケルの怒号に密かに不満を持つ者もいたが。  
 ざわつきが大きくなる前に鎮めようという判断は、しかし正しいものでしかない。  
 故に、納得する者はいても、異を唱える者などいなかった。  
「団長っ! 遅れて申し訳ございませんっ!」  
 ややあってラケルのもとに辿り付いた伝令長・リリィは、気を失っている伝令兵エバを下ろして跪いた。  
 よくよく見ると、エバは衣類を剥がされほぼ全裸。リリィもあちこちが破損しているではないか。  
 畏怖や苦痛、それに仲間を失った悲しみなどを表に出さない辺り、伝令兵の長を務めるに値する働きといえよう。  
 リリィにもラケルの一喝が聞こえていただろうが、それを意に介す風など、全くない。  
「いい。それより、何があった?」  
「はっ! 私を含めた四人で西の森を偵察していたところ、突如亜族の軍勢に鉢合わせしてしまいまして……」  
 西というと、副団長・スザンナが従戦士三人を引き連れて向かったばかりだ。  
「およそ二百は下らないでしょう。中位亜族を引き連れた‘やつ’は、こう名乗りました」  
 我は亜族三柱がひとり、‘幻影の黒騎士’ガド。  
 今すぐに亜人と化したくなくば、お前達の主を差し出せ。  
 そうすれば、後で亜人と化させてやろう――  
「ケイトとコリーナは亜族の手に墜ちてしまいましたが、私とエバはなんとか奴らを撒くことができました。  
 恐らく、ガドはこのまま南進し、王都まで蹂躙するつもりでしょう……ラケル様?」  
「…………」  
 リリィの言葉を聞き入れながら、ラケルは兜の中で歯噛みした表情を張り付けていた。  
 スザンナ達を助けるのはもう絶望的だろう。  
 といって、見捨てるのも尾を引くし、このまま亜族三柱・ガドの軍勢を待ち伏せるというのは、部下に示しがつかない。  
 何より、今の自分が亜族の実力者と闘って勝利を収めることが出来るかどうか――  
「――みなっ!! スザンナ達が危ない! 彼女らを救いつつ、我らの手で三柱の一つを崩して見せようぞっっ!!!」  
 おおーっっ!!!  
 四百の女戦士の鬨の声とつるぎとが、自然に沸き上がった。  
 暗き天際を裂くかの如し気勢である。  
 隣では小さな童女が、曇天に向かって右手に持つレイピアを突き出していた。  
 その勇姿に、ラケルはほっと安堵の息をつく。  
 彼女とて、戦士団や国のためとはいえ、人を見放すような真似は出来なかったのだ。  
 
「くっ……ぐっっ!」  
 広大に拡がる、暗がりの荒れ野の中。  
 息をつく間も無く迫る中位亜族の触手を、スザンナは双剣で必死に切り刻んでいた。  
 彼女の頬に紅葉が散っているのは、格好が白布二枚だけだからというわけではない。  
 先ほどまで自らを慰めていて、快楽を貪っている最中だったからだ。  
「ふっ、らぁぁああっ!!」  
 自分を奮い立たせるように、強烈な唸り声を発しながら中位亜族の胴体を両断した。  
 ただの黒き球体である下位亜族とは異なり、中位亜族は人型のシルエットを有する。  
 その黒影の頭部・腕・脚と全五箇所から、触手を発することが出来るのだ。  
「んぁ……くぁぁあっ――!!!」  
 なまめかしい絶叫は、スザンナの従騎士・カティアのものだった。  
「カ、カティアァァア!!!」  
 涙を流してはならないと分かってはいるが、一番信頼をおいていた従騎士であるカティアが墜とされ、スザンナは目を潤ませて泣き叫んだ。  
 すでに他の従騎士二人も亜族の手に墜ち、残るはスザンナ一人。  
「貴様ら……貴様らあぁーっっ!!?」  
「しばし落ち着け、女よ」  
 狂乱したスザンナを、まるで赤子をあやす母親のように制したのは、低いがよく通る声だった。  
 その何か啓示を告げる天の御遣いのごとし声色に、下着姿のスザンナは微動だにしなくなってしまった。  
 だがよくよく見ると、周囲の中位亜族の集団の動きも止まっている。  
 轟く声の主は、中位亜族と同様、黒き人型のシルエットを有していたが、その体躯は中位亜族の三倍はあるだろう。  
 腰を折るスザンナの前に歩み出ると、ゆっくりと、しかし正確に、‘啓示’を告げ始めた。  
「我は亜族三柱がひとり、‘幻影の黒騎士’ガド。今すぐに亜人と化したくなくば、お前達の主を差し出せ。そうすれば、後で亜人と化させてやろう」  
 単純明快でいて、余りにも辛辣な内容の言葉といえた。  
 スザンナは、疲弊しきったおもてにある双眸に険を満たし、ガドをねめつけながらも思考を巡らせる。  
 が、どうにも落ち着かない精神状態であるためか、どうすればいいのかも、ガドの意図もさっぱり読み取れない。  
「ふざけるな……」  
 思ったことをそのまま口に出す。  
「覚悟しろ! 貴様らぁっ!!!」  
 ダンッ!  
 気付けば、自分より遥かに大きい身体のガドに、迷いもなく突っ込んでいた。  
 あっというまに間合いが縮まる。  
「身の程を知れ」  
 ただ、その一言で。彼女の奮闘は無に帰した。  
 ふと、スザンナは自分の胸元を伏し見る――  
「ぐはあああぁぁぁぁっ!!!」  
 悲鳴は、苦痛と愉楽が混ざったものだった。  
 漆黒に染まった槍が、スザンナの腹部を貫いていたのだ。  
 この槍に肉体的外傷を生じさせる力はないが、肉体的苦痛と性的快楽を同時に呼び起こす力がある。  
「あぁっ、くはぁっ! うぁああぁぁんっ!」  
 そして、快楽はその苦痛の度合いに比例して大きくなる。  
 身体を完全に貫かれたスザンナに襲い掛かる快楽は、想像だにできない。  
 と、漆黒の槍がふいにスザンナから抜き放たれた。  
「うぁ、ふ……ぅうん! あん! ぎゃっ、がぁっ! はぁああんっっ!!!  
 解放されたスザンナは、痛みと快さをないまぜにした混沌とした絶叫を連ねながら、顔を思い切り歪めてめちゃくちゃにのたうちまわる。  
 
 彼女のもとに集まる、無数の黒き人影……  
「い、嫌……イヤぁ!」  
 否定の声に、邪な哀願が微かに含まれてしまっているのを、彼女自身も自覚していた。  
 整った童顔が見る影も無く軋み、碧眼からはとどまることをしらない涙が、小さな滝のように頬を流れだしている。  
「――やれ」  
 命を下した主人に従い、すぐさま触手がスザンナを拘束した。  
「はぁ、くうっ! あ゛ぁっ……くふっ、ぅん……」  
 息を荒げながら、自らに迫る触手を眺めやる。  
 こんな状態でまともな思考を巡らせることができないどころか、心の奥底では快楽を臨んでしまっている自分が、スザンナはなにより許せなかった。  
「ゆっくりと、頂まで運べ」  
 ガドの言葉に、中位亜族の返事はない。  
 代わりに、無数の触手がスザンナの肢体へと迫っていき、そのカラダを貪り始めた。  
「はぁぁぁあああ……!!!」  
 もはやその声は、快感一色だった。  
 全身を這い回る黒い触手の感触が、彼女の様々な性感帯を刺激する。  
「あぁん! やぁああぅっ! んっ、んっ、んはぁっ! ふぁぁ……あああぁっっ!!!」  
 あまりの気持ち良さに、総動員していた彼女の理性も忘却の彼方へ飛んでいってしまった。  
 ひたすら愉悦に満ちた表情からだらしなく舌をのぞかせ、快感に任せてカラダを反り返らせる。  
「あぁぁっ……! はやく……はやく、あふっ! あん! あはっ、あっ、ひゃあぁぁぁん!!!!」  
 未だに触手が陰部を直接探っていないことに、スザンナはもの欲しそうに懇願する。  
 白布の上から秘処を攻めていた触手は、彼女の哀願に応え上下の下着を破り取る。  
 やや控えめな双丘の突起に触手が当てられ、同時に曝された花弁にもまた数本の触手が殺到し、内部をぐちゅぐちゅとかき混ぜ始める。  
「んあぁぁぁんんっ!! あんっ!! んぁっ!! いぃっ、いぃよぉ!! すごくきもちいいよぉっ!!」  
 今までに味わったことが無い悦楽。  
 もっと吟味したい。ずっとこうしていたい――  
 そんな想いをさらに加速させるように、触手は膣内の奥深くでくいくい動き、クリをしゅっしゅっと激しく擦り、尻の穴をも触手がぶち込んだ。  
「ひあ゛あぁぁぁっっ……! ダメ、イくっ! イっちゃうっ!! もうダメっ、だめっ、イく――――あぁっ!!!」  
 まさに達しようかというその時だった。  
「スザンナぁっ!!!」  
 女性にしてはやや低めの、精悍さを感じさせる声が、スザンナの耳に入る。  
 …………団長……私は――  
 ラケルの想いを乗せた声は、しかし、スザンナには届かなかった―― FIN  
 
 
 
 

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