†「意識侵食」†
「ふっ!!」
ザンッ!
美少女の掛け声と共に白刃が光の軌跡を描き、「亜族」を両断する。
更に後方から迫る触手を感知し、長いポニーテールを揺らしながら振り向きざまに一閃。斬り払うと、隼の如き疾さで亜族の体へ接近し、中枢神経を狙い刺し貫く。
どす黒く凹凸のある球体に無数の触手を生やしただけの亜族の体は、身体の中心を捉えられて微痙攣を起こした後、派手に破裂した。
彼らを手をかけた少女戦士は、四散する亜族の身体すら手に持つ大剣で全て受け流す。
自分の身体が汚されるのが嫌なのだ。
「つ……強い。強すぎる……」
村の住人から洩れる自然な呟きは、本当に十七歳の美しい少女に向けられたものなのだろうか。
金髪碧眼に白皙の肌。身に纏うは、肌よりも白きレオタードただ一つ。携えるは、聖剣「フルンティング」。
孤高の女戦士――ソフィアは、今日も完璧な仕事を終え、目鼻立ちの整ったやや憂い無表情を虚空に向けていた……
大陸各地で出没する「亜族」は、いずこからか表れた亜族王ハスターが伴ってきた、異形の生物である。
人の頭より若干大きめの黒き球体に無数の触手を生やす、おぞましい見目を有している。
男は殺し、女は犯してイかせた後、意識を乗っ取って「亜人」と化させる人族の敵だ。
男には凶暴化して襲い掛かり、絶大な戦闘力を持ってして絞め殺そうとしてくるので、太刀打ちもままならない。
故にこの大陸では、うら若き少女達が日夜剣の修練や性欲の抵抗力を高めるための修行に精を出しているのだ。
ただし、彼女達が犯され亜人となると、人族としての意識はなくなるうえ亜族と同じように牙を剥いてくるので、もはや殺すしかなくなってしまう。
亜人の、亜族と異なる点は、
・人族(女)の見た目を持つこと。言葉は話せない
・女に凶暴化して襲い掛かり、男を犯そうとすること。ただし、男は最後には殺されるため、亜人にはならない
・触手は、手足を変形させて発する事ができる
の三点である。
腰辺りまである金髪のポニーテールと、程よい大きさの双丘を揺らしながら、ソフィアは町を歩み進んでいる。
とりあえず、といった感じで村長宅に招かれるや、一応、といった感じで報酬を手渡された。
女戦士ソフィアの名は大陸全土に伝わっていて、亜族王ハスターを倒す救世主としての呼び声が高い、孤高と言える存在であった。
「いやぁ、本当に助かりました。ソフィア様」
頭皮が若干薄くなり始めた長老が、目のやり場に困った様子で礼を述べる。
完璧なスタイルの肢体に、着ているのがボディラインが丸分かりな上露出も多い白レオタードだけとなれば、こうなるのは当然ともいえるが。
「……お礼はいりません。当然のことをしたまでです」
「そ、そうですか」
突き放すかのような断固とした口調に、村長は当惑する。
「どうです? 一晩だけでも……」
「ううん、私には課せられた使命がありますから……」
首を左右に動かしながら答えるソフィア。
断られれば、無理に引き止める必要はないな……
「そ、そうですか……では、お気をつけて」
面倒ごとが嫌いな村長は、むしろ嬉々とした心持で、ソフィアを送り出した。
「…………つまらない人ね」
村長宅を出て開口一番、ソフィアは毒づいた。
二言三言話しただけで結論付けるのは尚早だが、彼女のややしたたかな性格に至っては仕方のないことである。
じゃあ、行こうかしら……
言葉もなく、別れも告げず。
孤高の少女剣士は、密かに村を後にした。
ソフィアが何故そんなにも強いのか、疑問を持つ者は多い。
彼女自身が強いのは確かだが。
一番は、祖父の遺産の聖なる白刃「フルンティング」が要因である。
この剣に選ばれし者は、超人的な膂力・敏捷・剣技が身につき、容易に亜族を討つことが可能なのだ。
聖剣に付属されていた但し書きを見たソフィアは、肩と太腿が露出した白いレオタードで旅をすることにした。
‘肩と太腿を外気に晒すこと。そうしなければ、その力を最大限に発揮することができない’……但し書きにはそう記されていたからだ。
全身を純白に染めたソフィアは今、広大な翠の草原を憂い眼差しで見入っていた。
白昼の今なら、この草原の先にある「散霧の森」には、夕刻までには着くはず。のんびり行こうかな……
ソフィアはゆっくりと、優雅な足取りで草原を踏みしめだした……
ところが。
歩けど歩けど「散霧の森」は見えてこず、結局着いたのは小夜に至ってからのことだった。
私としたことが……計算違いだわ。
自分の悪癖――歩く速度は、常人の中でも遅いほう――が悪い方向に出てしまったのだ。
この森自体は狭く、抜けるのには一刻とかからないだろう。
しかし、夜になれば薄霧が発生するうえ、亜族の襲撃に抗せるかどうか。
となれば、当然退くという選択肢がよぎってもおかしくないのだが……
「急がなきゃ。時間が無いもの……」
寡黙な彼女が声に出すほどなのだから、本気でそう思っているのだろう。
整った面差しをいつも以上に厳しく律しながら、彼女は霧の煙る森へと足を踏み入れた。
霧は思ったよりも深く、道は暗黒に遮られていて、視界は乏しい。
聖なる白刃「フルンティング」は、所有者の意思で松明と同程度の光を発することが可能だが。
それでも中々周囲が明らまないのだから、この森が潜在的に持っている闇は相当に強いということだろう。
早く……早く抜けなきゃ……!
極めて珍しく、ソフィアは焦燥感を募らせていた。
出来れば、亜族に遭う前に抜けたい。
道に迷いさえしなければ、ここは容易に抜けられる森――
それは突然の出来事だった。
眼前の大木から黒い触手が飛来したのだ。
視界が悪いためか、全く反応出来なかったソフィアの首に巻きついた。
「ぐっ……!」
呻きながらも、背に帯剣している「フルンティング」の柄を右手で持つが。
その右手首にも、触手が巻きついてきた。
「ぐぅ……はぁぁああっ!!」
怒号一喝。
と共に振り上げた白刃が光を放ち、首に巻きついている触手を斬った。聖剣に与えられた、怪力である。
早業で左手に持ち替えながら右手首の触手を刻もうとしたら、後ろからむき出しの肩に触手が触れてきた……瞬間。
ソフィアの動きが、中枢神経を貫かれた亜族のように静止してしまった。
「………………え?……」
彼女は、何が起こったのかまるで分からなかった。
苦痛はないにも関わらず、完全に脱力し、「フルンティング」から手を離してしまった。
分かったのは、今、自分は四肢を捕らえられ、完全に身動き一つ取れないという事実のみ。
「なんで…………どうしてっ!?……」
ソフィアは疑念を混ぜて泣き叫んだ。
ここでもやはり、彼女の悪癖が災いしている。聖剣の但し書きの中の、最も重要ともいえる部分を読み飛ばしてしまっていたのだ。
‘肩か太腿を亜族に触れられると、剣の効力が一時間失われる’――
効力の中には、亜族を斬り払う力や、亜族から身体を護る力も含まれている。
その加護を失ったソフィアは、もはや一人の無力な少女に過ぎないのだ……
「ひっ……ひぃい!!」
蠢く無数の触手を目の当たりにし、今までに無い恐怖と悲痛に満ちた甲高い声を上げる少女。
碧い双眸から、涙がとめどなく溢れ出る。
黒く細い触手が、ソフィアに殺到した――
「いやあぁぁあっっ!!!」
うねうねとまとわりついてくる黒い‘つる’のぬめぬめとした気持ち悪い感触に、ソフィアは身悶えさせながら絶叫した。
ソフィアは処女なので知らないが、その感触はまさしく男根そのものである。
「や、やめ……やめてぇっ!」
白いレオタードを這い回る触手は、しかし留まるところを知る由もない。
露出した肩に伸びたものが、わきの下の辺りから布の中へと侵入してきて、少女の成長した乳房を巻き上げた。
「痛っ、あぁぅ!?」
ビリィ、と麻のレオタードはいとも簡単に破られ、ソフィアの形の良い乳房があらわになる。
「やだ……やだよぉ……」
上気した頬に半開きの目をあらぬ方向にむけながら、弱弱しい否定の声を発するソフィア。
犯され、イかされてしまえば、自分が自分ではなくなることの恐怖は何事にも代えがたい。
何より亜人になってしまうと、自分に亜族王ハスター打倒を期待する人々を裏切ることになるのだ。
絶対に、絶頂を迎えるわけにはいかない。
だが、しかし――
「ひっ、い…………はぁあんっっ!!」
ついに。
触手はソフィアの股間部の布をずらし、膣内(なか)への侵入を許してしまった。
「いやっ! やぁっ、んあぁぁん!!!」
一本の触手にぐちゅぐちゅと膣内を探られ、愉楽の嬌声を上げるソフィア。
四肢を固定され、脚を広げて秘所を露にされた姿勢で、いいように攻められる。
「駄目……いやぁ……はぅっ! あぁっ! はんっ! あぁん! くはぁぁっ……!!!」
出し入れされる触手に加え、敏感な突起まで擦られ、突き上げるような快感に抑えていた喘ぎ声が自然と漏れ出てしまう。
だが、これでも‘そういう類’の修行は欠かさなかったのだ。
感じることはあっても、そう易々と絶頂にまでとどきはしない。
だからといって抵抗する手段があるわけでもなく、達してしまうのも時間の問題だろう。
「あん……くっは、んっ、あぁっっ!! あん! はぁぁあ……」
ソフィアは、イきたいと思う欲求と、実際に迫り来る快楽の波に、必死にこらえていた。
亜人になれば、私の意識はなくなる。それは死ぬのと同義――いや、それ以上に悪い結。
だから、イくわけにはいかない……
けど、この状況でどうしろというの?
完全に身動きできない状態。ましてやこの時間、この場所、絶対人が通らない所で、私はどうすればいいの……?
いっそこのまま快楽に身を委ねたほうが、楽になれるんじゃ……
「はぁ……はぁ……――っくぅ! うぁっ、あぁぁ、ふぁあんっ!! あんっ、はん! イ、イく……」
――違う。イきたくない。
だが。彼女の思いを裏切るように。
触手が、ソフィアのクリを、膣内を、アナルを。同時に激しく攻め立て始めた。
「ひあっ――!!!!」
途切れる声。
ぐちゅぐちゅと激しくかき混ぜる水音に、秘部から大量に迸る愛液。
声を出す余裕すらない、絶頂の一歩手前の状態のソフィアのおもては、美しい容姿が見る影も無いほどに歪んでいた。
ぐちゅ、ぬちゅ、ぐちゃ、ずちゅ、くちゅ、ぴちゃ……
「いやあっ!! もうだめぇっ!!! イっ……――!!?」
どういうわけか。
絶頂寸前で、触手の動きが止まる。
それどころか退いていき、いや、その身体が朽ちてゆくではないか。
――破裂音。
いずこからか聞こえたその音は、間違いなく亜族の死を意味する音だった。
「ふう……危ないとこだったね、あなた」
独特な声色の、甘ったるい声。
ソフィアは悟る。奇跡的にも、通りがかった者に助けられたのだと。
闇に落ちた林の奥から、一人の少女が姿を表した。
山吹色を基調とした半そでチュニックに、萌葱色のタイトミニという、ちょっと軽めな容貌。
そのため、ソフィア以上かとも見て取れる彼女のスタイルの良さが浮き彫りになっている
かわいらしい童顔に飾った長い金髪は、二つに結って胸元に下げていた。
「あなたがソフィアちゃん?」
突然の問いに、ゆっくりと頷いた。
何しろ、自分は有名であるという自覚はあるし、伝聞で容姿も知られているだろうから驚きはしない。
「あの、あなたは……?」
少々息を荒げ、大きく息を吐きながらも、ソフィアは訊いた。
本音を言えば今すぐ自涜に及びたいのだが、相手のことを考えれば流石に失礼だろうと考え、自重する。
「わたしはセリカ。あなたを捜してたのよ」
セリカと名乗った少女に、ソフィアは大きな目を更に大きく見開いて凝視していた。
この少女こそ、ソフィアが捜していた者なのだ。
けど、聞いた話によれば彼女はこの森を抜けた先にある要塞都市・ケインズウェルにいるって話だったと思うけど……
「……それより、あなた辛そうじゃない。話は後にしましょ。わたしがしてあげるから、楽にして」
優しく話しかけられたソフィアは、自分の状態を察してくれたセリカに拝謝した。
同時に。
ソフィアの左頬に一筋の水の粒がこぼれるのが、童顔に飾られた碧眼に映された。
「……そうよね。辛かったわよね」
裸身の少女の側まで足を運びながら、穏やかに言葉を綴る。
「大丈夫。わたしがやさしく気持ち良くしてあげるから……」
双眸を閉ざしたソフィアは、安寧とした心持になれた気がして、思わず全身の力を抜いた。
良かった。あの時、気を抜いて亜人なんかにならなくて――
自分の花弁に入ってくるセリカの指の感覚に酔いながら、快楽の中でほっと胸を撫で下ろした…… FIN