「ほらほら、そんなにゆっくり歩いてていいのかなぁ?」
目をそらす彼女の顔を覗き込んでやると、唇を閉じて俯いてしまった。
今にも泣き出しそうだ。
「ここを一周するだけで口止めできるんなら、安いもんだろ?
やめたいならいいんだよ?」
リードを軽く引いて言ってみる。
そう、アパートから出て角を曲がり、裏にある公園前を通り1周して戻ってくる…
それをするだけで過去を隠せるのだ。学校、友人、決まっている進学…
全てをこれまで通りにするため、彼女には選択肢はそれしかない。
「…あの…部屋の中でなら…何でもする…から」
わかっていても彼女、松浦直美ちゃんは立ち止まってしまう。
細い腕で体を抱くようにして隠す彼女は今、首輪だけを付けた全裸なのだ。
「だ〜め。同じことしてもらうために来てもらったんだからさぁ。
誰か来る前に済ませちゃった方がいいと思うけど?それとも
見られたくて待ってるのかな?」
優しく諭すように言ってから、ゆっくりと歩き始めると、おずおずとついてくる。
靴下とスニーカーだけ履いた全裸の美少女は、周りを気にしながらも
そうするしかないのだ。
「あ、何度も言ってわかってると思うけど、誰か来ても続けなきゃダメだからね?
さっきみたいに隠れたら…」
画像を取り込んである携帯を見せてやると、涙目の彼女は唇を噛み締めながら頷いた。
手で隠しているとはいえ、歩く度に彼女の大きなおっぱいが揺れるのがイヤらしい。
彼女の過去。それは美少女モデルとして被写体として、活動させられていた期間のことだ。
彼女の意思ではない。何らかの事情があったのだろう。
芸術とかアートといったものではなく、
首輪を付けて犬のような格好で片足をあげていたり、全裸でブランコに乗り、
M字に脚を開いている写真など、いわゆる裏もので卑猥なものばかりだ。
幼い顔立ちの、しかし彼女だとわかるその写真を彼は持っていた。
ファンだったのだ。
だからこそ、転任先で受け持つことになったクラスに彼女を見つけたとき、
瞬時にそれだと確信したのだ。
名前も、字こそは違えど同じ「なおみ」。